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■事故の責任は中国側にある
米海軍の電子偵察機、中国軍戦闘機と空中接触し海南島に不時着陸(4月1日)
報道によると、1日午前9時15分(日本時間午前10時15分)頃、南シナ海の公海上空で中国軍の電子戦情報を収集していたアメリカ海軍の電子戦データ収集機「EP-3」(乗員24人)に中国空軍の「F-8(殲撃8型)」戦闘機2機が接近し、うち1機が米軍機と接触して墜落。米軍機のほうも機体の一部が損傷し、中国・海南島の飛行場に緊急着陸したという。その後、中国軍当局は「アメリカ側に全ての責任がある」として米軍機内に立入り、乗員を拘束。結局、事件についてアメリカ側が「深く遺憾」(very sorry)との態度を表明することで乗員は開放されたが、機体は依然として中国の手中にある。当初、乗員の早期帰還のために低姿勢を維持してきたアメリカのブッシュ政権もここへきて態度を硬化させており、米中関係は緊迫の度を増している。
ところで、今回の事件について中国(中華人民共和国)側は「全責任は米国にある」との立場を主張しているが、事件の経過を見聞する限りそうは思えない。電子戦データ収集機「EP-3」は米海軍でも虎の子の高度な電子機器を備えた機体であり、旧ソ連の旧式戦闘機の血を引く「F-8」戦闘機に挑発されて体当たりをするような粗雑な扱いは到底できない類のものである。また、「F-8」戦闘機はマッハ2.2の速度を出すことが出来る機体だが、「EP-3」のほうはロッキード(現ロッキード・マーチン)の「エレクトラ」という4発プロペラ旅客機を母体とするものであり、機動性において「F-8」に遥かに劣るものである。以上の点から、少なくとも米国側に過失があったとは思えないわけであり、そこを「全責任は米国にある」等と吹聴するのは、冷戦時代の共産主義諸国のイデオロギッシュな外交を思い起こさせるものがある。
■国民に「負担」を呑ませるだけのリーダー性を求めたい
自由民主党総裁選挙、はじまる(4月12日)
報道によると、森善朗・自由民主党総裁の辞意表明に伴ってはじまった同党の総裁選挙は12日午前、立候補の届け出を受け付け、麻生太郎経済財政担当大臣(60歳・河野グループ)、橋本龍太郎行政改革担当大臣(63歳・橋本派)、亀井静香同党政務調査会長(64歳・江藤亀井派)、小泉純一郎元厚生大臣(59歳・無派閥)の四氏が届け出た。24日に同党所属の衆参両院議員346票と都道府県連代表(各県3票で141票)の合計487票の投票で新総裁が選出されるという。同党総裁選挙に4人の候補者が立候補するのは、立候補制が採用された1971年以降では、中曽根康弘元首相と河本敏夫元国務相、安倍晋太郎元外相、中川一郎元科技庁長官との争いになった1982年11月以来19年ぶり4回目になるという。
ところで、今回の総裁選においては、各候補者の経済政策(財政再建・構造改革か財政出動・景気回復か)の違いが特に報道され、「派閥の論理ではなく政策論争で総裁選を行なうべきだ」との論調が見られるが、私はこうした報道に疑問なしとしない。というのも、現下の我が国の経済情勢からすれば、(「財政出動」という名の麻酔薬を使うかどうかはともかく)経済構造の改革による景気回復が必要であることは既に自明であって、問題は、一体誰が構造改革に伴い生じる「痛み」を国民に呑ませる役割(政治的リーダーシップ)を演じるのかが問われているからである(これは、ある種ヒットラー並みのカリスマ性を要求されるといえよう。無論、ヒットラーは、その人気をワイマール・ドイツの経済構造改革ではなく対外戦争に利用してしまったわけだが)。従って、今回の総裁選挙において特に重視されるべきなのは「その候補がいかに国民にウケているのか」という一点であって、その点から、小泉元厚生大臣に期待がかかるのである。■ビザ発給で大陸中国に気兼ねすることはない
政府、李登輝・前台湾総統の来日査証申請を無視(4月13日)
報道によると、台湾(中華民国)の李登輝前総統が来日ビザを申請した問題で、政府の対応に批判が相次いでいる。
この問題で政府・外交当局は、李登輝前総統の我が国入国に対する中国(中間人民共和国)側の反発を考慮して、台湾における我が国政府窓口である「交流協会」に10日に提出された来日ビザを「受理していない」等としてうやむやにし、事実上李前総統側に自主撤回を促している。しかし、李前総統の今回の来日申請は持病である心臓病の緊急治療を受けるためであり、ビザ申請にあたっては申請書類、診断書、医師の意見書も添付されていたと言われている。また、李氏は既に台湾においても一民間人になっており、入国を拒否する積極的・政治的な理由も少ない。こうした中で、12日には衛藤征士郎外務副大臣が「速やかに処理すべきだ」との記者会見を行い、対中配慮から「不受理」の方針を固めた河野洋平外相を暗に批判。13日の閣議後の閣僚懇談会でも、平沼経済産業相、扇国土交通相、斉藤防衛長官、麻生経済財政担当相、笹川科学技術担当相ら5閣僚から「受理すべき」との意見が出された。国会では、自民・民主両党議員らで作る「李登輝氏に日本での治療を実現させる超党派の国会議員の会」なる議員連盟すら誕生している。
河野外相は、かつて乗機が悪天候のため台北国際空港に緊急着陸した際も、「対中配慮」から機外に一歩も出なかったとの逸話で有名なほど、中台問題については大陸中国よりの立場を信条としている。今回の事件における李前総統に対する外務省の対応もそうした河野外相の態度に主導されているわけだが、如何に外交政策のためとはいえ、一老人の持病治療の訪日を拒否するというのは、あまりにも人情や人道に反する態度ではないだろうか。現に、河野外相のそうした対応に対しては多くの閣僚や議員からこれを疑問視する声が上がっているのは上述の通りである。それに、中国にとって李前総統は「台湾独立を画策する敵」であり、例え人道目的であっても訪日を認めないであろうから(むしろ、中国にしてみれば、李前総統が訪日できず病状を悪化させるほうが得策であるとすら考えているだろう)、中国の意向を伺っていてもはじまらない。そして、我が国が李前総統の訪日を拒否することになれば、それは大陸中国政府と共謀して李前総統の病状悪化を容認していると受け止められても仕方が無いだろう。
中国側も、この問題に対するあまりにも高圧的な態度は差し控えるべきだ。台湾問題に関する我が国の立場は既に日中共同声明・日中条約の中で示されてきた通りであり、それに従って李前総統を「民間人」として処遇しようとしている。近年我が国においては、歴史問題を繰り返し主張してくる中国に対する嫌悪感と、比較的親日的である台湾に対する好感が広まっているが、中国の高圧的態度はそうした日本国民の感情を一層嫌中・親台の方向へ押しやるだけであろう。
自民党総裁選に伴って4月下旬には新しい内閣が誕生し、外務省機密費問題や対北朝鮮外交(コメ支援)に失敗した河野氏が外相を退けば事態は改善されるだろうが、数少ない親日国の親日的政治家をこのように遇することは、結果として我が国の国際的な信用にも傷がつくことになるのではないだろうか。「大局的・戦略的見地」から対中配慮をすることだけが「大人の外交」ではあるまい。■発言は画期的だが韓国との調整が必要だ
亀井政調会長、在韓米軍支援に自衛隊派遣を示唆(4月15日)
報道によると、自由民主党の総裁選挙に立候補している亀井静香・同党政務調査会長は14日午前、「読売新聞」とのインタビューの中で日米安保条約と集団的自衛権の行使について「米軍が一方的な攻撃を受けた場合は、同盟関係なのだから、在韓(米軍基地)だろうがどこだろうが、武力行使に(日本も)加わっていかなければならない。黙っているわけにはいかない」「日本の近くであれば、米軍が攻撃された場合、わが国の安全保障に影響がある」と述べ、在韓米軍が攻撃を受けた場合には、我が国も集団的自衛権を行使し、自衛隊を朝鮮半島に派遣して米軍とともに武力行使に加わることもありうるとの考えを示した。亀井氏はまた、集団的自衛権の行使については「国際紛争に同盟国が武力行使という形で積極的に参加していくことについては(自衛隊の協力は)ダメだ」とも述べたという。
この亀井政調会長の発言は、我が国の集団的自衛権行使を積極的に認めるものであり、その意味では極めて画期的である。現在の政府の有権解釈では、我が国は集団的自衛権は「保持」しているが「行使できない」ものとされており、朝鮮半島有事の際にも我が国が日米安保条約・周辺事態法で関与するのは我が国領土・領海と公海までになっている。今回の亀井発言はそれを更に一歩進めて、事実上我が国の外交政策の中に「軍事」の要素を持ち込んだものであり、亀井氏の見識を高く評価したい。もっとも、亀井氏が読売新聞社とのインタビューで本当に「自衛隊を朝鮮半島に派遣して米軍とともに武力行使(韓国防衛)にあたる」との趣旨で上記の発言をしたかどうかは微妙だし、法的可能性の議論としてならともかく、実際に我が国が朝鮮半島有事に際して自衛隊部隊を派遣することができるのか(我が国自身の警備で手一杯になるかもしれないし、また韓国国民の感情にも配慮する必要がある)については、韓国との調整が必要であろう。■それぐらいで悪化する日中関係なら、悪化してもよいではないか
政府、台湾(中華民国)の李登輝前総統に査証発給を決定(4月20日)
報道によると、河野洋平外務大臣は20日、懸案となっていた台湾(中華民国)の李登輝・前総統の訪日問題に関して発表し、22日から26日にかけて、治療目的に限って訪日を認める決定をしたことを明かにした。李前総統は22日に関西空港経由で訪日後、岡山県倉敷市の病院で検査を受ける予定という。当初、森首相は李前総統の訪日に積極的であったが、対中関係を重視する河野外相や外務省当局等の「抵抗」があってすんなりとは決まらず、反対に衛藤征士郎外務副大臣が積極姿勢を示す等混乱。最後は、自民党の訪日積極派や国民の声(自由党、民主党は容認の立場)を受けて、「政治主導」の査証(ビサ)発給となった。なお、この問題と直接は関係ないものの、アメリカ政府は、李前総統の4月30日から5月6日までの訪米を認める査証を早々と発給している。
1972年の「日中共同声明」では、台湾に関して「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基く立場を堅持する。」と定めるに留まっており、大陸中国と共に台湾の中国併合を推進するといった積極的な義務を負っているわけではない。その意味では、王毅中国外務次官が阿南惟茂駐中国大使に対して行なった申し入れの中で、「中国政府は日本政府に対し、中日共同声明(1972年)と中日共同宣言(1998年)の基本原則を守り、李登輝(前総統)の訪日を阻止するよう求めてきた。」というのは、共同声明の解釈としては無理がある。また、一民間人である李前総統の入国を許したからといって、上述の我が国の立場が変更されるわけでもない。査証発給は極めて当然のこととであり、むしろ、対中関係悪化を恐れて発給を渋った外相や外務省の姿勢こそが問題とされるべきであろう。
ところで、この問題に関して中国側は態度を硬化させており、国営の新華社は「中国人民の心の中で日本政府の信用と名誉は地に落ちた」「両国関係に重大な損失を生む」等と報じている。しかし、ある国と国との友好関係というものは、一方の国が他方の国のご機嫌を常に伺うことで維持されるものではない。双方の国が互いに友好関係を望んではじめて、真の友好関係が構築される。日本国民にしてみれば、1972年の日中共同声明の「外交的配慮」が散りばめられた法的文書にどのような文句が書きこまれているかなど関心の範囲外のことである。ただ、中国と台湾が平和的に統一されればそれでもよいが、台湾を実効支配する民主国家・中華民国がたしかに存在する以上、そこの国の前元首が病気治療を希望するなら認めてもよい、と考えているに過ぎない。別段、アメリカの如く軍事力を派遣したり武器を売却したりしているのではない。中華人民共和国政府が本当に日中友好を望むのであれば、そうした日本国民の穏健な対応を無碍に否定すべきではないし、またそうした対応にすら納得できないというのなら、元より日中友好など不可能である。スジを通して要人が数人来日しなくなったとしても、それでよいではないか。■司法裁判の根幹を揺るがしかねない「不訴追」の決定
裁判官訴追委員会、古川龍一・福岡高裁判事の不訴追を決定(4月20日)
報道によると、国会の裁判官訴追委員会(委員長・谷川和穂自民党代議士)は20日、昨年12月に妻の脅迫事件を巡り山下永寿・福岡高等検察庁次席検事(当時)から捜査情報の提供を受けていた古川龍一判事について、裁判官弾劾裁判所に訴追しない「不訴追」(一般の刑事事件における「不起訴処分」)の決定をした。20日の委員会では「訴追」の意見が7委員、「不訴追」の意見が7委員から出されたほか、「訴追猶予」の意見が1件あったためで、訴追の要件である「出席委員の3分の2の多数」に達しなかった。委員の中には「判事が証拠を隠滅したのなら訴追は当然」との声があった一方で、「妻に関する事件であり、著しい非行とまではいえない」とする意見もあり、結局隠滅行為の有無を認定できなかったために不訴追となったという。
しかし、この訴追委員会の決定には納得がいかない。そもそも「裁判」とは、当事者間の紛争を公平中立な第三者が処理する性質のものであり、裁判官の中立性・公平性は当事者を説得させる最大の根拠の一つであって、裁判の根本的価値である。今日のように「裁判」が「司法裁判」となり、「法」に基づいた判決結果の妥当性を要求するようになったのはたかだか近代法以降のことであって、公平性はそれ以前から存在する裁判の根本的要素だからである。その点、今回の事件における古川判事の行動は、国民に「在朝法曹の判事と検事が組んで、法制度を歪めている」との印象を強く残したのであり、弾劾されてしかるべき典型的なケースと言うべきではないだろうか。裁判官は国法秩序と現実の社会生活とを結ぶ存在である以上、その国法秩序を紊乱するが如き行為は正に国家反逆罪という他ない。
そもそも、今回の事件は、裁判官(古川判事)の妻がテレクラで夫以外の男性と交際しようとし、更に脅迫行為に及んだというものであるが、この事実それ自体スキャンダラスなものであり、それだけで古川判事を罷免するに十分な理由となり得る。自分に最も身近な存在である妻を愛し、最も小さな社会的単位である家庭を正常に運営し得ないような裁判官に、どうして他人の離婚問題や社会生活に口を挟む資格を認められようか。あるいは、そんな裁判官の書いた判決を、一体誰が信じるというのであろうか。■偵察機事件の中国とは大違い、米国の対応は極めて誠実だった
米原潜「グリーンビル」前艦長、懲戒処分(4月24日)
報道によると、今年2月にハワイ沖で緊急浮上訓練中の米海軍攻撃型原潜「グリーンビル」が愛媛県の漁業実習船「えひめ丸」に衝突し沈没させた事故で、アメリカ海軍太平洋艦隊は24日、「グリーンビル」前艦長のスコット・ワドル海軍中佐を「職務怠慢」等の行為で懲罰文書交付、執行猶予付きの減給2ヶ月の「司令官処罰」(懲戒処分)を決定した。また、この処分によって、軍法会議は開催されないことが決定されたという。
軍法会議が開催されなかったことについてアメリカ海軍側は、「軍法会議では故意が無ければ有罪にできず、また軍法会議の陪審員が無罪の表決をする可能性が高かった」と説明している。軍事作戦では常に期待した通りの結果があがるとは限られない以上、生命の危険に常に脅かされている軍人の行為について過失=結果回避義務違反を厳しく問いすぎると、却って軍事行動の停滞を招いてしまう。これは、高度に専門的なあらゆる職業にとって共通の「法的な悩み」であり、「軍の論理」「身内意識」などではない(例えば、最近でこそ我が国でも医療過誤訴訟が増えているが、これがあまりにも多発し過ぎると、医師らが却って萎縮して積極的な医療行為を手控えてしまう、というジレンマがある)。訴訟社会アメリカでは「交通事故をおこしても『すみません』とは絶対言わない」といわれるが、その点ワドル前艦長は真摯な謝罪の意思を明確にしている。以上を勘案すれば、今回の米側の処置は極めて妥当であったし、また誠意あるものだったということが出来るのではないだろうか。紛争の真の解決は当事者間の交渉によってのみもたらされるということを考えると、今回の事件では前艦長側の謝罪もあり、何がなんでも司法的処理手段(軍法会議)を発動しなければならないというようなケースだとは思えない。司法的紛争処理手段は一般に当事者に対して正義・不正義を判定することによって感情を慰謝し、以って紛争処理に貢献するものであるが万能ではなく、無罪表決が出れば却って被害者感情を逆撫でし紛争を激化させかねないのである。
一部には、「軍法会議を開催すると、体験公海実施を命じた太平洋艦隊司令部上層部にも責任が及びかねないので、回避した」といった見解も表明されているが、これはワドル前艦長の弁護士の主張を受けてのことであり、ワドル前艦長の安全確認怠慢と司令部の命令には何の関連性も無い。また、海上自衛隊潜水艦「なだしお」と釣り船「第一富士丸」との衝突事故で潜水艦艦長が海難審判にかけられたことと比較して「軽すぎる」との意見もあるが、我が国が軍事法廷を持たず自衛隊員もすべからく通常裁判所に起訴されるという状況のほうが「異常」であるし、また「なだしお」事件は浮上中の潜水艦の衝突回避の問題なので、実際問題として通常の船舶と比較して「特別扱い」すべき理由はそれほど見あたらなかったわけである(付言すれば、海難審判の本質は行政的措置であり、ワドル前艦長に対する査問委員会と同様の機能を果たしている)。あとは、我が国とアメリカとの司法文化の違いもある訳だが、我が国が真の意味でアメリカ合衆国との友好関係を発展させたいと願うのであれば、そういった相違はある程度受容すべきであろう。■同盟国軍用機が着陸した、ただそれだけのことではないか
米海兵隊航空機、下地島空港と波照間空港に着陸(4月28日)
報道によると、沖縄に駐留するアメリカ海兵隊普天間基地所属のヘリ12機(AH-1対戦車ヘリ4機、CH-46大型輸送ヘリ4機、UH-1輸送ヘリ2機)とKC-130給油機1機が28日午前、米比合同演習「バリカダン2001」に参加するため、給油目的に下地島空港と波照間空港に着陸した。空港を管理する沖縄県は軍用機の着陸の自粛を求めていたという。
ところで、この「事件」に関しては、NHKを含む一部報道機関が「米軍は沖縄県の自粛要請を無視した」という報道を繰り返していたが、これは公平な見方ではない。何故ならば、今回アメリカ軍側は、日米地位協定第5条に基づき事前に沖縄県に空港使用の申請を行なっており、これに対して沖縄県側が着陸許可を不法にも与えなかった(公物利用上の障害があるならともかく、「米軍機の民間空港恒常使用に繋がる」だとか「米軍基地の固定化に繋がる」といった動機で許可を与えないことは、行政裁量権の範囲を超えている)がために「無許可着陸」になってしまったからである。その意味では、今回の「無許可着陸」の責任は、まずもって沖縄県側にあるのであって、少なくとも県当局は「無許可」を殊更に批判する資格は全く無いのである(おそらく、沖縄県側は、許可を留保しても相手が行政訴訟を提起してくることもなく、日米地位協定第5条を盾に強行着陸してくるであろうことを予想して「意地悪」をしたのであろう。第一、「地位協定を盾に」というが、地位協定は国会承認を受けたれっきとした国際条約<昭和35年条約第7号>であり、そして条約及び国際慣習法の遵守は日本国憲法の定めた義務である)。
第一、我が国の同盟国であるアメリカの軍用機が、給油目的で我が国の空港を利用することを一体どのような理由で拒否できるのであろうか。我が国とて、国際貢献任務で航空自衛隊のC-130輸送機を海外に派遣するときは、航続距離が足りないので途中各国(それも同盟国ではない国)の空港に着陸し、給油をさせてもらっている。少なくとも、「反米軍」といった政治的信条によって、一地方自治体に過ぎない沖縄県が国家の安全保障政策に横槍を入れ、我が国とアメリカ合衆国との同盟関係を損ねるような行為に及ぶのは不当・不法である。米軍機・航空自衛隊機は成田を含む如何なる「民間」空港にも着陸する権利はあるし、いわんや有事においては、全空港はすべからく軍事基地としての役割を果たすことが期待されているのである。
ところで、下地島空港ではCH-46大型輸送ヘリ1機に油圧系の故障が見つかり、修理のために当初の予定を大幅にオーバーして同空港に滞在したが、これについて空港関係者からは「身勝手すぎる」「米軍に2日も振り回された」との声が出たという。全く以ってナンセンスな意見という他ない。それでは、下地島空港の関係者は、米海兵隊機に油圧系統が故障したまま洋上飛行をしろというのであろうか。同盟国の軍用機の安全な飛行に必要な修理すらも批判する「関係者」こそ「身勝手すぎる」という他ない。一部報道機関は「米側は緊急着陸にも平然とした様子で、記念写真を撮ったり、笑い声を上げ雑談したりと、地域住民との感覚にずれがあった。」と報じ、あたかも米軍側の認識がおかしかったように書き立てていたが、同盟国の安全な空港に着陸して「平然」としていられるのは当然で、むしろ、おかしな方向にずれていたのは「地域住民の感覚」のほうである。
製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
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