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健論時報
  2001年7月  


■「学校が安全」は神話にすぎない、警察官を常駐させよ

 大阪教育大学付属池田小学校で児童刺殺事件、8人死亡(6月8日)
 報道によると、8日午前、大阪府池田市の大阪教育大付属池田小学校にナイフを持った男が侵入し、児童・教師らを襲撃。児童8人が死亡し22人が重軽傷を負った。男は精神保健福祉法上の措置入院の経験もある宅間 守容疑者(37歳)で、かけつけた警察官に現行犯逮捕されたという。
 ところで、この事件に関連して、遠山敦子文部科学相は記者団に対し、「あってはならないことが起きてしまった。大変残念であり遺憾だ。学校というのは最も安心して信頼されるべきところであり、今後の対応について、全省あげて取り組んでいく」と話したという。また、報道各社の論調には、常に「安全で安心できるはずの学校で、惨劇が発生した」等と伝えている。しかし、こうした議論で見られる「学校は安全で安心できる」等という言説は、全く根拠の無い(ないし、根拠の薄い)ものであるといわざるを得ない。通常、少なくとも普通の公立学校においては警備等というものは全く行なわれていないに等しく、一度故意の犯罪者に狙われれば一たまりもない。こんなことは通常の大人が見れば一見明白なのに、である。恐らく、教育関係者の間では、「安全であるべき」「安全であってほしい」という当為命題と「実際に安全である」という存在命題がごっちゃにされ、これまで何も問題が無かったことをいいことに事勿れ主義に堕していたのであろう。数年前、中学校で刃物を持った中学生による殺人事件が多発した際、遂に手荷物検査を実施しないままに終わった学校も多かったと聞く。
 こうした誤謬は、実は我が国における戦後の憲法平和主義、あるいは「平和ボケ」と同様の精神構造を持っている。即ち、戦後「護憲」を唱えた多くの政治家・知識人は、「平和であるべき」「平和であってほしい」ということと、実際に我が国の周辺が「平和である」ということを混同。「平和であるべき」という願望の根拠である憲法第9条を死守すべく、「9条のお蔭で戦争に巻き込まれなかった」であるとか「9条のお蔭で経済が発達した」といった根拠薄弱な言説を振りかざしていたのである。事件後、ある小学校で不審者の侵入を想定した避難訓練を実施したところ、「抜き打ちの訓練で児童を不必要に驚かせた」等という異論が寄せられたそうだが、正に「平和ボケ」丸だしの意見という他ない。
 今回の事件を受けて政府は学校の安全確保に向けた対策を考えるというが、単に正門を施錠したり、受付けで出入りを厳しくしたとしても、今回の宅間容疑者のような故意犯に対しては、ほとんど意味が無いだろう。また、川崎市の如く素人のPTA関係者を巡回警備にあててみても、果たしてどれほどの効果があるのか疑問である。現に、池田市の事件では、28歳の男性教員が素手で犯人と格闘になったが、ナイフで腹部を刺され6リットルの輸血を受ける重傷を負っている。やはり、専門の警備員または警察官を常駐させ、不審者の侵入に備えるべきではないだろうか。それに、警察官を常駐させれば、こうした外部からの侵入事件だけでなく重大な校内暴力事件等にも迅速に対応することが出来る。この措置を「教育の現場に警察権力を持ちこむものだ」と批判する教員もいるだろうが、その教員の価値観と児童生徒の安全とでは、社会として守るべきものはどちらか明かであろう。

■支持率続伸、92.8%の驚異
 小泉内閣、支持率9割から更に上昇(6月10日)
 東京放送(TBS)など民放28局からなる「JNN」の報道によると、同社が6月9日から10日にかけて行なった電話世論調査で、小泉内閣の支持率は92.8%(「非常に支持できる」31.8%、「ある程度支持できる」61.0%を含む)と微増ながら上昇を続け、逆に不支持率は更に低下して6.5%(「あまり支持できない」5.2%、「まったく支持できない」1.3%)になったという(「わからない」0.8%)。また、支持層の内「非常に支持できる」が増えて「ある程度支持できる」が減っており、確実に支持を広げていることが伺える。なお、田中真紀子外相については、不安を覚える人が増加したものの、辞任すべきかどうかを訊ねられると91.8%が「辞任すべきでない」と答えたという(「辞任すべき」6.3%)。
 今回の数字は、JNNの前回の調査と比べてもわずかながら増加しており、依然として「小泉人気」が衰えていないことを示している。これに対しては、依然として「国民は踊らされているだけだ」「未だに具体案・実績が無い」といった批判がなされているが、以前から大衆民主主義を批判していた一部保守論壇の論客はともかく、森政権を「低い支持率」を理由に攻撃したような評論家に、この高い支持率を批判する資格は無い。

■「保安処分」の導入に賛同する
 小泉首相、触法精神傷害者の処遇について検討を指示(6月12日)
 報道によると、大阪・池田市の校内児童殺傷事件を受けて、小泉純一郎首相は12日、坂口力厚生労働相、福田康夫官房長官と、重大な犯罪を起こした「触法精神障害者」の処遇のあり方について協議し、この問題について政治主導で取り組んでいく方針で一致した、という。記者会見の中で坂口厚生労働相は、「今までの議論では『今より前に進めるのは難しい』という結論になる。現状維持では国民は満足しない。政党間、閣僚間の議論を踏まえて結論を導き出す時期に来ている」と述べ、早期に具体的な対応策を打ち出すためには政治決断が必要だとの認識を示した。
 これまで、重大な犯罪を犯した精神障害者については、刑法第39条で刑事責任が問えないこととされているため、自傷・他害の虞がある場合に精神保健福祉法上の「措置入院」という行政処分がなされることになっていた。しかし、現行の措置入院制度の運用には統一的な基準があるわけでもなく、退院・入院についても担当の医師一人の責任となっていたため、殺人等の重大な犯罪を犯した精神障害者は事実上「野放し」になっていた。その点、今回導入が検討されている「保安処分」は、行政処分の一つではあるものの、少年法上の「保護処分」と同じく、裁判所の命令に従って、現在の違法行為の停止及び将来に向けた回復を目的とする(講学上の分類で言えば)行政処分の一つであり、過去に行なった行為に対する制裁としての(司法的な)「刑罰」とは異なる。
 「保安処分」の導入については、一部法律家や障害者団体から、「障害者に対する差別・偏見を助長する」「刑罰と違って処分期間等が定まらず、人権侵害に繋がる」といった反対論が根強く、導入に積極的な法務省の提案は常に否定されてきた。しかし、「犯罪を犯した障害者」をそれに見合った形で対応することが何故「障害者に対する差別・偏見を助長する」ことになるのか不明であるし、法制度上も、未成年者や精神障害者に対して特別の制度(後見人等)を設けることは決して不自然ではない。第一、「保安処分が差別を生む」のであれば、どうして少年法上の「保護処分」(これは講学上の保安処分の一種である)だけは容認されて、精神障害者に対するそれは否定されるのであろうか。むしろ、重大な犯罪を犯してもその精神障害者が「野放し」にされている現状こそ、「あの人は犯罪を犯すかもしれない」ということで精神障害者に対する差別や偏見を助長するのである。この問題に対する小泉内閣の積極的な姿勢に期待したい。
 なお、その後の報道によれば、本件見直しの端緒となった大阪池田市児童殺傷事件の犯人・宅間 守容疑者は精神障害者ではないことが判明しているが、宅間容疑者はこうした精神障害者に対する制度の不備を突こうとして精神障害者を装ったのであり、見直しの必要性は変わらないというべきである。

■内容の一層の充実を
 「小泉内閣メールマガジン」、創刊される(6月14日)
 報道によると、14日に創刊された「小泉内閣メールマガジン」の登録数は100万件を越え、世界で最も購読者数の多いメールマガジンになった。同メールマガジンは、「国民との対話」を目指す小泉純一郎首相が、就任直後の所信表明演説で創刊を表明していたもので、サーバーの設置等で約1億円の費用がかかったという。メールマガジンには、小泉首相のメッセージのコーナーや各大臣の「ほんねとーく」、そして大阪校内児童殺傷事件に関連して遠山敦子文部科学相のコメントが掲載されている。
 国民との対話や説明のために、こうした道具を使用すること自体は、国民の政治に対する関心を高める上でも有用であろう。ただ、創刊号を一読した限りにおいては、首相や閣僚の人間的な「息遣い」は感じることが出来ても、政治上の課題について何等かのメッセージが託されていたわけではなく、物足りなさを感じる。歴代内閣はじめての試みだけに、創刊後しばらくは施行錯誤が続くであろうが、単なる「人気取り」以上の意義があるような内容を期待したい。

■全ての国立大学で入試判定の再チェックを実施せよ
 国立富山大学、金沢大学で相次いで入試判定ミスが発覚(6月18日)
 報道によると、金沢大学(林勇二郎学長)理学部物理学科、化学学科の平成9年度と10年度の入学試験で、センター試験の得点を加算する手続に集計ミスがあり、合計6人の受験生が誤って不合格になっていたことが判明した。同大の集計用コンピューターのプログラム自体が間違っていたため、「物理」と「化学」の点数を合計して採点するはずが、どちらか得点の高い方だけで、合否を判定していたという。また、富山大学(小沢浩学長)人文学部の平成8年度、9年度入試では、16人の受験生が判定ミスで不合格になった上、当時の学生部長で実質的な入試の責任者だった能登谷久公教授らがミスの事実を隠蔽。同大学が設置した調査対策委員会(委員長・小沢学長)は17日から事情聴取をはじめたが、事態を重く見た文部科学省は18日、渡辺一雄・高等教育局学生課長、内藤聡・同局大学入試室入試第二係長、出沢忠・大臣官房人事課審査班公務員倫理審査官らを派遣して、直接関係者の事情聴取を行った。高等教育機関である大学には、憲法上保障された「学問の自由」を行政権力から守るために「大学の自治」が認められており、大学内の不祥事は通例教授会が対応するが、文部科学省が直接調査することは極めて異例のことだという。
 言うまでも無く、大学受験生にとって大学の合否判定はその後の人生も左右しかねないほど重大な問題であり、山形大学では既に大学を卒業してしまった「被害学生」もいた。しかも、ミス発覚は大学にとっても重大な問題であるからこそ、富山大学のように「ミス隠蔽」工作に走る大学も大いにあり得る。多くの大学がセンター試験を併用して合否判定を行なっている今日、こうした判定ミスが続くことは大学入試センター試験そのものへの信頼を損ないかねない。文部科学省はこれを機会に、再チェックを大学当局に任せたりせずに、東京大学、京都大学を含む全大学の入試判定について、再度本省から調査官を派遣して厳正にチェックすべきである。

■拒否権を利用した中国の台湾圧迫外交に反対する
 台湾(中華民国)、マケドニアと断交(6月18日)
 報道によると、台湾(中華民国)の外交部は18日、東欧のマケドニア=旧ユーゴスラビア共和国との外交関係を断絶した、と発表した。独立後のマケドニアは1999年1月に台湾からの経済支援を得て外交関係を樹立したが、台湾の陳水扁政権が「金銭外交」を控える方針を打ち出したこと、またマケドニア領内のアルバニア人武装勢力の跳梁に対して、国連安保理の常任理事国である中国(中華人民共和国)が拒否権をちらつかせて台湾断交を迫ったこと等から、同国は先週、中国との国交回復方針を決めていた。これで、台湾と正式な外交関係を持つ国は28カ国(うち欧州はバチカン市国のみ)となったという。
 台湾は近年、中国側の外交攻勢で外交関係を持つ国の数を減らしており、最近では南アフリカ共和国と断交を余儀なくされた。しかし、中国のこうした対応は、自由で民主的な一独立主権国家の存在を国際社会から法的に圧殺しようとする試みであり、賛同することができない。無論、「一つの中国」を巡って大陸と台湾が分裂しているという歴史的経緯は理解できるが、だからといってこのような相手の存在を無視するかのような態度はいただけない。海峡両岸関係の正常化は、まずは最近の南北朝鮮のように第3国が南北双方の国家承認を許すような形ではじめられるべきであろう。

■質問には正面から立ち向かうべし
 田中外相、鈴木宗男代議士の質問制限を衆議院外務委員長に働きかけ(6月22日)
 報道によると、田中真紀子外相は21日、前日の衆議院外務委員会で自由民主党の鈴木宗男・元北海道沖縄開発庁長官が外相の記者会見に関して厳しい質問を繰り返したことに対して、土肥隆一外務委員長(民主党)らに電話で「質問を制限できないか」と働きかけた。更に田中外相は、事務方トップとナンバー2の川島 裕外務事務次官、加藤良三外務審議官らに、藤井孝男・衆議院議院運営委員長に会って「鈴木氏の質問をやめさせなさい」と指示。結局、川島事務次官が藤井委員長と面会したが、植竹繁雄外務副大臣が後で「そんなことは絶対やっちゃいけない」として質問制限の要請自体はなされなかった。こうした事態に対して土肥委員長は、22日の外務委員会の冒頭で「三権分立をおかすような行為」と外相を厳重注意し、結局外相は陳謝した。この後外相は、首相官邸で福田康夫官房長官からも厳重注意を受けた他、衆議院議院運営委員会の理事会では藤井議運委員長が「事実ならばゆゆしき問題だ。立法府の審議権の侵害は許せない行為だ」と安倍晋三官房副長官に強く抗議したという。
 閣僚には、国政を運営するにあたり様々な権限が与えられているが、それらの権限行使にあたっては、当然国民(及び国民を代表する国会議員)に対して説明責任を負っている。如何に大臣に人気があるとはいえ、自分に都合の悪い質問に正面から答えなかったり質問自体を圧迫したりするのは、国務大臣として言語道断であり、国民軽視の姿勢でしかない。無論、鈴木宗男代議士の質問は外交問題というよりは外相の発言問題を追及するものであったことは事実だが、外務大臣の地位にある以上発言を追及されるのは当然であるし、鈴木代議士とて(外務省の利権に絡む噂や省内人事に対する介入等が指摘されているが)地元選挙区で民主的に選出された国民の代表である。少なくとも、鈴木代議士の質問が外務委員会として適切や否やの判断は次回の選挙で選挙民が判断することであって、田中外相が勝手に圧殺してよいものではない。田中外相の「主婦感覚」による機密費問題への情熱は支持できるが、「主婦感覚」とは「国民の目線」という意味であって「主婦が負う程度の責任しか負わない勝手さ」という意味ではない。第一、この程度の質問や追及で音を上げていたら、国益と国益がぶつかり合う外国との丁丁発止の交渉なぞ到底望めまい。無論、それでも多数の国民が田中外相を支持するのならそれでもよいが、それによって生じた損害は悉く国民に撥ねかえってくることを知るべきである。

■「著名人」候補の擁立に危惧を覚える
 民主党、参議院比例区に大橋巨泉氏擁立(6月22日)
 報道によると、民主党(鳩山由紀夫代表)は22日、7月の参議院選挙の同党比例区候補に、カナダ在住のタレント、大橋巨泉氏(67歳)を擁立することを内定したという。
 非拘束名簿方式が導入された参議院比例区では各党とも「著名人」の擁立を進めており、最近では社会民主党が女権主義者の田嶋陽子・法政大学教授を擁立している。「小泉人気」で圧勝しそうな気配の自由民主党も、比例区では元プロレスラーの大仁田厚氏を擁立し、人気票の獲得に走っている。
 しかし、こうした「著名人」候補の政治的手腕、即ち国民に対する貢献度が未知数であることは、青島幸男・前東京都知事(今回の参議院選挙では、ニ院クラブから立候補して復活当選を目指している)や横山ノック・前大阪府知事の失政を見ても明かであり、褒められたものではない(「小泉人気」は小泉首相個人の政治的手腕に対する期待であって、知名度そのものが先行しているわけではない)。無論、地方公共団体の首長とは違い、国会議員は当選すれば「ワン・オブ・ゼム」に過ぎなくなるから、多少政治的手腕に問題があってもきちんと議事に出席しておれば済むのかもしれないが、だからといって推奨されるべきことでもない。しかも大橋巨泉氏は、各種メディアでこれまで根拠不明で軽薄な「辛口」政治批評を繰り返してきた人物であり、「日本」という国に愛着を持たず(これは、かつてあるTV番組で大橋氏自身が事実上認めていた)に1年の大半を海外で暮らす単なる金持ちテレビタレントに過ぎない。更に、大橋氏は度々小泉首相の人気先行ぶりを辛口に批判しているが、氏が民主党の比例代表候補に擁立されたのは、正に大橋氏自身が「人気タレント」であり、政治的手腕や見識ではなくその知名度に着目してのことであって、「人気政治」を批判することと自身の立候補は完全に矛盾している。民主党の良識を疑わざるを得ない人選である。


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