このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

表紙に戻る   目次に戻る   健論時報目次へ   2002年2月へ   2002年4月へ


健論時報
  2002年3月  


■実務家外相の就任を歓迎する
 新外相に川口順子環境大臣(2月1日)
 報道によると、小泉純一郎・首相兼外相は1日、更迭した田中真紀子・前外相の後任に川口順子・環境相(元サントリー常務・元駐米公使)を起用することを内定し、川口環境相も了承した。川口環境相の後任には大木 浩・元環境庁長官(衆議院議員・自由民主党橋本派)を宛てるが、8日までは川口外相が環境相も兼任する。民間人の外相就任は1979年の第2次大平内閣の大来佐武郎外相以来23年ぶりで、女性外相としては田中前外相に続き2人目になるという。
 これまで後継外相については、国連難民高等弁務官等を歴任し国際経験が豊富な緒方貞子・政府代表の名前が挙げられていたが、緒方氏は1日午前、自身の大学教授としての仕事を続けたい等として首相の要請を固辞。結局、川口環境相の外相就任が決まったという。
 川口氏起用について小泉首相兼外相は、「環境相としてCOP6(気候変動枠組み条約第6回締約国会議)などを実に見事に処理して頂いた、大変な能力を発揮して頂いた」「米国公使や世界銀行のエコノミストグループに勤務された経歴もある。対外関係に明るく、単に環境問題にとらわれない広い視野に立って物事を考えている。経済関係についても非常に理解があり、今の状況に最適任だ」としているが、誠に時宜を得た適切な人事であったと言えよう。実際、一昨年の第2次森改造内閣で環境庁長官に就任して依頼、温室効果ガスの削減を定めた京都議定書の発効を目指して国際舞台で活躍する等実績を挙げており、旧通商産業省出身で駐米公使、国際交流基金評議員も務めた経歴からも手堅い実務家外交との印象を受ける。外務省改革にしても、田中前外相と違って、中身のある改善策が期待できそうだ。緒方政府代表も知名度と実績はあるが、同氏は「ライフワーク」としているアフガン問題が残されているし、安全保障や経済外交の分野における手腕は未知数のところがある。新外相の就任を歓迎したい。なお、新環境相に内定した大木元環境庁長官は第2次橋本改造内閣で京都議定書をまとめた、これまた実務家閣僚(外務省出身で、在ホノルル総領事等を歴任したという)であり、期待できる人事であろう。
 報道の中には、今回の田中外相更迭で小泉政権の支持率が下がり、構造改革のスピードが鈍る、との観測がある。確かに一時的にはそういう懸念もあろうが、しかし今回の川口新外相の就任で、テロ事件という課題を抱えながら停滞していた我が国の首脳外交を活性化させ、実質的な成果を挙げ得る体制が整ったのであり、長期的に見れば前外相更迭は正しい判断であったと評価されるようになるのではないか。

■それでもまだ高い小泉内閣支持率
 小泉内閣の支持率、20ポイント近く下がる(2月4日)
 報道によると、小泉純一郎内閣の支持率が低下している。これまで報道各社の世論調査では常に7割〜8割の高支持率を誇っていた小泉内閣は、先の田中外相更迭で急落。軒並み50%内外になっているという。
 約75%が約50%に下落したと聞くと大事だが、そもそも小泉内閣は発足以来7〜8割の驚異的な支持率を誇っていたのであって、支持率50%は歴代内閣の中でも比較的高い。その意味では、大ニュースではあるがそれほど大事とも思えない。低下の理由は田中外相更迭の影響とされるが、我が国外交に混乱をもたらした外相の更迭は首相の正しい選択であり、支持率低下は残念という他ない。

■道理が通らぬ武部農相更迭論
 武部農相不信任決議案否決、しかし与党内で更迭論が浮上(2月5日)
 報道によると、衆議院本会議は5日、民主、自由、共産、社民の野党4党が狂牛病問題に関連して提出した武部 勤・農林水産大臣に対する不信任決議案を採決し、自民、公明、保守の与党3党等の反対多数で否決された。しかし、採決にあたっては、自由民主党の平沢勝栄、後藤田正純両代議士が党の方針に反して投票を棄権した他、採決後与党内からも辞任論が飛び出しているという。
 野党側が政府を批判し武部農相の罷免要求をするのはまだ理解できなくもない。ただ、一部には「田中外相は更迭されたのに・・・」との声もあるが、田中外相の失政は武部農相のそれに比較して遥かに大きく、同列に扱えるものではない。野党は、田中前外相に対してこそ、不信任決議案を提出すべきではなかったか。党利党略のために国益を害する人物を大臣として信任したりすることが国の進路を誤らせる可能性があることは、戦前の立憲政治の失敗からも明らかである。
 加えて、その不信任案を否決したはずの与党内から辞任論が出ているが、これまた道理が通らない話だ。恐らく、こうした主張が聞こえてくるのは、田中外相更迭で国民的支持を低下させた小泉首相に揺さぶりをかけるとともに、上手くすれば農相も交代させて内閣改造を図ろうという目論みがあるのであろう。

■どうなったのか田中前外相の自主給与返納
 田中前外相、不祥事引責の給与自主返納を実施せず(2月14日)
 報道によると、田中真紀子・元外相が昨年11月30日、外務省の裏金問題の調査結果を公表した際、「不祥事が終わらず、自らの責任の重さを痛感している」として、自ら大臣手当1ヶ月分(約50万円)の返納を表明していたのに、実際にはこれを支払っていなかった。しかも、一衆議院議員となった田中前外相は現在、寄付行為が公職選挙法に抵触する可能性があるという。
 先月の外相更迭後、一部国民の間で「外務省改革を進めていたのに自民党橋本派に追い落とされた」と大いに同情されている田中元外相であるが、実際には外交にも外務省改革にも全く成果を挙げることが出来ず、しかも容易に前言を撤回したりすることが知られている。就任早々のリチャード・アーミテージ米国務副長官との会談拒否事件ではその理由説明が二転三転したし、先の衆議院予算委員会で示した「野上次官との電話のやり取りを記録したメモ」なるものが捏造であったのは記憶に新しい。無論、裏金問題は田中前外相就任以前からの問題であり、田中前外相だけが責任をとらされることはないだろうが(もっとも、機密費事件では河野洋平・元外相や高村正彦・元外相も自主給与返納を申し出ている)、「責任を痛感している」と認めて給与返納まで宣言しておきながら、国民や報道が見ていないのをいいことにこれを怠るというのは、軽率と評する他ない。

■成功だった日米首脳会談 
 ブッシュ米大統領、来日(2月19日)
 報道によると、アメリカのジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領は17日、夫人やコリン・パウエル国務長官、コンドリーサ・ライス大統領補佐官らを伴って就任後初めて訪日し、天皇陛下との会見や小泉純一郎首相との日米首脳会談、明治神宮参拝や流鏑馬見学、国会での演説等の日程をこなした。18日午前に外務省飯倉公館で行われた日米首脳会談の中で小泉首相は、不況の我が国経済について、銀行の不良債権処理の一層の促進や金融システムの安定等の5項目のデフレ対策を具体的に説明。「短期的に困難なこともあるが、構造改革を断固推進する」と強調したのに対し、ブッシュ大統領は、「日本経済が強靱であるのは世界にとって重要である。引き続き、小泉内閣を強く全面的に支持する」と応じた他、テロ問題については、我が国の テロ対策特別措置法 に基く米軍支援に謝意を表明し、自らが「悪の枢軸」と名指しで批判した北朝鮮、イラク、イランへの対応でも日本と協力していきたい、との考えを示したという。
 先のクリントン大統領が我が国を素通り(ジャパン・パッシング)して中国(中華人民共和国)を訪問したのに対し、ブッシュ大統領が我が国に3日、韓国に2日、そして中国に1日滞在する今回のアジア訪問日程は日本重視姿勢の現れであり、会談も極めて前向きな形で終わったと言えよう。一部で、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言に対して小泉首相が何等「批判」をしなかったことに対して「対米追随だ」との異論もあるが、表現はともかく、イラクと北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)が国際社会の不安定要素になっていることは事実であり、(イランはともかく)両国が核査察や大量破壊兵器の拡散を通して脅威を与えていることに懸念を示すのは不思議ではない。むしろ、この点で、小泉首相が欧州諸国のような批判をしなかったことは、適切な選択だったのではないだろうか。

■そんなに危険か住民基本台帳ネットワーク 
 「国民共通番号制に反対する会」、芸能人らを交えて反対演説会(2月
23日)
 報道によると、今年8月から開始される住民基本台帳のネットワーク化に反対する「国民共通番号制に反対する会」(桜井よしこ代表)は23日、河村たかし・民主党代議士や評論家・佐高 信氏、俳優の三田佳子氏や辰巳琢郎氏らを交えて東京・数寄屋橋で街頭演説を行った。三田さんは「私は専門家ではないが、大変おそろしい結果を招くことになるのではないでしょうか」と述べたという。
 1999年に導入が決まった住民基本台帳ネットワークは、国と地方公共団体のコンピューターを接続させ、11桁で表される住民票コード、氏名、住所、性別、以上の変更情報、生年月日を共有化するもので、導入されると全国どこの役所窓口でも住民票等が取得可能になる他、資格申請や年金給付など10省庁93種類の事務について国がこの情報を利用できる(このシステムは政府の進める「電子政府」構想(多くの行政手続きをオンラインで可能にするもの)にも組み込まれており、総務省は情報利用対象の拡大を検討している)。即ち、このシステムの本質は住民票管理の効率化とオンライン化であり、情報化社会を迎えた今日このような方法で住民票を管理することは不自然ではない。無論、個人情報の流出防止には万全を期さなければならないが、何も制度そのものに反対する必要は無いのではないか。「個人情報の国家管理、国民総背番号制につながる」という意見もあるが、福祉国家においては既に多くの情報が国家管理されているのであり、この制度固有の問題ではない。むしろ、ネット時代を迎えても、戸籍謄本や住民票の写しを一々当該役所に出向いて出さなければならない非効率性のほうが余程問題であろう。三田氏も、行政のIT化を妨げている暇があったら、ご自身の子息の教育に専念されては如何か。

■対テロ戦争における存在感不足の証ではないか 
 米国防総省の「対テロ戦争貢献国リスト」から日本漏れる(2月26日)
 報道によると、アメリカ国防部(国防総省)は26日、「対テロ戦争への国際社会の貢献」と題するリストを公表。支援国68ヶ国のうち26ヶ国の国名と支援内容を「部分的なリスト」として解説したが、その中には我が国は含まれていなかったという。この問題について小泉純一郎・首相は同日、記者団に対し「(来日したジョージ・)ブッシュ米大統領がじかに国会演説でも支援に感謝している。生の声を聞いているんですから一番信用できる」と述べたが、外務省の服部則夫・外務報道官は記者会見で、「先方は誤りを認めて陳謝し、訂正すると回答した」としつつも、「大変遺憾な話だ」と強い不快感を表明。結局、アメリカ政府側が「リスト作成に当たって(対テロ戦争を主導する米中東軍から)国防総省内の日本担当部門(米太平洋軍)には照会がなかった」等としてミスを認め、28日には訂正版のリストが公表された(同日、ハワード・ベーカー駐日アメリカ大使が川口順子・外相と中谷元防衛相に相次いで電話し、謝罪した)。
 確かに、今回の事件はアメリカ国防総省内部の単純ミスだったのかもしれない。しかし、如何に同省内部で書類作成上の不手際があるとはいっても、例えばアラビア海や国際治安支援軍(ISAF)に艦隊や部隊を派遣しているイギリスや、それに次いで軍事的関与を行っているフランス、ドイツ等はどう逆立ちしても「単純ミス」で「リスト漏れ」することは有り得ないのであり、つまりはそれだけ対テロ戦争における我が国の存在感が希薄であることを意味している。 テロ対策特別措置法 の制定とそれに伴う海上自衛隊の派遣は確かに我が国外交史上画期的な前進であったかもしれない(し、それに基づいて現場で働いておられる自衛官の方々の果たした役割は大きい)が、それは我が国憲政史上そうであったということであって、世界的に見て我が国の対処が画期的だったというわけではない。この事件について一部報道によればアメリカ政府を批判する言論もあるやに聞くが、果たして米国防総省を責める資格が我が国にあるのか、立ち止まって考える必要があろう。


表紙に戻る   目次に戻る   健論時報目次へ   2002年2月へ   2002年4月へ

製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
 
©KENRONKAI/Takeshi Nakajima 2002 All Rights Reserved.

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください