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健論時報
  2002年4月  


■不審船引き揚げは当然だ 
 中国の唐外相、不審船引き揚げに反対を示唆(3月6日)
 報道によると、中国(中華人民共和国)の唐家セン(「セン」は「王」へんに「施」)外交部長(外相)は6日、昨年末に鹿児島県奄美大島沖で海上保安庁の船艇の追跡を受け自沈した北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)の不審船(特殊工作船)の引き揚げについて、「日本側は中国側の権益と懸念を尊重すべきで、事態を大きくし、複雑化させるような行動を取るべきではない」と述べ、これまでより強い調子で日本政府の慎重な対応を求めた。唐外相はまた、我が国公用船舶が中国の排他的経済水域(EEZ)内で不審船と交戦したことについて、「我々は、日本側が軽率に武器を使用し、船を沈めたことに強い不満を表明した」と述べたという。
 この問題では、先にアメリカの軍事偵察衛星の写真により、この不審船と同型の船が中国海軍の軍港に寄港していたことも判明しており、仮に密輸物資や武器を登載した不審船が引き揚げられて今回の事件に対する(北朝鮮だけでなく)中国政府の関与が明るみに出れば、外交上の大問題に発展せざるを得ない。唐外相が引き揚げ反対を示唆したのも、そのあたりの事情を考慮してのことであろう(あるいは、我が国の引き揚げ作業が本格化する前に、中国又は北朝鮮船が沈没船の海域に展開し、「海洋調査」あるいは「軍事演習」と称して爆雷を投下、証拠を破壊する挙に出るかもしれない)。
 しかし、海洋における権利義務関係を定めた 国連海洋法条約第56条排他的経済水域における沿岸国の権利、管轄権及び義務」によれば、「沿岸国は、排他的経済水域において、・・・天然資源(生物資源であるか非生物資源であるかを問わない。)の探査、開発、保存及び管理・・・並びに・・・経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動・・・に関する主権的権利(、)・・・人工島、施設及び構築物の設置及び利用(、)海洋の科学的調査(、)海洋環境の保護及び保全・・・に関する管轄権」を有するとしているに過ぎず( 第56条第1項 )、中国政府として我が国の不審船引き揚げ(無論、これは非経済的行為である)を制限する法的権利は有していない。むしろ、中国は、「排他的経済水域において・・・、他の国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この条約と両立するように行動」しなければならないし( 第56条第2項 )、「すべての国は、・・・排他的経済水域において、・・・ 第87条 に定める航行及び上空飛行の自由並びに海底電線及び海底パイプラインの敷設の自由並びにこれらの自由に関連し及びこの条約のその他の規定と両立するその他の国際的に適法な海洋の利用・・・の自由を享有する」( 第58条第1項 )以上、不審船引き揚げは当然適法である(なお、 第58条第2項 の規定により、 第88条 から 第115条 までの公海に関する規定が準用されるので、加盟国は他国の排他的経済水域においても公海海上警察権を行使できる)。「権益と懸念を尊重すべき」なのは我が国ではなく、中国のほうである。
 また、当該不審船が海上保安庁の巡視船と銃撃戦を展開したことについて唐外相は、「
日本側が軽率に武器を使用し、船を沈めた」等と発言しているが、海上保安庁側が適切な法的根拠を以って武器を使用し、結果として不審船が自沈したことは同庁が公開した映像からも明らかであり、事実と相違する。このような態度をとる中国政府の真意を疑わざるを得ない。
 不審船についてはアメリカ政府も「化学・生物兵器の関連物質などが積載されている可能性がある」との観点から早期引き揚げに同調しており、成功すれば北朝鮮による一連の不法な出入国や麻薬取引の実態の一端が解明されることは間違い無い。昨年の小泉首相の靖国神社参拝でぎくしゃくした日中関係だが、今年は日中国交正常化30周年を迎えるだけに、日中関係の悪化を懸念する観点から引き揚げ慎重論もある。だが、これだけ明らかに我が国に対する安全保障上の脅威が存在するというのにそれに対する解明を怠ったりするのでは、我が国は主権国家の体をなしていないことになる。第一、中国政府が真に「日中友好」を臨むのであれば、国際法上何等疑義の無い我が国の不審船引き揚げに反対すべきでないではないか。不審船引き揚げは当然実行されるべきである。

■外務省の毅然たる対応に賛同する 
 竹内外務次官、中国外相の発言に強く反論(3月7日)
 報道によると、鹿児島県奄美大島沖の不審船事件に関連して、中国(中華人民共和国)の唐家セン(「セン」は「王」へんに「施」)外交部長(外相)が「日本側が軽率に武器を使用し、船を沈めた」と発言したことに対し、外務省の竹内行夫・外務事務次官は7日、武大偉・駐日中国大使と会談し、「ビデオを見ればわかるように、海保の巡視船は銃撃を受け、これに対応した。決して軽率なものではない」と強く反論した他、2002年の中国国防予算について「より一層の透明性向上が図られることが不可欠だ」と申し入れた。
 前述したように、唐外相の発言は事実を反映していないばかりでなく、 国連海洋法条約 の規定にも根拠が無いものであり、これに対してきちんと反論するのは当然の対応であろう。我が国の不審船引き揚げを妨害しないよう釘をさすとともに、不審船の同型船が中国軍港に寄港してた事実についても事実を明らかにするよう求めるべきである。

■北方領土不要発言は議員辞職に値する 
 鈴木宗男代議士、衆議院予算委員会で証人喚問(3月11日)
 報道によると、衆議院予算委員会は11日午前、一連の外務省介入疑惑をかけられている鈴木宗男・元北海道開発庁沖縄開発庁長官(自由民主党)を 議院証言法 (昭和22年法律第225号「議院における証人の宣誓及び証言に関する法律」)に基き証人喚問した。この中で鈴木氏は、(1)国後島の宿泊施設(友好の家)建設工事の入札参加資格介入問題、(2)ケニアのソンドゥ・ミリウ水力発電計画への介入問題、(3)ジョン・ムウェテ・ムルアカ私設秘書問題(同氏がコンゴ民主共和国公務員であるとの疑惑)は否定し、(4)タンザニアのキマンドル中学校建設資金転送問題(鈴木氏が個人的資金をタンザニアに転送する際、外務省に便宜供与を求めた事件)については事実関係を認めた。一方、(5)色丹島プレハブ診療所建設問題(「固定物を北方四島につくることで<ロシアの>不法占拠を助長する」として難色を示した西田恒夫・欧亜局参事官<当時>を叱責した問題。いわゆる「北方領土返還無用発言」)については「その発言には前段がある」として明言を避けたという。なお、12日には、外務省がムルアカ氏が現在携帯する外交旅券が偽造であることを明らかにした他、民主・自由・共産・社民の野党4党が鈴木氏に対する議員辞職勧告決議案を衆議院に提出した。また13日には、1996年5月の国後島ビザなし渡航の際、「元島民の持参したチシマザクラ植樹のためロシアの求める植物検疫証明書を提出すれば、ロシアの主権を認めることになる」として植樹に反対する外務省欧亜局ロシア課首席事務官を「このような問題は政治判断が必要だ。元島民の希望であり、外務省の判断は間違っている」と暴行し、1週間のケガを負わせた上、「ビザなし交流の中止」を匂わせてこれを隠蔽したことも報じられている。
 鈴木氏を巡る一連の「疑惑」と称されるものは、主に外務省その他の中央官庁が所管する公共事業に対する口利きだが、これは不祥事云々というよりも我が国における「政治」のあり方の問題であり、如何なる政官関係を構築するか(イギリスの如く国会議員の行政に対する関与を制限するか、そうしないか)は今後の国民的議論に委ねられよう。その意味で、鈴木氏の「疑惑」は「問題提起」であって「不祥事」ではない(無論、斡旋利得罪処罰法等に触れる違法性があるものは別だが)。
 しかし、証人喚問の中で報じられた「北方領土返還無用発言」(「国のメンツから領土返還を主張しているにすぎず、実際には島が返還されても国としては何の利益にもならない」)は、国民の期待を裏切る売国発言であり、議員辞職に値する重大問題発言と言わなければなるまい(もっとも、「売国的発言」と言えば、野党の中にもそうした発言をする議員も少なくないが・・・)。無論、この発言メモについて当の鈴木氏は「断固否定する」「本当に私の真意が伝わった形でメモになって残っているのかどうか。相手方が一方的に受けとめてメモを作ったのではないか」と全面否定しているが、これまで鈴木氏が北方領土問題に関して「二島先行返還論」等ことごとくロシア側の肩を持つような主張を繰り返していること(上記の外務省職員暴行事件でも、鈴木氏はロシアの主権を認めるような行為を助長している。また、別の報道では、同氏は警察庁に元KGB情報要員と見られるロシア駐日外交官の監視中止を求めていたことが明らかになった)からすれば、信憑性は高い。

■疑惑を持たれた国会議員は中傷してもいいのか 
 鈴木宗男代議士、辻元社民党政審会長の処分要求(3月12日)
 報道によると、鈴木宗男・元北海道開発庁沖縄開発庁長官は12日、綿貫民輔・衆議院議長に対して、社会民主党の辻元清美・政策審議会長に対する国会法(昭和22年法律第79号)第120条に基く処分要求書を提出した。これは、11日の証人喚問の席上、辻元政審会長が鈴木元長官(証人)に対し「どうしてうそをつくのか」「疑惑のデパートやのうて疑惑の総合商社ですよ」等と発言したためで、大島理森・自由民主党国会対策委員長も支援を表明したという。同法第119条は「各議院において、無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」と定めており、それに基いて第120条は、「議院の会議又は委員会において、侮辱を被つた議員は、これを議院に訴えて処分を求めることができる。」としている。
 報道によれば、この問題では12日の公明党代議士会でも「論拠を明確にした質問でなければおかしい」「偽証罪に問われることもある証人に『うそつき』と言った言葉の責任をとってもらう必要がある」等と批判が相次いだというが、全くその通りだ。如何に鈴木氏に疑惑が多いとは言え、「国会」という我が国最高の言論の府において、「疑惑のデパート」だの「うそつき」だのという言葉が乱舞するのは異常だ。「疑惑のデパート」と「疑惑の総合商社」が中傷用語としてどう違うのかも不明だが、それはさておいて、 議院証言法 (昭和22年法律第225号「議院における証人の宣誓及び証言に関する法律」)では証人は偽証罪で処罰される可能性を担保されているのであり、仮に鈴木氏が「うそつき」であれば司直が法に基き厳正にこれを処罰するのであって、公開の討論場で罵倒する必要性はどこにもない。辻元氏は先に衆議院本会議でも「小泉首相は『ええかっこしい』だ」と発言し塩川正十郎財務大臣から批判されたが、自分のことをさておいて「ええかっこしい」とは、あまりにも軽率だ。

■「テロ国家」の本性が明らかになった北朝鮮 
 「よど号」元妻、日本人女子大生拉致を証言(3月13日)
 報道によると、1983年、英国留学中突然行方不明になった日本人女子大生、有本恵子さん(当時23歳)について、日航機「よど号」ハイジャック事件の主犯格の元赤軍派構成員の妻・八尾 恵氏(46歳)は12日、東京地裁で開かれた赤木恵美子被告の公判に検察側証人として出廷し、「よど号メンバーらが、日本で革命を起こすための人材獲得が目的だった。朝鮮労働党員の外交官の肩書を持つ工作員キム・ユーチョルとリーダーの田宮高麿幹部(故人)らから指示を受けて工作にかかわった」と証言。北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)政府と赤軍派が有本さんを組織的に騙して北朝鮮に拉致・誘拐したものであることを明らかにした。証言によると、八尾氏は1978年、田宮幹部から「日本をキム・イルソン主義化するため、革命の中核を担う日本人の発掘、獲得、育成がよど号グループのこれからの課題だ」と告げられ、1983年ロンドンに潜入。「市場調査のおもしろい仕事がある」等と誘い、ロンドンからデンマーク・コペンハーゲンに連れ出した後、北朝鮮外交官とよど号メンバーの1人に引き合わせたという。有本さん拉致事件が北朝鮮政府による組織的な犯罪であることが明らかになったことで、警察庁は今後、北朝鮮による拉致と認定した8件11人の事件について捜査を進める他、警視庁は特別捜査本部を設置した。
 この問題について小泉純一郎首相は12日、「拉致問題をいいかげんにして、北朝鮮との国交正常化はあり得ない」と述べ、事件解決への決意を強調しているが、全く以って正論であり、そもそもこのような犯罪国家と国交を「正常化」する必要があるのかすら疑問なしとしない。従来から北朝鮮は、我が国国民の拉致について「日本側のでっちあげ」等と発言して取り合わず、逆に在日朝鮮人系信用組合や朝鮮総連への強制捜査を批判しており、極めて不誠実な態度を取り続けている。ブッシュ米大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と表現したのが如何に適切な表現だったかが改めて証明されたのではないか。こうした北朝鮮の実態を世界に訴え、国際的な圧力を強めると共に、1日も早い拉致問題の解決にむけて毅然とした態度をとる必要があろう(なお、この問題について赤木恵美子被告の弁護人、川口和子弁護士は、「拉致とは、本人の意思によらず強制的に連れていくことで、(元妻の)証言や供述調書を見る限りは、拉致とは言えないのではないか」と話しているが、法律用語で強制的に拉致することを「略取」と言うのであり、レトリックに過ぎない)。
 ただ、この時期にこの問題が報道されたことには、北朝鮮の不審船事件引き揚げの問題に関する政府の対応と、何らかの関係があるのかもしれない。

■あまりにも甘すぎる、「刑事行政」優先の無期懲役判決 
 山口県光市母子殺害事件の元少年に対し、広島高裁も無期懲役判決(3月14日)
 報道によると、山口県光市で1999年4月14日、会社員・本村 洋さん(25歳)の妻弥生さん(享年23歳)と長女夕夏ちゃん(同11ヶ月)が水道検査員を装った会社員の18歳少年(現在20歳)に殺害された事件で、同元会社員に対し広島高等裁判所(重吉孝一郎裁判長)は14日、「動機は自己中心的で卑劣。犯行態様も冷酷で残虐」だが「殺害には計画性はなかった」「更生の可能性が無いとは言えない」等とし、一審の無期懲役判決を支持して控訴を棄却した。同事件では一審の山口地方裁判所が無期懲役判決を下し、死刑を求める検察側が控訴していた。検察側は最高裁判所への上告を検討しているという。
 判決について、一審判決後「自分の手で殺してやりたい」と述べていた本村 洋さんは「納得できない。少年法に守られた被告に負けた。くやしい」と話しているというが、当然であろう。この事件では犯行時18歳だった犯人の「更生の可能性」が争点とされていたが、検察側が被告人が拘置中知人宛てに送った被害者を中傷するような内容の手紙を証拠として提出したにも関わらず、二審は犯人の過酷な生育環境や前科が無かったこと等を理由として助命している。被害者遺族にとっては、犯人の「更生可能性」といった「現在」及び「将来」の国家の刑事行政上の考慮よりも、彼が「過去」に犯した罪に対する断罪(刑事司法)のほうが重要であり、「更生可能性」を見越した無期懲役判決は国家社会の都合(刑事行政)を優先したものだ。「更生の可能性が無いとは言えない」等という判断が許されるならば、オウム真理教の麻原彰晃被告だって助命できよう。元少年に対する極刑を求める(なお、この問題については本誌2002年2月号記事「 犯罪被害者と新世紀の刑事法制 」を参照して頂きたい)。

■自業自得の離党・辞職 
 鈴木宗男代議士、自由民主党から離党(3月15日)
 報道によると、鈴木宗男・元北海道開発庁沖縄開発庁長官は15日、自由民主党本部で記者会見し、山崎 拓・同党幹事長に対し離党届を提出したことを明らかにし、その理由について説明した。会見の中で鈴木氏は、「今回、私の政治活動や言動につき、また私設秘書の件について、様々なことが国会などで指摘され、私自身深く反省すると同時に、このままでは党に大変な迷惑をかけると思い、離党を決断いたしました。中でも、北方領土返還運動の一環として私が取り組んだ北方四島支援事業について、国民のみなさまに多くの疑念をもたれたことについて、大変申し訳なく思っています。また、私と外務省など役所の関係、いわゆる政と官のあり方の中で、私の言動が圧力ととられ、国民の皆様の厳しい批判を受けていることについても、深くおわびと反省をするものです。」と述べ謝罪した一方、疑惑解明の手掛かりとなった秘密文書を公表した外務省については、「外務省という役所は、田中(真紀子)大臣が更迭された後、今度は6年前、7年前の一方的なメモが次々と使われ、私の排除といいますか「つぶし」といいますか、なにがしかの意図や思いがあって今の事態に至っているなと、こんな風に考えています。」と批判。「北方領土変換不要」発言問題に対しては、「私は政治家として、北方領土返還運動をライフワークとして取り組んで参りました。その私が北方領土不要論という言葉は使うわけもなければ、ない話なんであります。」と否定したという。
 鈴木氏は元々比例区出身の衆議院議員なので、離党すれば次回の総選挙は小選挙区から無所属で出馬する他なくなる。即ち、今回の離党表明は事実上の議員辞職表明であり、それだけに涙ながらに会見を行った同氏の言葉には重みがあった。自身の政治家生活上の理由から外交を歪めた同氏の責任は極めて重いが、「政治的な死」を表明した同氏は、これで一定の、軽くない責任をとったと言えるのではないだろうか。
 ただ、会見の中で鈴木氏が口にした外務省批判は、不当な発言という他無い。鈴木氏が更迭された田中真紀子・元外相と同じような発言をするのは運命の皮肉という他ないが、今回公表された内部文書が同氏を追い込んだのは、国会議員としての権限をチラつかせ、外務省職員を罵倒したり時には暴行したりして服従させてきた鈴木氏の無理な政治活動の当然の帰結であり、自業自得であろう。それをあたかも「悪い官僚」がいて、その策謀のせいだというのは、責任転嫁にも程があるのではないか。一部評論家の中には、「そうした鈴木氏に従ってきた外務官僚も問題だ」と発言するが、政治問題については民意の負託を受ける国会議員のほうが公務員よりも優位に立つ以上、官僚としては例え不当であっても政治家の要望を聞く他ない立場にあるのであって、問題はあくまで政治家の側にある(無論、外務省における公金管理の問題は、それとは別に存在するが)。
 また、今回鈴木氏が事実上の議員辞職を表明したからといって、田中元外相の一連の言動が正しかったことにはならないのは当然である。物理的暴力こそ振るわなかったものの、田中元外相の外務省職員に対する対応はこれまた異常であったし、不規則発言で外交を歪めたことに変わりは無い。衆議院外務委員会における鈴木氏の質問を制限しようと、「国権の最高機関」の運営に介入したこともあった。在任中、外務省改革が進んだという印象も無い。むしろ田中元外相は、あれだけの失敗を重ね国益を害しながら、議員辞職はおろか離党もしていないのが不思議ではないか。田中元外相は「(鈴木議員のような存在は)他にもいる」と自民党を批判するが、その田中元外相の父・田中角栄元首相こそ、鈴木宗男議員が手本とした政治家ではなかったのか。

■商業捕鯨再開にむけた世論喚起を 
 世論調査で75%が商業捕鯨再開に賛成(3月16日)
 報道によると、内閣府は16日、「捕鯨問題に関する世論調査」の結果を公表した。それによると、昨年12月に調査を受けた全国の20歳以上の男女5000人の内(回収率69.1%)、資源管理された上で我が国の沿岸捕鯨が認められるべきだとする回答が71.9%、同様に資源管理された上での各国の商業捕鯨賛成も75.5%(「賛成」45.7%、「どちらかというと賛成」29.7%。「反対」6.6%、「どちらかというと反対」3.3%)に上った他、反捕鯨諸国が主張するような「クジラは神聖な生物である」といった主張には53%が反対(賛成22.6%)に達した。鯨肉を食べたことがある人は87.7%に達した。但し、国際捕鯨委員会科学委員会が「南極海のミンククジラを毎年2000頭捕獲しても資源に大きな影響はない」としていることを「知っている」と答えたのは24.2%、我が国の調査捕鯨について「知っている」と答えた人は24.6%に留まった。
 4月25日からは山口県下関市で国際捕鯨委員会(IWC)年次総会が開かれるが、最近のIWCでは科学委員会による合理的な資源状態の報告も欧米の反捕鯨感情論の前に無視されており、1988年以来停止されてきた商業捕鯨の再開に漕ぎつけたい水産庁には追い風となった。その一方で、商業捕鯨が禁止されて以降、鯨肉を知らない世代の増加は問題に対する関心を低下させる虞がある。民主国家にあっては、あらゆる外交課題はその国民世論の支持を得ずしては強い主張は出来ない。商業捕鯨再開にむけた一層の世論喚起が必要ではないだろうか。

■歯切れの悪い辻元代議士の弁明 
 辻元清美代議士、秘書給与詐欺疑惑で全面否定の記者会見(3月20日)
 報道によると、代議士の辻元清美・社会民主党政策審議会長は20日、社会民主会館で記者会見を行い、20日に発売された『週刊新潮』が「照屋寛徳・元社民党参議院議員の邊見眞佐子・私設秘書の名義を借りて、政策秘書の給与約1500万円を国から詐取した」と報じている問題について、「週刊新潮の記事を読んだが心外だ。事実と違う。抗議をどういう形でするか、法的措置も含めて検討したい」と疑惑を否定した。
 『週刊新潮』によると、邊見氏は1997年4月から98年12月までの間、辻元代議士の政策秘書として登録されていたが、実際には照屋事務所で私設秘書として働いており、政策秘書の勤務実態は存在しなかったという。「給与を詐取したのではないか」との質問に対して辻元氏は「給与は本人の銀行口座に振り込まれていた。通帳も本人が管理していた」と答えたが、邊見氏が照屋参議院議員(当時)の私設秘書を95年8月から2001年7月まで務めていたことに対しては「常勤ではない。先輩議員の手伝いもすると了承して秘書になってもらった。」「政策秘書は他の仕事を兼任しても問題ない。」「いったり来たりで、週に何回という話ではない。先輩議員の手伝いをしていて、時間はあっちの方が長いと思うが、困ったときに話を聞くことが重要だった。」とし、「女性は私の事務所で日常的に働いていた。辻元議員の政策秘書になっていたことは知らなかった」とする照屋元参議院議員と食い違いを見せている。他方、自由民主党は20日、詐欺容疑で辻元氏を刑事告発する準備を始めたという。なお、別の報道によれば、邊見氏はは96年12月と97年1月にそれぞれ2ヶ月間、民主党の家西 悟代議士の政策秘書も「兼務」していたことが判明している。
 疑惑について辻元氏は、「今にしてみれば、私の政策秘書をしていて他の議員の秘書もしているのは変よね、と思う」と反省したというが、それを語る辻元氏の顔は笑っており、真摯な反省の態度を示したとは言えない。そればかりか、記者会見では疑惑について正面から答えておらず、「その関係は政策秘書に任せていた」(照屋参議院議員が秘書兼任を知らなかったことについて)等と秘書に責任転嫁する姿勢すら示しており、鈴木宗男・元北海道開発庁沖縄開発庁長官の一連の疑惑を追及した証人喚問での歯切れのよさは全く見られない。なるほど、確かに国会法(昭和22年法律第79号)第132条第2項で認められた政策秘書は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)上の特別職職員であり、兼職も法的に不可能ではない。しかし、政策秘書に月額45万〜67万円の給与が支払われているのは事実上その職務に24時間専念してもらうためであり、時々相談してアドバイスを受ける程度の仕事のために多額の税金を投入しているわけではない。その意味で辻元氏の政策秘書の使い方は、違法ではないにしても極めて不当であることは明らかだ(アドバイザー程度なら、私設秘書とするか、余剰の給与を国庫に返納すべきだ)。事件について土井たか子・社会民主党党首は「辻元さんを支援していく」「証人喚問とか参考人招致の要求があるとなれば逃げない」と発言しているが、党として調査もせずに辻元氏の言葉を信じるというのは、身内贔屓に過ぎよう。仮に辻元氏の疑惑が真実だとすれば、それを「支援」するとした社会民主党の姿勢も同時に問われる。同党の渕上貞雄・前幹事長は、後述する山本譲司代議士秘書給与詐欺事件に際して、「国会議員としてあるまじき極めて遺憾な行為」「まさに政治家としての倫理感を欠く悪質な詐欺行為そのものであり、到底許されるものではない」「狭き門の政策秘書試験を突破した有用な人材が採用されないままであるといういびつな実態は、改めなければならない」「国民の前に率直に事実を明らかにするとともに、直ちに衆議院議員の職を辞するよう強く求めるものである」と述べているが、これが自党の議員にも当てはまらないのでは、渕上前幹事長の言葉は偽りと言わざるを得まい。
 政策秘書の給与を巡っては、2000年9月、民主党の山本譲司代議士(当時)が約2550万円を騙取したとして逮捕・起訴された事件(懲役1年6ヶ月の実刑判決)が記憶に新しいが、今回の問題と併せて浮き掘りとなったのは、国家公務員の一種である政策秘書の任用があまりにも安易に(=恣意的に)行われている、ということである。事実上、ほとんど国会議員の届け出だけで任命され、勤務実態も不明のまま、月額45万円以上の給与が名義人の口座に振り込まれる。もし政策秘書の制度を悪用しようとすれば、1人の人間に複数の秘書を兼務させ、3人分も4人分も給与を獲得することが出来てしまう。政策秘書の任命・兼職及び秘書からの政治献金について制限を設けるべきではないだろうか。

■鴻毛よりも軽い言葉を発する議員の辞職 
 辻元清美代議士、秘書給与詐欺疑惑で議員辞職願提出(3月26日)
 報道によると、社会民主党の辻元清美・政策審議会長は26日、政策秘書の給与を「名義貸し」で詐取したとされる疑惑に関連して、衆議院議員の辞職願を綿貫民輔・衆議院議長に提出した。その後開かれた記者会見の中で辻元氏は、「3月20日の記者会見に間違いがあった点もおわびします。本当に申し訳ありません。」と述べ、一連の疑惑について謝罪したものの、社会民主党は離党しないことを表明。更に、「名義貸し」の手口を持ちかけられた人物については、「名前はちょっと、やっぱり差し控えさせて頂きたいんですよ」と明言を避けた。この人物については、土井たか子・党首も「ちょっとわかりません」と曖昧に答えている。
 報道されている辻元氏の秘書給与詐取疑惑は刑法上の詐欺罪及び政治資金規正法(昭和23年法律第194号)上の不実記載罪を構成する可能性があり、国民の税金を詐取した者の議員辞職は当然だ。加えて、同氏が、20日の記者会見で全く虚偽の内容(疑惑の全面否定)を国民に向けて発していたことは秘書給与問題を上回る不祥事であり、弁解の余地は全く無い(一部報道では、辻元氏がかつて主催していたNGO「ピースボート」と疑惑を報道した新潮社がトラブルを起こしていたため、報道を受けて感情的になってしまったという)。更に、他者の疑惑を「厳しく」追及しておきながら自身の疑惑にはウソで対応するというその二重基準は、人間として許されることではない(鈴木宗男氏が最終的に自由民主党離党に追い込まれたのも、自身の姿勢と矛盾する「北方領土不要発言」が報じられたのが決定打であった)。それらの罪に対する明白な謝罪もなしに(辻元氏は、20日の記者会見については「間違いがあった」としか言っていない)、しかも「謝罪会見」にも関わらず終始笑みを湛えての記者会見は、国民を愚弄するようで誠に見るに耐えない。一部報道では辻元氏は再選も視野に入れているというが、あれだけ明白にウソをついた人物が、再び赤絨毯を踏むことが許されてはならない。
 そもそも辻元氏は、一部報道では「疑惑追及の旗手」あるいは「歯切れのよい弁舌の達人」等と持ち上げられているが、日本共産党のようにどこからともなく重大な証拠資料を独自に入手して理詰めで攻めるでもなく、さりとて社民党の同僚議員のように政府・与党をたじろがせるような迫力のある国会答弁をするのでもない。「ど忘れ禁止法」「疑惑の総合商社」「総理、総理、総理」といった不規則発言が目立つばかりで、一体彼女の国会質問のどこをどうとると「疑惑追及の旗手」になるのか。どうして彼女が「史上初の女性首相候補」たり得るのか(政治的信条を度外視すれば、土井党首のほうがまだしも適任である)。上辺だけのテレビ映りのよいパフォーマンスばかりが目立ち、その言葉は鴻毛よりも軽かったといわざるを得まい。今回の一連の騒動で、辻元氏が他者の疑惑は嬉々として論っておきながら、自身の疑惑については終始ウソや開き直りを重ねたことが、図らずも彼女の本質を浮き掘りにしたと言えよう。
 加えて、この問題については社会民主党と土井党首にも重大な責任がある。そもそも同党は、「自社さ」連立内閣発足当時、半世紀に渡って旗印としてきた反安保・反自衛隊政策をいとも簡単に「安保堅持」に転換。国民の失望と失笑を買ったが、その影響は議席数の大幅縮小となって現れた。こうした軽々しい政策転換は、それだけ同党において「言葉」が軽視されてきたことを意味するが、今回の事件でも、土井党首は当初、事実関係を確認もせずに「辻元氏を全面支援する」等と発言しており、その責任は重い(それでも、その点について後刻謝罪を表明しているのはさすがであり、辻元氏とは比べものにならない「土井たか子」という政治家の大きさが現れている)。疑惑を持たれている辻元氏、邊見眞佐子・元秘書とともに土井党首自身も証人喚問を受け、真相を語るべきである。辻元氏を離党させないというのであれば、同党も同罪である。
 更に、辻元氏と親しいとされる田原聡一郎、筑紫哲也両氏が全国放送を利用して辻元氏に「弁明の場」を与えたというのは、報道人としての基本的な倫理に反する行為、と言わなければなるまい。筑紫氏は妻名義で辻元氏に政治献金もしていたというが、そんな人物が司会者を務めるニュース番組が公平とは到底言えないのは論を待たない(現に、両番組は極めて辻元氏に同情的であった)。もし他局の有名ジャーナリストが、鈴木宗男氏や加藤紘一氏に政治献金をしていたら、両氏はそれだけでその人物を批判するのではないか。個々人の政治的信条の相違はともかく、こうしたダブル・スタンダード、「言葉に対する責任」の軽視は、到底看過し得ない。


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