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健論時評 2004年12月


■対人地雷条約:脱退の英断を日本に求める 
 対人地雷全面禁止条約第1回運用検討会議、ケニアで開催される(12月3日)
 報道によると、ケニアの首都ナイロビで対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)の第1回運用検討会議が開催され、「ナイロビ宣言」などを採択して3日閉幕した。同会議で演説した河井克行・外務大臣政務官は、今後アジア・中東・アフリカ地域に力点を置き、(1)平和構築への貢献、(2)「人間の安全保障」の視点、(3)地雷除去技術の開発など産・官・学・民(NGO)の連携を柱に支援を進めていく方針を表明したという。
 今回の会議について、毎日新聞は7日、「対人地雷会議 全廃の英断を大国に求める」と題する社説を掲載。対人地雷禁止に積極的な日本政府の対応を評価しつつ、中国、ロシア、アメリカといった地雷を多く保有する大国の条約加盟や地雷撤去作業の加速を主張した。
 しかし、既に本誌1998年6月号記事「 再論・我が国は対人地雷全面禁止条約に参加すべきか 」で指摘しているとおり、オタワ条約は対人地雷の被害軽減に役立たないばかりか、我が国の防衛能力を大幅に低下せしめるものであり、我が国が加盟すべき名分も利益もない条約となっている。地雷被害の提言はその原因となっている紛争そのものの処理や地雷貿易の禁止によって達成されるべきであり、地雷保有それ自体を非人道的として非難するのは筋違いである。第一、人間を殺傷するために作られている武器に、人道的なものなどそもそも存在するはずもないではないか。政府には、むしろ脱退の英断をこそ求めたい。

■議員会館は「国家百年の計」で建設を ←NEW!
 衆参両院、新議員会館の建設概要を発表(12月22日)
 報道によると、衆議院・参議院は22日、国会議員の事務所や会議室等が入居する新しい議院会館の建設概要を発表した。それによると、現在の衆議院第一・第二議員会館、参議院議員会館をそれぞれ更新し、議員1人あたりの部屋は現在の約40平方メートルから約100平方メートルと2.5倍になる。また、周辺の景観にも配慮し、建物の高さは国会議事堂(高さ約65メートル)よりも低く抑えられる。2006年に着工し、2010年に完成する予定で、総工費は約1400億円と見込まれているという。もっとも、平成17年度政府予算案では、財務省との折衝の結果、衆議院が求めていた室内プールの建設が撤回されている(現在の衆議院議員会館には、25メートルの屋外プールがある)。
 議員会館は国会議員の東京における日常的な政治活動の拠点であり、陳情や説明に訪れる国民や各省職員も多い。自分も議員会館は訪問したことがあるが、傍目に見ても現在の会館はあまりにも手狭であり、秘書と応接スペースだけで40平方メートルの部屋の大半が埋まってしまっている。財政再建が求められる御時勢ではあるが、議員会館は国家百年の計の観点から建設されるべきであり、室内プールはともかく、必要な施設・設備は十分な予算をつけるべきであろう(そもそも、選挙で選ばれた国会議員のための会館建設に、一行政機関である財務省が「査定」を加えるというのは、民主的政治制度の観点からはやや奇異な印象を受ける)。マスコミの風潮で、この件に関する報道はいきおい「国会議員に特権や特典を与えるのはけしからん」という論調になりがちであるが、国会議員の付託されている責任と義務を勘案すれば、私としては、広い議員会館の建設といった特権や特典はむしろ喜んで付与すべきであると思うし、また民主政治の費用として甘受すべきであると考える(同じことは、ひところ問題となった国会議員互助年金にも該当する。あの程度の特権すら認容できないというのでは、度量がなさ過ぎる)。国会議員がなすべきは、「自分は豪華な議員会館や高すぎる議員歳費は受け取らない」等と言って人気取りではなく、会館や歳費に見合った政治活動である。

■「日本版CNN」の開局を ←NEW!
 フランス、「仏版CNN」を開局へ(12月23日)
 報道によると、フランスのジャン・ピエール・ラファラン政権は23日、国際世論にフランスの考え方を反映させるべく、外国向けのニュース専門テレビ局を2006年前半に開局する方針を決め、準備費用として2005年度予算で300万ユーロ(約42億円)を計上したという。放送は、国際社会でのフランス語の復権を目指すジャック・シラク大統領の公約の一環で、英語、仏語の他アラビア語での放送も検討されている。
 現在、国際社会においては、CNN、フォックスニュース(以上アメリカ)、BBC(イギリス)、アルジャジーラ(カタール)といった国際衛星テレビ局が、各国外交当局も無視できないほどの大きな影響力を持っている。そして、これらのテレビ局が、単に最新の情報を世界に発信するのみならず、それぞれのテレビ局の背後にある考え方を伝えるという点でも、外交上の極めて有効な手段であることが知られている(例えば、イラク戦争に関して、米国の2社とアルジャジーラでは、報道姿勢に相当の相違があったことは有名)。特に、イラク戦争以降のアルジャジーラの活躍は、カタールのような(米英仏から比べれば)それほど大きくない国でも、衛星テレビ局を持つことによってこれらの諸国に匹敵する情報発信力を持つことができることを証明した(イラクにおける日本人人質事件でも重要な役割を果たしている)。
 翻って我が国は、既に本誌1999年1月号「 日本の文化外交を問う 」で中島 健氏が指摘していることであるが、残念ながら、国際世論に訴求する手段を持ち合わせていない。日本のテレビを見ていても、重要な海外ニュースのほとんどはCNNやアルジャジーラの画像を借用し、後追い報道をしているに過ぎない。わずかに、NHKが独自の情報網や衛星放送網の構築に取り組んでいるが、番組の大多数は海外に在住する日本人向けの日本語放送であり、CNNやアルジャジーラのような、外国人をも広く対象とするようなものではない。外務省をはじめとする各省のホームページにしても、かろうじて英語版は整備されているが、仏語やアラビア語になると、情報量は絶望的に少なくなる。海外における日本語の普及にしても、フランスが語学学校「アリアンス・フランセーズ」を世界中に1000校以上設置しているのに対し、日本政府の国際文化交流機関である独立行政法人・国際交流基金は、18カ国に19ヶ所の海外事務所を持つのみである。
 折りしも、今月7日、小泉純一郎首相の私的諮問機関として「文化外交の推進に関する懇談会」が設置され、平山郁夫・東京芸大学長(国際的な文化財保護活動への取り組みで有名)や安藤忠雄・東京大学名誉教授(国際的に著名な建築家)、山下泰裕・東海大学教授(元柔道五輪優勝者で柔道を通じた国際交流を推進)、黛まどか氏(俳人)、東儀秀樹氏(雅楽師)、福原義春・資生堂名誉会長、山内昌之・東京大学教授(アラブの専門家)、青木保・政策研究大学院大学教授(座長)ら各界の有識者17人が来年夏までに提言をとりまとめることとなっている。小泉首相も会合で、日本のテレビドラマ「おしん」が中東で人気があることなどを例に挙げ、「日本の持つ良き伝統を、政治、経済だけでなく、世界に発信して理解を求めていく必要がある。文化の持つ力は対日認識の向上に欠かすことができない」との認識を示しており、この懇談会の場において、日本版CNNの創設等の議論がなされることを期待したい。

■「監獄」が消えるのはやや残念だが ←NEW!
 監獄法、100年ぶり抜本改正を目指し法案提出へ(12月29日)
 報道によると、法務省は、来年1月の通常国会に、監獄法(明治41年法律第28号)の抜本改正案を提出することとしたという。成立すれば、同法制定(1908年)以来約100年ぶりのこととなる。
 監獄法については、これまで、法務省が内容の現代化を目指して「刑事施設法案」を策定(1982年)する等してきたのに対し、日本弁護士連合会が、本来法務省所管の拘置所に収容すべき未決拘禁者(刑事裁判で刑罰が確定する前の容疑者・被告人)の収容に警察の留置場を利用する「代用監獄」が自白強要の温床となっているとして、「代用監獄」廃止を強硬に主張。両者の主張に折り合いがつかないまま、明治生まれの漢字・カタカナ混じりの法文が改正されないままでいた経緯がある。今回、法案提出が決まった背景には、2002年に発覚した名古屋刑務所での受刑者死傷事件を機に設置された法務大臣の私的諮問機関「行刑改革会議」が昨年12月に答申を発表、これを受けて、日弁連側が現実路線に転じ、法改正を容認する姿勢を示したことによる。元来、未決拘禁者の収容に数が限られている法務省所管の拘置所しか認めないという日弁連の主張は現実から乖離しており(被告人の弁護士・家族にしても、辺鄙なところにある拘置所にわざわざでかけるより、近くの警察署で接見したほうが便利との指摘すらある)、その点からすれば、今回の日弁連側の譲歩は当然の成り行きであった。
 それにしても、21世紀に入って、明治生まれの漢字・カタカナ混じり(文語)の法律が次々と口語化されていくなかで、文語のままになっていた監獄法が遂に口語体に改正されるのは、やや惜しい気もする。特に最近、「痴呆症」「オレオレ詐欺」等の言葉が価値中立的な、無味乾燥な行政用語に言い換えられていく傾向がある中で、「監獄」という、ある意味時代離れした、しかしまた味のある言葉が法改正で消えていくのかと思うと、残念だ。ちなみに、法律を学んだことがある人の間では密かに知られていることだが、本法第10条には、「本法ハ陸海軍ニ属スル監獄ニ之ヲ適用セス」なる規定が戦後も改正されないまま残っているが、これも新法では削除されてしまうのであろう。


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