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第3編 第9条解釈と日米安保体制
ところで、我が国の安全保障のもう一つの根幹である日米安保体制も又、 日本国憲法 の平和主義の原理との関係において問題を抱えている(※注1)とされる。
■第1章 日米安保体制の内容
日米安保体制は、1952年のサンフランシスコ平和条約(「日本国との平和条約」、昭和27年条約第5号)と同時に締結された片務的な旧日米安保条約(「日本国とアメリカ合衆国との安全保障条約」、昭和27年条約第6号)にはじまり、更に双務性を増した1960年の新安保条約(「 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 」、昭和35年条約第6号)に改訂され、単に軍事分野に止まらない同盟性が折り込まれた。
新(現)条約の主要な内容としては、第一に、 第1条 で「国際連合憲章に定めるところに従い〜」と謳うように、この条約が国連憲章第51条で認められた集団的自衛権(Collective Self-Defence)を基礎におくものであることを宣言していることが挙げられる(旧条約も又同じ)(※注2)。第二に、 第5条 (共同防衛)で、日本国の施政の下にある一方の締約国に対する武力攻撃に共同して対処することを規定している(※注3)。これは、アメリカに日本防衛の義務が無かった旧条約とは大きく異なる点である。第三に、 第6条 は、アメリカは、日本国により日本国内で施設及び区域の使用を許与されるべきことを規定している(※注4)。なお、この施設及び区域は、①日米の共同防衛行動のための他に、②極東における国際の平和と安定の維持のために使用される( 安保条約 第6条①)。※注釈・参考文献
1:芦部信喜 『憲法』新版 岩波書店、1997年 66ページ
2:小田 滋、石本泰雄編集 『解説 条約集』第4版 有斐閣、1989年 498ページ
3:第5条(共同防衛)前段「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」なお、後段には、防衛行動発動後ただちに国連安保理に報告し、共同防衛行動は、国連の平和回復措置後は終止されるべきことを規定している。
4:これに基づいて、日米地位協定(「 日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約第6条 に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」、昭和35年条約第7号)が締結されている。■第2章 日米安保体制の問題点
このような新安保条約には、(通説の立場では)問題点が少なくない(※注1)とされる。
●第1節 集団的自衛権の問題
例えば、 第5条 の共同防衛行動は、日本国内の米軍基地に対する攻撃でも発動されるが、これにつき政府は、その様な攻撃は日本領土の侵犯=日本への攻撃に他ならないから、共同防衛行動は個別的自衛権の行使であるとする。しかし、在日米軍基地への攻撃がそのまま我が国の自衛権発動の三要件(必要性、違法性、均衡性)を満たすかどうかは疑問で、決定権もアメリカ側にあるという(※注1)。●第2節 「極東」の範囲の問題
また、(1)米軍の行動範囲である「極東」の範囲が不明確であり、しかも(2)国連憲章第51条の自衛権の発動に、先制自衛権(※注2)も含まれるのかについて両国の解釈の隔たりがあることから、我が国が意図しない紛争に巻き込まれる恐れがある、とされる(※注3)。
もっとも、この「巻きこまれ論」は、国際政治学上は必ずしも正しくない。軍事同盟の功罪については、J・S・レヴィらが同盟形成と戦争に関する実証研究を行い、その結果、同盟形成と戦争に関するいかなる因果関係も検証されるに至っていない(※注4)。つまり、「軍事同盟は戦争を招く」という議論は、国際政治学上は説得力を持たないのである。
なお、「極東の範囲」の問題について政府は、1960年の統一見解では「フィリピン以北並びに日本とその周辺地域で、朝鮮、台湾地域を含む」としている(※注5)。
新条約の条約区域は、「日本国の施政の下にある領域」と明確に定められている。他方同条約は、「極東における国際の平和及び安全」ということもいっている。
一般的な用語としてつかわれる「極東」は、別に地理学上正確に確定されたものではない。しかし、日米両国が、条約にいうとおり共通の関心をもっているのは、極東における国際の平和及び安全の維持ということである。その意味で実際問題として両国共通の関心の的となる極東の区域は、この条約に関する限り、在日米軍が日本の施設及び区域を使用して武力攻撃に対する防衛に寄与しうる区域である。かかる区域は、大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている。(「中華民国の支配下にある地域」は「台湾地域」と読替えている。)
新条約の基本的な考え方は、右のとおりであるが、この区域に対して武力攻撃が行われ、あるいは、この区域の安全が周辺地域に起こった事情のため脅威されるような場合、米国がこれに対処するために執ることのある行動の範囲は、その攻撃又は脅威の性質いかんにかかるのであって、必ずしも前記の区域に局限されるわけではない。
しかしながら米国の行動には、基本的な制約がある。すなわち米国の行動は常に国際連合憲章の認める個別的又は集団的自衛権の行使として、侵略に抵抗するためにのみ執られることになっているからである。またかかる米国の行動が戦闘行為を伴うときは、そのための日本の施設の使用には、当然に日本政府との事前協議が必要となっている。そして、この点については、アイゼンハウァー大統領が岸総理大臣に対し、米国は事前協議に際し表明された日本国政府の意思に反して行動する意図のないことを保証しているのである。その後、ニクソン・ショック(米中国交正常化)、日中国交正常化によって我が国と中華人民共和国(及び中華民国=台湾)との関係も変化したが(日中国交正常化、日台断交)、政府は依然として「極東」の範囲に台湾が含まれるとの見解を維持している。
(1)大平外務大臣答弁(昭和47年11月8日衆議院予算委員会)
「我が国は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するとの立場をとっております。したがって、中華人民共和国政府と台湾の間の対立の問題は、基本的には、中国の国内問題であると考えます。我が国としては、この問題が当事者間で平和的に解決されることを希望するものであり、かつ、この問題が武力紛争に発展する現実の可能性はないと考えております。
なお、安保条約の運用につきましては、我が国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて慎重に配慮する所存でございます。」
(2)園田外務大臣答弁(昭和53年12月20日衆議院外交委員会)
「安保条約の6条の中の解釈で、極東の範囲に台湾が入っておったわけでありますが、その必要はなくなったではないか、こういうことは私も認めるつもりであります。しかし、このことについては米国と日本と話し合って、向こうの意向も聞き、こちらの意向も述べて処置すべき問題であると考えております。」
(3)園田外務大臣答弁(昭和54年2月5日衆議院予算委員会)
「私の答弁の中で米中正常化、日中友好条約ということによって、極東の範囲に台湾が入らなくなったという答弁はしてございません。私が答弁しましたことは、このことによって台湾地域に武力紛争の起こる可能性はほとんどなくなった、したがって台湾地域をどうするかということは、台湾を中心にして米中が話し合いを進めておるから、両方の意見も聞いてみなければならぬし、ここ1年間は無条件につづくわけではありますが、そのことについても米国とよく相談をしなければならぬ、こういう意味のことを答えているわけであります。
(中略)
この台湾領域についての私の見解を申し上げると、第一に、日中国交正常化、米中正常化が安保条約にかかわりなく達成されたと同様に、これによって直ちに台湾と極東の範囲の問題が生じるとは考えておりません。第二に、台湾をめぐる国際情勢の変化及び今般の米中正常化により、台湾に対する武力攻撃の可能性はなくなったとは観測しておりません。ほとんどなくなった、こう考えております。もっとも、湾岸戦争以後、在日米軍の中東出動が恒常化した結果、96年の日米安保共同宣言で「アジア太平洋地域」といった新たな概念が登場し、99年の我が国「 周辺事態安全確保法 」でも、「周辺事態」( 周辺事態法第1条 )なる概念(地理的概念ではない)が登場した。
●第3節 駐留米軍そのものの合憲性の問題
更に、駐留軍の合憲性についても問題が残る、とされる(※注5)。(それが問題となった「砂川事件」については後述する。)※注釈・参考文献
1:芦部前掲書、67ページ。
もっとも、何故芦部前掲書が「決定権はアメリカ側にある」としているのかは不明だが(法的根拠は無い)。
2:現在では、自衛権の発動には、少なくとも「相手国の武力攻撃の着手」が必要である、とされている。
3:芦部前掲書、67ページ。
4:防衛大学安全保障学研究会編 『安全保障学入門』 亜紀書房、1998年 28ページ
5:昭和35年2月26日衆議院安全保障特別委員会政府統一見解
6:芦部前掲書、68ページ
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