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 健章時報 1999年2月 

中村法相、現行憲法の在り方を批判
 (1月7日)

 報道によると、中村正三郎法務大臣(小渕内閣)は、4日の法務省の賀詞交換会の席上あいさつし、「国の交戦権は認めない、自衛もできない、軍隊ももてないような憲法を連合軍に作らされ、それが改正できないでいる中で、もがいているという大変な時代に我々は生きている」と述べ、現行憲法の平和主義の在り方を批判したという。なお、中村法相はその後、5日の閣僚懇談会で「表現に適切を欠いたとすればおわび申し上げ、取り消したい」「国際的な平和活動にどうかかわるべきかという議論があり、現行憲法ではそういう活動がおのずと制限される、ということを言いたかった。憲法改正に真意があったわけではない」として、発言を取り消し陳謝した。しかし、社会民主党の渕上貞夫幹事長は「現職法相としての資格と見識を欠くもの」として辞任を要求していく、としている。
 最近、憲法解釈の変更や国連軍への参加を認める自由党の登場や、ガイドライン関連法案でも法案自体には反対しないとしている民主党や公明党など、国家の安全保障政策については、現行憲法の枠内という制限つきながら、現実的な国防政策が政局でも語られはじめている。これは、湾岸戦争を端緒とする、我が国の安全保障政策を根本から揺るがすような一連の事件の発生(北朝鮮潜水艦座礁事件、テポドン・ミサイル事件、イラク危機等)に加えて、阪神大震災や地下鉄サリン事件、ペルー日本大使公邸占拠事件など、平和ボケした我が国の危機管理体制を厳しく問い直す事件が多発し、国民がようやく50年の「太平の眠り」から醒めはじめたことの証とも言えるのではないだろうか。現に、中村法相の、東西冷戦時代ならば「大胆」とも言える発言に対しても、主要野党は、今(7日)でこそ公明党や民主党も責任追及のかまえを見せているものの、発言当初は「成りゆきを見守る」(冬柴公明党幹事長)としており、即座に辞任要求をつきつけたのは、55年体制を今に引きずる社民党だけであった(共産党は次の日に罷免要求を発表)。なお、現職の国務大臣が改憲について発言するのは憲法上全く問題は無く(憲法は、それを作成したのが完全ならざる人間であることをよく自覚しており、それ故に改正手続きを規定しているのであって、現行憲法が時代にそぐわないものになった時問題提起をし、その改正を国会に提案するのは、<内閣では>まさに法務大臣の仕事である。その意味で、中村法相の今回の発言は、問責どころかむしろその職務を忠実に果たしている立派な行為であるということが出来よう。)
 今回の中村法相の発言の内容は、正しく21世紀の我が国にとって最大の課題となるべき正論であり、憲法調査常任委員会の設置とあわせて、今後の議論の高まりが期待されよう。

自自両党、政策合意
 (1月9日)

 報道によると、連立政権づくりに向けて政策協議を続けていた自由民主党と自由党は、政府委員制度廃止・副大臣制度導入や安全保障の基本原則、衆議院比例区の50議席削減等で合意した、という。 
 ところで、そもそもこの自自連立協議は、昨年10月ごろから報道されるようになり、両党トップの会談等を経て急激に進展した観があるが、最近、その理由として、実は「第2次朝鮮戦争の危機」があるのではないか、と思いあたった。つまり、昨年8月の北朝鮮テポドン弾道ミサイル発射実験と米朝ミサイル協議の悪化で、その後10月のクリントン大統領の日本訪問の際、アメリカ政府から自民党へ「何としてでもガイドライン関連法案を成立させなくてはならない」、あるいは「政権を安定させなくてはならない」ような、朝鮮戦争再開(現在は、休戦状態に過ぎない)に関する非常に切迫した情報が届けられ、その情報が、「小沢嫌い」で知られる野中広務官房長官をして自自連立に走らせた大きな理由だったのではないか、ということである(おそらく旧社民党系議員を抱え、菅直人代表が率いる民主党では、情報漏洩等の可能性があって信頼できなかったのだろう)。米英軍のイラク爆撃作戦「砂漠の狐」作戦への迅速な支持表明、防衛出動の可否を巡って防衛情報を分析する「
防衛重要事態対処会議」の設置など、最近の、防衛体制をマトモなものとするための一連の急な施策も、この推測を裏付けている。
 無論、この説は私の単なる憶測であって、朝鮮半島に関する米朝協議の行方に悲観的過ぎる、報道に躍らされた見方ということも出来るのかもしれない。これが事実ならば、我が国は深刻な危険に晒される事態になる可能性が高く、予測が外れることを願わずにはいられないが、常々、報道されている「野中官房長官が連立に動いたのは、臨時国会で部分連合の限界を感じたからだ」という理由は、連立政権樹立の理由としてはあまりにも安易な気がしていただけに、妙に納得もしてしまう。

自自連立内閣、誕生
 (1月14日)

 14日、昨年から協議を続けていた自由民主党・自由党の連立内閣が、遂に発足した。自由党からは、野田 毅前幹事長が自治大臣・国家公安委員長として入閣したが、小沢一郎自由党党首は入閣しなかった。また、閣僚数の削減に伴って、3閣僚が退任した。我が国の経済が不調に陥ってから既に8年以上が経過し、報道で「経済国難」が叫ばれて久しいが、最近の我が国は、それに加えて「朝鮮半島情勢」という「外交国難」にもみまわれている。この、21世紀の我が国のあり方に根本的な思索が求めれられている状況にあって、政治理念的にしっかりとした政党同士が連携し、安定した政治を実現しようとする今回の連立政権の誕生は喜ばしい限りであり、歓迎すべきことであろう。
 ところで、今回の連立政権の誕生について、民主党や公明党など野党各党は一様に「数あわせの野合」であるとか「自民党政治を補強するだけだ」との批判を浴びせているが、全く見当はずれの批判であるというべきであろう。特に、保守系議員・旧民社党系議員と旧社民党系議員との間で安全保障政策や憲法議論を巡る対立が続き、党としての統一した政策すら打ち出せていない「野党版『自社さ連立』」状態の民主党に、細部まで政策一致にこだわった今回の連立政権を批判する資格は無い。その意味では、自自連立与党よりも、それを批判する当の民主党のほうが、「数あわせの野合」たる性格を遥かに強く有しているのである。

米軍機事故で外務省が抗議
 
(1月22日)
 報道によると、20日、高知県夜須町の沖合約16キロの土佐湾海上に、アメリカ海兵隊岩国航空基地所属のF/A-18ホーネット戦闘攻撃機が墜落した(パイロットは無事脱出)。また、翌21日、今度はアメリカ空軍三沢基地(青森県三沢市)所属のF-16ファルコン戦闘機が岩手県釜石市橋野町の山中に墜落、炎上する事故が発生。乗員が脱出する騒ぎとなった。
 ところで、この2つの事故に関して外務省は22日、在日米軍に対して抗議を行ったが、果たしてこうした外務省の対応は正しかったのだろうか。
 言うまでも無いことだが、今回の2つの事件はあくまで「事故」であり、アメリカ軍当局にとっても不幸な出来事であった。如何に世界最強のアメリカ軍とはいえ、何も好きこのんで事故を起こしているわけではなく、また高価な戦闘機や大事な操縦士をむざむざ失う危険に晒すほど愚かでもない。にも関わらず、今回起きてしまった意図せざる事故に対して、我が国外務省が同盟相手国を非難するかの如き対応をとるのは、見当違いと言わざるを得ない(せいぜい、再発防止の要請に留めておくべきである)。これは、2日後に米軍側から飛行再開(それまでは自粛)の要請を受けた三沢市についても同様で、市に指摘されるまでもなく、米軍自身が危険だと考えていれば飛行再開などしないのである。

野中官房長官、「武器弾薬輸送」に慎重発言
 
(1月26日)
 野中広務官房長官は25日午後の定例記者会見で、国連決議に基づく多国籍軍に対する後方支援・武器弾薬輸送に関して、「武力行使と一体化しない限り、武器弾薬輸送も認められる」「一体化の判断は、政府が行う」としていた従来の政府方針を批判し、「戦闘地域と一線を画した後方地域の線引きが難しい」「
ケース・バイ・ケースで判断がゆだねられることに問題がある」「後方地域に直接攻撃されたら、戦闘行為そのものであり、それを避けることは出来ない」として、武器弾薬輸送に反対する考えを示した。
 これに関して政府は、翌日、統一見解として「原則として武器弾薬輸送は可能だが、その判断は慎重に下す」とする判断を決定した。
 しかし、こうした政府及び官房長官の発言に対しては、不信感を抱かざるを得ない。
 そもそも、我が国が国連決議に基づく多国籍軍に対して何等かの協力(医療や機雷撤去等の後方支援を含む)をすることは、法的には多国籍軍と共に武力行使に参加したのと同じなのであって、しかし政府・自民党は、我が国の国際的な安全保障協力のために、そこまで踏み込むことを既に決断したはずである(武力行使と一体化云々の議論はあくまで国内向けの議論であって、武器弾薬でなくとも、兵站物資でも燃料でも次元は同じである)。にも関わらず、一旦はそうした決定に参加していた野中官房長官が、後になって「武器弾薬輸送に反対」を言い出し、あたかも武器弾薬輸送とそれ以外の輸送に本質的な差異があるかのように振舞って、ようやく実現しそうになってきている我が国の安全保障上の国際協力体制に無意味な制約を課そうとするのは、事実上、こうした国際協力を足止めすることになりかねない。
 野中官房長官に対しては、かねてから日朝国交正常化交渉その他の対北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)政策に関して、北朝鮮の脅威に対する認識の甘さが批判されていたが、今回の一連の発言で、野中氏の外交・安全保障の認識に対する不信感は一層強まったと言わざるを得ないだろう。もっとも、今回の発言は、そうした野中氏の北朝鮮に対する認識の他に、かねてから国連軍や多国籍軍への協力を提唱していた自由党や、自由党との連携を模索している自由民主党反主流派に対する牽制の意味もあったのではないだろうか。

菅民主党代表、「有事法制」整備に理解
 (1月31日)

 報道によると、民主党の菅直人代表は30日、講演の中で「日本自身が他国から何等かの攻撃を受けた場合、専守防衛の備えはきちんとしなければならない」と述べて、我が国有事の際の特別の立法措置、所謂「有事法制」の整備について一定の理解を示した。
 昨今のガイドライン(日米防衛協力の指針)関連法案の議論において、我が国が対外的にはどこまでの協力が可能なのか、についての論争が盛んに行われているが、我が国有事の際の有事法制が全く整備されていない現状を鑑みれば、本来は我が国有事のための有事法制から先に議論されるべきであって(現在念頭に置かれている朝鮮半島有事は、自動的に我が国有事の事態を惹起する可能性が高い)、自国防衛の法制が整わないまま国際協力や日米協力・周辺事態に関する協力を考えるのは、本末転倒であると言わざるを得ない。幸い、今回の報道によれば、野党第一党の民主党も専守防衛のための有事法制整備については前向きであり、国民世論も冷戦時代と比較して必ずしも反対ではないので、ガイドライン関連法案の審議が終了した時点で速やかに、我が国有事のための有事法制に関する立法措置を講ずるべきである。


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