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  健章時報 1999年4月  


対人地雷全面禁止条約、発効

 (3月1日)

 1997年12月にオタワ(カナダ)で調印された対人地雷全面禁止条約(
「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」、平成10年条約第15号)が、条約第17条第2項の規定により我が国において効力を発生した(平成11年外務省告示499号)。なお、我が国は、既に昨年9月30日に国際連合事務総長に対して受諾書を供託しており、また国内法「対人地雷の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」(平成10年法律第116号)は既に制定されている。
 昨今の国会論議で、朝鮮半島有事を具体的に想定した「周辺事態法」等のガイドライン関連法案が野党も参加して真剣に審議されている中で、ガイドラインと比較して我が国の防衛により直接的な影響を与えるこの条約に、何故もっと真剣な議論をしようとする政党・議員が(ほとんど)いないのだろうか。平和主義を掲げる革新政党はともかく、現実的な安全保障政策をとることが出来るはずの自由民主党や自由党の中で、何故この条約に対する異論が殆ど聞かれなかったのだろうか。民放、新聞は勿論、一応良心的な報道で知られるNHKですらその是非について何等言及しようとしないという本末転倒の我が国の現状を思う時、我が国における安全保障意識の不十分さを改めて痛感させられる。

安田弁護士の刑事裁判に弁護人767人
 (3月3日)

 報道によると、オウム真理教開祖・松本智津夫被告の主任弁護人であり、強制執行妨害の嫌疑で逮捕された安田好弘弁護士の刑事裁判に、767人もの弁護士が弁護人を名乗り出ているという(但し、実際に法廷で弁護活動を行っているのは10人程度)。
これは、この事件の当初から、警察・検察側の逮捕・起訴を「不当・冤罪」であるとする弁護士らが「支援する会」を結成する等として活動しているためで、当事者側は冤罪事件であることを社会・裁判所にアピールしたいとしている。ちなみに、東京都にある3つの弁護士会(東京、第一東京、第ニ東京弁護士会)の所属弁護士数は7700人程度である。
 昨今、司法制度改革が叫ばれ、弁護士に対する信頼が揺らいでいる中で、今回の事件の経過は、安田弁護士が松本裁判の主任弁護人であったことも併せて、国民の弁護士に対する意識に重大な影響を及ぼすものである。無論、今回の事件で弁護に馳せ参じている弁護士達は安田弁護士(被告人)の無罪を信じて参集しているのであろうし、また仮に安田弁護士に対する嫌疑が不当なものであれば、検察当局の公訴権濫用であって問題であろう(もっとも、一般に、我が国の裁判における有罪率は99%以上であり、検察官は、ほぼ確実に有罪となる場合でなければ起訴しないという特徴がある)。
 しかしながら、もし仮に安田被告人の有罪が確定したとすれば、それがもたらす弁護士業への影響も又大きいといわざるを得ない。無論、その場合でも弁護側は「有罪判決は裁判所の不当な判決である」と主張するのであろうが、しかし一般国民の目からすれば、安田被告人に対する大弁護団の形成とその敗北は「有罪の人間を(態々大弁護団を組織してまで)無罪に仕立て上げようとした」と映り、弁護士同志の身勝手ひいきと弁護士に対する一層の不信感を醸成してしまう恐れは大きいのである。

政府、夏時間導入を提言
 (3月4日)

 報道によると、政府の「地球環境と夏時間を考える国民会議」のまとめる最終報告書の内容が3日明らかになったという。夏時間(サマータイム。日照時間の変化に応じて、時刻を1時間ずらす制度)の導入については、既に超党派の参議院議員でつくる議員連盟が法案提出を予定しているが、政府が導入を決定したことによって、2001年からの導入がほぼ確実となった。
 しかし、果たしてこの「夏時間」なる制度は、我が国に定着するのであろうか。
 政府は、夏時間の導入によって、原油換算で年間50万キロリットルの省エネと約6100億円の国内総生産増加が見こまれ、余暇時間も増えるとしている。確かに、夜間照明の減少等でこうした省エネ効果が発揮されることはあるのだろうが、しかし、時間を人為的に1時間ずらしたからといってそもそも生活様式が変化しない限り余暇が増えるとは思われないし、また年2回の時計の変更も面倒である。特に、最近では生活に欠かせないものとなった各種コンピューターに内臓されている電子時計の変更は容易ではなく、トラブルの原因ともなりかねない。また夏時間を拒否する国民が多数に上れば、大きな混乱も予想される。
 この問題についてはまだ報道ではそれほど大きく取り上げられておらず、世論の関心度も低いが、今後、そうした夏時間制度の欠点について周知徹底がなされた上で、国民的な議論が必要となるであろう。

バンクーバー総領事に帰国命令
 (3月5日)

 報道によると、外務省は4日、先月16日妻を殴った等として現地警察に逮捕されたカナダ・バンクーバー駐在の下荒地修二・総領事に対して、帰国命令を発したという。今回の事件は、16日未明、妻を口論の末殴った総領事が、家庭内暴力(所謂ドメスティック・バイオレンス)をも介入・起訴の対象とする現地法に基づいて逮捕され、更に逮捕後同地のマスコミに対して「文化の相違」「大したことではない」と語った等と報じられたもので、外務省当局は「結果的に日本人は妻を殴るというイメージを植え付けてしまった」として帰国命令を出したという。
 しかし、この外務省の対応は、妥当なものとは言い難い面がある。
 そもそも、今回のこの事件は、現地マスコミによって拡大され扇動されたという側面が強い。現に、外務省の調査に対して総領事自身も「夫婦間の問題だとは言ったが文化の相違だとは言っていない」と証言しており、「日本人は妻を殴る」というイメージが生まれた責任は、むしろ現地マスコミにあるということが出来るのである。加えて、今回の殴打は夫婦喧嘩の末の出来事であり、かつ被疑者も総領事という逃げも隠れも出来ない要職にあるのであるから、態々身柄を拘束して取調べる意義も見出し難い。
 無論、今回のこの事件が大々的に報道されてしまったために、総領事が同地で職務を継続するのは事実上困難だったであろう。しかし、今回の帰国命令は、総領事の立場を理解しての命令というよりは懲罰的な意味合いが強く、その意味で、処分が重すぎるきらいがあることは否定出来ないのである。

中村法務大臣、辞任
 
(3月8日)
 中村正三郎法務大臣は、8日、野党側の辞職要求を受けて、自ら辞任した。報道によれば、この辞任は、公明党が法相辞任要求に転じ、景気回復のための平成11年度予算の国会審議と迅速な成立に支障を来す恐れが出たためだという。
 しかし、今回の法相の辞任劇は、何とも不可解なものである。
 野党側が指摘する「疑惑」は主に5点(「検事総長指揮」発言、全額出資する会社が国を提訴、石垣島での競合ホテルの捜査指示疑惑、「憲法改正」発言、シュワルツェネッガー問題)だが、見方によっては全ての点で「問題ではない」と考えることも出来る。そもそも全額出資会社の問題と石垣島問題は真相が不明である上違法な行為が行われた訳ではなく、「検察官の独立を侵害するもの」として批判された検事総長指揮発言も、検察官が独立した官庁であると同時に行政府として一体性を有すべき行政官である以上、更迭されるほど不当なものではない。シュワルツェネッガー問題も、我が国の法制度に対する信頼を根底から揺るがすほどの一大不祥事ではないし、ましてや憲法改正発言は、むしろ時宜に適った誠に正当なものであって(憲法改正を発言することは公務員の憲法遵守義務と反しないばかりか、むしろ法務大臣は改正問題の担当者ですらある)、「憲法調査会」に賛成し改憲論義をタブー視しないことを表明してきたはずの民主党がこの発言を問題とするのは、明かに矛盾である。その点、当初罷免要求を出していなかった公明党が突如野党共闘にまわったのも、納得がゆかない。
 一部の報道によれば、今回の辞任劇の背景には、大胆な司法改革を実施して法曹界の刷新をはかろうとした法相と、それに反発した検察等の法務官僚の対立があったとされている。これが事実とすれば、改革に反発した法曹界の一般国民からの遊離は避け難いものといえるだろう。

所沢高校で今年も「分裂」卒業式
 (3月8日)

 日の丸・君が代問題をめぐって校長側と生徒会・一部父母教師が対立している埼玉県立所沢高等学校で8日、昨年度と同じく校長主催の卒業式と生徒会主催の卒業記念祭が分裂して行われた。正式な卒業式には卒業生406人のうち128人が出席し、生徒会行事の卒業記念祭にはほぼ全員と校長自身が参加した。
 一連の所沢高校の問題については、既に文部省・埼玉県教育委員会側の見解の中で示されているように、学習指導要領に基づいて行われる卒業式は学校側が主催する正規の学校行事であり、「生徒会主催の行事を別途行うことは問題ではないものの、生徒会行事のほうを正式な卒業式とすることは到底出来ない」というのが校長側の立場であり、そしてこの立場は極めて妥当なものである。
 生徒会の自主性は尊重すべきであって、何も卒業記念祭それ自体を廃止させる必要は無いが、しかしまた生徒会側は同時に「けじめ」というものをきちんとつけて行動すべきであろう。

東欧三国、NATO加盟
 (3月12日)

 東欧のチェコ、ポーランド、ハンガリー三国が、12日、北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。
 北米・西欧諸国の対共産圏軍事同盟として出発したNATOが、かつて敵対していた東欧三国を迎え入れたことで、冷戦後の新たな欧州安全保障の枠組みがまた一歩前進したといえよう。特に、これらの三国が、「プラハの春」、「ポーランド分割」、「ハンガリー動乱」等大国ことに旧ソ連の意向に翻弄され、自国の独立を侵されてきた歴史を思えば、今回の加盟は誠に感慨深いものがある。

IOC、6委員の追放提案
 
(3月16日)
 報道によると、オリンピック招致活動に関わる疑惑でIOC(国際オリンピック委員会)総会は、特に悪質な利益提供を求めたとされる6委員の追放を提案したという。
 もっとも、今回の一連の「オリンピック疑惑」については、個人的には何等感想を述べることは無い。五輪大会は所詮スポーツ行事であり、招致活動までもが全くクリーンであるとは到底思えなかったし、また全くクリーンである必要も無いからである。第一、既に現職のサマランチ会長が「五輪の商業化」を推進して以来、この一大イベントには金が付きまとうようになっているのであり、むしろ、ヘンに五輪大会を神聖視するほうがおかしなことなのである。

不審船に対して海上警備行動発令
 (3月24日)

 報道によると、23日、佐渡沖の日本海で「第二大和丸」「第一大西丸」と書かれた不審船が発見され、海上保安庁の巡視船艇数隻が追跡、停船命令を発した後威嚇射撃を行った。しかし、不審船2隻の速度が速く巡視船艇では追跡不可能となったため、政府は24日、持ち回り閣議を開き、海上自衛隊に対して、自衛隊法第82条に基づく海上警備行動を発令。自衛艦による追跡に切りかえられた。その後、護衛艦からも警告射撃(対潜哨戒機P-3Cからは警告爆雷投下)がなされたが、24日になって不審船2隻が我が国が設定する防空識別圏(ADIZ)の外に出たため追跡を断念したという。
 今回の追跡劇は、我が国領海において「主権を守る」という断固たる意思を内外に表明したものであり、かつ、政府の対応も非常に迅速で、特に戦後初の海上警備行動発令に躊躇し無駄な時間を使わなかったことは、政府の危機管理能力改善の第一歩として大いに評価できる(もっとも、海上警備行動が発動された場合における自衛隊の武器使用権限は、外国軍艦に対しては適用されないので、仮に北朝鮮が、今回の2隻の不審船を「北朝鮮軍艦である」と主張してきた場合は、法的には海上自衛隊といえども全く手出しができなくなることに注意する必要がある)。
 なお、今回の事件に対しては、「威嚇射撃はガイドライン法案に関連した過剰反応である」だとか「海上自衛隊の出動はいただけない」、はては「今回の事件は自作自演だった」等といった批判が聞かれるが、全く不当といわなければなるまい。そもそも、今回の不審船が北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)の工作船であったにせよなかったにせよ(政府は、その後この2隻が北朝鮮の軍港に入港したことから、北朝鮮工作船との判断を下している)、海上保安庁・海上自衛隊がこれらの船を「領海侵犯」として対処するのは(射撃も含め)当然であり、かつ、海上保安庁の能力を上回る事案での海上自衛隊の出動と海上警備行動の発令は、単に官庁間協力で自衛隊艦船を借用するわけにはゆかない(大砲やミサイルを搭載しているため、護衛艦は一見警察行動が取れそうに見えるが、実際には防衛出動その他の命令がなければ警察官職務執行法等武器使用権限は与えられず、護衛艦は青函連絡船も同然である)以上、極めて妥当かつ抑制の効いたものであった。換言すれば、日米安保条約があろうとなかろうと、こうした事態に対する法整備は欠かせないのであって、一部で効かれる「ガイドライン関連法案のためのパフォーマンス」という意見には到底賛同し難いのである。また、「何故今回突然に(厳しい反応をしたのか)?」といった批判も聞かれるが、今回の事件が際立って見えるのは、戦後半世紀の間政府が野党(特に社会党)や報道機関の反応を考慮して断固たる措置をとらなかったからであり、その意味では今までのあり方のほうが「異常事態」だったのである。
 なお、この問題については、本誌
1999年5月号 沿岸警備体制の強化を望む 」を参照して頂きたい。

NATO軍、ユーゴスラビア空爆
 
(3月25日)
 報道によると。コソボ自治州のアルバニア系住民を巡る問題で対立が続いていたユーゴスラビアで25日、あくまで治安部隊の撤退を要求するNATO側が巡航ミサイル、空軍機による空爆を開始したという。
 今回のユーゴ紛争では、ユーゴ側(ミロシェビッチ政権)がアルバニア系住民を「虐殺している」とする点で国際法的にも違法であるし、また国連決議に基づかない軍事行動という意味ではNATO側の立場も違法の疑いが強い。その意味で、我が国はこの紛争に対して現時点で積極的にNATO側に参加することは避けるべきであるが、日米同盟という外交の基本方針上、アメリカ・NATO側を支持することになるだろう。そして、それで特に問題は無いのではないだろうか。

野中官房長官、「領海警備は現行法の枠内で」と発言
 
(3月31日)
 報道によると、31日、野中官房長官は、国会の代表質問に答える形、で先の不審船問題に関連した領海警備の法的整備の問題について、「第一義的には海上保安庁、警察に対応させる」「現行法の枠内で対する」等と答弁し、領海警備のための法整備に否定的な考えを示したという。また野中長官は別の会見で、今回の事件に「悪のり」するかたちでの法整備は行わない等と発言しているが、理解に苦しむ発言であると言わなければなるまい。
 今回の不審船事件で、我が国の沿岸警備体制についてあれだけ問題点が明確になったにも関わらず、我が国政府を代表して発言する閣僚が「現在のままでよい」等と発言するのは、即ち我が国としては今後とも穴開きだらけの沿岸警備体制で構わない、他国の軍艦が我が国領海を侵犯しても撃沈等の強行手段はとらないと内外に宣言するに等しく、如何に野中発言が後半国会のガイドライン関連法案審議を見越した「国対発言」であったとしても、政治的に容認可能な範囲を超えている。ましてや、沿岸警備のための法制度整備を「悪のり」等と表現するのは、国民の生命を預かる政府高官の発言としては誠に不適切といわざるを得ないのではないだろうか。


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