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健章時報 1999年10月
■東チモール住民投票、独立を支持(9月4日)
報道によると、インドネシアからの分離・独立の是非を問う住民投票が行われた東チモールで、開票作業の結果、残留と特別自治選択が全体の21.5%、分離・独立選択が全体の78.5%を占め、分離・独立が圧倒的多数で支持されたという。当初、独立派・残留派双方の民兵の襲撃を恐れて投票率が低下するのではないかとの危惧もあったが、最終的に東チモールでの投票率は98.6%と高率であった。今後、インドネシアの国権最高機関「国民協議会」の正式決定を待って分離・独立が正式に決定する。
東チモールは人口約90万人(避難者等で正確な数は不明。旧宗主国ポルトガルの影響で9割がキリスト教カトリックの信徒)、面積1万4000平方キロメートル(我が国は38万平方キロメートル。長野県程度)でチモール島東部及び北部の一部(飛び地)を占めており、産業は第1次産業中心である。1974年に旧宗主国ポルトガルが主権を放棄して以来、75年には一度独立宣言をしたが、76年にはインドネシアの支援を受けた併合派によって独立派が一掃され、76年にはインドネシアに併合された。以来、スハルト政権の下で領有が継続されていたが、98年のスハルト大統領退陣・ハビビ政権誕生後独立の機運が高まり、99年5月には住民投票合意が成立。8月30日、実際の直接投票が行われた。
我が国としては、東チモール問題に関心を払いつつも、同地とインドネシア全体との戦略的重要性から考えて、これを日本・インドネシア関係の強化という観点から対処すべきであろう。なお、住民投票後の混乱に対処するために、政府が海上保安庁のヘリコプター2機搭載型巡視船「みずほ」を派遣していたことが明かとなったが、邦人保護のための適切な判断であった(恐らく、「自社さ」連立政権時代の橋本龍太郎首相には到底決定できなかったことであろう)。■東チモール国際軍、ディリに到着(9月20日)
報道によると、住民投票後もインドネシア残留派の武装勢力の活動によって治安情勢が悪化していた東ティモールに20日、国連安全保障理事会の決議に基づく多国籍軍(東チモール国際軍、INTERFET)の第1陣2500名が到着したという。国際軍は国連憲章第7章に基づく武力行使権限が与えられており、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、イギリス、アメリカ、東南アジア諸国等から部隊が派遣されている。
ところで、東チモールへの多国籍軍派遣に関連して我が国の対応が注目されているが、結局政府は、多国籍軍に派兵する東南アジア諸国を資金的に援助するというかたちで協力するに留め、自衛隊部隊・艦船の派遣は見送った。元々、PKO協力法は、例え自自公三党協議でPKF(平和維持軍)任務が解禁されたとしても「派遣5原則」に拘束されるため、INTERFETやIFOR(ボスニア平和実行軍)のような武力行使を伴う場合には対応できない。自民党・民主党ともに党首選挙の真っ最中であり、新たな政治的問題を持ち出すことへの警戒感も働いたのか、結局人的貢献は文民分野に限定される模様である。
無論、こうした政府の対応については、批判もなされるべきである。冷戦後の国際情勢を見るにつけ、地域紛争に対する武力を伴う対応の重要性がますます増大しているのは明らかな事実であり、国連平和維持軍では対応できないケースが後を絶たないが、そんな中で我が国のみが、一人「派遣5原則」によって活躍の範囲を大幅に限定されている。これは、我が国外交にとって大きな損失であり、一日も早い法改正と部隊整備を望みたいところである。
但し、今回の東チモール問題に関しては、多国籍軍不参加についての批判は必ずしも妥当ではない。というのも、我が国の国益を考慮した場合、東チモール地域それ自体は戦略的に特に重要ではなく、下手に介入して損害を出すよりは、オーストラリア以下の多国籍軍に任せたほうが遥かに効率的だからである(もっとも、オブザーバー的に部隊を少数参加させることやPKFへの参加は依然として必要だが)。実は、政府・外交当局はむしろ、東チモール問題に介入しないことによって、インドネシア本国政府から支持を受けることを狙っているのではないだろうか。現に、先日のインドネシア総選挙で勝利したメガワティ党首の闘争民主党は、東チモール分離独立に消極的な姿勢をとっているといわれ、我が国が過度に東チモール問題に介入することは、こうしたインドネシア国内勢力の不用意な反発を招くであろう。現に、一部欧米諸国は、多国籍軍受け入れ圧力のためにODA(政府開発援助)や武器援助の一時凍結を発表したが、我が国だけは、引き続き平常通りのODA供与を行っていた。そう考えれば、東チモールは国際軍に任せ、我が国はインドネシア本国政府との友好関係を最優先するという我が国外交の方針は、極めて適切であるということが出来よう。■自民党総裁選で小渕首相再選(9月21日)
報道によると、21日開票作業が行われた自由民主党の総裁選挙で、小渕派(議員94人)・森派(63人)・江藤亀井派(63人)・旧河本派(17人)、河野グループ(16人)等の支持を受けた現職の小渕恵三総理大臣が350票(議員253票、党員97票)を獲得して1位当選した。加藤派(70人)の支持を受けた加藤紘一前幹事長は113票(議員85票、党員97票)、山崎派(31人)の支持を受けた山崎 拓前政務調査会長は51票(議員33票、党員18票)であった(党員票は1万票を議員票1票に換算)。なお、党員の推定投票率は49.29%であったという。
自民党総裁選については、本文記事で詳述する予定です。■台湾(中華民国)で大地震(9月21日)
報道によると、21日未明、台湾(中華民国)中部・南投県でマグニチュード7級の大地震が発生し、建物が多数倒壊して多数の死傷者を出したという。その後の報道では、死者は2000人を超え、また李登輝総統は憲法に基づく非常権を発動してこれに対処したという。
ところで、これを受けて我が国政府は、ただちに調査団を派遣するとともに、自民党総裁選挙のさなかにも係わらずその日の午前中には国際緊急援助隊の派遣方針を決定。21日中に国連との連絡をとった上で、22日には「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」(昭和62年法律第93号)に基づいて援助隊100人以上が派遣された。派遣はシンガポールと共にもっとも早いものであり、現地でも高く評価されたという。苦しい時の援助こそ最も評価される援助であり、今回の急速派遣は、日台関係の更なる緊密化に貢献し極めて適切であったといえよう。
もっとも、今回の派遣が迅速だったのは、大地震の災害援助といった人道的な問題では中国(中華人民共和国)からの反発が少ないものと予想されたためであって、そうでなければやはり中国の顔色を伺ってからの派遣となったであろう(とはいえ、これも橋本前政権では到底迅速決定できなかったであろうことである)。■忌野清志郎氏、「君が代」収録アルバム発売(9月22日)
報道によると、ロック歌手の忌野清志郎氏は22日、ポリドールからの発売を中止していたアルバム「冬の十字架」を自主制作盤として発売したという。このアルバムには、パンクロック調にアレンジされた国歌「君が代」が含まれている。また、20日に行われたサンケイスポーツ紙のインタビューで同氏は「タイムリーだし、リズムがなくてつまらない曲だなと思ってたから、ばりばりのパンクでやったら面白いだろうと思ったんです。」「若い人は政治にはあきらめムード。僕がやることで、政治や国旗、国歌法制化の問題に無関心な若者がちょっとでも興味もってもらえばと考えた。」とコメントした。
この問題について忌野氏は8月、ロック版「君が代」の発売を「ロッカーの社会的使命である」と主張しており、ポリドールから発売を拒否されつつも最後まで初志を貫徹したことで、取り敢えずは「売名行為」との批判をかわした格好である。無論、我が国においては憲法上「表現の自由」というものが保障されており、社会的是非は別として、こうした行為も当然合法である(むしろ、保守派がこの問題そのものについて「編曲はけしからん」等と直接批判することは、却って法制化反対派に言質を与えてしまう危険性があり、適切ではなかろう)。
問題なのは、たかだが音楽1曲で若者に対する政治意識の高揚を目指そうとした忌野氏の動きである。近年の「政治無関心層」や「無党派層」に対する評価は様々であるが、私は、現在の我が国におけるそうした政治的状況を、歴史的な経緯を検討した上で「近視眼的現実主義」と捉えている(この捉え方には、政策的な価値づけは無い)。つまり、ある政治的論点が盛りあがるときには怒涛の如く盛りあがるのであるが、その解決まで見届けることができるほど「世論」に持続性が無く、ためにそれが解決されるころにはすっかり忘れられているということである。この点、今回の忌野氏の如き単発的な行動では、「若者のあきらめムード」の原因であるこうした構造的問題は到底解決され得ないばかりか、むしろ若者たちを論点に対する確固たる問題意識の無いままに操作するものであり、当初の意図とは全く逆の意味しか持ち得ないというべきであろう(付言すれば、「若い人は政治にはあきらめモード」という表現は、あたかも若者全てが「国旗国歌法案」に反対しているかのような予断を与える表現であり、不適切である)。■民主党代表選で鳩山幹事長代理当選(9月25日)
報道によると、25日投票が行われた民主党代表選挙(臨時党大会)で、決戦投票の末、鳩山由紀夫幹事長代理が全体の6割である182票を獲得し、民主党第2代代表に当選した。菅直人前代表は130票であった。投票は第1回の投票で鳩山154票、菅109票、横路孝弘総務会長57票(投票は国会議員、次期衆院選公認候補、都道府県代議員の計321人)となり、鳩山氏が過半数を獲得できなかったので決選投票となったという。菅氏・横路氏の2・3位連合は無かった。
民主党代表選については、本文記事で詳述する予定です。■核燃料武装輸送船、無事到着(9月27日)
報道によると、英仏両国を出港した我が国のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)武装輸送船2隻(「パシフィック・ピンテール」「パシフィック・ティール」)は27日、無事東京電力福島原子力発電所に到着したという(両船は更に関西電力高浜原子力発電所に向かうという)。
今回のMOX武装輸送船は、出港時に国際環境保護過激派グリーンピースによる妨害があったものの、無事に我が国まで到着できたことは幸いであった。但し、今回無事であったからといって次回も「武装輸送船2隻による相互護衛」という方法が妥当であるとは限らないのは論を待たないだろう。核燃料護衛任務は(燃料処理を依頼した当人である)我が国にはとってかなり重要な問題であって、かつ、我が国には世界最大の沿岸警備隊である海上保安庁や東アジア随一の海上自衛隊があるのであるから、安全確保のためにこれらを活用しない手は無いだろう。■茨城県東海村の核燃料施設で臨界事故(9月31日)
報道によると、30日午前10時半ごろ、茨城県東海村にあるJCO(住友金属の系列会社)の核燃料試験転換施設で事故があり、少量の六フッ化ウランが制御できずに核分裂反応が引き起こされ、臨界に達するという事故があった。事故の規模が7段階の国際基準で「4」(チェルノヴィリ事故は最悪の「7」)と評価されるほど深刻なもので、事故現場から半径10キロ以内の地域には屋内退避勧告が出されているという。
上記の記事にもある通り、27日にはプルサーマルのための燃料を搭載した輸送船がちょうど我が国に到着したときであり、1日には高浜原発に到着する予定である。無論、今回の事故を教訓に、特に原子炉運転以外の核関連分野での意識の弛みを徹底的に是正する必要があるだろうが、それにもまして問題なのは、こうした事故によって、本来必要とされる原子力発電についてまで過剰な反対運動を惹起し、国のエネルギー政策に影響を与える点であろう。
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