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富 士 の 裾 野 を 走 る 産 業 鉄 道

−  岳  南  鉄  道  −



TAKA  2007年01月26日





富士を背景に走る「新赤ガエル」@吉原〜ジャトコ前



 当HPの「関東鉄道めぐり」も仕事の合間に書いているので必然的に私の行動半径内の鉄道が中心になるので、北関東方面には脚が遠のく事となり加えて行動の中心南関東地区では段々「書くに手ごろな路線」が少なくなってきて、今や「ネタ不足」の状況になってきています。その為北関東と比べると比較的「行動半径内」と言える東海地区の鉄道まで加えて「取り敢えずのネタ切れの危機」を脱する事としました。
 「関東鉄道めぐり」では過去にも「多摩地区から中央線でチョット先」の 富士急行 を取り上げましたが、今回も関東を飛び出して「神奈川県西部のチョット先」の鉄道を取り上げます。それは奇しくも前回はみ出した富士急行の系列企業で静岡県岳南地区の富士市にある「岳南鉄道」を取り上げます。
 今回偶々1月の14日・21日の両日岳南鉄道を使い富士市主催の「 DMVデモンストレーション走行 」が行われており、14日は仕事があり行けなかった物の21日は厚木で仕事の現地調査を早く済ませてチョット足を伸ばして、岳南鉄道で行われている富士市のDMVデモンストレーション走行を見学すると同時に、今まで乗った事の無かった岳南鉄道を試乗してみる事にしました。

 参考HP: 「 岳南鉄道HP 」「 岳南鉄道線 (wikipedia)」
      国土地理院地図閲覧サービス 2万5千分の1地形図「 吉原(北東)
 参考文献: 鉄道ピクトリアル98年4月増刊号-甲信越・東海地方のローカル私鉄-

 「岳南鉄道 主要指標」
年度営業キロ輸送人員輸送密度貨物輸送量従業員営業収益営業費用営業損益
1991年度9.2km1,456千人1,475人/日245,320トン44人394,146千円438,014千円▲43,868千円
1997年度9.2km1,046千人1,297人/日170,248トン31人297,690千円340,180千円▲42,490千円
2001年度9.2km721千人883人/日151,770トン26人261,704千円294,222千円▲32,518千円
※上記数値は「年鑑日本の鉄道1994・2000・2004」より引用(一部は資料を基に計算)しています。
※岳南鉄道全事業経常損益:平成13年度→▲5,855千円・平成15年度→▲31,603千円・平成16年度24,507千円(数字で見る日本の鉄道2003・2005・2006)

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 ☆ 岳南鉄道線 試乗記 (1月21日吉原〜岳南江尾〜岳南原田)

 21日は朝早く家を出て、厚木で仕事の見積用の現地調査を朝の内に終わらせた後、小田急線〜東海道新幹線と乗り継いで新富士駅に到着したのが11時9分で時間的にはDMV試乗会を見に行くには多少時間に余裕のある感じだったので、取り敢えず岳南鉄道の起点駅吉原に移動する為に新富士〜(バス移動)〜富士〜(東海道線)〜吉原と移動する事にしました。
 新富士〜吉原間は直線距離で3km程度でたぶんタクシーで移動しても1000円程度で収まる距離ですが、公共交通で移動すると短い区間でも乗換えが必要になり結構めんどくさいと言えます。これでは新幹線を使う人は新富士へ直接車で乗り着けるでしょうし富士市への来客等は車で迎えに来てもらうかバス・タクシーで目的地へ直接移動してしまうでしょう。「時間に余裕のある暇人」だからこそ公共交通を使いましたが、普通の人にとってはこの地域では「公共交通は使いづらい」状況に有るといえます。それが図らずしも「富士市での公共交通の役割」の現状を示していると言えます。
 バスから東海道線に乗り換えた富士では東海道線はそれなりの乗降がありました。この区間は3〜4両で毎時3〜4本走っていて東海道筋の東西の移動には便利であると言えます。実際車内も立ち客多数の状況でかなり混んでいます。富士を出て一駅目の吉原で岳南鉄道に乗り換えるために降りますが、此処では乗降共に疎らな感じです。降りて駅周辺を見回しても工場がメインで店舗等は少なそうです。その意味では「東海道線吉原駅」自体は乗換駅以外の求心力は低い感じがします。

  
左:岳南鉄道吉原駅 駅舎  右:岳南鉄道吉原駅 全景

 取り敢えずホームを見回すと富士寄りの跨線橋の所に「岳南鉄道乗り場」と言う看板が有り数人がそちらに向かうので私も着いて行きます。ペンキの剥げた木造の跨線橋を渡ると岳南鉄道の駅舎の中に(簡易型?の)自動改札が1台有る出口がありその先に岳南鉄道の乗り場が有ります。トイレ方々駅舎の外に出てみると其処は銚子電鉄の仲ノ町駅では有りませんがすぐ工場の敷地です。メインのJR駅舎入口方面への道路もありましたが、人通りは殆ど無い感じで「此処を通って地元から利用する人は殆ど居ないだろうな」と言える感じです。実際は東海道線への乗換えが出来れば十分役割を果たせるのでしょう。
 駅の周りをひと回りした後早速切符を買って構内に入って見ます。岳南鉄道は1日乗車券を400円で売っていて往復するだけで元が取れる「買い得品」なので1日乗車券で乗り回る事にします。駅の窓口で「1日乗車券を下さい」と言って買うと何と驚き「硬券」がでてくるでは有りませんか!又帰りに岳南鉄道吉原駅でJR沼津までの切符を買ったらJRの券も硬券を出してきました。この吉原駅だけを見ていると「昭和」の時代にタイムスリップした感じです。

  
左:吉原駅での乗降風景  右:7000型電車とED40型電気機関車@吉原駅

 切符を買ってホームに入ろうとすると丁度上りの電車が入ってきました。通常は7000型の単行運転で運行されているようです。単行の上り列車から降りてきた人は十数名と言う程度でしたが、数人の人たちはカメラを持ち7000型や隣に止まっているED40型の写真を取ったりしています。如何も私と目的が同じの「DMVを見に来ながら岳南鉄道にも乗ろう」と言うマニアの人たちが居るようです。このマニアが居なければ「日曜午前中」と言う事は有りますが利用客はかなり少ないといえるかもしれません。
 色々写真を取ってから列車に乗ると暫くして出発です。下り列車にも写真を取った後折り返しで乗り込んできたカメラを持つ人も含めて十人強の人が乗って出発です。電車は貨物ヤードの中を東海道線と並んで西向きに進んだ後北に直角に曲がり新幹線を潜り富士市公設市場の脇を通り吉原の中心市街地へ向います。ジャトコ(昔は日産)の工場を回り込むように作られたジャトコ前駅を過ぎると吉原の中心市街地になります。この区間は吉原本町・本吉原と数百メートル毎に駅が有りまるで路面電車の様です。

  
左:本吉原駅での交換風景  右:岳南江尾行き車内@本吉原

 流石に吉原本町・本吉原は吉原の中心市街地だけあり、起点の吉原から近いのに早速乗降が有ります。只降車が有ると同時に乗車も有ったので車内の全体はそんなに変わらない感じです。しかし「吉原の中心市街地」と言えども中高層のマンション等は多く見えましたが車窓から見た商店街は寂れ気味の感じです。JR東海道線の富士駅前も寂れ気味で目立つのは居酒屋とサラ金の看板だけでしたが、工場地帯と言う事も有り中心市街地には労働者向けの店が集まりショッピングセンター等はロードサイド店になってしまい中心市街地の空洞化が進んでいるのかもしれません。
 本吉原の次の駅岳南原田に到着すると、沿線の風景は一変します。吉原の中心市街地から工場地帯に入ります。岳南鉄道の岳南原田〜比奈の間には 日本大昭和板紙吉永工場 が有り工場のど真ん中を走る感じになります。この工場は地場の大企業大昭和製紙のメイン工場でしたが現在は日本製紙との経営統合を経て年産50万トンを越える工場で製紙業が盛んな富士市の中でも最大級の工場であると同時に日本製紙グループの一大板紙工場となっています。
 この日本大昭和板紙吉永工場は岳南鉄道にとっても大得意であります。岳南鉄道の収入の半分を占める貨物輸送の大部分はこの工場から発送される紙製品貨物輸送が占めており、比奈に大きなヤードを抱えていると同時に発送地点の比奈と中継地点の吉原には数多くの「ワム」が泊まっています。今や上輸送ぐらいでしか見なくなった「ワム」が岳南鉄道では未だにメインで幅を利かせています。その様な「貨物輸送」が盛んで有るというのも岳南鉄道の大きな特色で有ると言えます。

  
左:岳南原田駅風景  右:岳南原田駅 駅舎

 比奈の先は終点岳南江尾まで比較的住宅街の多い地域を走ります。この当りは昔からの街道沿いの地域に当り住宅の中に中小規模の工場が有る地域になります。この地域は東海道線沿線より岳南鉄道沿線の方が比較的人口集積の多い地域となっています。その為本吉原より先は車内の客は漸減となって行きます。しかしこの地域のトリップの主体は自動車主体であり、岳南鉄道線は街道を走る富士急バスとあわせてもサブ的な地位しか占めて居ません。
 岳南江尾まで乗った後DMVを見に行く時間が迫っていたので、1日乗車券の特権を生かしてそのまま電車に乗り岳南原田へ折り返します。岳南原田で駅を降りてから駅の周囲を見回してみると流石に大工場がありながら住宅も有る地域で街道沿いを中心にコンビニや中小規模のロードサイド店が複数有りそれなりの商業集積が有るようです。加えて駅舎には蕎麦屋が併設しています。駅の脇には貨物ヤードを使った駐車場も有り蕎麦屋の駐車場も有りますが、駅に蕎麦屋が併設していると言うのは「家賃収入」と言う側面も強いのでしょうがそれなりの駅利用も有ることを示しています。
 少なくとも岳南鉄道沿線を見ると、吉原での東海道線接続・吉原本町と本吉原の吉原中心市街地との輸送・岳南原田と比奈での日本大昭和板紙吉永工場の貨物輸送と言う点では「鉄道輸送」はそれなりの存在意義が有ると言う事が出来ます。しかし比奈から先は「鉄道で無ければならない」理由は残念ながら見えてこない程度の旅客輸送しか無い状況に有ると言えます。比奈〜岳南江尾間は旅客需要が少なくしかも2キロ〜数キロの距離を置いて東海道線東田子の浦駅の駅勢圏が有る状況では、今のままのジリ貧状況で放置しておいて良いのか?と言う感じを抱かせます。DMVの検討もその様な状況の打破の方策と考えているのでしょうが、吉原・富士の中心市街地の求心力の低さと自動車社会の根付き方から見るとそれも「決定策」となるかは疑問です。その点からも岳南鉄道は「鉄道」としての存続の難しさを特に末端区間では抱えていると言えるのでは無いでしょうか?。


 ☆ 岳南鉄道を取り巻く状況(工場街を走る産業鉄道と襲い掛かるモータリゼーション)

 今回訪問して見た様に岳南鉄道自体は沿線全域が富士市内に入っています。富士市自体は 人口243,625人 の規模の都市で静岡県の中でも規模の多い都市です。又富士市HPの 工業生産統計 で見ても事業所数・従業員数・出荷額の各部門で静岡県下の2大都市である静岡市(人口712,170人)・浜松(人口820,425人)には及ばない物の、他の県下各都市を引き離すNO.3の地位と東海道ベルト地帯の工業都市としての地位を不動の物としています。
 実際「富士市」と言えば「製紙の町」として有名であり、昔は大昭和製紙が本拠地を置いていて、今は大昭和製紙と経営統合した日本製紙と業界最大手の王子製紙の工場が置かれていて本州では最大規模の「製紙の町」となっています。富士市内の製紙工場はJR富士駅前に 王子製紙富士工場 ・岳南鉄道比奈に日本大昭和製紙吉永工場・吉原駅脇に 日本製紙富士工場 が有り田子の浦港による港湾の便と豊富な工業用水に支えられ一大製紙工業地帯となっています。加えてジャトコの工場等の製紙以外の大工場もあり統計に示されている様に極めて工業が盛んで有ると言えます。実際東海道新幹線で東名間を移動すると富士山の麓の富士市を通ると他では比べられない程の多数の工場と煙突に驚きを覚えます。それだけ富士市は見た目で分かるほど工業が盛んで有ると言えます。

  
左:工場地帯を走る岳南鉄道(背後の工場は 日本大昭和板紙吉永 ) 右:ロードサイドショップが並ぶ国道139号線@吉原〜ジャトコ前(左富士付近)

 その様に人口も有り工業集積も多い富士市ですが、富士山麓に広がる富士市でもご他聞に漏れずモータリゼイションが進んでいます。人口約243,000人の富士市で 自動車(乗用車)保有台数 は100,483台にもなり人口比的には2人に1台に欠ける程度であり、世帯数88,192世帯から見比べると1世帯に1台+αと言う自動車保有台数です。
 統計の数字が示すように自動車の利用は多く、「がくなん交通かわらばん2005年10月号・2006年4月号」によると岳南都市圏(富士市・富士宮市・芝川町)では自動車の利用率が73.3%に達し(鉄道3.3%・バス0.7%)自動車主体の交通が中心になってしまっています。実際富士市でも人口集中地区の人口密度が40人/ha程度に対し自動車の利用率が70%台前半と言う状況であり、静岡県内各都市(静岡・三島・沼津・藤枝・島田・焼津)と比べても自動車利用率が高く人口集中地区人口密度が低いと言う「自動車が中心でスプロール現象が進んでいる」と言う事が出来ます。
実際富士市内で利用したJR東海道新幹線新富士駅は開業から未だ日が浅い事も有り駅の周辺には殆ど商店街やビジネス街灯も存在せず、JR東海道線富士駅も南口は駅前広場の周りには住宅が有るような状況ですし、北口は近くに王子製紙富士工場が有るので駅前の中心市街地の広がりも乏しくその小さい中心市街地に目立つのはサラ金と居酒屋と言う状況で、同じ東海道線の吉原駅も北側に日本製紙富士工場が有るので殆ど商店が無い状況です。
 その様な中核鉄道駅の駅前に市街地が殆ど形成されていない状況に対し、国道沿いには大型駐車場を備えた各種商業施設が幾つも有る状況であり、明らかに「鉄道は長距離輸送中心で市内移動は自動車主体」であり市内の商業施設もその様な移動形態に沿った立地で集まっている「自動車中心」の町となっています。

  
左:吉原駅の貨物ヤード  右:岳南原田駅の貨物施設

 その様な中で、富士市の鉄道の中では製紙業を中心とした産業立地に基づく「貨物輸送」が他の街の鉄道と比べると大きなウエイトを占めているのが大きな特色で有ると言えます。
 実際他の地域への鉄道輸送の動脈で有るJR東海道線の富士駅・吉原駅には比較的規模の大きい貨物ヤードがあり、ヤードにはコンテナ貨物車両や鉄道貨物で比較的多い「紙輸送」の代名詞である「ワム」が何十両も停まっているのは珍しい風景であると言えますし、富士から着発送される貨物流動が多いことを示していると言えます。(参考資料: JR貨物輸送状況
 その状況は域内の民鉄で有る岳南鉄道においても例外ではなく、岳南鉄道自体が「製紙業の発展に伴い原材料・製品輸送を主眼に昭和23年に免許された鉄道」で有り、日本大昭和製紙吉永工場に関する紙輸送が岳南鉄道の主力輸送の一端を担うと同時に比奈駅には(臨海鉄道を除く)民鉄最大級と言える貨物ヤードが有るなど、岳南鉄道は旅客鉄道では有りますが同時に貨物輸送も会社の中で大きなウエイトを占めていると言えます。
 今JRを除く民間鉄道の中では旅客輸送だけの鉄道と言う鉄道が大部分であり、少数の旅客・貨物両方を輸送する鉄道の中で貨物輸送も旅客輸送と並ぶ大きな柱となっている鉄道は、セメント輸送が有る秩父鉄道・三岐鉄道以外には紙輸送が行われている岳南鉄道位しか無い状況であり、その点から考えても産業都市に有る鉄道で「貨物輸送が大きなウエイトを占める」と言うのは「産業鉄道」と言う岳南鉄道の大きな特色として特筆できると言えます。


 ☆ 岳南鉄道の「究極の存在意義」とは?(「富士を世界に拓く」富士急グループの静岡での陣地としての意義)

 この様な工場地帯の富士市を走っていて旅客・貨物両方の輸送を行って居る岳南鉄道ですが、前にも述べた様にかなりモータリゼイションの進んだ都市を走っていてしかも比較的短距離の区間を走る鉄道で只ですら利用しづらい状況に有るにも関わらず、止めを打つ様に吉原の中心市街地は経由している物の富士市の中心市街地である富士駅前・灯街道新幹線にアクセスする新富士にアクセスして居ない為に旅客輸送で考えれば「極めて限定的な使われ方しか出来ない」鉄道で有ると言えます。
 実際1991年〜2001年の10年で旅客輸送はほぼ半減の状況で貨物輸送とて3分の2程度まで減少してしまい、鉄道事業は何とか合理化(この10年間で44人→26人と18人減少している)の効果で一定の赤字額で踏みとどまって存続している状況であり、旅客輸送だけを見れば「輸送密度883人/日」と言うレベルは、残念ながら鉄道として存続するには非常に厳しい数字で有ると言えます。未だ貨物輸送で凌いでいる可能性も有るとは言えますが、どちらにしても鉄道単体として考えると「存続が厳しい鉄道」で有ると言えます。


  
左:駿東・岳南地区の富士急の象徴 富士急百貨店@沼津  右:岳南鉄道と並ぶ駿東・岳南地区の交通を担う富士急グループのバス

 其れは「富士急グループ」の1社として「富士南麓の富士市に拠点を持つ」と言う存在意義で有る可能性が高いと言えます。前に関東鉄道めぐりでも「 富士急行 」は取り上げましたが、東証一部上場企業であり地方鉄道最大級の企業グループを持つ富士急行は事業の主体を「富士の見える地域」に置いており、富士急行線が走る山梨県郡内地方と並び富士山南麓の静岡県駿東・岳南地方も富士急行に取っては重要な事業拠点となっています。
 実際富士南麓で富士急グループは鉄道の「岳南鉄道」遊園地・別荘地・ゴルフ場を持つ「フジヤマリゾート」物販業の「富士急百貨店(沼津)」バス会社の「富士急静岡バス」等の本拠地の山梨県郡内地方と同じ様な企業グループ構成で事業を営んでいます。
 その中でやはり「鉄道」と言う事業は、地域での企業グループの存在感と言う意味で未だに大きな意味を持っていると言えます。実際岳南鉄道は元々は1949年〜1953年に掛けて伊豆箱根鉄道が作った鉄道であり1956年に伊豆箱根系列から富士急系列に切り替わっています。元々伊豆・箱根で勢力を張っていた西武系列の伊豆箱根と元々は富士身延(後国有化→国鉄身延線)の経営権を持っている等富士山周辺全域に勢力を広げていた堀内一族の富士急グループ(当時は富士山麓電気鉄道)が静岡県駿東地方で勢力争いを拡げている中で(その象徴が沼津駅前に並ぶ西武百貨店と富士急百貨店)駿東地方の西側の岳南地方で富士急グループの勢力を確実にする為に、富士旧グループが岳南鉄道を傘下に入れておく価値は有るという事になります。
 現実問題として今は西武グループの経営問題が伊豆箱根にも飛び火し、いまや伊豆箱根鉄道を中心とする静岡県駿東地区での西武グループの存在感は低下していて、しかも今や昔の様に「鉄道事業は陣取り合戦」と言う時代ではなくなってきています。その点から見れば「富士市内の限られた地域の輸送」しか行っていない岳南鉄道の存在意義は昔ほどでは無いと言えますが、事業拠点の存在自体の価値と岳南鉄道の全事業での収益で見ると、上記表の資料の様に意外に赤字・黒字を彷徨っており、極端に多い負担では無い為に「収支のマイナス効果と静岡県東部での陣取りとしての存在価値と言うプラスの効果」を天秤に掛けて、富士急グループは今の形態で赤字基調の鉄道事業を有したまま岳南鉄道を維持していると推察します。
 逆に言えば「収益としての岳南鉄道」の存在意義は残念ながら非常に低く加えて富士急グループの根幹の観光事業でも保有価値が低く、只「富士急グループの一員である」と言う惰性で岳南鉄道は維持されていると推察されます。その程度の存在価値しか残念ながら今の岳南鉄道には無いのかもしれません。

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 今回初めて岳南鉄道を訪問しましたが、今回一通り訪問しての感想は旅客輸送では「地域の動線にも合っているとは言えない鉄道」であり「旅客輸送的には極めて厳しい鉄道」であり輸送密度から見ても極めて厳しい状況に有ると言えますし、貨物輸送でも「長期低落」の状況に加え株主で大荷主の大昭和製紙は製紙業界の業界再編に飲み込まれて今や日本製紙グループ傘下であり、しかも単価の安い板紙の製造工場の輸送をしている現状では日本大昭和板紙吉永工場の貨物輸送の先行きも厳しい状況に有ると感じました。
 その中で「では今後どうなるのか?」と考えると、その先行きは只一つ「富士急行の意向次第」と言う事になると思います。今の状況では岳南鉄道の鉄道事業は何も後ろ盾が無ければ単体で生き残れる状況では無い事は数字を見れば明らかです。
 しかし今の状況を打破する有効な方策が有るとはとても思えません。富士市では今回「 DMVデモンストレーション走行 」を行い将来的には東田子の浦〜(車)〜岳南江尾〜(鉄道)〜本吉原〜(バス)〜富士駅〜(鉄道+バス)〜新富士駅で岳南鉄道を使いDMV路線を設置して東西方向交通の機軸に据える構想を持っています。しかしこれが岳南鉄道に取り「救世主」になるとは思えません。都市構造が既に鉄道中心から車中心になっている以上DMV導入で公共交通に簡単に人が付くとは思えません。その様に見ればDMVは岳南鉄道の救世主とは成り得ないと言えます。
 その様な状況の中で、今後岳南鉄道はどうなって行くのか?何もしないよりかは(投資負担を公的セクターでしてくれれば)DMV導入で多少でも救われれば未だ延命が果たせるかもしれませんが、それでとても「将来が保証された」と言う事にはならないと思います。今の状況では「存続は富士急グループの意向次第と言う側面が非常に強いと言えます。その厳しい状況で今後如何に鉄道を維持して行くのか?それとも諦めるのか?鉄道会社だけでなく自治体・地域も考えなければならないと思います。富士市内での富士急グループの事業展開のレベルを考えると、富士急グループが「陣取りだけで鉄道を維持する」必要性は低くなって居ると言えます。その現状の認識をした上での今後の対策も必要であると感じました。




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