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「銀行管理」でローカル線も整理されてしまうのか?

− 茨 城 交 通 ・ 湊 線 −



TAKA  2007年03月04日





懐かしの車両とカラーリングで売出し中!?@那珂湊


 日本経済はバブル崩壊以降長期間にわたる景気後退下に置かれ、企業は業績不振や経営破綻に見舞われ個人もリストラや収入減少や失業・就職難等の辛酸を舐め、我々は正しく「失われた10年」と言うに相応しい時代を経験してきました。
 其れは公共交通を担う交通事業者においても変わらないと言えます。大手民鉄等でも赤字決算等の苦しい経営に見舞われた会社も有りますし、産業再生機構の支援を受けた九州産交・宮崎交通・関東自動者・スカイネットアジア航空、民事再生法申請をした高松琴平電鉄、投資ファンドの資本を受け入れた西武鉄道・国際興業等、「倒産」はしなくても他者に整理・救済の手を差し伸べてもらい再生を図る例はバブル崩壊以降社会の中で「周回遅れ」とも言えるワンテンポ遅れた頃合で近年多数発生しています。
 今回取り上げる茨城交通湊線もその様な状況下に置かれている交通事業者です。水戸を中心とする茨城県中央部を中心にバス・鉄道等の事業を展開する茨城交通は、経営不振により06年3月に整理回収機構による「金融債権者間の調整の受託」による各金融機関への「債権放棄要請・ 債権放棄 」と整理回収機構及びメインバンクのみずほ銀行・常陽銀行主導の経営再建が行われる事となり、実際現在では常陽銀行が「 (参加に入れる目的でなく)経営支援の一環として株式を(100分の20〜100分の50の間で)保有している (18年3月常陽銀行決算単信26ページ「持分法を適用しない理由」を要約)」と言う実質的銀行管理と言う状況になっています。
 その中で浮上してきた問題が、経営再建計画の中で謳われている「湊鉄道線の廃止」と言う問題です。その問題に対し茨城県・ひたちなか市が中心となり「 湊鉄道対策協議会 」が作られ本年3月に廃止届提出と言われている中で、存続へ向けた動きが始まっています。
 今回「 交通総合フォーラム 」で御馴染みの和寒様と 鹿島鉄道を訪問 した後、同じに日に大洗鹿島線経由で那珂湊に入り、茨城交通湊線を那珂湊〜阿字ヶ浦〜勝田と訪問することができました。その訪問記を兼ねて「銀行管理下での存廃問題」と言う深刻な状況に有る茨城交通湊線の現状について述べる事としました。

 参考HP: 茨城交通HP   茨城県企画部企画課HP   阿字ヶ浦町HP

 参考文献: 鉄道ピクトリアル96年4月増刊号-関東地方のローカル私鉄-

 「茨城交通湊線 主要指標」
年度営業キロ輸送人員輸送密度従業員営業収益営業費用営業損益全事業経常損益
平成13年度14.3km892千人1,458人/日31人271,022千円268,875千円2,147千円▲90,777千円
平成15年度14.3km813千人1,294人/日29人251,430千円275,018千円▲23,588千円▲116,853千円
平成16年度44.1km779千人1,247人/日26人243,014千円254,854千円▲11,840千円▲552,418千円

※上記数値は「数字で見る鉄道2003・2005・2006」より引用・算出してます。

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 ☆ 茨城交通湊線 試乗記 (那珂湊15:37→15:48阿字ヶ浦16:41→17:08勝田)

 廃線間際の鹿島鉄道の試乗を終わり、新鉾田から鹿島臨海鉄道に乗り大洗駅に着いたのは14時半を過ぎており大洗駅前はタクシーが待っているだけで閑散としていました。大洗から湊線の那珂湊を目指すとなると那珂川の橋(海門橋)を渡り移動しなければなりません。バスで移動と思いましたが 大洗〜那珂湊間の茨城交通のバス は毎時1〜2本有る物の大洗駅前には入らず大洗駅入口を通過するだけです。なので那珂湊駅まではタクシーで移動する事にしました。
 タクシーは大洗神社の脇を通り那珂川の海門橋を渡り那珂湊のを抜けて茨城交通湊線の那珂湊駅に着きます。元々那珂湊自身が水戸藩時代から「水戸の外港」として栄えた街で那珂川河口を中心とした旧市街・海辺の那珂湊漁港が中心となっており、旧市街を抜けた一段上がった所に湊線の那珂湊駅があります。その様な立地の為那珂湊駅自体は旧市街地・観光の中心地( 那珂湊おさかな市場 等)からは微妙に離れていますがそれでも「開業90年」を経過する鉄道の中心駅の駅前だけありそれなりの店等の集積も有ります。
 駅に着くと列車まで未だ時間が有ったので、待合室で取りあえず列車を待つことにします。駅自体は整備はして有る物の木造の駅舎で鹿島鉄道の駅もレトロでしたがそれに負けず劣らずの状況です。何か通学需要か中学生が三々五々集まってきましたが平日の午後〜夕方の時間だけ有って大人の利用客は疎らな感じです。那珂湊駅には駅前にバスターミナルも整備されていますが、発着する少ないバスにも利用者は少ない感じです。町の規模から見て需要は有りそうですが鉄道・バス共に公共交通の利用は多くない感じがします。

   
左:ノスタルジーな感じの那珂湊駅   右:中学生が列車を待つ那珂湊駅駅舎内風景
   
左:那珂湊駅構内風景   右:阿字ヶ浦行き 車内風景

 阿字ヶ浦までの切符を買い待合室で列車を待っていると、発車の5分前位になると徐に事務所から駅員が出てきて改札が始まります。改札を受けて駅構内に入ると「典型的ローカル線の中核駅」と言える様な駅構内が広がっています。那珂湊は湊線で唯一の交換駅でしかも車庫を持つ運転上の中心をなす駅で勝田とならぶ数少ない有人駅です。それだけあり駅構内も広々としていますが逆に広すぎるという感じです。元々国鉄からの直通が有った為有効長が長いと言う事は有りますが、不要な中線が残っていてしかも車庫も路線規模の割には大きな施設で有ると言えます。
 阿字ヶ浦行きのホームに立ち車庫の中を覗いてみると、「2編成しか運行できない路線でなんでこんなに車両が居るの?」と言う位の車両が居ます。車両自体は新型のキハ3710・37100形3両とキハ20系系列が7両と言う保有車両ですが、この半分あれば十分運行可能であると言えます。又茨城交通は旧国鉄の名車と言えるキハ20系列を国鉄・私鉄各社から入手して保有しており有る意味「(新型車以外の)車種統一」は曲がりなりにも果たせています。その点は「生まれも育ちもバラバラ」と言う鹿島鉄道よりかはメンテ等で効率的で有ると言えます。
 その今や「骨董品」の部類に入りつつ有るキハ20系列ですが、その希少性を売りにして茨城交通では今 旧国鉄色の復元塗装 が行われています。確かに「マニアを集める」と言う点では「比較的低コスト(塗装費だけ)での盛り上げ策」とは言えますが、鉄道マニアと言うコアな市場を狙ってもそのは急行かは極めて限定的であり活性化策としては疑問です。
 はっきり言って「湊線の活性化策」を考えるのなら アクアワールド大洗国営ひたち海浜公園阿字ヶ浦海水浴場那珂湊おさかな市場 等の大洗・那珂湊地区の沿線の観光資源が豊富であり、この大洗・那珂湊地域の公共交通を茨城交通が握っていることを考えればこれらの観光地を生かし回遊性を高めた中で湊線を生かす方策が有ると言えます。そう考えると茨城交通の経営の方策、他事業機関や地域自治体等との協力姿勢に関しては「不足の部分が多い」と言う事が出来ます。そう考えると湊線は「放置プレイで放置された路線」で有る事は間違いありません。

 駅構内で写真を取った後、単行ながら最新鋭の37100形で来た阿字ヶ浦行きに乗り終点の阿字ヶ浦に向います。那珂湊駅で見た中学生は勝田へ向うようで向かいのホームに入った勝田行きに乗った様で、此方の列車には我々を含め数名が那珂湊で入れ替わり車内は両手で数えられる位の乗客を乗せて阿字ヶ浦へ向います。
 那珂湊で進行方向を北向きに変えた湊線は太平洋に沿って海岸沿いを北上していきます。只海岸から少し離れた海岸段丘の上を走る為に海は殆ど見えず、右手(東側)に集落が見え左手(西側)には広い畑が広がり「海岸を走る鉄道」というイメージとちょっと違う感じです。那珂湊を出ると殿山・平磯・磯崎と比較的住宅の多い所に有る駅に停まりながら終点の阿字ヶ浦を目指します。途中の平磯駅はスーパーと併設して駅が作られていますが、スーパーの方は閉店されています。
 終点阿字ヶ浦に着くと、昔海水浴シーズンに上野から常磐線経由で直通列車が入っていた名残で、ローカル線の終着駅と言うには不釣合いの広大な駅構内と長大なホームが残っています。駅のホームの先には国営ひたち海浜公園が見えますが、阿字ヶ浦の市街地と海岸段丘の勾配に邪魔されて延長できない状況です。と言っても阿字ヶ浦終点は「寂れた場末の集落」と言う感じで、此処から約1km程度の国営ひたち海浜公園へのアクセスバスが有る訳でもなくアクセス手段を明示している訳でも無く、有るのは近くの阿字ヶ浦海水浴場と「阿字ヶ浦温泉のぞみ」の案内だけで、観光地の駅と言う感じでは有りません。

   
左:阿字ヶ浦で折り返す列車   右:阿字ヶ浦駅全景
   
左:阿字ヶ浦海水浴場   右:海岸べりに立つ「阿字ヶ浦温泉のぞみ」

 駅周辺を見ながら和寒様と「折角阿字ヶ浦まで来たのにこのまま帰るのは勿体無い」と言う話になり、と言っても冬の寒い日に 阿字ヶ浦海水浴場 に行っても何も無いので、駅に看板の出ていた「 阿字ヶ浦温泉のぞみ 」に行って鹿島鉄道〜鹿島臨海鉄道〜茨城交通と1日歩いてきた疲れを癒そうと言う事になりました。
 駅から脇の道の坂を下りて行くと眼前が拡がり海水浴場に着きます。海水浴場の近くには民宿等が何件も建っていますがその中に「阿字ヶ浦温泉のぞみ」は有ります。今や「1000m以上掘ればどこでも大体温泉は出る」と言われていて都心を始め色々な所に温泉が有る時代ですから海水浴場に温泉が有っても可笑しくは有りません。
 阿字ヶ浦で列車を1本落としてその時間で向った温泉なので、温泉に滞在できた時間は40分あまりでしかも着替え等を入れたら温泉に使っていた時間は30分程度でしょう。しかしこの温泉の売りは「風水術・波動術を極めた癒しの世界」と言う事ですが、それ以上に「展望風呂から見える雄大な太平洋の海原」です。流石に冬だけあり露天は少々寒かったですが雄大な風景を見ながらの温泉は非常に気持ちよく疲れが取れました。
 地方のローカル線を回りながら温泉に入ったり上手い物を食べたりの旅行は鉄道が好きな人だけでなく普通の人にも楽しめる物です。実際茨城交通の場合夏には海水浴場が有り冬には「鮟鱇」と言うグルメも有ります。関西の「 カニカニ 」程では有りませんが「鮟鱇」にも上手くアピールすれば(特に通の人を中心に)人を引き付ける物が有るグルメと言えます。「カニカニ」の10分の1お客さんが来てくれても茨城県の関係地域の鉄道(JR常磐線・鹿島臨海鉄道水戸〜大洗間・茨城交通湊線)への貢献は馬鹿には出来ません。その様な嗜好を生かした「観光」に注力したローカル線の活性化と言うのも考えなければならない方策だと思います。

   
左:勝田行き列車 車内風景   右:常磐線の脇でポツンと停まる茨城交通気動車@勝田

 短時間ながら「阿字ヶ浦温泉のぞみ」を楽しんだ後、今度は湊線の起点である勝田へ向う列車に乗るために再び坂を上り阿字ヶ浦駅に戻ります。阿字ヶ浦駅に戻るとスカ色のキハ222が停まっています。留萌鉄道・羽幌炭鉱鉄道・水島臨海鉄道・鹿島臨海鉄道から中古をかき集めたと言えども、戦後生まれで気動車の技術を確立し一世を風靡したキハ20系列ですから鹿島鉄道の気動車に比べると確かにしっかりした車両で有ると言えます。しかしそれでも「古い車両」で有る事は否めません。マニアには「懐かしい車両」と言う事になるのでしょうが一般利用客にしてみれば「ボロい車両」に過ぎません。少なくとも単行運転をしている限りは平日は新型車だけで賄える筈です。冬だからこそ非冷房旧型車を投入しても劣るサービスが許容範囲と考えて運用しているのでしょうが、鉄道会社が媚を売りべきなのは鉄道マニアではなく一般の利用客です。その点を考えるならば新型車両をフル回転させるべきでしょう。もし「廃線後中古で売却時に走行が嵩めば資産価値が落ちる」と考えているのなら別ですが・・・。
 阿字ヶ浦を出た湊線車両は少しの人を拾いながら那珂湊に着きます。やはり那珂湊が一番乗降客が多く那珂湊を出た段階で我々を含めて10名程度が乗車している状況です。那珂湊を出ると一転して水田の中を走ります。那珂湊〜勝田間のメイン道路県道36号線は丘の上を通りますが湊線は金上〜那珂湊間で中丸川沿いの水田地帯を通る為沿線には人家が殆ど見えません。金上こそ集落(と言うか勝田駅前市街地の外延部)に駅が有り近くに自衛隊施設学校等も有るのですが、勝田に近いこともあり駅利用客は乏しく、那珂湊〜勝田間は途中利用客は殆ど居ない状況です。しかし中根〜那珂湊間では中丸川を越えた先の柳沢では南西約100mの丘の上に柳ヶ丘団地が有るのに駅が無い状況です。費用対効果の問題も有りますがこれらの少しでも利用客の期待できる所に駅を作ることも検討に値するのではないでしょうか?
 県道36号線が左に寄り添い右側にジャスコが見えてくると日工前駅で、此処から北に進路を変え常磐線に寄り添うと終点の勝田です。勝田では常磐線上りホームの脇にチョコンと湊線のホームがあり、小さな改札口も併設しています。その為特に湊線→常磐線上り列車は乗換しやすい状況です。しかし対水戸で此処で乗換があるのは苦痛と言えば苦痛です。今の常磐線の運行本数を考えると湊線の水戸直通は難しいのは良く分かりますが、隣の鹿島臨海鉄道大洗鹿島線大洗〜水戸間が運行本数の多さと水戸駅直通で客を集めている状況から考えると「何か方策は無いのか?」と考えたくなります。
 其れと気になったのが、降車後写真を取っていたら駅員に「早くこっちに来て改札してくれないかな。そうしないと他の仕事が出来ないよ」と言っていた事です。確かに1人しか駅員が居ない状況ですから忙しいのは分かりますが、折り返し列車が停車中は乗車客の改札も必要なはずです。その点を考慮しても、駅員さんの言い方にはもう少し言い方が有った様な気がします。旧車両の国鉄色塗装をするなど「ファンに媚を売る」事を行っている割にはその「ファンへの接し方」を考えないと、落とす金は少なく絶対量が少ないのに移り気で我が儘なファンはあっと言う間に逸走してしまいます。その点会社の考えが末端従業員まで達していない感じがしますし、社員のモチベーションも高くないと言う感じがします。この様な「社員のモチベーション低下」は再建会社やワンマンオーナーの会社によくある話で、銀行管理下でしかも竹内家がオーナーの企業で(しかも竹内家は社長職を退いていない)ある茨城交通でも同じ様な弊害が有るのかもしれません。それでは再建は覚束ない可能性が高いと言えます。


 ☆ このまま茨城交通湊線は廃止されてしまうのか?

 今回茨城交通湊線を訪問しましたが、私に取り湊線訪問は過去に04年3月に廃止直前の日立電鉄を訪問する前座に訪問して以来約3年ぶりの訪問となりましたが、前回は土曜日・今回は平日と言う差は有りますが、「淡々と走るローカル線」と言う根本の印象は変りませんでした。少なくともこの3年間で変化を感じたのは「(旧国鉄の)レトロなカラーリング復活」と言うファンに媚を売った人気取り策だけで、ほかに表立った変化は無いと言うことが出来ます。
 しかし湊線を取り巻く状況は大きく変化していると言う事が出来ます。関東にあり比較的人口も多い茨城県ですが、東京の通勤圏である守谷や筑波等の県南部は05年のつくばエクスプレス開業により特につくばエクスプレス沿線の人口増が著しく地域の活性化が図られていますが、東京の通勤圏を微妙に離れる県央部・県北部では04年の日立電鉄・07年の鹿島鉄道と地域ローカル鉄道の廃止が進んでいます。有る意味「(近年で)日本一ローカル線の廃止が進んでいる県」と言う事が出来ます。
 その流れの中で今度は茨城交通湊線も廃止されようとしています。今や銀行管理下で債権放棄を受けて経営再建中の茨城交通は「不採算事業」として07年3月には「国土交通省へ廃止届けを提出する」と言われています。(参照:茨城新聞2/26「 湊線問題 茨城交通 市試算に“沈黙”存続の条件不透明 」)この様な厳しい経営状況の中で湊線は存続することができるのか?それとも茨城県下に吹き荒れる「ローカル線廃止のドミノ」に呑み込まれるのか?と言う点に関して考えて見たいと思います。

 ・ 何故ローカル鉄道で破綻まで合理化しないのか?

 先ず「経営破綻した企業」に良くありがちな話ですが先ず言える事は「ムダが多い」と言う点です。特に「何でこんなに車両を持っているの?」と思いたくなる様な保有車両の多さには疑問を抱くと同時に、ムダの多い「経営の不在」が今まで累積してローカル線の経営余力を奪っていた事が、積もり積もってローカル線の寿命を縮めたという事はできないでしょうか?
 本年訪問したローカル鉄道で「電車の博物館」と言われた高松琴平電鉄・「気動車の博物館」状態の鹿島鉄道・必要数の倍近い車両をコレクションする茨城交通どれも苦しい状況に追い込まれています。高松琴平電鉄は民事再生法申請による経営破たん・鹿島鉄道は路線廃止・茨城交通はその両方の銀行管理と路線廃止と言う厳しい状況であるのは周知の通りです。

   
左:多数留置されている茨城交通車両@那珂湊駅構内   右:似たような状況の鹿島鉄道車庫@石岡駅構内

 何故この様な状況になるのか?それは「無駄を省き合理化を進める」と言う経営の原則を考えず、只漫然と経営を進めてきたと言う事に原因が有ると言えます。高松琴平電鉄は大西一族のオーナー企業・茨城交通は竹内一族のオーナー企業・鹿島鉄道は関東鉄道の子会社(京成の孫会社)と言う状況に有り、オーナー企業は「経営の不在」と言う状況に陥りやすいのは歴史が示すとおりですし、子会社・孫会社と言うのも「親の支持待ち」と言う状況に陥りやすく「事流れの経営」に終始しやすいと言うのは一般的事象としてよく有る話です。高松琴平電鉄・茨城交通・鹿島鉄道は正しくその「一般的事象」に嵌ってしまい今の様な状況を現出する要因の一つを抱えてしまったと言えます。
 その象徴が鉄道会社にとってお客様に提供する最大の商品の一つである「車両」に関する投資の不在です。お客様に綺麗で快適性の高い車両を提供する事(新しい車両で有る必要は無い!)はお客様へ提供する基本的サービスの一つです。しかしそれでもこれらの会社は車両への投資が行われていましたが限定的であり極めて劣るサービスしか提供できないと言う問題が有ると言えます。
 又年式の経過する車両を保有すると言う事は減価償却費がかからないと言うメリットは有る物の、交換部品の乏しい経年の高い車両を持つ事はメンテの点で不利を抱えますし部品入手等でコストが掛かる場合があります。加えて故障が年式に比例して増加するとその分予備車も抱えなければならず、経済的には非効率的で有ると言えます。
 実際問題として「設備投資をするほどのキャッシュフローが無い」と言う問題が有る場合もありますが、此処で挙げた例の会社の場合バブル崩壊前までは少なくともその様な状況に有ったとは思えません。キャッシュフローが有るのに設備投資をしなければ将来的に多くの原価が発生する要素になると同時に後でより巨額の設備投資が必要になる事になり、その事が最終的に会社の首を占める事になる場合が有ります。
 例示した様に茨城交通も同じ状況であると言えます。元々湊線は2編成しか運行できない施設ですから2両編成で運転しても予備を含めて5両有れば十分です。それなのに新型車として95・98年に3710系・02年に37100系を導入して一見継続的に設備更新をしている様に見えますが、「後1〜2両投入して全部新型にする」と言う投資を行わず、しかも今は 近代化補助 を受けて居る訳でなく投資もせず放置している上に余剰車両を多く抱えている状況です。その上で無駄な予備車を多く抱えている状況で厳しいローカル線の経営が出来るのでしょうか?「経営の不在による合理化の不徹底」と言うのは湊線の採算悪化の大きな要素で有ると言えます。

 ・ 今のままで湊線は生き残ることができるのか?

 その様な状況下で、果たして湊線は存続することができるのでしょうか?少なくとも今の情勢を分析する限り本年3月末までの間で茨城交通が国土交通省に廃止届けを出す事はほぼ間違いない状況に有ると言えます。その中で湊線を存続させ、日立電鉄・鹿島鉄道と続いてきた「茨城でのローカル線廃止のドミノ」を食い止める事ができるのでしょうか?その点に関して考えて見たいと思います。
 先ず現状の収支ですが、冒頭に掲げている茨城交通湊線の経営状況についての指標を見る限り、全社的には苦しい経営状況で赤字が続いていて、鉄道事業自体も赤字基調で有る物の事業全体の赤字に比べると鉄道事業の営業赤字はチョット赤字と言う状況であり即「路線廃止」と言うだけ厳しい状況には無い事は明らかで有ると言えます。只この鉄道事業の収支には利益率の極めて高い光ファイバーケーブル敷設に伴う賃貸料収入が年4000万円有り( 2/26茨城新聞 より)しかもその大部分が利益と言う事から考えるとその取り扱い次第で収支はガラリと変る状況に有ると言えます。
 又下方へぶれる可能性の高い収入に対し支出は無駄を減らす事は出来ても大幅に合理化する事は難しいと言えます。設備投資に関しては「上下分離」や「近代化補助の会社分自治体負担」等で賄うことが出来て、車両を新型に入れ替える事は可能です。しかし26名の従業員をこれから大幅に減らすことは困難でしょうし、給与支出で1人500万掛かっていたとしても6名減らしても原価Down3000万円にしかなりません。これでは今の収入に対しては黒字になりますが、光ファイバーケーブル敷設に伴う賃貸料収入を除くと未だ赤字は消えません。しかも今後とも茨城交通試算の様に乗客が減る可能性も有りより減収になる可能性も有ります。そうなると今の状況においては原価を改革する事で原価Downを図る事は出来ますが、最終的に鉄道事業だけで黒字を確保する事は難しいと言えます。

 この様に考えると「収入を増加させる」方策もしくは「付帯賃貸収入を鉄道事業に参入させた上で現状の旅客収入を維持させる」方策を練らなければなりません。しかしそれは簡単な事では有りませんが、例えば本年3月で廃止になる鹿島鉄道と比べるならば未だ湊線活性化の方策を取る為の潜在的可能性は有ると言えます。
 其れは同じ様な路線環境下の那珂川の対岸の鹿島臨海鉄道が水戸〜東水戸〜常澄〜大洗間で都市近郊輸送で好調と言う状況から見れば、沿線に大洗と似たような都市規模で産業・観光資源も有る那珂湊が有る湊線も、利便性を上げればそれなりに利用される可能性も有ると言えます。しかし「水戸直結」でないのは大きなマイナスですし、沿線で大きな人口集積が有るのは那珂湊だけと言うのはマイナスと言えます。今でも乗客が減少傾向に有る事から考えても都市近郊輸送鉄道としての成立は残念ながら難しいと言えます。
 となると前にも述べた「観光需要の掘り起こし」と言う方策も考えられますが、この地域には大洗〜那珂湊地域に跨って「水族館・ひたちなか海浜公園・海水浴場・アウトレットモール・魚介類直売所」と言うような観光施設が整っていますが、東京からの観光客の大部分は常磐道〜東水戸道路〜常陸那珂有料道路と言う高速道路アクセスが整備されて居る為、車で来て日帰りで東京方面に帰ると言う行動が主流になっています。過去には 海水客輸送や上野〜阿字ヶ浦間で直通運転 が有りましたが今は無く、加えて常磐線を水戸・勝田で降りた後の移動手段が不足しているが故に「公共交通でこの地域に観光」と言う流れは殆ど無い状況に有ると言えます。
 こうなると「鹿島鉄道より目は有るが、残念ながら存続させるのは難しい」と言うのが現状で有ると言えます。実際地元では「湊鉄道対策協議会」が出来て、ひたちなか市長が茨城交通を中心とした関係者を訪問し交渉するなど、沿線自治体が存続に乗り気になっている点が鹿島鉄道よりプラスで有るとは言えますが、「かしてつ応援団」で全国区になった茨城名物の高校生の存続運動も未だ盛んでなく沿線住民の存続運動も官製の「 おらが湊鐵道応援団 」が有るだけで、地域全体が「存続に向けて努力をする」「地域の公共交通の有り方について検討する」と言う状況になっていないと言えます。すでに実質的には「あと1年」と言う時限が切られたと言う事から考えて今の流れのままでは湊線存続は極めて難しいと言う事ができるのではないでしょうか?

 ・ 茨城交通を今のまま放置したら県央部の公共交通は壊滅する?

 加えて問題なのは整理回収機構の手を借り今や「銀行管理下」にある茨城交通の存在です。今回の廃止問題も「銀行管理下での再建計画」で出てきた問題ですが、これは(JRの幹線以外の)茨城県県央部の公共交通全体の問題で有ると言えます。この再建計画での「不採算事業からの撤退」が湊線だけで終わるとは限りません。その次にバス事業の各路線に手を伸ばす事は確実です。
 確かに経営破綻に陥った公共交通運営企業はたくさん有ります。しかし経営破たんが公共交通の側面から見て必ずしもマイナスでは有りません。これは経営者等が入れ替わり「事業の白紙再生が出来る」と言う意味で必ずしもマイナスでは有りません。それは 破綻からの再生 で見事にサービス向上を果たした高松琴平電鉄の例が示していると言えます。
 しかし茨城交通の場合これが必ずしも当てはまっているとは言えません。実質的には経営破たん→銀行管理となっていますが、未だにオーナー家の竹内家が経営の実権を握っていて竹内順一社長・竹内雄次常務と言う体制で経営がされています。経営不振で銀行管理下にありながらオーナー家の経営が排除されていないと言う事は、会社と言う個人資産を守るために最大限努力をする事になり、其れが「企業の存続を最優先に考えている」( 2/26茨城新聞 )と言う「企業の社会的使命」を考えない経営に成り下がる事を意味しているのです。「企業の存続を最大限に考える」と言う事は社長・常務にしてみれば「(自分達の過去の経営の失敗を棚上げして)自分達の資産を守る」と言う事を意味しますし、整理回収機構・銀行にしてみれば「(放棄後の)残存債権の確実な回収を図る」と言う事であり、そこに誰も「地域と公共交通」と言う視点は存在しません。其処が最大の問題で有るといえます。
 こうなると「茨城県県央部公共交通維持の最大の癌は銀行管理下の茨城交通とオーナーとして居座る竹内社長・竹内常務の存在」と言う事に成ります。オーナー家も銀行も「不採算事業の切捨て」と言う名前の下で今後湊線に限らずバス事業でも不採算の地域路線を中心に切捨てを図る事は間違い有りません。今回の湊線廃線問題は「危機の始まり」に過ぎないのです。

 民間企業で有る以上「社会的使命」と言う文句の下で不採算事業に関して事業の継続の強制を図る事は好ましく有りません。又経営者にしてみれば「会社の存続」が最大の使命で有る事は此れも間違い有りません。しかし其れは普通に経営をしている企業に当てはまる事であり、債権放棄を受けた上で銀行管理下に有りながらオーナー家が居座ると言う「企業モラルゼロ」の企業にまで当てはまるとは言えません。この様な「企業モラルゼロ」の企業に社会的使命の強い公共交通を担わせそれを維持するために税金を投入するというのが果たして正しい事なのでしょうか?私はNOで有ると思います。
 少なくとも「モラルゼロの経営」を行う企業に県の公共交通を委ねる今の状況だけは避けるべきです。本来は高松琴平電鉄のように「経営破たん→オーナー家の退場→県・沿線自治体が資金を出しつつ地元財界の協力の下新体制を作る→経営の改革を行い公共交通の利便性を向上させると同時に企業を再生させる」と言う道筋が作れれば問題は有りませんが、茨城交通の場合高松琴平電鉄の様な法的整理ではなく私的整理で有った為に公的な力で経営者を退場させる事は非常に難しいと言えます。
 こうなると「後は幸運を期待する」とか「オーナー家の考え方の転換を期待する」と言う「待ちの方策」も有りますが、「攻めの方策」を使い一つだけ経営の改善を図れる方策が有ります。それは「常陽銀行の持株」を利用することです。少なくとも決算単信に有るように常陽銀行が20%〜50%の茨城交通株を持っている事は間違い有りません。少なくとも96年段階で竹内家の持株は約13.5%〜25.4%(上記鉄道ジャーナルより)であると推測されますので、今の段階で持ち株数で常陽銀行≧竹内家となっている可能性が高いと言えます。その場合常陽銀行の保有株を手に入れた場合、可能性として現在のオーナー家である竹内家を追放し茨城交通を改革し茨城県県央部の地域公共交通を維持する事が可能になる可能性が有ると言えます。
 今や茨城県県央地域の公共交通の担い手で有る茨城交通を維持しその公共交通の担い手を改革するには、常陽銀行保有株を入手する事で茨城交通の実質的保有権を入手すると同時に高松琴平電鉄が行った様な「県民の支持を得られるような企業になるために」徹底的な企業改革を行う事に尽きると思います。最終的には茨城交通を第三者に譲渡して新しい企業として歩みださせるとしても、其れまでのお膳立てを出来るのは茨城県県央地域の広域的な公共交通に責任を持つ立場でしかも常陽銀行を「ウン」と言わせられる存在でしかも数十億〜百億単位の資金を一時的であれ出せる存在となると、この様な大規模な手術を行う事が出来るのは茨城県しか有りません。
 少なくとも此れだけの大手術をしなければ湊線だけで無く茨城県県央地域の公共交通維持は不可能なのか?と言う事に成りますが私もYesともNoとも言えないと思います。他に手段は有るかもしれません。少なくとも自治体が地域交通企業を乗っ取る的な行動は「綺麗な手法」とは言えません。本来なら茨城交通自体の自助努力で改善が必要で有ると言えます。しかし今の状況を見る限りオーナー家で有る竹内家の退陣による自浄は期待できる状況には無いと考えられます。その中で如何にして地域の公共交通を担う企業を「収益を追求しつつ顧客の県民に尽くす企業」として再生できるか考えなければ、茨城交通と地域に取り残された時間は残念ながら多くないと言う事ができます。今のままでは「残るのは荒涼たる公共交通不在の砂漠」と言う状況が来るのは遠くない将来で有ると考えます。

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 今回茨城交通湊線を訪問して「日立電鉄・鹿島鉄道」と続いた茨城県のローカル鉄道廃止の流れが茨城交通湊線にも「遂に波及したか」と思い、その事について焦点を当てようと思い書き出しましたが、実際考えれば考えるほど「その奥底に有る問題の根深さ」は大きく広いものであると考えました。
 私も企業経営者の端くれです。まして小さくてもオーナー企業の2代目です。「オーナー企業たる物はどんなものか」と言うのは知っているつもりです。ですからオーナーが企業を経営する形態つまりは「経営における所有と経営の同一性」と言う物は、基本的には好意的に見ているつもりです。オーナー企業とは自己の資産の極大化のために「血の小便が出るほど」の苦労をしますし、株式の持分による有限責任と言えども実際は企業が負う借金の責任はオーナーにも掛かってくる物です。それだけの苦労をして経営するのですから責任も報酬もサラリーマン社長に比べれば大きくなければ「割りの合わない」と言えるほど大変な物であると考えます。
 しかし今経営責任が強く求められる状況下で、金融機関に債権放棄を求めその上での企業存続を図りながら、経営者は交代すれどもオーナー家の一族経営を放棄せず銀行管理下で役員を派遣されても経営権を維持して経営を行うと言う様な責任を取らない「モラルハザード」が実際問題として発生しているとは正直言って思いませんでした。

 その様な「モラルハザード」を起こしている企業が社会性・公共性の高い交通事業を行い、地域公共交通を維持すると言う形態が果たして好ましいのでしょうか?確かに民間企業に交通事業を行わせる事で社会の効率性やサービス向上等の側面で良い事は多々有ります。その今の日本の公共交通の基本的スタンスに関しては間違えていないと思います。
 けれども民間企業が万能なわけでは有りません。民間企業とて失敗をしますし、世間一般的に見て可笑しい事もしますし、公共に不利益を与える事もします。其れを「企業存続」「利益向上」と言う名分の下で「確信犯的に」堂々と行う場合も有ります。其れを防ぐ為に「法律」「規制」が有ると言えますがそれだけでは完全で有るとは言えません。
 良く「官の失敗」と言う事は言われますが、「民の失敗」と言う物も確実に存在します。今回の茨城交通の例は正しく「民間の失敗」であると言えます。只茨城交通の再生スキームに関して言えば「法的整理」でなく「私的整理」で有る以上、金融機関等の当事者の判断で如何なる事が行われても別に何も言われる筋合いの物では有りません。しかし其れが波及して公共性の高い公共交通の存続に影響するとなると又問題は別になると言えます。企業理論的には「元々は内部補助で努力していたのだから今後は其処まで面倒は見ません」と言う事になり別に問題ないと言えますが、その一言で経営努力をしないで放置してきた公共交通が「経営上の不採算」と言う理由で有る日突然廃止されるというのは決して好ましい事では有りません。
 その様な場合やはり地域の公共交通を最終的に確保する責任の有る「官」がやはり介入して「民の失敗」を調整しなければならないと思います。それに「民の失敗」は失敗が大きくなり社会的負担が増える前に手を打たなければなりません。そうしないと最後の負担を負うことになるのは一般市民と言う事になってしまいます。そう考えると事が大きくなる前に未然に手を打たなければならないと言えます。茨城交通の場合正しく「今が手の打ち時」では無いのでしょうか?





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