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変化しつつある観光地で着実に進化を続ける交通機関とは?

−箱根登山鉄道・箱根ロープウエイと「箱根ゴールデンコース」−



TAKA  2006年06月17日




噴煙の上を一気に越える新型箱根ロープウエイ@大涌谷


 「箱根」と言えば昔から日本有数の観光地でその状況は今でも変らず、「風光明媚な景色と多い観光資源」「多種多様な温泉と宿泊施設」「東京から2時間チョットで到着する」と言う色々なメリットが重なり、宿泊・日帰りを問わず平均して年間1900万人にも及ぶ観光客を集めていて、日本有数の観光地となっています。
 箱根はその様な「世界に冠たる観光地」と言う事もあり、昔から箱根には小田急・西武・東急・国際興業と言う様な多くの交通事業者が箱根に交通・ホテル・不動産事業のビジネスチャンスを求め参入・拡大・撤退・譲渡を繰り広げてきており、その究極の形として小田急・西武の間で有名な「 箱根山戦争 」が起きるほど複数の大手交通事業者が入り乱れて事業を展開していました。
 その様な交通事業者の「事業拡張の草刈り場」とも言える大きな争いを続けていた箱根地区ですが、今大手交通事業者間の間での流れが大きく変質しようとしています。
 近年までは小田急ロマンスカー・箱根登山鉄道と箱根ゴールデンコースを保有し交通事業で優位に立ち交通事業主体に事業展開している小田急グループと箱根プリンスホテル(今はザ・プリンス箱根)を中心に保有する莫大な土地を武器にホテル・ゴルフ・伊豆箱根鉄道のバス事業等を展開する西武グループ・名門富士屋ホテルグループを持つ国際興業と言う「微妙にバランスの取れた三角関係」が自然成立していましたが、2003年12月の「小田急・西武両グループの箱根地区の観光事業で連携」と言う「歴史的な和解」以降、一部での小田急・西武の連携の動きが発生するものの、西武鉄道の一連の問題が発生し提携が実効性を持たない物になり、箱根では大手交通事業グループ間では「奇妙な沈黙」と言う停滞が起きています。

 その中で今箱根には静かでは有りますが大きな変化が起きようとしています。箱根のメインプレーヤーでも有る西武・国際興業両グループは経営悪化が酷くなり、紆余曲折の挙句に投資ファンド「サーベラス」が大株主として君臨し、箱根の大型ホテルのかなりの部分が「米国資本の間接支配下」に入る微妙な状況に成ると同時に、順調に見える小田急グループも「小田原の名門上場企業」であった箱根登山鉄道を上場廃止し小田急電鉄100%保有の「小田急箱根ホールディングス」を持株会社とする「小田急箱根グループ」として再編成し、箱根事業全体の構成を再編成しています。
 その様な状況変化の中で、1993年の箱根登山鉄道750V昇圧及び3両編成運転開始・1995年の2両編成ケーブルカー導入・2002年の早雲山〜大涌谷間への新型ロープウエイ導入と言う形で小田急グループによって継続して行われてきた「箱根ゴールデンコースの輸送力増強工事」が、今回2007年6月1日の「 箱根ロープウェイ大涌谷〜桃源台間架け替え工事完成 」により全面竣工する事になります。
 今回偶々仕事で5/30・5/31と箱根桃源台に出かけ、又某サイトで6月2日に「箱根ロープウェイリニューアル完了記念オフ」が開かれ其処に偶々参加したので、ロープウエイ開業直後に箱根を初めて観光(に近い形で)廻る事が出来ました。仕事では何回も訪ねており土地勘もあり事情も知っている箱根地区ですが、今回交通機関を中心に見て廻る事が出来たので、「関東鉄道めぐり」に小田急の箱根ゴールデンコースを取り上げて見る事にしました。

 参考HP:  小田急箱根ホールディングスHP箱根登山鉄道HP (登山電車・ケーブル)・ 箱根ロープウエイHP箱根観光船HP
       箱根町HP「統計はこね」トップページ
      TAKAの交通論の部屋「 小田急新型ロマンスカーVSE試乗記 〜VSEは何をもたらしたのか?〜

 「箱根登山鉄道 経営指標」
年度営業キロ輸送人員輸送密度職員数営業収益営業費用全事業経常損益
平成13年度16.2km9,637千人10,728人/日193人2,684,392千人2,481,882千円486,160千円
平成16年度16.2km9,202千人10,321人/日166人2,859,809千円2,659,220千円165,390千円

 「箱根登山鉄道(索道) 指標」
年度営業キロ輸送人員旅客収入
平成13年度1.2km1,289千人355,630千円
平成16年度1.2km1,241千人371,806千円

※上記数値は「数字で診る日本の鉄道2003・2006」より抜粋・引用してます。

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 (1)「箱根ゴールデンコースの入口」小田急ロマンスカー

 先ずは「観光に箱根へ鉄道で行くなら」と言う基準で選べば、筆頭に上がってくる交通手段「小田急ロマンスカー」についてコメントしたいと思います。
大体私が箱根に行く時には仕事で行く事が多いので車で行く事が多いのですが、車以外の場合は時間・東京での乗降場所により「新幹線・小田急ロマンスカー・東海道線グリーン車」の中から最適の物を選択する事が多いのが実情です。しかし今回は(実質的には初めての)箱根観光であり、同時に10:10宮ノ下集合と言う時間的制約も有ったので観光にはチョット早い時間では有りますたが新宿8:00発の「はこね5号」で箱根湯本に向かう事にしました。
 今回はこね5号には全区間乗車しましたが、観光にベストの時間である9:00〜10:00と言う時間にはチョット早い時間でしたが、前日の段階では空席が有った物の当日の車内は乗車率新宿で50%・町田で80%程度まで乗り込み、小田原で3分の1以上が降りたもののかなりの観光客で埋りました。箱根の観光的には気候的には良いですが「ツツジ」には遅く「あじさい」には早くエアポケット的な時期と認識していましたが、此れだけの乗客がいるとは驚きです。
 今まで「ロマンスカーでの箱根観光客は減っている」と言う話を良く聞き統計の数字上は減っている事は間違いありませんが、実際に休日に良く見てみると(ビジネス利用時には殆ど見ていない・・・)ロマンスカーには未だ無視できない観光客がいる事は明らかです。民鉄有料特急での観光客の落ち込みは東武・近鉄にも見る事が出来る現象ですが、小田急ロマンスカーの場合は未だ観光客減少の影響は他社より少ないようです。

  
左:ロマンスカーはこね5号車内@小田原  右:ロマンスカーからの降車客で賑わうホーム@箱根湯本

  
左:未だにVSEを撮る人は多い?@箱根湯本  右:箱根ゴールデンルート最後の改善ポイント?改良工事が予定されている箱根湯本駅

 又過去に「 小田急新型ロマンスカーVSE試乗記 〜VSEは何をもたらしたのか?〜 」でVSE投入の効果を取り上げましたが、未だに展望台付の「真のロマンスカー」は未だに人気が有る事は間違い有りません。しかしその人気に対して今回はこね5号に用いられていた HiSE車10000型は既に一部が廃車され長野電鉄に譲渡 されるなど、展望台付のロマンスカーの衰勢が目立ち始めています。
 しかし元々はこね号には展望車付のロマンスカー運用が多いですが、土休日ダイヤでは「 新宿発8:00〜10:10の間の5本のはこね号 」には展望車付のロマンスカーが集中的に投入されているように、一般の人たちにも「ロマンスカー=展望車」と言うイメージは未だに根強く、既に投入後1年以上経って物珍しさが無くなっている筈のVSEですが、チケットは取りづらく写真の様に未だに記念写真を取る人が絶えないと言う人気の状況です。
 そういう意味では箱根観光に取っては小田急ロマンスカーは「箱根への運搬手段」として非常に重要な意味を持ち、改善投資が実に成りつつある箱根ゴールデンコースへの集客と言う点から見ても、計画中のゴールデンコース玄関口の箱根湯本駅の改修工事と合わせて、ポストVSEのロマンスカー政策を如何にするか、箱根観光と小田急箱根グループに取り重要であり難しい課題で有ると言えます。
 特にポストVSEは要注目で有ると言えます。小田急電鉄では「 ロマンスカーの地下鉄乗入と新型ロマンスカーMSE製造 」を打ち出していますが、あくまでMSEは「マルチ」と言えども近郊輸送がメインであり、箱根観光に取っては7000系・10000系の展望車付ロマンスカーの更新で「展望車付で個性的な」ポストVSEを如何にして登場させ、VSEで集めたロマンスカーへの注目を継続させるか?と言う点です。人気と注目と言う点でVSEが大成功を収めた分、ポストVSEのロマンスカーは難しいですが任務重大と言えます。

 (2)「天下の険」を登る日本最大の登山鉄道 箱根登山鉄道

 ロマンスカーで箱根湯本に着きましたが、「温泉に入る」と言うだけであれば江戸時代の「 箱根七湯 」に挙げられているほどの湯本温泉で目的は果たせますが、「観光」となると箱根湯本駅は未だ「箱根の入り口」に過ぎません。小田急ロマンスカーで湯本まで来た人達はここから「箱根登山バスor伊豆箱根バスで国道1号線を登る」「箱根登山鉄道で強羅・ゴールデンルートを目指す」と言う2つのルートを選ぶ事になります。今回私は「宮ノ下10:10集合」と言う時間の約束が有ったため、箱根登山電車でさらに奥を目指すことにしました。
 実際は「2つのルート」と言っても、観光のメインルートは箱根登山電車になります。今回もロマンスカー接続の箱根登山電車に乗ったのですが、2両編成だった事もありかなり激しく混雑していました。箱根登山鉄道は箱根ゴールデンコース各交通機関の一連の輸送力増強工事のトップを切り1993年に3両編成化を果たしています。しかし幾ら箱根湯本で一段輸送量が落ちると言っても20m6〜7両編成相当のロマンスカー毎時2本+20m6両編成の小田急直通一般車両毎時4本を受けて湯本から先登山電車区間では15m2〜3両編成登山電車毎時4本では休日には輸送力が少なすぎます。
 しかし現実問題として交換施設はフルに稼動させていませんが、これ以上の増発は出来ても大量の増発は出来ないでしょうし、これ以上の増結も塔ノ沢駅のトンネルが足かせとなり困難であると言えます。93年の時も「塔ノ沢のトンネルを手掘りで拡幅して3両編成用の交換施設の拡幅をした」上での3両編成化達成であり、「その困難をもう一度」となると非常に難しい物があると言えます。そうなると今の段階で考えられる輸送力増強手段は「なるべく早く全編成3両編成化を行う」&「今の遊んでいる交換施設・ホームをフルに活用して増発を行う」と言う程度でしょう。しかしそれでも大幅な輸送力増強は困難でしょう。
 そうなると写真の程度の混雑は未だマシで、トップシーズンのように「積み残し」が出る状況も仕方がないとも考えられます。普通鉄道ならいざ知らず箱根登山鉄道は「日本最大最急の登山電車」です。これが売りであると同時に輸送力増強のネックになるとは悲しい話です。只観光トップシーズンには湯本⇔宮ノ下間は箱根登山電車・国道1号線と言う二つの交通機関両方とも混雑で麻痺します。観光地として考えた場合この区間の鉄道・道路の混雑は何とかしたい物です。

  
左:発車を待つ強羅行き登山電車@箱根湯本  右:観光客で混雑する登山電車車内@塔ノ沢

 登山電車は湯本を出た後いきなり80‰の勾配を20〜30km/h程度の速度で喘ぎながら登っていきます。これだけの急勾配ですからこのような低速は仕方ないと言え、実際は観光だからこそ我慢できる物であると言えます(仕事で何回か利用した時にはイライラするほど遅く感じた・・・)。
 登山電車は湯本〜強羅間の前半では比較的トンネルが多く、後半は地形に沿ったR=30を最急曲線にする比較的曲線が多い線形となっています。塔ノ沢を出て長いトンネルを抜けるといきなり左右の視線が開けます。そこが「日本で(現存)最古の鉄道橋」として有名な出山の鉄橋( 早川橋梁 )です。
 この鉄橋は早川と国道1号線を超えるために深さ43mの早川の谷に架けられた鉄橋ですが、登山電車・国道1号線を利用するたびに見ますが、確かに景色的にも周辺とマッチしており車窓からも周囲からも「見て素晴らしい鉄橋」と言うことが出来ますが、技術的にも今から90年前にこれだけの橋を架けた事と、今から120年前の鉄橋が今でも現役で使うことが出来ると言う事から、昔の土木技術力のすばらしさを改めて感じさせていろいろな意味で素晴らしい鉄橋と言えます。

  
左:有形文化財に登録されている 出山鉄橋   右:出山信号所から見た出山鉄橋

  
左:急勾配を下りスイッチバックに入線する下り列車@出山信号所  右:日本の鉄道最大の80‰勾配@出山信号所

 早川橋梁を超えると今度は出山・大平台・上大平台と3つの信号所・駅続けてスイッチバックになります。今や日本の鉄道では車両の高性能化でスイッチバックは殆ど見なくなりましたが、箱根登山鉄道の場合は急勾配の登山電車と言う特性から、未だにこの3箇所のスイッチバックが健在です。
 これらの駅・信号所ではスイッチバックに伴う運転手・車掌の入替の為に比較的長い所要時間を取りますが登山電車は「先を急がない観光鉄道」ですから、ある意味一寸した息抜きの時間として、いい間合いを演出しています。特に車窓から早川の渓谷と出山の鉄橋が望める出山信号所は、紅葉のシーズンともなれば「最高の交換待ち」の時間であると言えます。
 箱根登山鉄道は「高速・長大編成」の運行ではない為、軌道に関しては今までそんなに重点的に手を入れている印象は有りませんでしたが、近年箱根登山鉄道が小田急箱根ホールディングス100%傘下に入ってから軌道にも手を入れている様で、今回乗ってみると写真にも有るように各所でPC枕木化が行われています。やはり小田急電鉄直轄になり投資余力が出てきた証と言う事なのでしょう。こうなると次は車両の更新にも力を入れて欲しいものです。
車両に関しては要改善事項として 2000型 に2編成2両編成が残っていますし、非冷房の モハ1形モハ2形 も3編成合計7両が残っています。歴史的に価値のあるモハ1形を1編成2両残すとしても、残りの2編成5両と2000型の2両編成の2編成は、混雑緩和とサービス改善の為に早急に改善して欲しいものです。

  
左:宮ノ下駅を発車する登山電車  右:登山電車の終点でゴールデンコースの結節点強羅駅

 今回は行きに関しては集合地点が宮ノ下であったので、宮ノ下で降車しましたが、帰りは箱根登山鉄道の登山区間である強羅→箱根湯本間を全区間乗車しました。
 実際は湯本〜強羅の登山区間では強羅まで乗りとおす客が大部分で、 登山電車各駅の乗降数 を見ると大平台〜彫刻の森各駅の乗降客が183千人〜267千人(塔ノ沢は68千人)なのに対し強羅は2,352千人と10倍近くの差が付いています。確かに強羅は温泉地で保養所や宿泊施設も多いですが、それ以上にこの乗降客数とケーブルカー強羅駅の1,170千人という乗降客数は「箱根登山電車で箱根ゴールデンコースを廻る人(要は強羅でケーブルに乗り換えて最終的にはロープウエイで大湧谷・芦ノ湖方面を目指す人)が多い事を改めて示していると言えます。その事は帰りの強羅駅で見て改めて感じさせられました。
 確かに登山電車は大平台・宮ノ下・小湧谷と言う箱根の温泉地を通りますが、「 年間18,905千人の観光客の内14,604千人が日帰 」と言う今の箱根では「温泉地を通る」と言う事より「効率的に観光地を廻れるルート」である事のほうが重要であると言えます。そのような変化からも今や箱根登山鉄道の役割は「箱根の温泉地を結ぶ鉄道」と言うよりかは「効率的に箱根を見て廻るゴールデンコースのひとつの交通手段」と言う位置付けに変化しているのかな?と今回改めて感じさせられました。

 (3)「芦ノ湖の女王」箱根観光船の海賊船

 今回の団体での箱根観光のルートは「宮ノ下集合→ 対星館大和屋ホテル で足湯&日帰り入浴→バスで元箱根へ→海賊船に乗る→箱根ロープウエイに乗る→ケーブルカー・登山電車で山を降る」と言う箱根ゴールデンコースの普通の廻り方から見ると逆ルートだった為、登山電車で宮ノ下で降りて団体と合流し2件の旅館で足湯&入浴をして宮ノ下で昼食を取った後、海賊船に乗り芦ノ湖の湖上経由で桃源台に向かう為に箱根登山バスで元箱根港を目指しました。
 今や「海賊船」で芦ノ湖上を独占しつつある箱根観光船ですが、今回箱根観光船も3月に 新造海賊船ビクトリー号を進水 させています。芦ノ湖上には小田急系の箱根観光船と伊豆箱根系の伊豆箱根船舶が遊覧船を運営していますが、歴史的には伊豆箱根の方が断然古い物の、後から参入した箱根観光船が「海賊船」で注目を集め今や年間利用客数が箱根観光船2,405千人:伊豆箱根船舶1,003千人と2.5倍の差が付く状況に成っています。
 箱根観光船の箱根側の拠点である元箱根港は成川美術館と箱根神社の一の鳥居の前に有り、建物は小さいながらも箱根登山バスのターミナル・売店・バスと乗用車の駐車場を備えており、湖岸が遊歩道になっていることを合わせて、観光船に乗るだけでなく周辺を目的地とした観光客も集まる交通・観光の拠点となっています。

  
左:箱根観光船の新造海賊船ビクトリー号  右:観光船とバスの結節拠点 元箱根港

  
左:観光客で混雑する海賊船への乗降風景@元箱根港  右:ロープウエイと観光船の結節点 桃源台港

 今回バスで元箱根港に着いた時には丁度海賊船が出港した後で、仕方ないので(行程的には予定通りだが)次の観光船を待ちながら港の周囲を散策し14:30発の海賊船で芦ノ湖を北上して桃源台を目指す事になりました。
 15:30近くになり元箱根港で船の到着を待ってもなかなか海賊船は来ません。結局元箱根港に海賊船が着いたのは出発時間15:30直前でした。着いた船から降りる客も船を待つ客も多く流石に芦ノ湖の湖上観光には最高の季節と言う事も有り、混雑も激しくその為に運行が遅れ気味になっているようです。
 慌しい乗降が終わると直ぐに出発になりました。流石に新造船と言う事も有りエレベーター等のバリアフリー設備や「今湖上の何処かを示すディスプレイ」等の案内設備も充実しています。只折角の湖上観光なので、船内にいても面白くないので最上階のデッキに出て芦ノ湖の風景を楽しむ事にしました。しかしこの様な考えの人もやはり多いようで、2層有る屋外のデッキは多くの観光客で込み合っています。船室内よりデッキ上の方が乗客が多いぐらいです。
 晴天下の芦ノ湖の景色は非常に綺麗で私は進行方向右側(東岸が見える)展望台にいましたが、広大に広がる緑の中に箱根神社・山のホテル・ザプリンス箱根等の建物が綺麗に立っていてその上に駒ケ岳と駒ケ岳ロープウエイが見えて、綺麗でありながら変化もあり30分の航海があっと言う間に過ぎてしまう程です。
 駒ヶ岳の麓を過ぎて暫く進むと芦ノ湖の北岸である桃源台・湖尻に着きます。此処でも小田急と伊豆箱根の港が並んでいますが、小田急の港は「桃源台」伊豆箱根の港は「湖尻」と歩いていける距離なのに名前が別々になっています。只場所は湖尻の方が開けて周辺の店等は多いですが、バス・観光船・ロープウエイの結節点となっている桃源台の方が人出は多い感じです。此処にも「小田急と西武の対立の跡」が残っています。今や数字的にも「箱根観光船」が芦ノ湖の主役で有る事は誰にも否定は出来ません。ですから箱根観光船を中心とした湖上交通の整理と言うのも必要な気がします。1つの場所に2つの港は如何にも非合理的で不親切と言えるでしょう。

 (4)今回最大の目玉「複式単線自動循環式フニテル」に改良された箱根ロープウエイ

 箱根観光船で桃源台港に到着した後は、今回の最大のイベント「箱根ロープウエイ近代化工事」に伴い「複式単線自動循環式フニテル」に改良された箱根ロープウエイ試乗になります。
 箱根ロープウエイは箱根ゴールデンコースの近代化の一環として 2回に分けて近代化架け替え工事 を行い、2002年には根元に当る早雲山〜大涌谷間が今回の2007年に大涌谷〜桃源台間が「複式単線自動循環式フニテル」に架け替えられ、ゴンドラの大型化により輸送力が増強されると同時に、吊りのワイヤーが1本から2本に増えて天候に対する耐候性が強まり、今までは変りやすい箱根の天候に泣かされてきましたが今回のシステム変更で安定運行性を向上させる事が出来ました。
 又この近代化架け替え工事に伴いロープウエイ関係の機械更新とも絡んで各駅とも新築されましたが(その為原動機室等は姥子に移転している)、特に 桃源台駅 は新築に伴い売店・レストランが整備されると同時にバス乗り場・海賊船船着場・ロープウエイ乗り場が一体的に整備され、又バリアフリー設備等が整備されて見違えるような駅に改修されました。

  
左:観光船⇔ロープウエイに加え路線バス・高速バスとも乗換できる桃源台駅  右:桃源台〜姥子間を走る箱根ロープウエイ

 今回 5月31日に国土交通省・地元自治体・地元関係者を招いて行われた竣工披露 ・翌日の 6月1日の正式オープン と言った開業関係イベントが一段落した6月2日が丁度土曜日だった事も有り、仕事で開業直前に訪れているにも関わらず6月2日にとあるサイトの「箱根ロープウェイリニューアル完了記念オフ」に参加して、初めて箱根ロープウエイ全線を試乗する事が出来ました。
 この度の一連の近代化架け替え工事により一番変った事は2002年の第一期工事当時には「日本で唯一」と言われた「複式単線自動循環式フニテル」を採用した事に有ります。下の写真が今までの旧式のゴンドラと今回更新された「複式単線自動循環式フニテル」のゴンドラですが、大きくいえばゴンドラを吊るケーブルが1本から2本に増えて「片手でぶら下がっていた物が両手でぶら下がる事になった」と言うのが最大の変化で有ると言えます。
 それによりゴンドラのカゴが18名乗りと大型化され今までの975人/時から1,440人/時へと約48%upと言う程大幅に輸送力が増強されたのと同時に、吊り手が増えてしかも両方で支えることにより、ゴンドラの最大の敵であるが箱根では良く吹き荒れる「強風」に対する耐候性が高まり、安定運行が期待できると言う点に有ります(年間約30日の天候悪化での運休が約15日に減ると言われている)。

  
左:今までの旧式の「自動循環式ロープウエイ」のゴンドラ  右:新型の「複式単線自動循環式フニテル」のゴンドラ

  
左:「複式」の為2つ有る緊張機@早雲山  右:乗り場上の施設とゴンドラ@桃源台

 今回の箱根ロープウエイ近代化架け替え工事は今までの「箱根登山線3両編成化工事」「箱根登山ケーブルカー車両更新」に続く「箱根ゴールデンコース輸送力増強工事」の仕上げとも言える輸送力増強工事です。しかしこの為に箱根ロープウエイが投じた資金は約70億円と言われる巨額な費用であり、しかも第一期工事では早雲山〜大涌谷間を約1年半バス代行運転で対応し、第二期工事でも大涌谷〜桃源台間を1年間バス代行する事で減収になるなど極めて大きな負担を強いています。
 しかしその投資によるロープウエイの改善効果は非常に大きく、2002年6月の第一期工事竣工の時に始めて「複式単線自動循環式フニテル」のロープウエイに試乗させてもらいましたが、偶々霧が出ていた日で「霧の大涌谷」をミルクの中を泳ぐような感じでゴンドラに乗った記憶が有りますが、悪天候下でも揺れずに乗ることが出来るロープウエイを目の当たりにして「こんなに揺れないロープウエイが有るのか!」と驚いた記憶が有ります。
 実際箱根ロープウエイは大涌谷の噴煙を一跨ぎし、晴れていれば富士山も一望できる素晴しい観光スポットを兼ねた交通機関であり、観光バスの客も「桃源台にバスを置きロープウエイで大涌谷を往復し大涌谷を観光し、その後海賊船で芦ノ湖を一周する」と言う観光コースを辿る事も出来て、乗って移動しながら観光もできると言う素晴しい交通機関兼観光スポットであり、そのロープウエイが新しくなった事は箱根の観光にとっても大きなプラスで有るということが出来ます。

  
左:新型化で発生した乗り換え通路@大涌谷  右:早雲山駅・強羅温泉郷へ向い降るロープウエイ

 只利用者に取っては「混雑せず揺れないロープウエイ」に更新された効果は非常に大きいでしょう。受けるメリットも大きいと言えます。しかしその投資をする箱根ロープウエイにしてみれば、この近代化架け替え工事で「5万人の乗客増を期待している」との事ですが、果たしてそれで70億円の投資をする効果が有ったのでしょうか?
実際の所、箱根ロープウエイを利用する人の大部分は「箱根フリーパス」所有者であると推察されます。実際今回の私達のオフ会も大部分の人が箱根フリーパスを使用していました。その場合「ロープウエイに乗る為」に箱根を訪れる人が新規にフリーパスを買うor個札で利用すると言うのであれば箱根ロープウエイにとって増収になりますが、その「5万人増」が箱根フリーパスの既存ユーザーによる利用増の場合、「箱根観光の回遊性向上」と言う点ではプラスになりますが、個々の会社の場合「収入に直結しない投資」と言う事になり極めて厳しい事になります。
 ですから今まではグループ会社内でありながら上場の箱根登山鉄道・電鉄と登山両社が影響力を持つ箱根ロープウエイと言う小田急グループでありながら微妙な関係の各社間で箱根ゴールデンコースの交通機関が運営されてきた為に、「箱根ゴールデンコースの輸送力増強工事」は五月雨式に約15年間も掛けて行われ、箱根ロープウエイも一度に近代化賭け替え工事を行えず、投資資金確保と言う問題も有り2回に分けてしかも時期をずらして行われたのです。
 その点で言えば「箱根ロープウエイ近代化架け替え工事は小田急グループ箱根交通機関運営上の問題点をさらけ出した」と言う事が出来ます。又その問題の根本には「箱根フリーパス」と言う定額性の共通乗車券による「擬似共通運賃制」による収入の分配が、個々の会社から見ると個々の会社の設備投資に対してフリーパスからの収入がそのインセンティブに成るほどの収入増をもたらさないと言う問題が有ります。その為今の様な「箱根登山の上場廃止と小田急電鉄による100%子会社化・小田急箱根ホールディングス設立による箱根の交通機関の運営の擬似一本化」が行われたのです。その点で見ると箱根ロープウエイ近代化架け替え工事が炙り出した「箱根の交通機関運営の問題点」と言うのも又深刻で有ると言えます。

 (5)廻り巡って再びボトルネックとなった?箱根登山ケーブルカー

 ロープウエイを早雲山で降りた後、登山電車に乗るために強羅に降りる間を取り持っているのが「箱根登山ケーブルカー」です。ケーブルカーは登山電車の強羅駅の西側斜面に広がる「強羅温泉郷」の保養街を貫き観光地の強羅公園の脇を通り登山電車の強羅駅と箱根ロープウエイの早雲山駅を結んでいます。
 箱根登山ロープウエイは運転距離こそ1.2kmと決して長くは有りませんが、輸送人員は1,241千人とダントツで日本一(旅客収入371,806千円で立山黒部・立山開発に続いて3番目)の規模のロープウエイです。
 その利用客の大部分は箱根ゴールデンコースの通過客であり、箱根ロープウエイの最大の輸送任務は「如何にして登山電車とロープウエイの間で順調に客を流すか」と言う点にあります。その為輸送力増強にも力を入れており1993年の箱根登山電車3両編成化に続いて1995年にはケーブルカーには珍しい2両編成新型車両が導入され輸送力増強が実施されています。

  
左:2両連結のケーブルカー@早雲山  右:ケーブルカーの軌道@早雲山

  
左:土曜日の夕方なのに混雑するケーブルカー車内@早雲山  右:ケーブルカーの乗降風景@強羅

 今回箱根登山ケーブルカーを利用したのは早雲山16:47発→強羅17:03着のケーブルカーでした。この時間はチョット遅めの時間と言う事も有り「日帰り客は東京を目指して湯本辺りにいる時間」で、加えて「宿泊客は宿に入っている」時間であり、利用客はそんなの多い時間では有りません。
 しかし箱根登山ケーブルカーはゴールデンコース利用客が集中する午前中の時間帯こそ登山電車の15分サイクルに合わせた15分毎の運転ですが、昼間〜夕方の時間は登山電車のサイクルとも合わない20分毎の運転となっています。その為「比較的利用客の少ない時間帯」と思われる、今回利用した時間帯でもケーブルカー入線前から利用客がホームに居り私たちの集団は入線後に乗車した為、既に座席が埋まっており立って乗る事になってしまいました。その後も乗客が増え続け最終的に発車時にはかなりの混雑になっていました。
 又箱根登山ケーブルカーは1.2kmのケーブルカーで有るにも関わらず、4つの中間駅を持ちこれらの駅が強羅公園及び強羅温泉郷の保養所・ホテルへのアクセス機関として機能しています。只強羅・早雲山の乗降総数1,170千人・1,051千人に対し中間各駅は37千人〜86千人程度の利用客しか居ません。その様な現状とケーブルカーの役割を考えると一部のケーブルカーは中間駅通過で輸送力を確保しても良いのかもしれません。
 実際今回の乗車でも中間駅での乗降は確かに存在したのですが、大部分の人は早雲山〜強羅間を乗り通すという実情から考えて、半分程度のケーブルカーは急行運転をして中間駅を通過しても良いと思います。ケーブルカーの中間各駅は今回のロープウエイ近代化で分断された大涌谷のように「其処が観光的にも重要な目的地」と言う訳ではありません。その様な点からも比較的混雑が激しいケーブルカーは混雑対策としての急行運転が必要かもしれません。
 同時に通過需要対応のケーブルカーと言う点から見て、強羅での登山電車との接続は考慮すべきであると言えます。その点からも9時・10時台しかない15分サイクルダイヤを全時間帯に拡げるべきであると考えます。実際今のゴールデンコースの輸送力は「登山電車>>ケーブルカー<ロープウエイ」と言う状況であり、未だ新型導入から10年チョットしか経っていない為新型投入をする訳にも行かない為、当座は「全時間帯15分間隔運転」で今の混雑を緩和すべきでしょう。そうしないと「強羅でケーブルカー乗車街の客が並んだ」と言うまでは行かないにしても、再び「箱根登山ケーブルカーは箱根ゴールデンコースのアキレス腱」と言う事になりかねないと言えます。利便性向上と混雑緩和の側面から増発は必要ではないでしょうか?

 ●(あとがきに替えて ) 将来に渡り「箱根観光の発展」に好ましい交通・観光事業の有り方とは?

 私に取り「箱根」と言うと仕事で行く事が多く、今まで「観光」と言う側面で箱根の中を廻る事は殆ど有りませんでした。(未だに箱根に観光で泊まった事は無い・・・)その中で今回仕事での箱根訪問に加えて、某サイトの「箱根ロープウェイリニューアル完了記念オフ」に参加して、有る意味初めて「観光の視点」で箱根を見て廻る事が出来ました。
 近年日本人の「海外旅行志向の増大」「ライフスタイルの変化」等々色々な事が影響して、日本の国内旅行は大きく変りつつあり、同時に日本の観光地もその変質への対応を迫られています。その点においては「日本最大級の観光地」と言える箱根も「嗜好の変化に対応しなければならない」と言う点では決して例外ではないと言えます。
 又「日本最大級の観光地」と言う事もあり、箱根は戦後〜高度成長期に企業間の激しい経済競争の舞台ともなりました。其れこそ有名な小田急と西武の間で繰り広げられた「箱根山戦争」です。この戦争(と言うと語弊も有るが・・・)は最終的に勝敗の決着は判別が難しいと言えますが、箱根の観光開発に取り「箱根山戦争」のもたらした物は決して小さくないと言えます。
 その中でユーザーたる観光客のニーズの変化に加えて、交通機関・リゾート施設の運営者たる交通企業グループを取り巻く経済環境もバブル崩壊後大きく変化してきており、その様な処々の状況の変化により今箱根全体も大きく変わりつつ有ると言えます。
 今回小田急グループの交通機関を中心に箱根を見て回りましたが、この話の結論に替えて、今後の箱根に取り交通・観光事業者の「望ましい有るべき姿」と言う点について、過去と現在において「箱根の交通・観光のメインプレーヤー」と言える小田急グループ・西武グループを中心にして考えて見たいと思います。

 ☆ 今は未だ「箱根山戦争」後の群雄割拠の状況?

 先ず箱根開発の歴史と今の箱根の現状について見てみたいと思います。
 元々箱根の観光開発に交通系資本が入りだしたのは戦争中の1942年の箱根登山鉄道の東急電鉄傘下入りが最初です。只東京の大手交通系資本が箱根に参入する前より「不動産資本が鉄道会社を買収した」と言う形で成立している西武グループが(昔の)中核会社のコクドの前身の箱根土地が1919年に箱根での分譲地開発に着手しその後芦ノ湖の遊覧船事業(箱根遊船㈱)・有料自動車道路(十国自動車専用道路・湖尻−元箱根間自動車道・湖尻−早雲山間自動車道)事業に進出しており、戦前の時代から箱根観光開発に大きな基盤を築いていました。(元々コクドは軽井沢と箱根での不動産・観光事業が事業の発端)
 又戦時中の日本電力の電力統合で関連事業の箱根登山鉄道を手に入れた東急グループですが、戦後の混乱期に強羅ホテルを小佐野賢治の国際興業グループに大東急分割で箱根登山鉄道を小田急電鉄に実質的に譲渡し箱根から実質的に撤退する形になり、その後小田急は1950年に登山バス早雲山乗入・箱根観光船設立・小田急電鉄箱根湯本乗入を実施し本格的に箱根進出を始め、1968年までの18年に渡り所謂「 箱根山戦争 」を戦い箱根の交通事業とその関連の観光事業の主導権を争い合う事になります。

  
左:小田急グループの「山のホテル」 中:西武グループの「ザ・プリンス箱根」 右:国際興業グループの「富士屋ホテル」

 その様な西武と小田急は各々の得意分野を中心に西武が箱根山戦争の争点の一つの「湖畔線自動車道・早雲山線自動車道・箱根峠−熱海峠間自動車道」を神奈川県・静岡県に譲渡し撤退するに対して「箱根プリンスホテル・仙石原プリンスホテル」を開業しホテル事業を強化するに対して、小田急グループは1960年に箱根ロープウエイ大涌谷〜桃源台間を開業し箱根ゴールデンコースを完成させるなど交通事業を中心に、グループの箱根事業を強化していきます。
 その後1945年に東急から強羅ホテルを手に入れ箱根の橋頭堡を築いた 小佐野賢治氏 の国際興業グループが1966年に 横井英樹氏 と競い合った上で名門の富士屋ホテルを買収し、富士屋ホテル・箱根ホテル等の箱根の名門ホテルを手に入れ、「箱根における交通事業者の事業展開」で第三の勢力を築く事になります。
 1950年代〜70年代の激動の時代を過ぎた後、箱根では「交通機関を握る小田急・大量の土地を背景にホテル業・ゴルフ場等を展開する西武&コクド・名門ホテルグループとその資産を手に入れた国際興業グループ」と言う群雄割拠とも言える「三竦みの状況」が長い間続く事になります。
 しかし前述の様にバブル崩壊に伴う土地価格の下落・銀行の破綻等に起因し、国際興業がUFJ銀行他の多額の負債に起因して投資ファンドサーベラスの傘下に入り、西武鉄道も名義株問題に端を発した「西武事件」の結果2005年10月に同じくサーベラスによる資本増強を受け、同じ様に「実質的には外資の傘下に入る」状況に成ってしまって居ます。
 その様な燦々たる状況の中で、唯一順調に見える小田急グループも上場子会社の箱根登山鉄道を株式交換による事業債編成を行う状況に成っており、(箱根が原因ではないにしても)今や箱根で事業展開をする大手交通事業者は何処も「悪戦苦闘」と言う状況に成っていると言えます。

 ☆ 「小田急箱根ホールディングス」による再編成で積極的な投資を進めている小田急グループ

 その様な大手交通資本の退潮の中で、上手く事業再編成を果たし其処から反転攻勢をかけているのが箱根の交通事業の大部分を握っている小田急グループです。
 元々箱根に関して言えば小田急グループは小田原・箱根の名門企業で東証2部上場の「箱根登山鉄道」・芦ノ湖の遊覧船事業を行う「箱根観光船」・ロープウエイを運営する「箱根ロープウエイ」・山のホテルやハイランドホテルを運営する国際観光等複数の事業者を抱え、加えて箱根登山鉄道・箱根観光船は小田急電鉄以外の資本も入っていると言う様に「表向きは一つのグループだが実体は複雑な運営体制」と言う状況になっています。
 その様な状況の中で小田急グループも「連結経営・連結決算重視」の世間の流れも踏まえてグループ会社間での再編成を進めていますが、箱根関係の交通事業も「運営者は複数多種多様だが収入は箱根フリーパスによる擬似共通運賃制と言う体制」「箱根登山鉄道の(色々な意味での)経営不振・退勢」「箱根ロープウエイの近代化架け替え工事の資金調達の問題」等々の経営上の問題が発生し、時代の流れとそれらの問題解消の為に、今回「箱根登山鉄道上場廃止・株式交換による登山・観光船の100%子会社化」「箱根交通事業統括持株会社とそて小田急箱根ホールディングス設立による再編成」が行われました。

  
左:登山電車で全面採用された簡易型PASMO読取機@宮ノ下  右:箱根登山バスにもPASMOが導入されている@元箱根

 その様に再編成により、小田急グループの箱根の交通事業は小田急箱根ホールディングス傘下に統一される事になりましたが、其れにより色々なメリットが生まれてきていると言えます。その最大の物は「投資スピードの向上」と言う点で有ると思います。
 小田急グループの箱根事業が小田急箱根ホールディングス傘下に統一され、小田急箱根ホールディングスには小田急電鉄から人が送り込まれて統制が行われたことにより、小田急電鉄本体(厳密に言えば経理・財務子会社の小田急フィナンシャルサービス)から投資資金が供給される事になり、小田急電鉄自身の(特にホテル関係への)「箱根への投資促進」と合わせて小田急箱根ホールディングス統轄下での事業子会社による投資が積極的に行われることになります。
 「小田急グループの箱根統轄子会社設立の最大の効果」は正しくその様な「投資促進」の効果に有ったと思います。箱根観光船の新造船投入・箱根ロープウエイ近代化架け替え工事二期工事どちらも近年の箱根における小田急グループ交通事業への積極的な投資の成果ですが、これらに「小田急電鉄直轄下」になった事への効果は非常に大きいと言えます。
 加えて今回箱根に行って驚いたのは、箱根登山鉄道・箱根登山バスにPASMOが大規模に導入されつつあることです。箱根登山鉄道の場合自動改札のある駅はPASMO対応に、自動改札の無い駅は簡易読み取り機が付いています。又箱根登山バスの場合未だ順次導入で全車導入されている訳では有りませんが、東京のバス会社でも「地方のバス路線」よりかは速いペースで導入が進んでいますが、同じ小田急グループのバス会社でも小田急バス・神奈川中央交通が一部営業所より順次導入中・立川バスが19年度に導入と言うペースであり、其処から比べると箱根登山バスの導入ペースは速い物であると言えます。
 此れも小田急の「箱根交通事業の再編成」の成果で有ると言う事でしょう。やはり小田急電鉄本社直轄下で(良い意味で)影響力が強まったのは小田急箱根グループだけでなく箱根の交通全体で見て「大きな資本の直接バックが付いた」と言う点で大きな影響力が有ると言えます。この後も箱根の玄関口である「箱根湯本駅改修工事」も計画されていると聞きます。その様な投資が箱根に取り大きなプラスになり、そのプラスが箱根における小田急グループの存在をより大きな物にしていく事は間違い無さそうです。

 ☆ 「事業再編成に成功した小田急・再建途上の西武」箱根に2社の交通事業者が並存する状況は好ましいか?

 この様に今箱根に関係する交通事業者はその本体の背負う事情により明暗が分かれつつあります。しかし本体の事情が変ろうとも変らない事が有ります。それは「箱根山戦争」の原因にもなった「箱根には小田急系・西武系2つの交通事業者が並存している」と言う昔から有る根本的問題です。
 しかも芦ノ湖上の遊覧船に関しては小田急系の箱根観光船と伊豆箱根系の伊豆箱根船舶が殆ど同じ様な形で並存していて、元箱根・桃源台(湖尻)の港は近くに並んでいる状況です。又バスも箱根登山バスと伊豆箱根バスが小田原(湯本)〜箱根町(元箱根)線や小田原(湯本)〜桃源台(湖尻)線などは経由地等が違えども殆ど並行して走っている状況です。
 特に遊覧船とバスが並存している事に「元々芦ノ湖上の遊覧船の利権は西武が持っていた」「箱根登山・伊豆箱根のバスが走る道路の所有が西武系だった」と言う独特の問題が有りそれが「箱根山戦争」勃発の直接の原因になりましたが、今でも西武所有の自動車道こそ県道になりましたが小田急系・西武系両方の交通機関が箱根で並存していると言う状況は今でも変りません。

  
左:芦ノ湖上ですれ違う小田急の海賊船と伊豆箱根の遊覧船  右:同じ元箱根に小田急と伊豆箱根で港が2つ有る状況は効率的?@元箱根

 果たしてこの様な小田急系・西武(伊豆箱根)系の交通機関が並存する状況は好ましいのでしょうか?
 今でこそ50〜60年代の「箱根山戦争」の様に直接対立し訴訟合戦などで戦う様な状況では有りません。実際2003年の西武・小田急両鉄道グループの箱根地区観光事業で連携(小田急高速バスを箱根園まで延長、小田急の周遊券の割引施設に西武の施設を加える) すると言う「箱根山戦争」の時代からは考えられない程友好的関係に成っています。
 しかしながら2003年の「小田急・西武連携」は西武の株問題とその後のゴタゴタにより停滞しており実効性は上がって居ませんし、完全競争化に有り協力関係を結ぶ事で一番効果が大きい遊覧船・バス事業に関しては小田急系(箱根登山・箱根遊覧船)と西武系(伊豆箱根)で何も友好な提携策を打ち出すことが出来ないで居ます。
 その象徴が「箱根の共通乗車券」とも言える「 箱根フリーパス 」に関してです。箱根フリーパスは「小田急線往復+箱根の交通機関乗り降り自由+施設割引」が組み合わさった観光客向けの企画乗車券で箱根に公共交通で行く観光客のかなりの人達が利用しています。しかし「小田急・西武提携」で西武線沿線からの箱根フリーパス販売・箱根園等の西武施設のフリーパス割引参加等の提携は行われていますが、肝心な箱根フリーパスでの「伊豆箱根バス・伊豆箱根船舶(遊覧船)の利用可能」と言う所まで提携は進んで居ません。その為に未だに箱根フリーパスでは伊豆箱根系交通機関を使えない状況が続いています。
 この様な状況が好ましいのでしょうか?実際小田急系(箱根登山・箱根遊覧船)と西武系(伊豆箱根)で「箱根フリーパスが使える・使えない」と言う差は、バス・遊覧船の利用客の大幅な数の差に現れていると言えます。( 年間輸送客数 「バス」箱根登山バス3,109,835人:伊豆箱根バス958,977人 「遊覧船」箱根遊覧船2,405,564人:伊豆箱根船舶1,003,480人)
 しかし現実問題として「伊豆箱根系交通機関を単純に箱根フリーパスに加える」と言う事は困難です。伊豆箱根系交通機関を加える事で値段を上げれれば良いですがそう言う訳には行きませんし、値上げをしないで利用者が増えれば小田急系の取り分だけが減少する事になり幾ら「利便性のため」と言えども納得できる物では有りません。そうなると地域全体の利便性のためには「箱根フリーパスで伊豆箱根系交通機関を利用できる様にする事」がベストでも実際の運営上は非常に困難で有ると言えます。

 では如何したら良いか?なかなか良い回答は見つかりません。しかし今私に考えられるベターな方策は「運営者が2社居るから問題なのだ」「だから運営者を1社に統合してしまえば良い」と言う事になります。要は小田急箱根グループと伊豆箱根を合併・買収・経営統合等の方策で一つにまとめてしまえば良いのでは?と言う事になります。
 今や西武グループの箱根観光事業に関して「自社系の伊豆箱根の交通機関が絶対必要」と言う理由は有りません。と言う事は西武グループにとって「伊豆箱根鉄道を持つ意味は何か?」と言う質問に対して明白に言える答えは無いのではないか?と考えます。今西武グループは実質的に外資の傘下に有り巨額の債務返済を中心とした経営再建中です。その中で「No1ではない相乗効果の低い事業」を持つ意味は有るのでしょうか?私はNOだと思います。
 その様な「保有価値の低い」事業で「中核事業で無い」事業を再建途上の会社が持つ意味は有りません。そうなるとその様な事業は売却or譲渡をする事が好ましいと言う事になります。ですから西武グループにとって西武鉄道・プリンスホテルの様な「利益が上がり可能性があり含み資産の多い中核事業」でない事業は本体からスピンオフさせるのが好ましいと言えます。
 そうなると如何すべきか?方策は伊豆箱根全体もしくは伊豆箱根の箱根関係のバス・遊覧船の交通事業を譲渡・売却する事が好ましいと言えます。その譲渡先に関しては地域のトップ企業小田急箱根グループが第一の候補と言う事になります。まして小田急箱根グループは中核の小田急箱根ホールディングスは「100%子会社なのに持株会社」と言う珍しい形態です。ですから小田急箱根ホールディングスが伊豆箱根の箱根関係交通事業を持株会社の傘下に受け入れる事は企業の統治形態から見て行いやすいと言う事が出来ます。(この場合伊豆箱根の箱根交通事業の売却でも、交通事業譲渡の代償として小田急箱根ホールディングスへの西武の部分的資本参加(企業価値から見て3分の1程度?)も方策として考えられる)
 其れにより箱根地域の交通事業者が小田急箱根グループの下で統一されて運営される事になり、小田急・伊豆箱根2社で運営される事での「競合のムダ」を省き効率的に運営する事が可能になりますし、問題の「箱根フリーパス」に関しても発行元の小田急グループに箱根の交通機関が一元管理されれば運賃分配の問題も「一つの連結決算下に統合」する事で「箱根全山の交通機関で箱根フリーパスが使用可能」と言う理想形にする事への障害が無くなります。そう考えれば小田急箱根グループに統合する形での「箱根全山の公共交通の統合」が今考えられる一番ベターな再編策と言う事になります。
 この方策は傍目から見れば「かなり強引な方策」と言う事が出来ます。しかし世の中「競争する事が最善」と言うばかりでは有りません。無駄を省き連携しやすくする為に一つに纏める事も必要で有ると言えます。箱根の場合小田急箱根ホールディングスと伊豆箱根鉄道が並立するメリットは残念ながら見出す事はできません。見えてくるのは「箱根フリーパス」の問題にしてもデメリットだけです。それならば思い切って統合をする事も一つの選択肢では無いか?と考えます。その地域交通の統合の障害は「箱根山戦争」に起因する「感情的しこり」だけなのですから・・・。




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