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果たして京成グループの「ドラ息子」は「孝行息子」に更生出来るのか?
−北総鉄道と成田高速鉄道アクセス−
TAKA 2009年03月09日
今や商業施設が立ち並ぶ?印西牧の原を出発する北総鉄道電車 |
☆ ま え が き
「北総開発鉄道(現在の社名は北総鉄道)」と言うと皆さんどんなイメージを抱きますか?
北総鉄道
は千葉ニュータウンのアクセス路線として作られた会社で、昭和54年に北初富〜小室間開業を始めとして、平成3年に京成高砂〜新鎌ヶ谷間を開業させ、現在では千葉NTを始めとする北総地域と東京都心を結ぶ輸送機関として年間3144万人の人に利用されている鉄道会社です。
しかし過去においては、北総は2期線建設工事の長期化による都心アクセスの未整備等に起因する千葉NTの入居不振の為、極めて高運賃であったのにも関わらず利用客・収入が伸びず、1期線建設費の鉄建公団への償還もままならず、赤字を垂れ流して京成・千葉県の融資・増資で経営を支えられていた時代が、1期線開業以来ずっと続いていました。
只平成3年の北総2期線開業で、京成高砂で京成線〜都営線と直通運転することで北総線沿線の利便性が向上して、其れに伴い乗客は順調に増加して行き、
平成12年上期に初めて経常利益を達成
と言うほど、今までの経営は厳しい状況でした。
今までは経営的には厳しい状況でしたが、現在では未だに債務超過(資本金249億円<当期未処分損失376億円)の状況で、加えて未だに北総2期線に関わる鉄道・運輸機構NT線建設費債務823億円(平成20年9月京成連結決算より)の償還が有るものの、
2007年度決算
でも継続的に経常黒字を達成していて、経常収支的には一息つける経営状況になっているといえます。
加えて印旛日本医大〜成田空港間で平成22年開業予定で「
成田高速鉄道アクセス
」が、
成田高速鉄道アクセス→第三種鉄道事業・京成電鉄→第二種事業と言う形態で認可
され、
本年2月に遂に起工
されました。この路線は将来の成田空港アクセスの中心路線になる路線であり、北総鉄道にとっても京成高砂〜小室間で京成車両が乗り入れて来る事になり非常に大きな影響をもたらす物です。
今回の関東鉄道めぐりでは、私も地元ではない物の色々な点で思い入れのある路線であり、この様に成田空港アクセス関係で変りつつある北総鉄道を取り上げる事にしました。
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「北総鉄道 主要指標」年度 営業キロ 輸送人員 輸送密度 従業員 資本金 営業収入 営業費用 営業損益 全事業経常損益 平成 6年度 23.8km 23,785千人 35,191人/日 260人 16,100百万円 7,475百万円 6,582百万円 893百万円 △5,240百万円 平成14年度 32.3km 31,126千人 35,578人/日 272人 24,900百万円 12,555百万円 7,965百万円 4,590百万円 1,791百万円 平成16年度 32.3km 31,360千人 35,703人/日 280人 24,900百万円 12,691百万円 8,186百万円 4,505百万円 1,829百万円 平成18年度 32.3km 32,040千人 36,752人/日 285人 24,900百万円 13,058百万円 8,823百万円 4,235百万円 2,229百万円
※上記資料は「数字で見る鉄道2003・2005・2007」より作成しています。
「参考HP」・
北総鉄道株式会社HP
・
成田高速鉄道アクセス
・
北総鉄道
(wikipedia) ・
北総鉄道北総線
(wikipedia)
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☆ 少しはお客さまが乗る様になった?北総鉄道を訪問する(08年9月15日)
GW以来の久し振りの「関東鉄道めぐり」の取材の為に北総鉄道を訪問したのが、3連休の最後の祝日で有る9月15日の午後でした。本当は朝のラッシュ時の状況も見てみたいのが本音ですが、東京の西部に住んで居る私にして見るとそれはかなり難しい事です。しかも平日はやはり仕事が有るので動くことが難しく、訪問するのは「平日とはチョット状況の違う」祝日になってしまいました。
前回北総鉄道を訪問したのは約2年半前に「関東鉄道めぐり」で取り上げようと思い(実際は取り上げられなかったが・・・)訪れた時でした。其処から約2年半が経過しています。この間で北総鉄道も千葉ニュータウンもかなり変わって居ると思います。その辺りを踏まえて今回先ず最初に訪問記を書いてみたいと思います。
左:北総鉄道の拠点 京成電鉄と供用の高砂駅 右:京成本線・京成金町線・北総線・車庫線が分岐するため複雑な高砂駅の配線(金町線高架化工事が始まって居る)
北総鉄道の拠点は、京成電鉄の京成高砂駅になります。京成電鉄は高砂の隣の青砥駅で本線の日暮里・上野方面と押上線の押上・都営浅草線方面に分かれ、京成高砂駅でも北総線と本線船橋・成田方面と金町線が分かれるのに加えて京成高砂には京成電鉄の車庫も有る為、青砥〜高砂間は正しく千葉方面への京成グループの路線網の「扇の要」となっています。
この区間では本線⇔本線・押上線⇔本線・押上線⇔北総線という系統がメインに運行されていて、それに成田新高速開業後は本線⇔北総線の系統が加わり非常に複雑な運行系統となります。しかし青砥〜高砂間が1駅間ですが複々線化されて居るので、何とか捌く事が可能になっています。只それでも厳しい為、中期的対策として金町線は「
高架化され行き止まりのホームになる
」改良工事が現在行われて居ます。長期的には成田新高速開業で高砂駅を通過する列車の大幅増が予想される為、(車庫線を抱えて居るため難しい側面も多いが・・・)高砂駅全体の高架化工事も検討課題に挙がる可能性が高いといえます。
左:新柴又駅の「
騒音協定
」対策の防音壁 右:北総2期線区間は地下駅も多い
京成高砂を出発後高架に登り京成本線と別れた後、比較的厳しい曲線で家の間をすり抜け新柴又の到着します。此処は北総二期線建設時に揉めた所で、最終的に「騒音協定」を結んで開業に漕ぎ着けて居ます。将来成田新高速開業後、この場所の線形と騒音協定が成田新高速の高速運転の障害になる可能性もあります。
新柴又を出ると直ぐに江戸川を越え千葉県に入ります。千葉県に入り地下駅で待避線の有る矢切に止まり、その後トンネ・掘割が中心の二期線内を走り北国分・秋山と過ぎて、高架に上がるとJR武蔵野線との接続駅である東松戸になります。東松戸では成田新高速建設に備えての北総線内改良工事で待避線の新設が行われて居ます。又駅周辺は「
紙敷土地区画整理事業
」が行われていて、この区画整理もやっと人口定着に貢献するようになって来ました。北総鉄道の不振の要因の一つに「二期線区間内での区画整理の遅れで人口定着が進まなかった」事に有りますが、北総二期線開業後約17年が経過しても未だに区画整理が進行中の東松戸の状況は有る意味「北総鉄道の苦境の一側面」を映し出して居ます。
左:近年やっと市街地化が進みマンションも建ってきた 右:新鎌ケ谷駅に停車中の北総7300形
東松戸を出た後、又少々住宅の少ない地域を走り、乗降客の少ない中間駅で有る松飛台・大町と言う高架駅に停車した後、進行方向左手チョット離れた所に新京成電鉄のくぬぎ山車両基地が見えてくると、高架の下を新京成線が潜り海側に現在建設中の新京成線の高架(
新京成線連続立体交差事業
)が見えてくると、鎌ケ谷市の新しい玄関口新鎌ケ谷駅に到着します。
新鎌ケ谷駅は北総二期線開業に伴い出来た駅で、北総一期線開業時には新京成線に直接乗り入れて居たため駅の構造だけが作られて居ましたが、北総二期線開業に伴い1991年に北総線に駅が出来てその後92年に北総との直通運転打ち切りに伴い新京成に新鎌ケ谷駅が開業し99年には東武野田線にも新鎌ケ谷駅が開業し「総合駅」となりました。
新鎌ケ谷に北総・新京成・東武の総合駅が完成した事で、新鎌ケ谷が鎌ケ谷市の玄関口となりました。同時に総合駅建設に伴いUR都市機構による「
新鎌ヶ谷特定土地区画整理事業
」が現在も施工されており、駅周辺にイオンモール等の大型商業施設が建設されており、やっと地域の中心核としての形態が整って来ました。東松戸もそうですが新鎌ケ谷も都心直通の北総線開業に対して都市の側面での土地区画整理の施行が大きく遅れたのが目立ちます。実際新鎌ケ谷について見ると北総線一期開業(この時点で新鎌ケ谷に駅が出来る前提は決まって居た)が79年に対して土地区画整理の都市計画決定が91年で街開きが2014年予定と大きく時間が経過しています。此れはやはり非常に大きな皺寄せを北総鉄道に与えたのは間違い無いでしょう。
左:1979年以来準備されてきた待避線設備がやっと役に立つ新鎌ケ谷駅 右:線路の脇の国道沿いにロードサイド店舗が並ぶ千葉ニュータウン
新鎌ケ谷を出ると、線路は掘割の中を走りますがその両脇に国道464号線が平行して走り同時に国道464号線と北総鉄道の間に「北千葉道路」の建設予定地が確保されており、「千葉ニュータウン」の中を走るといっても「廻りの車窓には道路が一番目立つ」チョット変な感じになります。
千葉ニュータウン
の中でも比較的開発の早かった西白井・白井・小室の3駅を過ぎると、沿線の道路際には巨大ロードサイド店舗が見えてきます。千葉ニュータウンは基本的に北総線各駅を中心に土地区画整理が行われ、それが連なってニュータウンとなっている形態ですが基本的に面的広がりが大きくしかも周辺には公共交通が乏しく車主流の世界が広がって居るので、この様なロードサイド店は正しく「街に合った商業施設」でありだからこそ道路に渋滞が出来る程の渋滞になっています。
それに対して、途中下車した千葉ニュータウン中央駅は駅前にジャスコは有る物の、それ以外に目立つのはパチンコ屋と言う状態で駅周辺に街の集積が有りません。又昔仕事で千葉ニュータウン中央の集合住宅に行った事が有りますが、バスが殆ど無い(1時間1〜2本程度)状況でしかもニュータウン中央駅から歩いて20分以上掛かる状況で、この街自体が「車が無いと生活困難なニュータウン」という状況になってしまって居ます。有る意味その象徴が「駅前の閑散振りとロードサイド店の繁盛」が示して居るといえるでしょう。
左:車庫も有り拠点駅の機能を持つ印西牧の原駅 右:橋上駅舎のトンガリ屋根が特徴的な印旛日本医大駅
千葉ニュータウン中央の次は印西牧の原そして終点の印旛日本医大になります。傍から見れば北総線は「京成高砂〜印旛日本医大」間になりますが、実際は第1種鉄道事業区間「京成高砂〜小室」:第2種鉄道事業区間「小室〜印旛日本医大」となっており、小室以東は住宅都市整備公団が作った路線で現在は京成グループの千葉ニュータウン鉄道が保有していて北総鉄道が第二種鉄道事業者として運営しています。この辺りは実際1本の鉄道として運営されて居る物の北総の経営問題に絡んで所有関係が複数になっていて所謂「上下分離」の形態になっています。今後此れに空港アクセスとしてインフラ所有者の成田高速鉄道アクセスと空港アクセス鉄道運営者の京成電鉄本体が絡んでより複雑な関係となります。
元々開発が思うように進んで居ない千葉ニュータウンですが、開発年度の新しい印西牧の原・印旛日本医大地域は未だに開発が進んで居らず、駅の周辺もチョット家・マンション・店が有る程度で寂しい限りです。鉄道開業からかなりの線数が経過しながらこの様に人口集積の少ない地域を多く抱えて居る状況こそ「北総鉄道の苦難」の象徴の一つと言えます。この様な状況で1千億円を大きく越える投資をした鉄道が成り立つか?と言えば非常に厳しいと言わざる得ません。
新しい住宅地の開発とアクセスとしての鉄道の存在は「鶏と卵」の関係とも言えるかもしれません。しかし鉄道を先に引けば人口が定着しない間は低収入と高償却の二つの重荷を背負いながらの鉄道運営を強いられます。今まで日本の大手民鉄はその負担を「不動産開発収益」により総合的にカバーして来ましたが、住宅都市整備公団に依るニュータウン開発はその開発利益を公的セクターに没収される形態での開発となり、鉄道事業者は「低収入と高償却」で苦しむ事になります。それに対して「鉄建公団NT線」制度等の補助制度がありましたが、最終的にニュータウン開発が上手く行かなかった千葉ニュータウンで京成と北総鉄道がババを引き「低収入の中で鉄建公団に建設費を返す」塗炭の苦しみを味わう事になります。特にニュータウンでありながら「田舎にぽつんと有る駅」状態である印旛日本医大駅の状況は、その様な北総鉄道の「悲劇」の象徴ともいえると今回訪問して改めて感じました。
☆ 北総線の利用状況と沿線の状況は?(08年9月15日)
さて、その様に北総線を京成高砂〜印旛日本医大までの間を久し振りに乗り通して車内の状況と、途中で印旛日本医大と千葉ニュータウン中央で少しですが途中下車して沿線の状況を、駆け足ですが見て廻る事が出来ました。
先ず北総鉄道を語るに取って一番重要なのがその最大の存在意義である千葉ニュータウンの輸送と言う側面になりますが、その千葉ニュータウン自体がプロジェクトとして上手く行って居ません。千葉ニュータウンは未だに人口定着が進んで居るとは残念ながら言え無い状況です。実際千葉ニュータウンは当初は計画人口約34万人で有ったのに対して2004年時点の計画人口14万3300人・居住人口約8万6千人と街開きから35年近く経過しても当初計画人口の2割強・修正後計画人口の約6割しか定着して居ない燦々たる状況です。
※上記資料は「
UR都市機構千葉ニュータウン事業本部
千葉ニュータウン
まちの概要 土地利用計画
」「
千葉ニュータウン
(wikipedia)」より作成しています。千葉ニュータウン各地区の概要 ①西白井 ②白 井 ③小 室 ④千葉NT中央 ⑤印西牧の原 ⑥印旛日本医大 合 計 面 積 199ha 197ha 90ha 764ha 579ha 104ha 1933ha 計画人口 16,900人 15,400人 8,500人 55,900人 39,300人 7,300人 143,300人 居住人口 15,298人 13,151人 5,333人 35,514人 13,153人 3,944人 86,393人 計画達成率 90.52% 85.39% 62.74% 63.53% 33.47% 54.03% 60.29% 街開き・北総線開業年 1979年 1979年 1979年 1984年 1995年 2000年 −
この表を見れば、千葉ニュータウン開発が燦々たる状況であり、現在においても2004年修正の計画すら6割の居住人口しか確保出来て居ません。まあ昭和44年開始で平成26年完成と言うプロジェクトであり、未だ未完成と言う事に加えて、長期間のプロジェクト故に時代を含め処々の変化が有ったと言う「仕方無い事情」が有ったといえども、この状況を冷静に考えれば「千葉ニュータウン計画は失敗だったと言う事が出来ます。
その千葉ニュータウン事業の失敗の余波を一番受けたのが北総鉄道で有る事は間違い有りません。元々計画人口34万人の時にはアクセス鉄道として北総開発鉄道(現在の北総鉄道)と
千葉県営鉄道北千葉線
の2本の鉄道が計画されて居ました。それがニュータウン計画の停滞に伴い北千葉線計画が凍結され、北総開発鉄道+(北千葉線の残骸ともいえる)住宅・都市基盤整備公団線(小室〜印旛日本医大:現在は千葉ニュータウン鉄道)のみが残る事になりました。しかしアクセス鉄道は半分になりましたが、現在の定住人口は当初計画の約4分の1です。このギャップが北総鉄道を今まで苦しめる事になります。
このニュータウン事業の失敗に依る需要減少と旧鉄建公団(現在の鉄道・運輸機構)への建設費支払い負担が合わさって北総鉄道は「塗炭の苦しみ」を味わいますが、各種補助策と(遅々としていても)千葉ニュータウンの人口定着促進による北総鉄道の利用者増加で、北総鉄道は「利用者累計5億人突破を2007年2月末達成(当初は開業後10年での達成を想定していたが・・・)」「平成12年度以来8期連続の黒字」等を達成し、(資金繰りの問題が有るが)何とか安定した経営状況になっています。
で・・・、何とか其処まで辿り着く事が出来た北総鉄道ですが、実際の利用状況と沿線の状況はどんな感じなのでしょうか?。私が見に行った1日の午後と言う限られた時間と言う限定的な状況ですが、その様子を見てみました。
北総鉄道 乗車状況と駅での乗降状況 (08年9月15日) 夕方の上り車内 左:印西牧の原 中:西白井 右:新柴又 夕方の駅の乗降風景 左:印旛日本医大での折返し待ち風景 中・右:千葉ニュータウン駅での乗降風景
今回北総鉄道を訪問したのは9月15日の祝日の午後でしたが、全般的に見て基本的には「それなりに乗って居る」と言える状況で有ったと思います。
昼間の北総線は全列車が基本的には京成押上線・都営浅草線との直通列車で、北総・都営・京急の車両を中心にチョット小型の18m車の8両編成で各駅停車が20分間隔で毎時3本運転されて居ます。昼間の輸送力的にはそんなに低くは有りませんが、運転の頻度的に見れば関東では「ローカル線」の部類に近い存在と言えます
私が訪問した日が「休日の午後〜夕方」という事を考えれば、定期利用は少なく定期外利用がメインの時間で有ると推測出来ます。北総鉄道の場合建設コスト償還の問題から極めて高率の
運賃体系
であり、駅間が長い事も有り千葉ニュータウン内の1駅の利用でも小室⇔白井⇔西白井の各駅間が200円・それ以外の駅間が300円と言う極めて高額の運賃体系です。
それでも、北総鉄道線内の利用状況は決して悪くは有りません。流石に末端で一番開発が遅れて居るの印旛日本医大からの乗客は少なかった物の、それ以外の印西牧の原⇔新鎌ケ谷各駅間では各車とも座席もそれなりに埋まる程度の乗客が有りました。
又乗降客数について見ると、特に千葉ニュータウンの中央で有る千葉ニュータウン中央駅と北総・新京成・東武の乗換駅で乗り換えると「付近の都会」である柏・松戸・船橋・津田沼へ出る事が出来てしかもショッピングセンター等の商業立地が進んで居る新鎌ケ谷での乗降が多かった感じがしました。
そう言う点から感じたのは、確かに数字で見ると千葉ニュータウンの入居率は目標修正後でも未だに約6割という状況ですが、この数字でも8.6万人の人口が定着して居ると言うのが北総に取ってやっと「実になって来た」といえる状況まで来たと言えるようになったと思いました。実際区画整理が進んで居ない二期線区間より千葉ニュータウン内の方が利用客数が多い感じがしました。結局北総鉄道は「千葉ニュータウンに苦しめられながら千葉ニュータウンが無いと今の業績にまで辿り付けなかった」と言うのが正しい状況なのかもしれません。
左:新築マンションが立ち始めた印旛日本医大駅前 右:マンション以外の大型建物が殆ど無い印旛日本医大駅周辺
加えて、千葉ニュータウンの開発が計画に達し無い事が影響して居るのでしょう。印旛日本医大駅前や千葉ニュータウン中央の駅前に民間が開発した大型マンションが幾つも建設されて居ました。今はリーマンショックに起因してマンション市況は「総崩れ」状態ですが、訪問したのは未だ「全般的には販売不調」では有れども「総崩れ」までには至って居ない市況でしたので、これらのマンションもそんなに「売れて居ない」と言う感じはしないでした。
確かに北総線は高運賃が災いして住むには悪いイメージが有ったのは間違い無いでしょうが、定期代は会社負担で家計には負担は無く通学的に補助が有る事からも高運賃が家計に影響するのは有る意味限定的な中で、朝ラッシュ時で千葉ニュータウン中央⇒日本橋で48分(特急)〜58分(普通)と言う所要時間で、しかもショッピングセンターなども有る駅から数分で100㎡以下だと3000万円を切るマンションが販売されて居るのですから、此れならばマンションとして十分需要を引き付けられると思います。
この様な「駅から近くて、多少遠くても都心まで早くアクセスできて、しかも多少狭くても年収400万円台でも買える2000万円台のマンション」は民間で無ければ上手く供給出来ないでしょう。この様なマンションが新線の需要を底堅く支えて上手く行ったのはTXです。確かにTXは最初からその高速性と地価・マンション価格の割安さで人口を引き付けましたが、北総鉄道沿線の千葉ニュータウン内もURさえ柔軟に対応してくれれば、「第二のTX」とまで行かなくても、北総鉄道の一般需要の底支えになりかなり助かるのでは?と感じましたし、北総鉄道沿線にはそれだけの開発の活力と可能性が有るのかな?と感じました。
左:「北千葉道路用地」に挟まれた千葉ニュータウン中央駅 中:民間新築マンションが建ち始めた千葉ニュータウン中央駅前 右:「2010年特急停車駅」が売りの新築マンション広告
又千葉ニュータウンは有る程度人口が集積して居る地域の上周辺にもそれなりに人口が有り、しかもニュータウン内はUR都市機構により
業務用地
が提供されており、ニュータウンの軸で有る国道464号線沿道を中心に、イオンモール・ジョイフル本田・ガーデンモール印西等のショッピングモールやホームセンター等が複数立地しています。
元々千葉ニュータウンは東西のニュータウンの軸に国道464号線と北総鉄道が貫いて居ますが、北総鉄道は都心アクセスが主体でしかも1街区1駅しか無く加えて隣の駅まで200〜300円と言う高運賃のため、千葉ニュータウン域内交通と言うよりかは域外への輸送がメインであり、千葉ニュータウン中央駅前にイオンモール・印西牧の原駅前にガーデンモール印西等の大型商業施設が立地していても、これらの商業施設へのアクセスは鉄道を利用する事は少ない感じです。
その様な状況から、商業施設へのメインアクセスは国道464号線を使った車でのアクセスが主流となっています。実際国道464号線は土休日などはショッピングセンターの駐車場に入る車で渋滞が発生するほどです。鉄道の場合より車の方が広い面積から集客する事が可能です。広い土地があり8.6万人のニュータウン人口が「基礎票」として存在し、しかも国道464号線を軸に車で人が来てくれる立地がこれだけの郊外型ショッピングモールや大型店舗の集積を産んだと言えます。
しかしながら、それは北総鉄道にして見れば「域内流動に寄与して居ない」という事で有り、元々ニュータウンの構造・鉄道の駅配置が適応して居ないと言えども、今まで利用が厳しかった北総鉄道としては痛い話です。又域内利用に鉄道が不便でも、此れだけ商業集積が有れば千葉ニュータウン域外の北総鉄道沿線から買い物客を引き込む可能性も有ります。その為にも印西牧の原駅で商業施設との循環バスが運行されて居ますが、この様な商業施設へのアクセス整備と共に買い物客用のお得キップを作るなど、商業施設への利用客と言う「定期外利用」を引き込む事も北総鉄道の利用向上には必要なのかもしれません。
左:道路に挟まれ掘割の中に有る印西牧の原駅 中:ショッピングモールや量販店が並ぶ印西牧の原駅周辺 右:「電車でロードサイド店舗へのアクセス」も考えられて居るのか?
確かに北総鉄道の
2007年度決算
を見れば、利用客は232万人7.0%増加・旅客運輸収入も前期比756百万円6.4%増加と好調で、その要因として「千葉ニュータウンの入居促進」「二期線区間での土地区画整理事業の住宅開発促進」「千葉ニュータウン内での大型商業施設開業」を挙げて居ますが、商業施設だけで見ると商業施設新設が乗客増に寄与している側面は有ると思いますが、車でのアクセス客の多さを見ると「取りこぼし」の側面も強いのかな?と思います。
又千葉ニュータウンを見ると、ニュータウンの面的広がりは広い物が有りますが、路線バスの本数が少なく経路も少ないなど1街区1駅の北総鉄道の駅までのフィーダーアクセスが極めて弱いと思います。実際数年前の夏の盛りに千葉ニュータウンの原山第二団地に仕事で行った経験が有りますが、行きは複数の人達で千葉ニュータウン中央の駅からタクシーで行った物の、単独行動になった帰りはバスも無くタクシーを呼ぶ電話番号も分からず30分近く国道464号線をトボトボ歩いた経験があります。良く調べると近くに
千葉レインボーバス
の路線が有ったのですが、流石に初訪問だったので分かりませんでした。
千葉ニュータウン地区では、北総鉄道のフィーダーのバス路線として京成グループの千葉レインボーバスが運行されて居ますが、白井・千葉ニュータウン中央・印西牧の原の各駅(印旛日本医大は別会社)に1〜4路線乗り入れて居るだけで有りしかも本数が少なくて利用しづらい状況に有ります。こうなると北総鉄道の駅へのアクセスは「徒歩・自転車・バイク・キス&ライド」等の手法に限定される事になります。此れは北総鉄道の利用促進には大きなマイナスです。と言ってバス路線を拡充しても採算性の問題が残りますので、何かアクセス拡充の為の方策を考えなければなりません。例えば北総鉄道千葉ニュータウン内の各駅の脇には、北千葉道路用の用地が開いて居ます。此処に北千葉道路建設までの期間限定でも「北総鉄道パーク&ライド」専用の駐車場を造るなどの方策も有ると思います。各駅200台の駐車場を造れば6駅で1200台分になり、これ全部が純増にならなくても「駅までのアクセスが便利になる」というのは北総鉄道へ利用客を引き寄せる魅力になると思います。
実際の所、現在の北総鉄道の利用客増加は「千葉ニュータウン内の人口増加」が主な要因になっています。この様な人口増加はUR都市機構が千葉ニュータウン内の
西白井・白井・小室駅圏
千葉ニュータウン中央駅圏
印西牧の原駅圏
印旛日本医大駅圏
で「住宅用事業用地」を売却しており、その一部に間に取り上げた様なマンションが建ち始めて居ます。これが北総線利用客増加の大きな要因になって居ますが、将来的に「経済市況の低迷・購入層の減少・都心回帰の流れ・路線間競争の激化」等の要因でこの人口増が減速する可能性も有ります。
北総鉄道の経営を考えると、外的要因の「千葉ニュータウンの人口増加」に期待するのも良いですが、遠からず伸びが鈍化する事は高いといえます。その時に備えて、今定着して居る住民の人達に北総鉄道を利用し易い様な環境を作り出す事が重要です。その為には本当は「運賃値下げ」が一番重要とも言えますが、これは「減収」となり北総鉄道の財務に直接跳ね返ります。ならば今有る公共用地を有効活用したパーク&ライド用駐車場など、もう少しソフト的で支出も少なく簡単に出来るサービス向上を兼ねた利用促進策を考える事が、北総鉄道に取っては一層の経営安定化にも有効なのかな?と改めて感じさせられました。
☆ (あとがきに代えて) 北総線を通過する「成田高速鉄道アクセス」プロジェクトは北総鉄道を生まれ変わらせるか?
今まで見てきたように、1979年の開業以来今年で丁度30年を迎える北総鉄道ですが、北総鉄道は開業後30年の会社の歩みの内3分の2以上に該当する22年間は「赤字の地獄に喘ぐ」中で塗炭の苦しみの中で歩んで来ました。
その原因は、千葉ニュータウンの開発遅延による利用者が当初見込み通り伸びなかった事と、一期線224億円(うち鉄建公団工事204億円)・二期線1213億円(うち鉄建公団工事1141億円)の建設費に関して日本鉄道建設公団(現在は鉄道・運輸機構)への償還に関して、特に金利支払いに苦労した事に有ります。東葉高速鉄道・埼玉高速鉄道など日本で都市型第三セクター鉄道が苦戦している事例は沢山有りますが、北総鉄道はその走りで有ったと言えます。
当初鉄建公団からの譲渡価格は「
Ⅰ期線(北初富〜小室)157億円・Ⅱ期線(京成高砂〜新鎌ヶ谷)1141億円
合計1298億円」でしたが、現在京成の
連結決算
上(平成20年9月30日現在)に於ける「鉄道・運輸機構長期未払金(=北総鉄道の鉄道・運輸機構への借金残額)」は82,372百万円まで減少してきて、何とかこの30年で「3分の1にまで減少して来た」と言えます。
此処まで辿り着くのに、北総鉄道は「
第1次支援(昭和60〜平成2年度)・京成電鉄…元本(対象元本7億円)支払猶予及び利息棚上げ・千葉県…10.5億円出資・住都公団…7.5億円出資・鉄建公団…Ⅰ期線の元利均等償還額の支払猶予(総額61億円)・金融機関…元本支払猶予及び利息棚上げ(対象元本50億円) *第2次支援(平成3〜6年度)・京成電鉄…25億円の出資、所要資金の貸付(総額65億円)・千葉県及び住都公団…各々20億円の出資、80億円の負担金 *第3次支援(平成7〜11年度)・京成電鉄…出資57億円、融資81億円(10年間元本支払猶予)・千葉県及び住都公団…各々出資15.5億円、融資53億円(10年間無利子)・鉄建公団…元本償還の支払猶予(総額187億円)
」という手厚い支援を受け、平成12年以降何とか黒字決算を行うまでになっています。
しかし、「黒字決算達成」とは言えども、2007年度は「資金過不足で813百万円の資金不足」という資金繰りで「計算合えども銭足らず」と言う状況で借入金は増えており、現在短期借入金87億円と(鉄道・運輸機構長期未払金を除く)長期借入金335億円が有る状況で未だに借金過大な経営体質で有る事は間違い有りません。その様な過剰な負債体質の結果として北総鉄道は未だに「8,734百万円の債務超過(資本金249億円<当期未処分損失376億円)」という状況に有り、「8期連続の黒字」と言えども実際は残念ながら「未だに会社としては好ましくない状況」に留まって居ると言わざる得ません。
この問題を根本的に解消するには、残念ながら「根本的なスキームの転換」を図らざる得ません。その為には例えば「鉄道・運輸機構長期未払金823億円の優先株への転換(金利の配当への転換)」や「北総と京成の合併(公的セクター出資株の取扱が問題だが、北総の債務超過状況は大きな京成に飲まれる事で消える。京成の連結決算に対しては折込済みで問題無し。但し運賃問題が絡む)」等の根本的な対応策を取らないと、北総鉄道単体で見れば残念ながら、この先もかなり長い期間に渡り経営的には黒字でも「計算合えども銭足らず」で資金繰りが苦しい状況が続く事は間違い有りません。
しかしながら、これらの抜本的対応策に関しては「メリットは有れども障害も多い」というのが偽らざる状況です。少なくとも現状では「黒字」で此処8年間新たな救済策を講じなくても経営的には何とか成り立って居る以上、今のままの経営体制・状況下で「鉄道・運輸機構への返済金額>新規借入金」という借入金状況を維持して「少しずつ負債総額を減らして行く」手法を取って行く可能性が高いといえます。
けれども、その様な厳しい状況を「打破」する可能性が有る「一大プロジェクト」が北総鉄道にて進んで居ます。それが「
成田高速鉄道アクセス
」プロジェクトです。これは印旛日本医大〜土屋間10.7kmに新線を建設し、既存の京成線(京成上野〜京成高砂間)・北総線(京成高砂〜印旛日本医大間)・成田空港高速鉄道(土屋〜成田空港間)を結んで、京成高砂〜印旛日本医大間で130km/h運転・印旛日本医大〜成田空港間で160km/h運転を行い、現在スカイライナーで空港まで51分の所用時間を
新型スカイライナー
で36分に短縮するプロジェクトです。
北総鉄道はこの成田高速鉄道アクセスの通過ルートとなり、開業後は現在の千葉ニュータウン輸送に加えて成田空港輸送の役割も加わり、毎時3本のスカイライナーと毎時3本の特急が北総線経由で成田空港まで走るといわれて居ます。
その為、北総鉄道線内でも「東松戸・新鎌ケ谷」の2駅で待避線新設工事・小室駅の2面3線化工事・印旛日本医大駅の引き上げ線新設工事・130km/h運転対応の軌道及び電気関連工事等の改良工事が行われて居ます。北総鉄道線内に関しては東松戸・新鎌ケ谷は既に待避線建設が準備されていた為工事は進んでいて、私が訪問した時には新鎌ケ谷はほぼ完成・東松戸と小室は軌道工事が真っ盛り・印旛日本医大の引き上げ線は建設中と言う状況でした。
(現在「
進捗状況報告
」によれば北総線関連は東松戸・新鎌ケ谷・小室とも供用開始されて電気関連工事が中心になって居る様です。)
準備工事済の2面4線待避駅化の工事が進む駅 左:東松戸 右:新鎌ケ谷 左:高速化対応の為配線が替えられた小室駅 右:北総線ローカル列車用の折返し線整備工事が進む印旛日本医大駅
又「新線建設区間」で有る印旛日本医大〜土屋間に関しても、今回は電車での訪問の為足が無く印旛日本医大駅から歩ける範囲でしか見れませんでしたが、「工事進捗状況」によれば新線区間のほぼ全区間で工事が最盛期を迎えて居る様です。(詳しい事はエル・アルコン様のHP「
Straphangers' Eye
」の「
2008年12月版、「成田新高速」の現況
」にも出て居ます。)
成田高速鉄道アクセス㈱は平成22年度(要は平成23年3月31日までに)開業と言って居ますが、全区間で「起工承認」を受けていて各期間で工事が進んで居る状況から見れば、後2年で開業と言うのは「目標達成はほぼ間違い無し」と考えられるでしょう。北総開発鉄道2期線・東葉高速鉄道など千葉県には「ズルズル遅れた鉄道建設事業」が多い中で、都市再生プロジェクトに認定されて居る効果か?非常に順調に工事が進んで居ます。
同時に、東京側の受け入れターミナルで有る京成電鉄日暮里駅に関しても、「
鉄道駅総合改善事業
」に基く「
日暮里駅総合改善事業
」が行われていて、此方も現在工事が最盛期を向かえています。既に高架橋の躯体部分の工事も進んで居ますし、京成⇔JR乗換改札口が新しくなるなど新しい施設も見えてきて居ます。此方も「あと2年間で全部完成」と言うには「少々厳しいかな?」という感じもしますが、工事自体は順調に進んで居ると言えます。
元々、京成の成田空港輸送は「都心ターミナルの悪さ」と言う問題が有ったのは事実です。その中で(地下鉄に接続はして居ない物の)JR山手線・京浜東北線と接続し「新宿・池袋・東京・品川」へ1本で行ける乗換拠点で有るターミナルの日暮里駅の改善は、「成田高速鉄道アクセス事業と表裏一体の関係」であり、此方の工事も進んで居ると言うのは「成田高速鉄道アクセス」の平成22年度開業に取り大きなウエイトを占めるといえます。
左:成田高速鉄道アクセス㈱の印旛日本医大〜成田空港間の工事も着々と進む 右:都心側での受け入れ工事「日暮里駅総合改善事業」が進む日暮里駅
この「成田高速鉄道アクセス」は、高速新線建設・在来路線(北総鉄道・千葉ニュータウン鉄道)の改良により成田空港への鉄道アクセスの主流が北総ルートに移行する事で、北総鉄道の収入増加に結びつくという点で有る意味「北総鉄道の救世主」といえる存在でも有ります。しかし私は「成田高速鉄道アクセス」による北総鉄道の空港アクセス鉄道化は、必ずしも全ての問題を解決する「バラ色の話」では無いと思って居ます。有る意味「両刃の刃」の側面も有ります。
と言うのは、北総鉄道単体のメリットは「京成高砂〜小室間19.8kmの第三種事業者としての線路使用料収入」になりますが、果たして此れがどれ位入ってくるのか?と言う問題が有ります。実際京成高砂〜小室間19.8kmの高速化改良に関しては
整備計画は成田高速鉄道アクセスによる改良
になっている為、投資負担は少ない物の線路使用料収入は減る事になります。その中で北総鉄道としては「動力費・保守費用等の原価増」に加え「成田高速鉄道アクセス建設に対する固定資産除却・新規投資」も必要な訳で、その分を考慮した線路使用料配分にはなるでしょうが(京成グループ的には連結決算なのでプラスマイナスゼロ)、北総単体の収支改善にどれだけ寄与するのか?となると今の段階でも(分かる資料だけで考えると)疑問もあります。
左:日暮里〜印旛日本医大間で1,070円は高い? 右:高運賃対策で自治体による通学定期代補助が行われて居るのが現状
しかも成田高速鉄道アクセス開業により、北総の場合「運賃問題」という「触れて欲しく無いテーマ」が再燃します。実際運賃料率が違うため日暮里〜印旛日本医大間の運賃が1,070円に対して日暮里〜成田空港間の運賃は1,000円となっています。これが成田高速鉄道アクセス開業後は北総線経由の日暮里〜成田空港間は距離が減る為に京成の運賃料率で単純に計算すれば運賃が1,000円以下になる事は確実です。そうなると北総線では「距離の短い千葉ニュータウンより距離の遠い成田空港の方が運賃が安い」という矛盾が発生します。
そうなった時に如何するのか?成田高速鉄道アクセス経由の普通運賃で現行以上の加算運賃を取り運賃制度上のバランスを取る方法も有りますが、確実な運賃収受を如何するかなど問題があります。しかも「北総線の高運賃問題」に関しては地元で色々議論が起きており、
国会議員が関与
する程の地元では関心の有る問題です。この状況から北総線の運賃値下げ問題が起きる事は地元に取ってはプラスですが、北総線に取っては「運賃値下げによる減収<値下げによる千葉NT人口増などによる北総線の誘発利用客増+成田高速鉄道アクセス開業での京成からの線路使用料」とならない限り、北総に取っては「成田高速鉄道アクセス開業」はマイナス効果しか引き起こさなくなります。
この問題は、「北総鉄道の根幹を揺るがす問題」です。実際「京成なみ運賃料率」にするのであれば、印旛日本医大〜京成高砂間32.3km820円の運賃を470円(京成上野〜京成大久保間の運賃)に下げなければなら無くなります。この様な京成電鉄並みの運賃料率に下げる事になると北総鉄道の減収幅が43%にもなります。こんな事になったら・・・。営業経費も賄えなくなり間違い無く北総鉄道は単体で生きていく事は出来ません。
その様な状況下でも「何とか北総線の運賃料率を京成並みに引き下げたい」と言うのであれば、京成本体と合併するしか方策は無くなります。しかし京成:北総合併となれば、北総の株を22.29%持つ千葉県・17.27%を持つ都市再生機構・1.37%を持つ松戸市・1.02%を持つ市川市の存在が問題になります。この公的セクター保有の北総株を京成株に転換させる事は京成に取って好ましくは無い事になりますし、この分の株を京成が買い取るとしても京成に新たな費用負担が発生します。しかも京成の連結決算全体で考えれば、京成の運賃料率での北総の値下げ分はそのまま収入的にマイナスになります。
この様な「八方塞」とも言える厳しい状況の中で、今後北総鉄道をどのような形態で運営して行くか?此処が北総鉄道に取って非常に難しい問題といえます。
最初に「北総鉄道に取り成田高速鉄道アクセスは「バラ色の話」では無く有る意味「両刃の刃」」と書きましたが、この「両刃の刃」の負の刃こそ、この「北総の高運賃問題」が再燃し値下げ問題が浮上する事です。
実際の所は理想的には、和寒様が「
生まれ変わる悩み〜能勢電鉄に見る近代化投資の重さ
」で述べられて居るように「子会社の努力に委ねた方が収益最大化を期待できる」のであり、実際北総鉄道も支援を受けつつ自己の努力でやっと中途の此処まで来て居ます。その努力の原資は(功罪相半する物では有れども)北総線の高運賃料率で有る事は間違い有りません。
しかし今までは北総鉄道に関して、運営は北総鉄道一社で所有は小室を境に西が北総鉄道・東が千葉ニュータウン鉄道と所有と運営形態が比較的簡単だった為、そんなに問題なく「高運賃は仕方ない」と否定的でも受容されて来ましたが、今度は運営に京成電鉄が加わり所有でも成田高速鉄道アクセス㈱が全区間で相応の資産を持つ事になり複雑になり、しかも成田空港まで通り抜けが可能になり運賃上も複雑な形態になり、その結果「収益最大化」の柱で有る「高運賃」が問題として浮上する事になります。
この解決策は非常に難しい問題だと言えます。実際北総鉄道の運賃に関して成田高速鉄道アクセス開業後も「現状維持」を強行すれば千葉ニュータウンの自治体・住民から反発を受けるのは確実ですし「矛盾を如何するのか?」という問題も残ります。と言って「北総鉄道の経営」という点から考えて幾ら「成田高速鉄道アクセス線」の線路使用料が入ると言えども安易に「北総線運賃値下げ」には応じられません。又「北総鉄道の経営を支える」為に「成田高速鉄道アクセス線」の線路使用料を高額に設定するのも、
成田高速鉄道アクセス線関連に491億円の投資と成田高速鉄道アクセス㈱の借入金359億円を線路使用料での支払い
と言う負担を負う京成電鉄本体に、運賃値下げに伴う北総鉄道の損失分を「線路使用料」でフォローさせると言うのも負担が重すぎて、北総の親会社で最後の頼り手で有る京成電鉄本体の経営を傾ける事になり問題が多いといえます。この事からも有る意味「北総線の運賃問題」は「誰も犠牲を負わないでは解決出来ない」という「八方塞」の状況で有ると考えます。
今の段階で、京成電鉄・北総鉄道共にこの運賃問題について「成田高速鉄道アクセス線」開業後に「如何なる方策を取るのか?」という事について、(私が調べた限りで)何も発表・アナウンスも有りません。ですから現状においては、この問題については「推測」で語らざる得ません。しかし「八方塞」だと言って話を終わらせるのはチョット無責任とも言えます。なので「成田高速鉄道アクセス線」開業後に北総線の運賃問題について、何か解決策は無いか?考えたいと思います。
此処から先は「私の個人的考え」ですが、先ず北総線に関して言えば、幾許かでも現行運賃は「値下げ」せざる得ないと思います。又京成に関しても在来線の運賃を値上げする事は出来ないにしても、高速運転をする新線に関して在来線と同じ運賃料率と言うのは変な話です。高速運転と言う「高サービス」が提供される以上、成田高速鉄道アクセス線経由の場合幾らかでも加算運賃を取るのが正しいのでは?と感じます。(但し在来線(69.3km)と成田高速鉄道アクセス線(64.1km)を同一運賃とした場合、50円〜120円(成田空港・空港第二ビル発着は加算運賃有りなので差が有る)の差額が出るはずなので、これを「加算運賃」とする事も出来る)
しかしながら現実問題として「成田高速鉄道アクセス線」に関して京成在来線以上の「加算運賃」を取ろうとすると、キセル対策として空港第二ビル・成田空港で京成在来線列車と成田高速鉄道アクセス線経由列車の「乗降分離・改札分離」が必要になると考えます。今の段階では「乗降分離・改札分離」に関しては如何なるか?分からないのですが、本来は分離して高速サービスを提供する「成田高速鉄道アクセス線」に関しては「普通運賃で100円程度」の加算運賃を取る事が好ましいかな?と考えます。
又成田空港会社発表の「
入港目的別アクセス交通手段別入港人員及び構成比
」によると、京成電鉄による1日当り成田空港入港客は「(空港から海外への出発客で)スカイライナー3,451人:スカイライナー以外6.336人」となっています。此処から「京成を使い成田空港から出入する航空利用客」は「スカイライナー6,902人/日:一般列車利用12,672人/日」となります。これが多分「成田高速鉄道アクセス線」開業後はスカイライナー客はほぼ全部・一般車両利用客もかなりの比率が「成田高速鉄道アクセス線」に転移すると同時に、JR東日本・リムジンバス等からも有る程度の乗客が転移する事が予想されます。(只今の私には「どれ位の客が他交通機関から転移してくるかは分からない」ので、敢えてそれを考慮から外します)
この「成田高速鉄道アクセス線」を利用してくれるであろう人達は、北総鉄道に取っても重要な客です。しかも有る意味価格負担力が有る客なのです。その「成田高速鉄道アクセス線による高速鉄道輸送」で一番恩恵を受ける空港アクセス客に加算運賃を掛けて、その一部を北総の線路使用料に上乗せしてそれを原資に「北総線の運賃を成田空港までより安くなる程度」まで値下げをすると言う方策も考えられます。
これは「空港第二ビル・成田空港での乗降分離・改札分離」が条件になりますが、例えば現行の京成上野〜成田空港の普通運賃を1,100円程度に設定すれば、現行の京成の運賃体系より150円〜220円多く徴収出来ます。これに現在の京成上野〜成田空港間のスカイライナーの特急料金920円も新線経由に伴い1,100円程度に値上げすれば180円の加算運賃が取れます。この内特急料金加算分は京成が特急車両に投資をして居る分一定額を取っても良いと思いますが、その残りの加算運賃分の一部を北総の線路使用料に上乗せしてそれを原資に北総の印旛日本医大以西の在来区間の値下げを行うのも一つの手で有ると思います。実際は「成田高速鉄道アクセス線が無ければ北総線に値下げをする「必然性」は無かった」とも言えるのですし。今まで高運賃で「北総鉄道を支えてきた」千葉ニュータウン住民が居なければ「北総鉄道は倒れていた」可能性も有り、北総鉄道が倒れていれば成田高速鉄道アクセス線も無かったと考えると、それ位の「運賃値下げ補助策」を空港アクセス客の加算運賃を原資に行っても良いのかな?とは考えます。
実際の所、冷静に考えれば「何故空港利用客が北総の高運賃問題解決の為に負担をしなければならないのか?」という問題も有るのは私も十二分に理解はしています。しかし「成田高速鉄道アクセス線開業に伴い著しい不平等が発生する北総線の運賃は下げざる得ない」「その値下げ負担を北総鉄道に押し付けたら北総鉄道は厳しくなる」という現実に直面する以上、何かしらの有効な方策を考える必要が有りますし、その有効な方策を考えるに当り(汚い発想ですが)「金を出す力の有る人から頂こう」というのは、一つの考え方で有ると思います。
正直言って、もっと良い方策が有るかも知れません。本当ならば「安易な値上げ」でなく「値上げを伴わない工夫」で北総線の高運賃問題を解決できれば、空港アクセス客には「同じ価格で早く行ける」というプラスアルファを提供出来ますし北総線沿線住民には「成田高速鉄道アクセス線を受け入れて運賃が下がった」と言う現実的恩恵を与えて、「誰もがハッピー」という事になると思います。しかし残念ながら私にはその様な方策が思い浮かびません。後は開業時に蓋を開けて見て事業者が「問題解決にどんな方策を取るのか?」お楽しみ?と言う側面も有ると思います。まあ事業者ですから、素人の私よりもっと優れた「ウルトラC」的な解決策を捻り出して来るかも知れません。ますはそれを楽しみにするのしか無いのかな?と個人的には考えて居ます。
この様な問題を如何にして克服して問題を解消して、北総の収益を確保しつつ地元の利用者が不満を抱かない程度の料金体系を造るかが、北総鉄道の将来を左右する問題になって居ると言えます。色々な意味で成田高速鉄道アクセスプロジェクトは北総鉄道を変える要因になりますが、それは正と負の両方の意味を持つ事になります。此れを如何にして突破して成田高速鉄道アクセスをチャンスに変えるか?プロジェクトが此処まで進んで居る状況において、北総鉄道と京成グループには問われて居ると言えるのではないでしょうか?
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今回「関東鉄道めぐり」で北総鉄道を取り上げましたが、私自身実をいうと前に此処で北総鉄道を取り上げようと思い、(確か2年位前に)一度北総鉄道の路線も廻った事が有ります。しかし過去に色々な「心に引かれる」事柄も有り、その時には原稿を書き出した物の結局ボツにしてそのまま流してしまった事が有ります。
その後弊サイトでは、成田高速鉄道アクセスについては昨年「
新東京国際空港(成田空港)改善に必要なのは「発着枠増便」と「成田新高速建設」か?
」で取り上げましたが。その中にも書きましたが、北総と成田新高速は私に取り「交通論への第一歩」で有ると同時に「苦い過去の歴史」であり、それがトラウマになり北総鉄道・成田高速鉄道アクセス関連の話については、今まで意識的に避けて来たのが実状でした。
その様な心理的な状況の中で、今回「関東鉄道めぐり」の中で北総鉄道について取り上げて自分の考えも纏める事が出来たのは、自分に取って「今までの喉の痞え」が取れて過去が吹っ切れると同時に、自分の交通論の展開について一つの「区切り」になったかな?とは思って居ます。
交通論とは色々な事が絡み合い一つの側面から語れ無い非常に難しい事で有ると思います。私自身それが「本当に分かって居るか?」と言われると未だ自信を持って言える事では有りませんが、多少は分かって来たのかな?と自分では思って居ます。
まあ過去の他サイトでの議論の時から、今回の「北総鉄道」の話に至るまで、その時の考えから「変わった物・直した物」も有りますが、(実を言えば)「代わって居ない物」も有ります。その中で(自分で言うのも何ですが)自分の意見を改めて纏める事が出来て、此れで「一つの懸案が解決した」とホッとすると同時に、今回の論が受け入れられて「自分の変化」を示しす事が出来たならば、自分が交通論のサイトを立ち上げて此れだけ書いてきた目的の一つを達成した事になると感じて居ます。
過去については十分に認識して踏まえて行かなければいけませんが、過去にだけ捕われていては新しい道には進めない事は間違い有りません。最後は「個人的な話」になってしまいましたが、此れを私の「一つの区切り」とする為に敢えて書かせて頂きました。
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(参考資料)「過去の成田新高速鉄道・成田空港関連の議論 検証:近未来交通地図過去ログより」
・成田新高速鉄道は本当に必要なのでしょうか?
(1)
(2)
・
成田新高速はまったく違う概念の公共事業としてすすめたい
・
「採算性」の定義を問う
・
東京駅接着なしの成田新高速は東京と成田を本当に近づけるのか?
・都心側ターミナルとしての上野・日暮里の価値をどう上げるか
(1)
(2)
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※「
TAKAの交通論の部屋
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