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日本航空の経営問題について考える(2)
−「造反容認・中国軽視」で中期経営計画は達成できるか?−
TAKA 2005年03月06日
前回日本航空で発生した「社長辞任要求」に端を発する、役員の造反劇についてコメントを書きましたが、その造反劇について収拾へ向けての動きがあり、合わせてJALの経営再建計画とも言える「2006-2010年度中期経営計画」が人事案と共に発表されました。
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<JAL>西松新社長らの正式人事決定 内紛の収拾目指す
(毎日新聞)
「西松日航」まず社内融和 経営陣6月に刷新 安全・業績回復カギ
(産経新聞)
日航が中期経営計画発表、人員削減100人上積み
(読売新聞)
日本航空2006-2010年度中期経営計画
(JAL説明資料)
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☆「喧嘩両成敗」に見える造反劇収拾だが・・・。
今回の造反劇は上記新聞記事にも明らかな様に「3人の代表取締役退任・新町社長の取締役会長就任」「財務担当の西松取締役の社長就任」と同時に「造反要求を突きつけたJALインターナショナルの4名の取締役は、1人→JAL専務取締役へ昇格・1人→降格の上北京支店長に転出・2人退任」と言う人事異動が6月に行われる旨の発表が行われています。
この人事案を見る限り「喧嘩両成敗」とも言える内容になっています。実質的には造反の要求であった「3人の代表取締役」の退任は「(新町社長が会長に残留するが)ほぼ満額」通っています。又新町社長に反発していたと思われる営業畑から新社長が登場せず、今回の権力闘争では中立だったと言われる財務部門担当の西松取締役を新社長に登用すると同時に、造反を起こした4人の取締役の内2人を退任させ、1人を降格させています。その点では造反の処分も一応行われています。
今回の人事は、要求した方・要求された方とも3人が「降格・退任」で、しかもキーポストの新社長ポストを管理部門の中立派から登用と言う形でバランスを取ってあり、正しく「喧嘩両成敗」と言う事が出来る内容になっています。
☆最大の問題は「実質的な造反容認」に有る。
しかし今回のこの人事は、「取りあえずの混乱収拾」と言う面では「社内権力闘争を納める為のバランス人事」と言う事が出来、表面的には社内の不満を収める事が出来るでしょう。しかし最大の問題は今回の人事では造反派の処分が一部甘かった為に「造反容認」になってしまった点に有ります。
その中でも最大の問題は「6月退任が決まっていた」と言われている4人の日本航空インターナショナル役員の内、岸田清常務が持ち株会社JALの代表取締役専務に昇格する点に有ります。実際は「退任の人数」と「会長ポスト維持と代表取締役専務ポスト確保」でバランスが取れていると言っても、実際に造反要求を実際に突きつけた4役員の内ポスト最上位・年齢一番上の岸田常務が親会社代表取締役専務ポストを確保すると言う事が、「反乱を起こすとポストを得られる可能性がある」と言う事を示してしまった点に有ります。
確かに風通しの悪い派閥経営とも言えるJAL社内では「身を挺して讒言」しなければ意見が通らなかった可能性が有ります。その点は「非常手段」としての「直訴」は致し方ないということが出来ます。その点から考えると今回の「4役員の社長退任要求」は「造反有理」であった可能性は有ります。
けれども「直訴をした役員」が「退任が決まっていたのが一転して大幅な昇格」という結果がでてくると、「造反して権力闘争を行った方がポストが取れる」と言う「造反容認」「造反推奨」になり兼ねないと言えます。これは最悪と言えます。
江戸時代から「直訴は打ち首」と言うのは、直訴の歯止めとも言えるルールとして存在しました。だからこそ直訴は「身を挺しての讒言」として直訴は切迫感をもたらしたのです。其れは現代の会社に変っても一緒です。直訴は受け入れる代わりに身を散らしてこその物です。直訴を行った人間が身を散らさずポストを得てしまったら、それは単なる「クーデター」です。
今回の岸田常務の人事は「経営を憂いての社長解任要求と言う直訴」ではなく「ポストを巡る権力闘争・宮廷内クーデター」で有ったことを図らずしも示してしまいました。そういう点では将来現JAL役員陣の後輩達が「ポストを得る為には権力闘争・クーデターが容認される」と思い込んでしまう可能性が有ります。其れを阻止する為にも今回「代表取締役3名の退任・新町社長の取締役会長就任」は致し方ない選択であったと思いますが、直訴の4役員は全員退任させるべきであったと言えます。その点から考えると「造反容認とも言える岸田常務昇格」は最悪の人事であったと言えます。
☆もう一つの問題は「北京支店長は左遷ポスト?」と言う点である。
もう一つJALの経営戦略を疑いたくなるような人事が今回の一連の人事劇の中にありました。造反4役員の内もう一人の残った役員深田常務の上席執行役員へ降格の上の北京支店長就任と言う人事です。
深田常務の降格と言う事については、「今回の造反劇の処分」と言う点では「(解任で無く降格だから)甘い点がある」とは思うものの、「(処罰をしたと言う点で)有る意味当然」と言う事が出来ます。
しかし問題は就任先が「北京支店長」と言う点です。日航北京支店長と言えば実質的な「中国統括」ポストだった筈です。今やライバルの全日空が一番力を入れている地域であり(
全日空の中国への影響力は岡崎嘉平太社長の時代からの物で、中国共産党にも影響力の有る極めて強固な物がある
)、大需要地であるが政治交渉が色々ありライバルも多いという点で、少なくともJALにとって見れば難しいポストと言う事がで来ますし軽いポストでは有りません。
その大需要があり敵の全日空が圧倒的な政治的影響力を持っている中国における、JALの統括ポストとも言える北京支店長に、今回の謀反の張本人の一人を降格の上送り込むと言うJALの経営感覚を疑いたくなります。これでは中国に「JALは中国を軽く見ています」と言うシグナルを送る事になってしまいます。面子を重視する中国からしたらこの処遇を良い感じで見るとは思えません。今回の人事がJALの対中国戦略で大きなマイナスになると言えます。
この様な人事が平然と行われる事から考えて、今回のJAL人事が「企業の戦略に基づいた人事」ではなく、「派閥闘争と権力闘争の中での数合わせの人事」を行った事が、代表取締役専務の人事だけでなく北京支店長の人事でも現れています。今の時代に「戦略的重要ポスト」に「降格された役員を送り込む」と言う様な人事をして、これからの激動の時代を生きていけるのでしょうか?その点からもJALの経営姿勢に大きな疑問を感じます。
☆この様な事で「中期経営計画」は達成できるのか?。
今回上記の一連の人事に加えて「JALの再建計画」と言える「中期経営計画」が発表されました。05年度-340億円の営業利益を06年度+170億円・10年度+1300億円にすると言う「V字回復」を目指した計画ですが、果たして実行できる計画なのでしょうか?
実際この中期経営計画の中で実現性に疑問符の付く政策も有ります。その最たる物は「賃金カットの実現性」に有ります。今回の一連の内紛にも「賃金カットへの反発がある」と言う話も有りますが(組合は公式には否定しているが)、実際に組合も「
賃金カット撤回を訴えて行く
」と抵抗している中で、中期経営計画では賃金カットが謳われています。
6月に退任する新町社長も「提案しながら導入に抵抗を受けていた」方策を、今回の中期経営計画において改めて提示していますが、今回の造反劇に造反者の全員処分すら行う事が出来なかった現経営陣に、組合と戦ってまで実行するだけの力が有るのでしょうか?
今や現実として「(経営者への)造反容認」を人事で追認してしまった事実が有ります。その中で人間の欲に絡む「給与カットの問題」です。その問題に対して、今回の「クーデターの(一応の)成功」に勇気付けられて、組合が激しい抵抗をする可能性は十二分に有ります。そうなった時に中期経営計画のなかで「緊急施策(06年度で緊急政策全体で215億円を見込む)」として謳われている「人件費カット」を貫き通す事が出来るのでしょうか?私は大いに疑問があると思います。
その様な「賃金カット」一つを取っても「中期経営計画」に極めて困難な先行きが待っている事は疑う余地は有りません。加えて「中期経営計画の中身に成長戦略が無い」と言う感じも私は感じています。この様な計画で今の経営状況のままでは「V字回復」は「絵に描いた餅」になる可能性が、残念ながら高いと私は思います。
☆この状況でJALに将来はあるのか?。
今回の中期経営計画及び一連のドタバタ劇を見ていると、その発生状況・経過・収拾を見る限り、「JALに将来はあるのか?」と言う気持ちを抱いてしまいます。
社長解任騒動の収拾策も「実質的な造反容認」と言うイメージを与える玉虫色的な解決策しか取れなく、戦略的重要ポストの北京支店長に降格者を送り込むという大きな疑問符が付く人事も行っています。
それなのに中期経営計画では、より強い抵抗・造反の発生する可能性の高い「賃金カット」や、国際旅客事業で「左遷ポスト」とJAL自体が表明した中国に対し、中期経営計画の中での数少ない発展戦略として「中国線の増強」を高らかに謳っています。中期経営計画と今回の人事施策が残念ながら矛盾した物で有る事は見れば明らかです。
この様な経営の「ダッチロール」状態の中で、JALに将来はあるのでしょうか?少なくとも既に今回の中期経営計画は
大株主に見放されています
。その為ナショナルフラッグキャリアの大株主の保有株が、外資の投資会社に売却されそうな状況に陥っています。これでは「全日空に追い抜かれる」所ではなく「経営的ダッチロールの据えに日航自体が墜落(経営破たん)」「最終的には経営破たんの上バラバラにされ、ナショナルフラッグキャリアの一部もしくは全部が外資に渡る」と言う最悪のシナリオすら想定できます。
この事から考えても、「中期経営計画の達成」は今やJALに取っては「超えなければいけない最低限のハードル」とも言う事が出来ます。しかし越せる現実性があるのか?と言うと疑問符が付く事は誰が見ても明らかです。
その厳しい状況の中で、これから先JALが進む道は正しく茨の道であると言えます。しかし社内で権力闘争や改革への抵抗をしている時間的余裕はもう有りません。社風の改革も必要ですしコスト削減も必要です。又最大の問題として「安全への信頼回復」も抜き差しならない解決しなければならない問題として存在しています。この八方塞とも言える状況の中で、JALの経営陣は待った無しの改革をしなければなりません。
JALの前に立ちふさがる「今まで蓄積された「癌」とも言える障壁」は余りに巨大であり、JALに残された「生存をかけた決死の改革」を行う時間は多くは残されていません。経営陣を始め組合・社員がその事を真から認識しなければ、JALが未来を切り開く事は出来ないのではないでしょうか?
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