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日本航空の経営問題について考える

−会社の内紛発生で空の安全は保たれるか?−



TAKA  2006年02月16日




(中部国際空港でのJAL国内線旅客機)


※本文は「 交通総合フォーラム 」「 TAKAの交通論の部屋 」のシェアコンテンツです。

※ 2006年以降に「日本航空の経営問題」を取り上げた一連の記事です。合わせて御参照下さい。
TAKAの交通論の部屋●日本航空の経営問題を考える  (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)


 今日昼休みにyahooのニュースを見ていたら、JALに関するこんな記事がでていました。

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「  日航社長に早期退陣要求 大幅赤字で糸山氏  」 (2月7日 共同通信)
「  <JAL>役員の一部、社長に退陣求める  」(2月15日 毎日新聞)

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 このJALの経営不振問題に端を発する社長退陣要求に関する記事の内容を見て、正直言って糸山氏の退陣要求に半分納得しながら、役員の退陣要求には半分は驚きあきれ果て開いた口が塞がりませんでした。
 JALにとって見れば、今の状況は「会社存亡の危機」と言っても過言ではありません。その中でなんでこんな話が出てくるのでしょうか?今回のJAL新町社長の退陣要求について考えて見たいと思います。


 ☆ 今JALの経営は危機的状況では?

 航空業界は2001年の同時多発テロ以来昨年のSARSの影響や急騰した原油市場の影響により、世界中の航空業界は軒並み経営不振に陥っており、特にアメリカではUALが連邦破産法第11条の申請をしたり、 アメリカン航空が大赤字 を出したりと、極めて厳しい経営状況に置かれています。
 その様な状況に加えて、JALでは此の頃頻発している航空機のトラブル等で、特に国内線で旅客のJAL離れが進んでいて国内線旅客数は減少していますし、 平成18年度第3四半期の連結営業成績 では営業利益で赤字が128億円増加していて、平成18年度も大幅な赤字が確実と言う状況であり、正しくJALの経営は危機的状況です。
 加えてJALだけで近年頻発している各種安全に関するトラブルの為、JALは利用客からの信頼を失っており、平成17年3月17日には国交省から「 業務改善命令・警告 」を受けるまでの状況になっています。
 今回JALのホームページの中で「 JALからのご報告 」と言うページを見てみました。此処には05年1月から今まで約1年間の事故・故障・不祥事等の改善策の報告が載っていますが、件数をカウントしてみたら驚きました。何と運行トラブル関係の「お詫び・報告」が32件もあります。1年間にこれだけのトラブルがあり、しかも中を見てみるとかなり深刻な内容も含まれて居ます。この情況はかなり深刻な状況で有ると言えます。
 つまりJALの状況は「経営は大幅な赤字で、トラブルは多発、国交省から警告・業務改善命令を受け、今や発生していないのは死亡事故だけ」と言う極めて深刻な状況で、緊急かつ抜本的改革をしないと今後のJALグループの存続が保証できない深刻かつ危機的状況に有ると言えます。

 ☆ 大株主が経営不振に物を言うのは当然の権利

 その様な状況の中で、糸山氏は自身のホームページでJALの経営問題に関してコメントを発しています。(「 JAL現経営陣との決別 JALはライブドアと同じか 」)この内容を見ましたが、正しく納得する物が有ります。
 糸山英太郎氏はJALの最高顧問ですが、これは大株主として祭り上げられた役職であり、最高顧問で有る事を持って、完全に「JALのインサイダーの人間だ」と言う事は出来ません。実質的には「筆頭株主として一定の影響力を持つ」と言うのが糸山氏の立場で有ると言えます。
 その大株主でありながら、最高顧問と言う立場に祭り上げられ経営には直接口を挟めない立場(持ち株比率は4.05%で筆頭株主の東急と2万株の差での大株主)の糸山氏が実際に経営に異議を唱えるにさいして、大株主として議決権行使をアピールして経営陣の猛省を促すと言うのは有る意味当然の事です。
 その点に関して糸山氏は無配転落により4億円と言う実害も蒙っていますし、日本航空の経営に危機感を持っているのは今までの氏の言動から推察しても明らかな事です。
 その人がJALに対して自分の持つ最大の影響力である「株主としての議決権」を行使する事を宣言してJALの経営改革を迫ると言う事は、今のJALの経営状況から鑑みて当然のことで有ると思います。
 
 今「 M&Aコンサルティング 」の様な「株を買収して物言う株主」が増えてきているのは事実です。その中で経営に問題が無い企業に対し自己の利益極大化の為に買占めを梃子に介入するのは如何な物かとは思いますが、同時に大切なお金を投資している投資家が何も物も言えないのは問題な事です。
 実際糸山氏の持ち株比率では多分社長交代まで迫る事は困難(重要議決の拒否も単独では不可能)で有ると思います。約4%の持ち株では行っても効果が乏しいのが現実だと思います。しかし株主が経営を憂い経営に物を言うのは当然の権利であり、大株主でもない経営者がその権利まで阻害する事は許される事では有りません。
 その様な点から考えても、今回の糸山氏の意思表明は、内容から考えても評価できますし、ハゲタカファンドの様な自己中心的な物でも有りませんので、株主の権利として主張することは間違っていないと言えます。
 ですから日本航空経営陣も自分の会社の危機的状況を踏まえ「投資家からの真摯な意見」として重く受け止め、その身の処し方を考えなければいけないと思います。

 ☆ 役員・社員が社長に退陣を直訴するのは許されるのか?

 同じくJALの経営不振問題に端を発し、上述の様に会社内の役員・社員からも社長の退陣要求が出ています。
 記事の内容に依れば「日本航空インターナショナル」の役員が新町社長に面会を求め、社長以下幹部社員3名の退陣を求め、部長級社員数十名の退陣賛同の署名を見せた」との事です。
 普通の会社ではなかなか想像もできない事ですが、過去に取締役・社員が問題の社長に反旗を翻して退陣を迫ったと言う似た例は存在します。 1982年の三越事件 です。この時には社長が違法行為をしているとの報道も流れており(実際背任で捕まった)、三井グループの根回しもあり取締役会社長解任の緊急動議が16:0で可決されたと言う事件ですが、この様に社員・取締役の反乱と言う例も過去には存在します。
 しかし今回はちょっと違うと言えます。経営不振と運行トラブル多発で「社長に責任が有る」とは言えますが、社長が「背任」に問われるべき違法行為(及びそれに類する物)を一人で独断で恣意的に行っている訳では有りません。
 確かに「経営悪化・運行トラブル多発」に対して、トップとしての責任が有るのは事実ですが、それは会社全体として存在する物であり、役員・社員にもその業務分掌の範囲内でそれぞれもまた責任を持たなければならないものなのです。
 その自己の責任を棚に上げての役員・社員の社長退陣要求と言うのは明らかに筋が通らないと言えます。その点で考えれば、今回の行為は許される物では有りません。

 此処から先は推測ですが、今回の退陣要求は「社内権力闘争」が表に出てきたものであると考えられます。元々JAL経営陣の役人体質と派閥体質はマスコミ等をにぎわすネタの一つです。
 元々新町社長は貨物畑出身で「兼子会長が院政をする」とまで言われた弱体社長です。その後ろ盾の兼子氏が一連の運行トラブルの責任を取り会長から顧問に退き、影響力が弱くなった所に経営危機が訪れ、経営危機と糸山氏の早期退陣要求に応じる形で旧JAL主流派(今の日本航空インターナショナル)の巻き返しがこの様な形で噴出してきたのではないでしょうか?
 ましてや此処に組合問題が絡みます。元々JALの組合組織は職能別に分かれていて、単一会社に複数存在しその関係が複雑なのと同時に、JALの労使関係が労使協調型ではなく、JALの組合は非常に自己中心的で我が儘な組合で有る事は有名です。
 ( 1985年のテヘランからのトルコ航空機での邦人救出時 には、「JALは航空機を準備していたが、間に合わなかった」と言うのが表向きだが、一説によると「日航パイロット組合が「危険だ」と反対して救出に飛べなかった」と言う話も有る。他国の民間航空会社(トルコ航空)が危険を冒して邦人救出に飛んでくれたのに、国から特別な保護を受けたナショナルフラッグキャリアの会社が「危険だ」と飛ばないのは異常であると同時に、今でも残っているJAL組合の無責任体質を示している)
 其処に「 社員の基本給10%カット(組合との合意が出来ずに4月に延期) 」などと言う提案を、権力基盤の弱い社長がしたのですから、組合が反発するのは当然の事です。それがストには噴出せず、暗く地面に潜り幹部社員の権力闘争と融合した可能性は十分有ります。この辺りが今回の社内「役員の社長辞任要求」と言う内紛劇の真相では無いかと推察します。

 しかしこの様な「クーデター紛い」の社長退陣要求を容認して良いのでしょうか?
 三越事件の場合「社長が違法行為をしていて、追及の報道で社会が騒然としていて、会社のイメージが低下して、社長のスキャンダルに起因して危機的状況となった。」と言う状況であり、その解決策は「社長を取り除く事」一点に有った為、取締役会での緊急動議と言うクーデター的な社長解任劇も致し方ない側面がありました。
 今回のJALの場合三越事件とは状況が異なります。JALでの社長辞任要求は、上記で推測を述べたように、社内の権力闘争に起因する辞任要求で有ると言えます。ましてや今回の危機の原因は「大幅な経営赤字」「一連の運行トラブル」で、役員・社員にも責任の有ることです。その自分たちの責任を棚に上げての社長辞任要求は許されるべき物では有りません。
 今回の経営悪化に新町社長の責任が有るのは事実です。新町社長がそれを自覚しないのは問題ですが、同時に「安全運行関係のトラブル」に関しては、その責任は社長だけでなく全役員・全社員に共有されなければならないものです。その事から考えると、「社長に辞任要求する前に、自分の責任を考えろ」と言いたいですし、今回の役員の社長辞任要求は許されるべき物では有りません。
 JALの役員・社員には他人を非難するより自分たちの襟を正す姿勢が必要です。その事が事故・故障のようなトラブルの解消法になるのです。その事を真剣に考える必要が有ると言えます。

 ☆ このままではJALグループは沈没してしまうのでは?

 今回の一連の社長辞任要求と言うJALの問題に関しては、 国土交通省もこの「一民間企業の経営には立ち入らない」方針では有るが、「日航経営陣の内部対立が表面化したことで、社員らのモラルや士気の低下に拍車がかかることで」「社内で安全運航への意識が落ちていること」を危惧 しており、JALの内紛問題に注視しているようです。(今日の10時のNHKニュースでも国交省佐藤事務次官がコメントを放送していた)
 又日航が設置した第三者機関 「安全アドバイザリーグループ」では12月26日に提言書を新町社長に提出 していますが、その中で「経営層と現場との一体感が希薄で、“大企業病”が進行している」「全社的な意識改革をしなければ日航の存続はない」と言う内容の提言を出しています。私はこの内容正しくその通りだと思います。
 (しかしこの「安全アドバイザリーグループ」については 設置に関してはニュースリリースしている が、答申に関しては間接的に「 日本航空グループにおけるヒューマンエラー防止にかかわる改善策について 」と言う内容で国交省に再徹底策を提出した事を軽く述べているだけです。これはJALがこの「安全アドバイザリーグループ」を軽くしか見ていないことを示しています。このJALの反省をしないとも言える体質は極めて問題です。)
 
 今のJALに必要なことは、正しく「安全アドバイザリーグループ」が指摘している「大企業病」的体質を改善して、「社内の求心力を回復」し「社内の官僚体質を改善」し「安全重視の体制を確立」することです。これが出来ればJALの経営体質は改善され、赤字経営と言う問題は必然的に解消されると考えます。
 その為には根本的な改革が必要であり、「社長辞任要求」などと言う内紛劇・権力闘争などを行っている余裕は無い筈です。JALの新町社長・辞任要求を突きつけた4役員を始めとする役員・社員たちはその状況について分かっているのでしょうか?
 特に国内線でガチンコ勝負を行っている国内第二位の全日空は、JALと同じ様に「同時多発テロ・原油高・SARS」の三重苦で一時期は赤字経営に転落しましたが、現在はJALとは対照的に経営の建て直しを完了し、 平成18年3月通期の経常利益でJALの−579億円に対し全日空は+560億円 と完全に明暗を分けています。
 全日空はこの好調の波に乗り、 2億3050万株・1095億円の公募増資 を行い航空機購入等の設備投資資金に注ぎ込む事を決めています。これでJALと全日空の経営規模の差が縮まる事になりますし、経営の質的には全日空の改善がより進む事になります。
 この事はJALも日本のトップ航空企業として安閑としていられない状況に有ることを示しています。権力闘争に熱心なJALには聞こえないかも知れませんが、JALは全日空に「足音が聞こえるほどの距離」に迫られて居る事は大げさな話ではないと言えます。

 今やJALの経営はありとあらゆる側面から見て危機的状況で有る事は誰も否定できません。残念ながら、それが分かっていないのはJALの役員・社員だけです。
 この調子ではJALは「運行関係のトラブルが今後も続発して旅客が離れ、最後に大事故が発生し完全に信用を失墜する」と言う最悪のシナリオが、「ありえない」と否定する事が出来ない状況になっています。
 この状況の原因は上述の様に明らかです。此処まで問題が噴出してきたので、今が「会社の体質を改善する最後の機会」なのかもしれません。此処まで落ちてしまったのですから、今こそ完全に膿を出して徹底的な改革をすべきです。
 そう言う「社員の体質・意識」までに踏み込んだ徹底的な改革をしないと、今やJALが立ち直る事はできないでしょう。此処で立ち直れなければJALは「レミングの集団自殺」と言う最悪の状況になりかねません・・・。JALの立て直しに残された時間は多くは有りません。経営者・社員共々その事を自覚すべきだと思います。





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