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日本航空の経営問題について考える(3)
−未達の危機の中期経営計画と株主無視の「ドタバタ増資」でJALは救われるのか?−
TAKA 2006年08月08日
本年に入り日本航空の経営は正しく「危機的状況」下で迷走している状況です。「TAKAの交通論の部屋」でも本年2月に「
日本航空の経営問題を考える(1)
」で新町社長への退陣要求と言う内紛と安全上のトラブルの多発を取り上げ、「
日本航空の経営問題を考える(2)
」では内紛劇収束の問題点と中期経営計画の問題点を取り上げました。前2本のレポートを書いてから約半年経過していますが、残念ながら未だに日本航空の経営は迷走状況です。
今度は平成19年3月期第1四半期の決算で中期経営計画の第一歩で目標を大幅に下回る営業利益▲319億円・経常利益▲355億円・純利益▲267億円と言う大幅な赤字を出すと同時に、6月30日の臨時取締役会で決まった7億株・1477億円と言う「発行株式数が4割も増える」異例の増資を巡り、「株主総会に掛けず直後の臨時取締役会で決める」と言う異例のプロセスを巡り問題が発生しています。
シリーズ化して来たともいえる「日本航空の経営問題を考える」と言うテーマですが、今回は「再建の鍵」である中期経営計画の未達問題と、異例な規模の増資を巡る問題について取り上げたいと思います。
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「日本航空関係資料」
平成19年3月期 第1四半期連結業績の概況について
(JALホームページ)
日本航空2006-2010年度中期経営計画
(JAL説明資料)
JALグループ2006年有価証券報告書
(JAL説明資料)
新株式発行及び株式売り出しに関するお知らせ
(JALホームページ)
新株式発行価格及び売り出し価格の決定に関するお知らせ
(JALホームページ)
新株式発行に関するご質問
(JALホームページ)
「全日空関係資料」
第56期営業報告書・第61回定期株主総会召集のご通知
(ANAホームページ)
全日空平成19年3月期第1四半期財務・業績の概要について
(ANAホームページ)
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☆ 日本航空の経営はもう浮上できないのか?
先ずは今回のJALの決算を巡る問題ですが、これを見ると現在JALは極めて深刻な状況で有ると言えます。
今の時代航空会社の大きな原価の一つである航空燃料が中東情勢の不安定と需給の逼迫により高騰していて、航空会社の原価を大きく膨らませる状況(=減益要因)になっています。06年度の燃料費想定はケロシン1バレル当りJAL=$75・ANA=&74と言う数字ですが、実際シンガポールケロシンの相場は4月に$80を超えてから$85〜$90の相場を行ったり来たりしています。幾ら先物で手当てをしていると言えども$10以上の乖離は経営にかなりの負担を掛けます。
しかしJALの決算数字の深刻さはその様な次元を超えていると言えます。燃料費高騰は航空会社何処にも平等に襲い掛かる物ですが、そのダメージをJALが一人で受けて居るという決算数字になっています。
実際ライバルのANAは同じ第1四半期で営業利益195億円・経常利益144億円・純利益76億円と言う数字で、昨年同期に比べて営業利益で66%UP・経常利益で132%UP・純利益261%UPと言う「予想以上の好決算(ANA日出間公敬乗務)」と言える数字です。これは国内線での愛・地球博効果やJALからの旅客流入等による旅客増も有りますが、燃料費高騰をサーチャージだけでなく原価低減で美味く吸収できた結果と言う事が出来ます。
其れなのにJALの場合は営業利益で前年同期に比べてやっと1億円の収益改善を果たしたと言うレベルであり、ANAの増益率から見たら「天と地の差」と言えるほどの燦々たる状況であると言う事が出来ます。これは確かに利用客数の減という問題も有りますが、それ以上に「中期経営計画で示したコスト削減策が達成できていない」と言う状況を示しています。
この数字は極めて深刻な内容を示しています。第1四半期で▲319億円と言う巨額の営業赤字を出しながら通期では営業利益+170億円と言う数字を変えては居ません。これは「どん底から逆転する」と言う決意の表れとも読めますが、実際的には如何見ても経営数字の裏付けとなる本業の収益の回復は至難の業と言う状況に代わりは有りません。それは第1四半期の決算数字特に営業利益に関する余りにも絶望的な数字が示しています。
その様にJALが墜落寸前での経営を迫られている中で、ライバルのANAは売上こそJALの6割程度しかない物の、確実に利益を出して経営基盤を固めています。ANAも本年3月に2億3050万株・1095億円の公募増資を行い、その資本を元手により運行コストに低い新型フリートへの機材更新を図っていますが、同じ増資→フリート更新を図るJALに比べて787等の新規機材の発注・更新状況でもリードしています。
好成績の経営状況を元に着々と体質改善を進めるANAに対し、経営改革実施中だがいきなり躓いたJALはライバルのANAに「経営の質」で大きく差を付けられたと言う事が出来ます。果たしてこの様な状況で再びJALが浮上する事が有るのでしょうか?
☆ 日本航空は何故同じミスを繰り返す?−増資を巡る株主軽視は直ぐ前に通った「何時か来た道?」−
もう一つは6月30日の臨時取締役会で決まった「7億株・1477億円」と言う38%もの大幅増資を巡る問題です。これも決定のプロセスを巡り株主・監査役等から「株主軽視だ」「決定プロセスに問題あり」等々色々な非難を受けています。
06年8月7日号の日経ビジネスに西村正雄監査役(前みずほフィナンシャルグループCEO)のインタビュー(8/1午後逝去されてるので亡くなる直前のインタビューと思われる)が出ていますが、その中で西村監査役は『(6/30の増資決定の臨時取締役会は)当日朝連絡が来て議題を聞けば「まだ言えない」と言われ、その夜に新町会長から電話で公募増資の話を聞きびっくりした』『如何見ても総会前に(増資を)決議すべきだった』『7月15日の監査役会で同じ社外監査役の松田さん(松田昌士・JR東日本相談役)と秋山さん(秋山喜久・関西電力相談役)に話したところ「全く同感だ。連名にしてくれ」と。2人も私同様突然の召集で取締役会に出れなかった。そこで7月19日の取締役会で3人連名の書面と一緒に苦言を呈した』と言われています。(『』内は日経ビジネスからの要約引用)
一見すると「2月内紛の再現」と見れますが、今回の増資を巡り監査役3名が苦言を呈し、其れを受けての28日の「関係者に不快な思いをさせた事をお詫びする」と言う西松社長のお詫び会見になったのは、有る意味当然と言えます。
根本的な面から考えれば、「7億株・1477億円」と言う38%もの大幅増資と言う「経営の根幹に関わる重大問題」を、会社の最高意思決定機関の株主総会で取り扱わず2日後の「奇襲」ともいえる臨時取締役会で社外監査役不在の中で内輪だけで決定すると言うプロセスに、今回の騒動の最大の問題が有ると言えます。
これは「日本航空の経営問題を考える(1)」でも大株主の糸山英太郎氏のコメントを取り上げましたが、その中で「業績の見通しが甘く、株主を欺いてきた」とコメントしていますが、今回の増資も正しく同じ事で有ると言えます。株主に取り自分の株が希釈されてしまう38%もの大幅増資は正しく重大問題で有ると言えます。それを株主総会に諮らず2日後の内輪の臨時取締役会で決めると言う行為は、正しく「株主を欺く行為」であると言えます。「見通しが甘い」と言うのは経営陣の能力も関わる話なので致し方ない側面も有るでしょうが、今回の場合「確信犯」で有る分その罪は思いと言えます。
前回の騒動の後、最終的にJALの筆頭株主の糸山英太郎氏は保有するJAL株を手放しています。その後大株主に名前が出てきたのはアメリカの投資銀行モルガン・スタンレーです。本来安定経営を望むのであれば、会社を信じてくれる個人投資家の繋ぎ止めを図るべきです。その様な人たちの方が会社に取ってはアメリカの投資銀行より余程安定的株主になってくれるはずです。
その様な個人投資家がつい直近に離反して行った事実を忘れて、個人投資家の資産を毀損する決定を密室で行うという事は、過去の警告に全く耳を貸していないと言う事を示しています。
これは「いつか来た失敗の道」を又辿る愚かな行為であると同時に、日本のナショナルフラッグキャリアであるJALを外資に売り渡す行為になりかねません。06年4月には300円を超えていた株価は増資の払込時には払込価格は198円にまでなっています。これは7億株もの株を3割引以上の格安の金額で譲渡した事になります。この様なバーゲンセールを外資が見逃す筈が有りません。その様な事から考えると、この増資がJALの命取りになる可能性も有ると言えます。
☆ 日本航空に危機感は本当に有るのか?
この様な「中期経営計画未達の危機」「未曾有の増資を格安値で株主無視で行い外資に会社を売り渡す危機」と言う極めて憂慮する状況にあるJALですが、肝心要の社内には此処まで危機が進化した中で危機感は有るのでしょうか?
少なくとも今までJALを2回にわたり分析してきた中では、その危機感は社内には無いと言うことが出来ます。社内の権力闘争に明け暮れ人事はバランス型の人事、組合との関係は上手く行っていないと言う状況が、今まで2回のJALの経営に関するレポートの中での「JALの危機感」に対する私の印象でした。
其れは今でも変っていないと言えます。特に「JALの癌」とも言える組合問題は深刻で有ると言えます。中期経営計画で「給与の10%カット」を打ち出してそれに基ずき昨年10月から労使協約の改定の交渉を行っています。しかし改定は難航し最終的には6月末に一部の組合に対し労使協約の破棄を通告するまでに労使関係は悪化しています。
これではコスト削減の柱の一つである労務費削減への道筋が危機を迎えると同時に、労使間の対立が此の頃JALに大きな影を落としている安全問題に関しても悪い影響を与える可能性が有ると言えます。これは深刻な問題で有ると言えます。
しかしANAは既に賃金の引き下げを含めた改革を断行しており、その効果が今の大幅な収益の差になって現れていると言えます。ANAが労使一体で行った合理化への努力が原油高騰等のコストアップ要因を弾き飛ばしたと言えます。この様にANAに出来た事がJALでは未だにできずに入口で労使間が対立している状況です。何故この様な状況になってしまったのでしょうか?
その原因がJALの経営陣だけでなく従業員にも経営状況に関する危機感が無いと言う点に有る事は間違いないと言えます。その象徴が幾ら「最初のボタンの掛け違え」が有るといえども、未だに労使間で賃金カットに関する労使協議が一部の組合間で決定されておらず、労使協約破棄と言う状況になっている事が示しています。
JALの有価証券報告書では中期計画に対し「株主・債権者及び従業員から協力を得られないリスク」が有ると書かれています。有価証券報告書には想定できる色々なリスクが書かれていますが、経営計画に「従業員が協力しないリスク」と書かれるのは極めて異例で有ると同時に異常な事で有ると言えます。
そのリスクの具体的内容は上述の労使対立・労使協約破棄による賃金削減によるコスト削減目標未達の可能性と言う事で有る事は間違いありません。しかし経営目標未達で危機的状況に有るのに関わらず、この様な事まで書くほど従業員が協力しないと会社が世間に宣言すると言う事は、労使がこの危機打開に非協力的であり危機感が存在し無いと言う事の現れになります。
この様なコメントが出てくる原因は当然従業員だけでなく経営者にも有る事は間違いありません。労使交渉に経営者のボタンの掛け違い(賃金カットを根回しせずに先にマスコミ発表した)が有ったのも大きなミスですし、株主総会で増資を図らなかったと言うミスも株主を非協力的にさせると言う点で経営者のミスで有ると言えます。この様なミスは経営者に適切な状況判断が出来ず、今の状況を把握できないが故に危機感が無いというのが大きな原因で有ると言えます。
この様な状況ではJALには経営陣・従業員共々危機感は無いと言えます。一部の噂では「いざとなったら公的資金が注入される」と言う噂も有りますが、ナショナルフラッグキャリアと言えどもJALは民間企業です。究極を言えばJALが無くてもANAが有るので一時的には困っても補完する勢力は存在します。その中で「危機には公的資金注入」と言う考えは甘いと言えますし、危機感欠如の象徴的考え方と言えます。やはり私には今のJALは「レミングの集団自殺」目指してまっしぐらにしか見る事が出来ません。
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端的に言えば今のJALの状況はガス欠で失速寸前の飛行機の様にしか見えません。今回取りあえず増資でガソリン補給しましたが、7億株・1477億円の増資が一時凌ぎにしかならない可能性が有ります。
今のJALは、飛行機に例えれば増資で取りあえずガソリン補給しても、乗客離れ・燃料費高騰と言う逆風の中で機長(経営者)と搭乗員・整備士(従業員)がバラバラに操縦している状況で有ると言えます。ましてや業績悪化でエンジンの出力が低下してしまっている状況に有ります。それで居て向う先が明白でない、その為に中の機長と搭乗員・操縦士がバラバラに動きダッチロール状況に有る最悪の状況と言えます。
この状況ではダッチロールの先に来るのは「墜落」となりかねません。墜落しなくても迷走の挙句飛行機の国籍マークが「日の丸」から「星条旗」に変る可能性も高くなっていると言えます。
もうこの状況を打開するには、経営陣の総入れ替え等の極めてショッキングな方法しかないと言えます。只経営陣だけでなく従業員もその考え方を根本から入替えなければなりません。求められている変革は経営者・従業員両方に求められています。
此処1〜2年で日本でも急速に企業買収・業界再編が進んできています。製紙業界の王子製紙の北越製紙への敵対的TOBの様な欧米的資本政策の流れが、急速に色々な業界で発生してきています。JAL・ANAの大手2社で寡占状況の為独占禁止法の絡みで国内だけの再編は非常に難しい状況です。
しかしその理論は海外には通用しません。EU内ではスイス・ベルギー等ナショナルフラッグキャリアが存在しない国も存在しますし、国を超えたナショナルフラッグキャリア間での再編も発生しています。その様な状況で魅力有るアジア市場でメガプレーヤーのJALが経営困難で漂流している状況は、航空業界で国際間で再編を仕掛ける考えが有る組織に取っては、世界最大級の成長市場のアジアの航空市場での勢力拡大の絶好の機会と言う事にになりかねません。
今やJALの経営困難は、只自社の経営困難だけでなくJALが外資に渡るという状況を想定しなければならないほど深刻な状況になってきたと言う事が出来ます。其処まで危機的状況に有る事をJALの経営陣・従業員が気付いて自己変革をして再生してくれる事を祈らざる得ません。
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