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積年の課題「日本航空再建問題」は遂に最終章へ突入か?

−日本航空の経営問題について考える(6)−


TAKA  2009年09月22日


「鶴丸」から「太陽」へ変わったが・・・ マークは変われど企業体質は代わらず? @鶴丸マーク最終日の羽田空港


 ※ 本文は前に「 交通総合フォーラム 」「 TAKAの交通論の部屋 」で書いた「 日本航空の経営問題について考える 」シリーズの続編として書きました。


 ☆ ま え が き

 「日本航空」と言えば、日本を代表する企業で航空業界では日本のフラッグキャリアとして、その大きな存在感を示しており、私の学生時代などは「学生の貧乏旅行だから日航には乗れないで海外のエアラインに乗る」事が多く、(チョット古いかもしれませんが)今でも国際線は「日本航空に乗るのが1ランク上」で有ると思い、マイレージカードはJALのカードを持ちマイルを一生懸命貯めて居ます。
 しかしながら、近年の日本航空の歴史は「経営再建の繰り返し」という事が出来ます。航空業界1位の日本航空と第3位の日本エアシステムの完全統合が達成されたのが約5年半前の2004年4月ですが、その頃から日本航空は経営に苦しむ様になり、社会での報道でもその苦しさが伝わって来る様になります。

 実際2004年1月〜2009年9月の間で、社長は2人交代して居ますし、給与カット(退職金カットを含む)に3回労使間で合意して、CB(新株予約権付社債)で約1000億円・公募増資で1386億円・優先株発行で1535億円と合計約3,921億円調達するなど、巨額の資金を調達しコストカットに勤めながら、その資金が「砂漠に水を撒く様」に消え去り、経営状況は悪化し続けて居るのが日本航空の現状です。
 確かに、2008年9月のリーマンショックに起因する「世界同時不況」は「国際間移動」を担う航空業界を直撃し追い討ちを掛ける様に世界的な「新型インフルエンザ」の流行が国際・国内移動需要に対して大きなダメージを与え、航空会社がそれらダメージをモロに受けて居る事は間違い無いと言えます。
 しかしながら、世界中を見回すと確かに厳しい状況では有る物の「9.11テロの後のアメリカ航空界」の様に「連邦破産法第11章(チャプター11)を大手7社中5社が申請」という程で有った状況から考えると、特にアメリカ系航空会社は今回の世界同時不況ではダメージを受けては居ません。
 その中で経営的に「危ない!!」という話が出て居るのが、「JAL」を除けばイタリアの「アリタリア航空」位で有り、アリタリア航空は前から経営や組合関係に問題が有ると言われていた「負け組」企業であり、今やJALも世界の航空業界の負け組企業と言わざる得なくなっています。

 その様な「JALの経営問題」については、既に弊サイトでも「 日本航空の経営問題を考える 」というシリーズで、2005年2月より過去5回に渡り取り上げてきて居ます。
 もう4年近く前から継続的に見てきた日本航空の経営問題が、色々な内的要因に「世界同時不況」「新型インフルエンザ」が追い討ちとなる形で、遂に「最終局面」と言う状況に達してしまいました。前々よりHP内では「漠然とした表現」でJALの経営問題の「破綻」と言う形での最終局面を危惧して居ましたが、それが現実になる可能性が高まりつつ有ります。
 今回は、最終局面に達しつつ有ると言える「JALの経営問題」について、新たな「外資提携・資本受け入れ」という動きを含めながら見ると同時に、「如何言う形でのランディングが国益と我々市民に取り一番良いのか?」と言う問題について、考えて見たいと思います。

参考サイトJALホームページ 【企業情報】 ●YAHOOニュース 航空業界日本航空  ● 「日本航空の経営改善のための有識者会議」の開催について (国土交通省航空局)
参考文献●日経ビジネス2009.9.21号「JAL 最後の審判 -新政権は「日本の翼」を救うのか- ●数字で見る日本の航空 2006年版・2007年版
TAKAの交通論の部屋●日本航空の経営問題を考える  (1)(2)(3)(4)(5)


 ☆ 一旦は浮上したが・・・。天国から地獄へ転落か? -過去最高の営業益の07年から急転落の08年・09年-

 日本航空の「経営再建の歴史」は「一体何時から経営悪化が始まったのか?」と言う感じになりますが、今の経営悪化は2004年の日本航空・日本エアシステムの完全経営統合の頃から始まって居ると言えます。
 2004年の完全経営統合以降、JAL社内では「経営の主導権争い」「数多くの運行トラブル」等が発生し、結局2005年3月に国土交通省から「業務改善命令」を受けると同時に新中期経営計画で「人員削減上乗せ」を発表し、11月には「基本賃金10%カット」の経営再生計画を打ち出します。その後もドタバタが続き、2月に「 社長退任を求める内紛 」が発生するなど、混乱と経営悪化の「第一期」といえる時期を向かえます。
 それは、下記の決算資料を見ると一目瞭然です。2003年〜2006年に関して連結営業収益は一環して増加して居る物の2003年・2005年は営業赤字となっており、「売上げ不振」と言う外的要因よりかは「コストの掛かりすぎ・人為的要因」にという内的要因依る経営不振だったと言えます。
 実際売上は2006年度がピークとなって居ますが、原価で有る営業費用はリストラ計画による原価低減効果が2006年度・2007年度と見えてきて、その効果も有り傍目から見ると2006年度・2007年度は「V字回復」を果たし、2007年度は営業利益で「史上最高益」を達成するまでになります。

日本航空の連結決算の推移(2003年〜2009年第一四半期)
年度・内容営業収益営業費用営業損益経常損益当期損益
2003年度19,317億円19,993億円▲676億円▲719億円▲886億円
2004年度21,298億円20,737億円561億円698億円300億円
2005年度21,993億円22,262億円▲268億円▲416億円▲472億円
2006年度23,019億円22,789億円229億円205億円▲162億円
2007年度22,304億円21,404億円900億円698億円169億円
2008年度19,511億円20,020億円▲508億円▲821億円▲631億円
年度・内容営業収益営業費用営業損益経常損益当期損益
2008年度第一四半期4,903億円4,864億円39億円7億円▲34億円
2009年度第一四半期3,348億円4,210億円▲861億円▲939億円▲990億円

 しかし2008年度は上期から「景気低迷」が鮮明化していた上に、9月のリーマンショック以降の世界同時不況の発生をモロに受ける形で売上が急落します。前の「 日本航空の経営問題を考える(5) 」の最後で書いていた『国際線の需要も世界経済その物が今や「世界恐慌の一歩前」と言う状況からビジネス需要が低迷するであろうと言う様に、天候で言えば「どしゃ降り」一歩前の極めて厳しい状況』と言う表現が当ると同時に、日航に取ってはその時の予想以上に「悲劇的結果」となって世界同時不況が襲い掛かります。
 実際、2008年8月には「基本給・諸手当一律5%削減。国際線・国内線計19路線廃止・減便」という新たなリストラ策を打ち出す物の世界同時不況の荒波には勝てず、2008年決算では「営業収益2,793億円減(前年比12.5%マイナス)」と言う状況に陥り、原価低減策も追いつかず3年ぶりの営業赤字と言う状況に落ち込みます。
 加えて2009年は「新型インフルエンザ」という「第二の荒波」も押し寄せ、「世界同時不況・新型インフルエンザ」が無かった2008年第一四半期と比べると売上が「1,555億円・31.7%減」と言う壊滅的なダメージを受ける事になります。

 この様に、JALはやっと再建への道筋が見えてきた段階で「外部からの荒波」をモロに受ける形となり、壊滅的な打撃を受ける事となりました。
 「外的要因」と言う問題はJALだけで無く世界中何処の航空会社も一緒の問題ですが、「9.11テロの後の苦境時に連邦破産法第11章(チャプター11)を申請して整理を終えていたアメリカ航空業界大手」や「元々経営内容が良く体力が有った欧州・アジアの優良会社」は何とかこの危機を乗りきろうとして居ますが、その前の段階で経営危機に苦しんでいた上に「2007年度から又売上が微増傾向で推移する」と言う中期再生プランを組み、売上微増と原価低減効果でV字回復継続を見込んでいたJALは、体力と備えの無いままに「世界同時不況・新型インフルエンザ」の荒波をモロに受ける形となります。

 結果として、2008年3月の1,535億円の優先株発行で資金的に目処をつけ2008年夏には「従業員平均10万円の臨時ボーナス」を出すまで余裕の出たJALの財務事情は2009年に入り急速に悪化し「資金ショート」の可能性も噂されるようになりました。  2009年第一四半期の時点でJALが必要とした資金は2000億円と言われ、その内1000億円は政策投資銀行・民間金融期間により融資枠が設定されましたがそれでも1000億円近い資金が不足しており、国土交通省が「日本航空経営改善の為の有識者会議」を設けたり金融機関・閣象徴の調整に奔走するなど、JALの再建問題はJALの経営問題を越えて「政治的問題」となって現在に至って居ます。


 ☆ 遂に「国土交通省の介入」で「外資に助け舟を求める」と言う状況に・・・

 既に「政府(国土交通省)」が介入してきて「政治マター」となったJALの経営再建問題ですが、既に年度末へ向けて資金需要が高まる中でJALは未だ約1000億円の資金が手当て出来て居ない状況に有り、経営再建の前に「如何にして年度末を越えるか」という程危機は深刻化しています。
 その中で(8月末までの)国土交通省はJALの経営再建の為に、資金調達の為の金融機関との仲立ちの他にJALの経営再建の為の事業再編にまで暗に介入するようになって居ます。

 その様な苦しい状況の中、日本航空自体は8月中を目処に新しい「再建計画」を提出する予定で居ましたが、政治的理由から策定が9月にずれ込み現在でも発表されて居ません。(「 9月24日に西松日航社長が前原国交相に再建計画の説明をする 」との報道も有る)
 日本航空の再建計画が練られて居る中で、既に動き出して居る物も有ります。その一つが、日本航空の中で赤字で有った貨物事業の全日空⇒日本郵船に譲渡された 日本貨物航空 (NCA)との 統合交渉 で有り、この事業統合に寄り寄り日本航空は前々から不採算で有り前期で200億円営業赤字の貨物事業を切り離す事が出来ます。
 しかしながら、日本貨物航空の親会社で有る日本郵船こそ「優良企業」ですが、日本貨物航空自体は「赤字会社」であり日本航空の貨物事業「2000億円の売上で200億円の営業赤字」に対して日本貨物航空は「794億円の売上で179億円の赤字」と「率」で言えば日本航空の貨物事業より悪い成績で、この経営統合は「弱者連合」であり日本航空の収益改善効果は乏しい事は間違い無く、有る意味「再建に向けて何か動かないと拙い」という国土交通省の焦りが日本航空と日本郵船の背中を強く押したのでは?と勘ぐりたくなる施策と言えます。

 その「日本航空の貨物事業と日本貨物航空の統合」の話の次に出て来たのが、「 日本航空へアメリカのデルタ航空が出資をする 」と言う話です。この話は8月に出た「貨物事業の統合話」に続いて9月11日に降って湧いた話で、国土交通省が考える(再建計画に先立つ)JALの再生への道筋の第二弾といえます。
 新聞報道の内容等を見ると、「デルタ航空が日本航空へ500億円程度出資する」「外資の出資金を呼び水にしてもう一段の資本増強・資金繰りへの起爆剤にしたい」「ノースウエストを取りこんだデルタは太平洋線で最大の運行キャリアー。そのデルタと提携し共同運行等を進める事でJALの国際線のリスクを減らす」と言う事が今回の外資との提携話の目的で有るのでは?と言うのは、一連の報道等で外に流れてきて居ます。

日本航空に触手を伸ばす外資系航空会社
VS
「スカイチーム」所属のデルタ航空(米) VS (JALと同じ)「ワンワールド」所属のアメリカン航空(米)&ブリティッシュ・エアラインズ(英)

 しかし、「航空の世界が分かる人」にとっては「デルタとJALが資本提携」と聞いた時に先ず違和感を感じると思います。その違和感とは・・・、デルタとJALでは異なるアライアンスに所属して居る事になります。今回の提携話は「異なるアライアンス間での資本提携話」と言う事になります。
 周知の通り、JALは「ワンワールド」のメンバーですし、デルタは「スカイチーム」のメンバーです(因みに全日空はスターアライアンス加盟)。今まで国際航空業界で再編の動きは有りますが、今までの再編(デルタ航空とノースウエスト航空の合併・エールフランスとKLMの統合・エールフランスKLMとアリタリアの資本提携)では全てスカイチームと言う同一アライアンス内の再編となって居ます。それに対して今回の「JALとデルタの資本提携」はアライアンスの枠組みを越えた提携です。だから違和感を感じるのだと思います。
 その様な事も有り、(公式には「強要して居ない」と言って居るが)国土交通省はJALに対して「ワンワールドからスカイチームへのアライアンス移籍」を進めて居るとの話も有りますし、アライアンスを巡る駆け引きが有るからこそこの資本提携話が出た後スカイチームのデルタに加えて エールフランスKLMとの資本提携話 も出てきたり、 ワンワールドメンバーのアメリカン航空が同じアライアンスメンバーのブリティッシュ・エアラインズとカンタス航空と組んでJALとの資本提携に名乗りを上げる 等、JALを巡る国際航空業界内のアライアンス間での動き・駆け引きが活発化しています。

 けれども、国土交通省が「影の主役」であるのは確実な「JALとデルタの資本提携話」ですが、JALの経営再建にとってどれだけのメリットが有るのか?と同時に、利用者で有り納税者で有る日本国民に取ってどれだけのメリットの有る話なのでしょうか?
 先ず「JALが外資を受け入れても外資に乗っ取られる可能性は現状では皆無」と言えます。それは航空法第四条・第百一条の規定で「外国人が三分の一以上の株を保有して居る会社には航空運送事業を許可出来ない」事になって居るので、JALが外資から資本を受け入れる余地は「総株式−外国人保有株−α」という量に制限される事になり、法律的に「外国人がJALの支配権を握る」事が不可能になって居るからです。
 だからこそ「妙案」だと思い国土交通省は「外資提携話」を実現させようとしたのでしょう。しかし此処に「落とし穴」が有ります。今のまま「デルタとの資本提携を行えば、JALのアライアンス移籍が必然となる」と言う問題が有ります。もしアライアンス移籍となればワンワールドとの間でのマイレージ・共同運行解消の問題やコンピューターシステム変更に伴うコスト等、JALの利用者・マイル保持者で有る多数の国民に影響が有る上に、コストも掛かり資本提携で得た500億円の一部分が「移籍コスト」として掛かる事になります。
 それだからこそ国土交通省の積極的な動きに対し「JALはデルタとの資本提携話に当初は難色を示した」との噂話も有りますし、其処に付け入る隙が有ったからこそアメリカン航空を中心としたワンワールドメンバーの参入も有ったのでしょう。
 又デルタ航空は「チャプター11開けでしかもノースウエストとの統合から未だ間が無く資金的に厳しい」という話が有る反面、アメリカン航空の親会社AMRは9月17日に「 総額29億ドル(約2600億円)の資金調達計画 」を発表するなど、(直接関係は無いと表明して居る物の)JALとの資本提携に向けてデルタ航空に対抗出来る準備を着々と整えて居ます。

 これらの話を総合しながら見れば、今回のJALの「外資との資本提携話」は「スカイチームvsワンワールドのJAL争奪戦」の様相を含みながら進む気配が強く、未だ此れから「一波乱有りそうな状況」に有ると言えます。
 穿った見方をすれば、「JALはアメリカンとの関係強化を探っていたらしい」「JALとデルタの組合せは余りにも突然」という事から考えて、もしかしたら「デルタは当て馬で本命はアメリカン連合」と言う作戦を国土交通省が「寄り良い条件を引きだす為」に考えたのかも知れません。
 その様に考えると、未だ「外資との資本提携話」は紆余曲折が有る事が容易に想像出来ます。しかし現実問題として「JALの資金繰りは時限爆弾のように破滅へのカウントダウンが進んで居る」中で、「外資との提携話が出た以上此れが決まらないと新規融資に金融機関は動けない」と言う状況に追い込まれて居ます。
 その上9月上旬には「政権交代による政治空白」があり、政治マターのJALの再建問題は確実に足踏みをしてしまいました。又(本記事執筆段階で)民主党政権のJALに対する姿勢は未だに明確には見えてきて居ません。残された時間が少なくなる中で、国土交通省とJALは如何にして存続の為の支援のカギとなる「外資との提携話」を決めるのか?。此処がJALの存続問題のポイントになったと(現状では)言う事が出来ます。


 ☆ 果たして日本航空は如何するべきなのか? 〜日航に残された道は「緩やかな破綻」しかない?〜

 さて、上述のように今や「末期症状」ともいえるJALの再建問題ですが、果たしてどの様な道を選べば良いのでしょうか?
 少なくともJALの再建問題に関しては、マクロ的には幾つかのリミット・条件が既に存在しています。一つは「年度末までに1,000〜1,500億の資金を調達しないと資金繰りがショートするかもしれない」と言うリミットが有ります。又「デルタorアメリカンとの資本提携話が進んで居る以上、結論が出ないと先に進めない」という条件が付いてしまって居ます。
 又「日本貨物航空との統合話」「デルタ航空との資本提携話」と言う事に対して、国土交通省が「黒子となり動いて居る」状況から考えると、今や「国土交通省がJALの再建のカギを握って居る」と言っても間違い有りません。と言う事は、政権交代が起きて民主党政権が誕生した今となっては、民主党政権の意向もJALの再建問題に大きな影を落とす事になります。(だからこそ前原国交相は24日にJALから意見聴取をし、その後金融機関からも話を聞く事を公言して居るのでしょう)
 元々、民営化されたと言えども「日本のフラッグキャリア」であり政界・官界から大きな影響力を受けて「相互依存の持たれ合い」の関係の中で生きて来た上に、会社内の派閥・複雑怪奇な労使関係等の数多い「しがらみ」を抱えて居るJALには、既に此処まで追いこまれた状況での「会社再生」に関してその当事者能力を失いつつ有るのでは?と感じます。

 この様な状況下で、JALはどの様な「再建の道」を辿るのが好ましいのでしょうか?
 少なくとも、過去に「JALの経営危機」と言う問題は二回起きて居ます。一度目は85年の御巣鷹山事故の後の時代で二度目は2003年〜2006年の経営危機です。一度目は当時の中曽根政権が実力会長として伊藤淳二氏を送り込んだもののJAL社内の派閥抗争に巻き込まれ1年3ヶ月で退任に追いこまれその後好調な経済の波に乗り問題が有耶無耶の内に業績回復を果たして居ます。又二度目も現在の西松社長の下で再建計画が経済回復の流れに乗り根本的な癌にメスを入れる前に達成されてしまい、JALが昔から持って居る「根本的な癌」にメスを入れる事無く再生を果たしてしまって居ます。
 しかし今回は、こんなに簡単には行かない事は明白です。「資金繰りが年度内にショートするかもしれない」というタイムリミットが切られてしまった中で、経済は「リーマンショック後の二番底が09年下半期に訪れるかもしれない」と言われる状況下では、過去二回のような「経済状況好転という『神風』」が吹くとは思えません。
 そうなると、前の二回とは根本的に異なり今回こそは「JALの奥底に有る癌を切除して再生を目指さない限り再建は困難」という事が出来ます。その様な状況で果たしてJALはどの様な再建の道を辿る事が一番良いのでしょうか?

 その様な点から、私が個人的に考える「好ましいJALの再生策」は「緩やかな破綻」しか無いのかな?と考えて居ます。
 確かにJALは日本を代表する非常に大きな企業です。そのJALが「破産」するような事が有れば国民経済に非常に大きな影響を与え、未だに世界同時不況から何とか立ち直りつつ有る日本経済に大きなダメージを与えて「二番底」に突入させる可能性も有ります。そういう意味では今「JALを破産させる」のはマイナスも大きいと言えます。
 しかしながら、JALには「政界や官界との関係・社内派閥・労使関係」等の数多くの「しがらみ」を抱えて居る上に「巨額の有利子負債」「企業年金」などの「レガシーコスト」を抱えるなど多くの問題を抱えた居る中で、これらは「企業策定の再建計画」で解決出来る問題では有りません。実際今までのJALはこれらの問題を打破で来ませんでした。
 では如何するか?。「 会社更正法 」でバッサリ処理する方法も有りますが、其処まで行くと波及の影響が大きすぎるので「緩やかな破綻」しか選択肢は無いと言えます。少し前ならば「産業再生機構の活用」も考えられましたが、産業再生機構が無い現在では日本で「緩やかな破綻」と言えるソフトランディングの制度は「 民事再生法 」の活用か、「 事業再生ADR制度 」の活用しか方法は無いのかな?と思います。
 正直言って「JALが民事再生or事業再生ADR適用」となるとその影響も大きいと言えますが、アメリカを見れば別に珍しい話では有りません。日本の民事再生手続きにアメリカで該当するのが「 連邦破産法第11章 (チャプター11)」ですが、アメリカでこの法律の適用例は多く航空会社で言えばデルタ・ノースウエスト・ユナイデッド等の航空会社も「9.11同時多発テロ」以降の航空不況時に連邦破産法第11章の適用を受けて債務整理・労使関係調整などを行って再生を果たして居ますし、世界同時不況以降では「大きすぎて潰せない」と言われたGMが今年6月に連邦破産法第11章の適用を受けて居ます。アメリカと日本で同じ様に物を見る訳には行きませんが、アメリカでは世界最大の自動車会社を破綻再生させて居る事や「9.11同時多発テロ」後にはアメリカ大手航空会社の大部分が連邦破産法第11章の下で再生を果たして居る事を考えれば、アメリカの航空会社や世界最大の自動車会社GMで出来た再生手法が、日本でJALに適用出来ない事は無いと考える事が出来ます。
 有る意味、JALほどしがらみの多い会社の再生に関しては、法的整理を行いオープンな環境下で悪い環境を整理をしないと真の再生を果す事は出来ないでしょう。あとはその様な影響の多い行為を行う事に対しての「政治的決断」という事になるので、法的整理で政界・官界とのしがらみを取り除くと言う点で野党の自民党を始め守旧勢力がしがらみを抱えて居る状況から、今の民主党政権では「守旧勢力の打破」と言う点でJALの法的整理に踏み切り易い環境に有るとは言えますが、同時に日本航空最大の「 JAL労働組合 」は民主党の最大の支援母体で有る連合の傘下に有る事から、民主党政権としても「躊躇する要因」は有ると言えます。
 けれども、総合的に見れば「組合員に一時の苦痛を強いても事前に万全の調整の上民事再生or事業再生ADRに踏み切り、再生を果たして強い会社に生まれ変わればトータルで見れば従業員に取っては破産するよりマシ」と言う事になり、民主党政権としてはそれさえ説得できればJALを法的整理に導いた方がトータルのメリットは大きいと言えますし、その結果「利用者の権利と一定の利便性が保障されつつ法的整理に踏み切り、JALが国際競争力の有る強い会社に生まれ変わる」方が国民としても利益が大きいと言えます。
 その様に考えれば、JALは民事再生法or事業再生ADRで「緩やかな破綻」をさせた上であらゆるレガシーコストを影響を考慮しながら切り捨て、身軽になって綺麗な体で再飛翔する事が現状においてベターな選択で有り、政治もメリット・デメリットを考えながら「破綻と言う結果を恐れず」に根本的な再生策を考えて欲しいと思います。


 ☆ あとがきに替えて 〜今こそ「日本の航空行政」の大転換を図れ!!〜

 今日本の政治・行政・経済は大きな曲がり角と変化の時代を向かえて居ます。
 政治・行政の世界では先月の衆議院議員選挙の結果として自民党から民主党への「政権交代」が実現した事で大きな変化が此れから起きる事は間違い無いですし、経済の世界でも今年or来年には日本は中国にGDPで抜かれて「世界第二位の経済大国」の指定席を譲り渡す事がほぼ確実で、これから日本は「経済規模縮小化での経済運営」を迫られる事になります。
 日本の国家全体で此れだけの変化が訪れる事が確実な以上、有る意味日本の国家のあらゆる物がそれに対応して変化をして行かなければならないですし、それは日本の航空業界にとっても同じ事で有ると言えます。

 日本の航空行政にとって大きな変化の機会が過去に二回有りました。それはJAL・ANA・TDAの住み分けを決めた「 45-47体制 (航空憲法)」が出来た時と、1985年に新航空政策が打ち出されて「45-47体制」が見直される事になり実質的に終焉を向かえた時の二回で有ると言えます。この二つが日本の航空業界の大きなターニングポイントだといえるでしょう。
 実際今の「運賃自由化」「新規航空業者参入」も全てが「ポスト45-47体制」の新航空政策で道筋が付けられた物ですし、「45-47体制」で日本の航空会社に染み付いた「政界・官界が全てを決め事業会社は従うだけ」「当事者意識・自律精神の欠如」「既得権固守姿勢・特権意識」と言う考え方が「45-47体制で国有企業として守られていた」JALに未だに色濃く残り結果として、それが現在のJALの末期的状況に追いこむ要因の一つになった事から考えても、「45-47体制」と言う存在と運輸省・国土交通省の行政施策が、体制が廃止され行政の方針が変われども日本の航空業界に強く影響していた事は間違い無いと思います。

 しかしながら、日本の政治・行政・経済が大きく変わろうとする中で、その様な過去のしがらみも変化して、新しい体制を作り出すように生まれ変わらなければなりません。
 その様に考えると、現在は正しく「過去の膿を出し切り新しい航空業界を生み出す」為には最高の機会が到来したのかもしれません。
 政権交代が実現した以上、今の行政のやり方も政権政党で有る民主党のやり方に沿って過去のやり方から新しいやり方へ変わらなければなりません。又「45-47体制」の遺産とも言える現在のJALは「経営危機」という状況下で、過去の悪の遺産を切り捨て大きく変化しないと生き残れない状況下に有ります。今は航空行政も航空業界も大きく変わらざる得ない状況が整いつつ有ると言えますし、変える絶好の機会が到来したとも言う事が出来ます。
 この機会を生かして、痛みを伴う荒治療で有っても今までの航空行政と航空業界を根本的に変えて新しい世界を切り開く必要性が有ると言えますし、前原国交相が「 限られた国土に採算度外視で空港や新幹線、高速道路を作ってきたことが、JALや全日空に負担となってきた 」と過去の航空行政を批判した事からも、「今の航空行政を変えなければならない」という事の必要性には気が付いて居ると思います。

 ではその為には何をする事が一番近道なのか?、それは前に述べてきたように「航空行政のしがらみと膿の象徴」とも言えるJALを、経営危機を奇禍として根本的に変える事が、日本の航空行政を変える事に対しての一番近道で有ると言えます。
 JALを「緩やかな破綻」で有れども一度解体的に見直す事は、「狭くて縮小傾向に有る日本に2社も大手航空会社が居るのか?」という問題に目を向ける事になりますし、(支配権が無くても)ナショナルフラッグキャリアの筆頭株主に外資を受け入れる事は「日本の航空市場で外資系航空会社を如何位置づけるか?」という問題に焦点を当てる事になります。
 どちらの話も、日本の航空行政・航空業界に取って「根本を揺るがす大問題」と言えます。又JALに法的処理のメスを入れる事は、過去の「政界・官界とJALの関係」という暗部を白日の下に曝け出す可能性を秘めており、これも又日本の航空行政にとっては「航空行政の根本を揺るがすスキャンダル」となる可能性が有り、これらが「日本の航空行政・航空業界の変化の起爆剤」となる可能性も有ります。
 この様に考えれば、国土交通省官僚が自民党政権時のやり方で「当座の危機を取り繕う」形でのJAL再建を行えば、JALに待って居るのは「一時の延命の後の破滅的破綻」という最悪の結末であり、その結果責任として航空行政も変化を迫られる事になるでしょうし、もし民主党政権・前原国交相のイニシアチブでJALに対して「膿を吐き出し癌を切除する」形での法律に基いた「緩やかな破綻・整理」を行えば、航空行政の主導権は官僚から政権・国交相に移る事となりこれ又変化を迫られる事になります。
 現在、JALは危機的状況下に有り再建問題は正しく「最終章」に突入して居ますが、その処理に関して「奇跡」が起きない限り如何なる方法でも日本の航空行政・航空業界にとって「過去と決別すると同時に大きな変化をもたらす」可能性が有ると感じます。そういう意味では「JALの再建問題」は非常に重い意味を持って居ると言えるかもしれません。





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