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JALのシンボルマーク「太陽」が遂に沈む時が訪れたか!?

−日本航空の経営問題について考える(7)−


TAKA  2009年11月22日


御巣鷹山でも沈まなかった「太陽」が遂に沈む時が訪れたのか?


 ※ 本文は前に「 交通総合フォーラム 」「 TAKAの交通論の部屋 」で書いた「 日本航空の経営問題について考える 」シリーズの続編として書きました。
 ※ 本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 ☆ ま え が き 〜JALは経営危機で「太陽が沈む時」が訪れたのか?〜

 JALと言えば「日本の翼・ナショナルフラッグキャリア」で知らない人は居ない名門企業ですが、今テレビのニュースでJALの話が取り上げられに日は有りません。報道されて居るのはご存知の通り深刻な経営危機に陥ったJALの経営再建問題です。
 確かに航空業界は、リーマンショック以来の世界同時不況と豚インフルエンザの世界的流行と言うダブルパンチを喰らって非常に厳しい状況で、日本国内ではJALだけで無くANAも09年中間決算では赤字転落という様に、国内外問わず多くの航空会社が苦境に陥って居るのは間違い有りません。

 しかしJALの場合、そんな「昨日今日に始まった経営危機」では有りません。航空業界自体この10年で今回の苦境と「2001年の同時多発テロとSARSの流行」と言う2回の不況を経験しています。しかしながらその中で同時多発テロ&SARSの時にはアメリカの大手航空会社の大部分が「 Chapter 11 」を申請して破綻するなど厳しい状況になりましたが、その時に有る程度企業の体質改善が進んだ為今回の危機では赤字を出しており苦労はして居ますが、未だ破綻が現実化して居る企業はそんなに有りません。少なくとも「危機に対応出来る体質」を前の危機の時に供えたと言えます。
 その経営の体質改善が出来て居なくて、今回の危機で経営危機が表面化した数少ない大規模航空会社がイタリアの アリタリア航空 と今回話題のJAL(日本航空)です。

 JALの経営状況は「世間がクシャミをするとJALは風邪を引く」という様な状況で、1987年の日航法廃止による半官半民から民営への経営体系変更以降、2001年以降の一連の危機と内紛や今回の経営危機など複数の危機が発生しており、有る意味「日本航空の経営危機」は年中行事と化して居ます。
 しかしながら、今までは経済状況と言う外部要因が少し好転すると経営の数字的にはJALの経営内容が好転するため、今までは何とか経営危機をクリアして来ましたが、今回は「世界同時不況」の深刻さと過去失われた企業体力が仇となり、遂に経営的に追い詰められる状況になり、国が経営再建に乗りだすと同時に会社の整理に近い状態(執筆段階では「企業再生ADRの適用申請と企業再生支援機構が資産査定を行う」しか決まって居ない)に追いこまれるまでになりました。

 今世間では山崎豊子の「 沈まぬ太陽 」が映画化され話題となって居ますが、このモデルとなった航空会社は言わずと知れたJALです。この映画の中でも出て来る1985年の(単独事故としては世界最大の)航空事故である「日本航空123便墜落事故」でも潰れなかったJALですが、経営統合を機に マークを「鶴丸」から「太陽」に変更 した後、遂に「経営危機」によって太陽が沈む時が訪れてしまいました。
 又私自身も過去に幣サイトで6回に渡り「日本航空の経営問題」について書いて来ましたが、その時に書いた「危機には公的資金注入と言う考えは甘いと言えますし、危機感欠如の象徴的考え方」「JALは生き残れるのか?」「残された道は緩やかな破綻しか無い」と言う事が今や当りつつ有る事に、非常に複雑な気持ちで居ます。
 今回は、遂に日航の経営危機の「最終章」に確実に突入しつつ有る日本航空の経営危機問題について、「経営危機の深刻な状況」について分析を加えながら今後どの様になって行くのか?今までの過去6回のコラムの記述を踏まえながら考えて見たいと思います。

参考サイト(全般情報)● JALホームページ 【企業情報】 ● ANAホームページ 【企業・グループ情報】 ●YAHOOニュース 航空業界日本航空
(個別情報)● 【イチから分かる】日本航空の年金問題 削減立法は財産権侵害か 11月11日 産経新聞 ● 日航再建 事業再生ADRを活用 11月11日 産経新聞
参考文献(1)日経ビジネス2009.9.21号「JAL 最後の審判 -新政権は「日本の翼」を救うのか-」 (2)週刊ダイヤモンド2009.11.7号「JAL 国有化の罠」
(3)数字で見る日本の航空 2006年版・2007年版
参考TV番組●NHK 追跡AtoZ 「 JAL再建 問われる新政権
TAKAの交通論の部屋●日本航空の経営問題を考える  (1)(2)(3)(4)(5)(6)


 ☆ JALはもう限界!! 11月13日発表の日本航空の2009年度上半期決算は「ボロボロ」の状況?

 さて、その厳しいJALの経営状況を示して居るのが、ここ数年のJALの決算内容です。今世紀に入りJALは「経営危機の連続」と前に書きましたがその状況が決算内容に如実に示して居て、正しく「ジェットコースターの様な乱高下」の流れの中に有ると言えます。
 下の表は、JALのホームページから引用して作った、2002年10月の「JAL・JAS合併」以降のJALの決算数字の対比表です(比較参考用にANAの数字も一部入れて居ます)。

日本航空の連結決算の推移(2003年度【16年3月期】〜2008年度【21年3月期】)
年度・内容営業収益営業費用営業損益経常損益当期損益
2001年度【14年3月期】20,294億円20,304億円▲10億円▲336億円▲357億円
2002年度【15年3月期】20,834億円20,729億円105億円158億円116億円
2003年度【16年3月期】19,317億円19,993億円▲676億円▲719億円▲886億円
2004年度【17年3月期】21,298億円20,737億円561億円698億円300億円
2005年度【18年3月期】21,993億円22,262億円▲268億円▲416億円▲472億円
2006年度【19年3月期】23,019億円22,789億円229億円205億円▲162億円
2007年度【20年3月期】22,304億円21,404億円900億円698億円169億円
2008年度【21年3月期】19,511億円20,020億円▲508億円▲821億円▲631億円
(比較用のANA決算)2007年度【20年3月期】14,878億円14,034億円843億円565億円641億円
(比較用のANA決算)2008年度【21年3月期】13,925億円13,849億円75億円0億円▲42億円
 ※2001年度はJAL・JAS合併前(2002年10月)の為、単純合算の数字です。
日本航空の上半期連結決算の推移(20年3月期〜22年3月期)
年度・内容売上高営業利益経常利益四半期純利益
20年3月期第二四半期(累計)1,142,933百万円56,652百万円58,723百万円7,309百万円
21年3月期第二四半期(累計)1,073,597百万円30,229百万円18,023百万円36,674百万円
22年3月期第二四半期(累計)763,953百万円▲95,793百万円▲114,449百万円▲131,217百万円
(比較用のANA決算)21年3月期第二四半期753,328百万円49,853百万円39,529百万円22,045百万円
(比較用のANA決算)22年3月期第二四半期611.822百万円▲28,271百万円▲41,529百万円▲25,375百万円

 この数字を見ると売上に関しては「経済情勢に応じた緩慢な変化」という事が出来ます。アメリカが景気の牽引車となり日本も景気回復の流れに乗った2006年度には、新生JAL誕生時と比べて約1割売上(営業収益)が増えて居ます。合併前年の2001年から売上の推移を見ると此処が頂点となって居ます。
 其処からは、世界的な景気の不安を映し出す様にJALの売上もジリ貧になっており、下半期にリーマンショックが襲い掛かった2008年は頂点の2006年から1割強減少して2003年の数字と近い売上に低下して居ます。しかし2009年上半期は売上が急落して、上半期だけで比較すると2008年の約7割程度にまで落ち込んで居ます。
 このままで行くと、2009年度は通期で13,650億円程度の売上に終わってしまう事になります。この数字は非常に深刻な数字です。要因としては「景気後退」と言う事が一般的に言えますが、それだけでは説明で来ません。実際ANAの2008年と2009年の上半期決算の売上を比べると売上の減少は前年比8割強で済んで居ます。要は(少々乱暴ですが)JALとANAの売上減少幅の比率の差約1割が「JAL固有の要因による売上減少」という事になります。その「特殊な要因」は・・・それがどれだけの影響が有ったか明確に立証する事が難しいですが、所謂「JALが起こした運行トラブルや会社内の内紛」によるイメージ低下に起因する「利用者離れ」である可能性は有り得ると思います。そう言う意味ではJALは「外部要因+自爆」で売上げを落とした一面も有ったのでは?と推測は出来ます。

 売上に関しても深刻な状況ですが、経費項目に関しては「経済状況に応じた変化」と言うよりかは「乱高下をして居る」状況です。本業の儲けをを示す「営業損益」は赤字・黒字・赤字を繰り返して居ますが、必ずしも「売上の増減」とリンクして居る訳で無く色々な要因が複数絡み合って上下して居る状況です。
 この営業損益の上下に関しては、「売上減による減益」だけでなく「(燃料費等の)原価の上昇」などが要因として絡み合い営業収益が変化しています。JALは赤字に陥るたびに「中期経営計画」を再策定してコスト削減施策を打ち出して収支改善を図りました。
 その 原価低減と社内改革の成果 と景気回復による売上向上が上手くリンクして「V字回復」の一端を示したのが07年度決算と言えます。しかし外部要因の激変により08年と09年の上半期決算の間で3割近く低下した「釣瓶落としの売上」に対して原価で有る営業費用は2割を欠ける程度しか落とす事が出来ず、結果として08年・09年の売上減に経費の減少が追いつかなかった差が09年上半期で大幅な営業赤字を出す要因となって居ます。

 実際問題、この不況に苦しんで居るのはJALだけでは有りません。同業のANAも2007年〜現在までの売上・収支の推移は似たような傾向を辿って居て、09年上半期はANAも(JALほどでは無いですが)大幅な営業赤字に陥って居ます。そういう意味ではこの状況は「航空業界の流れ」と言っても過言では無い状況です。
 では、一時期は「水面上に浮上したのか?」と思わせたJALの経営が何故此処まで決算の数字がボロボロになってしまったのか?しかも今度は「法的整理も?」というレベルの破綻に近い経営危機を迎えてしまって居ます。果たしてその要因は何処に有るのでしょうか?
 その要因は一義的には「本業で稼げず収益が出ない」という事になりますが、それと同時に一部報道されて居ますがそれを含めた「未だに企業内と関係者の中で隠れて居る深刻な実態」に有るといえます。以下においてその「深刻な実態」について考えて見たいと思います。


 ☆ 21年上半期決算では未だ明らかになって居ない深刻なJALの財務状況とは?

 その「JALの深刻な実態」の一つが極めて深刻な「簿外損失」です。
 既に今テレビのニュースを騒がして居る「JALの年金問題」も典型的な簿外債務ですが、これ自体は会計制度的には「15年間で分割計上」が認められて居てJALは計画的に損出を引き当てて来ましたが、経済状況にの悪化に寄り拡大する給付利率と運用実績の差が負担として増大して居る事になります。
 確かにJALの年金の給付利率が4.5%〜5.5%と極めて高い利率で有り、今こんな利回りで運用出来る所等有るはず無くこの利率を国債の利率程度(1%台半ば)に押えると同時に含み損を年金給付の減額で相殺する事を狙い「JAL経営再建の柱」にしようと言う動きが、今報道されて居る動きと言えます。

 しかしながら、JALの賃借対照表には明らかになっていないと言われる含みの損失はかなり重い数字です。現在一部の報道で前原国交相が9月22日に造った「 JAL再生タスクフォース 」が資産評価した結果の内訳が報道されており、その結果「JALは7,569億円の債務超過に有る」と言う事が明らかになって居ます。

参考文献(2)に掲載の「2009年6月末実体連結賃借対象表」で帳簿と実態に大幅な差が有った項目
資産の部退役予定機材関連評価損(貯蔵品・航空機 項目)▲3,914億円土地・建物含み損(建物及び構築物・土地 項目)▲318億円
負債の部(年金)未認識債務・割増退職金(退職給付引当金 項目)3,287億円増リース機材関連損失・価格調整(固定負債その他 項目)1,149億円増
11月12日報道の「機材評価損」金額(ロイター: JALは7422億円債務超過と作業部会試算、存続可能性問われる
航空機の退役・売却時の評価損が2,477億円ボーイング747-400型機が1,671億円マクドネル・ダグラスMD-90が584億円(別に)退役・売却予定航空機リース取引に関する評価損498億円

 上記表は、週刊ダイヤモンド及びロイターが報じた「JALの賃借対照表に載っていない簿外損失」の概要です。資産のマイナスは「資産の含み損失」を意味しますし、負債のプラスは負債の増加を意味します。此れの合計(上記表は大きな項目の抜粋なので合計は合わない)の結果が「現在JALは7,569億円の債務超過」という事になります。
 この表を見ると、JALの簿外損失の大部分は「年金関連等の未認識債務」と「機材関連の評価・リース関連損失」と言う事になります。
 その内JALの簿外損失の半数を占める年金の未認識債務(JALが15年分割で計上して居る「会計基準変更時差異」でなく「未認識数利計算上の差異」)ですが、これは「JALの存続が危うくなってきた」中で「期待運用収益率(1.5%〜6.1%)と実際の運用の差による損失」が膨らんできたからこそ浮上して来た問題で有り、これ自体は 08年度決算短信 (退職給付債務に関する事項)にも 08年決算説明資料 (未認識債務FY08末残高3,315億円)にも明記されており、しかも決算説明資料では「有利子負債にはオフバランス」と位置づけられて居る物で、既に明らかになっておりしかも認識されて居る物で有るといえます。
 しかしながら、認識されて居るとは思えないのが機材関連の損失です。機材関連に関してはリース債務3,017億円はオフバランスの上明記されて居ますが、機体の評価損に関しては損失を計上して居ません。しかも多額の損失を抱えて居るB747-400やMD-90の大部分は自社保有機です。「機材評価損」に関しては色々な評価の考え方が有りその評価を一概に言う事は出来ませんが(タスクフォースは「厳しく査定して損失を出し切り再生のハードルを下げたい」と考えて居るのだろうが・・・)、実際に種駅を稼ぐ源泉で有る機材に大きな評価損が有るのは問題です。

 この様に見ると、JALの深刻な状況とは「認識して居る物の年金の運用差損が増大して年金債務が増大して居る」という過去の甘い経営(ビックリする程の期待運用収益率)と厳しい経済状況の影響(運用利率の低下)の影響を受けた側面と、機材の含み損失の増大という「老朽機材の積極的な償却を進めず、機材の更新も怠った」という過去の厳しい時代の経営の怠慢がもたらした側面の二つが合わさって居る事が要因となって居ます。
 けれども、これらの問題は「明示してオフバランス」されたり「隠れていたもの」であり、本来なら「本業が稼げる状態」ならば一括損失計上して将来の稼ぎで返済しても問題無いですが、現在の状況ではこれらのレガシーコストが無くても存続が危ぶまれる状態で有り、今や実際明らかになってる「経営実体の改善」と決算でオフバランスされて居る今まで見てきた「レガシーコスト」の解消の両面を目指さなければならない厳しい状況にJALは置かれて居ると言えます。

 ☆ 「年金だけで無い!?」JAL再生に立ちはだかる大きな壁とは?

 さて、上記の様にJALの再建問題には、「年金問題」「機材の含み損」という帳簿上の損失と言う問題と「本業で売上が落ちて赤字が拡大して居る」という営業上の問題の二つの問題が「壁」として立ちはだかって居ます。
 今マスコミが報道して世間を騒がして居るのは「年金問題」であり、「年金問題を解決して公的資金を注入すればJALは再生出来る」と言う感じを抱きますが、私が感じて居るのは「JALの再生はそんなに簡単な問題では無い」と言う事で、実際問題JALの再生の最大の壁はそれ以外に有ると思います。
 此処では「年金問題」を含めた「JALの再生に横たわる諸問題」について考えて見たいと思います。

 (1)先ずは話題の「年金問題」に有る壁とは?

 先ず年金問題ですが、これは有る意味非常に簡単で、一言で言えば「JALが退職者に利息を付けて年金を払う約束をしていた」⇒「約束の利率と運用に差が出て差額損失が出る可能性が出た」⇒「将来損失が増えるが今回この機会に処理をしてしまおう」と言う流れの中で、「今のままでは予定利率が高くて退職者が年金で金を持って行ってしまうからそれを辞めさせよう」という事で年金問題が浮上して来たといえます。
 この年金(確定給付年金)自体は「労働債権に準ずる物」として保護されており、制度変更(給付利率の引き下げ)には「給付者の3分の2の同意」が必要で同意を取りつけても「特例一時金(総支払額を現在価値に割引いた金額)」を受け取る権利が残る為、今のままでは「制度変更も難しいし根本的債務削減に寄与せず」「年金基金からの積み立て不足分請求が最優先で処理されてしまい公的資金が年金基金積立不足解消に注ぎ込まれる」事が非常に問題が有ると言う事で注目を集めて居ます。

法的整理・私的整理時の株主・債権者の一般的保全状況(参考文献(2)より要約引用)
制度・項目株 主金融債権担保・リースつなぎ融資労働契約・債権
会社更正法(法的整理)債務超過時は100%償却対象対象開始後貸付は共益債権制度的に変更不可
民事再生法(法的整理)債務超過時は100%償却対象対象外(別除権協定)開始後貸付は共益債権制度的に変更不可
企業再生支援機構(私的整理)支配株主以外は希釈化の場合有り対象対象外機構の貸付が可能制度的に変更不可
事業再生ADR(私的整理)支配株主以外は希釈化の場合有り対象対象外金融債権者同意下で優先弁済制度的に変更不可
アメリカ 連邦破産法第11章(比較)無担保債権カット時100%減資対象対象最優先変更可能

 実際「確定給付年金制度」は確定給付企業年金法で内容を決められており、上記の「3分の2の同意」もこの法律で守られて居ます。しかも上記表で明らかな様にJALが「整理」と言う形で再生を果す道を選択(執筆時点では「事業再生ADR+企業再生支援機構活用」の方向で動いて居るが・・・)するにしても、日本の会社再生に関する現行制度では「確定給付型企業年金」は「労働債権」と見做される為に優先で保護される事になり、しかもその権利を侵害すると「憲法29条の財産権を侵害するのでは?」と言われています。
 その為少なくとも今の制度上では、確定給付年金に関しては「一時金の流失無しで3分の2の同意を取りつけて年金減額」と言う事は実務的にはかなり困難で、会社が実質的破綻状態に陥っても確定給付型企業年金は守られる事になります。
 この様な問題が控えていて、しかも「退職者と言う事は元JAL社員で今の状況の現況を造ってきた人達。その人達の年金が破綻しても公的資金が投入されて保護されるのは如何なものか?」と言う話になり、今では政府が「特別立法で強制的な年金削減が可能な様に対応する」という動きをしています。

 この「JAL年金規制の為の特別立法」に関しては、法的に「財産権の侵害に当る」「訴訟を起こされたら勝てない」という意見があります。実際 参考の記事 (11月11日産経新聞)に有る様に「NTTグループが確定給付年金移行時に経営悪化を理由の減額申請した事に対して厚労省が却下した事に対する訴訟」に関して高裁まで「減額もやむを得ないというほどに経営の状況が悪化したとは認めがたい」として却下されて居る事なども有り、時後の特別立法で年金削減が出来るか?疑問との見方も有ります。
 又、今のJALの状況は「既に実質的には破綻の状況」だから、年金の規制は可能で法的にも容認されるとの説も有ります。実際前述のNTTの訴訟も「減額もやもうえないほど経営が悪化して居ない」から却下された物で、現在のJALの7,569億円の債務超過は実質的に破綻状態で「公共交通事業者だから運行の止まる精算を避けて居る」だけであると考えれば、特別立法で確定給付企業年金を規制する事も可能と考えられますし、「企業年金を減額して再生案を纏めないとJALは精算に追いこまれ公共交通たる飛行機が飛ばなくなる」現状は、憲法29条2項の「 公共の福祉のための制約 」で財産権を制約出来る状況に有るのでは?と考えれば、JALの年金規制に関する特別立法も可能性が有るという事が出来ます。
 この様に考えれば、賛否両論は有れども解決の可能性が有りますし、JALのOBの間でも「 何らかの形で窮状にひんする日航に協力したい 」という動きも有ります。加えて「年金基金の未認識債務」は未だ現実に実物となって居る物ではなく「特別立法・OBの協力」などで上手く立ち廻ればクリア出来る可能性が有るものです。そういう意味では年金問題は「未だ何とか解決出来る可能性の有る問題」と言えます。

 (2)JALの問題は「機材政策の失敗」が影響している機材関連の高コスト構造にある?

 その様な「年金問題」以上に有る意味深刻な問題は「JALが儲からない企業体質になって居る」という問題です。
 確かにJALの売上は2006年を頂点に釣瓶落としで下降線を辿って居ます。又旅客収入単価に関しては「JALを100とするとシンガポール航空は53・英国航空は73・デルタ航空は49(NHK 追跡AtoZ放送内の資料より)」と言う高単価の客を抑え良い運賃を貰っては居ますが、旅客数・利用率・旅客収入も下記の表の通り下降線を辿って居ます。
 又内容を見ると、国内線は旅客数は落ちて居る物の旅客収入・搭乗率では比較的横ばいを保って居ます。しかし国際線は必ずしも「横ばい」とは言えません。実際2003年・2008年に大きく下落して居ます。2003年はSARSが流行した年ですし2008年はリーマンショックが直撃しました。此処から見るとJALの収入の側面は特に国際線の外的要因に大きく左右されて、国際線が大きく下落すると収支も厳しくなると言う関係は明らかです。

JALの有償旅客数・有償旅客キロ・有償座席利用率・旅客収入の推移( 2002年度〜2008年度データ 輸送実績 より作成)
2002年度2003年度2004年度2005年度2006年度2007年度2008年度
国際 有償旅客数(人)14,640,62711,745,03214,743,22214,187,62613,467,24113,367,90411,704,043
国際 有償旅客キロ(千キロ)69,959,08559,159,86168,986,31767,434,61362,597,92360,426,28052,186,351
国際 有償座席利用率69.0%64.6%69.3%69.4%71.1%71.8%65.6%
国際 旅客収入(百万円)668,472百万円549,764百万円671,291百万円690,226百万円724,889百万円754,300百万円703,522百万円
国際 旅客収入/有償旅客キロ9.69.39.710.211.612.513.5
国内 有償旅客数(人)46,520,05946,496,19544,705,08443,848,75543,984,84041,904,92441,154,433
国内 有償旅客キロ(千キロ)34,820,10434,687,45233,367,57432,910,53533,187,68431,746,47031,300,401
国内 有償座席利用率65.3%64.0%63.7%64.0%64.0%63.4%63.7%
国内 旅客収入(百万円)629,358百万円668,888百万円674,732百万円659,998百万円675,680百万円677,437百万円666,547百万円
国内 旅客収入/有償旅客キロ18.119.320.220.020.421.321.3

 しかし収入面で色々な影響の結果として上下が有るにしても、「客単価」という側面で見るとJALの状況は必ずしも悪いとは言えません。
 実際に有償旅客1キロ当り幾ら収入が有るか?と言う指標で有る「旅客収入/有償旅客キロ」では国際線・国内線共に右肩上がりが続いていて驚く事に苦しかった筈の2008年が国際線・国内線共に一番客単価が良かったと言う事になります。
 加えて座席利用率も、国内線は63.4%〜65.3%の数字を左右していて収支の分岐点といわれる70%こそ下回って居る物の安定して居ますし、国際線も特殊な年といえる2003年・2008年を除けば69.0%〜71.8%の間で安定しています。これも又イメージとは異なる成績です。

2009年上半期 JALグループ国内線・国際線 旅客数・対前年比・利用率の推移( JALマンスリーレポート 2009年9月 より作成)
2009年4月2009年5月2009年6月2009年7月2009年8月2009年9月
国際線 旅客数(人)891,324人783,333人749,170人977,936人1,039,603人1,029,459人
国際線 旅客数対前年比(%)92.5%80.2%75.2%90.3%95.7%106.0%
国際線 利用率(%)65.0%56.8%58.9%71.4%75.5%78.9%
国内線 旅客数(人)2,748,230人3,038,064人2,837,468人3,279,717人3,715,527人3,532,148人
国内線 旅客数対前年比(%)88.0%86.6%85.3%91.8%89.9%94.5%
国内線 利用率(%)52.8%56.5%54.4%60.1%67.1%67.5%

 又JALの経営が苦しくなった今年上半期の利用客数・対前年比・利用率の推移を示したのが上記の表です。
 未だ上半期の数字だけで10月の数字が出ていないので、「経営危機が報道されて乗客数が激減して居る」と言う報道の裏をこの資料で取る事が出来ませんが、9月までの数字を見る限り対前年比こそ前年割れですが、第一四半期は「大底」といえる数字ですが第二四半期は数字はかなり回復して来ており「搭乗率」で見れば国際線は70%台後半・国内線は60%台後半と言う数字にまで大幅に回復して来て居ります。
 搭乗率だけで見れば、第二四半期の数字は新生JAL成立の2002年以来の年間数字の全年度の数字よりも良い数字です。一概に言え無くても「搭乗率」が運行の効率を示す数字と考えると決して悪い数字では有りませんし、ANAの 搭乗率 (国内線:7月⇒60.6% 8月⇒67.6% 9月⇒69.0%・国際線:7月⇒75.1% 8月⇒79.4% 9月⇒79.4%)と比べても遜色は有りません。

 この事から考えると、収入の面ではJALの状況は必ずしも悪くないといえます。まあ国際線はJALでは如何にも出来ない「世界的な外的要因」が原因で下落して居る状況の時に、その下落に合わせて上手く座席供給数を調整できれば収入的にはJALは健全な経営を行う事が出来る事を示して居ます。
 後は、国内線の座席使用率が採算の基準ラインと言われる70%(この数字も何処まで根拠が有るのか怪しいが・・・)を下回って居る事に対して、不採算路線の整理・路線維持の場合の公的補助の取付などの「収支改善策」を行えば、収入とそれに対応する効率性の部分は十分フォロー出来るといえます。

 収入面に関してはそんなに悲観的では無い状態なのに、JALの2001年以降では2001・2003・2005・2008の各年で営業赤字になるなど営業成績は乱高下をしています。2003年と2008年はSARSとリーマンショックが国際線の足を引っ張ったという理由は明らかでも、国際線・国内線で同じ様に要因を受けるANAと比較して考えるとJALだけ赤字に陥り経営危機が取り沙汰される状況から考えると、JALの営業面でのピンチへの対応力が弱いと言えます。
 では、何故JALはANAと比べて営業面でのピンチへの対応力が弱く直ぐに営業赤字に陥る状況が訪れるのでしょうか?。それはANAと比べて「高コストな体質」が事実として存在して居る状況が有ります。特にそのコストの足を引っ張って居るのが「燃油費・整備費」関連の項目です。

JALとANAの売上・原価の比較(FY08分を比較。 JALANA の決算説明開始料より作成)
会社・項目営業収入営業費用燃料費・燃料税空港使用料減価償却費リース料減価償却+リース料整備費・外注費人 件 費販売手数料
JAL17,164億円17,773億円5,091億円1,231億円773億円1,012億円1,785億円1,166億円2,777億円960億円
ANA13,016億円12,247億円3,034億円1,011億円1,100億円599億円1,699億円633億円2,325億円927億円
JAL÷ANA1.32倍1.45倍1.68倍1.21倍0.70倍1.69倍1.05倍1.84倍1.19倍1.04倍

 上記の表は、JALとANAの営業収入・項目毎の原価支出について比較をした表です。JALとANAでは営業収入の差が1.32倍有ります。と言う事はコストでもJALはANAの1.32倍有っても売上と対比すれば同じコストで運行して居る事になりANAと同じコスト競争力が有ると考える事が出来ます。
 しかしながら営業費用で見比べると、JALはANAの1.45倍の費用が掛かって居ます。この点から総額で見てもJALはANAに比べて高コストの体質が有り、此れが収入で国際線の成績が下振れするとANAは耐えられてもJALは営業赤字に転落する要素で有るのでは?と考える事が出来ます。

 加えて、個別の原価項目を見ると驚くべき状況と深刻な状況が見えてきます。
 先ず驚くべき状況は「人件費」の項目です。世間では「JALの人件費は高い」というイメージは有りますが、実はJALの人件費はANAの人件費の1.19倍しか有りません。営業収入の差と比べると差が少なく営業収入当りの人件費はANAよりJALの方が低くなって居ます。これはJALが今までの経営危機時のコスト改善策で給与削減を繰り返してきており、給与はANA以下の水準まで切り詰めて居る結果で有ると言えます。此処から考えると業務縮小で発生する可能性の有る「余剰人員」に関しては早期退職勧奨等で対応の必要が有りますが、給与の削減等に関してはこれ以上の削減を行う必要性に乏しい状況にまでなって居ます。
 それに対して、現在のJALの抱えて居る根本的な問題を示して居るのが、燃油費・燃料税と減価償却+リース料と整備費・外注費の項目です。この項目ではJALとANAの売上差1.32倍から比較すると「燃油費・燃料税がJAL>ANA」「減価償却+リース料がJAL<ANA」「整備費・外注費がJAL>ANA」となっていて、この差は大きい物が有ります。
 この数字が示す物は、JALはANAに比べて「収入当りの燃料費が掛かり燃費が悪く、機材への投資費用が少なく、整備費が多く掛かって居る」という状況です。要はJALはANAに比べて機材更新が進んで居らず、その結果として機材が古い分機材の減価償却は少なくリース料もそれを補うまで行かない状況に対して、古い機材を使って居る弊害として燃費が悪く燃料費が掛かり整備にも多くの費用が掛かって居る、と言う事です。ここにJALの「最大のアキレス腱」が有ると考えます。
 実際問題機材の機齢で見るとJALは11.1年に対してANAは9.3年と大きな差が開いて居ますし、機材政策に関してもANAの保有機材の約3割・JALで約2割5分を占める主要機材であるB767・A300の後継機種であるB787に関してはJAL・ANA共に発注はして居る物の、ANAがB787のローンチカスタマーとなり開発にも深く関与するなど積極的に動いています。実際ANAは98年〜02年の経営危機時にも積極的に機材投資を行っており、しかもリースで無く資産となる自社保有で最新機材を多数保有しています。

 このJALとANAの機材政策の大きな差が今になってコストに大きく響いてきて居ます。
 此れから考えると、JALは最新機材を大量に導入して機材更新を進めて燃油費・整備費で低コスト運行が出来る体制を造ると同時に、機材のダウンサイジングを図り特に国際線で需要の変化に対応できて搭乗率を上げられる機材に更新して行けば、その原価と収入効率の面で効率化が図れるのは間違い有りませんが、それを単純に行う訳には行かない「深刻な事情」がJALには存在していて、これがJALの経営の大きな「癌」となって居ます。
 そのJALが抱えていて「根本的な収益体質改善」にネックとなって居る項目について以下で考えて見たいと思います。

 (3)JALの帳簿と原価構造の最大のネックは「機材の資産価値」に有り?

 さて、その「JAL最大の問題」である「根本的な収支体質改善」に必要な事は、「燃料費・整備費の削減」であり、その為に必要な「機材の更新」が今までJALではANAに比べて投資が少なく、結果としてJALのコスト競争力を殺いできたのは上記の通りですが、何故JALはANAに比べて此れだけ機材更新が遅れたのでしょうか?
 JAL自身も、機材の更新の為に努力をして来たのは事実です。実際JALは 06年に7億株・1477億円08年にも6億1400万株・1515億円の増資(今回の増資は制約付きのA種株式)を行い、「飛行機機材の更新」の原資を確保し、実際当初計画では平成20年〜22年で65機の機材更新(主要機材はB737-800⇒26機・B777⇒9機・B787⇒15機)を行う予定 で居ました。
 しかしながら「予定機材の一つB787のデリバリー延期」で順調に進まず、長距離国際線機材に関して「B777の導入は在来型B747更新分しか手当てして居ない」状況で、長距離国際線の主力機材のB747-400のB777への更新が元々殆ど予定されて居なかった事など合わせて、現状では不況で旅客数が大きく減少しながら長距離国際線の主力機材が座席数の多いB747-400が主力で有ると言う厳しい状況になって居ます。

JALとANAのフリートの比較(FY08末時点を比較。 JAL決算短信ANA の決算説明会資料より作成)
B747(在来)B747-400B777A300-600B767B737-400・500B737-700・800A320MD-87MD90DHC8-300・400その他合計
JAL7機(リース0機)44機(リース3機)43機(リース23機)22機(リース4機)49機(リース30機)23機(リース11機)18機(リース16機)0機(リース0機)14機(リース6機)16機(リース0機)16機(リース8機)25機(リース12機)279機(リース113機)
ANA0機(リース0機)15機(リース3機)43機(リース8機)0機(リース0機)61機(リース15機)23機(リース10機)18機(リース4機)30機(リース15機)0機(リース0機)0機(リース0機)19機(リース17機)0機(リース0機)213機(リース72機)
 ※上記表の中の「その他」の内訳はボンバルディアCRJ200(9機 内リース9機)・Embraer170(2機)・SAAB340B(14機 内リース3機)・ブリテンノーマンBN-2B(2機)です。表内の「リース機数」は内数です。

 そういう状況に有り、今回JAL再生タスクフォースも「ジャンボ(B747)の運行停止による効率化」を再建計画の中で考えて居た様(NHK 追跡AtoZ 「JAL再建 問われる新政権」内で放送されていた)なのですが、このB747-400の運行停止がJALに取っては「出来るに出来ない大問題」で有る事が、JALの抱える「機材問題」の深刻さを示して居ます。
 一つは「更新の主力機材」に据えていた最新鋭機B787のデリバリーの遅れが有り、B747-400の後釜の機材が近々に置いて調達出来ないと言う外部要因の問題も有りますが、それ以上に前述のように「B747-400は機材資産評価で1,671億円の巨額の含み損を抱えていて退役させると巨額の含み損が出る」という深刻な問題が有ります。
 今の状況下でJAL独自の力でB747-400を更新するとなると、「含み損の処理」と同時に「機材調達の費用の工面」という二つのハードルを同時に抱える事になります。しかもB747-400の運行して居る路線網を維持しながら機材更新をする場合、今から「新たな機材調達」をするにしても「B787のデリバリーを待つ」にしても、あと数年先にならないと手の打ち様が無い状況ですし、B747-400運行の路線を全部切り捨てるとなると太平洋線・欧州線等の「JALの存在価値」とも言える長距離国際線の有望路線を切り捨てる事になり、この問題の解決は簡単な話では無い事になります。

 確かに「年金問題」に比べれば、B747-400の含み損問題は「損の金額」自体は約半分と言う金額ですが、年金問題は「特別立法で徳政令」と言う事で強引に減らす事は可能ですが、機材問題は「紙切れ一枚」で解決出来る問題では有りません。
 日本航空に取ってB747-400は今でも原価を使い金を稼いで居ます。JALにとっては金を稼げ無くなると言う事は、今以上に厳しい状況に陥る事を意味します。しかもB747-400が主力の長距離路線である太平洋線・欧州線は搭乗率で2009年上半期も70%を越える(太平洋線⇒74.4%・欧州線⇒72.0%)と言う有望路線です。
 この様に「経営の中核」を担う路線を運行する機材の更新問題で、しかも「紙切れ一枚」で解決できずもし「公的資金」を投入してB747-400の含み損を消してその上新規機材の調達資金を揃えても、B787のデリバリー遅れや一朝一夕では機材は買えない等の問題から、コスト問題の根本は解消できず「今の高コストのB747-400を使いながら徐々に機材更新をして行かないとダメ」という厳しい状況です。
 多分JALは「先にB747在来型の更新が必要」「B747-400の更新を一気に進めると含み損が財務悪化を引き起こす(年金損失と異なり機材含み損は更新時点で表面化してオフバランス化出来ない)」等の問題から、06年・08年の増資時の機材更新計画で機材更新に積極的でも含み損の少ない中型機の「B767やA300をB787に更新する」事にして、高コスト体質の根本にメスを入れなかった可能性が有り、それが「ANAとのコスト差」として現在表面化して居る可能性が有ります。

 この「高コストの運行機材の更新問題を如何するか?」という問題は、JALの再建問題が報道される中で世間に分かりやすく議論し易い「年金問題」に隠されて、今まで表面化する事も少なく一部を除き報道される事も注目される事も殆ど有りませんでした。
 しかしながら「過去の垢」と言う点で「年金問題」と同じ位根が深い物の、「トータルの含み損&機材更新投資資金の調達」という点では年金問題以上に資金を必要とし、しかも「機材問題」は収入とコストに直結する点で経営的には「年金問題」よりもっと深刻な問題です。
 これは上述の数字の分析を見れば明らかです。収入の点では(今年上半期までは)悪い事は事実だがJALだけが特別悪い訳では無い中で、機材関連コストはANAに大きく劣る事実は数字が示す通りです。非常に多額の資金と数年の時間が必要な事ですが、JALの再生を果す為には「機材問題」は避けて通れない問題です。この問題の解決策を考えて資金的に手当てする事がJALの再生問題に関して「年金問題の処理」以上に重要かつ(特別立法で処理出来ない分)急がなければならない問題で有るといえます。


 ☆ 再生へのイグジット(出口)戦略戦略 〜果たして誰が「新生JAL」のスポンサーになるのか?〜

 さて、この様に「収入よりかも機材関連の原価構造に問題有り」と言うJALの経営問題ですが、先ず有利子負債8,015億円の大部分に当る主力銀行の約6,690億円になる借金に関しては債務免除・債務の株式化(デッド・エクイティ・スワップ DES)にて身軽になり、年金問題に関しては特別立法で対応する事で一定の減額を果すにしても、一定は残るであろう「年金関連債務」とそれでも消えない「機材関連の含み損」と言うレガシーコストへの対応及びJAL存続の為の投資となる「新規機材投資」を行うとなれば、如何なる形であれどもJALに対して一定の公的資金注入は避けられない状況です。
 実際最大の債権保有者で有る「 日本政策投資銀行 」は「政府100%出資」の銀行であり、その日本政策投資銀行にはタスクフォースは「442億円の債権放棄・98億円のDES・200億円の優先株保有」を求めた(参考文献(2)より)とされ、日本政策投資銀行の当期利益へ287億円の減益要素になる重い負担を強いる事になります。日本政策投資銀行が「民営化を道筋として定められながら国が100%株を保有する銀行」で有る以上、この金融支援が日本政策投資銀行の株の価値の毀損を通じて国の資産を傷つける事になり、それは廻りまわる形であれども「国民の富の減少」という負担を意味します。
 加えて(本原稿執筆中の現在では)活用が決まり資産査定(デューデリジェンス)を行って居る「 企業再生支援機構 」に関しては、再生原資となる借入金には「日本国政府の保証」が付く事と決まっており、結果としてここにも「JAL再生には間接的でも税金・国家資産」が係わる事となり、形式上は異なれど実質的には公的資金に準ずる物がJAL再生の原資となります。

 そうなってくると、大切なのは「再生完了後のイグジット(出口)戦略」と言う事になります。確かに国民の負担を強いる以上、確実に再生を果たしてくれなければならないのですが、それと同時に「投入された公的資金」が確実に返済され、可能ならば其処で利潤が生み出されるような出口戦略が組まれなければなりません。
 実際問題として、再生の手法は「年金債務に関しては特別立法で対応・金融機関からは金融支援を受ける・その上で企業再生支援機構が投資をしてその資金で機材等の投資を行う・合わせて人員や路線のリストラを行う」と言う形で再生を目指す形になると思いますし、結果として「 産業再生機構がダイエーを救済した事例 」の様に「株式に関しては既存株は減資・スポンサーor企業再生支援機構が出資・最終的に企業再生支援機構の保有株は売却」という道筋を辿ると思います。
 其処で問題になるのが、「誰がJALのスポンサーとして名乗りを上げるのか?」という問題です。既にJALへの出資・協力に関しては、9月の段階で(ノースウエストと合併して)太平洋線最大手になったアメリカのデルタ航空が名乗りをあげて居ますし、その後JALと同じアライアンスであるワンワールドのメンバーで有るアメリカン航空もJALへの出資の用意が有るとの意思を表明して、JALにタスクフォースが乗りこむ前には紙面を賑わせて居ましたし、ここ数日も又 デルタとアメリカンが再びJALへの支援を表明 する(デルタの社長が東京でJAL支援を表明するとは驚きました!!)など、JALを巡る争奪戦は「アライアンス間の競争」を含みながら又賑やかになってきて居ます。
 この「JALの提携先」についての問題は、JAL再生への出口戦略に大きな影響を与える事となります。つまり今の段階で「アライアンスとの関係」を含めた提携で大きな動きをして資金支援を受取ってしまうと、将来の企業再生支援機構の出口戦略に大きな足枷を付けてしまう事になります。実際今スカイチームのメンバーから5億ドルの優先株出資を受けたとして、再生に必要な債務放棄・DFSや公的資金の投入はそんな物では済みません。それだけ日本が資金を投入しながら5億ドル程度の唾付けでデルタ航空に「再生して優良になったJAL」を持って行かれては、税金を投入した後の出口で安値で外資にJALへの影響力を持って行かれる事になりかねません。
 それは「税金投入した挙句美味しい所取りされる」と言う国民全体の損失になりますし、加えて「戦略無く日本のナショナルフラッグキャリアを(限定的でも)海外勢の影響下に置く」事は、日本の航空政策全般に影響を与える可能性の有る話で、国益全般から見て「下策」と言えます。

果たして誰が「新生JAL」のスポンサーとなるのか?
  
  
左:二番手から同一アライアンスのアメリカンが巻き返すか? 中:最初の本命デルタが結局勝つのか?
左下:大穴でANAとの統合で「JANA」登場か? 右下:異業種からの参戦で鉄道&航空の組合せが出来るか?

 すなわち、JALの再建には「日本の総合交通体系」を構築するに足る運営体制を構築すると同時に公的資金を返済出来る企業価値を持たせる事が必要です。実際現在JALの債務超過額は約7,569億円と言われて居ますが、債務超過を解消して再建を達成する為には「2,200億円の債権放棄・300億円のDES・(企業再生支援機構の)公的資金を軸とした3,000億円程度の資本注入」(参考文献(2)より引用)が必要とも言われて居ます。
 株に関しては、産業再生機構が係わったダイエーの事例を見れば再生の中で「減資⇒スポンサー・機構による増資⇒機構の株・再建の売却」と言う流れを辿ると思います。その流れの中で必要な事は「企業再生支援機構」の債権が「投入した(公的保証付きの)資金以上で売却される事」が重要になってきます。その為には「再生後のJALを高値で買ってくれるスポンサー」を探す事が大切になってきます。
 その様な「高値で買ってくれるスポンサー」の候補は、今の段階では「デルタ航空・アメリカン航空」という米系キャリアと言う事になりますが、これらの米系キャリアが今の段階で「支援を表明して居る金額」はどちらも10億ドル程度となり、3000億円と想定される公的資金投入額には遠く及びません。
 又米系キャリアを「スポンサーの主役」に据えるには「航空法101条第1項第5号ホの 航空運送事業の申請会社について、その議決権の3分の1以上を外国人が占めないこと 」と言う制約が有る以上、減資後の増資引受・イグジット時の株購入で主役に躍り出る事は難しいと言えますし、「議決権の無い優先株」に米系キャリアが3,000億も金を出すとは(デルタの提案は優先株で5億ドル)とはとても思えません。(米系キャリアが優先株を買ってくれるのなら企業再生支援機構が「優先株での資本注入」という手法も有る)

 この様な事を考えると、「必要な資金量と航空法の制約故にイグジットで外資キャリアが主役にはなりづらい」と言うのが実状です。結果として3,000億円以上の投資をして「新しいJALのスポンサー」となってくれる企業は「国内企業でないと難しい」という事になります。
 と言ってもこの不景気のご時勢ですから、3000億円以上の金を「ポン」と投資する事が出来る国内企業は限られてきます。しかもJALを買収する事で事業の「相乗効果」を得られる企業となると・・・、極めて限定的になる事は間違い有りません。
 さて・・・、その様な国内企業は存在するでしょうか?。正直言って「満点」の企業は無いと思います。しかし色々考えると「候補」足り得る企業は幾つか出てくると思います。
 先ず一つの候補は「ANA(全日本空輸)」です。ANAは言わずと知れた日本第二位の航空会社で(本編中でも比較して居ますが)常にJALと対比される関係に有ります。確かにANAも今上期は「営業赤字」に転落し厳しい状況です。しかし費用の面は「ANAを中心とした企業グループを造り投資費用とリスクを分散させる」という手法も有りますし、国内・国際線合計で世界第4位の巨大航空会社を誕生させる事でのスケールメリットやコスト削減効果も期待出来ます。そういう意味では「日本の航空業界を世界と対等に渡り合わせる為に必要な再編策」とも言えますし、一部の報道(参考文献(1)・(2)等)などでも「方策の一つ」として言われて居る組み合わせです。
 この組合せは、今後JAL再建の過程で何度も話が出てくると思います。しかしこの統合の最大のネックは統合に寄り国内線の(人キロで)約9割を占める寡占状況が生まれる事での「独占禁止法」問題です。実際問題国内航空でシェア9割となるとこの合併が公正取引委員会に認められない可能性も有ります。しかし国内交通を見ると「国内航空」は鉄道等の他モードとの競争にも晒されて居ますし、(参考文献(1)で命名された「JANA(JAL+ANA?)」を使わせて頂いて)JAL+ANAの新航空会社「JANA」が重複路線合理化で手放した羽田発着枠を新規航空会社に割り当てたり、国の補助が投じられる地方路線は各地域主体の第三セクター航空会社に路線売却する事で国内全体でのシェアを落とす等の対策を講じて、「公正取引委員会の審査」を切り抜ける事が出来れば(それでも厳しいか?)この組合せは「世界に勝てる日本の航空会社」を造る絶好のチャンスを提供する事になります。(独禁法問題に絡んで「国際線だけの統合案」も有るが、「国内線の統合効果で収益体質を劇的に変える」事がJANA構想の確信で有る事を考えると「国際線だけ統合」のメリットは少ない)
 もう一つの候補は「交通系だが他業種の企業」が載り出すと言う手も考えられます。その有力候補が「 JR東日本 」で有るといえます。大前研一氏は11月25日号のSAPIOで「 JALをJR東日本に買収させる究極の救済策「プリ・パッケージ」を提案する 」と書いており、その中で大前氏はJR東日本がJALのスポンサーに名乗りを上げた上で「事前協議型の法的整理」を行う事でJAL再生を果す手法を提案しています。
 確かにこの組合せも「一理有り」です。実際投資費用的にはJR東日本はJAL投資に十分耐えられるキャッシュを持って居ますし、 JR東日本の元社長の松田昌士氏がJALの監査役 で有り「何も繋がりの無い会社」では有りません。しかもJR東日本とJALは「東京〜東北・北陸輸送はJRの新幹線へ」「JR東日本の事業範囲外にJALの路線ネットワークで進出できる」「関連分野で相乗効果も有る」等々色々な効果も期待出来ます。しかもJR東日本には「JR化後20年間破綻国有企業の民営化に努力し、JALの体質・組合関係などにメスを入れる運営ノウハウも有る」等のメリットも有り、加えて「独占禁止法」の問題も有りません。ですから確かに「JAL再生のスポンサーに最適」とも言えます。又JRグループの中でJR東海は「リニア新幹線に投資を集中」の状況ですし、JR西日本にそんな財務体力は有りません。そういう意味では候補はJR東日本と言う事になります。
 しかし「日本の航空業界」全体で考えると、JR東日本との組合せで「世界に勝てる体質の日本の航空会社が出来るか?」となると疑問が有りますし、其処は「国内線・国際線での路線合理化効果」「大規模航空会社登場でのスケールメリット」等々の事を考えると、「立ち塞がる障壁は大きい」物のANAとの統合の方がメリットは大きいと思います。

 最終的に「再建が完了した」と言う事が出来るのはイグジットが完了した時です。その道筋に関しては再建途上の段階から有る程度付けて置かなければ上手くは行きません。
 今回の場合は「公共交通機関で有りナショナルフラッグキャリアである企業の経営再建」という極めて公益性の高い経営再建事業で有り、同時に現在資産査定中の為確定して居ない物の、国の作った企業再生支援機構を活用して公的資金(と言っても過言では無い性格の資金)を投入しての企業再建で有り、このイグジットに関しては当然の事ながら「税金の無駄無き活用や日本の航空の有り方」など色々な事を考えながら方向を決めて行かなければなりません。
 「税金の無駄無き活用」と言うのは、単純に「JALを収益性の有る企業に立派に再建して投じた資金より高いイグジットを探す」事により簡単に解決出来ます。有る意味企業再生支援機構がJALの企業再建を真面目に行って成功させれば、あとから成果として必然的に付いて来る物です。
 しかし「日本の航空の中でJALを如何位置づけて再生を果させるか?」という問題はナカナカ難しい物が有ります。少なくともイクジットの段階で単独の企業再生が上手く行っても、将来的にJALを企業として長く永続させる為には「どのようにかでも今のJALを変えて新しいパートナーを探す」事が必要になります。
 実際問題ナショナルフラッグキャリアのパートナーを探すと言う事は、そのパートナーとの提携形態が日本の航空業界の明日を大きく左右する事になります。当然の事ながら「外資と組ませれば国富を海外に引き出させられる可能性」も有りますし、JANA構想にしても「今の営業赤字で苦しんで居るANAにJALを背負わしたら共倒れになる」懸念も有ります。又JR東日本と異業種提携させたら「飛行機に素人に近い企業に簡単にJALの再生が出来るのか?」と言う問題も出てきます。
 それらの事を考えながら、最終的に「どの様なイクジットに導くか」と言う事を考える事がJALの再生について必要ですが、その為には同時に「日本の航空を如何するか?」という問題を最初に考えて、「有るべき日本の航空業界の姿」と言う物を国民のコンセンサスを得た上で造りだす事が必要です。JAL再生問題のイクジット戦略は、問題の監督官庁で有る国土航空省と監督者で有る前原国交相に其処までの事を投げ掛けて居る事を考えなければならないと思います。それだけ深刻かつ重要な問題で有るといえます。


 ☆ あ と が き に 代 え て  〜「真のJAL再生」に必要なのは「日本の航空政策の将来ビジョン」?〜

 この度今まで私のサイトで問題が起きるたびに取り上げてきた「JALの経営問題」について、JALの経営危機が「事業再生ADRの申請・企業再生支援機構による資産査定の実施」という本当に最終局面入って居る現状に際して、一度纏めて見ながら「本当にJALの経営の何処が悪いのだろう」という事について改めて考えて見る事にしました。
 今回の一文はかなりの長文には成りましたが、私の個人的にはそれなりの分析を加える事が出来たのかな?とは思って居ます。実際テレビ等の報道では「年金問題」ばかり注目されて居ますがJAL問題の本質は必ずしも其処には無いと言う事は検証できたのかな?とは思いますし、旅客需要の推移を表に纏めた時にはその以外に良い数字を見て「JALの旅客面での営業成績はこんなに良かったのか?」と改めて驚かされました。
 有る意味今のJALの状況を見る限り、企業再生支援機構に入院してきて外科的に手術を施して「レガシーコスト」という名の癌とその付随する病気を除去した後は「結構優良企業に再生する事が出来るのでは?」と言うイメージすら抱いて居るのが私の気持ちです。だからこそ、デルタ・アメリカンと言うアメリカの航空会社が(33.4%以下の株しか買えないのに)10億ドル程度の資金を投じて「アライアンス間でのJAL争奪戦」を行う気持ちで居るのでしょう。

 しかしながら「JAL再生のミクロの問題」として言えるのが「今もJALの資産は着々と劣化して居る」と言う状況です。特に2009年上半期の後半で回復基調に乗ってきた「旅客需要」が今回の「経営危機騒動」で大きく落ち込む事です。未だ10月以降の旅客動向がJALからは発表されて居ないので確報は無い物の一部報道では「利用が急降下」という報道も有り、JALの収入基盤が急速に崩れて行く事を非常に危惧しています。
 その原因は、一番ミクロな話で言えば「タスクフォースが造った空白の4週間」の存在でしょう。タスクフォースは9月25日以来精力的にJALの資産査定をして来ましたが、結局の所「企業再生支援機構の活用」が決まりタスクフォースが資産査定していた4週間が無駄な存在になってしまいました。しかもタスクフォースの一部の人が「JALの再生の為に内部に入る」という噂が有りながらタスクフォースがJALの再生を意識してその時のショックを和らげる為に「意図的にJALの経営状況の悪さ等をリークした」事が、特に年金問題に関して財務省を巻き込みながら「一人歩きして政治問題」になり迷走の原因になり、そのリークが同時にマスコミから利用者へ「不安を広げる」事になりJALの営業基盤を毀損する事になりました。この損失は一番直接的な意味で大きいと言えます。
 加えてもうチョット前には「自民党政権時代の有識者会議」もJAL再建のプランの検討に着手していた「事実」が有り、それが民主党政権前原国交相の誕生で白紙にされ代わりにタスクフォースが誕生した流れが有ります。これは「政治主導」の一つの成果だとか言われて居ますが、結局「政治主導」の結果が「有識者会議の廃止」と「何も成果を出せなかったタスクフォースの空白の4週間」であり、この間でJALの営業資産劣化が確実に進み再生は一層難しくなった事は間違い有りません。そういう意味ではJALの再生問題に関してマクロ・短期的な此処数ヶ月の局面での「民主党政権の責任」は大きいと感じます。

 加えてマクロ的な問題として言えるのが「日本の航空行政のビジョンの無さ」が有るといえます。報道では「空整特会」により要らない所まで空港を造ってしまい、その空港にJALとANAが見えない圧力で不採算路線運行をさせられてきた事がJALの経営悪化の要因の一つで有ると(特に報道などでは)言われて居ます。確かにその様な問題も有ります。しかしその根底に有るのは「日本の航空を如何するのか?」という国交省のビジョンがイマイチ見えない事です。
 その問題については、民主党政権の誕生後前原国交相が日本の空港・航空行政の問題に関連して「 羽田ハブ空港化問題 」や「地方空港問題」について発言して居ますが、その発言には「今後日本の空を如何するのか?」という中長期的なビジョンが明示されて居ません。実際JALの地方線撤退問題については「 航空機が飛ばない空港を当面は作らない 」という発言を前原国交相はして居ますが、「本当に地方路線・離島路線などをユニバーサルサービスとして如何に維持するか?」と言う事について明確なビジョンが示されて居る訳では有りません。この航空におけるユニバーサルサービスの確保などはJALの再建問題で炙りだされた問題ですが早急に考え策を練らなければならない問題です。(此れに関しては電話業界の「全利用者から ユニバーサルサービス料 を徴収して、ユニバーサルサービスを維持して居るNTT東西へ補填する」スキーム等が参考になると思います)。
 これらの、片方では「幹線では新規参入航空会社との競争に晒されながら」他方では「航空会社が内部補助でユニバーサルサービスを支えて居る」状況を見ると、今のタイミングで日本の航空業界の有り方その物を変えなければ、「第二のJAL経営危機」が訪れるかもしれません。日本の航空行政のビジョンの無さの犠牲者はJAL1社で十分です。第二の犠牲者を出さない為にも一日も早く「日本の航空の有るべき姿」を前原国交相と国土交通省にビジョンとして提示してもらい、それに基いたJAL再生を果さなければならないといえます。そう考えると 1986年の運政審による45/47体制の見直し・1987年の日航法廃止・日航民営化 以来20年以上が経過するのに、今まで状況が変わりながら政策の見直し・新しいビジョンの策定に関して無為無策で来た日本の航空行政と政治の責任も又大きいと言えます。その45/47体制の残滓と現行体制の制度的問題が積み重なってJALの経営危機が引き起こされた要素も有ると考えると、マクロ的な点で国交省と政治の責任も大きいと言えます。

 それに、此れからJALの再生の過程で浮上してくるであろう「日本の空に2つのビッグキャリアが必要なのか?」という問題も、日本の航空業界の将来を考える上で非常に重要な問題です。前原国交相は「 JALの経営再建問題は空港整備勘定(旧空港整備特別会計)見直しや、航空自由化、羽田・成田空港の発着枠拡大など航空政策全体の問題。日本の航空産業の競争力を高める努力したい 」と言いつつも、「羽田・成田の空港発着枠の有効活用を如何にするか?日本の航空会社を航空自由化の中で如何に生き残らせるか?日本の航空業界の競争力を如何に強めるか?」という問題に関して、今の所前原国交相は具体策を示して居る訳では有りません。
 これらの「羽田及び成田の発着枠問題・航空自由化問題・航空競争力強化問題」について、一つの解決策が前述の「JAL+ANA統合によるJANA構想」で有るといえます。JANA構想により国内線の大部分の路線がJALとANAで一体運用されて整理されれば羽田空港の発着枠も空く可能性も有ります(実際札幌〜羽田線だけでJALとANAで同時刻出発が5回・10分未満の出発時間間隔が17回有る。この一部だけ整理できても発着枠は空く)。しかもJANAを造るには独禁法問題から航空の自由化の促進・他社の参入を図る事は必然です。又競争力問題についても、似た路線を運行していて比較的機材構成も似ている同一国籍のビックキャリア2社が合併してメガキャリアを作り出す事は原価面・効率面から効果は大きく、実際世界の航空業界ではエールフランスとKLMの経営統合・デルタとノースウエストの合併・ BAとイベリア航空の経営統合 など、世界の航空業界に再編の嵐は吹き荒れて居ます。その流れからも「JANA構想」は無謀な話では有りません。
 しかしながら、今回JALの経営危機で国交省がJALの方向性に大きく関与する状況になっても、「日本の航空業界を如何するのか?」という根本問題について前原国交相はアドバルーンを上げても根本的な政策・ビジョンとしては何も見えて来ません。それが無いと幾らアドバルーンを上げても効果が有りません。今やその様な「将来の事」を考えないと日本航空のイグジット戦略だけでなく日本の航空業界の将来の姿も示す事はで来ません。JALの経営危機も深刻な問題ですが、それと同時に「日本の空の将来を如何するのか?」という問題も深刻な問題です。それらを含めて「根本的な対策」を考える時期が今来たのでは?と思います。





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