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埼玉高速鉄道の経営改善への努力は実ったのか?
TAKA 2006年05月25日
「埼玉高速鉄道」と言うと皆様どのような印象を抱くでしょうか?「埼玉高速鉄道」を知っている多くの人達は良い印象を抱かないと思います。誰もが抱くであろう「利用客が少ない」「赤字経営で沈没寸前」と言う印象は正しく埼玉高速鉄道の実情を示しています。
実際埼玉高速鉄道に関しては「問題都市型第三セクター鉄道」の象徴とも言えますし、都市型第三セクター鉄道が抱える問題を凝縮した鉄道であるということが出来ます。私も埼玉高速鉄道の経営に興味は有り過去にも「
埼玉高速鉄道の経営に関する一考察
」と言う一文をしたためていますが、そのレポートから約1年半が経ち埼玉高速鉄道の経営の改革が進みその成果ともいえる「
06年3月期決算
」についての報道がありました。
埼玉高速鉄道の経営改革は「第三セクター経営改革」の一つの例として「
日経スペシャルガイアの夜明け
」でも報道された注目の案件ですが、その成果は報道を見る限りある程度出て来たと言えます。今回は前回のレポートを踏まえて埼玉高速鉄道の経営改革の進展と今後のあり方について考えて見たいと思います。
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『 参 考 H P 』
「
埼玉高速鉄道HP
」「
埼玉高速鉄道検討委員会HP
」
「
埼玉高速鉄道平成16年度決算
」「
埼玉高速鉄道平成17年度決算
」
「MISONO−WEB
埼玉高速鉄道線
彩の国スタジアム線ニュース
」
「
「再建は社員の意識と行動改革にあり」埼玉高速鉄道代表取締役社長杉野正
(ダイヤモンド経営者倶楽部セミナーレポート)」
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☆ 埼玉高速鉄道の現状は変ったか?
先ずは埼玉高速鉄道の現状が如何に変ってきたか?埼玉高速鉄道を再訪問してみることにしました。前回04年12月に「
埼玉高速鉄道の経営に関する一考察
」を書いたときに埼玉高速鉄道線を訪問しましたが、今回約1年5ヶ月ぶりに改めて訪問してみました。
訪問日時は5月10日(水)の午後2時半〜5時の時間です。仕事の合間に訪れた平日の日中だったので、典型的通勤路線である埼玉高速鉄道にしてみると「一番不利な時間帯」であったのは事実です。しかし色々な点で1年5ヶ月の間に埼玉高速鉄道線特に浦和美園周辺に「変化の胎動」が起き出しているなと感じさせるものでした。
・浦和美園駅周辺の状況
「右:浦和美園駅とイオンSC 左:浦和美園駅前に建設中のマンション」
「右:イオン浦和美園SC全景(SC右端をSR線が走る) 左:イオン浦和美園SC内部」
このたびの訪問では武蔵野線経由で埼玉高速鉄道線にアクセスしたので、先ずは武蔵野線と埼玉高速鉄道線の乗換駅東川口から埼玉高速鉄道線に一駅乗り、終点の浦和美園に向かう事にしました。
浦和美園駅は埼玉高速鉄道線沿線で未だ開発が一番進んでいない場所です。駅周辺はさいたま市・都市機構が中心となり「
みそのウイングシティ
」として開発を進めていますが、この前訪問した時には4年前のワールドカップで有名になった
埼玉スタジアム2002
が有るだけで、夜浦和美園駅に降り立つと駅だけが光り輝き、周りは真っ暗で人家が殆ど見えないと言う寂しい状況でした。
今回浦和美園駅に降り立つと1年5ヶ月前の夜ラッシュ時に駅に降り立った時と比べて日中なのに利用客が増えています。駅前に下りると国道463号線の向こうに巨大なショッピングセンター(以下SCと略す)が出来ています。4月26日にオープンしたばかりの「
イオン浦和美園SC
」です。未だ昼食も取っていなかったのでSCを訪問して見ます。
SCは浦和美園駅から歩いて2〜3分の距離に有ります。今回のSCオープンに合わせて浦和美園駅に最寄の3番出入り口を供用開始してSCへの利便性を上げています。SCの中に入ってみると平日日中なのに駐車場はかなり埋まっていて店の中にはかなりの人手です。昼食の為にレストラン街に向いましたが、レストランのバラエティも多く3時近くと言う外れた時間帯でも店にはかなりの人出です。この人出には「開業効果」と言う側面も強いのでしょうが、駅やSCの周りに何も無い浦和美園でサッカー開催日でもないのにこれだけの客を集めると言うSCの実力はある意味驚きです。
実際埼玉高速鉄道を利用してSCに来る人は未だそんなに多くない感じですが(駅からの徒歩客はそんなに多くなかった)このSCのオープンで浦和美園の開発と埼玉高速鉄道の利用促進に大きなプラスになるのは明らかです。只自動車の交通も便利な場所なので、SC利用客の埼玉高速鉄道の利用促進の為に何か企画切符的な物を出してより一層の利用客誘致を図る必要が有ると言えます。
もう一つの驚きは「遂に住宅開発が始まった」と言う点です。東急不動産・オリックスリアルエステート・阪急不動産が売り出している「
CENTERFIELD浦和美園
」です。浦和美園駅から歩いて約1分の区画整理地内に建設中の657戸・2600万円〜4900万円台でこれから販売の大型マンションです。
良く考えてみれば浦和美園も「永田町まで46分」と言う恵まれた立地です。都心までの所要時間と言う点では今話題のTX沿線と比べても極端に劣る訳では有りません。この様に考えると浦和美園もウイングシティの開発が進めば「都心直通で纏まった開発で環境の良い場所」として人気が上がり大化けする可能性も有ります。そう考えると未だ埼玉高速鉄道には発展の余地が有ると言えます。
この様なマンション開発は埼玉高速鉄道としても無視は出来ません。なんせ657戸販売と言う事は、単純に考えて657戸の2〜3倍の住民が増える訳ですし、通勤等で埼玉高速鉄道を利用する人が500〜600人/日増える事になります。埼玉高速鉄道にしてみればこの乗客増は無視できない数字です。その点から考えて埼玉高速鉄道も特に土地のある浦和美園地区での人口増が狙えるマンションの開発促進に今まで以上に力を注ぐ必要が有ると言えます。
・埼玉高速鉄道線の利用状況(5月10日4時半頃 浦和美園→駒込)
「右:浦和美園発車時点 中:鳩ヶ谷発車時点 左:王子神谷発車時点」
浦和美園で食事&SC廻り&散歩をした後、次の予定先に向かう為に埼玉高速鉄道線・東京メトロ南北線に乗り浦和美園から山手線への乗換駅の駒込を目指しました。
埼玉スタジアムでイベントの無い平日の夕方の上りですから、浦和美園乗車時点での空気輸送は覚悟していました。しかし一番前に乗車すると後ろの車両にはチラホラ人が見えます。最前部の車両こそ私ともう一人しか乗っていませんが、後ろの方は1両数名乗っていたみたいです。前回訪問時(夜折り返し乗車)には1両乗客ゼロの車両も有ったという状況から考えると多少の進歩です。
次の武蔵野線乗換駅東川口では1両数名〜10名程度の乗車があり、車内はそれなりに様になります。流石に乗換駅ですし此処まで来ると沿線人口が増えてきますので日中昼間でも乗車客がそれなりに居ます。只東川口で乗客が増えた後戸塚安行・新井宿では降車客・乗車客がほぼ同数でそんなに乗客が増えません。
最終的には鳩ヶ谷・川口元郷で「降車客<乗車客」の状況になり、埼玉高速・メトロの境界である赤羽岩淵を超える段階で10名〜15名/両程度の乗客になりました。平日日中でしかも住宅地内を走る路線と言う状況から考えると「もっと乗って欲しい」と言う気持ちが有る物の「昔より少しは良くなったのかな?」とも感じました。
しかし埼玉高速鉄道・東京メトロ南北線が厳しいのは、この乗客の数の少なさであると言えます。座席が埋まったのは埼玉高速鉄道線ではなく東京メトロ南北線王子を過ぎてからですし、其れも立ち客数名です。王子以北は実質的には郊外線であると言う事を考えても、建設費の高い地下鉄としては採算的にペイする程の乗客が居ない事は明らかです。埼玉高速鉄道は多少明るさが見えてきたといえども、まだまだ厳しい状況に有る事は明らかであると言えます。
・埼玉高速鉄道線の増収活動は捗っているか?
「右:東川口駅構内のカフェ「J's cafe」 左:「彩ネット」と提携して設置の広告用液晶モニター」
最後に埼玉高速鉄道の増収活動ですが、これは一定の成果が上がりつつあると言えます。一躍有名になった「
サッカー開催時の出店
」だけでなく、埼玉高速鉄道HPで「
特産品販売
」など、傍目から見る限り鉄道会社の副業としてチョット珍しい?と言う物も有りますが、それ以外も何とか順調に進んでいるようです。
今回の訪問で驚いたのは東川口の「旧定期券売り場」がカフェ「J's cafe」に変っている事です。この場所は丁度東川口駅構内の埼玉高速鉄道線とJR武蔵野線の乗換経路に有る物の、テナントとしては前の通路の通過人員の絶対量が少ない事が影響していると考えられ、前回訪問時のときから「テナント募集中」になっていましたが、昨年6月3日に「J's cafe」がオープンしたとの事です。
この東川口の定期券売り場跡地は、埼玉高速鉄道の経営問題を取り上げた「
TV東京ガイアの夜明け
」でも「杉野改革」の一環として話題に出た物ですが、やっとテナントが付き事業化が達成できたようです。同じく鳩ヶ谷駅の定期券売り場跡地もゲルマニウム温浴等が出来る「
リラクゼーションスペース「りふれび」
」として昨年11月にオープンしており、埼玉高速鉄道が力を入れている「駅ナカテナント誘致」は徐々にですが進展しているようです。
又帰りの電車で扉の上に液晶モニターが付いている車両に乗りましたが、此れも増収策の一環として「埼玉県最大のプロバイダー「
彩ネット
」が、設置・運営費用を負担。DVDによる映像広告の配信」と言う
広告事業
です。地下鉄では「車窓が見えないので広告事業は有望」と言う話を聞いた事が有りますが、埼玉高速鉄道のこの広告事業も「車窓が見えない地下鉄」「乗入で都心を走る電車」と言う点からそれなりの効果が見込めます。
鉄道会社の副業は有る意味鉄道の発展の度合いに比例して事業として成立すると言えます。それは大手民鉄を見れば明らかです。そういう点では鉄道として成熟していない埼玉高速鉄道は不利であり大きな副業を展開できないのは致し方ないと言えます。しかしその不利な点を克服して「社員の意識改革」と結びつけて収入になる副業を展開し、少しずつで有れど改革と増収を展開している事はすばらしい事であると言えます。
ここからも埼玉高速鉄道の「杉野改革」は徐々にで有れども進みつつあるという事が出来ます。これから大切なのは「この調子で初心を忘れず行動して行く事」でしょう。「継続は力なり」と言う言葉が今の埼玉高速鉄道には大切ではないでしょうか?
☆ 埼玉高速鉄道の改革は進化したか?
前回埼玉高速鉄道についてのレポートを書いた時は2004年12月でしたが、其処から約1年半が経過して05年3月・06年3月と2回の決算を経過して経営改革の成果は大きく現れてきました。
元々埼玉高速鉄道では中期経営計画で「償却前黒字の達成」を大きな目標にしてきましたが、04年3月期には償却前損益が▲1,343百万円だったのに対し05年3月期▲629百万円・06年3月期▲58百万円と劇的に改善され、目標こそまだ僅かに未達な物の、実際的にはかなりの改善が果たされて成果は上がってきていると言えます。
この成果には「入るを図り出るを制す」と言う経営の大原則を忠実に実行し、色々な改革を行った成果が出てきていると言えます。運輸収入に関して言えば04年3月期の4,607百万円→06年3月期5,228百万円と13.4%の増加を達成しています。又原価に関しては04年3月期→05年3月期▲323億円・05年3月期→06年3月期▲309億円の原価削減を達成し、増収・原価低減の両面から大きな成果が上がった為に、中期経営計画の「目標まで後一歩」と言う所までたどり着いたと思います。
この内「増収」に関して言えば、開業から5年目と言う新規路線であり未だ「新線効果」が現実化しつつある時期に当たるので、マンションの増加等による沿線人口増加による利用客増が続くのはある意味当然であると言えます。その点から言えば「計算の範囲内」と言う事が言えるでしょうし、「他力がもたらした成果」と言う事が出来ます。
又本年度に関しては本年4月26日には浦和美園駅の近くに「
イオン浦和美園SC
」がオープンし、本年度埼玉高速鉄道の利用客についてはこのSCの利用客も増加要因として計算できますし、沿線で一番開発の進んでいない浦和美園地区の開発促進の要素として期待もできるので、此処1〜2年の地価上昇による相対的割安なSR地区の開発促進効果への期待と合わせて、未だこれからもある程度は利用客増による増収効果も期待できます。
但し原価に関しては04年3月期に比べて2年間で約13.5%の原価低減を図っています。確かに04年3月期の「第三セクター特有の水太り原価」からは比較的簡単にダイエットを行い原価低減を行う事が可能です。しかしこれからは「乾いた雑巾から水を絞る」努力が必要になってくると思います。これからの最大の原価低減要因は今までも行ってきている「高額なメトロ出向者を比較的安価な新規採用者へ切り替えるのを強化する事での原価低減効果」を推進するしか、只単純な方法での原価低減は限界に来ていると考えられます。
その様な点から考えると、「原価低減による収支改善」は埼玉高速鉄道が簡単にできる方策はこの約2年間の改革で出尽くした可能性が高いと言えます。そうなると「あと58百万円」まで辿り着いた「償却前収支黒字化」は多分達成可能でしょうし、杉野社長が言う「07年3月期68百万円の償却前黒字」は今に近いペースで乗客が増えてくれれば達成可能でしょう。
そういう意味から考えると埼玉高速鉄道の「杉野改革」は「一定の成果を出す事が出来た」と言う事が出来ますし、その点や接客や会社の姿勢が変ってきた(HPで「売れる物は何でも売ろう」と
サッカー時の出店募集
や
特産品販売
をやるのは「やる気」として評価できる)と言うのは「民間出身者しか出来ない」改革の成果として評価すべきであると思います。
☆ 只今のままでの改革続行で状況は改善するのか?
この様に過去3年の決算を見る限り、「杉野改革」とも言える埼玉高速鉄道の経営改革は上記の様に「償却前黒字化」と言う「第1関門」を突破できるまでになってきています。この「第1関門」を突破した事に関しては、埼玉高速鉄道とその関係者の努力を率直に評価するべきであると考えます。
しかし実際問題として「償却前黒字」と言う事は「利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前の利益で黒字になる」と言う事であり、「施設をタダで使う場合収支は黒字になる」事になります。只これでは2,587億円の費用をかけた鉄道の建設費を1円も回収できない状況であり、現在(17年3月期決算)でも77,573百万円の長期借入金と72,430百万円の長期未払金を抱えている埼玉高速鉄道の場合、「償却前黒字」を達成してもこれ等の借金の金利すら払えず会社経営的には金利支払→赤字が雪だるま式に増え、その上既存資産の更新費に当たる減価償却費も貯まってもその分赤字が増えると言う状況であり、「償却前黒字」と言う事は「裸であれば生きていける」が「企業としては存続できない」状況に有り、正常な状況では有りません。
ではその先「会社が正常に存続できる状況まで経営が改善する」となると、減価償却と利払いが出来る様にならないといけません。そうなると減価償却後も黒字の「営業損益の黒字化」もしくは一歩進んで減価償却・利払い後も黒字の「経常損益の黒字化」と言う事が、今のまま只単純に「埼玉高速鉄道の経営改善」を進めて行く場合の最終的目標になります。
しかし埼玉高速鉄道の場合17年3月期の決算では営業損益▲3,569百万円・経常損益▲7,234百万円と言う状況に有り、同じ様に資本費負担が重く経営が苦しい都市型第三セクター鉄道と比較しても、
経常損益黒字化を達成した北総鉄道
・
営業損益は黒字化している東葉高速鉄道
と比べると、埼玉高速鉄道はまだまだ道は遠いと言うより、今の原価のままで売上のみ約50%増で営業損益黒字化・約100%増で経常損益黒字化と言う「神業的努力」が必要な状況であり、今のままの改革を進めるだけでは根本的な解決にはなりません。
その様な点から考えると、今の改革の方向性では「償却前黒字化」がやっとであり、問題の根本的解決である「経常・当期損失改善・黒字化」や「膨らむ累積欠損金を如何するか?」と言う事に関しては、極めて困難であり全く目処が立っていません。そういう意味では「埼玉高速鉄道の改革は進化した」が「杉野改革の限界が見えてきた」と言う事も出来ます。今や「経営改革」から一歩踏み出した次のステップが必要な時期が来たという事が出来ます。
☆ 「杉野改革」が順調に進んでいる今こそ「次のステップ」としてスキーム改革を!
この様に「償却前黒字」を達成し第1関門を突破したからこそ限界が見えてきたと言える埼玉高速鉄道の「杉野改革」ですが、この「小康の成功」をチャンスとして「経営改革の限界」を打破する新しいスキームを作り出す必要が有ると言えます。
「杉野改革」は短期的に「出血を止血する」と言う点においては効果が有りました。それに対する杉野社長以下埼玉高速鉄道の努力は評価すべきです。しかし同じ様な経営問題が有った北総鉄道・東葉高速鉄道に比べて埼玉高速鉄道の経営困難は、残念ながら上述のように未だに「企業の経営努力」で突破できるレベルでは有りません。
埼玉高速鉄道の経営改革に一応の成果が出た今こそ「埼玉高速鉄道検討委員会」で検討された様な事を踏まえつつ、「資本費負担の重さ」と言う根本的問題にメスを入れると同時に「地域の交通網の総合的発展」と「鉄道事業の永続的な継続可能な資金的基盤整備」をする事が重要であると思います。
(1) 資本費・金利・減価償却負担を軽減する為に「上下分離方式」の導入を進めるべき
埼玉高速鉄道に関しては、今の「杉野改革」を継続的に進める事で埼玉高速鉄道の経営努力による赤字縮減を計ると同時に、「経営改革」では如何ともし難い資本費・金利・減価償却費の負担を埼玉高速鉄道から切離す為に、「上下分離方式」による埼玉高速鉄道からの「資産のオフバランス化」が必要であると考えます。
そもそも「埼玉高速鉄道検討委員会経営部会」の議論の中でも言及された方式ですが、「償却前黒字」が達成されていると言う事は「上下分離して使用料をゼロにすれば埼玉高速は収支均衡化する」状況になっています。ですから今の段階でバランスシートから「資産・長期借入金・長期未払金」をオフバランス化する事で、必然的に埼玉高速鉄道の経営は安定化する事になります。
その場合(1)埼玉県が埼玉高速鉄道の固定資産一式(評価額180,145百万円)を「長期未払金+長期借入金150,003百万円」の金額で購入し埼玉高速鉄道は鉄道・運輸機構P線資金を一括償還(制度的には壁が有る)するか、(2)埼玉高速鉄道が固定資産・長期借入金・長期未払金を埼玉県に譲渡し埼玉県が借入金返済と鉄道・運輸機構P線資金償還を肩代わりする切離しのスキームが考えられます。
同時に埼玉高速鉄道が施設をタダで借りる訳には行きませんから、埼玉県は埼玉高速鉄道の利益の一部(償却前収支利益の50〜75%位が適当だろう)を施設使用料として徴収し資産の保守・更新と返済に充てると同時に、さいたま市・川口市・鳩ヶ谷市にも一定期間埼玉高速鉄道への補助に相当する分を埼玉県に渡して返済原資にする事で埼玉県の負担を軽減すると同時に責任分担を明確化すると言う償還のスキームも考えられます。
この上下分離方式採用により、埼玉高速鉄道は今の「償却前黒字」に加えて後一歩の経営努力をすれば経営的には安定した状況を手にする事が出来ますし、埼玉高速鉄道からの使用料でスズメの涙にしかならなくても施設購入費・減価償却費を賄う事もできます。下手に今のままの経営形態を続けて居ると埼玉高速鉄道の借金が増大しもっと夫妻が多くなった段階で経営破たんするような状況が訪れる可能性も有ります。そうすると大株主の自治体の破たん処理負担がより大きくなる可能性も有ります。そうなるのであるならば、先に「傷の浅い内」に根本的な処理をしておいた方が最終的な負担は減る事になります。その様な将来を踏まえ今の段階で思い切った「外科手術」をする必要が有ると言えます。
(2) メトロとの「決戦」に勝利して壁をブレークスルーした原価低減&増収策の実施を図るべき
今の埼玉高速鉄道にとって「1500億円〜1800億円で埼玉県に施設を買い取らせる」以上に難しい問題が、未だに大きな課題として存在します。それは埼玉高速鉄道の乗り入れ先である「東京メトロとの関係」です。
東京メトロは埼玉高速鉄道に出資し転籍・出向者として人員を派遣している物の経営的には殆ど関与していませんし、この経営危機に関しても「杉野改革」でメトロとの交渉を計ろうとした埼玉高速鉄道杉野社長と対立し交渉に乗らずに「我関せず」を貫いた為に、埼玉高速鉄道・埼玉県と東京メトロの関係は極めて冷え切っていると言われています。
(
東京メトロ17年3月期決算単信
には「連結財務諸表作成の為の異本となる重要な事項 持分法適用会社」の中で「当社は議決権の27.2%を所有しているが、第三セクターで県・4市が過半数を超える59.2%を保有しているので、重要な影響を与える事が出来ないので適用を除外している(要約)」と埼玉高速鉄道と東京メトロの関係を説明している)
埼玉高速鉄道と東京メトロはこの様な冷戦関係にある為、少なくとも埼玉高速鉄道に杉野社長就任以降経営支援に関して有効な協議が行えていないのが現状です。
只その対立関係にありながらも、埼玉高速鉄道は積極的に新卒採用を実施し徐々に「東京メトロ転籍・出向者に頼らない運行体制」を作りつつあります。確かに東京メトロの転籍・出向者の給与が高かったのは容易に想像できます。(鉄道会社の現業社員の給与は意外に高レベルだし、転籍・出向者だから高給与の高年齢者を送り込んでいる事は容易に想像できる)
その為決算で喧嘩の中で大きな要素を占める人件費が確実に減少しています。これは「業務に必要な人員の削減」「高給転籍・出向者から低給与プロパー社員に切り替え」が大きく作用していると同時に、副次的メリットとして「人的つながりで東京メトロに首根っこを押えられる」状況を解消したという効果が有ると言えます。
一番最初に「埼玉高速鉄道の経営問題」を取り上げた「
TV東京ガイアの夜明け
」では、東京メトロとの関係はぼやかしてしか放送されませんでしたが、運転業務の要所を東京メトロ転籍・出向者からプロパーに移しつつある今こそ、東京メトロとの関係において正面切って「協力する事は協力しながら、要求する事は要求する」と言う交渉をして、今後とも永続的に対等に付き合う事が出来る企業間の関係を築く必要があると言えます。(東京メトロのほうから「埼玉高速鉄道は持分法適用の関係会社で有りません」と言っているのですから、埼玉高速鉄道と東京メトロは普通の企業間関係として協調しつつ要求する事は要求すべきであるのが正しい関係だと言えます。)
基本的に東京メトロとの交渉では「埼玉高速鉄道が東京メトロへ与える便宜へ相応の対価を払う事」を求める以外に、「[1]根元利益の還元」「[2]埼玉高速鉄道経営効率化への協力」「[3]埼玉高速鉄道増収への協力」の3点への協力を求めるべきであると考えます。
具体的には下記の3点を埼玉高速鉄道と東京メトロの間をWin・Winの関係で結び、埼玉高速鉄道の再建に協力する方策として東京メトロに要求すると同時に協力を依頼するべきであると考えます。
[1]に関係して「<1>毎日の
メトロへの流入客26,400人/日
に対して、メトロは東京都交通局との間の乗継割引(1社35円*2社)と同じ割引35円の割引をする事で根元利益を還元する→今の割引(川口元郷〜志茂・王子神谷間で30円引き)をメトロの根元利益で拡大する事で実際的な値下げを図り利用客拡大を図る。浦和美園〜王子間で620円→580円(メトロ35円割引+端数は埼玉高速割引)と約6.5%値下げとなる。埼玉高速鉄道検討委員会経営部会のサービス水準感度分析では10%値下げで4.4%の乗客増なので6.5%値下げだと約3%乗客増が期待でき、埼玉高速鉄道のメリットと同時にメトロにも多少のメリットは期待できる根元利益還元策である」
[2]に関係して「<2>昼間時〜夜間に関しては、埼玉高速鉄道北部の昼間毎時6本運転(鳩ヶ谷以南は毎時10本)は多すぎるので鳩ヶ谷もしくは王子神谷以北を毎時5本に減らす→
浦和美園時点で運転間隔が12分間隔と6分間隔の所がある
。このアンバランスをなくし運行本数を減らし等間隔運転にする事で運行コストを減らす。」
[3]に関係して「<3>朝・夕ラッシュ時にはメトロ線内を含めた快速運転・千鳥式運転による時間短縮、全運行時間帯に関して運転速度向上による時間短縮に関して両社協力をする。最終的には地上の道路幅員のある王子神谷での待避線設置(2面3線化)に関して費用負担を含め協議する→速度向上+快速運転で4.9%・千鳥式運転+速度向上で8.8%の利用客増が望めるので、メトロが抵抗しそうな内容なので、埼玉高速鉄道・東京メトロの両社の利益になる事であるので、積極的に進めるように協議の席に引っ張り出す事が肝心である」
これらの事は「将来的な王子神谷での待避線建設」以外はメトロの決断次第では直ぐにでも実施できる方策です。しかも上手く行けば東京メトロの持ち出しはゼロで済むかも知れない(埼玉高速に取っては当然プラスだが)内容ばかりです。(根元利益を乗継割引で吐き出しても、値下げ・利便性向上での流入客増で±0になる可能性もある。其処まで行かなくても持ち出しは減らせる)
前述の様に埼玉高速鉄道に対し東京メトロは「27.2%の株を持っていても関係会社でない」と言っていますが、より持分の低い東葉高速で自治体・東京メトロで増資に応じた事から考えても、埼玉高速鉄道に関しても何かしらの支援策を打ち出さないと周囲や関係者が納得しない可能性は多々有ります。
両社とも大人なのですから喧嘩ばかりをしていても致し方有りません。埼玉高速鉄道に取っては東京メトロ乗り入れは生命線ですし、東京メトロ南北線にとっても埼玉高速鉄道からの流入客は無視できません。又東京メトロは今や株式会社で近い将来に上場する以上経営権が無い埼玉高速に過大な支援をするのも困難であるのも一理有りますし、南北線自体が
公共事業評価
で「南北線では、運輸収入が人件費・経費の合計を上回っている。なお、南北線単体としては借入金の償還に見合った収入を得られていない」と言う状況ですから、埼玉高速鉄道の経営支援に過大な要求をする事は、実際問題としてなかなか困難であるとは言えます。
その様な「東京メトロの事情」も考慮に入れつつ、東京メトロの「頑なな姿勢」「固い発想」と言う壁をブレークスルーし、埼玉高速鉄道と東京メトロにWin・Winの関係をもたらしつつ埼玉高速鉄道の将来にプラスになる様な支援策を引き出すことこそ、埼玉高速鉄道と杉野社長の次の一手として求められていると思います。この道のりは今までの関係を考えると非常に長く困難であるとは思いますが、埼玉高速鉄道の将来の為にも必要な方策であると考えます。
(3) 「埼玉高速鉄道の岩槻延伸」へ打って出る事で、乗客増を狙い増収を目指すべき
(1)の方策により現在の「建設費償還の借金地獄」から脱出したとしても、「償却前黒字」「上下分離」と言う安定のスキームだけで「埼玉高速鉄道は安泰」と言うにはチョット心配な状況で有る事は否定できません。
現実問題として
初乗り210円と言う極めて高率の運賃体系
の埼玉高速鉄道では、現実問題としてこれ以上の運賃値上げは不可能で、逆に高運賃体系により乗客が逸走して運賃値下げを迫られる可能性も有ります。
その様に運賃値上げによる増収は不可能な状況では、増収を図るには乗客増に頼らざる得ません。しかし現状で乗客は「
14年度54,200人/日→15年度59,200人/日→16年度64,900人/日
」と言う様に乗客は増えてきており其れが決算の増収に直結していますが、同じ新規開業路線のつくばエクスプレスに比べると、昭和の高度成長の時代に国道122号沿線特に川口・鳩ヶ谷地区では低利用の住宅開発が進んでいる埼玉高速鉄道沿線では、今乗客増をもたらしている沿線開発が今後浦和美園地区の「
みそのウイングシティ
」以外では頭打ちになる可能性が有ります。そうなると増収の大元である乗客増も頭打ちになる可能性が有ります。
乗客増が頭打ちになると増収も頭打ちになります。実際問題として既にかなりの経費減を計っている埼玉高速鉄道としては合理化・リストラによる利益増を計る事が難しくなり、利益拡大も又増収に頼らざる得なくなります。そうなると「沿線開発の促進による乗客増」と言う今までの増収の柱に変る次の増収の柱を打ち立てなければなりません。
その方策として埼玉高速鉄道検討委員会経営部会では「運賃値下げ」「速度向上・快速運転・千鳥運転」等を提案していますが、運賃値下げで4.4%〜20.5%(値下げ率で差が有り)速度向上で2.6%〜8.8%(方法・組み合わせで差が有り)と言う状況であり、乗客増の幅に限度が有るのと同時に、値下げに至っては「値下げ率>乗客増率」と言う値下げのマイナス状況を脱出できないで居ます。
これ等の「現状施設で打てる方策」では限度が有る事は明らかです。まして乗客増を「みそのウィングシティ」の開発状況次第に頼るというのは危険すぎると言えます。その為には沿線への新規流入住民に増収を頼るのではなく、他の地域の住民を埼玉高速鉄道利用に誘引する方柵が必要になります。
その為増収への切り札的方策として「埼玉高速鉄道の岩槻延伸」を行う事が必要であると考えます。但し今までのスキームで延伸をしても埼玉高速鉄道検討委員会延伸部会の試算した780億円の建設費を償還する事は出来ません。その為(1)の上下分離スキームを延伸線にも適用して上下分離のプロジェクトとして岩槻延伸を図る事が条件になると言えます。
埼玉高速鉄道延伸部会の試算によれば、「延伸により23,000人/日〜33,000人/日の利用客がある」「延伸により既存線には年12億〜16億円の増収効果が有る(これは殆ど原価増を伴わない点に注目)」と言う試算結果が有ります。この結果から考えて新線部門単独で償却前黒字を達成できればベストですし、「新線部門償却前赤字額<既存線増収効果」であれば、上下分離でスリム化した新生埼玉高速鉄道に取っては収益的にはプラスになる事業です。
この「岩槻延伸」を増収効果と言う側面だけでなく総合交通体系と言う点で見ても、岩槻で東武野田線と接続する事は、今の浦和美園で行き止まりの状況より岩槻乗換で大宮・春日部へ動ける様になるのと同時に岩槻から都心への直接アクセスが可能になり、交通ネットワークとし利便性が向上して好ましい形態であると言えます。(但し埼玉高速鉄道の東武野田線乗り入れは「将来の蓮田延伸へのマイナスになる」「乗り入れ施設建設費増の割りに野田線(大宮方or春日部方)片方にしか乗り入れられず利便性向上と乗客増のメリットが低い。それなら駅位置を工夫して乗換抵抗を減らせば十分」と言う点から反対です。)
この様に岩槻延伸に関してはかなりのメリットが有るので、「上下分離のスキームで建設」「今の埼玉高速鉄道の経営現状を改革(上下分離導入)」と言う2つの前提条件がクリアされたならば、積極的に勧めるべきであると考えます。「座して死すより打って出よ」と言う言葉が有りますが、この言葉が当てはまる例は結構有ります。正しく岩槻延伸も当てはまる例であると考えます。そういう意味からも積極策をすべきであると言えます。
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埼玉高速鉄道に関して言えば、今回の「実質的償却前黒字の達成」は最悪の「地獄の状況」を脱する事が出来たと言えます。しかし「償却前黒字の達成」と言う状況はあくまで最低限のラインのクリアに過ぎません。
只埼玉高速鉄道の場合、「鳩ヶ谷以南のみが地下鉄補助適用で以北は鉄建公団P線補助」と言うつくばエクスプレス等に比べれば厳しい補助で造られています。この返済資金が極めて多く必要な補助内容では「償却前黒字」を達成しても、将来に渡り資本費に関して償却・返済を行って行く事は非常に難しいと言えます。
埼玉高速鉄道の先輩である北総開発鉄道は経常黒字達成まで約25年掛かっていますし、東葉高速鉄道も営業黒字まで達成しても借金が返せず四苦八苦しています。これ等の鉄道は鉄建公団NT線補助・P線補助で作られていますので、条件的には埼玉高速鉄道より苦しい条件下で建設・運営がされています。
結局の所これ等の例から考えて、新線建設にはかなりの補助をしないと成立し無いと言う事が明らかになっていると言えます。大手民鉄やJRでは既存路線からの内部補助・既存線の根元利益と副業を含めた総合的収益がないと新線建設は厳しい状況になっています。(それでも極めて困難と言えるが)其れが第三セクターの場合、既存の収益基盤が有りませんのでかなりの公的補助を入れないと鉄道事業の収益だけで新線を建設するのは実質的に不可能になったと言えます。
その結果が分かるまで、「P線補助だけで作られた東葉高速鉄道→P線補助+一部地下鉄補助で作られた埼玉高速鉄道→殆どが公的セクターからの無利子融資等の手厚い公的補助で作られたつくばエクスプレス」と言う様に、「実験を繰り返した」と言うと語弊が有りますが壮大な実験の据えに新線建設には手厚い補助が無いと成立しないという事を悟るまで達したという事もできると思います。
東葉高速鉄道・埼玉高速鉄道・つくばエクスプレスの3社で比べると、単体の営業成績だけ考えれば営業利益を出している東葉高速・開業初年度で償却前黒字達成のつくばエクスプレスは、営業だけを考えればそれなりの努力を果たして最低限の成績を残していると言えます。又埼玉高速鉄道も「あと一歩で償却前黒字達成」と言う近いところまで来ています。
東葉高速鉄道・埼玉高速鉄道に関しては此処から先は「補助スキームの差」ですから、鉄道会社が単体で努力しても限りが有ります。努力の限界の理由が「補助スキームの差」ですから、補助スキームに差が有れども公共性には差がない事から考えると、ここから先は公的セクターが助けの手を差し伸べる必要が有ると言えます。
「補助の後払い」ではありませんが、民間会社経営での問題解決の限界が見えてしまったのですから、其処から先は今まで軽い補助で高い公共性を甘受して来た公的セクターが救いの手を差し伸べ問題の根本解決を計るべきであると言えます。
民間の努力が成果を出しつつ限界に達した今こそその時期であると言えます。逆に又此処で問題の先送りをすれば金利負担で第三セクターの借金のグロスが増えて行くのですから、将来今以上の負担を追わなければならなくなる可能性が高いと言えます。今こそ公的セクターに問題の根本解決の決断が必要であると言えます。今やボールは国・関係自治体等の公的セクターに投げ返されたと言えます。此処で投げられたボールを無視する事だけは避けて欲しいと思います。
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