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運賃が安い事だけが良い事なのか?

−競争によるダンピング的低運賃の「光と影」−



TAKA  2006年05月15日





(羽田空港に駐機中のスカイマークの飛行機)


 近年皆様もご存知の通り、国土交通省主導による規制緩和である航空業界の競争の激化と新規参入航空会社の増加に伴い、利用客の多い航空会社のドル箱である羽田発着の幹線路線を中心に航空会社間の競争が激化しております。
 私もこの3月の旅行で、新規開業でしかも新規参入組みの航空会社が就航した航空路線であるスカイマークの羽田〜神戸線・スターフライヤーの北九州〜羽田線を利用して「 空の世界に芽生えた「新しい息吹」は航空業界を変えるのか? 」と言う一文を書きましたが、これ等の路線でも色々な意味で競争が進んでいますが、加えて4月28日にスカイマークが「片道1万円(期間限定)の低価格」で 羽田〜新千歳線に参入 し、大手2社に加えてANA系のエアドゥと新規参入のスカイマークを交えての激しい価格競争が始まりました。
 この前書いた「空の世界に芽生えた「新しい息吹」は航空業界を変えるのか?」の中でも述べましたが、特にスカイマークが新千歳線だけでなく全般的な方向として「 サービスの見直しと合わせた運賃値下げ 」を行っていますが、新千歳線では「(広告的な)期間設定運賃」と言う側面かなり 大胆な運賃ダンピング を行っています。
 此処では前に書いた事とラップする側面も有りますが、スカイマークが改めて引き金を引いた、航空運賃のダンピングがもたらす「光と影」について考えて見たいと思います。

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 ☆ ダンピング競争が行われている羽田〜新千歳線の状況

 今一番ダンピング競争が進んでいるのは、東京・札幌の二大都市間を結ぶ羽田〜新千歳線です。羽田〜新千歳線は日本航空・全日空・エアドゥ・スカイマークの4社が就航しており、年間約900万人が利用する国内最大の航空幹線です。
 昔から羽田〜新千歳線は羽田〜福岡線・羽田〜伊丹線と並んで極めて航空需要の旺盛な路線であり、平成10年の「新規航空会社」の参入第一陣でエアドゥが新規参入を果たし、激しい競争を繰り返した路線です。只そのエアドゥも2002年に民事再生法を申請し実質的に競争に敗退し、その後全日空とコードシェア等の協力関係を組み再生を行っており、現在ではJALグループvsANAグループの間での「良識の範囲内での競争」と言う関係である程度のバランスの中で運行されてきた路線です。
 其処に割って入ってきたのが本年4月に参入してきたスカイマークです。スカイマークは国内の大幹線である羽田〜福岡線を運行していましたが、その次の大幹線として羽田〜新千歳線に着目をしていた様で スカイマークとエアドゥの経営統合を提案 したり、「 ANAと提携したAIRDOの新規優遇枠使用取り消しの訴訟 」を行うなど、一番弱かったエアドゥを標的に羽田〜新千歳線参入へ向けて色々手を打ってきていました。
 しかしスカイマークはそれらの一連の「羽田〜新千歳線(間接的)参入策」が完全に行き詰まり、国内最大のドル箱路線である「羽田〜新千歳線」に参入する最後の方策として「閑散路線廃止→羽田発着枠捻出→羽田〜新千歳線直接参入」と言う裏技的方策を使い、スカイマーク参入による供給増大と言う自分が引き起こすマイナスに対して「低価格運賃で目立つ」と言う方策を取り、念願の羽田〜新千歳線に参入を果たすことが出来ました。
 只羽田発着枠捻出の為の「閑散路線廃止」が多くの非難を浴び、加えてタイミング悪く「 整備期限超過問題での厳重注意 」や「 業務改善勧告 」を受けるなど、JALの安全に対する不信が発生していた時期に不信に輪を掛ける様な事件が発生し、スカイマークに対する信用が傾き逆風が吹いた中で「大手航空会社と正面からの競争」を挑む事になりました。

 その様な状況で、羽田〜新千歳線はスカイマーク参入で一気に競争が激しくなります。推測ですが元々スカイマークは「エアドゥを巻き込む事で便数を増やさず参入」を目指し上記の様な方策を狙っていたと考えられます。しかし其れが果たせず、参入が全体の供給量増加をもたらす増便での新規参入と言う事になってしまい、現実として羽田〜新千歳線の座席供給量が約10%増加する事になりました。
 又スカイマークは目立つ為に「 羽田〜新千歳間(期間限定)1万円 (その後は1万6千円)」と言うダンピング価格を打ち出すことになり、それに追従する為にエアドゥが「 道民割引9,100円 」を打ち出し真っ向から対決すると同時に 大手2社も前日購入割引を14,500円にする等ある程度運賃施下げで追従 する形態を取っています。
 その為GW期間中は、 昨年に比べ54,000人増(21%増)の305,000人に増える など羽田〜新千歳線全体では増便・価格競争が大きな活性化をもたらしたと言えます。しかし各社毎で見ると搭乗率で JAL65%→70.2%・ANA64.8%→67.6%・エアドゥ80.9%→96%と向上しているのにスカイマークは76.6%(GW前半は50%台)と低迷 し、全体の需要増と競争が明らかに明暗を分けていると言えます。


 ☆ 新規参入と価格競争がもたらした「光と影」

 この様にスカイマークの参入で「国内最大の競争路線」となった羽田〜新千歳線ですが、「就航本数増(供給増)」「運賃値下げ(価格低下)」と言う競争が大きな変化をもたらした事は、今回の競争発端のスカイマーク就航から未だ1ヶ月も経っていませんが、かなり明らかになりつつあります。
 ここで「スカイマーク新規参入」で競争が勃発した羽田〜新千歳線で起きた事を参考に、公共性の高い交通分野ではなかなか見る事の出来ない無制限1本勝負に近い競争がもたらす「光と影」について見てみたいと思います。

 ●競争による「供給増」「価格低下」が、北海道の「観光産業」を活性化させる?

 最初は競争による「供給増」「価格低下」がもたらした光の側面です。これは羽田〜新千歳線で「 GW中の利用客が対前年比21%・利用客数305,000人・54,000人増加 」と言う点に集約されていると言えます。つまり「供給増」「価格低下」が、北海道の主要産業の一つである観光産業に金を落とす本州からの観光客を増加させたと言う点です。
 本年のGWは暦の並びが良く大概の人は3日〜7日の間で5連休が取れる状況で有り(私は2日・4日・5日が仕事で連休とは言えなかったが・・・)、海外旅行も「 前年比+3.5%・733,900人 」でしたし、国内でも仙台空港利用客が「 昨年比14%増・85,417人 」山形新幹線は「 対前年比5%増加 」九州では「 九州新幹線が対前年比11%増加・福岡空港国内線乗客数が2%〜12%増加 」と言う様に日本全国何処でも客足は全般的に好調でした。
 只その中でも羽田〜新千歳線の好調は他の地域に比べて頭一つ飛び出していると言えます。これは「GWの暦の並びが良く天候に恵まれた」と言う事だけでは説明できません。羽田〜新千歳線だけ利用増が突出している理由は他にもあると言えます。その理由はやはり「GW前の4月28日に就航したスカイマークがもたらした供給増・運賃低下」と言う点にあると言えます。

 北海道にとって観光産業は極めて重要な産業であり、全産業の4分の3を占める第3次産業の中核を占めている産業であり、国内だけで年間約600万人が観光客として渡道しているのが現在の状況です。
 その中で北海道の場合、観光客は国内・国外を問わず航空機を利用して渡道してきます。その事から考えると北海道にとって、外部との間の唯一とも言える旅客輸送手段である航空は極めて重要な物であり、その中でも首都東京と道内最大の都市札幌を結ぶ羽田〜新千歳線は「世界最大の航空路線」とも言われるほどの規模が有り、観光を含めて北海道と外部を結ぶ生命線とも言える航空路線です。
 その「生命線」である羽田〜新千歳線が、スカイマークの参入による競争激化で供給増・価格低下が発生し利便性が上がると言う事は北海道全体にとってプラスの話です。実際今回のGWでは羽田〜新千歳線で対前年比21%利用客が増加していますが、この内幾許かは道内他空港から新千歳経由に移行したり本州他空港から羽田経由に移行したと言う「移行需要」である可能性は有りますが、それなりの比率で「供給増・価格低下」に起因した「誘発需要」が存在していると考えられます。
 観光産業と言う外からの来客と来客の落とす金に頼る産業が主体の北海道の場合、来てくれる客が増えない限り中核の観光産業の発展はありえません。又観光客(特に国内観光客)の絶対数が増えない中で北海道の観光業を発展させるには渡道者の絶対数が増える事が重要であると言えます。
 その「渡道者の絶対数」を増やすと言う点において、航空産業の競争激化による「供給増・価格低下」が大きなメリットをもたらすと言うのであれば、北海道にとって今回の「スカイマーク新規参入と競争の激化」は大きなメリットと地域の活性化のきっかけをもたらした事になります。これは新規参入による「供給・価格」と言う側面での競争の「光の側面」と言う事が出来ます。

 ●競争による「搭乗効率低下」「収入下落」が、航空会社の「安全性の確保」に落とし穴をもたらす?

 確かに上記の様に「供給増・価格低下」が地域と利用者にプラスの影響と言う「光の側面」をもたらす事も有ります。その点においては「競争」は良い事であり、この様なメリットを追い求めて近年の「航空産業の規制緩和と新規参入促進」は行われてきたと言えます。
 しかし競争にはメリットが有ると同時にデメリットがあり、又勝者があれば敗者があるのは世の常です。利用者・地域に取っては「供給増(本数増)・価格低下」は航空路線の利便性を上げ非常に大きなメリットが有りますが、実際に運行する航空会社にしてみると「価格低下に依る減収≦乗客増による増収」と言う式が成り立たない限り、「競争は収入減収を招くマイナス要因」と言う事になります。
 実際航空各社は競争による減収をカバーしようと低コスト運行を目指して色々な努力をしているのはご存知の通りです。只実際にスカイマークで行っているような「 異常時振替輸送廃止・サービスの廃止 」等での低コスト作戦には限界が有ります。
 しかしそう言っても航空産業のコスト削減策は、コスト内訳の中で「空港使用料・燃料費・減価償却・リース料」等固定費的な物が多く、コスト削減できる変動費項目は限られておりこの先の競争による減収に見合うコスト削減を行うには「給与の引き下げ」等の変動費の中でもコスト削減にリスクの多い究極的な方策を取らざる得なくなります。

 そうなるとコスト削減が、航空の安全性確保に暗雲を投げかける可能性も出てきます。コスト削減の為に給与体系に手を付ければパイロット・整備士等の職人芸的な手腕を必要とする人たちに負担を掛ける事になり、「給与カット→転職→人材不足→新人による技量低下→安全性低下」と言う「負のサイクル」に嵌る可能性も有ります。
 その低コスト運営の象徴とも言えるスカイマークは「 整備体制について国土交通大臣が安全性に対し懸念を表明 」「 一時期は整備士が不足していた 」と言う事実の中で「整備士が大量に退職している」等の安全性に関わる問題で良くない噂も出ています。
 この様な「競争」とその対応策としての「コスト削減」の代償が「安全性の低下」で最終的に其れが原因で大規模事故が発生する事が有ると、競争がもたらした「光の側面」を一気に打ち消してしまう事になり、最悪の結果をもたらす事になってしまいます。
 競争の裏にある「影の側面」と言う点では、上記の様な「安全性の確保に落とし穴」と言う点が上げられると思います。この話は「絵空事」では有りません。上記の様に「今其処にある現実」と言う事も出来ます。この様な「競争がもたらした影の側面」についても十二分に注意を払わなければなりません。


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 この様に「構造改革」「規制緩和」「市場原理主義」万能の現在では、規制緩和が促進され競争が推奨されています。その競争は今の「デフレ」の流れの中で「価格競争」に走る結果になり、航空業界では航空運賃の大幅な低下をもたらしています。
 これ自体は決して悪い事では有りません。我々利用者としては「安い事は良い事」です。羽田〜新千歳線に限らず、我々は航空業界の競争による利便性向上と価格低下の恩恵を十二分に受けてきました。我々に取りこの競争がもたらした恩恵により始めて航空機利用が身近な物になったということが出来ます。
 只その競争に関しても上記の様に「負の側面」「危険な側面」が有る事を忘れてはなりません。大事故が発生した鉄道に比べて未だ大事故が起きていない航空は、それだけで「安全だ」と言う事は出来ません。今の状況を見たら何時大事故が起きても可笑しく有りません。大事故の兆候ともいえる小さなトラブル・中規模なミスは頻発していると言えます。
 この様な「競争の弊害」をコントロールして防止するのは政府の役割です。残念ながら「神々の見えざる手」は有能ですが万能では有りません。その「神の失敗」のフォローは人間が人為的にしてあげなければなりません。その点が政府の「安全に対する規則・規制」で有る事は誰が見ても明らかです。
 今航空業界と航空行政に必要なのは「正しい神々の見えざる手のフォロー」であると言えます。大事故が起きてから「安全への規制・指導を強化すれば良かった」と言っても遅いだけです。その事を利用者・航空会社・国土交通省は肝に銘じ働きかけ動かなければならないと言えます。破局まで残されたチャンスは多くないかも知れません。





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