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「夢」で語られる事が「現実」になる時代が来たのか?

-小田急ロマンスカーの地下鉄乗り入れがもたらす効果を考える-



TAKA  2006年09月24日




08年に東京メトロへ乗り入れる小田急ロマンスカー(写真は30000形EXE)@新宿



 元々郊外の民鉄・JR(旧国鉄)と都営・東京メトロ(旧営団地下鉄)との相互乗り入れが進んでいたので、他路線・複数路線の乗り入れが多数行われていた関東圏でも、近年「湘南新宿ライン」開業や「神奈川東部方面線」着手など、今までの常識ではなかなか想定出来ない様な「ブレークスルー」を伴った新規乗り入れ構想が浮上・実現してきています。
 その様な「近年のブレークスルー的乗り入れ構想」の一つが、「地下鉄千代田線へのロマンスカー乗り入れです。元々小田急小田原線⇔東京メトロ千代田線は1978年以来約28年間直通運転をしていた関係であり、直通運転自体は珍しくないのですが「(地下鉄の)東京メトロに有料特急が乗り入れる」と言う事は今までに前例が有りませんでした。
 05年5月に発表されたロマンスカーの千代田線乗り入れのプレスリリースから約1年4ヶ月ですが、今回地下鉄乗り入れ用を兼ねる新型ロマンスカー「60000形MSE」の概要を発表したので、これを機会に「有料座席指定特急の地下鉄乗り入れのもたらす可能性」について考えて見たいと思います。
 
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 ☆ 新型ロマンスカーとロマンスカーの地下鉄線乗り入れ計画の概要

 「小田急電鉄プレスリリース」 ・ 小田急ロマンスカーの東京メトロ千代田線への乗り入れについて
                ・ 新型ロマンスカーMSEの製造を決定

 今回地下鉄乗入れ用に製造が決定された60000形MSE(以下MSEと略す)はバリアフリー対応への問題から早期廃車が進んでいる10000形HiSE車の代替の第2弾として造られる車両です。(代替えの第1弾はVSEで、其処で廃車された HiSEを長野電鉄へ譲渡
 今のロマンスカー車両は通勤・近郊輸送をメインに設計された30000形EXEと箱根観光輸送の主力の50000形VSE(サブで7000形・20000形)と言う二つの柱が存在します。元々通勤・近郊輸送主体用の輸送力ロマンスカーとして大量に作られた30000形(7編成70両)が通勤・近郊輸送には好評の物の箱根観光輸送には評判がイマイチ悪く(ロマンスカーで唯一「ブルーリボン賞」を受賞していない)、その反動として小田急の箱根観光への梃入れ策として観光輸送に特化した50000形VSEを製作し「箱根観光専用ロマンスカー」として成功を収めました。
 しかし現実問題として「バリアフリーの観点から10000形HiSEを早期に更新する必要が有る」「10000形2編成代替えには実質的にロマンスカー輸送の太宗を締める通勤近郊輸送に対応する車両が必要」と言う条件の中から、前回デザインを依頼して成功した岡部憲明氏をデザイナーに再起用し成功したVSEのデザインを引き継ぐ事で「観光輸送のイメージを持ちつつ」6両+4両分割の10両編成で地下鉄乗り入れ対応にする事で「地下鉄乗り入れ・通勤・近郊輸送」にも対応可能と言う、30000形が失敗した「何でも対応できる特急車両」として今回のMSEが製造されたと言えます。

 未だ08年春と言うロマンスカーMSE運用開始・ロマンスカー千代田線乗り入れ開始にかんしては、公式には上記の小田急電鉄プレスリリースしか出ていません。
 しかし「小田急電鉄は梅ヶ丘までの複々線供用開始による04年12月11日ダイヤ改正」以降は「平成25年度の代々木上原〜梅ヶ丘間複々線工事完成までは大幅なダイヤ改正はしない(=修正程度のダイヤ改正しかしない)」と言う条件を踏まえ、加えてMSEの今回投入編成が6両編成2本+4両編成1本と言う事は(EXEの千代田線乗り入れ改装をしない限りは)千代田線内に10両編成は1編成しか入れられないと言う事になります。この2点がロマンスカー千代田線乗り入れの制約条件になります。
 その点を踏まえると、08年春のロマンスカー千代田線直通運転開始時点では夕方および夜間の湯島発1本〜2本のロマンスカー運行と言うのが順当な線で有ると考えます。基本的に「新宿00分・30分のロマンスカーは動かせない」「湯島〜相模大野で片道約1時間」となると1、夕方|夜ダイヤで優等列車が走っていない5分・45分の時間帯を狙うとして、 時刻表 を見ると唐木田行きと対になる感じで18:15もしくは19:15発で1本(町田行きを地下鉄直通に変更)に出した上に20時15分or21時15分を加える2本が代替的に補完するという2本体制が重要で有ると考えます。
 将来的にはこの1〜2本の運転で数年様子を見て、実際の需要があれば平成25年度の複々線化工事完成時に行われると想定されるダイヤ改正で増発を図ると言う方針で有ると思います。もし利用が多ければ新宿発毎時15分のスロットを利用しての毎時1本程度の運転になる可能性が高いと言えます。


 ☆ 次に地下鉄乗り入れ・都心乗入を果たす有料特急は何だろうか?

 この度小田急電鉄のロマンスカー地下鉄乗り入れが現実化しましたが、民鉄・JRの地下鉄乗り入れが常態化している関東では「次の有料特急乗り入れ候補」は沢山有ると言えます。
 果たして次の乗り入れ候補は何処になるのでしょうか?「有料特急乗り入れ」のもたらすメリットを考えながら次に出てくるかもしれない「有料特急乗り入れ候補」について考えて見たいと思います。

 関東の民鉄では、全社ともいずれか何処かで東京メトロ・都営のいずれかの地下鉄に乗り入れを行っています。その内現在座席指定有料特急が運行されているのは「小田急・西武・東武・京成」の4社になります。
 今から直ぐに「有料特急運行開始」を発表する民鉄が登場するとは考え辛いので、現在運行中の4社の中からNO2が登場すると考えられます。この中で今回小田急が「ロマンスカー地下鉄乗り入れ」を発表したので、残り3社「西武・東武・京成」の中からNO2の会社が登場する事のなると言えます。


  
左:スカイライナーのターミナル日暮里  右:東武特急のターミナル浅草

 その中で「地下鉄乗り入れに活路を見出さざる得ない」と言う必然性が有るのは、副都心にターミナルを持たないと言うターミナル立地で劣る京成・東武の2社で有ると言えます。
 私鉄の有料特急には「都市圏・空港・観光輸送」と言う地域間輸送をメインに担う場合と「朝夕の通勤需要の中の着席需要吸収」と言う地域内輸送をメインに担う場合とその両方を担う場合の三つのパターンが有ると言えます。
 このパターンで考えると「どれだけを専属」と言う特急は有りませんが、京成スカイライナー(成田空港輸送)・東武りょうもう(群馬県内都市間輸送)・東武スペーシア(日光・鬼怒川輸送と栃木県内都市間輸送)は比較的地域間(都市間)輸送をメインにした輸送形態であり、小田急ロマンスカー(箱根観光輸送と通勤地域内輸送)は地域間・地域内輸送を両方兼ね合わせる(特急車種で役割分担)輸送形態であり、西武特急(レッドアロー・小江戸)は秩父・川越への都市間輸送は有るもののメインは朝夕の通勤着席輸送で昼間は空気を運んでいる状況です。
 この3つの分類で考えると「通勤輸送メインで地下鉄乗り入れたのだから、通勤輸送用に有料特急も乗り入れたら」と言う事になる可能性は高いと言えます。実際小田急はその発想で動き出しましたが、似た形態が強い西武の場合レッドアローを地下鉄に乗り入れた場合でも地下鉄が西武のターミナルの池袋を通る為、乗り入れにより敢て有料特急の供給を分散させる効果は薄いと言えます。其れならば需要を充たす供給(発車前に満席になる状況では供給不足)を行う事をメインに考えるべきと言えます。
 それに対して特に「都市圏輸送・空港アクセス・観光輸送」では発着するターミナルの利便性が重要で有ると言えます。小田急とて「新宿から箱根へロマンスカー」と言う新宿と言うターミナルの立地が大きなアピールポイントになっていますし、浅草と言うターミナル立地で劣る東武は「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で「敵に塩を送る」判断と言える、観光特急スペーシアの栗橋からの JR乗り入れによる新宿直通 を果たしたのです。その点からも地域間輸送主体の有料特急運行会社が日暮里・上野・浅草と言う立地が劣るターミナルから脱却すると言う意味で地下鉄乗入を模索する動きが出ても可笑しくは無いと言えます。


左:京成スカイライナー@関屋 中:東武特急りょうもう@曳舟 右:東武特急スペーシア@曳舟

 その点から言えば京成スカイライナー・東武特急りょうもう・東武特急スペーシアは「次の地下鉄直通特急」として極めて有望な候補で有ると言えます。
 スカイライナーは浅草線に乗り入れれば一寸東に外れている物の「日本橋・銀座」へのアクセスを確保できます。国際空港と日本橋・銀座が直結と言うのは大きな効果をもたらします。加えて所要時間は掛かりますが羽田空港乗り入れも出来れば空港間連絡も出来る事になり、直通運転がもたらす可能性は非常に大きいと言えます。
 東武特急は「新宿乗り入れ」と言う「皆が驚く一手」を打ちましたが、未だ大部分のスペーシア・りょうもうは浅草発着であり、特にスペーシアの様な「一部新宿乗り入れ」も果たせないのに、館林(81千人)・太田(218千人)・足利(159千人)・桐生(132千人)と言う北関東の都市へのビジネス需要をになう「りょうもう」に取っては浅草ターミナルと言うのは大きなハンデであり、その改善には半蔵門線乗り入れによる大手町・都心方面への乗り入れが大きな効果が有ると言えます。
 
 その中でも「京成スカイライナー」が一番手になる可能性が高いと言えます。スカイライナーに使用している AE100形 は今まで機能は発揮した事は無い物の地下鉄乗り入れ対応の機能を持っています。その点では車両だけを言えば「明日からでも直通可能」と言う状況に有ります。その点は現行車両での乗り入れが困難で車両新製が必要な東武・西武に比べてハードルも低いです。又都営地下鉄は浅草線で地下鉄内通過列車を認めていると言う点も有料特急導入へのハードルが低いと言えます。
 加えて現在平成22年度完成を目指し 成田高速鉄道アクセス の建設が進んでおり、現行の日暮里〜成田空港間51分に対し開通後は日暮里〜成田空港間が36分で結ばれる事になっております。これに合わせて京成は「 スカイライナーの新線への移行・160km/h対応新車投入 」を発表していますが、この時に1990〜93年竣工で2010年には未だ経年が20年程度のAE100形が余剰になります。これを活用しての地下鉄線乗り入れと言う選択肢は有ると言う事が出来ます。もし 浅草線東京駅接着 が出来たとしても、新型スカイライナーは10両編成のため浅草線直通は出来ないので、現行車両を使ったサブルート(メインは当然金を掛けて改良した日暮里になる)としての浅草線乗り入れと言う選択肢を考えてしかるべきであると思います。


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 鉄道業界では前にも述べたように「有料特急の地下鉄乗り入れ」だけでなく、近年「アッと驚く」ブレイクスルー的な直通運転が増えております。
 基本的には鉄道はインフラの上に成り立っている事業であり、「如何にインフラを効率よく使用するか」と言う点が収入増額に非常に重要で有る事は間違い有りません。ましてや沿線人口が減少していて収入が頭打ちor減少と言う状況なので、収入増額に対してはあらゆる努力を図らなければならない状況に有ると言えます。
 ましてや利用客増・増収が自然増で達成できない状況であれば、将来に負担を残す「巨額な設備投資」は非常に困難で有ると言えます。その点では「今有るインフラを有効活用」して「最低の投資で最大の収入」をもたらす投資を行うと同時に、「自分の客は囲い込む」事をしながら「他社の客は奪い取る」と言う利用客の確保策を行わなければなりません。
 その様な利用客確保策・囲い込み策は色々な形で民鉄各社・JRでも積極的に行われています。(有る意味その象徴がJR東日本のSuicaや民鉄各社のポイント付ハウスカード)その利用者確保・囲い込み策の鉄道事業での方策が「ブレイクスルー的な直通運転・短絡線建設」による運行範囲の拡大です。その象徴が「湘南新宿ライン」であり「東部方面線」であり「ロマンスカー地下鉄乗り入れ」です。これ等は「今有る物を活用し最低の投資で広範囲で効果を狙う」と言う考えに基づいた方策と言えます。

 鉄道マニアの間では常識から考えると「妄想」に近い「新線建設・乗り入れ」の方策が話になる事が有ります。実際ネット上でもその様な話は色々な所で見ることが出来ます。
 我々は「常識」と言う名の物差しで計った上で、その事を「マニアの妄想」とか「与太話」として排除する傾向が有ります。その傾向は私の発想・言動にも存在すると思います。その点は否定しません。
 しかしここ数年の鉄道事業では「鉄道マニアが夢と語る」事が現実と化して来ています。今回の「ロマンスカーの地下鉄乗入」は有る意味その象徴で有ると思います。今までは「自分の規格に無いもの」が入る事を嫌っていた帝都高速度交通営団が民営化で東京メトロになり、「杓子定規に考えるより(特急料金が)増収になる物は拒まず受け入れよう」と言う発想の転換が今回の「ロマンスカーの地下鉄乗り入れ」をもたらしたと言えます。
 世の中では鉄道事業と言う「実業」が存在する以上、周りで其れを好み発言する人達(世の中では其れをマニアと言う)は、「実業と言う現実」を踏まえて物事を考え発言しなければ世の中に受け入れられないと思います。
 けれども「鉄道事業」と言う「実業」の「現実」の中に居ると色々見えない事が有るし縛りが有るのは事実です。その点マニアは自由に発想が出来て外から自由に発言できると言う点では一日の長が有ると言えます。そのマニアの自由な発想の中で実現性が有る有望な物に、鉄道会社がやっと付いて来たというのが今の状況なのかもしれません。
 表題で「夢が現実になる」と言いましたが、近年の鉄道事業者のブレークスルー的な施策は鉄道ファンに取っては「正しく夢で語っていた事が現実となった」事でも有ると言えます。その点では鉄道ファンとしては喜ばしい事では有ります。
 しかし鉄道マニアにとっても「夢が現実となる」と言っても、あくまで「現実と折り合いメリットの多い夢」だからこそ実現が出来た夢であり、「現実性も根拠もない『妄想』」では何も世の中を動かさないと言う事が出来ます。その点は肝に銘じなければならないと言えます。その点から考えると鉄道マニアとて世の中に影響を与え「夢を現実にする」にはその点を考えて発言しなければならない、逆に言えば発言の質次第では「世に影響を与える可能性」が有るのだなと今回改めて考えさせられました。





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