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「需要予測」とは当たらない物なのか?
-新幹線南びわ湖駅建設問題と滋賀県の「需要予測再調査」の結果を考える-
TAKA 2006年11月01日
今や嘉田滋賀県知事を中心とする凍結派VS国松栗東市長を中心とする推進派との間で「事業実現への天王山」を向かえた感のある「新幹線南びわこ駅建設問題」ですが、今度は嘉田滋賀県知事が「再調査を行う」と言って滋賀県新幹線新駅問題対策室に行わせていた「滋賀県の需要予測再調査」の結果が出てきました。
「
新幹線新駅の需要予測・経済波及効果の再検証の結果について
(滋賀県HP)」
まあ正直言って個人的感想ですが「ずいぶん予測数字が落ちたな〜」と言うある意味想定以上の下方修正の驚きを感じたのと「何でこんなに前回の数字と乖離したんだ!いったい前回の数字は何だったのだ!」と言う怒りにも似た感じの両方が錯綜するような感じを持ったと言えます。今までのTAKAの交通論の部屋での一連の議論は前回の「深度化調査」を元にしていた分そのショックは大きいと言えます。
今回「新幹線南びわこ駅建設問題」で、「栗東市長選挙の結果と「需要予測再調査の結果」と言う2つの建設問題を左右する事由の結果が出てきたので、これに基づいてTAKAの交通論の部屋での「新幹線建設問題」の中間総括を執り行ってみたいと思います。
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☆ 新幹線新駅の需要予測・経済波及効果の再検証の結果を考える
今回の 「
新幹線新駅の需要予測・経済波及効果の再検証の結果について
(以下「再検証」と略す)」は、当初の新駅事業推進の根拠となっていた「
新幹線新駅整備の波及効果と地域整備戦略の深度化調査
(以下「前回調査」と略す)に関して、嘉田知事が「多くの経済施策では上位、中位、下位の予測を出すとして、一つしかない従来の試算に疑問を示した」事が発端となり、再調査を行ったものです。
再検証の内容は具体的内容は滋賀県発表の物を読んで頂くのが一番正確ですが、一番違う事は「最新のデーターを使用した」事と「主に効果の及ぶ範囲の再定義(自治体区切りから駅からの距離へ)を行った」事と「統計そのままの数値(中位)・統計にプラスアルファを加えた数値(上位)・統計をマイナスアルファした数値(低位)の3パターンを用意した」と言う3つの点が前回調査と大きく異なっています。(前回調査との相違点は滋賀県発表資料の3ページにある)
その結果、滋賀県発表資料の5〜6ページに今回の再検証の上位・中位・低位の数値と前回調査の数値の対比が出ていますが、再検証は前回調査より「人口推計」「観光入込客推計」「新駅利用者数」「経済波及効果」「税収効果」全てに渡り数値が下回る事となり、特に一番数値が低い再検証低位と前回調査で比べると、「経済波及効果」「税収効果」では何れも再検証低位は前回調査の3分の1程度になってしまいました。
☆ なぜ「同じ組織」が行った「同じ物への予測」が異なるのか?
しかし今回このような結果が出ましたが、問題は「なぜこんなに差が出たのか?」と言う点にあります。前回調査が発表されたのは03年で今から4年前です。この数年でそんなに効果が変わるほど経済や地域の環境は劇的に変化したのでしょうか?『滋賀県の川口政策理事は旧推計(前回調査)については「その時点のアセスとしては間違いではなかった」(
10月27日:毎日新聞
)』とは述べていますが果たして本当なのでしょうか?そこに大きな疑問を感じます。
もともと私の個人的考えでは「人間は将来を予言できないのだから需要予測に誤差があるのは当たり前」と言う考えです。しかし色々な事象のパターンを分析して可能性の高い効果をある程度まで示す、つまりいくつかの可能性としての効果をある程度まで詰める事は可能であると考えます。実際経済学者であるJ・M・ケインズは記者に『
「経済予測について聞きたい」と言われ、「それは短期かね、それとも長期かね」とたずね返した。その記者は「長期について」と述べる。するとケインズはこう答えた。「もっとも確かなことは、きみも私ももうすでに死んでいるということだ」
』と答えたそうです。此処まで言ってしまうと実際に「需要予測」と言う先読みを行っている人たちに申し訳ないのですが、実際にイギリスの金本位制復帰をめぐってその破綻を予測し「チャーチル氏の経済的帰結」を発表し時の蔵相チャーチルと激論を繰り広げ、その予測を見事に当てたケインズが言っている言葉であり、「先を読むと言うこと」に対する困難さを示している言葉であると言えます。
けれども、一つの物を分析すれば何回分析しても同じやり方で行うのであれば結果は一緒であるはずです。今回再検証の場合前回調査と再検証の中位はほぼ近い数字になっておかしくはありません。それがなぜ異なるか?その原因は「元となったデーターが異なったか?」「作為で数字が歪められたか?」と言う2点に有ると考える事が出来ます。
今回の再検証では「データーで最新の数字に置き換えている」為に「元になる数字が異なっている」ので同一の結果が出ることは有り得ません。しかし「経済波及効果」「税収効果」で再検証の中位の数字は前回調査の約半分になっています。その2つの効果を算出する大本のデーターでいくつかの変更(住宅建設効果で全て一戸建て→一戸建て1/3+マンション2/3・産業連関表が平成7年度→平成12年度・1ヶ月の通勤日数25日→21日等・人口推計の国勢調査が平成12年度→平成17年度等)が加えられていますが、この変化は確かに「実情に合った物への変化」という事が出来ますが、果たしてこの様な「基礎数字の変化」だけで、これだけ大きく結果が異なるのでしょうか?
私は専門家ではないので明確な断言は出来ませんが、確かに近年こそ「平成景気は戦後最長更新確実(平成14年2月〜現在) 」と言われていますが、実際その前つまり前回調査の使用の産業連関表作成の平成7年や再検証で使用の産業連関表作成の平成12年は「バブル景気」(昭和61年12月−平成3年2月)以降の長い景気低迷に苦しんでいた時代であり、その影響が
乗数効果
の集積とも言える
産業連関表
に現れ、平成7年版と比較して12年度版の産業連関表の数字が厳しくなり、その結果今回の再検証では経済波及効果が落ち込んだと言う事は考えられます。
しかしそれだけで「経済効果半減」と言う数字が出てくるのでしょうか?私は疑問です。消費が冷え込めば経済波及効果や税収効果が落ち込むのは当然ですし、人口・経済指数等の統計の数値が一箇所変わればそこから数字が変わりその変化がどんどん大きくなると言うことは有るでしょう。それでも半減は大きすぎます。ですから今回の再検証と前回調査の数字の落差に「データーや算出根拠の数字が異なるから」と言う事には、素人目にはいまいち納得がいかず説得力に乏しいと言えます。
と言う事はもう一つの可能性「作為で数字が歪められたか?」と言う点ですが、過去に他では「状況証拠」として「事業が成立する数字に需要予測が意図的に作られた」と推測出来るほど需要予測と実態が乖離していた場合や、「
当初の事業計画も、実現性の低いものだった。甘い見通しでスタートした第3セクター設立の裏側には、地元の政治力学が働いていたのだった。
」と報道されるケース等も有りました。今回の新幹線南びわこ駅建設に関しての需要予測でもこの様な「政治的を含む特定の意図により需要予想が歪められた」可能性は有るのではないでしょうか?
しかしこれも全く物的証拠はありません。実際前回調査の数字に関してもコンサルタントの責任者が「滋賀県議会生活文化・土木交通常任委員会の協議会」で「「ほかの請願駅を見ても、これほど精密な調査をしているところはなく、調査方法は国土交通省と同じ」とした上で、利用者予測については「ほぼ外れることはない」と強調した。」(9/5京都新聞)と言う証言と、滋賀県の川口政策理事は再検証の発表時に「旧推計についてはその時点のアセスとしては間違いではなかった」と言う証言をしています。じっさいに需要予測をしていた人たちのコメントですが、「数字は歪められていない」と証言している以上「前回調査」で数字が意図的に歪められた可能性は今の段階では否定せざる得ません。
又今回の再検証に関しても滋賀県の堺井新幹線新駅問題対策室長が『「再検証で、より妥当(なよう)に変えて精度は高くなったと思う」と話した。(
10月27日:毎日新聞
)』とコメントしている以上、これも今の段階ではこのコメントを否定するだけの証拠に乏しいと言うのが実情です。
この点から考えれば、(私はまだ「怪しい?」と感じていますが・・・)需要予測の数字が「作為で数字が歪められたか?」と言う点に関しては、作成当事者の証言から見ると「とりあえず無罪」と言わざる得ない状況にあるといえます。
しかし今の段階で「何故前回調査と再検証でこれだけ数字が異なったのか?」と言う命題に関して「答えは出ていない」と言えども、新幹線南びわこ駅建設を推進するにしても中止するにしても、この原因ははっきり追究しておくべきであると思います。それが今回の再検証で残された最大の命題であると考えます。
実際公共事業に関しては今の時代は「費用対効果」を重視しているので「どれだけのリターンがあるか(=どれだけ人が利用するのか)」と言う事を、公共事業の有用性を説明するのに利用します。つまり会社の「事業プランの収支予測」と同じ重みが、需要予測・経済効果予測には存在するのです。会社で新規事業を打ち立てた人が「事業プランの収支予測」を誤り赤字を出したら左遷かクビです。ですから会社では必死になり「事業プランの収支予測」を行うのです。
けれども公共事業では官公庁にその必死さが有るのでしょうか?今回の場合少なくとも再検証の需要予測を信じ、すでに栗東市は南びわこ駅建設の前提条件たる土地区画整理に巨額の税金をつぎ込んでいます。これが「需要予測が間違えていたので経済効果が小さいから新駅建設中止」となったら誰が責任を取るのでしょうか?少なくとも需要予測を行った人達でない事は明らかです。
ですからこの様なことを繰り返さない為に、南びわこ駅建設は「推進・凍結」どちらになるにしても、「前回調査と再検証で何故この様な差が出たのか?何が問題なのか?」タブー無しで再検証して見るべきであると思いますし、それが今回の再検証で一番必要な事ではないかと思います。
☆ もう此処で「推進・凍結」を棚上げにしての「仕切り直し」が必要では?
7月の滋賀県知事選挙以来「縺れに縺れた」という事が出来る、新幹線南びわこ駅建設工事の問題ですが、「滋賀県知事選挙の結果と言う民意・栗東・新幹線新駅訴訟敗訴と言う結果・今回の需要予測再検証の結果」と言う新駅建設へのマイナス要素と「栗東市長選挙での民意」と言うプラスへの要素が出てきて、取りあえず「大きなイベントは一段落した」と言える状況まで来たと言えます。
けれどもイベントに関しては一段落した物の、「滋賀県議会での『
東海道新幹線新駅にかかる10月分負担金の県における支払いおよび栗東市の起債に対する県許可について
』の請願可決」と「栗東市議会での負担金支払い差し控えの決議(
10月31日:京都新聞
)」と言う2つの動きが議会で起きた為、「滋賀県(凍結派)知事vs(推進派)議会」「栗東市(推進派)市長vs(凍結派)議会」と言う自治体内での首長vs議会と言う「内部分裂」と言える新たな対立の構図も発生してきています。
しかし残念ながら今や南びわこ駅建設問題は膠着状況に陥ったと言うことが出来ます。10月28日に開かれた「東海道新幹線びわこ栗東駅設置促進協議会」の正副会長会議では「来年3月までに結論を得る(
10月29日:京都新聞
)」と言う「協議継続・結論の先送り」で決定が出ました。今や滋賀県と栗東市の感情的亀裂は深まり民意の矛盾も明らかになり、滋賀県・栗東市どちらも簡単には引けない状況の中で決定的決裂を回避する「年度末まで先送り・協議継続」は今ある選択肢の中で一番良い選択肢であると思います。
けれども年度末に向けて「協議の場で対立だけを繰り返す」と言う事では何も進歩がありません。此処で滋賀県と栗東市は「大人の対応」をしなければなりません。そうしなければ「先送りの上協議継続」の意味が有りません。
此処で「JR東海の合意を得られる」と言う前提の上で、「新駅建設是非に関しての再度の仕切り直し」と言う名の再検討を「期限付きで」することが好ましいのではないかと考えます。今や「滋賀県全体=新駅建設反対の民意VS栗東市=新駅建設推進の民意」と言う構図は当分変えられませんから、この民意の矛盾を踏まえたうえで「需要予測に関しての前回調査・再検証の有り方」を分析し「実際どれだけの需要があるのか?」を精査した上で、確度の高い需要予測を踏まえて「県税を投入しないで如何にして新駅を建設するのか?」と言う「民意の矛盾を解消できるウルトラCのスキーム」を再構築し、滋賀県民・栗東市民両方の民意を適えてしかも地域の発展に貢献する新スキームを考え出すべきであると言えます。
少なくとも今のスキームで新駅建設事業を進めた場合、「推進or凍結」の二者択一しかありません。しかしそれでは将来に禍根を残します。今の流れは「凍結」が有利なことは否定できません。しかし流れだけで真剣に再検討しないで「ただ中止」と言うのは好ましくありません。
実際新駅建設には「需要予測」が低くなろうと効果があるのは間違いない事実ですし、加えて「需要予測」で反映されていない「金銭に直接反映されない利用者便益」などの間接的効果もあり、それらを含めて考えると未だに「南びわこ駅建設は無駄である」と一刀両断に否定できない側面も有ります。又栗東を中心とした滋賀県南部地域の発展の核となりえる「南びわこ駅建設」が街づくりの点からも未だに有用であり、このプロジェクトが一概に否定できないものであると言うことは、正しく
国松栗東市長の主張通り
であると私は考えます。
それならば、「税金投入を極小化し、滋賀県を抜いても成立する新しいやり方」を模索するべきです。それならば栗東市が望む新駅建設も出来ますし、嘉田知事が「もったいない」と主張した新幹線新駅への滋賀県の税金投入も防ぐことが出来ると言えます。それならば滋賀県とて南びわこ駅建設を凍結しなくても反対しないでしょう。
只その様な「バラ色のスキーム」が有るのかどうかは分かりません。過去には私も「
第三セクター設立&新駅利用料徴収での資金回収
」と言うスキームを考えたことがありますが、これは素人考えの側面も強いので「実現できる」と胸を張ることは出来ませんが、この様な「第三の道」を探すことは出来ると思います。まず協議を継続するのであれば、みんなの顔が立つ方策を探す様に知恵を絞るべきでしょう。
このプロジェクトの現状と将来のの再検証を加えながら、その様な「第三の道」を探しながら協議を継続することが今の情勢の中では必要であると言えます。但し期限を切らずにだらだらと検討すると言うわけには行きません。JR東海の存在もある以上(年度内では困難でしょうから来年末まで等の)一定の期限を決めて協議を行い、その上で「第三の道」が見つかれば第三の道を歩めば良いですし、「第三の道」が見つからなければその時は「推進or凍結」で結論を改めて出せば良いと思います。
此処まで来た以上将来に禍根を残すような結末を安易に出すべきではありません。滋賀県と栗東市の関係は此処でいくら揉め様と将来にわたり継続するものです。又「国家百年の大計」と行かなくても地域にとっては重大プロジェクトの運命を安易に決めることは将来に禍根を残すものであると言えます。その様な「大人の見方」を滋賀県・栗東市両方が行い、決裂するにも「納得ずくめの決裂」となる様な「万策尽きる」までの徹底的な協議こそ今必要なのではないでしょうか?
滋賀県・栗東市とも今回の合意を奇禍として、「相互理解と協議の精神」を生かしつつ、当事者・周囲共々が納得する様な話し合いと結論を導き出せる様になって欲しいものであると思います。それが地域の発展のためにも必要なのではないでしょうか?
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今回7月の滋賀県知事選挙の結果が出て以来、
TAKAの交通論の部屋
では「東海道新幹線南びわこ駅建設問題」について、ずっと追いかけてきて何本も記事を書きましたが、私自身の考えは「南びわこ駅建設は有用な事業であり是非推進するべきである」と言う考えは今でも変わりません。本当に「凍結→中止」と言う道のりを歩むには「もったいない事業」であると思います。
しかし「滋賀県知事選挙→建設凍結・栗東市長選挙→建設推進」と言う民意に加え「滋賀県(凍結派)知事vs(推進派)議会」「栗東市(推進派)市長vs(凍結派)議会」と言う自治体内での首長vs議会と言う新たな対立の構図が出て来た中で、新幹線建設問題に影響を与える「新幹線新駅訴訟敗訴と言う結果・今回の需要予測再検証の結果」と言う2つの結果は非常に重いものであると思います。少なくともこの結果を見て「有用なプロジェクトであろうとプロセスに問題があることが明らかになり」「有用なプロジェクトが役人に歪められて潰れて行くのではないか?」と言う漠然とした危機感を抱いています。これは滋賀県の将来にとってきわめて悲劇的な結末であると言うことが出来ます
けれども私は滋賀県民でもないし栗東市民でもない第三者です。実際に「身を切る」事をせずに。脇から口を出すことの負い目を感じながら今まで色々と論を立ててきましたが、「需要予測の再検証の結果が出て」「協議会で協議継続と言う方針が出た」今の段階で、取りあえずTAKAの交通論の部屋では一つの締めくくりにしようと思い、今回この様な一文を書いてみました。
地域の問題は地域で解決するものであり、そこに根を張っていない第三者は部外者であり、部外者が意見ばかり言うのも地域の為にはなりません。最後の決断をするのは地域の人たちですし、地域の人たちの「民意」は二つの選挙結果ですでに明らかになっています。これからはその民意を生かしながら「地域の発展の為に真に必要な方策」を採って頂き、滋賀県・栗東市がより発展してくれる事を願って止みません。
これをTAKAの交通論の部屋での「新幹線建設問題」の中間総括に変えさせて頂きたいと思います。
※「
TAKAの交通論の部屋
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