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災害時の公共交通について考える
−新潟中越沖地震と公共交通−
TAKA 2007年07月21日
7月16日に発生した「新潟中越沖地震」ですが、地震発生時私は東京の豊田で現場の打合せを立ってしていた為、長い周期の揺れに地震とは分からず「目眩でもしているのかな?」と真面目に思って居てこれだけ大きい地震で有るとは思いませんでした。その後電車に乗る為に向ったJR中央線豊田駅の電光掲示板で地震の発生と下車したJR新宿駅の街頭テレビで地震の激しさを知り「まさか?これは大きな地震だぞ!」と思い慄然としました。
改めて今回の10名もの方々が亡くなった甚大な被害を及ぼした地震の被害者の方々に御見舞いを申し上げさせて頂くと同時に、地震について未だ発生してから間が無い為論評をするのも未だ早いと思いますが、今回の地震について感じた事を交通等を中心に話が色々と飛んでしまうとは思いますが、私が感じた事についてコメントしたいと思います。
●本当に地震を予知する事は困難だ・・・
いつも地震が起きると思う事ですが、「本当に地震が起きる事を予知するのは難しいのだな・・・」と言う事です。
私も今回の中越沖地震について、3年前に新潟中越沖地震・約4ヶ月前の能登半島地震に続いてその中間の地域でこんなに大きい地震が起きるとは正直言って思いませんでした。実際中越沖地震に関してテレビで見ていると専門家でも「まさかこんな大きな地震が此処で起きるとは思わなかった」と言うコメントをしていたのを散見しましたが、その事からも改めて「地震を予知する事が困難」であることを実感させられました。
実際今回の中越沖地震が発生し「震度6強」の揺れで大きな被害の出た刈羽町に有り、今回の地震で「放射能もれ」等で問題の発生している柏崎刈羽原子力発電所が有りますが、原子力発電所建設に関しては「
地震に関しての各種調査
」を行いリスクが低い事を検討してから建設を行いますが、実際は
能登半島沖地震の時の北陸電力志賀原発
でも今回の
中越沖地震の東京電力柏崎刈羽原発
でも原発建設に関する耐震規定想定の揺れよりはるかに大きい揺れを受けています。
日本では原発建設に関して特に直下型地震に遭わない様に前に引用した様な「綿密な断層等の調査」を行っているのに関わらず、今回の地震の原因となる柏崎刈羽原発の近くの海に有る断層について、その「巨大地震発生の危険性」について、直近の調査で断層の存在は知っていても、如何なる形でも地震の発生及びその強い可能性を予知する事は出来ませんでした。その点からも如何に地震を予知する事が困難で有るかは分かります。
過去に中越地震の時に
上越新幹線とき325号が脱線
し、その事について「
交通総合フォーラム
」で議論をし、「幾らユレダス等の警報システムを備えている新幹線でも地震が起きてから通報するシステムでは限界が有り、究極は予知が出来ないと完全な対応は出来ない」と言う話をした記憶が有りますが、今回も正しくその事を改めて思わされました。
今回は「交通」の分野だけに限れば青海川駅の土砂崩れ等が有りましたが、阪神大震災・中越地震の時の様に車両の脱線転覆の様な事は発生しても人的被害を伴わず今回も「助かった・運が良かった」と言う事が出来るでしょう。しかし耐震補強工事等で「壊れ辛いインフラ」やユレダス等のシステムで「少しでも早く対応」と言うシステムの構築は出来ても、根本問題として解決策になる「予知」に関しては未だに道ははるかに遠く最終的には「今の技術で出来る耐震補強やユレダス等の地震発生後の通知システム」をしっかり構築して「地震での被害の確立を出来る限り減らす」と同時に、「最後は運に頼らざる得ない」と言う状況は変わらないのだな・・・と改めて感じさせられました。
●今回の地震で有効性が証明された?早期地震警戒システム
今回の地震で一番有用性が証明されたのは「早期地震警戒システム」ではないでしょうか?
これは気象庁が昨年8月1日より試験的に発表・配信を始めた「緊急地震速報」を受けて、地震の本波が来る前に警報を出し対策を講じるシステムで、鉄道で言えば新幹線の「ユレダス」システムの様に自前で観測網を構築して実質的に早期地震警戒システムを既に持っている会社も有りますが、今回の気象庁の「緊急地震速報」を用いた「早期地震警戒システム」であれば全国に緻密な地震計網を広げている気象庁のシステムを上手く活用し比較的簡易に地震対応のシステムが構築できる事も有り、
小田急電鉄が採用
を始めたのを皮切りに大手民鉄各社が競って採用をしているシステムです。
実際JRのユレダスにしても気象庁の緊急地震速報にしても「地震が起きたことを素早く伝えるシステム」であり「地震を予知するシステム」では有りません。ですから新潟中越地震での「
とき325号脱線
」が示す様に必ずしも「地震が来る前に電車を停められる」と言う訳では有りません。しかし「地震が来る前に少しでも対策を取れる」と言う点で「地震での災害の確率を少しでも減らせる」システムで有る事は間違い有りません。
この「緊急地震速報」を用いたシステムは企業・役場・家庭等にも試験的に配布されてますが、今回の地震の「
気象庁発表
」では「震度6強の地域では震源地近くの柏崎・刈羽では間に合わなかったが、長岡で3秒前・長野県飯綱で20秒前に速報できた」との事で有り、地震後色々な所のニュースが報じている様に「
地震の前に警報が来た
」と言う所も多く一定の有用性を証明できたと言えます。
又鉄道でもNHKのニュースに依れば「東武鉄道・相模鉄道等で早期地震警戒システムで地震が来る前に電車を停める事が出来た」と報道していましたし、「
通勤中の電車が急ブレーキで止まり「緊急地震速報を受けて停車した」とアナウンスが有った
」と言う実例も有り、関東では直接被害の有る地震では無かった物の、大手民鉄各社が競って導入している早期地震警戒システムの「システムとしての有用性」を確認できたと言う事が出来るでしょう。
このシステムが「万能」でないのは今まで述べてきたとおりですが、逆に今回の地震では「規模が大きく遠距離でも大きな震度が発生する地震」例えば東海地震での神奈川県・東京都等ではその様な自体の発生が想像出来ますので、その様な場合には有用なシステムであると証明できたのは、今回の地震で色々と起きた事象の中で大きな教訓で有ると言うことが出来ると思います。
●「ナショナルフラッグキャリア」なのに遅い対応は何故か?
最後に地震からはチョット話が逸れますが「TAKAの交通論の部屋」でも何回か触れている日本航空についての話です。
今回の地震に際して東京〜新潟間の交通の主軸で有る上越新幹線・関越自動車道に関しては、経由地の長岡で大きな揺れを観測した物のインフラに被害は無く地震発生の当日中にはどちらも復旧しており、実際の所東京〜新潟間の交通断絶は前回の
新潟県中越地震
の時のように「新幹線が2ヶ月以上普通になり震災翌日から新幹線復旧まで全日空・日本航空で臨時便を飛ばした」と言うほど深刻な状況には成りませんでした。
その様な状況でしたが今回の中越沖地震に対して
16日にはANAが臨時便
を「羽田空港19時発・折り返しの新潟空港からの便を20時30分発・17日以降は新幹線の運行状況にて決定」と言うスケジュールで飛ばし、又日本航空も「17日羽田9:15発・新潟10:55発」と言うスケジュールで臨時便を運行しています。又災害復旧への協力として
全日空
・
日本航空
共に無償輸送等の輸送協力を行っています。
しかし問題なのは「臨時便運行のタイミング」です。日本航空の臨時便運行のタイミングは明らかに「外した」物であり「我々も貢献しました」と言うポーズを示す物に過ぎないと言う事が出来ます。実際上越新幹線は15:00の段階で「
点検で異常が無ければ19:00から運行開始
」を発表していました。実際は19:00運行開始は少し遅れたので、その様なリスクを考えれば16日の臨時便運行は「新幹線の代替の運行」として意味が有りました。ですから全日空の「
羽田空港19時発・新潟空港20時30分発
」の臨時便を運行する事を17時過ぎに発表する事は、3連休の最終日に東京⇔新潟を移動しなければならない人に取っては「抑えの切り札」的な安心感を与えいいイメージを植え付けたと思います。
それに対し日本航空の「17日羽田9:15発・新潟10:55発」臨時便運行が決まったのは
16日23:26と言う読売新聞報道の時間
から見ても16日のかなり遅い時間になってからなのは容易に想像できます。これは予測ですが東京⇔新潟の貨客の大動脈である上越新幹線・関越自動車道の開通の見込みが立ってから日本航空は臨時便の運行を決めたのではないでしょうか?それで運行する機体は小型機のMD90で有り100名チョットの乗客しか乗せられず貨物とてトラック1〜2台分位しか詰めない筈です。その様な臨時便を上越新幹線・関越自動車道開通後に運行しても厳しい表現ですが殆ど意味が有りません。それなのに運行したのは何故なのか?これを推測すると日本航空の根本に浮かぶ問題点が浮き彫りになってきます。
多分日本航空は16日の地震発生直後の段階で、3年前の新潟中越地震の教訓から「臨時便運行が必要かもしれない」と考えたでしょう(これすら考え至って居なかったら論外で有る)。しかしその段階で、機材繰り・搭乗員繰り等で柔軟な対応が出来ず臨時便のやりくりが出来なかった。それに対して全日空は機材・搭乗員で対応が出来たからこそ(本当はもう少し早い時間がベストだったんだろうが・・・)16日夜新幹線運行再開トラップする臨時便運行に意味の有るギリギリのタイミングで運行する事が出来たのだと思います。
それに対して意味の有る16日に運行できなかった日本航空は、「世間体」と言う側面も有ったのでしょう、今回の様に翌日上越新幹線・関越自動車道が平常に戻った後の17日朝二番目と言うタイミングの羽田9:15発と言う臨時便を運行して、「臨時便を運行しました」「中越沖地震に我々も貢献しました」と言うアリバイを作ろうとしたのではないか?と推測します。
今回日曜日夕方帰宅後時々地震関連のテレビを見ていたので、「全日空が臨時便を運行」と言う話は知っていましたが「日本航空が臨時便」と言う報道をずっと見なかったので「やはり日本航空は臨時便を飛ばさないのか」と思っていました(後日和寒様と話している中でご教示頂き、調べてこの記事を書いています)。その様な状況の中で全日空に大幅に遅れての日本航空の臨時便運行、やはり「危機の時に対応できない日航の体質」を今回も示してしまったのだと思いました。
いみじくも日本航空は「日本のナショナルフラッグキャリア」です。今でこそ民営化され航空自由化の中で「日本航空だけ特別扱い」と言う事は無くなりましたが、日本航空は国営でナショナルフラッグキャリアの時代から「1985年のテヘラン」の様に「組合が反対して在留邦人救助に飛べずトルコ航空に助けてもらう」とナショナルフラッグキャリアに有るまじき行いをしてきた前科が有ります。今でこそ民営ですから「特別ではない」と言う意識が有るのかもしれませんが、逆に言えば「日本に日本航空を特別に保護する理由は無くなった。日本航空が無くても全日空で良いでは無いか?」と感じさせられました。
今日本航空は「
日本航空の経営問題を考える
」で取り上げている様に経営困難から「最悪は法的整理か?」と言う状況に進みつつ有ると言えます。確かに「国に一つ自国の為に動いてくれる航空会社の存在」が必要な事は間違い有りません。其れがナショナルフラッグキャリアの真のレゾン・デートル(存在価値)で有りそれは非常時に如実に現れます。しかしこの様な状況では日本航空がもし日本航空が法的整理されても「全日空が有るから困らない」と言う感じを抱くのは私だけでしょうか?
今回の中越沖地震への対応について、その行動量よりかもタイミングで日本航空の稚拙さが目立つ気がしました。確かに努力はしたのでしょう。しかし結果は如何見ても全日空の後塵を拝していると言っても過言では有りません。今回のこの状況を見て「全日空の後塵を拝している日本航空にレゾン・デートルは有るのか?」と改めて感じてしまいました。
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「地震は忘れた頃にやって来る」とは良く言いますが、今回の中越沖地震は新潟中越地震・能登半島沖地震に続いて「忘れる間もなくやってきた」と言う事が出来ます。この地震は「世界最大級の原発」の直下とも言える場所で起きた地震であり、一歩間違えば「日本の存亡に関わる重大な損害が出る可能性の有った」極めて深刻な地震で有ったと思います。
実際原発は多くのトラブルが露呈はしていますが、幸い「原発での最悪の事態」を避けることが出来て被害を何とか食い止める事が出来たとも言う事が出来ます。又交通でも脱線事故や青海川駅での土砂崩れが発生するなどの大きな被害を受けましたが幸い死者を伴う被害が発生することも無く、倒壊家屋も多数出て死者が10名出た甚大な地震災害で有ったことを考えると、それらの点では「運が良かった」と言う事が出来ると言えます。
しかし地震大国日本で営みを送っている我々に取り、「地震災害」に関しては避けては通れない物です。実際問題として予知はできない以上、今後とも今回の地震で得た教訓を生かして「少しでも地震で被害受ける確率を減らす」努力をして何とか「地震の災害を減らす」努力を今後ともより一層行わなければならないと改めて感じさせられました。
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