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「世界最大の旅客機」は航空の世界を変えるのか?

−世界最大の旅客機 エアバスA380の日本初就航を見る−


TAKA  2008年06月01日


世界最大の旅客機 シンガポール航空のエアバスA380の離陸風景 @成田空港



 ☆ ま え が き

 今や世界中を移動するのに飛行機は欠かせない存在になっています。陸続きの狭い地域であれば高速鉄道という選択肢が有る地域もありますが、その様な特殊な地域を除けば有る一定以上の距離の有る地域間移動に関しては、国内間・国際間を問わず飛行機による移動が主流になっています。
 その為世界各国には国内・国際路線を運行する航空会社が多数乱立していて、しかも近年世界的に航空自由化・ローコストキャリアの台頭などの流れの中で、航空会社の数は増えつつ傾向に有る事は間違い無いでしょう。しかしその航空会社が運行する航空機を作る航空機メーカーは逆に淘汰が進み、現在ではアメリカのボーイングと欧州のエアバスの2社が中型・大型旅客機の製造シェアの大部分を占める状況になっています。
 現在世界の2大航空メーカーが力を入れて居る飛行機がボーイング⇒ B787 (ドリームライナー)とエアバス⇒ A380 です。ボーイングのB787は3クラスで223席の中型機で、エアバスのA380は3クラスで525名という世界最大の旅客機で、そのコンセプトは明確に分かれて居ます。

 その様な巨大航空会社が「社運を掛けて」プロジェクトを進めるボーイングのB787とエアバスのA380ですが、先に就航したのがエアバスのA380です。エアバスのA380は2007年10月にローンチカスタマーのシンガポール航空に引き渡された上シンガポール〜シドニー間で運行開始され、正式に世界最大の航空機がデビューしました。
 現在では世界最大の航空機として注目されて居るシンガポール航空のエアバスA380ですが、シドニー・ロンドンに続く就航地として選択されたのが何と日本の成田でした。シンガポール航空のシンガポール〜東京(成田)線には2008年5月20日から就航開始され、成田空港は「東アジア初のエアバスA380就航空港」となりました。
 本当は08年正月の旅行で「シンガポール〜シドニー間でエアバスA380試乗をするツアー」も候補に挙げる等、世界最大の航空機エアバスA380には興味の有った私なので(しかしシンガポール航空はスターアライアンス加盟なのでJALマイルが貯まらないのでなかなか乗りづらい)「乗って旅行は出来なくても成田に見に行く事ぐらいは出来るな」と考え、5月20日の初就航以来始めて日曜日以外に午前中で時間の撮れた5月31日に成田空港を訪問して、外から見るだけでしたが「エアバスA380の大きさ」を実感して来る事にしました。

 ○参考サイト ・ シンガポール航空HP  ・ エアバスジャパンHP  ・ エアバスA380 (wikipedia) ・ 成田国際空港公式HP


 ☆ シンガポール航空のエアバスA380を見に成田空港へ出撃!(訪問日:5月31日)

 今回シンガポール航空のエアバスA380を見る為に成田空港を訪問したのが、5月20日の初就航から2回目の土日に当る5月31日でした。「成田空港」となると東京から距離が有るために「平日に時間を作ってチョット行く」事も出来ないですし、シンガポール航空のエアバスA380自体が、SQ638便(シンガポール23:40⇒成田7:30)〜SQ637便(成田11:30⇒シンガポール17:35)というダイヤで運行されて居るため、成田には7:30〜11:30の4時間しか居ません。その為午前中に成田に居るようにしないとA380を見る事は出来ません。
 しかしながら夜行便のSQ638便の到着を見れるほど時間的に余裕が無く、東京で朝一番の用事をこなした後に車で成田空港に向かい、到着したのが10時過ぎでした。現在成田空港は航空会社のアライアンス毎の再編成が終わり、ほぼアライアンス毎に纏まる形態になっています。シンガポール航空はスターアライアンス加盟ですから第一ターミナルビルでA380の場合、飛行機自体が2階建てですから特別に2階建てに対応した搭乗口を持つ南ウイングのスポットを利用します。今回は車を置いた後直ぐに第一ターミナルビル南ウイング4階の出発ロビーに向かい、先ず其処からガラス越しにスポットに駐機中のエアバスA380を撮影します。
 此処で見た感じ、「世界最大の旅客機」という触れ込みを頭に刷り込んで居た為に、飛行機自体を見て廻りの施設・飛行機等と大きさを比べると、「あれ?」と率直に違和感を感じました。この場所からは横側面しか見えませんが、確かに客室部分高さは総二階建てだけあり高いですが、長さはそんなに長く感じません。「世界最大の旅客機」という触れ込みから見ると、チョット拍子抜け・期待はずれの感じがします。

 
左:成田空港に駐機中のシンガポール航空のエアバスA380 右:成田空港を離陸して行くシンガポール航空のエアバスA380

 この後、第一ターミナルビル5階の展望デッキで離陸場面を撮影する事にします。展望デッキの近くの飲食店で朝食兼昼食を取った後、出発予定時間近くの11時半チョット前に展望デッキに向かうと、雨が降る中でも100人近くの人が居ます。見学客の中にはカメラを持ったマニアも居ますが、デジカメやカメラ付きの携帯電話を持った普通の感じの人も多く如何にも「A380を見に来ました」という感じがします。出発時間になりA380が動き出した事が展望デッキからも巨大な尾翼が動く事で分かると、見学客の半分近くがA380の方に動き出します。雨天の悪天候にも拘らず此れだけの人が集まる事からも「世界最大の旅客機」という存在に興味の有る人は多い様です。
 シンガポール航空のマークが書かれた巨大な尾翼が視界から消えてから暫く待つと、いきなりA滑走路にA380が進入してきます。流石に世界最大の旅客機ですから「音も大きいだろう。だから直ぐ気が付くだろう」と思って居ましたが、その読みは完全に外され半分奇襲攻撃を受ける形になり、慌ててデジカメで離陸シーンを何枚か撮ります。流石に巨大機だけあり4000mのA滑走路のかなりの長さを使い離陸して行きましたが、音だけで見れば双発エンジンのB767・B777等の中型旅客機並みorそれよりかも少し静かなレベルです。エアバス社はA380を「 低燃費・環境にやさしい・低騒音 」をアピールして居ますが、正しくこの看板に偽りは無しです。
 今回は(有る意味当然ですが)シンガポール航空のエアバスA380を見る事が主眼だったので、A380が離陸してしまうともう用事はありません。次の用事が有ったので東京に戻るために早々に退去しました。しかし離陸シーンだけでも「A380の持つポテンシャルの高さの一端」に触れられただけで満足といえます。

 しかしシンガポール航空のエアバスA380の凄さはそれだけでは有りません。実際機内はエコノミークラス・ビジネスクラスでも1席当りの面積はかなり広く、その上にファーストクラスの上を行く「 スイート 」という個室に近いシートが設けられて居るなど、シンガポール航空では世界最大の旅客航空機というキャパシティをサービスに振り向けて、世界的に見ても「驚くべきのレベルのサービス」が提供されて居ると聞きます。
 この様な「人々に夢を与える」「飛行機の世界を変える」という飛行機が登場したのは、空の大量輸送時代の幕開けとなったボーイングB747型航空機の登場以来では無いでしょうか?その様に見てもエアバスA380のインパクトは大きいですし、ローンチカスタマーとなったシンガポール航空の先進性にも素晴らしい物が有ると改めて感じました。これは機会を作ってでも一度乗らなければなりません。果たして如何するか?悩みだけが私の頭の中に残ってしまいました・・・。


 ☆ シンガポール航空のエアバスA380の「東アジア初就航地」に選ばれた事で示した成田空港&東京のポテンシャル

 今回成田まで出向いてシンガポール航空のエアバスA380を見てきましたが、先ず驚いたのは「此れだけの特殊な最新鋭機が東アジア初の就航地として成田を選んだ」という事です。
 エアバスA380自体2007年11月時点で177機の受注を受けて居ますが、何度も 生産計画が変更 になるなど技術的に生産困難な大型機で有るが故に生産が上手く行って居らず、現在世界で旅客輸送に運用されて居るのはローンチ・カスタマーのシンガポール航空にデリバリーされた4機だけであり、シンガポール航空はこの4機の機体をシンガポール・チャンギ国際空港を拠点にシドニー・ロンドン・成田へ運用しています。
 シンガポール航空としては、元々英国〜豪州の中継ポイントとして位置したシンガポールの地理的位置と宗主国・英国領間の関係などで、元々シンガポールと極めて繋がりの深いオーストラリアのシドニーやイギリスのロンドンに就航したのは理解出来ます。しかし其処から「第三の就航地・(シンガポールを除く)アジア初の就航地」として成田が選択されたのには正直言って驚きました。
 成田空港は今年開港30周年です。その様な年に「世界最大の航空機の(シンガポールを除く)アジア初の就航地」に選ばれた事に非常に意義を感じているのでしょう。成田空港ではエアバスA380対応の施設改良を早速行ったり、私がエアバスA380を見に成田を訪問した時にも第一ターミナルビル内にシンガポール航空のエアバスA380就航記念の垂れ幕や案内の模型・モニターなどが目立つ所に置かれていて、かなり大々的な歓迎ムードが有ったといえます。

 
成田空港はシンガポール航空のエアバスA380の歓迎ムード 左:展示中のシンガポール航空のエアバスA380の模型 右:出発ロービーには就航記念の垂れ幕が有る

 確かに成田空港がシンガポール航空のエアバスA380の(シンガポールを除く)アジア初の就航地になった事は、成田空港に取っては非常に意義の有る事だと思います。なぜなら「ソウル・仁川国際空港」「北京・首都空港」「上海・浦東国際空港」「香港・香港国際空港」等数多くのライバルといえる都市・空港が多数有ります。その中で「東京・新東京国際空港(成田空港)」が選ばれてエアバスA380の(シンガポールを除く)アジア初の就航地となったのです。この事は他の東アジアの都市・空港に対して、東京の国際都市としてのポテンシャル・成田の国際ハブ空港としてのポテンシャルを示したといえます。
 何故成田が「エアバスA380の(シンガポールを除く)アジア初の就航地」になったか?と言えば2つの理由が有ると思います。
 一つは「シンガポール航空の思惑」です。シンガポール航空は成田を中継地にしてシンガポール〜成田〜ロサンゼルスという路線を運行しています。今シンガポール航空では航続距離が16,000kmの エアバスA340-500型機 を用いてシンガポール〜ロサンゼルス・ニューヨーク等の米州直行便を運行して居ますが、同時に米州大陸へは成田経由等の経由便も運行しています。シンガポール航空のエアバスA380は機内の設備は長距離路線に有効なゆったりとした設備ですが、如何せん保有奇数が少なく当座大きく増える目処は立って居ません。その中で専用機材に近い新型のエアバスA340-500で運行されて居るシンガポール〜米州直行便を置き換えるより、一時代前のボーイング747-400で運行されて居るシンガポール〜成田〜ロサンゼルス線を置き換えた方が経済的で有るが、ロサンゼルスの空港でエアバスA380受け入れ準備が整って居ないので、取り合えず「ロサンゼルス延長を視野に入れて」シンガポール〜成田線に就航したと考えられます
 二つ目にはやはり「東京の都市としてのポテンシャル」でしょう。確かに東アジア地域には成長著しい中国地域・シンガポールと並ぶアジアの金融センターといえる香港など都市として極めて高くシンガポールも繋がりを深めたい都市が多数あります。しかしその中でエアバスA380の機内装備が基本的に「長距離線仕様」ですし、最上級グレードのの「 スイート 」を設けて居るなど、かなりレベルの高いサービス設定を行って居ます。こうなるとシンガポール航空のエアバスA380という機材は「比較的長距離で比較的客単価の高い路線」が就航するに好ましい路線という事になります。この中で香港線は「都市として比較的客単価の高い利用者が居ますが距離が短い」となりますし、中国大陸線は「経済的に劣って居る分利用者の客単価が低い可能性が有る」という事になります。其処に対し東京線は「アジア路線の中では距離が比較的長く、世界的大企業の本社も多く、しかも先進国の首都」という事になり、シンガポール航空のエアバスA380が就航するに比較的相応しい路線といえます。此れが就航の理由と言えます。
 この様に見ると、シンガポール航空のエアバスA380の(シンガポールを除く)アジア初の就航と言う事は、「アジア最大級の経済の拠点で世界的企業の本社も多く先進国の首都」である東京のポテンシャルの高さと、その玄関口で有る成田空港の持って居るポテンシャルの高さを示しているといえます。しかし成田空港自体は、過去に「 便利で優れた空港&空港アクセスは何処に有るのか? 」で取り上げたように、東アジアに新しく出来つつ有る「新空港」に比べると、インフラは明らかに劣ると言わざる得ません。その中でシンガポール航空のエアバスA380が「わざわざ成田を選んで」就航してくれたのです。その点に奢らず成田空港は改善に向けて此れからも努力をすべきでは無いか?と今回改めて感じました。


 ☆ 世界最大の旅客機であるエアバスA380の活躍する場所は果たして何処か?

 この様な「世界最大の旅客機」である、エアバスA380ですが、確かに「生産上の問題」によりデリバリーが遅れて居ますが、それでも(オプションを含めると)250機近くの注文を受けていますし、その中にはシンガポール航空・カンタス航空等の大手航空会社に加えてブリテッシュ・エアウェイズやエール・フランスやルフトハンザ・ドイツ航空等の欧州系巨大キャリアや近年急に頭角を表した中東ドバイのエミレーツ航空など幾つもの有力キャリアが注文を出して居ます。
 しかし現在のエアバスA380の発注先を見ると有る事に気が付きます。それは米系キャリアと日本のJAL・ANAの名前が無い事です。これらのキャリアの内日本の航空会社はエアバスのライバルであるボーイングの787に流れて居ます。米系キャリアは「経営困難で投資の金が無い」という事でしょうが、日系キャリアの場合此れとは違う考えが有るといえます。

 それは今後の航空業界の輸送の体系について、エアバス社ではローカル路線は近くの拠点空港に集めその拠点空港間は直行輸送で結ぶ「ハブ&スポーク」という輸送体系が主流になると考えていますし、ボーイングは「ハブ&スポーク」ではなく「ポイント・トゥ・ポイント」という目的地間の直行輸送が主体となると考えて居ます。
 両社はその様な将来の輸送戦略に基いて機材開発を進め、エアバス社は「ハブ空港間の輸送に最適な機材」として長距離輸送に適した機材・大量輸送に適した機材・高サービス輸送に適した機材としてA380型機を開発しましたし、ボーイングは中距離・中量輸送に適した機材としてB767・B777の両方の後継を兼ねる機材として、B787を開発しました。
 世界の航空会社は、エアバス・ボーイングのこの様な「航空輸送の将来」の考え方に基づいた機材開発を、機材の発注という形で支持した事になります。つまり(両者を発注した会社も多々有るので、必ずしも物事はこれだけで一面的には語れませんが)A380を発注した会社は「ハブ&スポーク」戦略を支持し、B787を発注した会社は「ポイント・トウ・ポイント」戦略をを支持したという事になります。しかし果たして必ずしも此れが正しいのでしょうか?

 
左:エアバスA380は「チビデブ?」 長さはボーイング777-300より短い 右:と言う事は・・・ 日本の航空会社の主力機材と大きさは変わらない?@羽田空港のJAL B747・B777

 B787は完全な中型機ですから、活躍する場所は必然的に限られてきますが、世界最大の巨大旅客機で有るA380の場合、必ずしも長距離輸送・高サービス輸送だけがその輸送の主流になるとは思えません。その巨大なキャパシティを生かした大量輸送や、低騒音等の高い環境対応力を生かした規制の厳しい空港での運用等に生かす道が有るのでは無いでしょうか?
 大量輸送能力・環境対応能力を生かす市場で活躍する余地が有るA380ですが、(意図的なのかもしれませんが)それを生かす路線が有るのにこの機材を使わない航空会社が存在します。そうです。それは日本の航空会社特に大手のJAL・ANAの2社です。
 日本の航空会社は国内線に関して(D滑走路開業でスロットが増えるといえども)発着回数に根本的に制約が加えられ旺盛な需要に対応出来ない羽田空港を拠点にしているのに、このA380の「大量輸送能力」を生かそうとしません。実際日本の国内航空会社は「旅客数世界一の羽田〜新千歳線(9,116,492人/年)・世界有数の羽田〜福岡線(8,093,383人/年)」等を抱えて居ます。その為に過去では今まで一番大きい旅客機で有るB747型機に日本国内線専用仕様の機材を作ってもらい採用して来た経緯が有ります。しかし今回は動こうとしません。

 現在JAL・ANAは、国内線で使用していた大型機材である747-100SR型(568名)を輸送力は少ない物の経済性で圧倒的に優位なB777-300型(470名・JAL及びANAで27機(ER型を含む)保有)で リプレース し、現在国内線では最大輸送力を誇るB747-400D型(568名・JAL及びANAで19機保有)及びB777-300型が大型機の主力となっています。これは「将来的に羽田の発着枠は増える」「新千歳線・福岡線・伊丹線の三大幹線は全体の座席利用率が62.2%〜65.7%で余裕があり、輸送力不足では無い」という考えの下で、基本はB777-200・B767-300型(及びこの更新のB787型)を主力にしつつ、大需要路線には最大輸送力のB747-400D型・B777-300で対応して問題無い、又B747-400D型は比較的機齢が若いので当座このままで問題無い、しかもB777-300であれば「伊丹の4発機規制」もクリアでき機材運用に柔軟性が持たせられると言う意図が有り、この様なB747-400D型とB777-300型の並存という機材戦略で動いて居ると思います。
 此れに対してエアバスのA380は、モノクラスで853名という圧倒的な輸送力を誇ります。これは777-300型や747-400D型と比べても圧倒的な輸送力です。しかしながら今残るB747-400D型は基本的に1991年〜1997年に就役しており、機齢11年〜17年であり、「今直ぐリプレースの必要は無いが、近い将来的には代価機材の検討が必要」になる事は間違い有りません。
 その時の選択肢として現在考えられるものとして「B777-300型を追加導入」「A380形を新規導入」という選択肢が考えられます。しかし今の日本の航空会社は「B787導入一直線」という感じで、「ポストB747-400D型」を考えて居るとは思えませんし、日本航空の 中期経営計画の機材計画 では「ダウンサイジング・フリート構成で大型機の比率を削減(国際線52%⇒38%・国内線9%⇒7%)」が主流になっていますし、 ANAの中期経営計画の機材計画 では「新大型機(この中には現在増備中のB777-300も含まれる)」と表現が曖昧になっており、「どのような大型機を採用するか?と言う戦略が明白になって居りません。
 しかし現実問題として、A380は「極めて高額」という欠点(B777-300⇒2.1億ドル:A380⇒2.96〜3.16億ドル:約5割増し)は有るものの、低騒音の飛行機であり都市部に空港の有る(特に伊丹・福岡)日本の場合大きなプラスになる事は間違い有りませんし、何せB777-300の470名に対して倍近い853名(但しモノクラス)の輸送力が有るのですから、年間輸送量が極めて多い幹線に関しては今のB747-400D型の代替としては増備する意味が有ると思いますし、諸気宇投資コストが高くても大量輸送が出来れば、長期的に見れば航空会社のメリットになりますし座席提供数が増えれば運賃低下⇒新規需要創出という効果も機体出来ます。そういう点からは「限定的」といえますが、A380の活躍の場所は日本にも十分ありますし、派生形として開発を企画中と聞くA380-800S・A380-900Sという「短距離形」を開発するのに十分な根拠になると思います。
 それに加えて、A380は機体の形が「チビデブ?」といえる形で、長さはB777-300よりかも短く、それ以外の大きさも(大きさによる空港等の制約は有るものの)決して輸送力に比して見れば大きく有りません。その点から見れば、日本の大型空港でもA380の導入への制約は決して高くはありません。要はA380は「機体は大きく無いし燃費は良いのに沢山運べる飛行機」という事なのです。この様な飛行機に注目しない方法は無いのでは?と私は感じます。


 ☆ あ と が き に 代 え て

 今回のA380の話を良く見るに付けて、私には日本の航空会社の「守りの姿勢」「消極性」が見えてしまいます。確かに「1機が3億ドル近くする巨大旅客機を導入する事」が極めてリスキーで有る事は間違い有りません。しかしその中で欧州系のキャリアやシンガポール航空・カンタス航空等の老舗系キャリア・エミレーツ航空等の中東系金持ちキャリア等は、リスクを取って大きな可能性の有るA380導入を進めて居ます。
 確かに苦境で動けない米系キャリアを除いても、大型国際キャリアでもキャセイパシフィック等はA380導入に動いて居ない事からも、必ずしもどちらの判断が正しいかは「未来にならないと分からない物」であり、今の段階で一概に非難をする事は出来ません。
 しかし日本のキャリアでは、A380は上述の様に国内大幹線で活躍の余地が有る事に加えて、欧州線・米州線でも長距離路線主体で有り発着地の所得水準が高い事から高級サービスを受け入れる余地が有り。A380活躍の余地は有ると感じます。しかも遠く無い将来で、欧州線・豪州線でJAL・ANAの日系キャリアはブリティッシュエアウエイズ・ヴァージンアトランティック・エールフランス・ルフトハンザ・カンタス等のA380の多数採用キャリアと正面切って対決の可能性が有ります(シンガポール航空以外のアジア系キャリアは米州線・欧州線に投入するだろうから対決の可能性は少ない?)。そうなった時にJAL・ANAは果たしてサービス競争で勝てるのでしょうか?此れに負けるとその先には「価格で勝負」という価格競争しかありません。こうなると日系キャリアは欧州線・豪州線でかなり苦しい立場に立たされる可能性が有ります。

 多分後数年もすれば、今発注しているキャリアにはそれ相応の数のA380が供給されるようになり、日本でもA380の存在が国際線では珍しく無くなる可能性は十分あります。日系キャリアに取ってはそれに対抗する手段が、長距離国際線でも低コストで運行可能な「B787シリーズ」という事になるのでしょうが、B787は既に ロールアウト しており2008年5月にはローンチカスタマーの全日空への導入が予定されて居るものの、先ずはB767-300型の内初期型の更新に投入されるでしょうから、全日空に取って「長距離国際線に投入可能な機材」になるには未だ当分掛かると思います。しかもJALに関しては未だ投入は当分先という事になると思います。そうなった時にコンセプトの違うB787型で長距離路線に適したコンセプトのA380と競い合う事が出来るのか?最悪「長距離路線ではA380と勝負にならない」可能性が有ります。
 その様にA380が活躍する状況になると、正直言って(大型機・中型機の同時増備という二正面作戦が企業体力的に厳しいのは分かるが)結果として大型機導入に躊躇って中型機導入に舵を切ったJAL・ANAという日系キャリアが極めて劣勢になる可能性が有ります。私は日系キャリアの将来に一抹の不安を感じざる得ません。




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