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「機長が辞めてしまったので運休します」 こんな無責任が交通業界で通るのか?
−スカイマークの「機長退職に伴う運休」問題を考える−
TAKA 2008年06月03日
え・・・! 機長が辞めたから運休なんて前代未聞!! スカイマークのB737@羽田空港 |
☆ ま え が き
日本では大部分の人達は、交通機関は決められたダイヤに基づいて運行されるのが大前提であると思って居ます。此れに関して異論を挟む人は殆ど居ないと思います。
実際日本では「駅前探検倶楽部」等の交通機関時刻検索サイトが発展して居ますが、これは「交通機関に一定の頻度があり、時刻通り動くものだ」と信じて居るから、この様な交通機関の時刻検索サイトが成立するのです。その様に「交通機関は運行に関して信用度が高い」からこそ、多少電車が遅れれば(責任事故等で無くても)「電車が遅れまして申し訳有りません」とお客様に「詫び」を入れなければクレームが付く様な状況になって居ると思います。
私も(一定の限界が有るにしても)この様な「交通機関の運行精度に関しての信頼性」は一般的には存在すると思って居ましたし、交通事業者はその「利用者からの運行に関する信頼」に応える為に最大限の努力を図って居ると信じて居ました。
しかし我々が持って居るその様な「交通機関に対する信頼」を根底から裏切るような事件が発生しました。それは突然発生したスカイマークの欠航・運休問題です。今回はこの問題について考えたいと思います。
☆ スカイマークの6月2日の突然の運休案内
今回発生した「スカイマークの欠航・運休問題」は、それは6月2日にスカイマークHP内の「スカイマークニュース」のお知らせから始まりました。
●「スカイマークニュース:
運休便及び欠航便のお知らせ
(6月2日発表)」
此れを見る限り、6月2日は4便の突然の欠航であり、6月3日以降はスカイマークが運行する基幹路線で有る新千歳線・神戸線・福岡線・旭川線で、運休日に関しては散らばりが有りますが基本的には各路線で1便欠航便がでる日が有る事がアナウンスされて居ます。しかし此処では只欠航・運休しますのお知らせだけで「何故こんなに欠航・運休するのか?」という事に関してはアナウンスされて居ません。
最初は「なんでこんなに運休するのだろう?」と首を傾げて居ましたが、スカイマークがHP内で説明して居なかった「理由」については、6月2日夜の報道で「何故こんなに運休したのか?」という理由が明らかになりました。
●「
<スカイマーク>機長2人が退職、病気…異例の168便欠航
(6月2日:毎日新聞)」
「記事の要旨」
・スカイマークは2日、機長2人の退職と病気を理由に6月に運航を予定していた計1704便のうち約1割に当たる168便の欠航を決めて、同日運航計画の変更認可申請書を国土交通省に提出した。
・同社の機長資格保持者約40人のうち、いずれもB737の資格を持つ1人が病気療養を、1人が自己都合退職を申し出た。会社は話し合ったが慰留できず、新しい機長も手配出来なかった。
・運休168便の内訳は6月2〜29日に運航予定だった▽羽田−旭川40便▽羽田−札幌24便▽羽田−神戸56便▽羽田−福岡48便。訓練中の機長の準備が整う7月にはダイヤを戻す方針。
・近年は世界的なパイロット不足で売り手市場。スカイマークも「我々の体力では、機長1人にかけられる給与にも限界があり、契約が更新できないなどのリスクを常に抱えている」と話す。
この記事を見て驚きました。正直言って交通事業者に取って「機長・運転手」等の運行に必要な人達が会社を退社すると言う事は、どこの会社でもあり得る話です。しかしその様な事が発生した時には、交通事業者は「ダイヤに穴を開けない為に」必死になり努力をして、運休・遅延等の「お客様の迷惑になる事」が発生しない様に、ありとあらゆる手段を講じて最善を尽くす事が普通で有ると思って居ました。
しかしスカイマークにはこの様な「(私が思って居る)常識」は通じない様です。自社HPでは利用者に対して何も説明しない上に、毎日新聞の報道ではスカイマークのコメントとして「機長の契約が更新出来ないリスクを常に抱えて居る」という、運休についての「開き直り」とも取れるコメントをして居ます。
このスカイマークのアナウンス・新聞報道を読んで、「本当にこんな事で良いのか!?」と感じるのは私だけなのでしょうか?
☆ スカイマークに「安定運行維持に関する責任」は存在しないのか?
今回この様な「機長の病気・退職による航空機の運休」という問題を起こしたスカイマークですが、この会社自体は「航空会社として果たして適正なのか?」という事について、過去にも問題を抱えていました。
過去に弊サイト「
TAKAの交通論の部屋
」でも「
運賃が安い事だけが良い事なのか?
」で取り上げましたが、スカイマークは2006年に「新千歳線開業に伴う閑散路線廃止」で世間的に非難を浴びた後、2006年5月にB767型機の整備管理に関して不適切な事例(修理期限の超過)が発生した事に対して国土交通省から「
厳重注意処分
」を受けたり、その事案に対して「整備体制について国土交通大臣が安全性に対し懸念を表明」するなど、運行姿勢・運行管理体制について国土交通省・社会全般から非難を受けた事が有ります。
この後もスカイマークに関しては、色々と社内で問題を抱えていた様で、実際今年に入り3月には日本乗員組合連合会がスカイマークの慢性的な乗員不足・機材故障等の問題に関してに問題を感じ国土交通省航空局運行課と協議を持って居ます。(参考資料:
様々な問題を抱えるスカイマークエアラインズ
)
このように見れば、スカイマークは「過去にも多くの問題を抱え指摘されてきた会社」で有る事は間違い有りません。しかし今の状況を見る限り、スカイマークは過去のこれらの指摘・注意等に関して、深刻に受け止め企業体質の改善を図る事をせず、問題のある企業体質・企業姿勢を現在まで引きずって来て居ると見て間違い無さそうです。
しかしこの様なスカイマークの状況が許されるべきなのでしょうか?私はNOで有ると思います。
基本的に航空会社は、参入に対して(過去よりは緩くなった物の)色々な形での規制が存在し守られて居るとは言えます。例えば外資に関しては航空法で株の保有に規制が掛けられている等の規制が存在して居ます・何故この様な規制が有るか?と言えば、不良事業者が運行する事で公共交通の安全性・安定運行が損われたり乱れる事で、交通に関する国民サービスが低下したり事故が発生して多数の人命が喪失する事を防ぐ為です。
しかもスカイマークは(憶測ですが)JAL・ANA・JASの3社寡占の45・47体制に風穴を開けるために「航空自由化」が行われた時に、「新規参入企業の旗手」として新規参入時〜運行開始後も国土交通省航空局が「影に回りながら支援」をして来た可能性が有る中で、「低価格が最重要課題」という企業運営が行われ、その歪んだ企業経営が2006年の問題や今回の問題を生んだ可能性が有ると言えます。
スカイマークは、その様な歪んだ企業経営の中で、経営主体が旅行会社のHISからインターネット企業に変わるなどして経営も揺れていた過去の歴史があります。その中で今の様な「行き当りバッタリ」的な運行が行われる様になったのでは無いでしょうか?この状況は極めて問題で有ると思います。
この様な「極めてデタラメな状態」の経営が行われて居るスカイマークは、果たして公共性の高い航空輸送の世界で、社会の要望に応える形で安全・安定を保障した航空輸送を務める事が出来るのでしょうか?私はNOで有ると思います。
交通事業者が社会的に求められる事は「安全・安定・確実な輸送を1日も欠かさず行う事」です。それが交通事業者に求められた社会的使命です。交通事業者はこの社会的使命を果たす為に、色々な責任を居って居ますが、その中の一つに「安定運行維持に関する責任」が有る事は間違いありません。
交通産業は其々に運行形態が異なりますから十羽一括りには言えませんが、基本的には定型のシステムに則って動かす事で成り立つ産業です。「定型のシステム」を確実に動かすと言う事はそのシステムを決まった日時に確実に動かす力を持って居てこそ成立する物です。その力を持たなければ交通事業という「定型システム」を確実に動かす事は非常に困難です。それが今出来て居ないのが問題のスカイマークという事になります。
日本乗員組合連合会と国土交通省航空局運行他との協議内容によると、スカイマークは今回だけでなく以前から「操縦者不足による欠航(案内は機材繰りによる欠航とアナウンスされていた)」が存在していたとなっています。前から問題がありながら、問題を解決できず今回のような大量欠航・運休を引き起こし、しかも問題が起きてから「機長の契約が更新出来ないリスクを常に抱えて居る」などという開き直りとも取れるコメントをする会社に、交通事業者として「安定運行維持に関する責任」を果たす意思は無いと言えます。
交通事業者に取り「安定運行維持に関する責任」は「安全運行確保の責任」と並ぶ重要な社会的責任です。此れを果たす力が無いので有るならばスカイマークは速やかに退場すべきです。そうしなければ将来「大事故」等の大問題を引き起こし大きな社会的損失をもたらす可能性が有ります。その点を真剣に考えるべきでしょう。
☆ 「無責任な交通事業者」が生まれた責任は誰に有るのか?
しかしスカイマークが前述のように「無責任な交通事業者」で有る事は、今回の行動・過去の行動等を見れば明らかですが、ではこの様な社会的に問題の有る「無責任な交通事業者」は何が・誰が生み出したのでしょうか?
私はこの様な「無責任な交通事業者」を生み出したのは、社会と国土交通省で有ると感じます。そのキーワードは近年持て囃された「規制緩和」です。有る意味「無責任な交通事業者」の存在は「規制緩和」の負の側面とも言えるのでは無いでしょうか?
「規制緩和」は競争による運賃の低下・サービスの向上等色々なメリットも有ります。しかし同時にデメリットも併せ持って居ます。それは競争による「収益至上主義」がもたらすモラルハザードです。免許制度等の「社会からの保護」という恩恵が消えた時、交通事業者に「公共交通を担う者としての社会奉仕の精神」を求める事は非常に難しくなります。保護と社会奉仕の精神が失われて、競争と収益至上主義が残った時に何が起きるか?それは停まらない競争とモラルハザードで、その結果として交通事業者として重要な「安定運行維持・安全運行確保」は競争と収益の影に隠れて忘れ去られてしまいます。
この様な状況は何もスカイマークの話だけではありません。交通業界の近年の規制緩和の流れの中で他でも出てきて居ます。その例の一つが「
ツアーバス
」の問題です。ツアーバスは「旅行社が企画・募集し旅行社が貸切バス事業者と貸切運行契約を結んで運行するバス」で、高速バスのように「運行計画に基づき、運行時刻を決め、ダイヤ通りの運行を行う、たとえ乗客が1名であっても運行しなければならない。公共交通機関としてバス停を設置しなければならない、万一、運行計画に違反した場合は、国土交通省より是正命令がされる」等の規制・運行計画に縛られた公共交通機関とは違う、規制の抜け穴を付いて成長して来た交通形態です。
しかしこの「ツアーバス」も「安定運行維持・安全運行確保」で問題を抱えて居ます。特に安全運行確保に関しては、過去に無理な運行が祟って2007年2月に「ツアーバスの死亡事故」が発生しています。又ツアーバスの運行を担う貸切バス会社は零細会社のため、安定運行・安全運行よりかも「今日生き残る為に無理をして居る会社」が存在して居るのも事実で、其処に停まらない競争とモラルハザードによる安定運行維持・安全運行確保の崩壊が進みつつあります。 この様な問題は、国土交通省が「問題を知りながら放置して来た」事が問題を大きくしていると言えます。それは「スカイマークの問題」でも同じです。スカイマークに関しても国土交通省は「厳重注意」をすれども、徹底的な改善をするように強い指示をして居るようには見えません。それはツアーバスの放置と同じ状況です。その様な国土交通省の煮え切らない態度がスカイマークの場合今回の様な問題を引き起こして居ます。
スカイマークの場合、本来は重大な運行計画に対する違反行為で6月2日に変更の届出を行って居る物のその届出日には既に運休という運行計画に違反する事象が発生していた事から、
航空法第百七条二
(当該運航計画を変更しようとするときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない)に違反して居る可能性も有ります。その事態の重さからも国土交通省の指示が「欠航の告知や予約客への払い戻しの徹底を指示(6/2:読売新聞)」等という甘い物ではなく、厳重注意や運行計画等に関する査察の実施もしくは航空法第百八条二(航空運送事業者に対し、事業計画及び運航計画に従い業務を行うべきことを命ずることができる)の適用等、厳しい物で有るべきです。それが行われない事に深い失望を覚えます。
私が思うに、国土交通省は「規制緩和」の意味を取り違えて居るのでは無いでしょうか?決して「規制緩和=放置」ではありません。確かに競争を促進して運賃の低下・サービスの向上等色々なメリットを社会にもたらす事は非常に重要です。しかし競争を促進するために参入障壁を低くしても「何でもいらっしゃ〜い」というのが正しい施策という訳では有りません。当然参入する事業者の質は(既存事業者の質を含めて)問われてしかるべきです。
実際今行われて居る交通事業に対して「交通事業者の質を問い」「社会全体の公共サービスを劣化させない為」に、国土交通省はその実現のために必要な手段として「規制」「指導」というツールを持って居るのです。しかし現実にはその「事業者の質」「公共サービスの劣化防止」という事が危機に晒されて居る今回のスカイマークに運休問題でも、国土交通省はその武器は使われようとして居ません。
此れは非常に憂うべきものです。この様な事を放置しておけば航空業界には決して良い事が起きませんし、スカイマークの為にもなりません。この様な事業者の質の低下を放置しておけば、最悪の場合「大事故」という悲劇を生みかねません。その様な事態の重さを国土交通省は認識する必要が有るといえます。
これ以上スカイマークの様な「無責任な交通事業者」を跳梁跋扈させない事が、今の国土交通省に求められているのでは無いでしょうか?
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