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JR東海による「資本提携策」は何をもたらすのか?

− JR東海による日本車両製造TOBが目指す先は何なのか? −



TAKA  2008年08月16日



    
300系⇒700系⇒N700系と続くJR東海と日本車両製造の関係は今後何処へ進むのか?



 ☆ ま え が き

 近年日本経済の中でもM&A(企業の買収・合併)が日常茶飯事となっています。実際「大手民鉄が実質的に一社減る」状況が発生している事からも、日本の鉄道・交通業界でも「M&Aによる企業の再編」が何時発生しても可笑しくない状況になっています。
 その流れの一環か?組み合わせとしては最適ですが、「へ〜遂に又再編の動きが出たか?」と思わせる事が、夏休みの最中に報道されました。それはJR東海による日本車両製造へのTOBです。これは日本車両製造が同意の上「買付価格は1株370円。最大約262億円をかけて現在の保有割合1.80%を最大50.10%まで買い増し」という友好的TOBで、JR東海が日本車両製造を連結子会社化するという話です。
 確かに日本有数の独立系鉄道車両製造メーカーである日本車両製造ですが、JR東海からしてみれば「新幹線車両の60%、在来線車両の80%の製造を日本車両製造に発注」している親密車両メーカーです。しかもJR東海は社運を賭けた一大プロジェクトで有る「 リニアモーターカーによる中央新幹線建設 」においても、日本車両製造はリニアモーター車両の製造技術について深く関係しています。
 その様な中で起きた「東海道新幹線を握る日本有数の鉄道会社」と「独立系では日本最大級の鉄道車両製造会社」の強固な資本提携は、今後の日本の鉄道業界に何をもたらすのか?考えてみる事にしました。

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 ● 参考HP、資料  ・ JR東海、日本車両にTOB 50.10%保有し子会社化 (8/16 フジサンケイビジネスアイ)  ・ JR東海 日本車輌製造にTOB 一貫体制築く (8/15 毎日新聞)
            ・ JR東海HP  ・ 日本車輌製造株式会社との資本業務提携及び日本車輌製造株式会社株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
            ・ 日本車両製造HP  ・ 東海旅客鉄道株式会社との資本業務提携及び当社株式に対する公開買付けに関する賛同意見表明のお知らせ
            ・ TAKAの交通論の部屋  「 新幹線は海外に輸出できるのか?

 ※本記事は、私がmixiで 新聞記事 から日記を書いた物について、一部加筆・修正・編集の上、改めて「TAKAの交通論」の記事として掲載させて頂いてます。予めご了解下さい。

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 ☆ 元々「再編の余地有り?」の日本の鉄道製造業界?

 日本車両製造(以下日車と略す)は、確かに独立系の鉄道車両製造メーカーで、鉄道車両製造分野では大手メーカーな物の、鉄道会社・大手商社等の後ろ盾が無く中途半端な存在とも言えました。
 現在日本の鉄道車両製造の分野では、鉄道会社系では東急系の東急車両製造はJR東日本と組み、近畿日本鉄道系の近畿車輛は関西の鉄道会社と関係が深く比較的安定した受注を確保しています。又総合メーカー系の川崎重工・日立などは、優れた総合技術力に加えて、総合商社などと組んだ上で総合力を生かし海外進出をしているなど、色々な形でクループ化等の「自分の生きる道」を見つけようとしています。
 そのなかで「日車はどこへ行く?」と言われると、何処のグループに明確に入る訳でもなく、経営的には「(08年第一四半期で)売上げの約3分の2が鉄道車両・輸送用機器事業で、売上げの3分の1がJR東海向け」という状況でありながら、今まで「売上げの大部分は鉄道・輸送車両分野に頼り、それもその半分がJR東海向け」という状況の中での生残り策に明確に回答が無く、有る意味今後の鉄道製造業界で「日車が再編の台風の目になる」状況だったと思います。

 その中での最大の顧客であるJR東海による日本車両製造へのTOBですから、冷静に見ると「日本車両製造への救済色の強いTOB」なのではないでしょうか? JR東海が自社に取り重要な車両製造技術を持つ日本車両製造を「他に買われる前に自分で買った」と言うのが有った可能性はありますし、その場合日本車両製造にしても「他に買われるのなら主要顧客のJR東海の傘下に入るのがベスト」と考えた可能性は有ります。
 今やJR東海・西日本の共同開発のN700系は、「世界に冠たる日本の最新技術の塊」です。その最新技術の車両の製造メーカーを262億円で過半数を越える株を持てるのであれば・・・。「安いから買ってしまおう」とする海外企業が現れる可能性もあります。実際の所は確かに新幹線の技術は「総合的なシステム」であり、車両製造メーカー一つ買ったから「今直ぐ新幹線が造れる」訳では有りません。しかし有る程度の基礎技術を持って居る会社の場合、「262億円で新幹線技術を手に入れる」動きが起きる可能性は、今の世の中では否定できないと考えます。

 今世界の高速電車のシステム的な流れは、フランスも 世界最高速度を記録した動力集中式のTGV から次世代の高速電車は動力分散式の AGV にモデルチェンジするなど、「動力分散式電車」に向かおうとしています。その中で「動力分散式電車」技術に弱いアルストムや決定的に優れた高速電車を持たないボンバルデイア等の欧米系企業や、高速鉄道車両開発に熱心だが技術的には「周回遅れ」の韓国のロテム・中国の車両製造メーカーが、動力分散式高速電車の製造技術を欲しくて「日車を買収する」という可能性も否定できない状況に有ったと言えます。
 実際今や世界的にM&Aが日常化している状況ですから、有る程度の技術を持つ会社であれば「足りない技術を買い」「世界最高レベルの高速電車である新幹線車両」を入手する為に、262億円投じて日車を買収する可能性は否定できません。有る意味「新幹線」の車両製造技術が手には居るのなら、安い買い物かもしれません。


 ☆ しかしJR東海は「新幹線を新たなビジネスにする」チャンスを手に入れたのか?

 今回「JR東海、日本車両にTOB 50.10%保有し子会社化」という新聞記事を『裏読み』して、上記の様なグローバルの流れの中での『影での動き』を想像してしまいましたが、今や経済全体がグローバル化しつつ有る中で、比較的ドメスティックな産業で有る鉄道関連業界に、この様な事象が考えられる時代になったのだと改めて感じました。
 今や新幹線が、中華民国・中華人民共和国を堂々と走る時代です。しかしながら、過去に「 新幹線は海外に輸出できるのか? 」で取り上げた様に、新幹線の海外進出という点では、残念ながらフランスのTGVやドイツのICEと比べると「周回遅れ」と言わざる得ない状況です。

 元々JR東海は、新幹線技術の海外への技術移転に関して、技術流失の可能性や海外での事故の可能性などを警戒して慎重な姿勢で居ました。実際中国への新幹線車両輸出時は JR東海葛西会長が技術流失の可能性を強く指摘して難色を示していました し、今新幹線車両が運行運行されて居る 台湾高鉄 に関しては子会社・関連会社のJR東海情報システム・ 名工建設 がシステム・軌道工事で参画するなど、間接的な協力がメインになっています。
 只過去にJR東海葛西会長は「 台湾の場合にも、技術協力によって、JR東海として儲けを期待しているわけではない。しかし、メーカーが潤って体力が強化され、間接的に日本の新幹線の安全維持に役立つ 」と言われて居ますが、確かに台湾高鉄ではJR東海の子会社・関連会社・重要取引先であるJR東海情報システム・名工建設・日本車両製造は儲かりました。しかし今はこの考えをもう一歩進めて「グループ全体で新幹線技術で儲ける」考えを持っても良いのでは?と思います。その点から考えると、JR東海は日本車両製造の子会社化で、「新幹線海外進出」の為に使えるツールを一つ手に入れた事になります。

 実際冷静に考えれば、JR東海に取って最新鋭の新幹線車両で有るN700系は、確かに「最新技術の塊」ですが、今やJR東海が一丸となり「リニア中央新幹線実現」に動き出して居る現状では、先に伸びる技術ではありません。JR東海が先に伸ばす為に投資をしなければならないのは、社運を掛けた「リニア中央新幹線」実現の為のリニアモーターカー技術です。
 その社運を賭けた最新技術であるリニアモーターカーに最大限の投資をして世に出す為には、今JR東海が持って居る既存技術で稼がなければなりません。先ず第一は「東海道新幹線の高速化技術では完成系となったN700系」で、東海道新幹線で収益を上げる事が必要になります。しかし「リニア中央新幹線」実現の為には。数兆円にわたる巨額な投資が必要です。その費用を稼ぐ為にも「新幹線で全うに稼ぐ」だけでなく、次の策として「新幹線技術を輸出」するのも考慮に値する一つの方策で有ると思います。
 新幹線技術についてJR東日本と並ぶ第一人者で有るJR東海がビジネスとしての海外進出に積極的になる事で、JR東海グループが持つ最新の新幹線車両技術が世界に羽ばたくと同時に、今まで巨額を投じた新幹線技術が、リニアモーターカー技術推進に向けての「稼ぎ頭」になってくれる事が、JR東海に取って「日本車両製造の買収後JR東海に取って一番プラスになる戦略」ではないでしょうか?

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 ☆ あとがきに代えて - 遂に日本の鉄道も総合システム産業に変身するのか? -

 今まで、鉄道会社が車両製造メーカーを傘下に持つというパターンは、多くの民鉄会社でも存在して居ました。しかし西武が所沢での自社製造から撤退し、阪急・阪神が傘下の車両製造会社(アルナ工機・武庫川車両工業)を整理するなど、鉄道会社が車両製造の子会社を持つ事は衰退して来ており、鉄道会社内の車両製造メーカーは、大量の車両を持ち事実上の「自社内製」を行って居る JR東日本新津車両製作所 と、JR東日本との協力など自社以外の外部進出に成功した東急系の 東急車両製造 ・近畿日本鉄道系でJR西日本と関係が深く海外進出も盛んな 近畿車輛 の3グループしか残って居ない状況です。
 その中で、今回JR東海が日本車両製造を子会社化する事で、日本の鉄道会社ではあらゆる意味で最大級の会社で有るJR東日本とJR東海が、自社内で車両製造技術を持つ巨大鉄道企業グループとなりました。
 鉄道事業とは「総合システム事業」です。運行に関する技術が非常に高レベルになる高速鉄道・大量輸送鉄道に関しては、一朝一夕に運営出来るようなありとあらゆるノウハウ持つ事は出来ません。その中でJR東日本とJR東海は、名実共に「鉄道に関して全てに渡る技術を持つ総合鉄道事業者」になったという事が出来ます。

 現在世界的に「環境にやさしい」輸送機関で有る鉄道は見直されつつ有ります。今後CO2排出に対して規制が強化されると同時に、石油資源の希少化による石油価格の高騰など、人間の移動手段に対して「制約」となる条件のハードルが非常に高くなっていくのでは?と思います。
 その様になると、鉄道技術が世界的に注目を集める時代が、今正しく訪れようとしています。そこで必要になるのは「全てに渡り総合的に鉄道を運営するノウハウを持つ事業者」という事になります。そこで考えて見ると、その様な条件に当てはまる「総合システム産業」の鉄道の担い手は何処に居るでしょうか?やはり「電車も造れる」「インフラも造れる」「システムも造れる」「運行ノウハウも持って居る」となると、製造から運行までグループ内で内製化している日本の限られた鉄道事業者、要はJR東日本・JR東海等しか当てはまらないのでは無いでしょうか?

 JR東海は、今回の日本車両製造の子会社化で、「総合システム産業としての鉄道事業の担い手」に名乗りをあげるインフラを揃えたのでは?と思います。
 JR東海松本社長と日本車輌の生島社長は今回のTOBに関する会見で『リニア推進には技術力強化が課題だ。両社の強みを最大限生かし、総合的な技術力を高めたい』(『』内 上記毎日新聞記事引用 )と述べたそうですが、JR東海に取って色々な意味で車両製造技術の内製化も非常に重要でしょうが、もっと大きな視点で「今まで投資して来たN700系の最新技術で今度は金を稼ぐ」という世界に目を向けたビジネスを進める事も重要なのでは?と思います。
 JR東海は日本車両製造という折角優秀な車両製造メーカーを自社のグループ化したのですから、自社のメイン事業で有る「リニア中央新幹線」だけでなく他にも可能性の有る色々な分野で、そのメリットを最大限に生かす事を考えるべきでは?と思います。JR東海葛西会長は『 技術協力によって、JR東海として儲けを期待しているわけではない。しかし、メーカーが潤って体力が強化され、間接的に日本の新幹線の安全維持に役立つ 』と発言して居ますが、もう少し貪欲に「技術協力でメーカーが潤って体力が強化されるのなら、根幹に有るJR東海も儲けさせていただく」という考え方も必要なのではないでしょうか?




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