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「京阪の社運を賭けた新線」は本当に不調なのか?
- 開業から1ヶ月間の京阪中之島線の利用客数が公表されて -
TAKA 2008年11月19日
都心を貫く京阪の新線中之島線の象徴?新型車両の3000系快速急行 |
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☆ 開業1ヶ月経過時点の京阪中之島線の利用状況について
今年10月18日に大阪の都心中之島に開業した京阪中之島線ですが、その開業後1ヶ月の利用状況が、京阪電鉄上田社長の記者会見で公表されました。
京阪電鉄中之島線 乗客数は見込みの4割
(11月19日:産経ニュース)
「記事の概要」
・京阪中之島線の平日の乗降客数が1日平均約3万人で、当初見込み(8万人)の4割程度
・京阪本線淀屋橋駅と北浜駅から3万人程度が移行すると予想していた定期客が約1万人と低迷している。
・渡辺橋駅などの新駅が梅田から徒歩でアクセスできることなどが認知されていないとみられる。
・中之島地区の未開発プロジェクトの進展に加え、半年後にはJRなど他社線からの切り替えが進み、徐々に増加するのではないかとみている。
う〜ん。確かに京阪中之島線は半分は現在の京阪本線天満橋〜淀屋橋間の平行線であり駅勢圏は北側に広がれども実質的には「複々線化」に近いものであり、新設区間は渡辺橋・中之島の2駅しか無く、しかもこの2駅へは加算運賃が課せられて居るなど、新に利用者を誘発するには元々厳しい路線環境に有ったといえます。
又「開業1ヶ月」という期間は、開業直後の「御祝儀相場」で定期外利用客が嵩上げされるプラス要因と、未だ定期の買い替えが進まず定期客の移行が進まないというマイナス要因が両方並存する時期であり、必ずしも実状を表しているとは言えない時期で有るともいえます。
それでも、この数字チョット低い数字だな?と感じます。
何と言っても、当初予測(産経新聞でも
開業前は7.2万人と言って居る
し今回は8万人だから数字にブレは有るが)に対して、開業1か月の利用客数がその4割という数字は、余りにも低すぎるのでは?と私は感じます。
今までの需要予測では、
埼玉高速鉄道
のように当初予測と実体に大幅な乖離が存在する例が有ったのは事実です。しかし近年ゆいレール・TXなどを見れば分かる通り、開業前の需要予測に関してはかなり正確であり、恣意的な要素は省かれて有りのままの数字を示す事が多くなって居ると感じます。その流れの中で、京阪中之島線では此れだけ需要予測と実際の数の乖離が発生したというのは「何か有るのか?」と疑いたくなる数字です。
果たしてこの数字が、「京阪の社運を賭けた新線」といえる京阪中之島線の将来にどの様な影を落とすのでしょうか?
☆ かなり激しい「需要予測と現実の乖離」だが・・・?
今の段階で、需要予測及び開業後1ヶ月の利用状況について公表されて居る情報は、(これからもっと出てくるかもしれませんが)上記の記事しか有りません。
この情報から読む限り、表面的には「平日の1日当り平均乗降客数が3万人程度で需要予測にたいして実績が大幅未達で有る」という事になりますが、記事の中のコメントを読む限り、利用客の状況については楽観的要素と悲観的要素が入り混じって居ると感じています。
先ず悲観的要素の話をすれば、「渡辺橋駅などの新駅が梅田から徒歩でアクセスできることなどが認知されていない」という点です。京阪電鉄は「現行線より北側に新線を引く事で梅田南側のビジネス街の客を拾う」事を狙いとして持って居たと推測出来ます。その狙いが現状では完全に空振りしているというのは、このコメントからも分かりますが、此れは戦略的に見て暗い話です。当初の訪問記で「
京橋から「大阪環状線で大阪駅orJR東西線で北新地駅」へ出て居た客が中之島線へ転移する事
」が増収に必要と書きましたが、此れが今の段階では失敗している事を意味します。つまり京阪中之島線は京阪電鉄の増収・利用客増加に寄与して居ない事を意味します。此れは極めて悲観的な話です。
又楽観的な話は「京阪本線淀屋橋駅と北浜駅から3万人程度が移行すると予想していた定期客が約1万人と低迷している」という点です。これは中之島線開業に伴い制定された運賃制度上での特例で「淀屋橋⇔大江橋・北浜⇔なにわ橋間はどちらで乗降しても運賃が変わらない」と定められて居る以上、北浜・淀屋橋⇒なにわ橋・大江橋へと移行する数字が増えようと増えまいと、京阪電鉄のこれらの駅を利用してくれて居る限り減収にはなりません。そういう点では、この数字は北浜・淀屋橋・大江橋・なにわ橋の4駅を利用するグロスで増えれば、一応京阪電気鉄道としては増収になるので、目論見が下回ったとしても特に悲観的になる点ではないといえます。
☆ けれども京阪の収支的には中之島線の苦戦はそんなに痛くない?
しかし今回の中之島線の建設スキームを考えた時に、今回の「需要予測の4割の利用客」という状況に関して、ダメージが有る事は間違い有りませんが、必ずしも「京阪電気鉄道の致命傷になる」とは言えません。
というのは、当初建設予定であった、1,500億円の中で京阪電鉄が「借入金⇒賃借料」として償還しなければならない金額が3分の1強の584億円に過ぎなかったからです。訪問記の時にも述べましたが、京阪の中之島線プロジェクトは極めて手厚い補助スキームが組まれて居ます。
その為憶測の概算ですが、京阪電気鉄道が払う年間の使用料は10億円〜13億円程度で済んで居ると予測出来ます。又当初の中之島線開業による増収効果は年間32億円と言われて居ましたので、此れが4割になると増収効果は13億円程度になります。そうすると運行費は出ませんが使用料程度は賄える事になります。
又中之島線に関しては、「
総事業費につきましても、当初予算である1,503億円から200億円近い削減が可能になり、最終的には1,300億円余りになる見込み
」という事が明らかになっており、建設費が1割以上縮減される事になると、それだけ使用料が減る事になり採算ラインが下がる事になります。
しかも中之島線は、京阪に取って「中之島地区での不動産開発」という大きなビジネスチャンスを得て、積極的に不動産開発を行って居ます。今のご時勢では不動産事業に逆風が吹いては居ますが、大阪の中では中之島地区は梅田地区と並んで元々優れた立地の有料物件の多い地域ですから、多少の事では中之島地区の不動産の収益性が下がる可能性は低いのでは?と考えます。という事は京阪電鉄は、鉄道事業だけで無く不動産事業でも中之島線の恩恵を受ける事になり、其処でも収益改修の可能性を持って居る事になります。
その様に考えれば、多少利用者が少なくて多少収入が少なくても、京阪電気鉄道的には「致命的なダメージは無い」という事が出来るでしょう。少なくとも京阪電気鉄道的には、中之島線は「社運を賭けた一大事業」で有っても「ちゃんとリスクヘッジもしている事業」という事が出来ます。
☆ 民鉄の新線建設事業は長いスパンで見る事が必要?
今回、この様に中之島線の「開業1ヵ月後の利用状況」の報道に飛びついてこの様な記事を書きましたが、有る意味矛盾している発言ともいえますが、この1ヶ月の利用状況だけで「中之島線の成否を占う」事は出来ないと言えます。
それは中之島線の話に限った事では有りません。基本的に計画・建設に長い時間が掛かり、しかもその後の費用回収にも長時間掛かる鉄道等のインフラ構築事業について、その一部分を切りだして評価する事について、難しい側面が有るのは間違い無いといえます。
少なくとも短期的側面で見れば、定期建の買換え期限との関係で定期客の転移が進む半年後の状況を見ないと、中之島線のメイン顧客であろう通勤客の動きが見えてこないと思います。その半年後の結果として中之島線の定期客が増えない場合と、天満橋以西の本線・中之島線の乗降客の総数が増えない場合に、「危機感を持って」本格的な梃入れ策を考える様な状況が出てくるのでは?と感じます。
又京阪も積極的に関与している不動産の側面について言えば、今世界的金融恐慌の余波で不動産業界は激しい逆風が吹いて居ますが、それでも長期的側面で見れば「
中之島線の総効果額約1兆2500億円
」という数字は、そんなに狂わず効果が出るのでは?と感じます。又此れが半分になっても6000億円近い効果が出てきます。
民鉄の新線建設で大切なのは、この「新線建設効果」を如何に内部に取り込む事が出来るスキームを造って居るかです。その様な新線建設効果をビジネスに繋げる事には長い時間が掛かります。その長いスパンに合わせて、新線建設について考える事が必要でしょう。
確かに「開業1ヵ月後の利用客が予想の4割」という数字は非常にショッキングな数字だと思います。又その中身を見る限り京阪の「中之島線で北側に駅勢圏を広げる」試みは上手く行って居ない事が明らかです。しかし元々中之島線に関して言えば、京阪に取り非常に手堅く手厚いスキームが組まれていて、其処が最終的な損益の負担を軽減する担保になって居る以上、今の段階で一喜一憂するのは好ましい話では無く、先ずは半年・長く見れば3年〜5年のスパンで「中之島線の建設効果」を見るべきなのでは?と改めて感じさせられました。
その様な長い視点で、京阪と中之島線と中之島地域がどの様に変わって行くのか?興味を持って見て見たいと思います。
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