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「羽田空港アクセス輸送」を押しのける「箱根駅伝」はそんなに偉いのか?

−「箱根駅伝」における京浜急行の「空港線ダイヤ変更」について考える−



TAKA  2009年01月26日



箱根駅伝に伴う京急羽田線のダイヤ変更のお知らせ


 ☆ 正月の風物詩「箱根駅伝」を京急蒲田踏切に応援に行ったら・・・

 「 箱根駅伝 」と言えば、正式名称「東京箱根間往復大学駅伝競走」が示す通り、 関東学生陸上競技連盟 参加校の中から選抜された大学により正月の2日〜3日に東京箱根⇔箱根芦ノ湖間で行われる「(私的な)駅伝大会」ですが、近年は「全区間テレビ中継」をされる事で全国的に有名になり、正しく正月の風物詩となった駅伝大会です。
 私も箱根駅伝は馴染みの深いスポーツイベントです。昔は新年2日に年始挨拶に家族で行っていた叔父の家で、叔父の母校が出て居る箱根駅伝をかならず見せさせられて居たので、子供の頃から箱根駅伝はテレビで見ていましたし、ここ10年位は(関東学連所属校の)我が母校の大学も時々箱根駅伝に出場するようになり、特に母校の出て居る年は家に居る時にはテレビを見て箱根駅伝を応援する様になっています。

 私と箱根駅伝の係わり合いと言えばその程度の話ですが、今年は予選会を勝ち抜いて我が母校が4年ぶりに箱根駅伝に参加出来る上に、正月遠出をしなかった事も有りずっと家に居た為に、流石に暇を持て余し「外の空気を吸う」事を兼ねて始めて箱根駅伝を現地に応援しに行ってみる事にしました。
 さて・・・。「箱根駅伝を応援に行く」と一言で言っても、大手街⇔箱根間では東海道(国道1号線)を通り合計10区間(217.9Km)も走行距離が有るため、「何処で応援するか?」時間・移動距離などの問題から行動予定と通過時間を睨めっこしながら「何処か個性の有る応援場所は有るかな?」と考えて、3日に復路の10区蒲田踏切で応援する事にしました。
 蒲田踏切は、第一京浜(国道15号線)を京急空港線が横切る踏切のポイントで、箱根駅伝の中継では良く「定点ポイント」として取り上げられ有名で有ると同時に、箱根駅伝ルート上に箱根登山鉄道の小涌谷の踏切と並んで有る数少ない踏切で、昔は「踏切で遮られて悲喜交々のドラマ」が繰り広げられた所で、ここ数年は踏切を通過する京浜急行が空港線に「ダイヤの変更」を行い、箱根駅伝通過時間中(特に復路の3日昼頃)は踏切が閉まらないようにして居ます。
 という事で、箱根駅伝の蒲田踏切の現場は公道を使用して行う長距離陸上競技では時々見られる「一般の陸上競技の為にルールを曲げて公共交通が引っ込んで居る」現場を見る事が出来ます。今回は箱根駅伝で我が母校を応援すると同時に、折角蒲田踏切に行ったので「スポーツイベントと公共交通の関係」についても、チョット見てみようと思いました。

 ※「参考資料」・ 第85回箱根駅伝の対応について |京浜急行電鉄|報道発表資料 ・ 「正月らしく箱根駅伝見物」 (Straphangers'Room:エル・アルコン様)
        ・ 関東学生陸上競技連盟HP  ・ 箱根駅伝公式Webサイト

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 ☆ 京急空港線蒲田踏切での運転規制の状況とダイヤ変更の状況

 1月3日に家族が正月の温泉湯治旅行に出発した後、10時過ぎに練馬の家を出て品川で早めの昼食をしてから、通過予定時間の12時半頃を睨みながら京浜急行に乗り応援の目的地で有る蒲田踏切の最寄駅で有る京急蒲田駅を目指します。
 京急蒲田駅は、現在第一京浜国道(国道15号線)・環状八号線・京浜急行本線・空港線が全て平面交差で交わる「交通のボトルネック」の地域であり、箱根駅伝での「 蒲田踏切でのブレーキ 」所の話では無く、毎日の交通に大きな支障が生じており、その解消の為に「 京浜急行本線及び同空港線(京急蒲田駅付近)連続立体交差事業 」と「 国道15号蒲田立体交差事業 」が行われて居ます。これらが完成すればこの地域が抱えて居る交通混雑の問題も、箱根駅伝の蒲田踏切の問題も根本的に解消されます。
 ですから、根本問題としてみれば「蒲田踏切での狂騒曲」もあと数年、一連の事業の内京浜急行の連立事業の内京急空港線の高架化が完成すれば、問題も解消されて「蒲田に踏切が有ったんだな〜」という事になります。根本問題としては日常交通問題の解消の為に我々の血税が投じて行われている事業ですが、結果として道路を使用している箱根駅伝も「棚から牡丹餅」でメリットを受ける事になります。

空港線蒲田踏切での箱根駅伝対応運転規制の状況(1月3日 12:00頃〜13:00頃)
  
左:路上を車線規制の中線内普通が運転開始(12:03) 中:係員が付いて踏切も調整 右:選手通過後糀谷で抑止の線内普通が運転開始(13:03)

 蒲田の踏切を箱根駅伝が通るのは12時半前後で、その30分前前後から沿道の観客が増えてきます。流石に蒲田踏切周辺には駅伝の観客に加えて、京急の臨時運行形態を写真に収めようとするマニアが集まり混雑して居たので、蒲田踏切のチョット川崎寄りの場所に陣取る事にしました。
 第一京浜国道では選手通過の約30分前の12時過ぎから歩道寄り1車線をカラーコーンで規制し、線手通過に備えて居ます。京急空港線も12時過ぎから線内折返し運転のみになり、その後暫くしてから空港線の運行自体が止まったようです。
 駅伝の選手はトップの東洋大学を筆頭にほぼ予定通過時間に蒲田踏切を通過して行きます。今回の箱根駅伝応援の本命は「トップの大学を応援」という訳で無く「我が母校の応援」です。しかし待てど暮らせど我が母校はやって来ません。結局我が母校は蒲田の踏切を17位で通過して行きました。もし前の学校と接近していれば「踏切が閉まって追い付いてくれ!!」と又後から他校が迫ってくれば「踏切で引っ掛かってくれ!!」と祈りたい所ですが、我が母校は「17位で寂しい一人旅」でしたのでその様な状況にはなりませんでした。しかし今回は全体で見ると鶴見で「繰上げスタート」の学校は有りませんでした。という事は鶴見時点で先頭から最後尾までの差が20分未満という事で、実際蒲田時点でも極端には差が開いて居ませんでした。そういう点から駅伝的には「実力伯仲の大会」といえるのでしょう。

 箱根駅伝の通過中、京急は予告通り空港線を抑止して居ました。実際の所最終ランナーが通過したら直ぐ糀谷から蒲田行きが来た事から見て、空港から見込みで出た列車を糀谷で抑止を掛けて京急の社員が駅伝通過を確認した段階で、抑止を解除して列車を通したのでは?と思います。
 実際その列車が通過した後、駅に行く為に蒲田踏切を通った時には京急の社員が踏切もしくは信号関連の機械を操作していた状況を見て居ます。そこから「駅伝の為に空港線を抑止する」という状況の中で「抑止の為の時間を最低限にする」為に、方策を付くしていた事は容易に想像が付きます。

箱根駅伝に伴う京急線内の運転変更の状況(1月3日午後1時頃)
  
左:特別に車両を持込み線内で普通運転で実施 中:都営線から直通は川崎行きに変更 右:上りも川崎から急行で都営船直通運転を実施

 蒲田踏切で箱根駅伝を見た後、帰りがてらに京急の箱根駅伝対応の特別運転の状況を見て見る事にしました。
 京急空港線の列車は、基本的に都営線・京成線・北総線からの直通運転と京急横浜方向からの直通運転です。空港線は線内輸送だけならいざ知らず、神奈川・都心部・千葉方面と東京の空の玄関で有る羽田空港を結ぶ空港アクセス輸送も担っているため、広域直通運転がメインとなっています。
 その為、横浜からの列車は川崎での分割併合を中止し品川行きに行き先変更し、都営線との直通運転の列車は行き先を羽田から川崎に振り替えて運行して居ました。その為蒲田駅では「急行川崎」等の珍しい行き先で運行していて、その為多数の鉄道マニアが撮影に訪れて居ました。
 しかし私が蒲田駅に行った時には、丁度京急空港線の羽田からの区間運転列車が運転を再開した直後で、品川から川崎行きに振り返られた列車に乗ってきて蒲田で空港線に乗り換える客と、空港線の乗ってきて蒲田で本線に乗り換える客とそれ以外に箱根駅伝の観客で、京急蒲田駅構内は非常に混雑した状況でした。
 この日は1月3日ですから、空港線の利用客は早めの帰省帰りの客も居たかもしれません。その中で蒲田駅こそ混雑していた物のそんなに混乱した感じは有りませんでした。空港⇒都心を目指す人達は空港の段階でモノレール・バスなど他交通機関を使ったのかもしれません。そういう点では「羽田空港アクセス鉄道」を約45分止めた割りには、利用者の自主的な回避策で影響は最小限のされたのかな?とは感じました。

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 ☆ 正月の風物詩「箱根駅伝」と東京の玄関口「羽田空港へのアクセス輸送」 果たしてどちらが大切か?

 私の場合、今まで何回か母校が出場していたので、箱根駅伝の応援に行く機会はありました。しかし私自身決してスポーツ観戦が好きな訳では無いので、「行く機会はあれども行く事が無い」状況でテレビ観戦がメインでした。
 しかしながら、箱根駅伝自体は正しく「正月の風物詩」であり、毎年全区間で行われるTV中継の影響も有り東京圏を中心に全国区のスポーツになって居り、陸上界では有数のイベントとなって居るのは間違い有りません。
 箱根駅伝に関しては、「関東学連の学校しか出場出来ない」「日本の長距離陸上界に悪影響を及ぼして居る」「学校の宣伝の場と化して居る」「純粋な学生競技というより商業主義が強くなってきて居る」等々、否定的な色々な意見が有る事は残念ながら間違い無いでしょう。私もその様な事を箱根駅伝に感じる事もあります。
 けれども、同時にスポーツとして見て「10人の選手が一致団結して東京⇔箱根間で襷を繋ぐ」という姿はスポーツ競技として他の競技には無いドラマがあり、ましてや母校が出場しているOBにして見れば、母校愛が刺激されより一層箱根駅伝に興味を示すようになります。

選手に罪は無い。 しかし駅伝は「ドラマ」である。 ならば「踏切」もドラマと受け入れるべきでは?

 箱根駅伝に関して「賛否両論」が有り、その中でも箱根駅伝に好意的な特別な感情を(私を含めて)多くの人が持って居るのは間違い無いと思います。
 しかし、その様な素晴らしい「競技」で有れども、「箱根駅伝」は一民間の学生競技です。スポーツで有る箱根駅伝がその範囲を飛び越して「公共的な物より優先される」という事が許されるのでしょうか?今回取り上げた「蒲田踏切」での問題は正しく京浜急行が「自主規制」する事で、優先されるべき公共交通を押しのけて民間競技で有る箱根駅伝が優先された事例です。根本的な問題として果たしてこの様な事は許されるのでしょうか?
 道路に関しては、公共の用に供する物が優先される中で特定の個人・団体が特別に使用する事に関して「道路占用」「道路使用」という制度を持ち居る事で、許可さえ降りれば合法的に使用する事が可能です。ですから公官庁の許可さえ得れば公道上で陸上競技を行う事は制度的に可能な事であり、「 東京マラソン 」の様に「東京の大幹線を長時間閉鎖して競技を行う」事について、問題は有れども合法で有ると言えます。
 しかし平面交差で道路と交差する鉄道の踏切に関しては、「鉄道絶対優先」というのは明治時代から決まって居るルールであり、人命が掛かる「緊急車両の通行」においても緊急車両より鉄道が優先される状況です。病院まで一分一秒を争う緊急患者を乗せた救急車ですら踏切では待たざる得ません。そういう点から言えば「踏切で待たされたから病院に間に合わず死んでしまった」という事例が発生すれども、鉄道的には「不可抗力」という事になるほど「踏切での鉄道の優先権」は強い物です。

 しかしながら蒲田踏切では「私競技」である箱根駅伝の為に、京浜急行電鉄は「人命が掛かっても曲げない」制度を曲げて、しかも自社の収益に係わる利用者に迷惑を掛けて、関係の無い「箱根駅伝」に対して「列車運休」という形で協力をしています。果たしてこの事は「正しい」のでしょうか?。私は「NO」であるといえると思います。
 先ず言えば優先されるべきは、公共交通で有る鉄道の利用客であり、それよりかも「私競技」である箱根駅伝が優先されるべき理由は全く有りません。これが「人命の係わる非常事態の緊急車両と公共交通どちらを優先するか?」等の「極めて深刻な状況」になれば「究極の選択」という事になりますが、「箱根駅伝」にその様な深刻性が有るでしょうか?。実際問題「箱根駅伝」にその様な深刻性が無い事は明らかです。
 しかも随分前までは(選手が来たらチョット踏切を締めるのを伸ばす等の配慮は有れども)基本的に京浜急行は日常運転をしながら、箱根駅伝は基本的に問題なく行われて居たのです。それなのに多分京浜急行は「全国放送の駅伝で踏切で選手が止まるとイメージが悪い」という事で、「自主規制」として今の様な運行形態を取って居ると思います。この様な事には「筋」が通りません。しかも(今年は見て居ませんが)話によれば(自主規制している)「協賛金を払わないと京浜急行が自主規制している事に詳細に触れない」という事も聞きます。本当にこの様に傲慢な事をされて居るので有るならな、余計「なんで京浜急行は正当な権利を行使しないで「自主規制」するのか?」と言いたくなります。

 京浜急行に取って、本来の使命は「利用者を安全に確実に運ぶ事」です。しかも東京の空の玄関口羽田空港へのアクセス客の輸送は、冷静に見ても公共性の高い物ですし、営利企業たる京浜急行の収益という点から見ても非常に重要な利用者です。その利用者を見捨てて、観客輸送という限定的な恩恵しかもたらさない箱根駅伝の為に、空港線を運休するというのは、公共輸送を担う組織としても、営利企業としても良い事では有りません。
 厳しい良い方をすれば、京浜急行はこの「箱根駅伝の為に空港線を運休」する事で、公共輸送の任務を放棄する事で社会を裏切り、輸送の責務を果たさない事で利用者を裏切り、収益を捨てて居る事で株主を裏切って居ます。しかも箱根駅伝の全国中継で大きく取り上げられる訳では無く「宣伝効果」も有りません。冷静に考えれば京浜急行はステークホルダーを裏切り何も得て居ない事になります。そういう点から見ても今回の箱根駅伝対応は「下の下策」を行ったと考えます。

 まあ冷静にこの問題を見ると、この「蒲田踏切の光景も「高架化完成までのあと数年」の世界ですから、そんなに目くじらを立てて述べる事は無いのかもしれません。又「スポーツ競技にそんな無粋な事を」という意見も有るかもしれません。
 しかし、そうは言ってもやはり京浜急行は「鉄道が確実に輸送する事への社会的責務」は真剣に考えるべきでしょう。しかも「踏切の優先通行権」は「人命より優先されるもの」です。その原則を「私競技」の駅伝ぐらいで曲げるべきではないと、今回改めて考えました。
 それに「駅伝」(特に箱根駅伝)は「競技」を楽しむのと同時に「ドラマ」を楽しむ物です。しかも「ドラマ」の側面が他の駅伝競技より遥かに強いのでは?と感じます。だから「わざわざ東海道を通り箱根の山の登る」のでは無いでしょうか?ならば、敢えて走路の障害を人為的に取り除くのは如何なものかと思います。只道路の信号に全て従っていたら競技にならないので、それは仕方ないにしても踏切は蒲田と小涌谷にしか無いのですから、東京の幹線鉄道で有る京急空港線位は「踏切に従う」のも「ドラマの一部」ではと思います。
 又どうしても「蒲田踏切」で規制されるのががイヤならば、ルートを踏切の無い産業道路or第二京浜に変えれば良い話です。その様な「競技側の努力」が無く、本来優先通行されるべき鉄道が「自主的に運行を規制」していう今の現状は、如何見ても「可笑しな状況」だと思います。京浜急行にしても関東学連にしても、この状況を真摯に検討して「適法かつ公共性を損なわない」競技が行われるように考えるべきでしょう。
 少なくとも断言出来るのは「箱根駅伝は「全てに優先される物では無い」という事で、「公共性を損なわないレベルで行われる競技」で無ければならない、という事です。その奢りを直さないと「おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし」という事になるのでは?と今回改めて感じました。




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