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過当競争を超越するタクシー業界の「第三の道」は?

−サービス向上の差別化で過当競争を脱した日本交通の現状を考える−



TAKA  2007年05月18日




日本交通の改革の成功の象徴「黒タク」と「ビル内専用タクシー乗り場」@六本木ヒルズ



 今日本の交通業界、特にタクシー・バス業界では需給調整規制撤廃以降の一連の規制緩和による競争政策下で、新規参入等により激しい競争が加速しています。
 特にタクシー業界は1台当りの設備投資が2百万円程度で済み、しかも給与が「低い固定給+歩合制」と言う水揚げに連動と言う成果主義が強い給与体系が主流であると言う事も大きく作用し、規制緩和以降に既存事業者の積極的増車と他地域からの参入が急速に増加し、今や初乗り値下げや各種割引の拡大等「ダンピング」とも言える過当競争が行われつつあります。
 その様な状況下、疲弊しているタクシー業界では弊サイトでも「 値上げは単純に『悪』と言えるのか? 」と言う内容で取り上げた様に、今まで実質12年間値上げが無かったタクシー料金の値上げを各地域で続々と申請している様に、値上げを梃子に現状の改善を図ろうとする動きが出ています。
 その象徴が近年テレビ等で取り上げられており、事業リストラと本業のタクシー事業でのサービス改善による差別化で、バブル崩壊による不動産・観光事業の不振による「経営破たんの危機」からV字回復を果たした日本交通の存在です。
 「過当競争」に程度の差は有れど今日本の企業は大なり小なり悩まされている事は間違い有りません。その中で日本交通は一つの回答を出した可能性は有ると言えます。その「過当競争に対する処方箋」とも言える日本交通の改革を分析をしてみたいと思います。

「参考サイト」 日本交通HP  テレビ東京 カンブリア宮殿 「 日本のタクシーを変えろ!

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 ☆タクシー利用者は何を望んでいるのか?

 近年規制緩和と其れによる増車で、業界その物が大幅に変りつつあるタクシー業界ですが、実際の所客である肝心な利用者は「タクシー」に関して何を望んでいるのでしょうか?
 私もタクシーは近距離を中心に「月数万円」利用するユーザーですが、私は利用者の側面から見るとタクシーには「早くて楽に安心して運べる」と言うサービスを期待してタクシーを利用する機会が多いと言えます。タクシーは「初乗り2km660円」と言う金額から見て比較的単価が高い交通機関です。その交通機関に対し私は安いことも重要ですが其れと同じ様に「費用に見合ったサービス」と「交通不便地区へ(色々な点で)効率的な輸送」を期待していると言うのが、私のタクシーに対するニーズであると言えます。
 それに関しては多少の差は有れども他の利用者も大きな差は少ないと考えます。上記に引用した5/14の「テレビ東京 カンブリア宮殿」の中で、ゲストの視聴者100名にアンケートを取っていましたが、(母数が少ないので信用性は低いと言えますが)「低運賃よりサービスを望む」と言う答えの比率が高い結果が出ていました。
 要は利用者の視点では安いことも重要ですが、其れと同じレベルで「タクシー利用者はその高単価を納得の上、それに見合うサービスを求めている」可能性が高いということが出来ます。その点から見てもタクシーに対しての「利用者のニーズ」は「安い料金」と同じレベルで「サービスの向上」に有る可能性が高いと言えるのではないでしょうか?


 ☆しかしタクシーはそのニーズを充たしているのか?

しかし肝心なタクシー業界はその様な利用者のニーズを掴み、同時に充たそうとしているのでしょうか?これに関しては私個人的な感じとして「ニーズは充たされていない」と感じさせる物が有ります。
 現実問題として近年の規制緩和でタクシーの台数は増えて特に新宿等の東京都心ではタクシーを拾うのに苦慮しない程の状況になってきています。其れは規制緩和による供給拡大の効果で有ると言えます。
 けれどもその供給増大に対して運転手のレベルが追いついていないと言う事は良く感じさせられます。一部のタクシー運転手では昔から「此方は望まないのに話しかける」「ラジオが五月蝿い」「運転が荒い」等の好ましからざるサービスレベルに有り、私も現実問題一利用者としてタクシー利用時に少なからずその様な場面に直面した事が有ります。
 加えて近年では「道を知らない」タクシードライバーが増えており、「著名な地名を言っても辿り着けない・チョットした迂回路を知らない」と言うレベルのタクシードライバーが増えて居る感じを受けています。私も良くタクシーに乗り「右だ左だ」言いますが、東京のタクシ-が東京の大通りを走るの利用者に「右だ左だ」案内されると言うのは「プロ」として情け無い話です。
 実際運転手に「プロ」が少なくなったと感じているのは一般人も同じ様で、上記の5/14の「テレビ東京 カンブリア宮殿」のゲスト視聴者100名アンケートで(母数が少ないので信用性は低いと言えますが)「プロの運転手が減った」と感じる人が多数色と言う結果が出ていました。又フリートークで色々とタクシーへの苦情が出ていました。これらの信用性云々は別にして私も同意見ですし利用者の視点から見ればこの様に見えるのでしょう。
 その様に利用者から見られている状況では、タクシー業界は利用者のニーズを充たしているとは残念ながら言えないと思います。実際この状況では規制緩和で一部進んでいる「初乗り運賃値下げ・各種割引」と言う低価格が一部の利用者のニーズを満たす事はしていますが、低価格と並ぶ「サービス」と言うニーズは充たしているとは言えません。
この様な状況に利用者は満足しているのでしょうか?私は一利用者の視点で考える限り、利用者は今のタクシーには満足していない可能性が高いと言えます。


  ☆タクシー業界最大手の「変革」が利用者の不満を解消するか?

 その様にタクシーの「サービス」に対し利用者の不満が燻ると推察される状況の中で、タクシーのサービス向上を図ろうとする動きは過去から存在していました。サービスで有名なタクシー会社といえば「業界の反骨精神」とも言える MKグループ が有名ですが、東京では最大手の日本交通でサービス改善の動きが出ています。
 その日本交通のタクシーサービス改善の象徴が高級タクシーの黒タク導入・GPS無線配車サービス・都心大型ビルへの専用乗り場設置と言った動きです。実際私も「黒タク」は何回も利用した事が有りますし、日本交通の無線配車サービスはその番号が「携帯電話」の中に入っています。その点では私は日本交通のサービスは気に入っていますし、有る意味そのサービスを「支持をするユーザー」であると言えます。
 その成果は徐々にでは有りますが出ている事は間違い有りません。実際数年前までは「バブルに乗り破綻寸前」だった日本交通が、改革の旗を振った三代目若社長川鍋一郎氏のリストラとサービス改善で劇的に変身し、今や日本交通の1900億円の借金はかなりの部分が返済され、それに伴い業績は回復し本業のタクシー業でも「黒タク指名・無線配車増加」と言う成果を上げて居ます。
 今や乱戦のタクシー業界であり、しかも「流しのタクシーを拾う」と言う行動が多い為なかなか利用者が「サービスや運賃で積極的に選択をする」と言う行為が取りづらい状況なのですが、その様な状況下でも「無線指名を勝ち取る」「東京を代表するビルがタクシー乗り場を独占的に使わせる」と言う行為がユーザーから行われていると言う事は、そのサービス・品質に対して支持を受けて居る事で有ると推察されます。


  ☆タクシー業界最大手の「変革」が示す第三の道とは?

 今タクシー業界は規制緩和下の状況で、増車競争が起こり供給過剰と言う非常に厳しい状況に陥っているのは前述の通りであり、大阪など一部では「激しいダンピング割引」や「初乗り客の乗車拒否等の違法行為」が行われるまで激しい競争が行われています。
 その様な状況下で生き残る道は「価格競争」「増車競争」と言う2つの道があり、実際タクシー業界でもこの二つの道を歩み激しい競争が行われていますが、この激しい状況を生き残る為には「価格競争」「増車競争」と言う泥沼の競争を抜けた第三の道が有るというのも又事実です。その第三の道こそ上述の様に日本交通が成功している「高級化・差別化」によるサービス向上でニーズを掴み競争社会を生き残ると言う方策です。
 実際日本交通のサービスの「変革」は上述のように成功を収めていますし、又日本交通はその改革の成功を梃子に「業界再編」的な動きにまで発展しつつ有ります。今や業界トップの日本交通は自社の1638台のタクシーの他にグループフランチャイズで1187台合計で2825台のタクシーを抱える一大グループになっています。( 日本交通ニュースリリース参照
 日本交通はこの様な「フランチャイズ化戦略」で「1年半の間で1.8倍に拡大」し、今や日本交通グループの都内シェアは5.3%(個人タクシー含む。法人のみでは8.2%)に拡大しており、今もシェア10%を目標に拡大傾向にあります。又このフランチャイズ戦略の結節点は「タクシー車両色の日本交通カラーへの塗替・GPS−AVMデジタル無線機の搭載、接客マナー水準の統一・日本交通主催の各種研修で乗務員への教育の徹底」と言う日本交通の生み出した「高品質サービス」であり、その結果日本交通の高いサービス品質を維持したままフランチャイズ化で量を増やすことに成功しました。
 つまり日本交通は「価格競争」「増車競争」と言う出血競争でなく、サービス向上による差別化戦略で自社の業績を上げただけでなく、その差別化戦略でフランチャイズ化と言うソフト的な業界再編を行う事が出来て、出血を伴う事無く実質的な増車と言える「グループの拡大」を図ることが出来ました。これを生き残る為の「第三の道」と言わずして何と言うのでしょうか?

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 今タクシー業界は前に「 値上げは単純に『悪』と言えるのか? 」で取り上げた様に、運賃値上げを巡り今までの競争に加え世間の「逆風」を受けると言う極めて厳しい状況に置かれています。
 その「値上げせざる得ない」と言う状況は「差別化戦略」で勝ち組の筈の日本交通でも例外では有りません。実際川鍋日本交通社長も5/14の「テレビ東京 カンブリア宮殿」で「少し上がるでしょう」と発言していましたが、この様にタクシー業界は勝ち組でも値上げせざる得ないほど業界全体が疲弊していると言う事は間違い有りません。
 その中で「値上げ」をスムーズに利用者に受け入れて貰うには、利用者が望むニーズを汲み取ったサービス向上で報いないと静を受ける事は出来ません。業界の小さい世界で「増車競争」の乱戦を行い消費者にメリットを還元しないで、乱戦のツケを消費者に回す形で今のサービスのままで「値上げだけお願い致します」と言う事に成れば、消費者は受け入れる筈が有りません。利用者のタクシー離れと言う形で大きなしっぺ返しを受ける可能性は非常に高いと言えます。
 その時に「値上げをしましたがサービス品質も高いです」と言う日本交通のスタイルは支持を受ける事は間違い有りません。その点で言えば「値上げ」こそ日本交通により一層の勝利を引き込む切っ掛けとなると同時に、不良会社の淘汰と言う点で大きな影響を引き起こす事は間違いないと言えます。
 その点で言えば「日本交通のサービス向上戦略」での差別化と「タクシー運賃値上げ」の逆風は、過当競争で苦しんでいる日本のタクシー業界にとって大きな変化を引き起こすキッカケとなる可能性は否定できません。その意味でも「日本交通」と「値上げ」は、タクシー業界の再編の引き金と言う点で大きな「ターニングポイント」になる可能性が有るのでは?と改めて考えさせられました。



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