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日本最大級の路面電車事業者は果たして路面電車か?LRTか?

- 広 島 電 鉄 駆 け 足 訪 問 記 -


TAKA  2008年12月01日


広島の中心街八丁堀を行く低床連接路面電車。此れだけ見れば非常に現代的だが・・・


 ☆ ま え が き

 日本で「大都市」の基準は何か?となると、やはり一番最初に出て来るのは「 政令指定都市 」で有るか?無いか?ではないでしょうか?。此の頃「平成の市町村合併」での市町村の大型化が起因して「政令指定都市の大乱発」が行われて居ますが、チョット前までは政令指定都市は「(法的適用要件は人口50万人以上だが) 適用要件 として人口100万人以上or100万人突破見込みが有る」という基準が有り、名実共に大都市でしたし札幌・仙台・広島・福岡などの様に地方の中核となる都市で、日本を代表する都市です。
 その政令指定都市の中でも、近年の「平成の大合併に伴う人口要件の弾力運用」前の平成最初までの政令指定都市(以下「狭義の政令指定都市」と言う)の中で都市交通の側面を見ると、(川崎を除く)各都市とも都市内公共交通機関として公営(及び第三セクター)の軌道系公共交通を抱えて居ます。それは「都市の核を持つ人口100万人に迫る都市で都市内交通でもバス以上の輸送力の軌道系公共交通が必要」な状況で有るから、地下鉄や新交通システム等の「軌道系公共交通」を公的セクターの力で造るのだと思います。

 しかしながら、その狭義の政令指定都市の中で、「チョット違う都市交通」の形態を持って居るのが広島市でしょう。広島市には94年の広島アジア大会に合わせて造られた「 アストラムライン 」という新交通システムが有りますが、アストラムラインは広島の市内交通機関ですが「郊外の住宅地と都心を結ぶ」交通機関であり、都心内(広島で言えば太田川の三角州の内側)の交通機関としては限定的な役割しか果たして居ません。その代わり「都心部」といえる太田川三角州内側で公共交通機関の中核として機能しているのが、広島電鉄㈱が運営している路面電車です。
 路面電車・LRTは近年都市交通のシステムとして見直されてきて居ますが、日本では「都市内輸送のメインシステム」として路面電車・LRTが採用されて居るのは人口50万人程度までの都市であり、路面電車・LRTは「中規模都市内での都市内・郊外部公共輸送機関」というイメージが強く、大都市の都市内交通・郊外部交通を賄うには能力が不足していて、広島を除く狭義の政令指定都市において、路面電車は東京・大阪・京都の3都市で残って居ますが、何処も都市交通としては「一部地域で補助的な役割」しか果たして居ません。
 けれども広島は違います。広島は太田川の三角州の中に市街地と市街地隣接の住宅地が広がり瀬戸内海沿いには工業地帯と瀬戸内海地域の海上交通の要衝広島港が有り、その中心部を取り巻く様に海田市〜向洋〜広島〜横川〜西広島とJR山陽本線が走って居ます。このJR山陽本線の内側部分に関しては、公共交通の主力はバスと広島電鉄の路面電車で、特に路面電車は広島・横川・西広島の3箇所でJR山陽本線・可部線と接続して広島市街地内に旅客を運ぶと同時に市街地内の輸送の主力を担って居ます。加えてサブ的役割ですが、広島電鉄の路面電車は西広島で広電宮島線と直通しており、山陽本線が平行して居るので補助的役割ですが五日市・廿日市・宮島方面から広島市街地に向かう客を直接運びこむ役割も担って居ます。日本の大都市手此処まで路面電車が主力的役割を担っている大都市はありません。

 上述の様に広島電鉄は、日本でほぼ唯一「政令指定都市(≒大都市)の市内交通の主力を担っている路面電車」であり「運行規模を見ても日本最大級」の路面電車という様に、色々な意味で広島電鉄の路面電車は「特殊な存在」で有るといえます。
 今回8月8〜9日に金〜土曜日を使って岡山〜広島方面を訪問し、9日の土曜日に尾道〜瀬野〜広島と廻りながら、(広島では市内も郊外も見たので)本当に駆け足で一部分だけですが、始めて広島電鉄の路面電車に乗りその状況のほんの一端を見る事が出来ました。
 此処では(広島電鉄の路面電車の全てとは思いませんが)、今回見た広島電鉄の状況と印象を基にして、日本最大級の路面電車について見てみたいと思います。

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 ☆ 参考HP ・ 広島電鉄HP  ・ 広島電鉄電車カンパニーHP
        ・ 路面電車からLRT交通システムへ (財団法人地域活性化センター・ 都市機能の充実と賑わいのあるまちづくり事例集 )
        ・ 路面電車とLRTを考える館  ・トラムやぶにらみ 広島電鉄の限界 ( Straphanger's Eye ) ・ 広島電鉄 (WikiPedia)

 広島電鉄(路面電車事業・宮島線は除く)主要指標
広島電鉄主要指標営業キロ車両(編成)数輸送人員輸送密度資本金営業収益営業費用営業損益全事業経常損益
平成18年度19.0km(3)126編成(1)39,218千人(1)15,157人/日(3)2,336百万円(6)4,534,728千円(1)3,988,270千円(1)546,457千円(1)1,735,101千円(3)
(比較対象)長崎電気軌道
平成18年度11.5km75編成19,852千人15,231人/日210百万円1,743,506千円1,682,667千円60,839千円85,287千円
※数値は「数字で見る鉄道2007」より引用。 ※広島電鉄の欄のカッコ内の数字は「数字で見る鉄道2007」内での日本の路面電車事業者(19事業者)に置ける広島電鉄の順位。

 ☆ 今回の訪問ルート ・宮島線 商工センター → 土橋、小網町 → 胡町

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 ☆ 広島電鉄の現状は「昭和と平成の混在」なのか? (広島電鉄駆け足訪問記)

 先ずは、広島電鉄に乗って見ての感想編です。今回宮島線の郊外区間で有る商工センターから西広島を経由して都心部になる胡町までの、広島電鉄の路線網から見たらほんの一部分ですが「幹線区間」と言える区間を乗ってみました。
 私自身は生まれも育ちも東京で、東京で路面電車と言えば併用区間が殆ど無く下町・山の手の住宅街を走る都電荒川線・東急世田谷線しか有りません。しかも東京以外の都市には殆ど出ては居ないので、その為本当の意味での「都市交通としての路面電車」という物に殆ど乗った事が有りません。実際「路面電車・LRTに乗った事が有る」と言えるのは、TAKAの交通論の部屋で取り上げた富山(富山ライトレール・富山地方鉄道)・岡山(岡山電気軌道)・松山(伊予鉄道)・大阪(阪堺電車)位しか有りません。
 その乏しい経験の中で、今回「日本最大の路面電車ネットワーク」を持つ広島電鉄の路面電車に乗って、私なりに感じた事を含めて纏めて見ました。

 ● 低床連接車・電停の整備・案内システムを見ると正しく広電は「平成のLRT」

 広島電鉄の路面電車と言うと、「日本最大級の路面電車ネットワーク」で有るのと同時に、「郊外線で有る宮島線との直通・(実質的)軌道化」や「連接車の大量導入」「低床車両の大量導入」などを行い、日本の路面電車の中で見れば非常に先進的なイメージが有り、正しく殆どLRTに近い「現代的な平成の路面電車」であるイメージが強く有ります。
 実際に都心部やターミナルなどで広島電鉄の路面電車を見ると、その車両やインフラを見ればまさしく此れは「路面電車では無くLRTでは?」と言うレベルになっています。
 広島電鉄の路面電車は、既に都心部の電停には「屋根付きの立派な安全地帯」が整備されていて安全に乗降する事が可能です。又広島駅〜西広島〜宮島間の2号線や広島駅〜紙屋町〜広島港間の1号線では連接車が多数投入されていて、その連接車でも1999年以降100%低床車であるドイツ製の 5000形グリーンムーバー が12編成・ 国産の5100形グリーンムーバーマックス が10編成投入されていて、22編成という数は低床車保有台数で見れば「日本有数」という事が出来ます。

 
一部の電停・LRV整備状況はもはやLRTに近い? 左:整備された電停と最新鋭の低床LRV @胡町 右:電停が横断歩道に繋がって居るとバリアフリー @本町

 又低床LRVに乗る為の電停に関しても、広島電鉄では利用客の多い都心部の電停を中心に整備が進んでいます。都心部の電停では紙屋町の様にバリアフリーという点では問題がありますが「地下街から電停へ階段で直結」した電停が整備されて居る所も有ります。
 電停に関しては実質的に「広電の都心ターミナル」である紙屋町以外でも、都心部の電停では写真の胡町・本町電停の様に「横断歩道から直結・安全に乗降出来る幅員・風雪を避ける屋根」等が整備されています。LRTという交通機関の中ではこの様な乗降施設が整備されて居るのは有る意味当然です。しかし路面電車では必ずしもそうでは有りません。その点から言えば、この場面を見て居る限りでは広島電鉄では「LRTレベルの電停が整備されて居る」と言えるでしょう。

 
郊外線を見ると 左:低床ホームの商工センター駅に入る宮島線⇔市内線直通連接車 右:混雑時に対応したホーム設置の整理券発行機・カードリーダー

 又都市内交通機関である路面電車が都市全般の交通機関としてのLRTに進歩する為には「交通におけるシームレス化」「効率的な運賃収受システム」という施策も、路面電車からLRTへの進化という点で重要な事です。
 その点でも、広島電鉄は直接「LRTへの進化」を意図した訳では無いにしても、長い期間にわたって進化を行って居ます。その象徴が「郊外線で有る宮島線の軌道化」でしょう。
 元々は普通の鉄道車両で運行されて居た広電宮島線ですが(法的には今でも地方鉄道法で運行されて居る)、昭和37年に市内線広島駅前-宮島線広電廿日市間で直通運転が開始されて以来(翌年に広電宮島まで延長)郊外線に市内線車両が乗入れる形態で運行されてきました。しかし1991年(平成3年)に郊外線の高床式車両に依る運行が廃止され市内線から直通の連接路面電車運行に統一されて以来、現在のような「郊外線に路面電車が走る」形態が一般化して居ます。
 市内線の連接路面電車が宮島線に乗入れた事で、宮島線沿線から紙屋町周辺の広島都心部に乗換無しで行く事が出来るようになり、西広島-宮島間と広島都心部が直結された事で大きく利便性が向上した事は間違い有りません。又「普通鉄道の郊外線」で路面電車を運行するに当り運賃収受についても「路面電車的なワンマン運転収受」での限界から、混雑解消・スムーズな運行確保の為に「駅での整理券発行・カードリーダー設置」などの、信用乗車システムにチョット近い形の独特な運賃収受が行われて居ます。
 今や郊外線のLRT化の成功で「日本のLRTの元祖」とも言える存在になってしまった富山ライトレールの存在が有る為に、広電宮島線の「郊外線を路面電車で運行するスタイル」は決して先進的で珍しい存在では無くなりました。しかし(合理化が主眼に有るにしても)昭和30年代から郊外線の路面電車運行で都心直結サービスを向上させて来た存在は無視できません。此処でも(意図して居なかったにしても)結果的に広島電鉄のLRT化が着々と推進されてきたという事が出来るのだと思います。

 
案内システムも整備されて居る 左:低床連接車グリーンムーバーの運行状況を示す表示 @紙屋町地下街 右:「単車・連接車」や「混雑状況」を示す案内 @本橋

 もう一つ広島電鉄が整備を進めて居るのは、列車運行に関しての案内システムです。鉄道では一般的な駅での案内システムですが、近年では運行に不安定性の有る道路を走る公共交通機関でも、バスにおける「バスロケーションシステム」など運行状況を案内するシステムが整備されてきています。その様なシステムが広電の路面電車でも一部で採用されています。
 今回広島電鉄に乗った時に見た案内システムは上記写真の2つのシステムです。一つは紙屋町の地下街に有った「低床車の運行状況を案内するシステム」です。これは国交省広島国道事務所の「高度道路交通システム「ITS」」の一環として提供されて居る物で、広島電鉄のHP上でも 超低床車両位置情報 として案内されていて、その案内表示が紙屋町の地下街にも置かれています。今低床連接車は5000形グリーンムーバー・5100形グリーンムーバーマックスが1号線・2号線に運行されています。これらの車両はバリアフリーですし連接車なので輸送力もあります。それを案内するというのは路面電車の利便性をアピールする点やLRVが大量に走って居るという事をアピールする点からも効果が有る案内システムです。
 二つ目の案内システムは、土橋駅で見た案内システムです。これは国交省と広島電鉄が行った「 電車情報活用実験 」により設置された案内システムです。此れはかなり高度なシステムで、運行系統や到着時間などだけでなく単車と連接車の別や混雑状況等についても案内出来る様になっています。只流石に高度なシステムだけ有り、この実験で設置された八丁堀・立町・紙屋町東・紙屋町西・原爆ドーム前・土橋の6電停にしか設置されて居ないようですが、此れだけの案内システムならば、複雑な広島電鉄の運行形態でも分かりやすく便利です。

 流石に日本最大規模の路線網・利用客数を持つ広島電鉄の路面電車だけ有り、自らの努力に加えて公的セクターの補助を受けて、極めて高度な路面電車のシステムを作り上げています。此処で取り上げた低床LRV・電停・郊外線との直通運転・案内システムなどを見る限り、これは既に路面電車というレベルでは無く単体の軌道システムとしてのLRTに限りなく近づきつつ有る存在だと言って間違い無いでしょう。
 LRTというシステムについては日本でも 富山ライトレールの実例 が有るので、「LRTとは単なる路面電車の現代化では無く、都市の有り方を含めた総合的な交通体系の構築の一環」という考え方が一般的になってきて居ると感じます。そう考えると広島電鉄の路面電車は「都師の有り方を含めた総合的な交通体系」としてシステムの改善が図られて居る訳では無いので「LRTである」とは言えないでしょう。しかしそのハード面だけを見れば広島電鉄の路面電車は「LRTという路面電車システム」に近づきつつ有ります。
 実際の所、広島電鉄もHPで「 路線電車からLRTへ 」という事で「路面電車ルネッサンスを展開中」「チンチン電車からLRTへの進化をめざしています」と言って居ますし、広島市も「 路面電車のLRT化の推進 」という施策を行い広島電鉄の補助を行って居ます。その結果として、今回取り上げたようなインフラが出来上がり、明らかに路面電車では有る物のシステム的には改良が進みインフラはLRTといっても可笑しくないレベルまで到達しつつ有ります。そういう点では広島電鉄は「昭和の路面電車」から「平成のLRT」に進化していると言っても過言では無いと思います。


 ● ペイント電停・昭和世代の旧型路面電車が残る広電は「昭和の路面電車」か?

 しかしながら、確かに一面を見れば広島電鉄の路面電車は広島電鉄の努力や公的セクターの補助により「平成のLRT」に昇華しつつあることは間違い無いものの、同時に未だに昭和時代の「路面電車」としての一面を残して居る事は間違いありません。
 今回駆け足訪問をした中でも、広島電鉄の路面電車の「昭和の側面」を幾つか見る事が出来ました。それは「旧態依然とした路線設定」「危険とも言えるペイント電停」「旧式化しつつ有る単車車両群」などです。此処だけを見るとLRTどころか「廃止された岐阜の路面電車並みのレベル!?」という状況に有ります。しかしながら「平成のLRT」レベルまで改良されてきて居るのも広島電鉄の現実で有るのと同時に、「昭和の路面電車」が残って居るのも又広島電鉄の現実で有ると言えます。今回はこの点について見てみたいと思います。

 
ペイント電停の小網町電停を見ると岐阜を思い出す? 左:ペイント電停に停車中の路面電車 右:ペイント電停での乗降風景

 今回有る意味一番驚いたのは、「広島にもペイント電停が有るのか!?」という事です。ペイント電停と言えば、岐阜の名鉄岐阜市内線のペイント電停が有名ですが、「安全地帯が無く乗降に非常に危険で人に親切で無く前近代的な象徴」というイメージが強い、(有る意味)日本の路面電車の「負の象徴」と言えるのでは?と個人的に思うほどの存在です。
 確かにペイント電停レベルの「安全で無い電停」は、 京福電鉄の山の内岡山電気鉄道の土橋・中納言 など他社にも存在するので、決して広島電鉄に有っても可笑しくは有りません。
 今回広島電鉄でペイント電停を見たのは、2号線の小網町電停でした。此処では2号線が天満川を渡る専用橋を挟んで土橋〜西観音町の間で幅員の狭い裏通りに入り、この道路が片側1車線ずつに複線の軌道が入り歩道も無い状況の道路で、少なくとも道路の拡幅がなければ屋根・安全島の有る安全な電停を設置は出来ない状況です。だからこそペイント電停が解決できずに残った事は間違い有りません。確かにペイント電停では低床車の場合、それこそ本領発揮で比較的苦も無く乗降する事が可能ですがそれで許容出来る話ではありません。実際ステップの有る連接車から荷物を持った外人の乗降風景も見ましたが、此れは決して「LRT」の姿とは言えない状況です。正しく「昭和の路面電車」の乗降風景と言えます。

 
最新型低床連結車と1950年代製の京都市電の中古車がすれ違う姿を見ると・・・ 左:広島駅前 右:本通電停

 もう一つ、広島電鉄で「昭和の路面電車」を感じたのは、車両の面からです。
 確かに、現代的な低床LRVの導入に関しては、広島電鉄は各種の補助を受けながらも「5000形グリーンムーバー12編成・5100形グリーンムーバーマックス10編成」という合計22編成にもなる低床LRVを導入しています。編成数から言えば広島電鉄の導入数は日本一ですし、99年〜08年の9年間に1編成3億2千万円(グリーンムーバーMax)の導入費用が掛かる低床LRVを22編成導入して計70億円近くの投資をしています。補助を受けて居るにしても広島電鉄が99年以降に車両に投資した金額は年間数億円になるでしょう。このレベルで投資した路面電車事業者は伊予鉄道ぐらいしか無いでしょう。広島電鉄は低床LRV車両に関してそれだけの投資をして来ています。
 しかしながら、連接車に関しては低床LRV化が進んで居ますが、市内線の主力車両で有る単車群に関しては殆ど現代化が進んで居ません。昔良く広島電鉄を「路面電車の博物館」と言われますが、今でもその状況は変わらないと言えます。実際写真にも有るように、未だに現代的な低床LRVの脇を旧京都市電の車齢50年を越える車両が堂々と現役で走っています。
 此れを「昭和の路面電車」と言わずして何と言うのでしょうか?少なくとも「駄目だ」とは言いませんが、これも広島電鉄の路面電車の状況です。広島電鉄の路面電車には低床連接LRVが走る「平成のLRT」と車齢50年以上の路面電車という「昭和の路面電車」が並立して走るのが、現実の姿で有ると言えます。


 この様に見ると、間違い無く広島電鉄の路面電車は一面においては「現代的なLRTに近いもの」で有るのと同時に、未だに昭和30年代〜40年代の路面電車全盛時代の「前近代的な路面電車」という一面を合わせ持ち、それが一つの路線で共存して居ると言えます。
 確かに広島電鉄は「平成のLRTと昭和の路面電車」の混在しているのが現在の状況で有ると言えます。しかしこの現実は受け入れざる得ないと言えます。間違い無くいえる事は広島電鉄は1910年以来現在まで99年間に渡り1945年8月6日〜9日の3日間(原爆投下に依る市内線全線運休期間)を除き1日も休まず営業して居る中で、昭和の路面電車から平成のLRTへ一歩ずつ進化して来たのです。確かに車両に関しても新旧混在していても全126編成中22編成(約17.5%)が低床LRVというレベルにまで進化させて来たのは素晴らしい事ですし、広島・西広島・横川・広島港等の外部の交通機関とのターミナルは改築されて居ますし、中間の電停に関しても屋根・案内システム設置等の現代化が進んで居ます。
 政令指定都市広島の市内交通として運営を継続しながら日本最大規模の路面電車を、徐々にでもLRTに近い所まで「現代化」して来たが故に、何とか現代の都市内輸送機関として対応出来て居ると言えます。要は広島電鉄に取り「昭和の路面電車から平成のLRTへの変革」は生き残る為に必然であり、その改革は「積極的で有る」と評価すると同時に都市交通機関としての機能を維持する為に「やらなければ生き残れ無かった」というのが広島電鉄の「昭和の路面電車」から「平成のLRT」への変革の現実だと思います。

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 ☆ あとがきに代えて - 既存路面電車の目指すべき先は? -

 今回日本最大の路面電車で有るといえる広島電鉄の路面電車を始めて見ましたが、総合的に見た時に「平成のLRT」と「昭和の路面電車」の同居の状況という事は、システム的には「かなり改良が進んで居る」路面電車であると言う事が出来ます。
 私自身、路面電車には殆ど縁が無い東京に住んで居ますが、今まで旅行で幾つかの都市の路面電車を見ましたが、「路面電車」というジャンルで見た限り此れほどシステム的に改善が進んで利用し易い路面電車は他には無いのでは?と感じます。
 確かに広島電鉄の路面電車に関しては、政令指定都市で人口が約100万人規模という巨大都市の市内交通のかなりのウエイトを占めて居る基幹交通機関であり、「路面電車」というシステムの持つ能力では100万人規模の大都市の市内交通を賄う事が出来ず、今の広島電鉄の路面電車は既にパンク状態に近いという話も聞きます。確かにその傾向は有るでしょう。広島の場合郊外からJR線で来た場合、広島・西広島・横川の各駅から都心で有る紙屋町地区へのアクセスは路面電車で担っている状況を考えれば、その様な「路面電車の限界を越える」状況が発生するのも有る意味当然で有るともいえます。
 しかしその様な状況の中で、広島電鉄はかなり積極的な努力を図って居る事は間違い有りません。広島電鉄自体は他都市と比べて特殊な補助を受けて居る訳では有りません。その状況の中で、路面電車レベルから「電停の整備」「低床連接LRVの積極的な導入」などで環境整備と輸送力増強に多額の設備投資(年数億円レベル?)を行い、「LRTの手前」といえるシステムにまで昇華させた事については、評価してしかるべきで有ると思います。

 けれども広島電鉄の路面電車を見て居ると、既存の路面電車は有る意味で「限界」にぶち当たりつつ有るのも現実かもしれません。
 今「日本で一番進んで居るLRT」は富山ライトレールで有る事は間違い有りません。何故富山ライトレールが特別に進んで居るか?と言えば、都市全体の中でのLRTという交通機関の位置付けが明確化されていて、そのコンセプトに基いてLRTという交通機関が造られて居るからです。その点において「明治期〜昭和初期に造られた路線にそのまま運転している」日本の大多数の路面電車とは根本的に異なっています。
 要は日本の大部分の路面電車に関しては、都市内で「どの様な役割の交通機関で有るか」の位置付けに基いて路面電車のネットワークが必ずしも造られて居ないという事です。しかし此れは有る意味仕方ない側面もあります。日本で明治時代〜戦前期の大昔には「都市における総合的な交通体系の一環として路面電車を考える」という考えが無かったとも言えますし、日本の路面電車は昭和30年代以降近年に至るまで「邪魔者」扱いの冬の時代を経ており、「都市内の総合交通体系の一環としての位置付け」などと言う物が与えられず、富山ライトレールのように「都市の中でどのような役割を果たすか」を積極的には考えてくれない時代が長く続きました。
 それ故に日本の大部分の路面電車は、有る意味都市内で「浮いた存在」になってしまい、明確な位置付けがなされないままに、環境問題等の側面から公共交通が見直されその一環として中量輸送システムとしての現代的な路面電車で有るLRTに注目が集まり、その結果として既存の路面電車に対して走行環境改善・乗降施設改善・車両改善などについて補助金が投下され、施設のみが現代化して昭和の路面電車が平成のLRTに進化し、その最前列に広島電鉄の路面電車が有るといえるのではないでしょうか?

 しかし、今でも既存路面電車の有る都市の大部分では、現実として路面電車は都市内公共交通機関として機能しています。その中で此れからもう一歩進化してより機能的な都市内公共交通機関として機能するには、その現状で欠けて居るといえる「都市内での役割の明確化」という問題について整理して、その役割に基いてより一層のインフラ・サービスの進化のための投資を行う事では無いでしょうか?
 現実問題としては、既存の路面電車の今の状況の中での改良では都市内交通機関としての機能分担について限界が来る事は明らかで有るといえます。と言って既存の路面電車が有ってくれて居る以上、これをゼロに戻して造り直す事は現実的ではありません。その中で如何にして今後の発展をして行くか?となると、今有る路面電車のインフラを都市の中で「都市内公共交通機関」としての役割を再定義して、そこで「既存の改良を進める所は進める」と同時に「新たに必要なインフラは加えて行く」という事が必要と思います。
 実際広島の路面電車に関して考えても、「平和大通りへの(急行線的な)新線建設」等を含めた「 広島市軌道交通改良提案書 」がずいぶん前に市民団体からされるなど、(東西軌道系交通などを核に)新規構想が存在しています。確かに広島中心部(太田川デルタ内部)の東西交通に関して、今の広島電鉄の「広島駅前〜紙屋町〜己斐」のルートだけでは不十分なのは明らかです。ですから既存の路線に関して着実なインフラ・車両の改善を進めて行くと同時に、新たな都市内交通手段として新線建設・既存路線振替などを含めた現行路線の再構築も今後の発展の為には必要で有ると感じます。
 特に路面電車として進化が有る程度のレベルまで進んできて居る広島電鉄の路面電車の場合、既存路線施設の改善だけでなく、そこからもう一歩進めて新線建設を含めた「都市計画・都市内公共交通体系」との刷り合わせを含めての「路面電車網の再構築」という事も必要であり、これが広島の既存路面電車の目指す先なのでは?と感じます。




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