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「無駄な空港の最たる例」と非難されて居る状況は正しいのだろうか?

− 2010年3月11日開港の「茨城空港」訪問記&感想記 −



TAKA  2010年 07月 04日


茨城空港を飛び立つチャーター機 こう見ると新規開業空港には見えない・・・。


 ☆ ま え が き

 昨年夏の衆議院議員選挙にて民主党が圧勝し「政権交代」が実現して民主党政権が誕生して以来、色々な分野で「公的セクターの無駄」が指摘されてきて居ます。
 その様な色々な分野の中で「交通」においては「航空」の分野で色々な点が指摘されて居ます。昨年6月の静岡空港開港に伴う一連の騒動や9月の民主党政権発足直後の「日本航空再建」に伴う一連の騒動により、「地方ローカル路線の状況」や「地方空港の実状」が社会の注目を集めるようになり、 全国101の空港 の経営状態について注目を集めるようになりました。
 その中で、昨年6月に「最後の(新規建設の)地方空港」と言われた「 富士山静岡空港開港 」に引き続き、今年3月には(自衛隊との共用空港で有り完全新設とは言えないが)最後の新設地方空港といわれる「茨城空港」が開港しました。

 茨城空港自体は、航空自衛隊百里基地の敷地を活用して新たにB滑走路を新設し基地の反対側に旅客ターミナルビルを建設した「軍民共用」の空港で有るため、一から造った富士山静岡空港の総工費1900億円に比べて茨城空港の事業費は約220億円と一桁小さい金額で建設することが出来て居ます。
 しかしながら茨城空港は地方空港とは言う物の実際は首都圏に立地して、しかも成田空港までは数十kmの近い距離に有り羽田空港もそんなに遠くは有りません。
 その為「地方空港のドル箱路線」である羽田線は運行出来る立地には無く、しかも国内線・国際線共に非常に多くの発着路線を抱えアクセスの便にも優れる東京圏の羽田・成田と発着便・利用客の奪い合いを演じなければならない立地に有り、有る意味「羽田・成田とセントレアに挟まれた富士山静岡空港」よりかも厳しい立地に有るといえます。

 この様に「軍民共用空港」という形で「有る資源の有効活用」で低コストで造られた茨城空港ですが、(有る意味)予想通り定期就航を表明した会社・路線はアシアナ航空のソウル線1往復/日とスカイマークの神戸線1往復/日という1日2往復のみで、しかもスカイマークの就航が決まったのは3月の開業直前で9月には撤退と言う厳しい状況です。
 その様な厳しい就航状況に有る事から茨城空港は開業前後にはマスコミから「無駄な空港」等々色々と叩かれました。
 しかしながら、元々軍用空港の一部を民間用に改修して居る為建設コストは安く済んで居ますし、関東圏の航空需要を賄うには増強がされても羽田・成田の両空港の発着容量だけでは心許ない状況に有るのは間違い無く、「関東圏の住民に多様な航空サービスを提供する」という観点から考えると茨城空港の存在は限定的といえども意味の有る存在です。
 それに茨城空港は「運用コストの削減」や「LCC(格安航空会社)への対応」等の点で色々な工夫を加えて居ると言えます。その様な状況を踏まえて「茨城空港は本当に無駄な空港なのだろうか?」実際に茨城空港を見てみる事にしました。

「 茨 城 空 港 の 概 要 」

☆ 施 設 概 要
○設置者:防衛省 ○事業主体:国土交通省 ○空港の種類:共用空港 ○事業費:約220億円(県の負担額は3分の1の70億円程度)
○滑走路:「A滑走路:長さ2,700m幅45m(コンクリート舗装の軍用可能滑走路)」 「B滑走路:長さ2,700m幅45m(AS舗装の民間用滑走路)」

☆ 運 行 会 社 ・ 就 航 路 線
○スカイマーク:茨城〜神戸線⇒1日1往復 ○アシアナ航空:ソウル(仁川)線⇒1日1往復
○5月のGWには旅行会社のチャーター便が多数運行 (グアム・台北・セブ・海南島・上海。他に台北・上海・長沙からのインバウンドも有り) 
※スカイマークの「茨城〜神戸線」は 2010年9月より運休 の予定。

☆茨城開港までの流れ(HPより抜粋改稿)
○平成7年8月:茨城県が「百里飛行場民間共用化構想」を発表する。 ○平成12年4月:運輸省(当時)において事業化される。(事業着手)
○平成12年7月:空港整備法施行令の一部改正により、百里飛行場が共用飛行場として指定される。 ○平成17年7月:百里飛行場民間共用化事業起工式が開催される。
○平成18年度:茨城県が空港公園、空港駐車場を事業化する。 ○平成19年度:新滑走路舗装工事が着手される
○平成20年度:旅客ターミナルビル建設工事が着手される(10月)・新滑走路完成(12月)・現滑走路かさ上げ工事が着手される。平成21年3月11日開港

※ 参 考 H P
☆ 参考HP : ○ 茨城空港HP  ○ 茨城空港利用促進等協議会HP  ○ 茨城県開発公社-茨城空港旅客ターミナルビル-HP  ○ 百里飛行場 (wikipedia)
        ○ 日本初のローコスト・エアライン拠点空港へ-茨城空港の意気込み (マイコミジャーナル) ○ 茨城空港を見る 意外なポテンシャルと厳しい現実  ( Straphangers'Eye )



 ☆ チョット貧相で貧乏臭い空港?「茨城空港」の概要 (5月1日現地訪問)

 今年3月11日に開港した茨城空港ですが、3月の開港直後はマスコミで騒がれ注目を集めて居た事は知って居た物の年度末と言う事も有りナカナカ訪問することも出来ず、結局開港から約1ヵ月半が経過した5月のGWの後半5連休の初日に当る5月1日に初めて訪問する事が出来ました。
 茨城空港の近くには何回か仕事に行った事は有るので「車で行く方が便利」というのは知って居たのですが、GWの初日で有り東京から車で向かうと常磐道が大渋滞しそうだったので(実際20km位渋滞した)、日暮里から常磐線の普通列車で約1時間半乗り石岡から8:20発のアクセスバス(小川駅乗換便)で茨城空港へ向かいました。
 このアクセスバスは、「スカイマークの神戸便には次の便で間に合う」「石岡発は小川行きで小川で空港経由水戸行きに乗換が必要」という事も有り、「大きな荷物を持った」等の「如何にも空港で飛行機を利用する客」という感じの人は3〜4名しか乗車して居ませんでした。でも其れも当然の話?で、アクセスバスは「一応有ります」という意味しか有りません。

左:茨城空港ターミナルビル全景 右:茨城空港全景(駐機場側から望む)

 茨城空港に着いて先ず外観を見てみると「如何にも地方空港」という感じがします。ターミナルビルの建物自体が鉄骨造2階建で規模もそんなに大きく有りません。富士山静岡空港のターミナルビルとほぼ同じ大きさで「地方空港でも最低限の大きさのターミナルビル」です。
 又ターミナルビルの目の前には大きな平面駐車場が広がって居ます。ターミナルの前に第一・第二の二つの駐車場に分れて合計1,321台の駐車場を設けて居ます。結局の所やはり自動車が移動手段の主体で有る地方と言う事も有り、茨城空港は「自動車でのアクセス」がメインで公共交通のアクセスがイマイチな現状でも何とかなるし、公共交通を整備するより駐車場を整備する事が、空港アクセスの整備に大切という事になります。
 しかしその様な駐車場もターミナルビルに近い第一駐車場の方はASで舗装して居ますが遠い第二駐車場は砕石舗装で終わらせて居ます。ターミナルビルも簡素な造りで駐車場の整備もなるべく低コストで終わらせると言う点も、この空港が「如何に低コストで造るか?」という点に考慮を払って居る証だと言えます。

左:茨城空港1階検査場 右:茨城空港チェックインカウンター(航空会社用)
左:茨城空港チェックインカウンター(団体旅行会社用) 右:茨城空港 2階食堂

 ターミナルビルの内部は「1階⇒チェクインカウンター(国際線・国内線)、出発・到着ロビー、搭乗待合室、保安検査場、手荷物受取所、CIQ施設、免税売店」「2階⇒送迎デッキ、レストラン、売店、茨城県PRコーナー」等が置かれています。
 基本的には非常に簡素な造りとなっていて、単純に空港を利用するだけで有ればアクセス手段⇔飛行機の間はフロアの上下の移動が無くても済む設計になって居ます。普通ならボーディングブリッジからの搭乗になるのでターミナルビル内で上下移動が有る場合が多いですが、しかし茨城空港はボーディングブリッジが無くタラップでの飛行機への搭乗となるため、その分ターミナルビルは簡素な造りとなって居ます。
 又一階のチェックインカウンターは向かって右半分が「団体客用」となっており、この日はHISのチャーター便を利用するツアー客が多く訪れて居て(と言うかこの日の空港利用客の大部分がHISのツアー客だった感じ)アシアナ・スカイマークのチェックインカウンターが有る左側寄り遥かに混んでいる状況でした。

左:茨城空港2階 売店 右:茨城空港2階 展望デッキ

 ターミナルビルの2階には、食堂・売店・展望デッキ等の「利用客が間接的に使う施設」や「見学客が使う施設」が集まって居ます。
 地方だと「新しい空港」は地元の人達が集まる「プチ観光施設」となります。その為富士山静岡空港もそうでしたが開港当初には地元の人達が沢山集まります。実際 開港100日で42万人の来場客 があった茨城空港ですが、GWの初日で有った5月1日も例外では無く空港見学が目的の地元見学客が多く来場しており、それに加えて早めに着いて時間を持て余して居るツアー客なども加わり、売店・食堂等は大混雑でした。
 しかしながら展望デッキは一時的には混雑するものの、スクリーンが設けられており「防衛上の理由」で左側(百里基地側)には展望が開けなくなって居ます。その為も有ってか見学客が多い物の展望が開ける展望デッキの左側(右側は良く見える)に集中して居たり早々に帰ったりで思った程の混雑は有りませんでした。

左:茨城空港 駐機場(北側) 右:茨城空港 駐機場(南側)

 茨城空港には「中型ジェット機用×1・小型ジェット機用×3」の駐機場が確保して有り、B767クラスの飛行機までは運用が可能になって居ます(滑走路は「緊急時には大型機にも対応が可能」で「2008年度末から着手された既存滑走路改修・かさ上げ工事」で重量に対する問題は解決するといわれて居る)。
 しかしながら、5月1日には定期便+チャーター便(B767が1機・B737が2機・A320が1機)で駐機場が全て埋まった状況が発生しましたが、そうするとやはり少々狭苦しい状況になって居ますし、この状況では「自走式による飛行機運用」が不可能になりプッシュバックをしないと飛行機が移動出来ない状況になります。
 この5月1日の状況から見ても、茨城空港は空港ターミナルだけで無く駐機場も「最低限の規模」しか造られて居ないと言う事が出来ます。まあ「建設コストを最低限に抑える」と言う事を真剣に考えて造られて居るのは理解できますが・・・。


 ☆ 「茨城空港」に離発着する珍しい航空会社と低コスト運用の象徴?「自走式による飛行機運用」とは?(5月1日現地訪問)

 さて5月1日の茨城空港は旅行会社のHISによる「 茨城空港ジャック 」計画の初日で、グアム・セブ・台北・上海・海南島へのチャーター便が運行される事になっていた為、普段の「アシアナとスカイマークだけの空港」とは一風違った状況となって居ました。
 それもHISのチャーター便は基本的に日本の航空会社ではなく「運行先の航空会社」をチャーターした様で(セブ行きのみはJALをチャーターして居ましたが・・・)その為この日は「アシアナ・スカイマーク」だけで無く「コンチネンタル・JAL・復興航空・深セン航空・中国東方航空」という各国各社の航空会社が茨城空港に飛来して居ました。

5月1日に茨城空港に乗り入れた各航空会社 (写真以外に中国東方航空が有り)
左上:コンチネンタル航空 右上:スカイマーク 左中:JAL 右中:復興航空 左下:アシアナ航空 右下:深セン航空

 流石にGW5連休の初日と言う事も有り、これらのチャーター便はかなりの搭乗率だった様です(デッキでマニアの話を立ち聞きして居たら「ツアーの客が多くてフィリピンのセブ航空からJALの767に変わった」と言っていた)。まあこの時期ならば当然の事ながら羽田・成田は発着便・客も大混雑でしょうから「繁忙期の短中距離のチャーター便等は茨城空港で有る程度捌く」という住み分けが有っても良いと思います。
 又5月1日はGW5連休の初日と言う事も有り日本人のアウトバウンドが多かったですが、この日にも茨城空港に到着した便で中国から訪日したインバウンドの観光客も居ましたし、その後も台湾・中国などから茨城空港へチャーター便で来るインバウンドの観光客が結構居るようです。
 GWと言う条件も有り、インバウンド・アウトバウンドの観光客が此れだけ揃ったからこそ、こんなに多くの航空会社の飛行機を茨城空港で見る事が出来たのだと思います。それに「中国の航空会社が複数来ている」というのは意味が大きいと思います。自衛隊との共用空港で有る千歳空港では「旧共産圏航空会社の乗入制限」が有りますが、今でもその様な制限が残って居る空港が有る中で、自衛隊との共用空港でしかも首都防空の戦闘機部隊のホームベースで有る百里基地と共用して居る茨城空港に中国系の複数の会社のチャーター便が飛来出来ると言うのは(GWで自衛隊の訓練が休みと言うのも有るのかも知れないが)大きいと思います。

自走式による飛行機運用の状況
 
 
確かに自走で完結して居る・・・。 上段:出発時の状況@アシアナ航空 下段:到着時の状況@深セン航空

 又茨城空港の特徴に「LCC受入にも対応したローコストオペレーション」が有ります。此れに関して、空港の構造・建設の段階から色々と配慮をして居るのは見て分りますが、其れ以外に「運用」の面でもローコストオペレーションの特徴的な物が有ります。それが「自走式による飛行機運用」です。
 茨城空港にはボーディングブリッジが有りません。その為旅客の乗降にはタラップで対応して居ますが、その為飛行機の駐機場所に関しては自由度が高くわざわざボーディングブリッジに付けてプッシュバックで出て行く必要が無く、自走で完結する場所に駐機して乗客の乗降と整備を行いきプッシュバックの分の手間の削減が可能なシステムを組んで居ます。
 実際私が見に行った日も、午前中の「駐機場所が埋まっていた時間帯」にはプッシュバックで飛行機を押し出した上飛行機が滑走路へ自走して行った時も有りましたが、その後の「飛行機が1機しか居なかった時間帯」には行われていて、(写真に有るように)アシアナ航空のA320と深セン航空のB737が自走式オペレーションをしていました。
 見た限り茨城空港ではスペース的に同時に2機までは自走式で飛行機運用が出来る感じがしました。これで運用費で削減出来るのは「プッシュバックのコスト」だけで、此れでどれ位のコスト削減が出来て着陸料などに反映出来るのか?は少々疑問に思いますが、ボーディングブリッジのオペレーションコストも減らせる事も考えれば、将来的にボーディングブリッジの更新時期に当る地方空港のコスト削減策として活用出来る可能性も有りかも知れません。そう言う意味では今後の地方空港の運営のコスト削減の方法としても検討に値するかも知れません。


 ☆ 「無駄な地方空港の象徴」と言われる「茨城空港」。でも本当に「無駄で可能性が無い空港」なのか?「問題が無い空港」なのか?

 この様に色々と「ローコストオペレーション」についても工夫がされており、しかも航空自衛隊基地との併用の「軍民共用空港」のため建設コストも非常に低コストで出来ている茨城空港ですが、それでも開業当初から「無駄な地方空港」の代名詞の様に言われてきています。
 まあ、開業当初の就航路線は「アシアナ航空のソウル線」1日1往復のみでしたし、その後スカイマークの神戸線が1日1往復就航しましたが結局9月末で撤退という事になり、9月以降は又ソウル線1日1往復のみの空港に逆戻りしてしまいます。
 この様な事があり、しかも人口の多い首都圏ですが羽田・成田の二大空港が既に在りしかも両空港ともに発着回数が増強されつつある状況にあるため「東京から遠く離れて便数も少ない茨城空港を誰が使うのか?」という話になり、そこから「無駄な空港」という話の流れになってしまっているといえます。

 でも本当に世間一般で言われるような「無駄な空港」なのでしょうか?。此処で結論に変えて茨城空港は本当に「無駄な空港」で「可能性がない」のか考えてみたいと思います。

 (1) GWの利用状況と「HISによる茨城空港ジャック」に見れる「茨城空港の可能性」とは?

 私が茨城空港を訪れたのは5月1日、丁度GWの5連休の始まりの日でした。GWは正月休み盆休みと並んで「海外旅行のシーズン」という事もあり普通何処の空港も混雑します。そういう意味では茨城空港も「例外ではなく」混雑する時期といえるのですが、今回のGWの茨城空港も例外ではなかったといえます。
 しかし、今年のGWの茨城空港は他の地方空港とはチョット様子が異なりました。一つは「開港当初でまだ珍しい」こともあり地元の人たちを中心に空港見学の人が多く訪れていて、その見学客の為に混雑していた面もあります。又珍しいチャーター便が多く飛来していたので航空ファンが多く来ていたという面も見られました。
その様な「航空需要に直接係わらない」見学客が賑やかさを演出していた以外に、もっと茨城空港の航空利用客需要という点で直接的に効果のあるイベントが行われていました。それが「HISによる 茨城空港ジャック 」でした。

左・右:「空港ジャック」だけ有り、右見ても左見ても「HIS」の文字が氾濫。しかし格安空港としての「割り切り」が新たな道を開くか?

 格安旅行を売りにしている大手旅行会社のHISは、このGWに茨城県と組んで「茨城空港ジャック」のイベントを行い5月1日〜5日の間マリアナ諸島・中国・台湾・フィリピン等の比較的近距離の海外観光地との間で茨城空港を利用したチャーター便を飛ばして、GW旅行を販売していました。
 私がGWの休みを利用して訪問した5月1日は、丁度「茨城空港ジャック」の初日で海外に向けての出発便のピークの日だっのです。だから利用客も多く飛来した飛行機も多くてこんなに賑やかだったのでしょう。

 この「茨城空港ジャック」のイベントを最初は「HISが何をやっているのだろう?」と見ていましたが、よく考えれば「ナカナカ良いイベント仕掛けたな」と思いました。
 何故ならこの時期は国内線・国際線ともに超繁忙期ですから羽田・成田ではチャーター便を自由に多数設定するのは非常に難しいといえます。しかし所得水準の高い先進国に位置し 人口約3500万人と言う世界最大の人口を持つ都市圏 である東京圏では、長期休暇の時期には旅行需要が増大します。その需要に対して「定期便運行で大部分の枠を占めてチャーター便を飛ばしづらい」状況にある成田・羽田の両空港はGWの旅行ビジネスにとって大きな足枷となります。
 そこで、開港間もなくて利用客・運行本数も少ない茨城空港をジャックすることは「GWのチャーター便が自由に使える空港を確保する」と言う点でHISにメリットが有ったでしょうし、空港を管理する茨城県にしても「GWに多くのチャーター便が利用する」実績を作ることは「茨城空港が無駄ではない」事をアピールするメリットが有ったと思います。そういう意味では「絶妙な仕掛け」だったのかもしれません。

 今回HISと茨城県が組んで行った「茨城空港ジャック」ですが、ある意味「茨城空港の可能性」を見出す事になったのでは?と思います。
 確かに首都圏の空港は昨年から今年にかけて「成田空港B滑走路延長(北側延伸による暫定解消)・羽田空港D滑走開業&新国際線ターミナル開業」という一連の整備が完成を迎え発着能力が大幅に増強されます。しかし人口3500万人の首都圏でこれだけで「航空需要を賄う事が出来る空港能力を持った」という事は残念ながら言えないと思います。
 まあ国交省は「羽田をハブ化する」目標に突き進んでいますが、実際の所「羽田は国内線メイン・成田は国際線メイン」の枠組みの中で「羽田も国際線を入れて内際乗換の利便性を向上させてソウル仁川に対抗する」「成田の余裕の出た発着枠でLCC等の国際線の新業態に対応する」と言う事を考えているのでは?と思います。
 しかし、これだけで「首都圏の航空需要を十分に賄うことは出来るのか?」と言われれば難しいと思います。成田・羽田の能力拡張により、一時期いわれた「 首都圏第三空港 」が必要ほど空港の需給関係が逼迫しているとは言えなくなりましたが、今後急拡張するであろうLCCの存在やチャーター便・ビジネスジェットへの対応を考えると「サブ的な空港がもう一つ有ってもいい」状況であると思います。
 その「(サブ的な)首都圏第三空港」としては「 横田基地共用化 」なども検討がされていますが、地価の高い首都圏で「既存の施設の有効活用を図り安価に空港を作った」意義は大きいと思いますし、繁忙期の航空需要増大に対して「(限定的でも)バッファー的に使えるサブ空港」として茨城空港が機能する余地を示したのは大きいと言えます。

 確かに昨年〜今年の成田空港・羽田空港の一連の拡張工事により、首都圏の空港は「発着可能回数62万回(羽田≒40万回・成田≒22万回)」の時代を向かえ将来的には成田が地元合意の上発着回数30万回の体制をひければ発着回数の枠は合計70万回になり、滑走路の本数(6本)・発着回数(≒70万回)のキャパで見る限り首都圏の空港能力はニューヨーク都市圏(3空港・9滑走路・発着回数1,170,700回)には及ばないもののパリ都市圏(2空港・6滑走路・発着回数644,000回)を越す事になります( 資料引用先 )。
 「此処までくれば空港整備は一段落」という事も言えるでしょうが、これからの(特に海外への)航空需要拡大や「LCC」などの多様な航空サービスの登場を考えると「サブ空港」が在っても良いと思いますし、羽田・成田の緊急時のダイバード先としても「(小規模な)首都圏第三空港」が在っても良いと思います。
 その様なことから、茨城空港に「波動対応・新サービス対応」の首都圏のサブ空港としての役割を限定的にでも持たすことが出来る可能性を見出すことが出来るかもしれません。そういう意味で茨城空港には「可能性が十分にある」と言うことが出来ます。

 (2)しかし茨城空港が 「軍民共用空港」と言う事は本当に問題なのだろうか?

 茨城空港は上述のように「可能性を持った空港」であると言えます。又同時に新規の地方空港でありながら自衛隊基地との共用と言う「軍民共用空港」と言う道を選択したことで、昨年開港した静岡空港の約十分の一と言う格安の建設費で作ることが出来ました。そういう意味で考えれば「手にした可能性」と「格安の建設コスト」を天秤にかけて考えれば「非常にコストパフォーマンスに優れた空港」と言うことが出来ます。
 しかし、建設コスト面で「メリット」であった筈の「軍民共用空港」のスキームが現在裏目に出ようとしています。それが「 スカイマークの神戸空港線運休 」の問題です。6月24日にスカイマークは突如「神戸線の9月以降の運休」を発表し、その理由として「茨城空港は他の空港と異なり、自衛隊の指揮下で運航しなければならないことが判明いたしました。」「航空祭では運航ダイヤの大幅な変更を求められておりますし、観閲式では運航の中止を求められる可能性もあるようです。」と言う「軍民共用空港における自衛隊の存在」による運行制約を運休の理由に挙げています。

 確かに茨城空港と共用している航空自衛隊百里基地は、首都圏唯一の戦闘機部隊の駐屯基地でありしかも航空自衛隊唯一の偵察航空部隊も配置されているなど首都圏の防空だけでなく航空自衛隊の活動の中で大きな役割を果たす重要な基地です。それに7月の航空祭・3年に1回の航空観閲式等色々なイベントも開かれています。
 実際先に基地を設けていたのは航空自衛隊で間借りする形で作られた茨城空港ですから、飛行場の管制業務やスクランブル発進時の優先権等々自衛隊の行動を優先する旨の取決めが防衛省・国土交通省・茨城県の間で有っても不思議ではないと思います。実際細々した点で見れば、写真に有るように茨城空港の展望台にはガラスに細工があり百里基地の方が見えない様になっています。まあ防諜上の理由でしょうが基地の周りは脚立+双眼鏡でほぼ何処からでも覗ける状態ですからガラスの細工もどれほどの意味があるのか?疑問です。
 しかしながら、意味の有る無しは別にして規制がある「事実」から考えれば、茨城空港の運用は航空自衛隊に制約を受けている可能性は有ると言えます。その点でスカイマークの「神戸線廃止の理由」はありえる話であり、その点のスカイマークへの説明が不十分であるならば、今回の廃止問題の非は茨城県にあり只ですら就航便数が少なくて苦しんでいる空港運営にとって「自殺点」を与えたようなものです。

自衛隊百里基地の存在が見え隠れする茨城空港
左:自衛隊共用空港だが滑走路は別 (写真の飛行機は手前の民用の滑走路をタキシング中) 右:茨城空港の「軍民共用の制約」は展望スペースの曇りガラスだけでは無いのか?

 しかしながら、何かしらの制約が有るにしても「軍民共用空港だから駄目なんだ」と言う話は、少々短絡的過ぎる話だと思います。
 実際の所、現在ある日本の軍民共用空港は「丘珠・千歳・三沢・百里・小松・美保・徳島・那覇」の8箇所でその他にも岩国が「 滑走路沖合展開後の2012年に民間共用化 」を図ろうとしています。この内千歳基地・新千歳空港と百里基地・茨城空港は軍民で別の滑走路を使用していますが、それ以外の空港は滑走路も共用ですし、千歳・三沢・百里・小松・那覇の5空港は航空自衛隊の戦闘機部隊が展開している空港で共用を果たしていますし、三沢にいたっては自衛隊の戦闘機部隊だけでなく米空軍の戦闘機部隊も展開している飛行場で軍民共用化を実視し、厳しい条件の中で大きな問題も表面化することなく軍民が共存して飛行場を運営しています。
 この状況を見れば、厳しい制約が有りそうな軍民共用空港は在りますが、そこで特に問題がなくて今回茨城空港でスカイマークが「就航中止の根本原因」と主張するほどの問題が有ると言うのも少々解せない話です。実際問題として、他の共用空港では問題なく運行出来ていて「共用空港に起因する自衛隊からの制約」を理由にしての路線撤退が前代未聞で有る事から考えても、百里基地と茨城空港とスカイマークが共存出来ない理由は「茨城空港固有の理由」が有ると考えても可笑しくは無いと思います。
 例えば新千歳空港には千歳基地が隣接しているゆえに「旧共産圏航空会社の乗入制限」が有るといわれていますが、百里基地では今回のGWには中国からのチャーター便(それもフラッグキャリア以外)も問題なく就航していることから考えると、必ずしも「航空自衛隊が非協力的」とは言えない気がします。(百里基地は首都防空の要の飛行場。だからこそ「新千歳空港の旧共産圏航空会社の乗入制限」以上に中国系キャリアに敏感になっても不思議ではない)

 まあ、今回の問題が航空自衛隊・茨城県・スカイマークの何処に責任がある話なのか?は内情を知らない私にはわかりません。まあ今の状況を考えて推測すると、確かに茨城空港に軍民共用に起因する制約が有るのは事実だろうが、過去の行動から見るとスカイマークが軍民共用の制約を「撤退の理由」にしただけのような気がします。
 しかしながら、この出来事だけで「軍民共用空港はダメ」と言う事は出来ません。何故ならもっと困難な状況下で軍民ともにうまく運営している空港は他に沢山あるのですから、その成功例を考えれば「軍民共用空港」に関しては「何処でも共通の軍を優先すべき状況・民を優先すべき状況を決めるルール」が必要で有るにしても、今後とも資源としての軍用空港の有効活用も考えていくことが必要と言えます。
 何故なら国・自治体ともに財政状況が厳しい状況にあります。その中で今や「空港を新たに作ることは出来ない」状況ですし、地方では「空港の運営費もうまく捻出しないと空港の赤字に自治体が潰されかねない」状況です。その中で空港を整理する「一つの方策」として「地域内で軍用空港・民間空港統合・共用して運用コストを減らす」と言うのも一つの方策であると思います。実際富士山静岡空港でも近くの自衛隊の「静浜・浜松」のどちらかの基地を富士山静岡空港に統合して自衛隊基地跡地を活用する方策も有った気がします。
 今や新たな地方空港が出来る可能性はほぼゼロです。しかしこの狭い国土に100を超える空港が在る状況を考えるならば、この様な「柔軟な方策」を考えていく事が空港問題を考える上でも「運営コスト削減」の一つの手ですし、航空自衛隊から見ても「民間空港に展開の余地を作る」事は国防上防空機能の耐久性・柔軟性の向上につながります。その様な点からも色々な方策を考えるべきですし、今回の問題だけで「軍民共用空港はNGだ」とは言えないと思います。


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 ☆ あとがきに代えて 〜本当に茨城空港を苦しめて居るのは誰だ!?〜

 日本の空港政策を見ていると、本当に欠けているのは「空港運営に関するトータルのビジョン」でないかと思います。
 まあ「地方が空港を欲しがる」事や「空港を造ること自体での効果」が有る事は否定しませんが、少なくとも「需要が無い所に空港を造ってきた」等々の事が今世間で大きな注目を集め、地方空港の多くを「無駄な空港」と言う非難の嵐の中に投げ込んでしまったことは間違いありません。
 確かに地方空港の大部分が運営費を収入で賄えず赤字であり其処から見て「問題がある」事は間違いありませんが、その問題の一翼を担ったのは「地方の要望に従い闇雲に空港を造ってきた国土交通省」に有る事は間違いありません。

 しかし問題なのは、この国土交通省の「無策」は過去形ではなく現在進行形である事です。ある意味茨城空港はその「国土交通省の無策」の犠牲者になりつつあると感じます。
 実際、去年〜今年にかけて羽田・成田の発着枠は大幅に増えて首都圏の空港能力は大幅に増強されます。そこで羽田の増強分を羽田の国際化に振り向け、成田に関しては LCC向けの第三ターミナル を作りLCC受け入れを強化する事で、増強した羽田・成田の発着能力を使おうとしています。
 しかしながら、羽田に一部国際線を受け入れるのはまだ分かりますが、30万回への発着枠拡大へ未だ目処がつかない中で今の22万回発着枠では近い将来に又満杯になりかねない成田空港にLCCを受け入れると言うのは、将来を考えない施策といえます。
 LCCの様な会社は「多少都心から不便でも着陸料の安い空港」を選ぶのですから、(着陸料のダンピングをするかは別にして)世界有数の着陸料が高い成田へLCCを誘導するのは可笑しな話であり、その様な「ニッチなニーズ」に対応するために「サブ空港」として茨城空港のような空港が在るのだと思います。

 確かに「軍民共用空港」で色々な制約が有るでしょう。しかも空港から東京都心へは「 高速バスで1時間40分 」とアクセスの面でも決して便利な空港で無いのは確かです。
 しかしながら、東京に遠い軍民共用空港であるが故に低コストで建設できて、都会の空港で無いが故に低コストのオペレーションも可能なインフラになっています。だからこそ着陸料も下げられてLCCの様な会社を誘致しやすい運営構造になっているのです。しかし国土交通省は(地方空港だからか?)現実の面としてその様な茨城空港にLCCを誘導するような施策を考えず、無為無策のままで羽田・成田のみに力を入れて茨城空港を放置しています。
 このままでは、最悪の場合「可能性を秘めたまま茨城空港は立ち枯れ」してしまい、同時に空港需要が増大して羽田・成田は再び限界に達し、成田は普通航空会社の増便枠を確保出来ない中でLCCが移動すべき茨城空港は潰れていてLCCが成田に既得権益で居座ると言う構図になる可能性もありえるのかな?と思います。

 この様な状況が想定される中で、「限りある資源を適正に配分」し「将来に対する成長の可能性を保持する」為に調整をするのが「官」の役割では無いでしょうか?。
 確かに羽田は便利な空港ですし、今後国内線の需要が微増すれども爆発的に伸びる可能性は低いですから、前原国交相の考えの様に羽田発着枠拡大の余力を国際線に回して「羽田での内際乗換」の利便性をあげて「羽田をハブ化」するのも一つの方策だと思います。
 しかし、その様な施策の結果「羽田は繁盛して成田は苦境に立たされ茨城は立ち枯れる」事になって本当に将来の航空需要に対応出来るのか?それで将来にわたる「首都圏の空港需要」を賄う事が出来るのか?私は非常に疑問に思います。
 それならば、首都圏の空港の再編成が終わろうとしている今こそ、「羽田は国内線需要に答えつつ国内線+一部の国際線でハブ機能を強化」「成田は一部国内線ネットワークに配慮して国内LCCには着陸料をダンピングし国内線ネットワークを構築しつつ国際線のメイン空港と位置ずけ」「茨城はLCCとチャーター便などの波動輸送をメインにして1日20便〜30便程度が就航する首都圏のサブ空港とする」などの根本的な住み分けを考えてあげる事が大切だと思います。
 この様に国土交通省が「根本的に首都圏の空港をどうするか?」と言う発想を纏めて世間に示して実施していく事が必要だと思います。今の状況では前原国交相の「羽田ハブ化構想」だけが前面に出て、茨城空港は「無駄な地方空港」として沈没して結果的に首都圏の空港にとって好ましく無い結果が訪れる可能性も有ると思います。その様な事になる前に国土交通省は考えて欲しいですし、茨城空港の当事者である茨城県は「危機感を持って」働きかけて欲しいです。その事が茨城空港の死命を制するのでは?と個人的には考えます。




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