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使い慣れた経路に有るミステリーゾーンを走る列車?

-八王子〜大宮を直結する「快速むさしの号」乗車記-



TAKA  2006年07月20日



    

「快速むさしの号」大宮行き(左)と八王子行き(右)方向幕


 東京近郊在住の人々に取っては、武蔵野線は第二の山手線として東京から放射状に出ている各線間を結んでいるので、近郊間の移動にとって必要かつ重要な路線です。しかし東京近郊の拠点都市間の移動の場合、元々貨物線として作られた武蔵野線は均衡拠点都市に直接乗り入れていない為、大概の場合2回の乗換を強いられる事になり微妙に不便と言えます。
 その様な複数回の乗換を強いられる状況でありながら、特に武蔵野線と放射のJR線との接続駅ではどの駅でもかなりの乗換需要があり、武蔵野線を利用しての東京近郊地域での環状方面の流動が大きい事を示しています。

    

左:中央線西国分寺(上り)の武蔵野線への乗換状況  右:武蔵野線西国分寺(内回り)の中央線(下り)への乗換状況

 その様な拠点都市間の移動に複数回の乗換と言う「乗換抵抗」が存在する状況の中で、其れを解決してくれる「救いの神様」と言う様な列車が有ります。其れが今回の訪問記のテーマである「快速むさしの号」です。
 「快速むさしの号」は元々は「新幹線連絡」のリレー列車として97年に「こまちリレー号」として登場した列車で、その後98年に「新幹線リレー号」01年に今の「むさしの号」と名前を替え現在に至っています。運行本数は1日朝・夕の2往復で、武蔵野線及び武蔵野線と東北・中央線を結ぶ短絡線を使い八王子・立川〜大宮間を結ぶ列車(朝の大宮行き1本のみ府中本町発)として運行されて、毎日運転の臨時列車でありながらもう10年選手になろうかとしている列車です。(参考資料: むさしの号  [wikipedia]) 運行される本数こそ少ない物の上手く時間が合えば乗換の手間も省け非常に利便性の高い列車です。
 先日夕方5時過ぎに立川駅に立っていると朱色1号の201系が大部分の中央線上りホームの5番線に、スカ色113系の列車が入ってきました。最初は「立川どまりの中央本線の列車かな?」と思いましたが、中央本線の列車だと殆どが立川止まりなので乗客が全部降りるはずですが、乗っている乗客が降りません。可笑しいなと思い、行き先案内を見てみると「快速むさしの号大宮行」と出ていて、「そういえばこんな列車も有ったな〜」と思い出したのが、今回の訪問記の発端です。
 そういう訳で、今回偶々知り合った八王子・立川〜大宮間を直結し利便性が高い物の1日2往復しかなく存在感の薄い列車で有ると同時に、武蔵野線から中央線・東北線への2つの短絡線を経由すると言う定期列車としては珍しい列車である「快速むさしの号」を試乗して見る事にしました。


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 [1] 7/18 「快速むさしの号」試乗記(その1) 17:05立川→17:50大宮

 この日は丁度16時過ぎに国立で仕事が終わりその後の予定がフリーになってしまい、「只単純に家に変えるのも勿体無いな」と思っていたので、此処で思い切って今まで頭の片隅で気になっていた「快速むさしの号」の試乗を行ってしまう事にしました。
 仕事先からバスで矢川駅に出て其処から南武線で立川へ向い、立川駅に着いたのが丁度17時チョット前でした。早速「快速むさしの号」が来る中央線上り5番ホームへ向います。そうすると5番ホームには数人の人が列車を待っています。5番ホームは当分中央線の列車は無いので中央線利用者は4番ホームに居る筈ですからこの人達は「快速むさしの号」を待っている事は間違い有りません。本数の少ない列車ですが、意外に狙い撃ちで利用する人が居る様です。

    

左:立川駅に入線中の「快速むさしの号」  右:「快速むさしの号」車内状況(立川→新秋津:6号車)

 入線後一通り写真を取った後、車内の状況を見ながら一番後ろまで移動してから列車に乗り込みます。賑やかで何時も10両編成が走っている立川駅のホームにチョコンと6両編成の車両が停まっているのも多少の違和感を感じます。私が乗り込むと暫くして発車します。車内はどの車両も座席が3分の1位埋まっていて、全車両で100名程度の乗客かな?と言う乗車率です。
 取りあえず今まで乗った事の無い路線を走るので、今回は最後部で後ろ向きの被り付きを楽しむ事にしました。立川を出発後暫くは中央線を60km/h位の速度で流しながら走ります。国立を過ぎるといきなり30km/h位の速度に減速しポイントを渡り武蔵野線への短絡線に入ります。短絡線に入るとトンネルの手前で殆ど停止寸前まで減速します。多分前の信号が「赤」なのでしょうが、実際は中央線・武蔵野線どちらの運転に支障の無いこの短絡線区間で武蔵野線の開通待ちをしているのでしょう。

    

左:中央線と武蔵野線の短絡線の分岐点  右:武蔵野線の短絡線と脇を走る中央線下り列車

 周りを中央線快速列車が走る中で暫く待つと武蔵野線の線路が空いた様で短絡線のトンネルに入ります。単線のトンネルに入ると50km/h程度で暫く走った後、トンネル内で武蔵野線と合流します。その後新小平を通過し次の停車駅新秋津に停車します。新秋津では降車客は殆ど居ませんでしたが、数人/両の乗客が有りました。この客は大宮へ行くのか?次の停車駅の北朝霞への短距離客なのか?特殊なこの列車を利用する目的を考えさせられました
 新秋津を過ぎると東所沢・新座は通過して次の停車駅は北朝霞です。北朝霞では降車客は殆ど居ない物の新秋津の倍ほどの乗客が乗車してきました。北朝霞の次は終点大宮に停車なので、立川・新秋津・北朝霞と殆ど降車客が居ないと言う事はこの列車に乗っている人は殆どが大宮(もしくは大宮以遠)を目的地としている事がはっきり分かります。

    

左:北朝霞駅発車の風景  右:東北線への短絡線に入る為に西浦和駅脇を走る「快速むさしの号」

    

左:短絡線松戸方面と府中本町方面の合流点  右:武蔵野線短絡線と東北貨物線の合流点

 北朝霞を出た後暫く武蔵野線を走行後、荒川橋梁を越えた辺りで、ポイントを渡り西浦和駅の脇を通り東北貨物線への短絡線に入ります。この短絡線は東北線の西側・武蔵野線の北側で完全立体交差の複線のデルタ線を構成していて、武蔵野線に有る貨物用の短絡線の中で一番大規模な物であり、東北・高崎線方面の貨物列車を多方面にバイパスさせるキーポイントとなる重要な短絡線です。
 東北貨物線も今や湘南新宿ラインの走る重要路線になり線路容量が厳しくなった事も有るのでしょうが、短絡線の中では中央線短絡線の時と同じ様に時間調整をしながら40km/h程度のゆっくりとした速度で走ります。それでもゆっくりとした速度で走るのはほんの僅かで、直ぐに速度が上がり与野で地上に出た後は80km/h程度の速度で終点の大宮を目指します。
 最終的に大宮到着時点では6両編成で座席の3分の2程度が埋まり立ち客も少し居る様な状況です。乗客のグロスの数としては150名位にはなった感じです。大宮到着後乗客は足早に跨線橋方面に消えて行き、列車も回送列車となって出発していきます。折り返しは18:47発で約1時間有るので一度東大宮に引き上げるのかもしれません。
 約45分のミステリーゾーンを走る列車の旅でしたが、意外に利用客が多かったのと、利用者の目的地が大宮に絞られていたのには驚きました。存在感が薄くてもそれなりの固定客を掴んでいる感じがしました。出来てからもうかなりの時間が経過した列車ですが、何か中途半端な形で今まで続いてきた訳が今回乗って見て分かったような気がしました。

    

左:「快速むさしの号」車内状況(北朝霞→大宮:6号車)  右:大宮駅に到着した「快速むさしの号」


 [2] 7/18 「快速むさしの号」試乗記(その2) 18:47大宮→19:39立川

 大宮では「快速むさしの号」の折り返しに小一時間程時間が有るので、「 ecute大宮 」で軽く食事をした後、喫茶店でお茶を飲んで時間を潰します。駅ナカ店舗は駅での待ち時間消費に最適です。この様な使い方をするにはやはり「駅ナカ」に店が無いと不便です。「駅ナカ店舗」には色々意見が有りますが、この様な使い方には「駅ナカ」に店舗が必要な事も理解して欲しい物です。
 18:30過ぎまで時間を潰した後、「快速むさしの号」の入線するホームである3番線に降りてみます。暫くすると宇都宮側から115系が入線してきます。良く見ると黄色いヘッドマーク付です。観光列車などでは無いですが、運転本数の多くない特殊な列車ですので宣伝を兼ねて目立つようにする事は分かり易いと言えます。

    

左:大宮駅に停車中の「快速むさしの号」八王子行き  右:「快速むさしの号」車内状況(大宮→北朝霞:6号車)

 列車のドアが開くとホームで待っていた人達が三々五々列車に乗車していきます。それでもやはり平均すれば15名/両位の乗客です。始発駅で見る限り上りも下りも同じ位の乗車率です。何時もこれ位の乗車率なのでしょうが、マイナーな列車ですからこれだけ乗っていれば御の字なのでしょう。只3往復→2往復に減便されて朝夕の特定需要に絞り込んでいるので、毎日運転の臨時列車として存続させているのでしょう。
 大宮を発車すると、来た経路をそのまま戻り短絡線から武蔵野線に入ります。やはり短絡線では徐行運転をして線路の開通待ちをします。武蔵野線自体は多くの貨物列車が設定されていると言っても、旅客列車は朝で8本/時・昼間で6本/時・夕方で本/時と言う設定本数です。其れなのに短絡線で長く待たないと割り込む事が出来無いと言うのも変な話です。貨物列車のスジや臨時列車のスジがそんなには行っているのでしょうか?往復とも所要時間の1割以上は「乗り入れ先の開通待ち」に費やされているのは無駄な話です。これはダイヤの設定工夫で何とかして欲しい物です。
 帰りの八王子行きは停車駅は一緒ですが、北朝霞・新秋津の武蔵野線内停車駅では、降車が乗車を上回り新秋津で座席にクロスシートに空席が有る物の立ち客が出る程まで乗車してきます。「快速むさしの号」の乗客のパターンとしては上り・下りとも目的地に向かい乗客が暫増して行く形態です。短絡線を利用した直通運転が利用されていると言う事は「快速むさしの号」の存在意義は有ると言えますが、拠点都市の八王子・立川⇔大宮間の利用が少ないのはチョット寂しい感じがします。

    

左:「快速むさしの号」車内状況(新秋津→立川:6号車)  右:立川駅を発車する「快速むさしの号」八王子行き

 新秋津出発後、新小平を通過するとトンネル内でポイントを渡り中央線への短絡線に入ります。この先夕方ラッシュ時の中央線下りに乗り入れるのでトンネル内でかなり待たされるかな?と思いましたが、徐行しただけで比較的スムーズに中央線に入ります。新秋津発車後時間調整の為かゆっくり走っていたのが功を奏したのかもしれません。しかしゆっくり走るのにはイライラしても真っ暗なトンネル内で待たされるよりかは良いと言えます。
 立川では乗客の約半分の強の人が降車して行きます。しかしホームにで待っている人は殆ど乗車してきません。日野・豊田通過で八王子に向う人しか使えない列車だからでしょうか?対大宮が輸送が比較的多いという事を考えると、工場の多く産業の集積が有る日野・豊田停車にしても良いのかもしれません。
 今回は時間も無かったので、立川で降りて中央線に乗り帰宅する事にしました。その為上り・下り共に立川〜八王子間を見る事が出来ませんでしたが、立川到着・出発時の状況を居ると、八王子より立川の方が利用客が多いと言えます。高々「快速むさしの号」の乗降数一つとっても八王子より立川が圧倒的に優勢と言う今の多摩の都市勢力の状況を如実に示していると言えます。

 [3] 7/19 「快速むさしの号」を見て 7:48新秋津

 翌日国立(矢川)への通勤の途中、新秋津駅で府中本町行きを待っていると、外回りのホームに何か見た事る列車が入ってきます。良く見てみるとスカ色の115系です。と言う事は朝の「快速むさしの号」では有りませんか?これ幸いとばかりに電車を1本遅らせて様子を見てみる事にします。
 流石に朝の新秋津駅ホームだけ有り、かなりの人が列を作り列車を待っています。西国分寺で中央線乗換と府中本町で南武線乗換しか接続先が無い内周りに比べ、西武線沿線⇔埼玉県内各地への重要ルートになる外回りには学生を中心に内回りホーム以上のかなりの人が列車を待っています。その点から言えば西武線⇔埼玉県内各地を移動する人は多数居る事になりますが、幾ら埼玉の大都市と言えども「大宮」と言うピンポイントに向かう人がどれくらい居るのか?「快速むさしの号」の乗車率を注目して見ることにします。

    
左:新秋津駅に入線する「快速むさしの号」  右:新秋津駅に停車中の「快速むさしの号」

 「快速むさしの号」の乗降状況を観察してみると、驚くべき事に武蔵野線の普通の車両に比べ輸送力の少ない115系3ドアセミクロスシート車にホームで待っている人の半分位が吸い込まれていきます。「快速むさしの号」の乗車率は新秋津到着前は立ち客が「居るか?居ないか?」と言う程度でしたが、新秋津で西武線からの乗客を飲み込むとかなり人が増えて、明らかに立ち客がかなりの数居る事を見る事が出来ます。「快速むさしの号」は6両編成で3ドアセミクロスシートですから8両編成ロングシート車の武蔵野線と混雑の状況も比較し辛いですが、見た目はほぼ同じ位乗っています。それだけ「大宮」を目指す人が多いのかもしれません。
 「快速むさしの号」が出発して行くと外回りホームが明らかに空いたのがわかります。この列車だけは八王子始発でなく府中本町始発ですが(朝ラッシュの中央線にこの列車を走らせる余裕は乏しいだろう)その様な事も有り、新秋津到着時はラッシュ時にしては空いている感じなのに、新秋津の客を乗せると通勤列車の混み方になってきます。
 しかし確かに「中央線快速電車のダイヤに影響を与えない為」と言う事で、新秋津経由で回送して府中本町発にするのはわかります。実際中央線朝ラッシュの一番激しい時間帯ですからこの様な考え方を起こすのも当然です。只八王子〜国立間であれば、一番運行本数の多い立川〜国立間でも快速電車の武蔵小金井発のスロットの分が空きになっている筈です。「毎日運転臨時列車」なのですから、「快速むさしの号」の利用率が悪かったり混雑が増せばそのスロットを東京行きに振り返ればいいだけです。臨時列車の柔軟性を生かして何とか朝の1本も八王子始発にして欲しい物です。そうすれば「新幹線連絡」と言う意味でも効果が有るかもしれません。(それならもう少し早い時間がいいのかな?)


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 今回一寸したきっかけから「快速むさしの号」を試乗する機会を得ましたが、私にとって身近な所でも色々と知らない列車が有るものだと改めて感じさせられました。
 題名に「使い慣れた経路に有るミステリーゾーン」と言う表現を使いましたが、私に取っては「立川〜武蔵野線〜大宮」は比較的使い慣れているルートですが「西国分寺・南浦和で階段で乗り換えるのが当然」と思っていたので、短絡線の存在こそ知っていましたが「貨物を運ぶ短絡線を使って人間の乗った列車を運行する」と言うのには殆ど目が行きませんでしたので、「快速むさしの号」は私に取り正しく「ミステリーゾーン」を走る列車と評せる列車と言うのが今回の感想です。

 この様な「武蔵野線の短絡線機能を利用して東京近郊の拠点都市を結び、同時に大宮での新幹線接続を計る」と言うのは、気が付きそうで気が付かない発想です。その様な路線が有るのを知っていても「貨物線だから」と言う理由で頭から否定的に考えてしまう事は多いと言えます。それこそ良い意味での妄想が有る「鉄ヲタ」であれば気がつきそうですが、既成概念に縛られる制約の有る人にはなかなか目が付けられないポイントで有ると思います。
 近年のJR東日本であれば「湘南新宿ライン」がその様な既成概念をブレークスルーした発想で新たなルートを発掘した好例で有ると言えますが( 鉄道における「ブレークスルー」の重要性について考える :参照)良く考えれば「快速むさしの号」も湘南新宿ライン以前に試された「既存インフラを有効活用したブレークスルー」の好例で有ったのだと、今回改めて感じさせられました。
 但し惜しむべきは「ブレークスルーの先輩」である筈の「快速むさしの号」は今や細々と運行され埋もれそうになってしまっている事です。「首都圏串刺し」の湘南新宿ライン程とは言いませんが、「武蔵野線の短絡線」を利用した「快速むさしの号」にもそれなりのインパクトは有ったと考えられます。其れを生かせなかったことは返す返すも残念な事で有ると言えます。
 未だ今からでも遅くは無いと言えます。車両・本数共にもう少し梃入れして(出来れば201系6両編成で良いから2編成投入して1時間毎位の頻度は欲しい)東京近郊拠点都市間の移動の利便性向上に貢献して欲しい物です。又このコンセプトを大宮を拠点に「大宮〜武蔵野線〜京葉線〜千葉港」等でも生かせないものでしょうか?未だこのまま朽ち果てるのは余りに惜しいコンセプトの列車と感じるのは私だけでしょうか?





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