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「2」鹿島鉄道存続の為の運動「かしてつ応援団」「鹿島鉄道を守る会」について
 

 この様なローカル鉄道において存廃問題が発生した時には、大抵「存続運動の団体」が発生するのが、今までの流れでした。その点今回2度目の存廃問題の瀬戸際に立たされた鹿島鉄道とて例外では有りません。
 鹿島鉄道の場合は、一度2001年8月の航空自衛隊百里基地へのジェット燃料輸送休止に伴う貨物輸送廃止に起因して、鹿島鉄道が沿線自治体に支援を求めた時に、沿線自治体と茨城県が「鹿島鉄道対策協議会」を発足させるのと同時に、「鹿島鉄道を守る会」が組織され、沿線の中学高校生が「かしてつ応援団」を組織して署名・陳情活動を行い、5年間計2億円の公的補助を引き出し現在までの存続の道筋を引いた実例が有ります。
 特に「 日本鉄道賞特別賞 」「 国土交通省ベストプラクティス集 」にも取り上げられた「かしてつ応援団」は、その後日立電鉄等でも発生した「学生による積極的存続運動」の嚆矢となるもので、鹿島鉄道存続運動の象徴で有り特徴とも言える存在です。

 今まで路線存続に成功した所の大部分には、その是非は別にして特徴的な市民団体が存在します。(万葉線のRACDA高岡・福井のROBAの会等)鹿島鉄道存続運動の場合正しく「かしてつ応援団」がその象徴的存在と言えるでしょう。
 その点を踏まえて、今回は「鹿島鉄道存続の為の市民運動」である、「鹿島鉄道を守る会」「かしてつ応援団」及び、現在沿線で展開中の存続の為のシンボル的運動「かしてつブルーバンドプロジェクト」について焦点を当てて見たいと思います。


 ☆イマイチ良く分からない?「鹿島鉄道を守る会」

 先ずは「 鹿島鉄道を守る会 」です。この団体は私の様な第三者が傍から見ていると、鹿島鉄道存続に関して何を考え具体的にどのような活動をしているのかが、残念ながらイマイチ良く分かりません。
 私もHPを見たり、ネットで検索を掛けたりしていますが、HPに「誰が会長でどのような会の概要か」も出ていません。ですから何処の誰が事務局で活動しているのかを調べても探せませんでした。只かしてつ応援団のHPなどを見ていると、確かに存在している団体である事が分かるだけです。
 
 確かに鹿島鉄道存続問題に関しては「かしてつ応援団」と言う「惑星」が存在している為、目立たなくなっているのかもしれませんが、それでもPRが不足していると感じます。
 本来高岡でも福井でも存続運動が成功したのは「明確なビジョンを持った」「リーダーシップを発揮する」大人の団体が有ったからこそ、市民による存続運動が成功したのです。その点は間違い有りません
 この鹿島鉄道存続問題で、その役割を中高生主体の「かしてつ応援団」に求めるのは酷な話です。其処は連携を取りつつ大人が有る程度前面に出て市民活動をリードしなければ、市民活動は成功しないと思います。その役割を果たすのは本来は「鹿島鉄道を守る会」だと思います。しかし肝心要の「鹿島鉄道を守る会」の活動が見えてこないのです。
 実際今回鹿島鉄道を訪問して見ても、存続活動へのアピールの主体は子供たちが行っている「かしてつ応援団」が主体の物であり、HPを見る限り積極的な情報発信が見えますが、それが実態として現地では感じられませんでした。

 此処から先は私個人が感じたことですが、逆にHPを良く見てみると、この団体の考え方に疑問を持つ側面も有ります。
 「鹿島鉄道を守る会」のHPを見て、「 提案・元気になる鹿島鉄道 」と言う項目で、鉄道アナリストを自称する川島令三氏の提案((1)電化・(2)百里空港への支線を設けつくばエクスプレスを石岡まで延伸して東京との直通特急を走らせる・(3)鹿島臨海鉄道と接続し成田空港と百里空港間特急で結ぶ・(4)JR鹿島線と連携し浜駅からの遊覧船を出して東京から霞ヶ浦を周遊できるようにする・(5)榎本駅から百里基地へのパイプラインを更新する・(6)高出力軽快気動車で急行運転を行い時間短縮を図る)が真面目に掲載されているのを見て、はっきり言って驚きました。
 この川島案を全部実現するのに一体幾ら掛かるのか?直接関係ないTX石岡延伸を除いても、50億では出来ないでしょう。100億円近くになるかなりの金額が必要です。これは鹿島鉄道の全額欠損補助の約66年分(投資額100億と仮定して)になります。それで沿線の過疎状況から考えてどれだけ需要が有り、採算が取れるのかが保証のない話です。こんな極めて非現実的な話をHPに取り上げるだけで「現実を知らないヲタの話」と言う解釈がされても可笑しく有りません。
 その他にも「身近な提案」として155個の改善提案が掲載されていますが、それ自体は否定はしませんが内容はミクロに関する話で、全体構想のような物は残念ながら見つけることが出来ません。
 この点から考えると、「公的支援を求める」以外、「鹿島鉄道はこうすれば良くなる」「鹿島鉄道を存続させる為にはこうしたい」と言う明確なビジョンを持ち合わせていないのではないかと愚考します。

 この状況が「鹿島鉄道を守る会」の正体を曖昧にして、存続運動でリーダーシップを発揮させない、最大の理由ではないでしょうか?
 つまり幾ら探しても「理念」「ビジョン」が見当たらないのです。理念もビジョンもなく汗もかかない市民運動では大願を成就させる事はできません。実際問題その様なビジョンの無い市民活動では鹿島鉄道を存続させる事はできないのです。
 この団体がその様な状況では、鹿島鉄道存続運動の先行きは極めて困難が予想されます。せっかく「かしてつ応援団」が盛り上げている存続運動に水を差さないように、存続へのビジョンの構築と「鹿島鉄道を守る会」独自の具体的運動の再構築と組織の強化が必要であると考えます。


 ☆活動を誤解していた「かしてつ応援団」

 次に有る意味で鹿島鉄道存続運動の本命ともいえる「 かしてつ応援団 」です。「かしてつ応援団」は前述の様に「 日本鉄道賞特別賞 」「 国土交通省ベストプラクティス集 」にも取り上げられ一躍有名になった団体ですが、中高生の運動が今までこれだけ綿々と引き継がれてきて地道に活動しているとは知りませんでした。
 最初に「日本鉄道省特別賞」を受賞した時に、この団体について知りましたが、その時には「学生が公的支援を求める署名を集めただけではないのか?それでは地道に活動せず数の圧力で要求する「強訴」と一緒だ。その団体が汗をかき、金も出して地方鉄道を存続させた団体を差し置いて日本鉄道省特別賞受賞は可笑しい」と思っていました。
 しかし私のその考えが、半分は的外れな見方であったことは、現在の「かしてつ応援団」の活動を見れば明らかです。

    
 左:「かしてつ応援団」が塗装して美化した玉里駅待合室  右:「かしてつ応援団」が塗装して美化した常陸小川駅駅待合室


 「かしてつ応援団」設立当初は自治体間で公的補助実施が纏まれども具体化せず、「補助を実現させないと存続できない」状況に有った事は間違い有りません。その状況の解消の為に最初の活動に「公的補助を求める署名」を選択したのは致し方なかったのかもしれません。
 しかし大切なのはその後です。高校生に「地域交通のビジョンを考える」「第三セクターを作るスキームを考える」「出資金・巨額の募金を集める」と言う「RACDA高岡」などが実現させた市民活動をやれと言うのは無理な話です。
 その様に出来る活動に実質的に制約のある学生が、可能な範囲の中で「駅の美化」「利用促進の宣伝」「地元へのアピール活動」等を長い期間地道に行ってきた事は特筆に価すると思います。
 正直言って行ってきた活動はRACDA高岡のRACDAキャラバンのビジョンを前面に出さないバージョンであると言えます。逆に駅の美化活動等で活動を見える形で行ってきた分、社会や地元への説得力はあるのかもしれません。
 人に聞く所によると日立電鉄存続運動の時には「高校生の団体が知事に陳情に行くときに、日立電鉄を使わず学校からバスで行き「存続の陳情に来る団体がその存続を求める鉄道を利用しないのか」と呆れられた」と言う前例も有ったようですが、(似た様な話はRACDA高岡でも有ったらしい)この様な話は市民活動が真に活動が根付いていなく取って付けた段階には往々にしてありえる話です。
 しかし「かしてつ応援団」はその様な段階を過ぎていると言えます。市民団体として見ても「地道に活動している」と言えますし、学校教育の側面から見ても「地域への貢献・社会への貢献を教え、大人の社会とも触れさせる」素晴しい実地教育であると言えます。
 
 私も「今まで誤解していた罪滅ぼし」と言う側面も有りますが、此処まで地道に学生が「社会を思い・鉄道を思い」活動してきた物を「鹿島鉄道廃止」と言う形で無にしたくはないと考えます。
 その為には大人の努力が必要です。中高生が努力して折角此処まで盛り上げてきた活動なのですから、此処で足りない分は大人がフォローしてあげて、存続運動を成就させ、一連の社会貢献活動の素晴しさを成果にしなければいけません。そうしないと今までの中高生の努力と希望を無にしてしまう事になります。
 その様な点から考えても、鹿島鉄道存続問題に関しては、大人の活動(特に「鹿島鉄道を守る会」)に不甲斐なさを感じるのと同時に、「此処が存続運動のアキレス腱になるのではないか?」と危惧します。折角中高生が盛り上げてきた運動を大人が挫折させてしまうのであれば、その結果は廃線以上に最悪であると言う事が出来るのではないでしょうか?
 同時に今や鹿島鉄道存続運動の鍵を握るのは「かしてつ応援団」で有る事は間違い有りません。大人の存続運動が不甲斐ない分、「日本鉄道賞特別賞」「ベストプラクティス集採用」と言う金看板を持ってネームバリューのある「かしてつ応援団」の活動が、地域・沿線自治体・茨城県を鹿島鉄道存続へ動かす原動力になると考えます。鹿島鉄道存続運動により「新しい市民運動の形を作る」「若者の社会への関心を惹きつける」と言う好例を作り出すためにも、ぜひ「かしてつ応援団」には頑張って欲しい物です。


 ☆若者らしい発想?「かしてつブルーバンドプロジェクト」

 2007年3月の公的補助終了を睨み、関東鉄道と茨城県・沿線自治体の間で廃止を巡る綱引きがされている微妙かつ危機的状況の中で、「かしてつ応援団」が中心となり鹿島鉄道存続問題に注目を当てるプロジェクトが行われています。それが「 かしてつブルーバンドプロジェクト 」です。
 このプロジェクトは「 リストバンドを付ける事で、3月19日に行う、「カシテツを救え。鹿島鉄道を応援するメッセージ発信会」の告知と幅広く配布し、それを存続活動の賛同者して、一人でも多くの方にシリコン製リストバンドを身に着けてもらうことを目的とする。 」と言う鹿島鉄道存続問題への意識喚起を目的としたプロジェクトで、「かしてつ応援団」が事務局をしています。
 このブルーバンドは地域の大型スーパーや鹿島鉄道の駅でも売っており、今回の訪問時に私も常陸小川駅で1つ購入してきました。

    
 左:ブルーバンドと「鹿島鉄道を応援するメッセージ発信会」ポスター  右:ブルーバンドとポスターと鹿島鉄道1日フリー切符


 このプロジェクトはリストバンドを1個100円で販売or100円以上の募金で1個進呈で、その売上を「鹿島鉄道へ直接、募金を渡すのではなく、収益増加に直結するような事業を実行委員会で行う。」と言う内容です。
 存続問題と言う生臭い問題でなく、もっと根底の部分に関わる部分でありながら普通の人々にとっては比較的は入りやすい内容である「鹿島鉄道への興味を惹く」と言う意味で、「かしてつ応援団」が作る「メッセージ発信会」は非常に意味のあるものだと思います。
 同時に「学生達がやっているから欲が無いな」と私は思いましたが、1個100円で1万個、合計100万円集めるブルーバンド販売での募金は「良く考えたな」と思いました。(もう少し活動を野心的にして、リストバンドをもう少し立派にして1個500円〜1000円位にして2万個位にしても良かったのではないかな?と私は思うが・・・。そうすれば「少額の寄付を広く集める」「リストバンドを象徴にして鹿島鉄道存続運動の結束力を高める」と言う効果を高められたと思うのだが・・・)。
 特に感心したのは「募金で収益に直結する事業を行う」と言う点です。問題は「何をやれば収益に直結するのか?」と言うメニューが思い当たらない点にあると言えますが、存続運動の発想の根本に「鹿島鉄道を存続させるには収益を上げてもらわないとダメ」と言う点に、「かしてつ応援団」の中高生が気付いて行動している点に極めて感心しました。
 このプロジェクトは「しっかりした理念に基づき」行われているのに加えて「若者が近づきやすいリストバンドを象徴にする」若者らしい柔軟な発想で行われています。私の知っている限りでは鉄道存続運動の中では、リストバンドで結束感を出しながらイベントを盛り上げると言うのは、鉄道存続運動では珍しい部類に入る運動だと思います。
 但しこれだけで鹿島鉄道が存続できるわけではなく、存続運動の第一歩に過ぎないと言う事は「かしてつ応援団」自体が理解をしているでしょう。しかしこの様なイベントで地域の関心を盛り上げていかないと、鹿島鉄道存続運動の盛り上がりは期待できません。3月19日に「かしてつ応援団」が主催する「鹿島鉄道を応援するメッセージ発信会」が盛況で終わり、鹿島鉄道存続運動がより一層盛り上がる事を期待して止みません。(因みに会場の玉里村総合文化センターへは常陸小川から無料送迎バスが運行されるそうです。)


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 今回此処では鹿島鉄道存続問題を巡る市民運動について「鹿島鉄道を守る会」「かしてつ応援団」「かしてつブルーバンドプロジェクト」の3つを見てみました。この市民運動の特徴は「中心が中高生」と言う点です。
 今までローカル鉄道存続に成功した高岡・福井にしても、中心は公共交通廃止に危機感を持った比較的コアな層の大人が中心になって活動していましたが、鹿島の場合実際に利用して其処から危機感を抱いた中高生が(前例が無い物を)作り出し継続して運動している点に有ります。その点では、今まで日本にない形のローカル鉄道存続の市民活動と言う事が出来ます。

 しかし最大の問題は「如何にして鉄道を地域の中で生かして行くかのビジョンが明確でない」と言う点です。「鹿島鉄道を守る会」に至っては前述のような状況ですし、「かしてつ応援団」とて「かしてつ応援団の中高生と住民有志が一体となり、県・沿線自治体へ鹿島鉄道への公的支援継続を求める」事で「大切な地域資産の鹿島鉄道を守る」と言うのが、根本方針です。
 だかこれではもし公的支援継続を引き出したとしても、2003年に5年間計2億円の公的支援が決まり危機を脱した時と同じであり、鹿島鉄道の永続的な存続を保証する物では有りません。鹿島鉄道の場合親会社の関東鉄道がTX開業に伴い経営危機が発生し、その余波で廃止を通告しようとしている状況から考えると、今回支援を勝ち取ったとしても完全全額赤字補助でなければ、補助があっても関東鉄道が鹿島鉄道の廃止を言い出す可能性も有ります。
 この様に鹿島鉄道存続問題に関わる団体は「公的支援継続」を目的に活動をしていますが、公的支援獲得と言う活動の目的を果たしても存続が継続する保証が無いと言う極めて不安定な状況に有ります。
 この不安定状況を脱出して、真に永続的に運営される鹿島鉄道を目指すには、「公的支援継続」要求獲得だけでなく、如何にして地域で鹿島鉄道を運営して行くのか?と言う鹿島鉄道運営の永続的なスキームを作り出す必要が有ると言う事です。次章では「永続的に鹿島鉄道が存続できるスキーム」のあり方について考えて見たいと思います。



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