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「3」 鹿 島 鉄 道 存 続 の 具 体 的 方 策 を 考 え る
 

 この様に市民運動がされているにも関わらず、鹿島鉄道に関しては2月20日の鹿島鉄道対策協議会で、親会社の関東鉄道から正式に「 来月、鹿島鉄道の廃止届を出し、来年4月には廃線できる状況を整えたい 」との表明がなされました。つまり3月31日までに関東鉄道は鹿島鉄道の廃線届けを国土交通省に提出すると言う事です。
 遂に存続問題の最後のカウントダウンが始まってしまいました。この様な切羽詰った状況ですが、果たして鹿島鉄道を存続させる道はあるのでしょうか?結論に変えて「鹿島鉄道の状況」「鹿島鉄道の存続策」について、私の個人的試案を交えて考えて見たいと思います。


☆現実問題としては「廃線止むなしの状況」

 実際今の鹿島鉄道の状況はどのような物でしょうか?それが分からないと何も先に進まないと言えます。一番最初のページで、鹿島鉄道の概要を掲載しましたが、此処ではそれを再掲すると同時に、昨年3月に同じ茨城県内で茨城県・沿線自治体の支援が得られず廃線になった日立電鉄の統計も掲出して比較しながら検討したいと思います。

 「鹿島鉄道主要指標」(トップページの表を再掲出)   
年度営業キロ輸送人員定期客貨物量輸送密度職員資本金営業収益営業費用営業損益
94年27.2km1360千人834千人55千トン100百万円483,494千円529,026千円-45,532千円
97年27.2km1185千人711千人54千トン869人/日43名100百万円433,538千円493,681千円-60,143千円
01年27.2km946千人549千人678人/日45名100百万円265,460千円413,722千円-148,262千円


 「日立電鉄主要指標(比較の参考資料として)」   
年度営業キロ輸送人員定期客貨物量輸送密度職員資本金営業収益営業費用営業損益
94年18.1km3802千人2933千人212百万円603,270千円616,055千円-12,785千円
97年18.1km2918千人2130千人2399人/日32名212百万円486,365千円594,561千円-108,196千円
01年18.1km2035千人1383千人1710人/日25名500百万円399,342千円440,154千円-40,812千円

 ※数字は「数字で見る鉄道2003(01年度)」「鉄道ピクトリアル96年4月増刊号「関東地方のローカル鉄道」(94年度)」「年鑑日本の鉄道2000(97年度)」から引用(一部は引用資料から算出)してます。(04年度の定期人数のみ「年鑑日本の鉄道2004」から根拠資料を引用しています)
 ※「03年の鹿島鉄道貨物量→貨物輸送廃止・日立電鉄の貨物量→貨物輸送実績なし・それ以外の所→上記資料にデーター無し」を示してます。

 これを見て明らかなのは、補助を受けて存続した鹿島鉄道の方が、日立電鉄より状況が悪いと言う事です。全ての数字を見ても鹿島鉄道の方が数字が悪いのは一目瞭然です。この数字を見る限り日立電鉄が補助を得られず廃止された事からも考えて、「鹿島鉄道の廃止は致し方ない」「鹿島鉄道を今後とも支えるのは困難だ」と言う結論に達する事は間違いないと言えます。
 日立電鉄・鹿島鉄道両方の鉄道を見てきましたが、鹿島鉄道に取り唯一存続にプラスになる点は、「現時点ではインフラに手を加えなくても運行に支障が無い」と言う点です。丁度2年前に日立電鉄を乗りに行きましたが、日立電鉄は「橋梁の架け替えが必要な所」「変電所の更新が必要な所(電車の起動時に電圧降下で発進がギクシャクするほど)」「レール・軌道の更新が必要な所」が数多くあり、運行費補助に加え多額のインフラ改善の補助も必要な状況でした。その状況に比べれば、鹿島鉄道は一部車両の更新は必要な物の、軌道・施設関係インフラは当面大規模な補修の必要が無い状況です。鹿島鉄道存続に唯一有利な点はこの点だけであると言えます。
 只この数値を見る限り鹿島鉄道の鉄道事業は年間148千円の赤字を出していて、今までの公的補助5年間2億円(年間4000万円)では「焼け石に水」でその赤字額1億円近くは、鹿島鉄道の関連事業と関東鉄道からの内部補助で支えられていたことになります。実際は関連事業といっても規模は高が知れているでしょうから、今でも年間1億円近くの内部補助を関東鉄道が迫られている事になります。これは関東鉄道に取っては極めて重い負担です。これでは廃止を言い出すのは致し方ないと言えます。

 実際地方ローカル線問題で昔路線廃止が行われた、「 旧国鉄の特定地方交通線 」の基準で見ると鹿島鉄道・日立電鉄両方とも「特定地方交通線」に入り、しかも鹿島鉄道は適用除外に引っかかる項目も見当たらず、第一次申請で廃止届けが出された路線のレベルと、輸送実績に点で見れば殆ど変わらない悲劇的な状況に有ります。
 まして平行道路は整備されていて、バスの運行に支障も無い状況です。特に石岡〜常陸小川間で完全平行している国道355号線は、片側1車線の物の完全に整備されていてバス運行に全く支障が有りません。実際この前の試乗の時にも「流れに乗った車(法定速度はオーバーしているだろうが)」が私の乗った鹿島鉄道の列車を抜き去る場面が多く見られました。

 
 鹿島鉄道と並行して走る国道355線(鹿島鉄道線路の左側)


 この様な状況では、データーを冷静に見る限り「廃止は致し方ない」と言う事になります。今の鹿島鉄道の現状に近い旧国鉄特定地方交通線の第一次選択路線で第三セクターに転換した路線でも現況のまま運行している路線は軒並み苦戦しているのが実情です。加えて三木線(三木鉄道)・神岡線(神岡鉄道)・大畑線(下北交通)・黒石線(弘南鉄道)の様に、転換した後も廃止や廃止問題が発生するような路線が存在しています。
 その点から考えても、鹿島鉄道の今後の運営は極めて難しいと言う事が分かります。又今の現実問題として、すでに民間企業で運営し維持できるレベルを超えています。その点を合わせてみれば今回の関東鉄道の決断は致し方ないというのが実情でしょう。


☆今回の廃止問題で「公的助成を正当化する根拠」はあるのか?

 上記のように冷静に見れば「廃止やむなし」の状況に有る鹿島鉄道ですが、果たしてこの「廃止やむなし」の現実を否定し、茨城県・沿線自治体に対し「この様な状況であっても補助を求める」理論的根拠は無いのでしょうか?
 現実問題として幾ら「廃止したくは有りません」「公的補助をお願いします」と言っても、相手を説得する根拠と理論武装がなければなりません。世論を動かし社会を動かすにはそれが必要です。此処では「何故鹿島鉄道に公的補助が必要なのか?」と言う事について考えたいと思います。

 先ず実情として鹿島鉄道は「学生の輸送等で地域に貢献している」と同時に「小川町・鉾田市」に取っては、「鹿島鉄道〜石岡乗換〜フレッシュひたち(or常磐線普通)」が対土浦(地域の中心都市)対東京への現存の最短公共交通ルートであると言う点です。
 地域内・地域間の移動で車を利用できない老人・学生・子供は交通弱者であり、その人たちの移動手段を確保する事は「シビルミニマム」の確保のために必要なことです。まして電車で通学する高校生の通学手段を取り上げる事は、就学の機会を奪うことになりかねません。実際はバスで代替えするにしても、其処に不便を強いる事になり地域の子供たちにハンデを与える事になります。これは何としても避けなければなりません。
 加えて対土浦・対東京の公共移動手段を取り上げてしまう事は、地域の弱体化を招く事になります。残念ながら今の時代は、大都市にへ簡単に移動できない場所に繁栄はありえません。大都市に簡単に移動できない地方に待っているのは深刻な過疎化です。その点から考えると鹿島鉄道廃止で対東京への鉄道輸送を失う小川町・鉾田市に取っては大きな痛手になるでしょう。正直言えば百里基地官民共用化によるプラス効果以上のマイナス効果を引き起こす可能性が有ります。
 今でも鹿島鉄道の能力が地域にもたらせる効果を利用し切れているとはいえませんが、利用実態が低くても現実として今有る路線が無くなれば、その損失は大きい物があると言えます。その社会的損失を食い止めるためには、最低限の公的補助は必要であると言えます。

 加えて今回の廃止問題で最大の問題は「地域間での不平等」と言う問題が有ります。今回関東鉄道は「TX開業に伴う経営悪化の影響で、鹿島鉄道に内部補助できなくなったので廃止する」と言っていますが、TX自体は茨城県が大株主の会社で、茨城県が多額の公的資金をつぎ込み、しかも茨城県や東京都が「赤字時・資金不足時には責任を持って補填する」と一筆まで入れて力を入れている事業です。
 ある意味鹿島鉄道はTXに追い詰められたともいえますが、問題なのは鹿島鉄道沿線の住民たちはTXの恩恵を全く受けていないということです。何故県税を払っていて、県税を投入した事業にその恩恵を受けていないのに圧迫され自分たちの鉄道が廃止されなければならないのか?と言う問題が発生してきます。
 この矛盾は過去に「 交通総合フォーラム 」「 TAKAの交通論の部屋 」で「 TX訪問記 」「 TX開業に伴う優勝劣敗が明らかに 」において述べていますが、鹿島鉄道は需給調整規制の撤廃の影響を一番の末端で受けてしまう形になっています。これは好ましい事では有りません。
 つまり、今回の鹿島鉄道廃止問題に関する最大の正当化の根拠は「TXには多額の県税が注ぎ込まれてきた。その茨城県主体とも言える事業のTX開業による競争の影響で、玉突きで回りまわって一番弱者の鹿島鉄道が親会社の内部補助を断ち切られ廃止に追い込まれる事になった。我々(鹿島鉄道沿線住民)はTXの恩恵を受けて居ないのに、地元の鉄道の廃止と言う事態に直面している。この原因の大元は県主体とも言える事業のTXに起因する。TXほど資金をつぎ込まなくても十分鹿島鉄道は維持できるのだから、茨城県は我々の生活の足にも公的補助して維持をする義務があるのでは?TXで恩恵を受けた守谷・つくば周辺の住民も、TXの間接被害を受ける事になる鹿島鉄道沿線住民も同じ茨城県民だ」と言う事になります。このロジックに多少無理はあるにしても、茨城県を説得する根拠にはなりえると思います。

 この様に多少は無理があろうとも公費を引き出すのですから、「お願いしま〜す」と訴えかけるだけでは無理が有ります。又同時にそれだけでは県民多数の説得をする事は難しいと言えます。その為には説得する為の理論武装が必要です。
 その点「鹿島鉄道を守る会」「かしてつ応援団」にはその理論武装が足りないのかな?とは感じました。「かしてつ応援団」の場合、中高生がけなげに存続運動を頑張って居るということ自体が同情を呼び人々の共感を得る事はできます。しかしそれだけでは物足りないのも事実です。その様な事も有り、ここでは「公的補助を正当化する理論的根拠」と言う物を考えてみました。


 ☆ではどうやって存続のスキームを作るか?

 さて本題です。この様な経営的にも極めて厳しい状況で、関東鉄道の廃線届け提出まであと1ヶ月程と言う追い詰められた状況で、今後とも鹿島鉄道を存続させるための方策はあるのでしょうか?極めて難しい事は百も承知ですが、此処ではその「鹿島鉄道を永続的に存続させるスキーム」について、実現性のある方策を考えて見たいと思います。

 (1) 先ずは時間を稼ぐ事が重要

 先ず一番大切なのは「時間を稼ぐこと」です。確かに今のスケジュールでは「来月には廃線届け提出」「1年後には廃止」になってしまいますが、その間に新しいスキームを決めるのは無理が有ります。諦めるにしても新しいスキームに移行するにしても、検討・調整の時間が必要です。
 その為には「鹿島鉄道対策協議会」で茨城県・沿線自治体に「1年間は時限で現行補助(できれば+αの補助)を継続する代わりに、1年間廃止届けの提出を延期する」と言う内容を関東鉄道に提示してもらい、関係者で合意する必要が有ります。
 現実問題として、沿線自治体が市町村合併で動きが取りづらい中で、茨城県・沿線自治体で18年度予算が既に成立している状況では、今から18年度内に新しいアクションを起こす事は物理的に不可能です。そうなるとズルズルと廃線に向い進んでいくことになってしまいます。
 これを防ぎ新しいスキームの予算を19年度に組む為には、最低1年間の執行猶予が必要です。そのための時間稼ぎとして、何とか関係者に上記の合意を成立させる事が鹿島鉄道存続への最低条件になると言えます。
 最低限の条件クリアーの為には、今沿線で行われている存続運動を早急に方針転換して、3月までに「1年間の執行猶予」を取り付ける方向に向かわせるべきです。此処で時間が稼げなければ、先のハードルもクリアーできないと考えます。

 (2) 次に「民意を集めそれに拘束力を加える事」が原動力になる
 
 (1)の執行猶予を取り付けた後は、「存続が必要」と言う民意を集め、その民意に後押しとなる金看板をつけて、それを圧力にして茨城県・沿線自治体を存続へ向けて動かす事が必要になります。
 その方策として、「かしてつ応援団」が現在集めている「 公的支援の継続を求める署名 」を根拠にして「沿線自治体・茨城県の議会」に「鹿島鉄道存続を求める請願」を行い、その請願を可決してもらう事で、「市民運動の鹿島鉄道存続運動」に公的な裏付をつける事が必要であると言えます。
 実際一度2002年9月に石岡市議会で「 鹿島鉄道存続の住民陳情を採択 」していますが、他の沿線自治体を含めもう一度「(新しいスキームでの)鹿島鉄道存続」を議会に請願して、その請願を可決してもらい存続運動への公的な金看板をつけて、存続に対して自治体が行動に移りやすいようにする事が重要であると言えます。
 そうすれば、沿線自治体とて存続運動を無視する事は出来ないでしょう。その点から考えれば、茨城県議会にも署名を集め請願して「存続の請願を採択」してもらうのがベストであると言えます。最終的には自治体を動かさなければこの存続問題は解決しません。先ずは「外濠から埋める」的に、住民の民意を反映している議会に存続を採択してもらう事が運動の大きな後押しになると思います。

 (3) 具体的存続スキームとしては「上下分離&第三セクターによる運営」が好ましい

 (1)で時間を稼ぎ(2)で自治体の外濠を埋めたとして、まだ「予選会」状況で本番はその先になります。本番で実際に鹿島鉄道を今後とも永続的に存続させるスキームを考えなければなりません。
 その新鹿島鉄道運営のスキームとして「上下分離&第三セクターによる運営」を提案します。
 実際親会社の関東鉄道が廃止を表明しているので、今更その子会社の鹿島鉄道が運営を継続するのは極めて困難であると言えます。鹿島鉄道を引き止めたとしても、又いつか同じ問題が発生するだけで、問題の根本的な解消にはなりえません。と言う事は鹿島鉄道が撤退したあとも、「新鹿島鉄道」として運営して行くスキームを、関東鉄道&鹿島鉄道中心ではなく茨城県と沿線の自治体が中心となり作り上げる必要が有ります。

 その為に、鹿島鉄道の資産を買い取り継承する主体を造らなければなりません。その時は茨城県と沿線自治体が資産を買い取り保有しメンテナンスをして運営会社に貸す事で、スムーズに資産の継承と運行会社の負担軽減になるスキーム、つまり「上下分離」が好ましい事になります。
 この上下分離のスキームは、ちょっと形が違う「 群馬型上下分離(所有権を分離せず補助金型式で交付) 」と言う形で行われている形も有りますが、今回はそれをさらに進めて、「 青い森鉄道(青森県) 」型式の上下分離に加えて車両の保有も公的セクターに委ねてしまい、運営者はその使用料を払う型式にすると言うのが私の考えです
 それにより、インフラ整備・車両整備は公費により賄われる事になり、新会社は資本費負担から開放されますし、最悪新会社の経営が苦しくなった時には「インフラ・車両使用料を減免する」事で、形を変えた運営補助をする事が出来ます。
 又今後の茨城県・沿線自治体の責任範囲の明確化のためにも、下の部分つまりはインフラ・車両に関しては茨城県が全額負担する事が好ましいと考えます。それにより茨城県は地域交通に対しての一定の責任を分担する事になります。

 資産の保有スキームが出来た後は、実際に「新鹿島鉄道」を運営する運営主体を決める事です。
 実際的には何処かの民間会社が運営に名乗りを上げてくれる事がベストですが、前にも書いたような厳しい状況なので、実際的には 和歌山の南海貴志川線を岡山電軌が引き受けわかやま電鉄を設立した例 の様な事は難しいと考えます。(実際岡山電軌は日立電鉄引受にも興味を示したが最終的には諦めた。日本で唯一とも言えるローカル線引き受けに熱心な岡山電軌が諦めた日立電鉄より経営的に厳しい鹿島鉄道に引き受けてが登場するとは考え辛い)
 そうなると方法は「第三セクター」しかなくなります。運営会社として第三セクターを作り、鹿島鉄道からある程度の人を受け入れてそれにより運行を図る形態が一番現実的であると思います。
 その第三セクター鉄道は、茨城県がインフラ・車両に責任を持つスキームを組み上げた段階で、日常的な運営まで茨城県に関与させるのは酷な話だと思います。ですので茨城県の関与は出資金の出資と基金への出資に留め、日常的な運営の責任は第三セクターとその大株主の沿線自治体に任せて自主的に運営させるべきであると考えます。
 その様なスキームを作る事により、県・沿線自治体がある程度の比率で、それぞれ責任範囲を明確にした上での運営をすることが出来て、厳しいながらも鹿島鉄道を存続させる芽が出てくるのではないかと思います。

 しかし最後に大切なのは地域住民の関与です。今まで(和歌山を除く)成功した存続運動の例、つまり 1億円近い寄付を集めた高岡支援団体を含む民間から1億3760万円の出資金を集めた福井 の場合、沿線住民が出資をしたり基金に寄付をしたりして、資金的な面で協力を行っています。最終的には地域住民が利用する鉄道です。その運行の負担の責任を全て地域住民に押し付けるのは酷な話ですが、「誠意」と言う側面からも、可能な範囲で鹿島鉄道沿線住民も出資・寄付をする事で、自分たちの存続運動参加への発言への担保を供出すべきであると考えます。
 只これを「かしてつ応援団」の中高生に求めるのは酷な話です。彼らも寄付を集めているので、その集めた寄付の可能な範囲での出資・寄付であれば良いかとは思いますが、それ以上を学生に求める事はできません。其処は「鹿島鉄道を守る会」を始めとした大人の住民活動が主体を担うべきであると考えます。(そう考えると「かしてつブルーバンドプロジェクト」を盛り上げながら、完売しても100万円程度の寄付しか集められないと言うのは、寄付集めの側面から考えると惜しい話である)
 逆に言えば、地元住民からある程度の出資・寄付を集める事が出来なければ、この存続運動の成就は難しいと言えます。鹿島鉄道の存続運動を推し進める市民にも、強要はしたくは無いですが、高岡・福井レベルの「金も出して存続を裏付ける」と言う意識が必要ではないでしょうか?


 (4) では一体幾ら位費用が掛かるのだろうか?

 (3)の様なスキームを作り上げるとして、では一体どれくらい費用が掛かるのでしょうか?
 これは流石に簡単には試算できません。しかし何もたたき台が無いと話は進みませんし、一体「新鹿島鉄道」を設立させるのに、どれ位の費用が掛かるか分からないと、鹿島鉄道存続のスキーム構築への議論が何も出来ません。ですので今手元にある資料などを基に推察して「概算の私案」を作成してみる事にしました。
 
 ・茨城県のインフラ購入費・車両購入費
これは基本的に鹿島鉄道が保有の現行設備を購入する事になります。今までの事例を見てみると下記の様になっています。

 「過去の資産譲渡額の例」  
場所簿価会社の主張額行政の主張額妥結額
高岡2.5億円(鉄道資産2.4億+土地0.1億)15億円2.5億円4億円(簿価+土地評価1.6億円)
福井不 明(鉄道資産は16.1億・土地は不明)不 明34.3億円(鉄道資産簿価+固定資産評価額18.2億)20.5億円

 ※上記表の数字等は 福井新聞の京福存廃問題に関する記事 より引用しています

 この金額から類推すると、土地・鉄道施設共に簿価が基準になり、其処から如何プラスマイナスして行くかが金額決定の焦点になると言えます。福井では過去の支給補助金をマイナスにしているようで、実際簿価以下で決定しています。その様な複雑な要素が絡み合う為に一概には言えませんが、この2例を基に鹿島鉄道の資産譲渡金額を考えて見ましょう。
 鹿島鉄道の資産金額はHPの 平成17年3月期決算広告の賃借対照表 によると「鉄道事業固定資産422,712千円」になっています。先ずこれがたたき台になろうかと思います。只鉄道事業固定資産に入っているであろう石岡機関区は駅前一等地ですし、土地の簿価は往々にして極めて安くなっています。それに今回の廃線は買い取り先の茨城県に「ダメージを与えたTXの大株主」と言う引け目が有ります。其処から各種事情を勘案して鉄道事業固定資産額の約1.5倍である6.5億円に設定しましょう。
 しかしこれだけでは収まりません。6.5億円で購入の資産の内、車両の半数(キハ714系1両・キハ600系2両・キハ430系2両)は極めて老朽化が進んでいます。この車両は一部はマニア集客用に残すとしても、代替の車両は早急に購入しなければなりません。そうすると5両の気動車購入が必要になります。(価格の参考: 「土佐くろしお鉄道TKT8021号(お座敷車)が1億1359万円 )約1両1.1億円したとして5両で5.5億円かかる事になります。
 土木系インフラには当座手を入れないにしても、資産譲渡6.5億円+車両購入費5.5億円で合計12億円の費用がかかることになります。

 ・新会社の出資金及び経営安定化基金
 これは基本的に茨城県・沿線自治体・一般市民から募る事になります。本来なら経営安定化基金でなくて毎年の運営費補助も良いのです。只「一定額以上は第三セクターの責任」と言う事を明らかにする意味と、補助の予算措置が否定される事で又存廃問題が発生するリスクを考えると、年度補助金より基金制度による(存廃問題の盛り上がっている)初年度に一括予算支出の方が、後々を考えると良いのかもしれません。(少なくとも県・沿線自治体の一部だけが簡単に脱落できるスキームは避けるべきである)
 因みに新会社の出資金は「大会社」扱いになり、監査人を置かなければならない状況は避けたいので(万葉線は避けた。えちぜん鉄道は避けようとしたが思った以上に出資が増えたので誠意を受ける為に敢て突破させた)「大会社」扱いにならない4億9900万円とします。この内訳比率はなんとも言えませんが、茨城県がインフラ負担をしているので出資は地元負担を重くして「県1.5億円・沿線自治体3億円・住民と民間0.499億円」と言うのが無難な負担割合かもしれません。
 問題は基金の積み上げ額です。今の赤字は年間約1.48億円です。この赤字を全て基金で賄うとなると年間利回り3%として50億円必要になります。しかしそれだけの基金は流石に積めないでしょう。(北海道ちほく高原鉄道は56.5億円積んだが・・・)必要と考えられる基金額の6割30億円を積むことにしましょう。その負担の比率を県と沿線自治体で1:1にしても15億円ずつが必要になりますし、これだけでは当然基金が不足するので、第三セクター新会社に年間6000万円(現行経費の15%)の原価低減(もしくは原価増加ゼロでの増収)を求めなければなりません。
 その点から考えると、経営の安定化・利用者にも応分の負担をしてもらうと言う点から、数%〜10%程度の運賃値上げが必要かもしれません。(個人的には「地域がそれだけ鉄道を存続して欲しい」と言うのなら、出資(できれば基金への寄付)に加えて、その程度の運賃値上げ負担は甘受すべきと考える。)

 ・茨城県と沿線自治体の合計支出額
 さてこれだけ考えて、茨城県と沿線自治体の費用負担は一体幾らになるのでしょうか?結果は下記の通りです。
 「茨城県→資産譲受6.5億円+車両購入費5.5億円+出資金1.5億円+経営安定化基金15億円=28.5億円」
 「沿線自治体→出資金3億円+経営安定化基金15億円=18億円」
 ざっとの概算でこれだけの費用がかかることになります。最低限経営安定化基金分を除く(これは最悪単年度ごとの欠損補助金支出でも対応できる。但し長期間の支出保証が経営安定化には必須)茨城県が13.5億円・沿線自治体が3億円の負担を来年度の予算で予算化できないと、鹿島鉄道の永続的な存続スキームを作ることは、かなり困難であると推察します。
 この費用負担は極めて重いといえます。沿線自治体は4つですから、単純計算で一自治体当たり4.5億円の負担になります。一番規模の大きい 石岡市ですら年間予算は268億円 ですから、それらの自治体が1.5億円もの予算を支出するのは大変な事であると思います。(実際は均一ではないだろうから石岡・鉾田の負担はもっと増えるだろう)
又鹿島鉄道存続で最大の予算負担を迫られる事になると予想される茨城県も 年間予算1兆241億円・投資的経費1754億円 と言う規模があるものの、財政状況が楽ではないのは他と一緒です。その中で鹿島鉄道補助に28.5億円もの予算を出すのは楽な話ではないはずです。
 この様な関係自治体の予算状況から考えると、鹿島鉄道存続に巨額の予算を振り向けるのも困難な話です。その困難の中で予算を獲得しない限り、鹿島鉄道の永続的な存続スキームの構築は困難であると言えます。


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 此処まで「鹿島鉄道を如何にして存続させるか」色々な事を考えてみましたが、金額を弾くにつれて、鹿島鉄道存続へ向けての困難さがかなりの物である事を考えさせられました。
 元々旧国鉄の特定地方交通線転換の第三セクターの様に「転換交付金」があれば、初期の投資のかなりの部分は転換交付金で賄う事が可能です。又富山ライトレールの様に、譲渡元が大会社(JR西日本)であれば、持参金を付けてくれるかも知れません。しかし相手はTXに痛めつけられてダメージを受けて居る関東鉄道です。其処まではとても期待できません。
 廃止される鹿島鉄道の親会社である関東鉄道を痛めつけたTXの大株主の茨城県に、その影響を受けた鹿島鉄道沿線地域が「補償」的側面で出費を求めるとしても、28.5億円の出費を求めるのも又かなり困難であると考えます。
 そう考えると、鹿島鉄道は果たしてこれだけの費用をかけて存続させる価値のある鉄道なのでしょうか?その根本的側面で考えると極めて重い命題が未だ残っているな?と感じさせられました。又その根本的な点で、予算支出を正当化させる社会的合理性を見出さない限り、鹿島鉄道の永続的な存続は困難であると改めて感じさせられました。



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