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渓 谷 は 本 当 に 泣 い て い る の か ?

− 東急大井町線等々力駅地下化と等々力渓谷の環境問題に関しての『私見』 −



TAKA  2006年06月29日




等々力渓谷とゴルフ橋


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 今回「 TAKAの交通論の部屋 ・関東鉄道めぐり」で「 東急大井町線 」を訪問しましたが、その時仕事の目的地でも有った為途中下車した等々力駅の周囲に「等々力駅地下化反対」「大井町線急行運転反対」の幟が立っていました。
 「関東鉄道めぐり」の中で書いた様に、東急の「大井町線改良・田園都市線複々線工事」の中で急行運転に伴う待避線建設の為に「等々力駅の地下化工事」が織り込まれているのは知っていましたし、ニュース等でも報道されたりしているので、等々力渓谷の湧水群保護等の名目で「等々力駅の地下化」に反対運動が起きていて、工事と湧水の保護の調整の為に自治体・東急がその為に学者等を加えた第三者機関を作り検討している事も知っていました。

 「 大井町線改良・田園都市線複々線工事 」概要(東急HP) 「 等々力駅地下化工事 」概要(東急HP)
 「 等々力駅地下化工事技術検討委員会 」HP 「 等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容

 確かに等々力渓谷は東京23区に残された数少ない湧水が出る渓谷であり、重要な自然資産で有る事は間違いありません。又この湧水群は多摩川沿いの湧水群「 国分寺崖線 」の一番下流に位置する湧水群と言う位置付けも出来て、古墳群や等々力不動尊などの歴史的遺産も多くあり「保護しなければならない自然」で有る事は間違い有りません。
 しかし保護しなければならない湧水群であれど、地下化工事に起因してそんなに簡単に枯れてしまうのでしょうか?もし何も対策をしないで工事をすれば枯れてしまうかも知れません。しかしこれだけ対策委員会を作り検討していると言う事は「ちゃんと対策を講じます」と言う事を社会に宣言しているに等しい事になります。
関東鉄道めぐり 東急大井町線 」で検討したように東急が主体を担い行っている、東京南西部・神奈川県川崎・横浜地域の鉄道公共交通から考えると、大動脈の東急田園都市線の混雑緩和の為にバイパス路線の大井町線の急行運転は大きなポイントですし、そのスムーズなダイヤ構成の為には等々力・尾山台地区に待避線が必要なのはこれ又事実ですし、今まで東急車内で検討したりプロジェクトを打ち上げても実現してこなかった問題です。
 「公共交通の利便性向上」と言う社会全体の広い視点で見れば必要なプロジェクトが、何故実現する事が出来ないのでしょうか?本当に「地下化と湧水保護は両立しない」のでしょうか?両立しないのであれば諦めはつきますが、両立するのなら「なぜ社会全体から見れば速達性と利便性の上がるプロジェクト」が進まないのでしょうか?
 今回は「等々力駅地下化工事」と「等々力渓谷湧水の保護」の問題を通して、上記で挙げた「工事」と「自然保護」の関係の疑問について『私見』を述べて見たいと思います。


 (1) 等 々 力 渓 谷 の 現 状

 先ずは議論のたたき台として等々力渓谷の現状について検討します。
 私自身は等々力渓谷自体は車で横浜方面に向かう時に「目黒通り〜環八〜第三京浜」と通る時に環八の車窓からこんもりと繁る等々力渓谷の緑を見て「これが等々力渓谷だ」と知ってはいましたが、渓谷の中に降りた事は今までありませんでした。
 今回は「等々力渓谷」の話をするのに「一度も等々力渓谷を見た事が無い」と言うのは非常に拙いと思い、等々力で仕事が終わった後「大井町線と谷沢川の交差地点(等々力2号踏切付近)」「等々力渓谷の環八〜ゴルフ橋」区間を散策しながら見てみました。

 ※参考サイト:「 等々力渓谷公園 」(世田谷区HP) 「 等々力渓谷のホームページ

 [1]谷沢川と大井町線交差地点(等々力2号踏切)

   

左:等々力2号踏切から上野毛方面を見る   右:等々力2号踏切から等々力駅方面を見る

 此処の場所は丁度大井町線が谷沢川と交差する地点で、等々力渓谷はこの先(右写真の森の辺り)から始まります。この辺りの谷沢川は「護岸に緑の多い川」ですが、コンクリートの護岸が見えたりと東京23区内の他の河川と比べてもそんなに変わらない川と言えます。谷沢川の水源は「 湧水と仙川の再生した水 」との事であり、この周辺では水量は豊富な感じです。
 等々力駅の地下化工事はこの右写真の場所から始まります。ここは掘割の区域ですが地下水の層である武蔵野礫層が線路面から−6mの所にあるので「等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容」では、地下水分断防止の為に谷沢川沿いの掘削工事で、 止水壁 を作らず掘削し地下水をスルーさせるとの事です。その事は「地下化工事が地下水脈に見せた配慮」として評価できます。
 でも右の写真を見ると、谷沢川の護岸は両岸ともコンクリートの擁壁になっています。この擁壁は線路面から水面までの高さ(写真で比較すると建物の2フロア分(約6m)程度)以上有るのは確実です。つまり工事の止水壁よりもこの河川の擁壁が地下水を分断してはいないのでしょうか?大いに疑問です。

 [2]等々力渓谷(環八〜ゴルフ橋間)

   

左:等々力渓谷の環八橋梁部分   右:環八〜ゴルフ橋間の等々力渓谷

 等々力2号踏切周辺を見た後環八方面に住宅街の中を歩き、等々力渓谷を目指します。本当なら 等々力不動尊 や不動の滝も見たかったのですが、日暮れが迫っていたので涙を呑んで駅方面に戻る事にします。
 渓谷自体は谷沢川が国分寺崖線を刻んで出来た渓谷で周りに比べ約10m位深くその斜面が緑に覆われているので、ヒンヤリしていて少し薄暗い感じの空間です。一番下の谷沢川沿いに遊歩道が整備されていて私が歩いていた時には子供が網を持って遊んでいました。水の流れは急ですが魚が居るのかもしれません。
 遊歩道自体は良く整備されていて谷沢川も遊歩道から下の部分が玉石+コンクリートで整備されている所が半分位と土がむき出しの所が半々ぐらいです。「玉石+コンクリートの護岸では水が浸透しないのではないか?」とチョット不安になります。遊歩道は木の床や飛び石で足場が作っているところもありそういう所は湧水が沢山でてくるのかも知れません。しかし訪問した日には等々力渓谷内で谷沢川に大きな流れとなって流れている湧水は歩いた区間には有りませんでした。雨が多い今年なのに湧水が少ないのかな?と多少は不安になりました。
 この様に等々力渓谷自体は緑も多く「都会の大切な水と緑」と言う側面で見れば保護されなければならないものです。しかし歩いた範囲で見てみると、緑は渓谷そのままの緑の自生が保護されている感じですが、水に関しては「仙川からの導水・谷沢川雨水幹線の水」など人工的に送り込まれた水で維持されている感じです。少なくとも「豊富な湧水がある渓谷」と言う感じは私が見た限りではしませんでした。

 実際には現在未着工の「等々力駅地下化工事」には関係なく、等々力周辺の市街化に起因して「地下への浸透量が減少しそれが湧水量の減少を招いた」可能性が非常に高いと言えます。実際「等々力駅地下化工事技術検討委員会」でも「 等々力渓谷の状況 」や「 等々力周辺の土地利用と雨水浸透特性の変化 」と言う様な報告を出していますが、その内容は私が等々力渓谷に行って感じた状況を裏付けている内容と言えます。
 つまりは「等々力渓谷」は、既に地盤的には水を溜める地盤が維持されているが其処への水の供給が地表の変化で減少している。つまり水源的には周辺の市街化に起因してかなり痛んでいる状況に有る。と言う事が明らかになっていると言えます。


 (2) 等 々 力 駅 地 下 化 工 事 の 現 状

 続いては問題の「等々力駅地下化工事」の現状です。すでに具体的な施工内容の計画は終わっていて、地域への説明を行う段階になっていますが、此処で激しい反対に合い工事が着手できない状況になっています。その為一連の「大井町線改良・田園都市線複々線化工事」で唯一工事着手できない状況になっています。
 具体的には今の段階では東急・自治体・有識者の検討機関(地域住民は反対者もオブザーバーで出席)の「等々力駅地下化工事技術検討委員会」で施工方法の検討を行い、地下水位の調査等が行われています。検討委員会では「 等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容 」と言う答申が出ていますが、其処でこう着状態になりそれ以上具体的な工事の動きは何も進んでいません。

   

左:等々力駅全景   右:等々力駅構内に設置されている観測井戸(?)

 等々力駅自体は九品仏・戸越公園の様に「20m5両編成に対応できず、ドアカットが必要」と言うレベルでは有りませんが、駅自体は構内踏切が残り其処に改札が有り島式ホームへ入るという極めて古い形態の駅が残っています。( 等々力駅構内図 :東急HP)
 等々力駅は乗降人員では 25,493人/日 で大井町線の中間駅で一番多い状況であり、その状況から考えると今の駅舎は貧弱であると言えます。但し 交通バリアフリー法 の範疇から考えると「利用者数5,000人」と言う基準からは2010年までに整備の基準に入りますが、構内踏切〜改札〜スロープ〜ホームと原始的手法で「段差5m」の基準をクリアしているので、特段に改良の必要はないと言えます。
 しかし駅の利用客数から見たら、鉄道事業者としては「何か手を加えて利便性を向上したい」と考えるのも理解できます。しかし今の構造では何かするにもスペース的に何も出来ないと言うのが現状でしょう。その考えと「大井町線に待避線を作りたい」と言う宿願が結びついて今回の「等々力駅地下化構想」が登場したと考えられます。
 等々力自体「渓谷」「高級住宅地」「有名な店」等があり、TV東京の「 アドマチック天国 」などで取り上げられる等「高級な雰囲気」でそれなりに注目を集める街です。その玄関口として今の等々力駅はチョット貧弱と言えます。「地域との調和」と言う問題も有りますが、駅に色々な施設が有ると言う事は町を活性化させます。その点からも等々力駅の地下化は「自然・周囲の環境と調和」する物であれば決して悪い事では無いと言えます。


 (3) 等 々 力 駅 地 下 化 に 対 し て の 反 対 運 動 の 現 状

 この様な「等々力駅地下化」ですが、現状は準公的機関とも言える「等々力駅地下化工事技術検討委員会」が施工方法を打ち出したにも関わらず、沿線住民の「反対運動」を受けて未だに工事に着手できない状況になっています。
 実際「等々力駅構内に設置されている観測井戸」の写真にも反対運動の幟が立っています。実際ネット等で調べてみると「等々力駅地下化工事に反対する会」「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」と言う反対運動のグループが有る様です。
 只現状においてはどちらの団体も 過去の新聞記事 に出ていたりネット上で検索を掛けたら引っかかったので存在が判ったと言う状況で、どちらもHP等の独自のアピール媒体を持って居ません。
只ネットを中心に調べてみると、「等々力駅地下化工事に反対する会」は「等々力駅地下化工事技術検討委員会」にオブザーバー参加していたり、「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」は世田谷区長に公開質問状を出したり、両団体が「 等々力シンポジウム 」と言うイベントに協力する等の活動を行っているようです。

 その様な状況の為、「如何にして」「どのような根拠で」等々力駅地下化に対して居るのかが、今此処の段階で調べた限りでは残念ながらイマイチ良くわかりません。(明らかにこれは反対運動の情報発信力の弱さを示している)
 その為色々な手を尽くして調べて主張を調べてもハッキリしません。しかしネット上調べてみると「 等々力駅地下化に反対する会代表・成田氏のインタビュー 」「 アンケート集計結果から熊本哲之世田谷区長への質問書 (大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ)」「 住民アンケートの集計結果 (等々力シンポジュウムHP)」と言う記事があり、これを見ると反対する人たちの主張が多少は明らかになると思います。
 これ等のネット上のインタビューや資料を参考にして、反対派の人々の主張を私なりに纏めてみると、何故等々力駅地下化工事に反対なのかは、大まかには以下の3点に纏められると考えられます。

 「反対意見の趣旨の要約」(あくまでも上記資料からTAKAが纏めたもの)
 ・地下化工事で地下水が毀損され、等々力渓谷の自然が破壊されるから反対。
 ・地下化されても不便になり、踏切殆どがも解消されないから意味はないから反対。
 (今の等々力駅はフラット。確かに地下化で移動距離は増える。立体化の踏切は駅前の用賀中町踏切の等々力1号踏切だけ)
 ・大井町線急行運転は等々力は通過するだけだからメリットがなく反対。
 ・東急が誠意を尽くして説明をしていない。極めて不誠実であるから反対。

 私が調べた範囲で「社会への公式の主張」として、反対派の方々から述べられている意見が無いので(主にネット上から)反対派の方々の意見を集めてみましたが、公式見解では無いのでこの箇条書きが「100%正しいか?」と言われると判りませんが、反対派の方々の一番目立つ主張である「反対活動の幟」に書いて有る「地下化反対」「自然を守れ」「急行は要らない」と言う内容から考えても「当たらずしも遠からず」であると考えます。
 個人的には反対派の方々に、もっと「自分達の考え方・主張」をアピールして欲しい、そうしないと何が言いたいのか判らないと、今回反対派の方々の主張を調べる為に悪戦苦闘してみて感じました。実際この反対派の方々の主張だけを見ると「一理は有るな」と思う主張も有りますが、冷静に考えてみれば「明らかに可笑しい」と言う内容も有ると言えます。
 では本当の所は如何なのか?地下化反対は正しいのか?(実体の世界で)東急・世田谷区・地域に何も利害を持たない第三者である私が、この問題に関しての一個人としての『私見』を述べたいと思います。

 (4) 等 々 力 駅 地 下 化 反 対 運 動 に 対 し て の 個 人 的 『 私 見 』

 この様に「等々力渓谷の現状」「等々力駅地下化工事の現状」「等々力駅地下化工事反対運動の現状」について見てきましたが、果たして「反対運動が正しくて地下化は好ましくない」のでしょうか?それとも「反対運動は誤っていて地下化は問題ない」のでしょうか?以下において今までの現状把握を基礎として結論に変えて私の『私見』を述べて見たいと思います。

 ☆ 等々力駅地下化工事その物について

 先ず第1に私の『私見』として、「等々力駅地下化工事」そのものについて検討してみたいと思います。
 確かに今の等々力駅のスペースで地下に1面4線の待避線付きの駅を作るのはかなり無理が有ると思います。只大井町線各駅は駅周辺が市街化しているので新たな用地買収はほぼ困難です。
 その為に当初は既存用地を工夫して「 地上駅のまま等々力・尾山台に分散して待避線を作る 」と言う計画でしたが、過去から挫折してきた経緯のままを辿り挫折して、等々力で1面4線の地下駅を作りそのスペースは線路両脇の 道路占用 で対応すると言う「ウルトラC」的な方策を打ち出したと言うのが今までの経緯で有ると思います。( 等々力駅地下化工事概要 のB−B断面図を見ると地下駅が特に南側ではみ出すのが分かる)
 此処に関しては、東急にとって現行の地下化は「ウルトラCの解決策」と考えたのでしょう。只実際は「尾山台・等々力の分散待避線」建設の代わりに道路占用をするほど住宅近隣に迫る所で地下化工事を行うプランを考え出した所に無理があり、其処に周囲の住民が不満を持っていた所に、反対の大義名分「地下化で地下水を断絶させる」がくっ付いてしまった為に現在のような反対運動を引き起こしてしまったと言えます。
 その点から考えると「自分の家の直近地下に開削工法で駅が出来る」と言う事に反対するのであれば未だ納得の余地が有ると言えます。工事的に不可能ではないと思いますが工事中は近隣にはかなりの負担を強いる事から考えると、其処に無理が有ったと言えます。
 だからこそ「東急敷地内で対応可能な地上の待避線建設」と言う当初案を貫くべきであったと思います。それであれば「自分の土地の中で物を造る」だけですから、反対に「一部の理」を与える事も有りませんでした。その点は「東急のボタンの掛け違い」が有った可能性は有ると言えます。
 ですから「等々力駅地下化工事」は民地直近の区道下まではみ出して地下駅を建設すると言う点においては、地域の住民の反対を受けても致し方ないと言えます。その点からは完全地下化だけに拘らず東急敷地内で出来る「急行線だけ地下化」や「(待避線を含めて)上り地上・下り地下(もしくはその逆)」と言う工法を考えるべきだったのかもしれません。

 ☆ 大井町線急行運転への反対について

 続いて第2に私の『私見』として、基本的に「大井町線改良・田園都市線複々線化工事」の中での「大井町線の急行運転」の為に大井町線の等々力駅周辺の何処かの駅に待避線を作ると言うプロジェクト自体は、東京南西部・神奈川県川崎北部・横浜北部地域の広域的公共交通の側面から考えて「大動脈田園都市線のバイパス効果」「ベイエリア地区への移動利便性向上」と言う側面から見ても効果の有るプロジェクトであり進めるべきであると考えます。
 又当初は「 大岡山で目黒線乗り入れ 」と言う計画で大井町線内では「通過追い越し」しか無かった為、大井町線内では「急行運転のメリット」を享受できず「バイパス客のための急行運転」と言う側面が強かったのですが、2000年の「 特定都市鉄道整備事業計画変更 」により、「 大井町までの急行運転・旗の台駅の2面4線待避駅化(緩急接続可能) 」と言う変更で、大井町線内利用客で大きな流れの一つである「自由が丘乗換渋谷方面」の流れの客のはメリットのない物の、「大井町乗換京浜東北線利用」と言う流れの客に対しては「旗の台緩急接続」で上野毛〜北千束間各駅の利用者にとっては、対大井町で速達性が上がると言うメリットが有り、大井町線内のかなりの区間に「速達性」と言うメリットを与えるプロジェクトになったと考えます。
 その為「大井町線に急行は要らない」と言う主張は「東急が提供するサービス向上(旗の台緩急接続での対大井町速達性向上)は要らない」と主張している事になります(等々力は待避駅だから所要時間増加にならない。所要時間増は上野毛だけ)。確かに等々力は通過駅になるので、最終的に本数減も発生するのでマイナスも有るのは間違い有りません。「等々力の自駅の利益」だけを考えた視点で見れば「大井町線急行化」はプラスマイナス有りと言う事になるはずです。
 果たして反対派はこの様な事を踏まえ「事実を知った上で反対しているのか?」と思います。少なくとも急行後のダイヤが公表されていないのでなんとも言えませんが、「区長への質問状」の中で出てくる「急行12本に普通12本」と言うダイヤでも、今の等々力から見たら確かに「停車本数は3分の2」になりますが、それでも東京の私鉄駅の中で「ラッシュ時毎時12本停車」と言うのは決して低いサービスレベルでは有りません。
 等々力自体の「停車本数が3分の2に減少」と言うマイナス・「旗の台緩急接続での速達性向上」と言うプラスに加えて、広域の公共交通としての「田園都市線の混雑緩和」と言う社会的メリットを全て考慮に入れて、「大井町線急行化反対」と反対派は主張しているのでしょうか?私はNOだと思います。反対派の「大井町線急行運転反対」と言う名目の「等々力駅地下化(待避線建設)反対」と言う主張は、自分達の利害だけを考えた「エゴ」的な主張で有ると言えます。「大井町線」は「等々力住民のだけの物」では有りません。反対派はその事についてよく考えるべきで有ると思います。

 ☆ 果たして「東急に誠意が無い」と言うのは本当か?

 続いて第3の『私見』として、反対派の主張の中に散見される「東急に誠意が無い」「東急は説明責任を果たしていない」と言う問題について述べて見たいと思います。果たして東急は本当に説明責任を果たしていないのでしょうか?
 私は必ずしも「東急に誠意が無い」と言う事は言えないと思います。少なくともこの工事は「平成15年には、国交省から鉄道施設変更の認可、世田谷区から道路占用許可」と言う形で、役所から工事に必要な許可は取って有る状況です。しかし現状では調査以外の工事に着手していません。それは地域の反対運動が有るからだと言えます。「反対運動が有るから工事を強行しない」先ずこれが「東急の誠意」と考えてはいけないのでしょうか?
 私は「東急の誠意」の象徴は「 等々力駅地下化工事技術検討委員会 」であると思います。少なくとも「環境問題」が中心となり地域から反対運動が起きている現状で、環境問題に対しての回答として東急・自治体・学識経験者を集め、反対派を含めた地域の人たちまでオブザーバーに加えた「検討委員会」を作り、公平な立場で等々力渓谷の湧水に影響が出ない様な技術的解決策を考え出すと言うスキームを作り従った東急に誠意が無いといえるのでしょうか?
 少なくとも東急は平成15年6月・16年7月・17年2月と約年1回のペースで 地元に対し説明会を開き 、加えて上記の様な「検討委員会」を開き解決策を考えています。その点から冷静に考えると反対派の「東急には誠意が無い」と言う主張に根拠はありません。反対派が東急との対決姿勢をあぶりだす為に主張しているだけでは無いかと考えます。そうであれば反対派は感情的な主張をするべきでは無いと考えます。

 ☆ 「等々力駅地下化工事」が「等々力渓谷の自然を破壊する」と言う主張に根拠が有るのか?

 さて等々力駅地下化工事反対派最大の反対理由である「等々力駅地下化工事は地下水を遮断し等々力渓谷の湧水を枯渇させ自然環境を変化させる」と主張しています。果たしてこの反対派の主張は正しいのでしょうか?
 確かにその問題が有るからこそ、第三者的検討機関である「 等々力駅地下化工事技術検討委員会 」が出来て検討されたと言えます。と言う事は検討委員会が出している「 等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容 」を見れば、地下化工事が与える影響と如何すれば良いのかが明らかになると言えます。
 「検討内容」を見てみると、確かに武蔵野礫層を通り谷沢川の等々力渓谷への地下水のルートを遮断する様に等々力駅の地下構造物構築計画が存在しているのは事実です。その点では「地下化工事は湧水に甚大な影響を与える」と言えます。これは地下水の層である武蔵野礫層が等々力駅周辺でGL−6mと言う浅さに有る事が原因です。だから地下で建設予定の等々力駅は浅深度の地下構造物工事であるのに地下水に影響を及ぼしてしまうのです。その点においては反対派の主張は正しく、何も対策をしなければ等々力渓谷の自然に影響を及ぼした可能性は高かったと言えます。
 しかし地下水遮断が自然環境に影響を与える前に、構造物(止水壁)でそれだけの地下水脈を遮断すれば、水圧で地下構造物に与えた影響の方が大きかったかもしれない。地下水が地下構造物に与える影響は「 東京地下駅・上野地下駅の地下水対策工事や新小平駅の水没事故 」等を見れば明らかです。有る意味等々力駅の地下水問題は、等々力渓谷の自然環境への問題だけでなく工事的にも問題であり、どちらも「如何に水を通すか」が重要で有ったと言えます。(地下水量が多い場合 SNWの止水壁 が水圧に耐えられないことも想定できるのではないか?この地域でそういう例も聞いた事が有る)

 そういう意味では「地下水をスムーズに通す事」は、工事を行う東急にしても自然環境を守る立場の反対派にしてもどちら望む事であると言えます。その点で言えば目的は違え(東急→構造物保護・反対派→湧水保護)ども欲しい結果(地下水を通したい)は一緒であると考えられます。
 その点では「 等々力駅地下化工事技術検討委員会 」が「 等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容 」で発表している対応策「両端掘割部の止水工中止」「通水管を用いた地下水流動保全工」で検討内容で書いている様に「今までとほぼ変わらない地下水の流れを確保」して地下水・湧水を守ると同時に地下構造物を守る事ができますので、「地下工事と地下水保全」の両立と言う問題も解決できると言えます。
 つまり答申として検討内容が出され、東急が工事で其れを採用すれば、反対派の争点である「等々力駅地下化工事は地下水を遮断し等々力渓谷の湧水を枯渇させ自然環境を変化させる」と言う事は争点としてなくなる事になります。ですから東急が検討内容を実施すれば、「等々力駅地下化工事」が「等々力渓谷の自然を破壊する」と言う事に根拠がなくなる事になります。

 ※反対派のこの問題への主張に疑問を感じる事
 最初にも述べたが、等々力渓谷の湧水を脅かす最大の要因は「市街化による雨水浸透量の減少」であります。これは地域全体が引き起こした「等々力渓谷湧水の危機」である。それに対して反対派は「如何に考えているのか?」東急の地下化工事に「地下水と自然の環境を根拠に反対」する反対派は説明する義務が有ると思います。
 同時に既に出来ている構造物で「等々力駅地下化工事」ほど大規模でない物の「地下水脈の武蔵野礫層を傷付けるほど掘削している(GL−6m以上)と推察できる構造物」については如何に考えているのか?同じく説明する義務が有ると言えます。(特に反対派の方が居る駅周辺で一番高い10階建てマンション(幟が立っている)の基礎・山留・掘削工事がピンポイントでも地下水脈の武蔵野礫層を毀損している可能性が有る事(GL-6m以上掘削していれば毀損している可能性は高い)については、説明をしないと自分達の反対の根拠を弱める事になる事を自覚するべきである)

   

左:等々力渓谷脇の環八アンダーパス(アンダーパスの掘削の深さは等々力駅地下化工事と変わらない。此れも地下水の流れを阻害している可能性が高い)
右:等々力駅前の10階建マンション(10階建と言う事は深く基礎工事・山留・掘削をしている可能性が有る。ピンポイントだが地下水層を毀損している可能性は高い)

 ☆ では如何に「大井町線に待避線を作り」「大井町線急行化」を達成するべきか?

 この様に「等々力駅地下化工事」にかんして、反対派の主張の大部分に「誤解があり」「根拠に乏しい」と言う事を立証してきましたが、如何に「無理解」「感情的対立」「地域的エゴ」であろうとも反対運動が存在する事は否定出来ない事実です。
 しかし何とかして「大井町線改良・田園都市線複々線化」の最後の難関である「大井町線内(二子玉川〜自由が丘間)待避線新設」を実現して、急行運転により大井町線の利便性を向上しなければなりません。では如何するべきでしょうか?
 それには反対運動の強い等々力駅での待避線建設を諦め、今東急が企画している「上野毛駅バリアフリー化工事・上り待避線新設工事」に力を注ぐべきであると考えます。

   

左:上野毛駅改良工事のポスター  右:上野毛駅の状況

 実際上野毛駅は乗降客数が 20,411人/日 で少なくともバリアフリー法の基準では、バリアフリー化しなければならない施設で有る事は間違い有りません。しかし掘割の中に線路が有る駅で階段が存在している駅ですが、エレベーター・エスカレーターと言う バリアフリー施設が無い駅 になってしまっています。
 その為バリアフリー化工事が必要でしたし、等々力で待避線新設工事が動かない状況の中で上野毛は「法面擁壁の改修工事で1線分のスペースが捻出できる」状況にあり、等々力駅地下化工事の座礁・停滞を踏まえて、等々力駅地下化の代替策として上野毛駅に通過待避線を作ろうという事になったと言えます。
 運転的には「上野毛は終点より過ぎる」と言う欠点は有りますが、「上野毛駅の方が工事がしやすい」「どちらにしてもバリアフリー化工事が必要」と言う現状を考えると、「時間をかけて等々力駅地下化を進める」と言う選択肢より「問題がなくよりスムーズに工事が進められる上野毛駅の改良工事を進める」選択肢の方が、今の状況から全体的に見れば好ましい選択肢で有ると言えます。
 今や「大井町線改良・田園都市線複々線化」の最大のネックは「等々力駅地下化工事」になっています。東急は既に調査等で等々力駅地下化に費用を投下してますが反対派と分かり合える目処は立っていません。その様な工事は諦めて(東急に取っては待避線建設に意味があり地下化はその手段)より実現しやすい工事に注力するべきです。等々力の反対運動を地道に説得するほど時間的余裕はないと思います。何時も混雑を身に染みて感じている利用客は、その様な時間をかけた方法を望んでいないでしょう。


 今回「等々力駅地下化工事」について私のサイトでは珍しく「住民運動」を絡めて取り上げました。今回色々調べて考えた結果私が感じた事は「住民運動は我が儘でエゴだけで動いているのか?」と言う事です。
 これは大げさな言い方なのかもしれませんが、今まで「等々力駅地下化工事」の反対運動の主張を分析して来ましたが、今の段階でも明確に通用する「反対の根拠」は残念ながら何処にもありません。地下水と自然環境に関する反対派の主張は「 等々力駅地下化工事技術検討委員会の検討内容 」で解決策が示されてしまい、東急がこれを受け入れれば何も問題がなくなってしまっています。
 唯一言えば「等々力通過の急行運転は不便になるから反対」と言う点は今でも反対の論拠として成り立つ根拠と言う事が出来ます。しかしこれは地元にしてみれば一理有るかもしれませんが、冷静に見れば「地域エゴ」にすぎません。
 
 この様な根拠の殆ど無い反対運動が地域全体の支持を受ける事が出来るのでしょうか?私はNOで有ると思います。大部分の人は良心を持ち冷静に東急と反対派の論拠を比較してみれば、反対派のこの様な無理の出てくる主張を好ましく思っていないはずです。
 今の状況は「声が大きい一部の市民の主張が大部分の市民の主張と掏り返られている」と言う状況で有ると言えます。この様な掏り返られた主張を「民意」として受け止める事は「極めて愚かな民主主義」と言う事が出来ます。
 日本は民主主義国家であり言論の自由が保障されていますから、如何様な主張がされてもその自由は保障されるべきです。ましてや自分の住んでいる地域の問題であれば問題意識を持ち主張する事は正しい事です。私もそれに関しては強調しておきたいと思います。
 しかし社会に向って主張する以上は「その主張に裏付と根拠」を持たせなければなりません。「等々力駅地下化工事反対運動」に関しては、「主張のアピール」が足りないと言えますし「地下水と自然環境の問題」を見ても東急・自治体・学者・地域が参加した委員会の検討内容が出て道筋が付いた筈なのに「反対」と言っている状況に説得力が有るとは言えません。
 私は決して「住民運動」や「インフラ構築事業への反対運動」に関して頭から否定している訳では有りません。根拠が有る運動であれば「話を聞き」「受け入れる」べきで有るとは思います。しかし今の住民運動は只「反対」を叫ぶだけでその主張の「根拠」が非常に乏しいと感じます。
 今回「等々力駅地下化工事」の反対運動を見て色々と分析して見てその様な事を強く感じました。今後「真に市民に共感を受ける住民運動」を目指すのであれば、その主義・主張に対する理論武装・説明をしっかりとすべきであると感じました。





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