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地方空港でも新規空港アクセス鉄道は成立するのか?
−3月18日に開業した仙台空港アクセス鉄道を訪問する−
TAKA 2007年10月19日
日本でも世界でも鉄道駅は大都市の中心部に有りますが、3000mクラスの滑走路など広大な敷地を必要とする飛行場は大概が都心から時間距離で30分〜1時間程度の離れた郊外に設けられている場合が大部分です。
そうなると問題は「空港と都市のアクセス」と言う問題です。特に飛行時間の少ない国内線の場合ライバルの交通機関との競争で空港⇔都市間のアクセス時間がトータルの所要時間を左右する重大な要素となる事は周知の通りです。
その為空港アクセスに関して日本も各空港ともバス・鉄道・モノレール・高速道路乗り入れ等々アクセス手段の充実に努めています。特に利用者の多い大空港ではリムジンバス・軌道系アクセスなどが複数のアクセス機関を形成し、充実した都市と空港間のアクセスを形成してます。
但し実際は殆どの空港でバスアクセスは存在しますが、バスアクセスに加えて軌道系アクセスが整備されて複数のアクセス機関が存在している空港は、「新千歳・羽田・成田・セントレア・大阪・関空・神戸・福岡・宮崎・那覇」という、利用者の多い大都市の空港を中心に僅か10空港に限られています。
その空港アクセス鉄道の状況の中で本年3月18日のJRグループのダイヤ改正に合わせ、東北地方に日本で11番目になる空港アクセス鉄道として「仙台空港鉄道」が開業しました。
仙台空港は、第二種空港では有る物の東北地方の中心空港国際線も発着する規模の大きい空港ですが、航空の最大需要を確保できる国内線の対羽田線が東北新幹線の開業で廃止されて、仙台空港鉄道はセントレアと並んで「対羽田線が無い空港」での空港アクセス鉄道という事になってます。
実際空港アクセス鉄道は和寒様が「
空港アクセス鉄道が成立しにくい理由
(
以久科鉄道志学館
)」で指摘している様に、新規にインフラを構築しない分利用者が少なくても成立するバスアクセスと異なり、大量の空港利用者需要が存在しないと成立困難な物なのは間違いありません。その中で「対羽田線が無い」と言う利用者獲得に取り大きなハンデを背負う仙台空港で、果たして空港アクセス鉄道は成立するのでしょうか?
今回偶々6月9日に郡山で叔父の法事が有り、行きは親族一同バスで行ったのですが用事が有った私は東山温泉で宿泊する親戚一同と郡山で別れて、「折角郡山まで来てそのまま帰っても仕方ない」と考え、郡山から福島へ出て福島交通を訪問しその後阿武隈急行経由で名取へ出て仙台空港鉄道を訪問し、最終新幹線で帰京する事としました。その際開業から3ヶ月が経過し開業特需が一巡し本来の姿になった仙台空港鉄道を見たので、「需要にハンデの抱えた空港で空港アクセス鉄道が成立するのか?」という視点で仙台空港鉄道を見る事にしました。
又訪問してから記事を書くのに4ヶ月時間が空き、その間に開業後半年の利用状況等も報道されました。その状況を踏まえ地方都市・地方空港でのアクセス鉄道の有り方について考えて見たいと思います。
☆ 仙台空港線訪問記(6月9日夕方)
郡山から福島を訪問し、阿武隈急行経由で槻木駅から東北本線に入り、東北本線と仙台空港線が分岐する名取に到着したのは夕闇迫る18時近くでした。
本来は此処から仙台空港線に乗り換える所ですが、次の仙台空港行きの電車に乗る前に先に到着する名取18:10発の仙台空港発仙台行きの電車の乗降風景と車内の状況を見ました。
仙台空港から来た電車は仙台空港鉄道所有のSAT721系2両+JR東日本所有のE721系500番台2両の4両編成です。仙台空港鉄道のSAT721系とJRの空港線用のE721系500番台は共通運用されている様でこの組み合わせは何編成か見ました。仙台空港からの4両編成からは15人程度の乗客が降りてきます。只空港アクセスの列車の割りに空港利用客らしき大きな荷物を持った利用客は多く有りません。その点からも仙台空港線は空港アクセスだけの鉄道ではないという事が見えます。
又なとりで降車客に対し倍近い乗車客が有ります。この電車が仙台行きで有る以上、仙台の近郊利用客で有る事は間違い無いといえます。その点から仙台空港アクセスの列車は仙台南部の乗客が多い名取〜仙台間で近郊輸送の一躍を担う役割を負っているといえます。その点から「仙台空港アクセス鉄道」は空港アクセスだけで無く、JR東日本の仙台都市圏輸送の中で多役割を担う事を狙っているといえます。
名取で18:10発下り列車の乗降の様子を見た後、仙台空港線に試乗する為に18:11発の仙台空港行きに飛び乗ります。この列車でダイヤモンドシティ・エアリと直結の隣駅杜せきのした駅を目指します。仙台空港行き列車はSAT721系2両+E721系500番台2両の4両編成です。車内は一番混んでいる車両で出入口部に立ち客が居る程の乗車率です。3ドアセミクロス車両ですから比較的ドア口が混み合うのは仕方無いにしても、休みの日の夕方で此れだけ乗っているのは良い乗車率です。名取で見ていたら仙台発の東北線・常磐線方面普通列車はどの列車も4両程度の編成でそれなりに乗車していました。此れは多分「仙台空港線」云々より「仙台都市圏で鉄道(JR東日本線)が使われている」という事を示しています。
列車は名取駅を出て単線の仙台空港線に入り直ぐ高架に上がり東に進路を変え2〜3分で単線高架の車窓右側に巨大な駐車場を備えたSCダイヤモンドシティ・エアリが見えます。一度此処で降りる事にしました。
数千台駐車可能な駐車場が有るSC最寄駅の杜せきのした駅ですが、私が降りた列車から10〜15名/両程度の降車客がホームに降ります。仙台空港線自体毎時2〜3本の運行頻度ですから、SCに来客者の中で車アクセス客の比率に比べれば仙台空港線でのアクセス客は限定的です。仙台圏の人口の広がりの中で仙台〜仙台空港間の鉄道がカバーしているエリアは限定的ですから、大部分はドアツードアが出来る車でアクセスする事は間違い無いと言えます。しかしこれだけ集客力の有る巨大SCですから「アクセス手段の多様性を確保する」と言う意味で、仙台空港線で鉄道アクセス手段を確保した事はSC側にもメリットが有るのでは?と感じました。
左:乗降風景@杜せきのした駅 右:乗降風景@仙台空港駅
左:仙台都市圏だからSuica対応@仙台空港 右:駅とターミナルビルの連絡通路@仙台空港
左:仙台空港ターミナルビルと仙台空港駅 右:仙台空港ターミナルビルの内部
杜せきのした駅で降りて様子を見た後、次の18時26分発の電車で仙台空港を目指す事にします。今度の列車は運転間隔の関係上比較的空いてました。前の列車との間が12分と短かった事が有ったのでしょう。それでも仙台空港まで数十人乗って居ます。この列車だと
仙台空港の出発便
は19:05大阪・19:30福岡の2本です。(18:55大阪は間に合わないだろう)比較的大需要地の大阪・福岡への便が有る時間帯でこの利用率という事から、利用状況から仙台空港線のアクセス分担率約3分の1と言うのはあながち外れていません。
途中乗降ゼロの美田園駅で仙台行き列車と交換した後、仙台空港滑走路の端をトンネルで潜り逆側から仙台空港ターミナルビル脇にある仙台空港駅に滑り込みます。仙台空港線のルートを見ると単純に東北本線館腰駅より滑走路の下をトンネルで抜けて仙台空港ターミナルビルにアクセスするのが一番距離が短いです。しかし遠回りしても名取分岐経路を選択したのは「
なとりりんくうタウン
」の需要を見込んでなのでしょう。その選択の成否は杜せきのした駅と美田園駅の乗降状況を見れば明らかです。
仙台空港駅到着後、空港利用の降車客と一緒に仙台空港ターミナルビルを一巡してみます。
仙台空港鉄道の仙台空港駅と仙台空港ターミナルビルは連絡通路で結ばれており
出発の場合上下移動無しに到着の場合は一度1階に降りて登る形ですが、短い距離でアクセスする事が出来ます。近年作られた空港アクセス駅は何処もターミナルビルと短距離で結ばれてますが仙台空港駅も例外では有りません。空港の規模が大きく無い事も有り神戸・宮崎・セントレアと同レベル位のアクセス距離だと言えます。
仙台空港駅も「
ユニバーサルデザイン
」を用いた分かり易いデザインですが、不特定多数が利用する空港駅などでは必須であるといえます。仙台空港鉄道はJRと別組織ながらJR東日本仙台圏でも導入が進んでいるSuicaに対応してます。Suicaの最大の需要地の東京と空路は結ばれて居ませんが、Suicaと相互利用可能な関西や今後相互利用可能なICカードが導入される福岡・札幌と空路で繋がっているので、その地域から来た客が空港で小銭を出して切符を買わずにSuicaでアクセス可能というのは利便性の側面で大きなポイントとです。空港アクセスは地方でもこの様な点を考えるべきと思います。
左:仙台行き快速電車車内@仙台空港 右:空港客用のトランクスペース@仙台空港線車内
左:仙台駅の仙台空港行きホーム 右:仙台空港線ホームへの入口@仙台駅
仙台空港ターミナルビルと仙台空港駅を駆け足で見た後最終の新幹線で帰京予定だったので、18:55発の快速電車で名取まで戻ります。本当は杜せきのした駅で途中下車してダイヤモンドシティ・エアリで夕食を取る予定でしたが、来た電車が仙台空港線内は停車しない快速で、線内利用車数NO1の杜せきのした駅も停車しないので次の停車駅の名取まで進んで一駅戻る事にしました。
快速電車は
仙台空港到着便
の18:10着の札幌・成田・小松便の一部の客(早ければ18:29発に間に合う)と18:15着の大阪便・18:25着の札幌便を受ける列車で、これだけ到着便の多い時間帯だから最大の需要地の杜せきのした駅を敢えて通過した快速列車を設定したのだと思います。しかし写真を見ての通り4両編成の快速電車の車内は飛行機利用客の大きなスーツケース等の荷物を持つ客が多い物の、利用率は座席の3分の1〜4割程度が埋まる程度です。土曜日で観光需要が望めない時間帯と言う事も有るのでしょうが利用率は寂しい物が有ります。やはり地方空港のアクセス鉄道と言うのは厳しい物が有ると思えます。
快速電車で名取まで行った後改札口を一度出て今度は19:14発の下り列車で再び杜せきのした駅を目指します。この様な買い物には比較的遅い時間の電車でも杜せきのした駅で乗客の大部分30名〜40名の乗客が降ります。ホームには上り仙台方面行き列車を待つ人が20名程度待って居ます。取りあえず夕食を取るためダイヤモンドシティ・エアリに行きますが、入口で店を見ても「食べたい」と思う店が有りません。仕方ないので新幹線の最終が仙台21:40発で仙台駅周辺であれば1時間半近く時間が取れるので19:42発の仙台行き列車に乗って仙台駅へ移動する事にします。最終的に杜せきのした駅から50名近い人が乗り込みました。乗客の割合は仙台空港・美田園より遥かに多い感じです。やはり「ダイヤモンドシティ・エアリ恐るべし」と言う感を新たにしました。
杜せきのした駅から乗った電車は普通電車の仙台行きです。名取で乗降が有りその後東北本線に入っても乗客が減りません。乗客が減ったのは長町で最終的には杜せきのした駅で乗った客の大部分が仙台まで乗りとおしました。比較的仙台空港線の乗客の足は長いのかも知れません。JR東日本に取り仙台空港線の培養効果は意外に大きく「採算性に難有り」と言う事で運営を固辞したJR東日本ですが培養線効果で美味しい所取りをしたとも言えるでしょう。JR仙台駅では3番・4番ホームが仙台空港線用にリニューアルされており跨線橋等は案内等も整備されて居ました。只これだけの改良と新型車両導入で増収効果を得ていると言うのは、JR東日本は美味しい商売と言えるでしょう。この後仙台駅3階の東北新幹線中央改札口の脇の
「牛タン通り」「寿司通り」
で寿司屋と牛タン屋をハシゴして三陸と仙台の味を堪能して帰京しました。
☆ 開業前の需要予測は狂ったが・・・。仙台空港鉄道の今の状況を分析する
この様な仙台空港鉄道ですが、開業後約半年経過した段階での仙台空港鉄道の利用状況についての記事が出ていました。
「
仙台空港アクセス鉄道:開業半年、利用予想2400人下回る
」(毎日新聞 2007年9月19日)
(記事の要旨)
・仙台空港とJR名取駅を結ぶ「仙台空港アクセス鉄道」(約7.1キロ)が18日で開業半年を迎えた。
・1日当たりの利用者数は当初予想の1万人だが現在は7600人にとどまっている。アクセス鉄道が開業した3月18日から半年の利用者数は139万4700人。開業直後の3月は1日の利用者は1万1500人。その後伸び悩んでいる。駅別の1日平均の利用者数は▽仙台空港2870人▽美田園駅170人▽杜せきのした駅3550人。
・当初想定は空港利用客(1日当たり約9000人)の約45%の4200人が利用すると予測。「空港利用客の取り込みはほぼ計画通り」だが、一方で沿線から仙台や名取市中心部に通勤・通学する居住者の利用が伸び悩んでいる。
・対応策として、集落と仙台空港アクセス鉄道の駅を結ぶ市バス路線を新設できないか協議している他、「パークアンドライド」を促すために途中駅周辺の商業施設(ダイヤモンドシティ?)と交渉し駐車場を借りることなどを検討している
・この状況に大株主の宮城県の村井嘉浩知事は18日の定例会見で、「まだ沿線に住宅が張り付いていないし、今後香港便が再開されれば需要は見込める。今が底の状態でそれほど心配はしていない」と楽観的な見通しを示した。
記事を見る限り、村井宮城県知事は楽観視していますが数字上は仙台空港鉄道は大幅に苦戦している様に感じます。記事を見れば「当初予想が1万人に対して実際は7600人」と言う事であり、当初予想に対して76%の達成率と言う事は埼玉高速鉄道ほど数字と実際の乖離が大きくありませんが、此の頃はゆいレールの様に需要予測と実際の乖離は少なくなっている事から、「26%誤差」はチョット乖離が大きいかな?と感じます。
しかしこの需要予測は一度「上方修正」されて居る様です。06年12月の河北新報記事によると「大型商業施設の需要を見込んで宮城県が7400人としていた需要予測を1万人に上方修正」と言う記事があると聞いてます。この点を考えると「上積みした分狂った」と言う事が出来ます。しかし必ずしもそうは言えません。実際は当初想定外の「ダイアモンドシティ・エアリ」の開業で大幅に需要は上積みされて居ますから、その想定の無い需要予測とショッピングセンター利用客の実際の輸送量が同一でも、それで「当初需要予測が当っていた」とは言えません。やはり誤差が存在していた事になります。
実際は①ダイヤモンドシティ分の上積みは低く予想しすぎた→上積み分が2600人で杜せきのした駅利用客3550人の3分の2で、ショッピングセンター以外の開発状況が大きく変わらない美田園駅の利用状況から考えて、これを低く見積過ぎた。②仙台空港へのアクセス客の見積が高すぎた→上記記事には「4200人が利用すると予測」と有るのに実際は2870人で此処で約1230人需要が狂っている。③余りに中間駅の利用客が少なすぎた→当初予想7400人-仙台空港駅利用予想4200人=3200人が中間駅利用客だが「美田園駅170人」と言う状況から「ダイアモンドシティ・エアリ」効果を見込まない当初予測で中間駅利用客数は多く見込みすぎた。という事が噛み合わさり、需要予測の誤差が出たのでは?と考えます。
新聞記事では「何時の時期で7400人(修正後10000人)/日の利用客が有る」予測を立てたのか?書いて居ないので正確な所は不明ですが、この予測数が「開業当初からこれだけ乗ってくれる」という事で計算された需要予測であるとも予想は出来ます。しかし実際は今の沿線の開発状況を見ればショッピングセンターを織り込まないで「途中駅で3200人/日」と言う数字は出て来ないと思います。そう言う意味で「需要予測10000人/日」もこれから先何時かの時点での利用客数予測と予測出来ます。
その様に考えれば、今の段階で「需要予測を下回った」と大騒ぎする必要は無いです。本来は需要予測の結果を手にいれる事が出来れば、詳細が分かり詳しく考える事が出来るのでしょうが、今ある情報を分析しても「開業直後で沿線開発が進んで居ない状況での需要予測の76%」と言うのは、必ずしも悲観する状況では無いと言えます。
しかし利用客数自体は「今の段階では許容の範囲の誤差」といえますが、今の利用者分布が仙台空港鉄道の経営に対して「利用者予測との乖離」以上に影響を与える可能性があります。それは収入に対する影響です。利用客数の乖離以上に収入の乖離が仙台空港鉄道の経営にダメージを与える可能性があります。
線内需要が大きく期待できない仙台空港鉄道では「起点でJR接続の名取からどれだけ乗客が乗るか?」に利用客数と収入に大きく左右されると言えます。その中で名取以外の各駅利用客が「仙台空港2870人・美田園駅170人・杜せきのした駅3550人」となって居る事から、この数字にかなり近い人達が名取から各駅へ利用して居ると考えられます。そうするとこの数字に名取から各駅への運賃を掛けると仙台空港鉄道の1日当り収入が類推出来ます。その数字は「2870人*400円+170人*210円+3550人*170円=1,148,000円+35,700円+603,500円=1,787,200円」で、これが(現在の資料で類推できる)仙台空港鉄道の1日当りの売上に比較的近い数字となります。
この数字は「利用客数に対してはダイアモンドシティ・エアリ最寄駅の杜せきのした駅が大きく寄与して居るが、収入に対しては運賃が高い仙台空港駅利用客の方が大きく寄与している」といえます。そこから需要予測を上方修正した要素である「ダイアモンドシティ・エアリ効果」は経営に対しては限定的(類推できるプラス効果は2400人*170円=408,000円/日)で有り、それ以上に仙台空港駅の利用者数が需要予測より下回った事の方が影響は大きい(類推できるマイナス効果は▲1330人*400円=▲532,000円/日)といえます。
この様に見ると、中間駅利用客数の見込み違いやダイアモンドシティ・エアリ効果等もプラス・マイナスで影響していますが、それ以上に仙台空港鉄道の最大の不安要因は「仙台空港アクセス利用客が見込み以下」という点だと思います。仙台空港線で一番足の長い客は仙台空港利用客で、足の長い客ほど収入・収益にプラスをもたらすのは明らかです。其処に不安要因がある事が今の段階で有る資料から類推できる「仙台空港鉄道の最大の心配事」と思います。仙台空港鉄道の需要の根源地である仙台空港の活性化による利用客増や山形・岩手等へのネットワークの強化による集客を含めて、仙台空港へアクセスする客を如何にして仙台空港鉄道に誘導するかが、今後の仙台空港鉄道の安定・発展に必要なのではないでしょうか?
☆ 果たして仙台空港鉄道は成立するのだろうか?
この様に開業後半年経過して、「利用者減少による収入減少の可能性」という困難に晒されている可能性がある仙台空港鉄道ですが、果たして仙台空港鉄道は「鉄道」として成立する環境下にあるのでしょうか?結論に変えて考えたいと思います。
仙台空港鉄道の建設目的はメインが「仙台空港へのアクセス改善」と言う点であり、サブの目的が「途中二駅周辺の区画整理による開発」と言う目的で建設された鉄道です。
実際の所メインの目的である「仙台空港アクセス」という点では、今までは仙台空港へのアクセスはリムジンバス輸送がメインでしたが、仙台空港鉄道開業で仙台市街地の仙台駅からのアクセス時間が車で約40分の所が鉄道で17分になり半分以下に短縮されたと共に、鉄道のメリットを生かして「他の交通機関へのアクセス交通機関」に取り「安心感」という点で定時性も改善される等、大きなメリットが有ったいえます。
左:多数社が競合頻発する仙台空港アクセスバス 右:乗用車利用が多いのか?繁盛する民間駐車場への送迎ワゴン車
しかし開業半年後の利用状況を見ると、仙台空港鉄道は仙台空港利用客から支持を受けているとは残念ながらいえません。それは開業半年後の利用状況を見れば明らかです。当初想定では「空港利用客(1日当たり約9000人)の約45%の4200人が利用する」という前提でしたが、実際の仙台空港駅の利用客は予想を下回る2870人で空港利用客の約31.9%しか利用していません。仙台空港線開業前はアクセス分担率が「
路線バス25%強・貸切バス30%程度・自家用車25%程度
」であり、仙台空港に発着する人の一番多いアクセス手段は「貸切バスを利用する集団客(メインは観光客)」で、幾ら便利な鉄道アクセスが開業しても転移しづらい人達が多い事が分かります。
となると仙台空港鉄道が利用客を確保する為の競争相手は「路線バス」「自家用自動車」となります。その内路線バスはメインの仙台駅からのリムジンバスから鉄道開業に伴い仙台市交通局が撤退し東日本急行と愛子観光バスが参入していますが、「新規リムジンバスは不調」と聞いており、仙台駅発着リムジンバスからは順調に客が鉄道へ転移している様です。しかし仙台空港自体が車でのアクセスは仙台東部道路仙台空港ICから近く高速道路で東北自動車道にもアクセス出来て、
山形
へのリムジンバスは鉄道利用より早くアクセス出来ますし仙台駅やJRの駅から少し離れている人にとっては車のアクセスの方が便利です。この様に考えれば仙台空港鉄道が競り合う相手は「仙台駅からのリムジンバス利用客」もしくは「
JR館腰駅からバス
を利用する客」と自家用車から転移する一部の客に限定されます。
実際は空港アクセスの分担率で「路線バス+自家用車で約50%のシェア」ですから、仙台空港鉄道が現在の段階で全体の3割強のシェアを持つ事から、路線バス・自家用車等の交通機関から半分以上シェアを獲得している事になりますが、それでも当初の予測数値は未達になっています。逆に言えば当初のハードル自体が高すぎたといえます。ですからこの仙台空港鉄道は「路線バス・自家用車利用客」からは一定の支持を受けているが、実際は最大のアクセス客である「貸切バス利用客(≒観光客)」から支持を受けておらず、結果として計画を達成できず「利用者から支持を受けていない」という事になっていると考えられます。
しかし仙台空港鉄道の場合空港利用客の「3割強のシェアを押さえても経営的に厳しい」と言う状況に有ります。空港アクセスで鉄道・モノレールのシェアが3割強と言う分担率は羽田・成田・関空には劣るものの伊丹・宮崎よりは多く、この様な基準でみれば「当初予測より支持されていない」といえども、「他の空港の比べれば必ずしも支持されていないとはいえない」状況です。しかし空港アクセス利用客が約3割利用してくれても2870人/日の利用客にしかならない事から考えれば「地方空港では鉄道アクセスが成立しづらい」といえますし、仙台空港鉄道はその例に当てはまるという事が出来ます。
左:なとりりんくうタウンは未だ未開発状態@美田園 右:仙台空港線の「頼みの綱?」ダイヤモンドシティエアリ
その様な苦しい状況で仙台空港鉄道を支えているのが、空港アクセス客以外の「途中二駅からの利用客」です。具体的に当初沿線の開発等による利用増を見込んで居ましたが実際は沿線の開発が進まず、杜せきのした駅直近に有りペデストリアンデッキで結ばれているダイヤモンドシティ・エアリ利用客が、仙台空港アクセス客を上回る仙台空港線最大の利用客を集め仙台空港線を下支えしています。
実際沿線の利用客に関しては、当初の
名取市関下・下増田臨空土地区画整理事業
の進展で「二途中駅で3200人/日」という目論見持っていましたが、現在は美園田地区で特に人口定住が進んでおらず外れています。実際両土地区画整理事業は「平成23年度完成予定」で事業所・住宅等が増えてくるのはその後と考えると、「二途中駅で3200人/日」と言う数字自体「何時の段階で達成されるべき需要予測」か私には不明な為、今の段階で「途中駅の集客にも頼った仙台空港線の経営計画が失敗だった」とは断言出来ません。少なくとも今の段階では沿線の土地利用状況・乗客の状況を見る限り「厳しい状況に有る」といえます。
しかし関下臨空土地区画整理事業内のショッピングセンター地区のキーテナントとして仙台空港線開業と同一時期にオープンしたダイヤモンドシティ・エアリが、
武蔵村山では公共交通と連絡の悪い巨大モール
だったのが、巨大SCと駅の間に駐車場が有るがデストリアンデッキで仙台空港鉄道の杜せきのした駅と直結する公共交通を意識した巨大SCに変身しており、このショッピングセンターへの来訪需要が仙台空港線の需要を下支えしています。
実際開業前にダイヤモンドシティ・エアリ効果を見込んで予測利用者数を7400人→10000人に増やしている事と、杜せきのした駅の利用客が3550人という事から考えて2600人〜3300人程度ダイヤモンドシティ・エアリ効果で仙台空港線利用客が増えている可能性があります。
この様な事から仙台空港鉄道は「仙台空港アクセス鉄道」としての役割に加えダイヤモンドシティ・エアリへの輸送を加える事で、二本柱で採算性が何とか取れる鉄道として成立して居ると言う事が出来るのではないか?と考えます。本来ならこれに加えて
仙台空港臨空都市
として整備される
2つの区画整理地
の開発後の需要に寄り、最終的に10000人/日の需要が集まり成立する様に考えられていたといえます。
加えてこのプロジェクトは416億円の事業費の内資本金で71億2900万円を積んでいて、しかも「
「ニュータウン鉄道整備事業費補助」の対象に空港アクセス鉄道も加えるという形で空港アクセス鉄道への整備費補助
」が事業費の36%入り、その上で「
仙台空港で空港敷地内の鉄道インフラ部を国が直轄施工する形で空港当局の資金拠出
」が行われて、非常に手厚い補助スキームが組まれています。
だから仙台空港鉄道は辛うじて成功して居ると言う事が出来ます。需要の側面で「空港アクセス」と「新規開発地での需要」と「新規開発地内のSC」が三本柱で支えていてどれが転んでも鼎の関係で支えあう需要スキームと、事業費の面で極めて厚い公的補助と手堅い資金手当てと言う資金面のスキームと言う両面の施策が有ったからこそ、空港アクセス需要が予想割れして
なとりりんくうタウン
が空き地だらけでも何とか鉄道として成立し、その様な状況でも先行きを危ぶまれなくて済んで居るといえます。
今日本の空港で空港アクセスに鉄道・モノレール等の軌道系アクセスがある空港は新千歳・仙台・成田・羽田・セントレア・伊丹・関空・神戸・福岡・宮崎・那覇の11空港ですが、手元に資料が無い神戸以外の10空港の利用車数・発着回数を「数字で見る航空2006」で見ると、仙台(23,517回・3,222千人)・宮崎(18,238回・3,082千人)は空港アクセスに軌道系交通システムがある最低レベルの数値といえます。其処からこの程度の数値が「空港アクセスに軌道系を投入して成立する最低レベル」であるのでは?と感じます。
しかも軌道系空港アクセスのミニマムレベルに有る仙台・宮崎に関しては、仙台の場合は「空港アクセス需要+関連需要」と「手厚い資金スキーム」で支え、宮崎の場合は「宮崎市内+延岡への日豊線高速化と汲み合わせての県内全般への空港(=対東京・大阪)アクセス改善」という意味が有り旭化成等が一部の金を出した、軌道系空港アクセスが成立して居ると言う事が出来ます。有る意味此処が空港アクセスに軌道系システムが成立するミニマムレベルで、しかもこのミニマムレベルの場合「手厚い公的補助」と「空港アクセス+もう一つの需要の柱」と言う複数の支える柱が有ってこそ成立する物という事が出来ます。
今後「空港アクセスに軌道系システムを導入する」場合、この様なミニマムレベルのプロジェクトの存在とその成立理由を踏まえながら、今後のプロジェクトのあり方を考えて行かなければ失敗するのではないか?その限界時例が仙台空港鉄道ではないか?といえると私は考えます。
※「
TAKAの交通論の部屋
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