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「麗しの国(Formosa)」の鉄道は何故苦しんでいるのか?

−「台湾の在来線」台湾鉄路管理局線の状況を台湾一周旅行で見学する−



TAKA  2007年09月10日




台湾鉄道の中心 台湾高鉄と台湾鉄路管理局の駅&台湾鉄路管理局の庁舎が併設されている中華民国の首都の玄関口台北駅



 今回夏休みを生かして8月10日〜13日の間「 台湾高速鉄道試乗 」を主目的に中華民国を訪問しましたが、只台湾高速鉄道に乗るだけでは面白く有りません。本当なら台北に有る観光スポットを廻るのも観光として一つのプランだったのですが、折角中華民国まで来たので台湾高鉄線だけでなく在来線の台湾鉄路管理局線に乗り、滞在の内1日を費やして台湾島一周ツアーに出て色々な路線を見る事にしました。
 元々台湾ツアーのガイドブックでも「台湾一周鉄道の旅」を案内しており、色々な人が実践していたと思いますが、台湾高鉄開業前でも「日帰りで台湾一周」をする事が出来ましたが、今回台湾高鉄台北〜新左營間開業に寄り西海岸部分の所要時間が大幅に短縮されました。加えて東部幹線台北〜花蓮間に振り子式特急大魯閣号が登場した為より所要時間が短縮され、この様な「高速列車の速達効果」により「朝7時」に台北を出ても夕方「7時頃」には台北に帰って来れるようになり、最速で約12時間で台湾島一周が出来るようになりました。
 しかし今回の中華民国旅行では、私自身が中国語は「ニイハオ」「シェイシェイ」しか言えなく、頼りは「読んで文意を悟る」だけだったのに加えて、日程を決めたのはお盆直前で日本で鉄道チケットを確保する事ができず、本当は予定していたパターンで廻る事が出来なかった等色々失敗もありましたが、「失敗も海外旅行の思い出になるだろう」と開き直り何とか台湾島一周ツアーをする事が出来て、台湾鉄路管理局の鉄道路線の今の姿を駆け足でしたが見る事がで来ました。
 その様な「ドタバタ旅行記」ですが、海外の鉄道路線はなかなか見る事が出来ません。私はその様な中で一人でもがき苦しみながらも色々な事を見てくる事が出来たと思って居ます。TAKAの見た「台湾鉄路管理局」の姿を見て頂ければ幸いに思います。

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 ☆台湾鉄路管理局 概要 (最新 世界の鉄道より引用)
項  目数     値
創 業 年1891年(清朝により台北〜基隆簡が開業・1908年に台北〜高雄間(西部幹線)が開業)
営業キロ・職員数1097km・1万4327人
軌間・最大軸重・列車最高速度1067mm・18t・旅客→130km/h 貨物→75km/h
電化・複線化電化→592km(AC25kV:60Hz)・複線化→589km(左側通行)
年間輸送量旅客→1億7534万人/96億6566万人キロ・貨物→1215万トン/9億1905万トンキロ
車両数EL/179・EC/563・DL/149・DC/230・PC/1354・FC/2836
経常収支収入→230億9842万台湾ドル・支出→325億4575万台湾ドル

 ☆台湾一周の旅 利用列車 (8月12日実施)
No路 線 名列車名・利用区間・時間 等
(1)西部幹線太魯閣号 台北〜樹林 16:20〜16:35
台湾高鉄105列車 台北〜左營 7:42〜9:18 ※台湾高鉄記事に乗車記記載
(2)南廻線キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光81号 高雄〜台東 10:09〜12:55
(3)東部幹線自強1058号 台東〜花蓮 15:25〜17:51
(4)東部幹線キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光74号 花蓮〜台北 18:18〜21:15

 ☆台湾鉄路管理局関係 参考資料
 (参考文献)     ・最新 世界の鉄道(社団法人海外鉄道技術協力協会)
            ・鉄道ダイヤ情報2006年11月号及び2007年7月号
 (公式サイト)    ・ 台湾政府観光局HP
            ・ 台湾鉄路管理局HP
            ・ 台北中日経済文化代表処HP
 (その他)      ・ 中国情報局-物流・運輸-
            ・Wikipedia 「 台湾鉄路管理局 」「 台鉄捷運化 」「 TE1000型

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(1)台湾鉄路管理局最新のTE1000型太魯閣号に乗ってみよう!

 今台湾の鉄道に関して注目を浴び話題になっているのは、日本の新幹線700系を用いた「台湾高鉄700T型」&日本のJR九州885系「白いかもめ」を元に日立が造った台湾鉄路管理局TE1000系「大魯閣号」と言う「2つの日本の技術」です。
 台湾高鉄700T型は日本の新幹線に近い高速新線を走る「高速鉄道の主役」であり、台湾鉄路管理局TE1000系は中央山地の北辺を廻り中心とし台北と東海岸の中心都市 花蓮 (人口109,684人)を結ぶ東部幹線の高速化を担う車両として登場した車両で「在来線高速化」の主役であると言えます。
 元々台北〜蘇澳〜花蓮〜台東間の東部幹線の内、 蘇澳〜花蓮間 は特に地形が厳しく今まで東部地区を孤立させていた要因となっており、中華民国のインフラ構築に大きな成果をおさめた「 十大建設 」の中で建設された路線であり、その後1992年〜2005年の間に電化・複線化が行われ、旧線の険しい線形が長大トンネル等に依り解消され高速化が進み、その仕上げとして今回振り子機能を備え曲線通過速度を上げられるTE1000系大魯閣号が投入され高速化が達成されました。

 その大魯閣号ですから、今回の台湾島一周の旅では「是非乗りたい」とは思っていました。しかし大魯閣号は振り子機能があるので「揺れる」と言う事を意識しているのか「自願無座」が有りません。要は全席指定席と言う事であり加えて「新型特急」「所要時間が短い」と言う事が有り、利用率は高く座席が取りづらいと言う話は聞いていました。
 その為台湾到着後直ぐに台北駅に向かい12日の花蓮17:31発自強1090号(大魯閣号)のチケットを買いに行きましたが、台北駅の自動券売機では「満席」で買う事が出来ません。11日の自強1090列車も満席です。自動販売機に長時間粘り「台湾島一周」を諦めるつもりで11日・12日の台北⇔花蓮の大魯閣号のチケットを全部探しましたが見事に全部満席です。土日ですが「盆休み」が有る訳ではない中華民国ですから「超多客期」と言う訳ではないといえます。そう考えると大魯閣号の人気は恐るべしと言う所です。
 しかし此処まで来たら簡単に諦める訳には行きません。台北駅で時刻表と睨めっこで「何か策はないか?」と考えていたら、良く見ると大魯閣号の行き先は花蓮→樹林となっており「台北行き」では有りません。どうも大魯閣号は台北をスルーして運転されているようです。樹林は台北から西に向かって3駅目の駅で所要時間は約15分です。「もしかしたら台北→樹林だったらチケット取れるかな?」と思い券売機を操作するとこの区間ならチケットを取る事が出来ます。此処は「仕方ない」と割り切り、回送運用に近い大魯閣号の「台北→樹林」間に乗り、TE1000系の雰囲気だけ楽しむ事にしました。

  
左:台北駅に入線する太魯閣号TE1000型  右:太魯閣号乗降風景@台北駅

 11日午後に台湾高鉄の試乗を終えた後、台中駅から台湾鉄道管理局西部幹線の自強号で台北駅に戻り、取れなかった昼食を台北駅構内の軽食店で取った後、入線5分位前にはホームに入り大路閣号が台北駅に入線して来るのを待つ事にしました。
 台北駅ホームで待っていると、16:20ほぼ定時に東側から大魯閣号TE1000型が入線してきます。カラー的には白が基調の車体に今までの台鉄の優等系基本カラーであるオレンジの帯が入った車両です。8両編成とそんなに短編成ではありませんが、元々台北駅は14両編成のE1000系プッシュプルトレインや15両編成のDR2800・DR2900・DR3000系等のディーゼル車で運行される自強号に対応した長いホームが備えられているために、8両編成の大魯閣号の場合長いホームの真ん中ににチョコンと停まっている感じになります。(これが近郊区間運転様の普通車の4両編成になるともっと場違いな感じになる・・・)
 しかし大魯閣号がホームに停まると一斉に乗客が降りてきて混雑します。流石に人気列車で満席だった事も有り、乗客は多いようです。大魯閣号は基本的に起終点の樹林・板橋・台北・松山の台北近郊4駅と花蓮の他は羅東・宜蘭の2駅にしか停まらない為、羅東・宜蘭・花蓮の3駅で大魯閣号を満員にするほどの需要が存在すると言う事になります。大魯閣号の他に自強号・キョ(くさかんむりに呂)光号が多数走っている中で、大魯閣号はこれだけ混んでいるのですから「それだけ需要が多いのか?」「大魯閣号に人気が有るのか?」のどちらなのか?それとも両方なのか?確実な所は分かりませんが、大魯閣号の人気はかなりの物があると言う事は出来ます。

  
左:太魯閣号TE1000型車内  右:終点樹林駅に停車する太魯閣号TE1000型

 しかし台北は実質的な終点であり、台北→樹林は副都心とも言える板橋へのアクセスと言う意味も有るのでしょうが、実際的には「車両基地のある樹林への回送」に近い運転でありその為台北で殆どの客が降りてしまい、台北→樹林間は殆ど空気輸送の状況であり台北駅から乗ったのは見た限り私一人と言う状況であり、15分の短い時間でしたが大魯閣号の車内をゆっくり楽しむ事がで来ました。
 大魯閣号は見た目は「チョット太って不細工な885系」と言う感じです。今までの台鉄の車両と比べると確かに「近代的な外観」と言う事は出来ますが、大本がデザインで定評のありブルネル賞を受賞したJR九州885系ですから比較の基準を此方に置いてしまいます。そうなるとやはり外観のデザイン的には「チョット野暮ったい」と思ってしまいます。
 又大魯閣号TE1000系の車内も白が基調の内装で合成皮の座席シートと言うアコモデーションであり、シンプルで清潔感を感じるデザインであり、他に乗った台鉄車両と比べても格段にグレードが高い車両であると言えます。只「日本人」的に見てしまうと、どうも「シンプルすぎる」と感じる点も有りますし「座席が合成の皮」と言うのもチョット違和感を感じます。こう見ると「いかにも日本その物」と言う台湾高鉄700T型の方が私には落ち着くデザインであると言えます。
 しかし日本ではTE1000系の兄貴分のJR九州885系等の様にデザインが個性的で特徴があり「デザインが売りです」と言う車両が段々増えてきますが、台鉄の場合最新型のTE1000系を見ている限り個性的とは言えないデザインであり「デザインが売りです」とは一概にも言えない車両の作りになって居ます。「日本的視点」でこの新車を見ると「変な所(合成の皮のシート等)にこだわっているがデザインは野暮ったい」と言う感じがしますが、中華民国ではその様な「デザインへの拘り」が少ないのかもしれません。
 今回は台北→樹林間の回送的運用であった為に、大魯閣号TE1000系の特徴である「130km/h運転の高速性」「振り子機能を持った優れた曲線通過機能」を体感する事が残念ながら出来ませんでした。しかし線形改良工事が行われたと言えども台北〜花蓮間を約2時間30分→約2時間に短縮した効果は大きいと言えます。台湾島も西部の平野地帯を除けば日本と同じ様に山の多い地形であり鉄道には不利な地形であると言えます。その地形の困難を車両の側面から解消する為に作り出された技術が「振り子式車両」であり、日本でも北海道・四国・九州等でその威力を発揮していますが、台湾鉄路管理局でも遺憾なくその技術が発揮されていると言えます。
 世界的に見て鉄道の「 振り子式車両 」の技術は、日本だけでなくイタリアのフィアット(現在はフランスのアルストム社)の ペンドリーノ が有名でありイタリア国内だけでなく欧州各国で採用されていますが、振り子車両による曲線通過速度向上に依る高速化はインフラ改善をしなくても高速化が図れる「低コストな高速化手段」です。これは地形が厳しい所ではより有効です。その点日本の「振り子式車両」はペンドリーノと異なる「カーブ区間を感知するのに地上に器具が必要なシステム」と言うハンデは有りますが、それでも世界的に見て日本の振り子車両技術は「世界に売れる特徴の有る技術」であると言う事も出来ます。その点でも日本は過去にオーストラリアに輸出実績もありますし日本の場合殆ど世界で唯一と言える「ディーゼル式振り子車両」(ドイツのICE-TDは2003年から長期休車中)を実用化して居る等優位な側面もあり 、実質的なライバルはアルストムのペンドリーノだけでありしかもアルストムが持たない技術を持つ等、世界と五分に渡りあい車両ビジネスが出来る分野であると言えます。
 有る意味その第一弾が今回中華民国に輸出された大魯閣号TE1000系であると言えます。この成功は今後の世界での日本の振り子車両に対する評価に大きな影響を及ぼす可能性があると言えます。その点からも台湾高鉄の700T型と並び「日本の車両が海外で使えるか試されている」試金石であるとも言う事が出来るのではないでしょうか?。その点からも少ししか乗れなかった大魯閣号ですが今後も是非頑張って欲しいと思います。


(2)秘境の路線!? 台湾海峡と太平洋を望める南廻線に乗って

 さて此処からは今回の本命「台湾島鉄道一周の旅」になります。8月12日の日曜日に行った「台湾鉄道一周の旅」ですが、行程の約4割になる台北→新左營間に関しては 台湾高鉄105列車 を使いワープしているので、実際の台鉄線のツアーの起点は新左營から普通区間車で移動した先の高雄駅になります。
 高雄駅は台湾第二の大都市高雄の玄関口ですが、現在台湾高鉄新左營駅へのアクセスを兼ねる地下鉄(MRT)線の工事等もあり、日本統治時代から使われていた駅舎は地下鉄乗入れ・(将来の)台湾高鉄乗入れに備え、近くに移設して「高雄願景館」として保存され、現在の駅舎は仮駅舎的な位置付けで使われています。その様な仮設の高雄駅ですがホームは4面有りその他の留置線・引き上げ線等有る上空き地も有り、台北駅と事なり将来台湾高鉄を迎え入れても十分の余裕があります。
 今回は先ず第一歩として、この高雄駅から南廻り線の列車に乗りバジー海峡を見ながら中央山地を南側で越えて台湾東部の拠点としの一つ台東を目指す事になります。とりあえず高雄駅の見学を終わらせた後、高雄駅の4番プラットホームで乗車予定のキョ(くさかんむりに呂)光81号台東行きを待つ事にします。この列車高雄始発ではなく西部幹線豊原(台中のチョット北側に有る駅)が始発駅の直通列車です。その為前日樹林駅の自動販売機で買った「自願無座」切符しか持たない私は、「ローカル線だからガラガラだろう」と言う淡い期待を胸にホームで列車を待つ事になります。
 今回乗車予定のキョ(くさかんむりに呂)光81号は予定通りの時間に高雄駅に入線します。此処で機関車をEL→DLに交換する為(南廻り線は屏東より先が非電化)に約15分停車します。その間車内に入り空席を求め歩き回りますが、座ると指定券を持った人が着て立たざる得ない(だからこそ「自願無座」なのだが)状況になり結局座席に有り付けません。最終的に8両編成の列車ですが高雄発車時点で1両当り数名〜10名近い立ち客が車内・デッキに居りかなり混雑した状況で高雄を出発します。要は「自願無座」しか手には入らなかったと言う事はその段階で「座席は既に全部売れている」と言う事を意味するのだと改めて悟りました。実を言うとこの段階ではこの先の「台東→花蓮」「花蓮→台北」も自願無座の切符しか持って居なかったのです。早速今回の旅行の先行きに危険信号が付いてしまいました。

  
左:台湾第二の都市高雄の玄関口 高雄駅  右:昔の面影が残る高雄駅ホームに停車中の台東行き列車

  
左:(立ち客も居る)台東行き列車車内  右:南廻線から見える台湾海峡

 私を乗せたキョ(くさかんむりに呂)光81号は予定通り高雄を出発して台東へ向かいます。高雄の機関区の脇を通り高雄の市街地を抜けると順調に高雄近郊の複線電化の幹線を南に下ります。キョ(くさかんむりに呂)光81号は急行に近い列車の為に比較的こまめに停車して行きます。けれども大きく乗客が減ったのは複線電化区間の終わる屏東です。此処は丁度台湾西部の平野地帯の南端に位置し高雄〜台東間で一番大きい都市であり流石に此処で座席に空きの出来るぐらいまで乗客が減ります。
 屏東を出ると南廻り線は単線のローカル線になります。屏東を出てから潮州と言う中都市を過ぎた後、林邊駅からは台湾海峡沿いの海沿いに出ます。ここまで変わると殆ど「南国」状態で駅ホームに出るとムッと暑いですし植生も椰子が目立ち淡水魚の養殖池が目立つ様になるなど、台湾北部・中部とは明らかに雰囲気が変わってきます。南廻り線の運転上の中核駅である枋寮を過ぎると段々勾配を上りだし高い所から台湾海峡の姿が見えて非常に南国らしい景色が広がります。その先の枋山駅を過ぎると東に進路を変えて南廻り線の特徴の一つと言える中央山地を貫く中央トンネル(8070m)に入ります。

  
左・右:車内販売で売っていた駅弁(なかなか美味しかった)

 本当は海沿いに進んで台湾島の南端を廻れば正しく「バジー海峡を見ながら」進む事になりますが、その経路と言える「南廻公路(草埔公路)」はもっと南側を走る事になります。しかし勾配に弱い鉄道は良い線形で中央山地を越える為に「長大トンネル」を選択したのでしょうが、旅行者としてはチョット寂しい感じになります。
 此処で丁度良く車内販売が廻ってきます。しかも丁度昼が近い時間で高雄で買った飲み物も尽きて寂しくなったのでワゴンの中を覗き込むと丁度駅弁を売って居ます。台東到着が12:55ですから此処は我慢して台東についてから食事を取っても良いのですが「列車に乗ったら駅弁だろう」と買ってに理屈を付けて駅弁と水を買って昼食とします。ご飯の上に肉と魚のフライと煮卵に漬物と言う弁当で味もなかなか良く「軽食」と言うには丁度良い弁当であると言えます。台湾鉄路管理局線には未だこの様な所は昔の古きよき時代が残って居るようです。

  
左:南廻線の中央山地山越え区間を越えた場所にある大武駅  右:大武駅の先に見える太平洋

  
左:終点台東駅に到着した列車  右:地方の中心駅の風情?台東駅

 南廻線の中央山地山越え区間を過ぎると大武駅になります。大武駅で駅の先を見ると海が見えます。この海は太平洋です。此処まで来ると中央トンネルを越えたので、台湾海峡からバジー海峡を越えて太平洋に出て台湾島東岸に辿り着く事になりました。
 東海岸も線路の進行方向左側に中央山地が迫っていますが、海に近い事も有り多少は平地が広がりそれなりの人口集積もあり、その為10分程度に1回位駅を通過するようになります。特に知本は温泉地で有名な街であり観光客も乗降します。しかしこの辺りは台東に近い為台北からも花蓮・台東経由で来た方が近く、知本の温泉地としての知名度もある事も有り、普通台東を境にして高雄方と花蓮・台北方に系統が切れるのですが、例外として台北(樹林)から知本行きの自強号が2本有るほどです。
 知本を過ぎると台東は直ぐ其処です。台東駅は線路は一本に繋がっているものの実体は東部幹線の終点であると同時に南廻線の終点であり、3本の月台(プラットホーム)と広大な構内と花蓮寄りに機関区と気動車の車庫を抱える一大拠点駅です。しかしこの台東駅は南廻線開業時にこの場所に移された駅で一時期は「台東新駅」と言っていました。旧駅は市街地に有り今は廃駅となり「 台東鐵道藝術村 」として整備が予定されているとの事ですが、流石に英語や日本後が通じるか怪しい地方都市でタクシーに乗る勇気が湧きません。とりあえず駅周辺をブラブラしながらこの先の作戦を練る事にしました。


(3)地方のローカル幹線? 東部幹線台東〜花蓮間は座席指定の自強号で移動

 本来は余った時間で「街中でも歩いて散策」と考えていた台東での待ち時間でしたが、この前のキョ(くさかんむりに呂)光81号で「自願無座」の恐怖を味わってしまった為に、此処は何とかしてこの先の指定席券を押さえなければなりません。その為にとりあえず時刻表を見ながら「自願無座脱出」作戦を練る事にしました。
 本当は14:42発台北行きの自強2080号の自願無座席券を持って居ましたが、先ずはこれをキャンセルして指定のある座席を何とか台北まで押さえなければなりません。しかも花蓮で途中下車はしたいですから台東→花蓮・花蓮→台北で上手く指定席を押さえなければなりません。其処で時刻表をにらみながらメモに「自強2080号台東→花蓮・自強1060号花蓮→台北」と書いた上「×自願無座」と大きく書いてメモを出しますが、如何もどちらも満席のようで駅員の人は首を振ります。仕方ないので今度は片言の英語で(合っているのか分からないが)「To Karen&Taipei AnyReserve Tickets Please」と言って見ますが通じません。其処で困っていると英語が分かる駅員さんが助けてくれました。駅員さんが3人位集まって話し合った上で、切符を発行してくれて私が英語も怪しいのを察してくれて「This Tickets Only Ok?」と言って台東→花蓮の自強1058号の指定のチケットを渡してくれます。やはり花蓮→台北は自強号満席のようです。此処は駅員さんに「シェイシェイ」とお礼を述べた上で差額料金を払いチケットを手に居れます。
 とりあえず「花蓮→台北は花蓮に着いてから考えよう」と開き直り、台東の街に散策に出ようとしましたら駅前には殆ど町並みや商店がありません。如何も台東の市街地はかなり先の様です。仕方なく諦めて駅の廻の屋台等を冷やかしながら列車の発車時間まで時間調製をする事にします。
 自強1058号は台北行きの直通自強号で15:25発の為、その発車15分ぐらい前に成ると駅員が徐に改札口について自然的に改札になります。この発車15分前の段階で改札口に並んだ人は100名近く居ました。この混雑では指定券が買えないのは当然かもしれません。ホームに上がると6両編成の自強号ディゼルカーが停まっています。最終的には座席定員の8割程度が埋まって定時に発車します。

  
左:台東駅に停車する台北行き自強号(隣は南回り線普通客車)  右:自強号車内@台東

  
左・右:東部幹線の名物? 池上駅の駅弁

 自強号は台東駅を発車すると又南廻線と同じ様な「右に山が迫り左は平野」と言う風景の中を進んで行きます。この区間東部幹線は「花東公路」と呼ばれる道沿いに花蓮を目指しますが、この路線元々が軽便鉄道で東海岸が船便しか台北・高雄等の外の地域との交通路が無かった時代に生きない鉄道として作られた鉄道ですが、その様な事も有り地形的には厳しい感じはしませんが左右に曲線が多くそんなに速度も出ません。
 この台東〜花蓮間には台湾鉄道管理曲線の中でも有名な「池上飯包」と言う駅弁が有ります。まして私の乗る自強号は池上駅に停まります。折角の有名駅弁ですから(数時間前に駅弁を食べたにも拘らず)これは是非駅弁を手に入れたい所です。池上駅に着きホームに降りて見ると昔の横川駅の釜飯売りでは有りませんが駅弁を持った売り子が何名かホームに居ます。横川駅と違い機関車交換等が有る訳ではなく発車まで余裕は無さそうですから急いで買い車内に戻ります。その駅弁が上の写真ですが、煮卵に腸詰にチャーシューと野菜の軽く炒めた物がメインになって居ます。ボリュームは「軽食」ですがなかなか美味しく、日本を思い出す梅干が入っているのは日本人的にポイントが高いと言えます。やはり海外で日本的食べ物に意識しないで当るとチョット驚くと共に感激するものです。
 この台東⇔花蓮間はれっきとした台鉄の幹線で、昔はタブレット・腕木式信号機での運行がされていた様ですが、今は単線非電化であるものの自堂閉塞式が採用されていて一応近代的な輸送体制が作られて居ます。しかしその様な近代的な輸送体制に相応しい利用量も台東⇔花蓮間には存在しています。この区間台北直通の11往復の自強号と一部台北直通のキョ(くさかんむりに呂)光号が夜行を含んで7往復運転されていて、本数的には大動脈であると言えます。しかしそれだけ運転されていても比較的優等列車も停車駅が多い為区間輸送の一部も受け持って居る為にほとんどの区間で100%を越える乗車率で、花蓮が近づくとその傾向はより一層強くなりました。これで「自願無座」は厳しすぎます。指定券が取れて本当に幸せな旅がで来ました。しかしこの乗車率から見ると「自強号の完全毎時1本化」を含む大幅な輸送力増強が必要かもしれません。

  
左:東部幹線 台東〜花蓮間の車窓  右:途中駅での自強号同士の交換風景

  
左:乗客でごった返す花蓮駅ホーム  右:花蓮駅での自強号増結風景

 私の乗った自強号は花東公路にそって敷設された東部幹線を北上し、何本かの台東方面行き自強号・キョ(くさかんむりに呂)光号と交換しながら進んで行きます。台東〜花蓮間はほぼ2駅に1駅停車しながら進んで行きます。その為区間利用の客も多く車内には「立ち客多数」と言う状況になってしまいました。
 台東駅から約2時間半で自強号はほぼ満員の状況で市街地に突入し、東海岸の中核都市の一つ花蓮の玄関口花蓮駅に到着します。花蓮駅では一番ホームに到着しますがホームには人が溢れて居ます。其れに対して此方の自強号は6両編成「一体乗れるのか?」と思うとホームの前の方に停まります。今までの台東〜花蓮間はそんなに長大編成が入れない程度のホーム有効長しか有りませんでしたが、花蓮駅はそれらに比べるといようにホーム有効長が長く、此処で自強号は増結をするようです。ホームに出ると後ろから増結車両がやって来ます。此処で何と9両増結して15両編成で台北に向かうようです。
 けれども花蓮での9両増結を見ると、「花蓮〜台北間の需要の多さ」も感じましたが、それ以上に台東〜花蓮間の輸送力不足・速度の遅さを感じました。確かに改修工事をしていても「出が軽便鉄道(1982年改軌)」と言う事も有るので軌道等のインフラが弱いのは仕方ないにしても、単線・非電化で6〜8両程度の列車しか運転出来ないと言うのは如何見ても貧弱で有ると言えます。台東〜花蓮間の改良工事の予定があるとは聞きますが、最低でも今のままでの「電化」は必要なのでは?と感じます。出来れば大魯閣号TE1000系を投入して台東〜台北間5時間程度(今は約5時間半程度)で結ぶ事が出来れば、大きく変わるののだがな?とは感じました

(4)台鉄のドル箱区間?なかなか座席の取れない花蓮〜台北は直行列車で移動

 さて今回最後の中継駅花蓮に到着しましたが、本来 花蓮 では大魯閣渓谷観光までは出来なくても、せめて市内観光位はしたいと思いましたが、花蓮駅での混雑と18時近くになり日が落ちてきたので、とりあえず此処から先のチケットを如何するか?最優先の課題を考える事にしました。
 とりあえず改札口を出て券売所にある発車の電光掲示板を見ると、次の発車の欄に「キョ(くさかんむりに呂)光74号18:18台北」と書いてあります。此処でハッと思ったのですが「別に自強号にこだわらなくてもキョ(くさかんむりに呂)光号でも良いのでは?」と感じて、とりあえず行列の出来ている券売所に並んで、並んでいる途中に「キョ(くさかんむりに呂)光74号 18:18発 花蓮→台北 ×自願無座」とメモを書いて駅員に渡して見ました。そうしたらなんと未だ空席が有った様で切符を発券してくれました。これで台北までの座席を確保する事が出来ました。
 さてチケットを手に入れましたが、この段階で既に時間は18時を廻っておりすでにキョ(くさかんむりに呂)光74号の出発時間の18時18分まで後15分を切ってしまいました。取り急ぎ駅を出て駅舎の撮影をした上で、駅のとなりに有る台東線で使っていた軽便車両が保存されている公園の写真の撮影し(此処には珍しい軽便鉄道の寝台車が保存してある)、此処でタイムアップになってしまったので急いで駅構内に戻り、折角指定席を押さえたキョ(くさかんむりに呂)光74号に乗る事にします。

  
左:東部幹線の中核 花蓮駅  右:花蓮駅前に保存されている昔台東線で使われていた軽便車両

  
左:台北行き列車が並ぶホーム@花蓮  右:(台北方面)樹林行きは客車の直通列車

  
左:満員の(台北方面)樹林行き列車車内  右:首都の玄関駅に普通に停まっている電気機関車&客車列車@台北駅

 18:18発のキョ(くさかんむりに呂)光74号は花蓮始発の列車で、しかも週6日間運転の臨時列車で加えて停車駅だけで見ればこの列車花蓮〜台北間で松山だけ停車と言う実質的なノンストップ列車で途中の主要駅蘇澳・宜蘭にも停車しないと言う「花蓮→台北間輸送」にだけ絞ったきわめて特殊な列車と言えます。だからこそ発車直前でも席が取れたのでしょう。花蓮→台北間で39本の自強号・キョ(くさかんむりに呂)光号が有ると言う「優等列車街道」だからこそこの様な「下克上」列車が成立するのでしょう。それも東部幹線花蓮〜台北間の特殊な状況を示して居ます。
 ホーム等で写真を取った後列車に乗り込み、やっと取った席に着きます。席に着くと直ぐ列車は発車します。この列車は次の停車駅が台北市街の松山と言う状況です。その為座席はほぼ満席ですがこれから混む心配もありません。落ち着いて車窓でも楽しもうかと思いましたが、18:18発の列車ですから花蓮発車後しばらくしたら日が落ちてしまい、車窓は真っ暗になってしまいました。しかも花蓮で飲み物等を補給できなかった上に車内販売も無い状況で、もうやる事が無くなってしまいました。その為仕方なく車内でジッとしていたのですが、その内疲労で寝てしまいました。
 この列車台北着が21:20なので、花蓮〜台北の所要時間は3時間2分とやはり大魯閣号や最速の自強号より所要時間が掛かります。流石に電気機関車牽引の客車列車だけ有りスピードは出ない様です。しかし列車の乗り心地が良かったのか?私は寝てしまい起きたのは松山駅停車直前で、何と車内で2時間半以上寝てしまいました。
 松山駅を出ると直ぐに台北市内の地下線に入り、直ぐに実質的終点の台北駅に到着します。台北駅が近づくと客車列車だけ有りゆっくりと減速して行きます。久しぶりの客車列車ですが、やはり加減速は電車に比べて大幅に劣る感じがします。今や殆どの列車が集まる中核駅の台北駅が台鉄全列車で2面4線しか無い状況では加減速の遅い電気機関車牽引客車のキョ(くさかんむりに呂)光号や前後に電気機関車を付けた2M12T編成のE1000系自強号ではダイヤ構成上のネックになる感じはしました。これは将来的には何とかしなければならないでしょう。
 流石に台北駅では殆どの乗客が降りてしまい、見慣れた「空の樹林行き」となって台北駅を発車して行きます。もう21時半近い時間なのに台北駅には未だ西部幹線・東部幹線から来る列車から多くの人が降りてきたり区間車に乗る人がホームに居たりと、駅構内・ホームはかなりの混雑をしています。これは朝・昼・夕どの時間もそう変わらず、隣の台湾高鉄ホームや駅構内と比べると遥かに賑やかな感じでした。この様な所にも台湾鉄路管理局の実力を垣間見ながら、夜の台北の街へ夕食を取るために向かう事にしました。

(5)個性的な台鉄の主力車両・列車を見てみよう!

 今回丸1日掛けて台湾島を一周して、前日の新鳥日〜台中間の区間車・台中〜台北間の自強号・新左營〜高雄間の区間車・台北〜樹林間の大魯閣号・樹林〜松山〜台北間の区間車利用の利用を含めて、台湾鉄道管理局線を色々な所を乗りましたが、有る意味日本人から見れば非常に個性的な鉄道路線で有ると言う事が出来ます。此処では今回の旅行で見た台湾鉄道管理局線の色々な列車を見ながら、台湾鉄道管理局線の列車について見ながら台湾鉄路管理局線の輸送の実情について見て見たいと思います。
 台湾鉄路管理局線の旅客列車の車種は自強号・キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号・復興号・区間車の4種別で運行されていて、これを日本の列車種別に当てはめると自強号→特急・キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号→急行・復興号→快速・区間車→普通となります。又キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号・復興号の殆どは機関車牽引の客車運行になっており、自強号は主力がEL+客車+ELの固定編成のE1000系が担って居り、区間車は西部幹線ではロングシート4両固定の電車・東部幹線等では客車(意外に非冷房が多い)で運行されています。

  
左:台鉄の最新鋭電車太魯閣号TE1000型@台北  右:(特急)自強号の主力E1000系列車@台中

  
左:非電化区間自強号の主力日本製DR2800系@台東  右:意外に本数の多い客車運行の(急行)キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号

 自強号は台湾鉄道管理局線の都市間輸送の主力車種で西部幹線・東部幹線に多数設定されています。特に台北(松山)〜高雄間や台北(樹林)〜花蓮・台東間には毎時1本以上の本数が設定されていると同時に、南廻線高雄〜台東間や北廻りで花蓮〜台中・嘉義・高雄間などの区間でも設定されています。又電化区間に関しては南アフリカ製ELを前後に挟んで間に韓国大宇重工製の客車を12両挟んだ固定編成E1000系が主力となっており、非電化区間の東部幹線花蓮〜台東間・南廻線屏東〜台東間を含む路線を走る自強号は日本製のDR2800・DR2900・DR3000系ディーゼル車を用いて運転されており、その為大都市の台北の地下駅にもディーゼル車が走って居ます。
 またこの状況を改善する為に、利用客が多いが線形も厳しい東部幹線台北〜花蓮間に日本の技術を用いて(大元になったのはJR九州885系)作られた振り子式特急用電車TE1000系が投入されており、東部幹線台北〜花蓮間の複線化・線形改良と合わせて約30分にもなる大幅な時間短縮を実現しており、徐々にではありますが自強号の高速化も進みだして居ます。
 その様な都市間輸送の主力である自強号を脇で支えているのが、日本で言う急行列車に当るキョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号です。キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号は基本的に機関車牽引の客車で運転されていますが、その客車はクリームにオレンジで塗装された専用車両で車内のアモコディーションは冷房付きで自強号並みのリクライニングシートが装備されています。又一部列車には(所要時間は掛かるが)停車駅は自強号より少ない特別な列車が有るなど、自強号を補完する役割が強いと言えます。
 又自強号・キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号は原則「全席指定」となっており、一駅利用などの短い区間でも指定席が発行されます。その指定席が満席になると「自願無座」で切符が発行されますが、料金の割引等が有る訳では有りません。又運賃制度が日本の運賃+特急・急行料金と言う様な「2階建て」の運賃制度ではなく、運賃と料金を一体で種別毎に運賃が設定されて居ます。その為に運賃が決まってしまっている為に自願無座でも運賃が変わらない制度になって居ます。

  
左:区間普通運転のDC区間車@台中  右:区間普通運転の電車区間車@新左營

  
左:冷房改造の旧型客車(快速)復興号  右:ローカル線は冷房も無い!? 南回り線普通車@台東

 基本的に都市間輸送を担当している自強号・キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号に対して、近郊輸送・地域輸送を担って居るのが復興号・区間車です。特に区間車は西部幹線・台北都市圏(基本的には基隆〜新竹間)の輸送の根幹を担い、この区間では日本のJRの都市県中距離電車にも負けないレベルで多数の列車が運転されています。
 この西部幹線・台北・高雄都市圏では区間車も南アフリカ製・韓国製の電車で運行されていて、これらの電車は(ステップが付いている物の)2ドア・3ドアのロングシートの車両で基本的には4両固定編成の車両で運行されています。これらの都市圏の区間列車もかなりの利用客が居て、今回の旅行の区間車利用で一度も座席に座れ無い程でした。
 それに対し東部幹線花蓮以南や南廻線の非電化区間などでは客車牽引の区間車が運転されています。この非電化区間の区間車は車齢30年近い旧型客車を使われていて、当然非冷房でサービスレベルはかなり落ちると言えますし、沿線人口が少ない区間ですから当然乗客が少ないのに数両の客車を機関車が牽引していると言うのは非効率ですし、旧態依然としていると言えますが、未だ地方のローカル線ではこの様な区間車が残って居ます。
 この様に見ると台湾鉄路管理局の旅客輸送の現状が運行されている車両を見ると見えてくると言えます。要は今の台湾鉄路管理局線の姿は「何処かで見た姿」では無いでしょうか?その「何処かで見た姿」は日本の70年代〜80年代の国鉄の輸送形態と似ているのでは無いでしょうか?最後に結論に変えて、旧国鉄に似ている旅客輸送形態の台湾鉄路管理局線の抱えている問題に付いて考えて見たいと思います。

(6)台鉄の問題の状況は「日本の旧国鉄」と同じ状況?

 この様に今回台湾島一周旅行を中心にして台湾鉄路管理局線を訪問して来ましたが、台湾鉄路管理局線は乗った感じでは「非常に混んでいる」鉄道と言う感じです。実際台湾鉄道管理局線には「11日に新鳥日〜台中間の区間車・台中〜台北間の自強号・台北〜樹林間の大魯閣号・樹林〜松山〜台北間の区間車、12日に新左營〜高雄間の区間車・高雄〜台東間のキョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号・台東〜花蓮間の自強号・花蓮〜台北間のキョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号」と言う様に、これだけ列車を利用しましたが、利用して座席に空席が多数有ったのは実際ほぼ回送運用の「台北〜樹林間の大魯閣号」だけでした。これを見ても台湾鉄路管理局線の利用率は驚くばかりであると言えます。
 特に西部幹線・東部幹線台北〜台東間の台鉄の最重要路線を走る自強号は混雑率も激しく、客車12両のE1000系や気動車15両の自強号が毎時1本以上運転されていても殆ど満席と言うのは驚くべき利用率であると言えます。逆に言うと立ち客が恒常化して居るのが乗った時の印象ですから、「輸送力不足」と言うのが台湾鉄路管理局線の自強号の状況であると言えます。
 しかも西部幹線の場合本年1月に台湾高鉄が開業して、台北〜台中〜新左營(高雄)間で並行して運行される300km/hの高速鉄道が出来たのに、未だに自強号は西部幹線台北口でかなりの本数(台北発で台中以遠行きが臨時を含め25本/日、これにキョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号が加わる)が運行されています。つまりは「 遂に海を越えた新幹線 」でも述べましたが、未だに台湾鉄路管理局西部幹線は競争力を持っている事になります。日本で考えれば東海道新幹線に対し東海道本線が未だに競争力を持っていて東海道本線にも特急が多数走っていると言う状況です。(この話には色々な特別要因が有るにしても)この様な台湾鉄路管理局の底力は驚くべき物が有ると言えます。

  
左:輸送の主力自強号は何時も混んでいる!? @台北駅  右:台北都市圏では普通車も利用率が良い@台北駅

 加えて特に西部幹線では、沿線に台北・台中・高雄の3大都市に加えて沿線に基隆・新竹・嘉義・台南等の都市やその他の中小都市が行列状に並んでいて、この地域の人口密度がかなり高い事も有り、それらの都市の近郊輸送や近距離都市間輸送で区間車に関してもかなりの需要が存在します。
 台北近郊では区間車は8両編成で運転されていますし運転本数は毎時3〜4本運転されていて、かなりの輸送量が存在している事は間違い有りません。その様な事も有り台湾鉄路管理局は「台湾高鉄開業後の生残り策」として運賃体系変更・新駅建設・都心部地下化・新型車両投入等の「 台鉄捷運(MRT)化 」を行い、台湾鉄路管理局の輸送体系を中長距離輸送から短距離輸送主体に切り替える動きを強めて居ます。
 実際今回の旅行でも、中・長距離を担う優等列車で有る自強号・キョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号に近距離客が多数乗り込んできて居て、混雑を助長して居る状況が特に西部幹線でかなり多く見る事がで来ました。これらの客は近・中距離を移動する客でしかも(自強号運賃を負担してくれるのだから)コスト負担力が高い客であり、捷運化の進展に寄りこれらの客が「台鉄の固定客」に化ける可能性が強いと言えます。そう言う意味では台鉄の区間輸送も上手く近代化を図れば有望な市場で有る事は間違い有りません。

  
左・右:貨物に客車での輸送に加え手荷物用貨物列車まで運行されている台鉄はまるで日本の60年代!?@(左)台東 (右)高雄

 しかし台湾鉄道管理局線には未だに「旧態依然とした輸送形態」が残っているのもまた事実です。その象徴が機関車牽引の客車で運行されているキョ(くさかんむりに呂←字が出ない)光号であると言えますし、もう一つが貨物輸送・小荷物輸送に有ると言えます。
 特に貨物輸送はかなり旧態依然として居る感じがします。今回台湾鉄道管理局線に乗って見た貨物列車は殆どがバラ荷を輸送する日本の60〜70年代の貨物輸送の姿を見ている様であり、加えて小荷物輸送の専用列車が運行されていたり、何かタイムスリップしているような感じがしてきました。
 しかも台中・新竹・台東等のとしの玄関口の駅に貨物ヤードが併設されていて、古めかしい倉庫から貨物を載せてバラ積みの貨物列車が運転されていると言う状況であり、しかも日本では主流になっているコンテナ貨物輸送を見る事が出来ないと言う前時代的な貨物輸送であり、高速道路が発達している中華民国で信じられないほど競争力が無い時代遅れの貨物輸送が行われていると言う事が出来ます。

 旅客輸送に関してはかなり有望で比較的近代的な輸送が行われているのに対して、客車輸送や貨物輸送では前時代的な輸送が未だに共存していると言うのが、私が見てきた台湾鉄路管理局線の輸送の実体で有ると言えます。
 この輸送形態日本で言えば、国鉄の1970年代の輸送形態と似ていると言う事が出来ます。長距離輸送では高速輸送機関に押されながら、旅客の中距離輸送では特急の大量運転で需要を吸収しながらドル箱となっているが、近距離・ローカル輸送では前時代的・非効率的な客車輸送が行われ、貨物輸送では時代の変化に対応できず競争力を失っていると言う姿は、正しく日本の国鉄の70年代の姿と正しくダブっていると感じます。
 この輸送形態を見れば台湾鉄路管理局が抱えている問題は日本の国鉄が70年代に抱えていた問題と殆ど同じであると言う事が出来ます。それは生産性の悪さと赤字体質と言う事です。特に台湾鉄路管理局の赤字体質はかなり深刻であると言えます。台湾鉄路管理局線の収支状況は「収入→230億9842万台湾ドル・支出→325億4575万台湾ドル」と言う事であり差し引きは94億4733万台湾ドルの赤字です。これはかなり深刻な数字で有る事は間違い有りません。

 ☆アジア各国の鉄道事業者の経営・生産性比較 (最新 世界の鉄道より引用)
事業者営業キロ年間旅客輸送量従業員数従業員1名当り旅客輸送量経常収支(収入)経常収支(支出)収支額従業員1名当り売上(円換算)
台湾鉄路管理局1,097km1億7534万人・96億6566万人キロ14,327名1名当り人674,646キロ230億9842万台湾ドル325億4575万台湾ドル-94億4733万台湾ドル1名当り7,791,717円
四国旅客鉄道855km5000万人・16億人キロ3,128名1名当り511,509人キロ367億円(単体)439億円(単体)-72億円(営業収支)1名当り11,732,737円
韓国鉄道公社3,129km8億7300万人・287億8700万人キロ30,250名1名当り951,636人キロ2兆1160億ウォン2兆2670億ウォン-1510億ウォン1名当り8,394,050円

 比較の対象として好ましいかは自信が有りませんが、アジアの比較的近い経済力の国の比較的に似た規模の鉄道事業者を選んで比較してみました。物価こそ違えども経済の成熟度と言う点では日本・韓国・中華民国の3カ国はアジアでは比較的近い成熟度を持って居ます。その中で鉄道事業者(日本はJRの中で一番似た規模の会社であるJR四国を取り上げた)間同士で生産性・経営状況の比較をして見ましたのが上の表です。
 こう見ると韓国鉄道公社は「ほぼ収支均衡」と言えますが、その他の台湾鉄路管理局・JR四国は基本的に「赤字基調」の会社と言えます。しかし上記の表で見比べると、生産性(従業員1名当り旅客輸送量)が一番高いのは韓国鉄道公社で収入効率(従業員1名当り売上)が一番高いのはJR四国と言う事になります。(従業員1人当り売上は物価・為替が絡む話なので一概にはこの比較が正しいとは限らない)
 けれども極端に目立つのは、台湾鉄路管理局の赤字額の多さです。台湾鉄路管理局の赤字は収入の4割にもなります。この数字を見比べると決して生産性等が劣るとは思えません。それに実際に乗った感じでは「こんなに利用されているのか!」と驚くほどの利用率です。しかしこれだけの赤字・・・何故こうなるのか?なかなか理解する事が出来ません。さてこんなに赤字が出る原因は何なのでしょうか?
 この「収入の4割にも及ぶ損失」を抱える事業者、実を言うとやはり似たような鉄道事業者が有りました。言わずとも分かる「分割民営化直前の国鉄」です。国鉄の1981年度予算は収入29,333億円に対し純損失が12,141億円で売上の約41%の純損出を抱えていました。やはり台湾鉄路管理局と旧国鉄一概には比較出来ませんが、似たような状況に有ったと言えます。

  
台鉄改革の要は国鉄と同じ「副業」 「意識改革」「不動産売却」?
左:駅ナカのセブンイレブン提携キヨスクは台鉄の常識? @新左營 中:安全・サービス改善をアピールする台鉄ポスター 右:都会に有る広大な貨物駅@台中

 現在の段階で中華民国政府は「台湾鉄路管理局の民営化」を検討していると言う話は聞きますが、実際の所は「時期は未定」との話であり、実際の所公的な側面から台湾鉄路管理局の改革が進んでいるとの話は多くは聞きません。しかし幾ら公的セクターで有ると言えどもこの様な大赤字の事業者を放置して置ける筈がありません。如何なる形で有れども遠からず台湾鉄路管理局に改革の手を加えざる得ない時期が来る事は間違い無いでしょう。
 実際では何処に焦点を据えて改革を行い民営化を図るか?と言う事になりますが、上記の様に「似た例」である日本の国鉄の改革つまり「国鉄民営化」を振り返れば、台湾鉄路管理局を改革する手法は段々見えてきます。その手法は国鉄改革の手法と同じである「民営化」「関連事業の促進」「貨物事業の削減」「遊休不動産売却」「余剰人員削減による合理化」と言う改革を行う事になると思います。
 先ず必要なのは「人員の合理化」であると思います。上記表で見ると合理化のかなり進んだJR四国と比べると営業キロ比は約1:0.85ですが従業員比は約1:0.22です。運営状況・旅客数等が関係する以上一概には比較出来ませんが、この比較ではJR四国は台湾鉄路管理局の85%の距離の路線を22%の社員数で輸送を行っている事になります。此処まで差が開いてしまうと台湾鉄路管理局は「余剰人員を抱えている」と考えざる得ません。多分今の台湾鉄路管理局は「半分の人員でも運営できるのでは?」と感じてしまいます。
 加えて貨物等の不採算事業を減らして支出の合理化を図り、採算の改善を図る必要が有ります。赤字であれば民営化は困難であると言えます。財源の確保と言う問題も有りますから日本のJRの三島会社のように「経営安定化基金」を積むと言う訳には行かないでしょう。一つは駅前の一等地を売りその売却益で其れを経営安定化基金として積む方策が有ります。不採算と予測される貨物事業の合理化を図れ、そこで捻出した土地の売却益で経営安定化基金を積めれば、合理化による収支改善と相まって台湾鉄道管理局の経営改善に大きな効果を発揮できるのでは無いか?と考えます。
 その上収入源の多様化のために「副業の充実」が大きな力になるのは日本と同じであると思います。しかしこれに関しては台湾鉄路管理局はかなり進んでいると言えます。台湾鉄路管理局の駅の中にや売店がありますが、この売店は都市の駅だとセブンイレブンと提携?した売店が入って居ます。この売店は街中のセブンイレブン並みの品揃えで今回の旅行の最中もかなりこの売店に救われました。それに加え駅ナカにマクドナルド・モスバーガー等がかなりの駅で設けられていて、日本の様に百貨店等の大きな商業施設は有りませんが、「金儲けの上手い中華民族」の国だけあり台湾鉄路管理局の小売業に関する副業はかなり進んでいると言えます。この方向性を深化させる事が日本の前例から考えても、台湾鉄路管理局の改革と収支改善を図るのに大きなポイントになるのでは無いか?と思えます。
 この様な改革に加えて本業の旅客鉄道事業で、大魯閣号導入・捷運化等で進んでいるより一層の高速化・多頻度化・高サービス化を進めて旅客需要を囲い込めば、旅客需要は手堅い物があるのは状況が示して居ますから、台湾鉄路管理局は採算の取れた事業として十分成立すると思います。
 中華民国の人口密度や鉄道の利用状況を見れば、日本と同じ様に「鉄道が事業として成立する要素を持ち合わせている」事は間違いありません。有る意味鉄道事業特に旅客輸送事業に取りこれだけ有望な地域は日本以外中華民国位しか無いのでは?と言えるほど中華民国は有望な場所です。この潜在力を台湾鉄路管理局は生かしきれて居ないと言えます。その事から考えて民営化を含む台湾鉄路管理局の改革は中華民国の国土全体の均一的な発達・総合交通体系の確率等に取って、台湾高鉄の成功と並んで非常に重要で有ると言えると思います。

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 今まで海外旅行は中国を中心に何回か入って居ますが、今回「鉄道を見る事」を主目的に始めて海外を訪問しましたが、中華民国がこれほど「鉄道が活躍しやすい環境が有り」「これほど鉄道が利用されている」と言うのには率直に驚きました。
 確かに中華民国・台湾島は国土の広さがそんなに広くない中で人口密度も多く鉄道の利用が促進しやすい国土状況に有り、しかも西部地域には日本の植民地時代に鉄道の基盤が有る程度出来ており、その上で直接戦乱にも晒されておらず比較的疲弊して居ない国土で、鉄道が運営されていると言う恵まれた環境が有る以上、比較的鉄道にも恵まれており、しかも鉄道慣れした日本人に取り「似たような感じ」を抱く地域ですから、日本人の私に取り台湾の鉄道は比較的受け入れられやすいと言えますし、これだけ台湾鉄路管理局線が利用されていると言うのは有る意味理解できる物であると言えます。
 その点日本の鉄道に慣れた私にして見ると「多少大味かな?」と思わせる所は有りましたが、それでも台湾鉄路管理局線は「かなり素晴らしい鉄道だな」と思う事は出来ましたし、実際「これだけ利用されている鉄道も珍しいな」と感じさせられました。
 故に日本帰国後「世界の鉄道」で改めて台湾鉄路管理局の概要を調べた時、その収支状況を見て有る意味目を飛び出さんばかりに驚きました。なんせこれだけ利用されている鉄道が大赤字なのですから当然驚く筈です。何故この様な状況になってしまったのか?疑問を抱きながらこの文章を書き始めました。
 結局の所、文章の構成を考え出してから色々考えながら約3週間掛けてこの文章を書き上げ、その中で自分なりの結論を出す事がで来ました。
 確かに台湾高鉄に関しても「日本の技術を導入した」高速鉄道であり、「実際はあれは技術の混合がされているから新幹線では無い!」と言おうと日本の新幹線の車両・信号技術等が使われている高速鉄道であり、私も日本人の心境として「成功して欲しい」と思いますが、台湾鉄路管理局線も今や色々な国の車両が走り各国混合の鉄道と言う感じですが、大元は日本の植民地時代に作られた鉄道であり(狭軌で有る事がその象徴ですが)やはり「日本的香りのする鉄道」であると言う事が出来ます。
 ですから何としても台湾鉄路管理局線に関しては、鉄道として今後も発展して欲しいと思いますし、是非とも活躍して欲しい物であると思います。それに今回色々と考えて見ると今の台湾鉄路管理局の運行形態・状況は正しく「日本国鉄の70年代〜80年代」と言う状況であると言えます。その様な状況であれば台湾鉄路管理局の民営化・現代化に関して日本の鉄道業界特にJRグループが協力出来る事は沢山有ると思います。
 しかも中華民国は「二つの中国」問題が有ると言えども、やはり日本に取り経済的側面等でも非常に重要なパートナーで有る事は間違い有りません。経済面では色々な協力関係が既に存在していますが、鉄道面でも台湾高鉄プロジェクトだけでなく在来線に関してもハード・ソフト・経営など色々な面で協力出来る物はあるのではと改めて感じさせられました。経済関係の協力は国交が無い中で国の関係を継続していくのに非常に重要であり、其れは日本の国益から見ても合致するものであると言えます。その様な点を含めて日本と中華民国は鉄道に関しても台湾高鉄・台湾鉄路管理局両方に協力していく必要が有るのでは無いか?と改めて感じさせられました。




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