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(1)「過去編」"昭和の時代が色濃く残る路面電車"の富山地鉄富山市内線の状況は?



 「1」富山地鉄富山市内線 富山駅前〜大学前〜丸の内間

 直江津から特急はくたか2号で富山に着いたのは8月14日10時14分、平日でも御盆休みの丁度ど真ん中なので東京朝一番発の特急で有ってもビジネスマンの姿は殆ど見かけません。帰省・遊びと見える人が殆どでしたがこの傾向はこの後ずっと続く事になります。
 富山到着と行っても行事盛りだくさんで、分単位のスケジュールを造っていたので早速10:20発の大学前行きの市内電車に乗る為に富山駅前の電停を目指します。富山駅前の電停はJR富山駅から見ると左側のタクシー乗り場・バス乗り場・電鉄富山駅(駅ビルエスタ)が有り、その奥の道路上に有り横断歩道を渡らないと辿り着けません。
 JR富山駅改札から見ると普通に歩いて2〜3分掛かります。JR利用者から見れば「駅⇔繁華街・官庁街間の短い距離(西町=約1.5km・丸の内=約1km)を乗るだけ」と言う存在でしょうから、その距離を乗る為に2〜3分歩くと言うのはチョット考え物です。
 富山駅前電停は此処で半分の電車が折り返すので普通の電停の倍の長さが有ります。只安全島は有る物の屋根が無く人が一人並べる程度の幅しか有りません。"ペイント電停"よりかは良いですが、雪国で有ることを考えると電停の整備(拡幅・屋根設置)は必要であると思います。
 しかし将来的には「富山ライトレールとの乗り入れ」「富山駅高架下に駅設置」が構想されている以上今更この電停に手を加えるのも難しいのかもしれません。只その時点でもこの電停を使い続けるのであれば、今のレベルでは心とも無いと言えます。

     

左: [1]富山駅前電停状況    右: [2]富山市内線車内状況(富山駅前→大学前)

 早速来た電車に乗り第一の目的地である大学前を目指します。しかし富山駅前広場絡みの道路信号に引っかかり上手く前に進みません。この信号を通り過ぎると車の数も少ない事も有りスムーズに進みますが、路面電車になれていない私が、路面電車を「電車」と言うイメージで見ると電停の他に信号に停まるとやはりもどかしい感じがします。
 流石にお盆のど真ん中の時期に官庁街・学校地域へ向う路線だけあり、乗客は数人しか乗っていません。富山駅前で乗客が乗った後、県庁前・丸の内と言う官庁街では乗降ゼロで進んでいきます。最終的に富山駅前→大学前間の中間電停で降車が有ったのは神通川の西側で住宅街の有る新富山だけでした。

     

左: [3]富山市内線の西の終点 大学前    右: [4]新富山電停と鵯島信号所

 大学前は富山大学・富山工高・五福公園などが周辺に有り学校施設が集中している為、普段の利用客は結構多そうです。(前回訪問時は土曜日夕方だったが結構乗降客が居た記憶が有る)実際人数は少ない物の富山駅前時点で居た乗客の殆どが大学前で降車して居ます。
 此処の電停は写真に有る通り屋根こそ無い物の電停に歩道橋へ登る階段があり、歩道橋を経由して車に影響される事なく移動する事が出来ます。しかし階段の上下を伴う為、道路を横断してしまう乗客も多数居ます。昔的な基準で見れば整った設備と言えますがバリアフリーの側面から見れば問題ありと言えます。少なくとも横断歩道を併設した方が良いのかもしれません。
 大学前で1本電車が行ってしまった為、取りあえず路面電車に沿って徒歩で歩き沿線の様子を見てみます。この区間は道路幅員が狭く歩道はガードレールで仕切られている物の、車道は両方向片側1車線+単線路面電車+路側帯で占拠している形です。その為隣の鵯島信号所・新富山電停は路側帯を潰して交換施設と上下線用の安全島が設けられています。道路幅員が狭いとこれだけの施設を作ってしまうと車が通るのがやっとの車道しか残りません。

     

左: [5]富山大橋を渡る富山市内線    右: [6]県道44号線と富山市内線(安野屋→諏訪川原)

 新富山を過ぎると其処は神通川の富山大橋です。県道44号線の富山大橋は06年11月着工で 架け替え工事 に着手する事になっています。この架け替え工事は橋の袂で用地取得が進んでいるなど準備が着々と進んでいます。この架け替え工事が完成すると道路も2車線→4車線に拡幅されると同時に富山市内線も複線化が達成される事になります。
 富山大橋の東の袂に有る安野屋電停に差し掛かると、南富山行きの電車が来たので、安野屋から丸の内まで路面電車の御世話になる事にします。南富山行き電車も先ほど乗った大学前行き電車とそんなに変わらない乗車率です。新富山では見た限り1人電車を待っていただけですし、安野屋も私しか乗っていません。と言う事はこの数人の乗客の大部分は大学前から乗って来た事になります。並行して走る地鉄バスも似たような乗車率でしたから盆休みと言う事も有りこれ位の乗車率なのでしょう。

     

左: [7]富山市内線車内状況(諏訪川原→丸の内)    右: [8]丸の内交差点と電停

 丸の内では西町まで歩いて環状線建設予定地を散策する為に、一度市内電車を降ります。"丸の内"と言う電停名からビジネス街かな?と言う感じで見て居ましたが、丸の内〜県庁前〜富山駅前はビジネス街という感じでしたが、丸の内はビジネス街の南の端と言う感じで、大きなビルも有る物の南側には2階建ての住宅街も広がっています。
 只此処も路面電車が右折をするために、長い信号待ちが発生します。それに対応して信号手前に電停があり信号待ちの間も乗降出来る様にしていますが、タイミング悪く乗降に手間取ると2回信号待ちに引っかかってしまいます。全般的に言える話ですが、走行が順調な割には道路信号に引っかかる事で定時性が阻害されている印象を強く受けます。優先信号を取り付ける等で早急に対策を考えるべきであると思います。


 「2」富山地鉄富山市内線 西町〜南富山〜富山駅前間

 丸の内から西町まで富山市内線環状線建設ルートを散策した後、西町から改めて富山市内線に乗り西町→南富山駅前→富山駅前と乗車して、残った富山市内線東側の状況を見る事にします。運行本数的には南富山駅前⇔富山駅前の区間運転が有るので、富山駅前を挟んで西側→10分毎・東側→5分毎ですからm東側の此方がメインルートになります。
 西町は富山市内線東側の富山駅前〜南富山駅前間で真ん中に近い位置に有る駅ですが、北側に有名な商店街の総曲輪・交差点には富山市唯一の百貨店 大和百貨店富山店 が有るなど、正しく富山の中心市街地と言える場所です。
 その様な中心市街地の為か、西町電停の富山行き安全島には富山市内線唯一の屋根付の電停になっています。又今は[1]写真右側に工事現場として写っていますが、此処に富山地鉄の案内所もあり(マンションとの複合ビル完成後には戻ってくる)富山駅→県道6号線→双代町・石金・大泉駅前方面の 富山地鉄バス も通っている拠点です。

     

左: [1]西町交差点から北側を見る    右: [2]西町交差点から南側を見る

 西町で南富山駅前行きの電車を待ちます。暫くすると南富山駅前行きの電車が来ますが、西町の電停では富山駅方面からの客が数名降りてきますが南富山方面に乗る客は私一人でした。「中心市街地」と言う割には寂しい乗降です。
 西町から乗車して南富山方面に向いますが、7〜8名乗車していた客は各電停で三々五々降車して行き、終点の南富山駅前に着いた時には電車には私の他1名が乗っているだけでした。この電車は郊外線と言える上滝・不二越線とは接続していない電車と言う事が影響しているのか、南富山まで乗る客が少ない感じがします。郊外線から中心市街地への連絡線より県道43号線沿線の住民の足としての機能の方が強い感じです。

     

左: [3]南富山駅前広場から県道43号線に出る市内線電車    右: [4]富山地鉄 南富山駅


 南富山では同じ富山地鉄の不二越・上滝線と接続しています。南富山では市内線は駅舎の脇まで乗り入れていますし、其処から構内踏切を渡って不二越・上滝線のホームまでは直ぐです。そういう意味では乗換であっても乗換抵抗は少ないと言えます。
 しかし現実は不二越・上滝線は毎時1本強の運行本数しかないですし、南富山での市内線への乗車客はそんなに多く無い感じがします。私が利用したときは南富山での降車は私を入れて2名でしたし、折り返しの乗車も私を入れて5〜6名でした。
 そういう意味ではやはり南富山は結節点としては殆ど機能していないと言うことが出来ます。過去に不二越・上滝線で コミュニティ電車の社会実験 が行われた事が有りますが、その中でコミュニティ電車と市内線の乗継割引が行われていますが、報告書内では乗継割引による市内線増客の効果は明確には書かれていません。
 その様な点から考えても、今の体制のままでの南富山の結節点強化は厳しい感じがします。但し同一事業者が運営していますので不二越・上滝線と市内線で直通運転を行う余地は有ると言えます。電圧こそ違いますが軌間は一緒で、市内線の車両も大規模な工事はモーターカーで牽引して稲荷町工場に運んでいると言う事も有るので妄想を膨らませれば直通運転は困難では有りません。此処は直通運転をすればどのような効果と費用が掛かるか慎重に検討すると言えます。

     

左: [5]富山市内線車内状況(西本町→西町)    右: [6]荒町〜桜橋間の富山市内線(県道43号線)


 折り返しの大学前行きの電車も不二越・上滝線の列車を受けていない事も有ってか乗客は私を含めて5〜6名と言う状況です。しかし南富山行きに対し富山行きの方は途中からの乗客は多く有りません。暑いお盆時期の昼頃ですから住宅地から市街地に買い物に行こうとする人がそんなに多くないのかも知れません。
 今度は中心市街地の西町から数名の乗車が有ります。只中間電停で目立った乗車が有ったのは西町だけで、他の電停では殆ど乗車が有りませんでした。(特にビル集積等の多い西町〜富山駅前間は乗降ゼロ)時期が夏休みでこの区間がビジネス街だったと言う事も有るのでしょうが、この日は人の動きが少々特殊な日だったのかもしれません。

     

左: [7]富山駅前電停で折り返す南富山行き    右: [8]富山駅前を通る富山市内線


 私は今回の富山市内線訪問の最終目的地の富山駅前で降車しました。しかし私の乗った電車の乗客の(市内電車での)目的地は富山駅前と言う人が殆どだった様で、大学前行きで有るにも関わらず殆どの乗客が降りてしまい此処で客が入れ替わります。
 この乗客の動きから見ると富山市内線の利用者のかなりの部分は、「富山駅前から中心市街地の西町・官庁街の県庁前・学校の多い大学前などに向う客である」と言う客層の可能性が高いと言えます。そう考えれば駅からの距離が遠い西町の方が利用者が多くその為運行本数が多いと言う事が言えると思います。
 そうなるとやはり今の市内線富山駅前の場所は検討の余地が有ると言えます。富山地鉄郊外線からの市内線乗換であれば今の場所でも未だ良いと言えますが、より利用者の多いと推察できるJR駅からの乗換を考えると検討の余地が有ります。
 北陸新幹線建設に伴うJR線高架化時に、富山ライトレールの駅がJR線高架下に移動します。その時にJR富山駅の全体の再構築と駅前広場の再構築を考えた方が良いのかもしれません。


 「3」乗って感じる「昭和が色濃く残る」富山市内線のレベルの現実

 今回駆け足で富山市内線を訪問しましたが、お盆休み中の平日と言う特殊な環境下で有った為に特に乗客流動の側面で「富山市内線の実情」を見る事が出来ませんでした。しかしインフラ・車両等の設備のレベルは見ることが出来ました。
 其処で感じた事は正しく題名の通り「昭和が色濃く残る」と言う路面電車のレベルであると言えます。「路面電車」と言う点では決して富山地鉄は努力をしていないとは言いません。市内線が黒字である事も有り投資はしています。特に車両は今回は当たりませんでしたが、市内線車両の3割は93年に新造された8000形でありその点から考えれば努力はしていると言えます。
 しかし悲しいかな、時代の進歩は早く路面電車も急速に進化しています。その象徴が目の前に有る富山ライトレールです。富山地鉄市内線の場合目の前に"LRT"と胸を張って言える富山ライトレールが比較対象として有るが故に、今の富山市内線の状況が余計に「昭和の色が色濃く残る」と言うイメージを抱かしてしまう可能性が有ると言えます。
 今の富山市内線を現代のLRTまで昇華させるとなるとこれは膨大な投資が必要になります。しかし2013年頃のJR線富山駅周辺高架化が完成すると富山ライトレールが富山市内線に乗り入れてくる事になり、その時には好まざるとに関わらず昭和の色が残る富山市内線と現代のLRTの富山ライトレールが一つの路線で並存する事になります。その時に富山市内線が今のままのレベルであると「市内線は時代遅れ」と見做され、ライトレール効果で今は高揚している市民の支持を失うことになりかねません。

 その為にも7年先を見据えて今から富山市内線現代化(=LRT化)に向けて設備投資をしなければならないと言えます。その焦点は「12両のデ7000形更新」「軌道の更新・強化」「電停の改良」の3点で有ると思います。この3点を中心に根本的な点で手を入れる事で富山市内線をLRT化させる事が必要であると言えます。
 先ず車両ですが、これは有る意味一番先に手をかけるべきと言えます。今のデ7000形は昭和30年代の新造車で広島などで走っている廃止路線中古車両などに比べると経年は新しいと言えます。しかし一般論で言えば車両としての寿命は尽き掛けています。今回乗って高床の乗降性の悪さ・騒音・揺れなどを感じました。正直言って更新の時期が迫っていると言えます。富山の場合直通先の富山ライトレールが量産型momoを採用しているのでこの採用が現実的です。量産型momoは 1編成2億2000万円 ですから、今から2013年を狙って更新するとなると年間2編成4億4000万円の投資が必要になります。バリアフリー化に対する補助等が有るので全額富山地鉄負担と言うわけでは無いですが重い投資になると言えます。
 続いて軌道ですが「2」の[6]写真を見ると分かる通り、軌道に関しては乗り心地・路面を見ると手が入っているとは言えません。軌道法では軌条内に加えて軌条両端0.6mについて軌道事業者に表面管理をすることを義務付けて居ますが、舗装表面が荒れているところも多いですし軌道で揺れを感じる場所も散見されました。富山ライトレールの併用軌道区間が樹脂固定軌道や芝生軌道を採用し見違えるほどのインフラを構築しています。運転しながらの軌道更新には色々な困難が有るとは思いますが、「富山ライトレールのレベル」まで行かなくても、軌道に手を入れて乗り心地の向上とメンテナンスフリー化を図る必要が有ると言えます。
 最後に電停の改良ですが、富山市内線の運転している県道43・44号線は道路幅員が広くないので、なかなか幅広の電停を設置する事は困難で有ると言えます。その中で電停には安全島完備と言う状況は「最低限のレベル完備」と言う事が出来ます。しかし雪国で「屋根が無い」と言うのはチョット拙いと思います。電停に関しては拡幅は難しいと思いますが屋根の設置は冬の雪対策の側面からも必要で有ると思います。

 これ等のインフラ対策を行い、富山ライトレールのレベルに「追い付く」事が富山市内線の場合一番大切で有ると言えます。そうしないと周りのレベルが高い分相対的な劣等が求心力を失う状況を生み出す事になりかねません。
 只LRVの車両を入れるだけで改善されるわけでは有りません。LRTには総合的な都市計画との整合性と言う課題も有りますが、富山市内線の場合その前に車両のほかにインフラにも手を入れた「運行レベルのLRT化」と言うインフラレベルの向上が重要で有ると思います。
 只問題はこの「投資費用の捻出」と言う点です。この投資負担を全て「富山市におんぶに抱っこ」と言うのも困難です。富山市とて「何でもかんでもLRTだけに投資」と言う訳には行きません。しかし運営者の富山地鉄で負担できる金額でも有りません。富山地鉄としては「巨額の投資は負担できない。だから暫時改良もしくは現状維持で行く」と言う事になりかねません。此処が最大のネックになると思います。今やLRTに関して色々な補助制度もできてきていますので、これを上手く活用しての改良策を富山市・富山地鉄が力を合わせて検討する事が「昭和が色濃く残る」路面電車から脱出するのに需要であると感じます。

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