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   激戦より熾烈なる〜燃える街並み、終わる日常〜

 

 

セイルはレナから受け取ったディスクをコンピューターに挿入した。戦術画面にミッション概要が表示され、エリアマップや友軍のデータなどがインストールされる。マップに表示された目標地点を確認し、セイルはチェックメイトを走らせた。

 

<ミッション:コーテックス本社ビル防衛>

 reward:40000C  missioncordMasquerade    criant:グローバルコーテックス

 

 現在グローバルコーテックスは、所属不明の部隊による攻撃を受けています。

 これに対して我々は、本社ビルを含む主要施設を囲む形で防衛線を張り、シティーガードの増援が到着するまで敵部隊を迎撃します。各レイヴンは所定の区画に移動後、オペレーターの指示に従って行動してください。撃破した敵機体の数に応じて報酬を上乗せします。

 なお、敵戦力の中にはSL事件当時に目撃されていた無人兵器が多数確認されています。特に重量級の白い無人ACには注意してください。

 

 

 セイルの担当は本社ビルの西側だった。コーテックスの敷地をぐるりと囲む環状道路を疾走しつつ、セイルはチェックメイトの状態を確認する。

「右腕部パルスライフル残弾80、左背部ミサイルポッド残弾50、右背部ロケットランチャー残弾30……なんだ、弾薬はほぼフルか。ブレード、及びブースターも損耗率0%と。APは残り6213……これはちょっと苦しいな。無理はしないほうがいいか……」

 戦場が近付いてきているのか、爆音や砲声が大きく聞こえる。やがてチェックメイトは環状道路からわき道に入り、指定された戦闘エリアに到着した。そこは両側に高いビルの列が並ぶ大通りで、奥のほうでは既に2体のACがMTを相手に戦っている。セイルは無線を指定された周波数に合わせ、オペレーターに連絡を入れた。

「参加番号21チェックメイト、指定エリアに到着しました。指示を願います」

『No.21、確認しました。マップ上の防衛ラインを突破されないように敵部隊を撃破してください。なお、敵の電波妨害が酷いため、通信は必要最低限しか行いません。では、お気をつけて』

 マップに書かれている道路の下のほうにラインが表示される。ここを抜ければ環状道路まで一直線なので、事実上最終防衛線なのだろう。

「了解しました」

 セイルは無線を切ると、OBを起動してチェックメイトを突撃させる。一瞬で前線まで移動すると、ミサイルを発射して3体のアローポーターを破壊した。

「援軍ですか?ありがたい」

「スマンな。正直押されていたところだ」

 二体のACがスピーカーで話しかけてくる。一機は細身の四脚型、もう一機はでっぷりとしたタンク型だった。四脚型ACはチェックメイトに近付き、話を続ける。

「よし、一気に押し返しましょう。私とあなたで前に出て、撃ち漏らしたものを彼に倒してもらう方向で。私はヴァーチカル、彼はアイアンマンです。あなたは?」

「セイルです、よろしく。じゃ、行きますよ!」

 セイルのチェックメイトとヴァーチカルの『プレイフェア』は同時にブースターを吹かし、前方のMTの群れに飛び込んだ。

 セイルはブレードを発生させ、片っ端からMTを撃破していく。プレイフェアは両椀部のハンドガンを連射し、チェックメイトの背中を守るように戦っていた。そして2機の脇を抜けていく残りの敵を、アイアンマンの『ハイパーアロイ』がチェインガンで掃討する。三機はじりじりと戦線を押し戻していた。

「はぁっ! ……よし、なんとかいけそうだな。それにしても、この数……」

 セイルはホバリングして道路の先のほうを見てみる。黒煙にかすむ大通りは、見たことも無いほど大量のMTで埋まっていた。

「ええ、桁違いの数です。もうクロノス駐在のシティーガードは戦力のほとんどを喪失したそうですから」

 プレイフェアが上方に向けて一発のミサイルを発射する。それは敵の頭上まで移動すると、破裂して爆雷を撒き散らした。下に居たグライドコブラの群れが一瞬にして焼き払われる。

(あれは……バーストミサイルか。すごいな、一発であれだけの敵を…………よし、俺も……)

 セイルは敵の群れの中に着地すると、ブレードを発生させた左腕を横に伸ばし、足を軸にして機体をすばやく一回転させた。チェックメイトの周りにいた四体のカイノスがそろって胴部を切り裂かれて倒れ付す。

「よっし成功……あんましやらないほうがいいな」

 瞬間的にかかった強烈な遠心力に、セイルは息を詰まらせてしまった。

「はは、お気をつけて。敵も少し勢いが衰えてきたようです。無理をせずに……っ!セイルさん、あれを!」

「っ……」

 MTの群れが左右に割れ、道路の奥から一体の白いACが表れた。セイルが地下で戦ったものと同型の機体だった。

「サイレントラインのACか」

「ええ、手強いですよ。気をつけて……アイアンマン、よろしいですか?」

「問題無い」

 アイアンマンの短い返事の後、チェックメイトとプレイフェアは頭部を動かして顔を見合わせ、左右に分かれて白いACに接近した。

「はああっ!」

 チェックメイトのレーザーブレードを白いACのレーザーブレードが迎撃し、二本のブレードが相互干渉で拡散する。

 白いACは巨体ながら素早い動きで、チェックメイトのレーザーブレードを打ち払った。

「やはりブレードの迎撃を優先しましたね。接近戦では正しい判断ですが、しかしそれが命取りです!」

 プレイフェアは白いACの背後に回り、白いACのがら空きの背中に向けてハンドガンを撃ち込んでいく。

 背部といえど分厚い装甲にハンドガンは充分なダメージになっていないようだが、しばらくすると白いACの動きが鈍り始めた。よく見ると、白いACの関節や排熱口から激しく陽炎が立っている。

「なるほど、ハンドガンの弾が持つ高い熱量でオーバーヒートさせたわけか。流石」

 セイルは感嘆しつつ、熱で動きの悪くなった白いACの左腕を振り払い、コアにブレードを突き刺した。白いACはよろよろとあとずさりしたかと思うと、直後にハイパーアロイの放った大型ミサイルが直撃して爆発をおこす。

「うまくいきましたね。これで……っ!!うああっ!!

 チェックメイトが姿勢を戻した時、向かい合っていたプレイフェアが青白い閃光に包みこまれる。とっさにパルスライフルを構えて前を向くと、そこには右腕部のキャノンを構えた白いACが居た。

「二機目!?くそっ、敵の引きが早いわけだ……ヴァーチカル、大丈夫か?」

「……あ、ああっ……くっ、すみ……ません。気を抜きました」

 プレイフェアは左腕と右前の脚部が吹き飛び、コアの装甲も最終装甲版まで抉られていた。残った三本の足でなんとかボディを支えているが、機体はぐらぐらと揺れて今にも倒れそうだった。セイルはパルスライフルを放ちつつ叫ぶ。

「早く脱出しろ!それ以上は……っ!」

 チェックメイトの足元にグレネードが着弾し、コクピットが激しく揺さぶられる。セイルが攻撃をやめたその一瞬で、白いACはチェックメイトの脇を通り抜けていた。

「しまっ……!

 ほんの一瞬の出来事だった。白いACは身動きの取れないプレイフェアに肉薄すると、ボロボロになったコアをブレードで薙ぎ払ったのだ。プレイフェアのコアが真っ二つに割れ、機体が崩れ落ちる。直後に爆発が起こり、レーダーから緑の光点が一つ消えた。

「ヴァーチカル!返事しろ、ヴァーチカルっ!!

「無理だ、諦めろ」

「っ! ……」

 アイアンマンにたしなめられ、セイルは歯をかみ締めた。始めての戦友の死、それはセイルの心に大きな衝撃となって襲い掛かった。

(これが……死…………俺も、いつか……)

 セイルは震えていた。今までも死を意識しなかった訳ではない。しかし、いま目の当たりにした光景は、あまりにも鮮烈過ぎた。

(俺も…………俺は……俺は……)

 セイルの震えが酷くなる。目の前が暗くなり、頭の中に次々と今まで戦場で見た死の光景が浮かんできた。爆散するランスポーター、高熱に融解するパワードスーツ、焼き払われる人々、目の前に突きつけられたミサイルポッド、そして

(…………え?)

 突きつけられたミサイルポッドの砲門。その次に浮かんだのは、左腕が吹き飛んだカラードネイルの姿だった。瞬間、暗かった視界が元に戻り、計器から警告音がなっているのが聞こえた。コクピットを衝撃が襲い、チェックメイトが転倒する。

「うあっ……くっ、この……」

 チェックメイトの態勢を立て直し、状況を確認する。コアの防護スクリーンがあらかた消滅し、熱量も危険域まで高まっていた。どうやらグレネードの直撃を受けたらしい。

「無事か!?

 見ると、ハイパーアロイがチェックメイトと白いACの間に割って入り、白いACを攻撃していた。チェインガンの弾幕とEOの砲撃に、白いACの重厚なボディが抉られてゆく。

「すまない、助かった」

 チェックメイトの熱が安全域まで下がり、システムエラーも修復された。セイルが攻撃を再開しようとすると再び体が震えだしたが、セイルはコントロールスティックを強く握り締めてその震えを止めた。

(怖い、ものすごく怖い。でも、俺がここで戦わなかったら、他の誰かが同じ目にあってしまう。だから……)

 チェックメイトは白いACに突進し、タックルを食らわせる。白いACは右腕の巨砲で突進を受け止めるが、右脚部の間接が反動に耐え切れずに崩壊し、大きく体勢を崩した。

(だから、ここでその恐怖を終わらせる。そして、生きてここから帰るんだ。俺のことを待っていてくれる人の所へ)

 チェックメイトは姿勢を低くすると、左腕を引いてブレードを腰だめに構えた。そして、未だよろめいている白いACの頭部に狙いを定め、OBを起動する。

「くらえぇぇっ!

 両足が地面を蹴るのと同時にOBが発動し、チェックメイトは一気に加速する。そしてその速度と重量をのせたブレードを、白いACの頭部に叩き込んだ。頭部パーツがバラバラに吹き飛び、白いACが力を失って倒れ伏す。

「はぁ……はぁ……ふぅ…………」

 セイルは荒くなった息を整え、シートに身を沈めた。同時にオペレーターから通信が入る。

『敵部隊の撤退を確認。後はコーテックスの部隊がその地点を保持しますので、あなたがたは他の地区に向かってください。まもなく迎えのヘリが到着します』

「了解……くそっ、なんて奴らだ。こんなのがクロノス中にいるのか?」

 敵部隊の規模は、セイルが予想していた以上だった。戦力メーターを振り切らんとするほどのMTに、ACとの二連戦。いったいあの組織はどれだけの戦力を保有しているのか。

「考えても仕方ない。今はとにかく敵を追い返さないと、もし市街地が戦場になったら……」

 また自分やカラードネイルのような者が出てくるかもしれない。それだけは何としても防がなければ。セイルはこれからの戦闘に向けて気合を入れなおした。

 ほどなく二機のヘリが到着し、セイルは指示された方にチェックメイトを移動させる。ヘリはチェックメイトを固定すると、爆煙にけむるクロノスシティの空を飛んでいった。上から見下ろしてみると、シティ中心部のオフィス街を取り囲むように戦火が上がっている。

「酷いことになってるな……ん? あれは……」

 シティの一角にある自然公園で一体のACが戦っているのが見えた。スカイブルーに塗られた細身のボディで、チェックメイトと同じ高出力のレーザーブレードを振り回している。

「ハヤテの機体だ。あいつも来てたんだな……そういえば機体名何だったっけ?」

『レイヴン、まもなく機体を投下する。準備してくれ』

「ああ、了解……」

 セイルが名前を思い出そうとしているうちに、ハヤテの機体、アメノカザナギは最後のMTを切り裂いていた。と、同時に物陰から別の機体が現れ、攻撃を始める。

「……え?待て、一体どういう」

 セイルは一瞬信じられないものを見た。その瞬間チェックメイトはヘリから切り離され、地面に向かって落ち始めた。

「うおっ! ……」

 セイルは何とかスティックを操り、チェックメイトを着地させる。直後にオペレーターから通信が入った。

No.21の到着を確認。レイヴン、残念なことに君は貧乏くじを引いてしまったようだな。こんな奴の処理を頼まれるとは……』

 やけに軽薄な男性のオペレーターに顔をしかめつつ、セイルはさっき見た光景を思い出していた。

(一体どういうことだ?こんな非常事態に……いや、そもそもあの機体は確か今出撃できない筈の……)

 その時、レーダーに赤い光点が写り、敵戦力メーターが跳ね上がった。セイルはスティックを握りなおし、接近してくる赤い光点の方を見る。直後にその方向から巨大な光条が飛んできた。

「うおっ!」

 チェックメイトをダイブさせ、セイルは攻撃をかわす。光条はチェックメイトの後ろにあった建物に命中し、跡形も無く破壊した。

「おい、待てよ今の攻撃……」

 セイルがカメラをズームすると、攻撃を放った機体が見えた。

「何でだ……何で……」

 セイルは歯をかみ締める。肉眼でも見える距離まで接近してきたその機体は、

「何でコーテックス所属のレイヴンが敵に回ってるんだ!?

 背部に巨大なレーザー砲を背負った。こげ茶色の四脚AC、プロフェットの『ワンストローク』だった。

「どうなってるんだよ、さっき疾風が戦ってた機体だって……あれは確かキングフィッシャーだった筈……」

 さっきセイルが見た信じられないもの、それは以前アリーナで戦ったレイヴン、シューティングスターの機体キングフィッシャーが疾風の機体に攻撃を仕掛けていた事だった。

「オペレーター、これはどういう事だ」

『詳しくは分からないが…………どうやら裏切り者が出たらしい。しかも確認されている機体のほとんどが、この前のアリーナ襲撃でガレージに閉じ込められているはずのものだ』

「どういう事だ?まだ復旧作業は終わってないはずなのに……っ!」

 ワンストロークが両椀部のロケット砲を放ってくる。狙いは甘いが、当たれば大きなダメージになる。

「くそっ……この野郎……」

 セイルはロケットをよけつつ接近し、ワンストロークの正面に機体を晒す。するとワンストロークは隙を突こうとして背部のレーザーキャノンを展開した。エネルギーがプールされ、砲身がスパークする。

「いただきっ」

 瞬間、チェックメイトは地面を蹴って肉薄し、砲身にブレードを差し込んだ。供給されていた大量のエネルギーが爆発し、ワンストロークのボディが吹き飛ばされる。

「相変わらず腕の無い奴だな。簡単に誘いに乗りやがる」

 セイルはため息をついてスティックから手を離す。ワンストロークは衝撃でコンピューターがやられたのか、あっけなく動かなくなってしまった。

 搭乗レイヴンのプロフェットはアリーナでも有名な低ランクレイヴンで、セイルも以前戦ったときは一分も経たずに決着が付いたのだ。オペレーターから連絡が入り、すぐに迎えの輸送車が来るという。

「それにしても、コーテックスから裏切り者が出るなんて……これは、偶然じゃないよな」

 セイルはそう言うとシートに身を預け、コクピットの天井を見つめる。点灯するランプや計器の中には、問いの答えは見つかりそうに無かった。

   

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