このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
子〜カインとアベル〜
雨のように降り注ぐ拡散ビームと、それに混じって放たれるブレード光波。そしてそれらの隙間を埋めるように配置されたオービットのレーザーが、次々にA・Rへと襲いかかる。
クライシスはそれらに対して即座に反応しつつ、回避と防御を使い分けて対応していた。出力の低いビームはエネルギー相殺シールドで防ぎ、高出力のレーザーは脚部のフロート機構を利用して回避する。一切のデータが存在しない敵に対して、クライシスはその場その場での素早い判断と、冷静な思考を駆使して戦っていた。
しかし、メインコンピューターによる補佐を失った今のA・Rにとって、今の状況が不利であることに変わりは無い。クライシスは苦戦せざるを得なかった。
「……っ!」
断続的に鳴り響くアラートに、クライシスは顔をしかめる。戦術画面に映るのは、シールドの破損状況を知らせる警告文。あらゆるエネルギー兵器を無効化出来るはずのエネルギー相殺シールドが、一発一発はごく低威力のはずの拡散ビームによって損傷しているのだ。
(エネルギー供給率83%、センサー反応精度89%、障壁展開率71%…………シールド本体の稼働率は許容範囲内。ではやはり……)
相殺シールドは、飛来する敵のエネルギー弾に、それと同等量のエネルギーをぶつけることで相殺させる防御兵器である。故に、放たれた敵弾の座標とエネルギー量を即座に計測し、それに対応したエネルギーを放出するだけの処理能力を必要とする。
本来はそれを、A・Rのメインコンピューターであるディソーダー・リュシオルのAIが担当しているのだが、フィリアルにAIを停止させられ、現在はクライシスが自力で演算を行っていた。
だが、いくらクライシスの演算能力が高くとも、AIのそれを補えるほどではない。演算ミスや演算速度の不足を避けることは出来ず、必然的に攻撃を捌ききれなくなってしまう。
また、AI停止の弊害はシールドの機能だけに留まらない。生体金属装甲の制御や脚部ホバリングブースターの出力調整など、A・Rは基本機能の多くをAIに依存してしまっており、クライシスはそれらの処理にも力を割かれている。
さらに、非常に高度な情報処理能力を必要とするミサイルポッドと有線オービット、反物質砲ロンギヌスは事実上使用不可能であり、他の武装も完全な性能を発揮することは出来ない状態にあった。
(ハイレーザーライフル、収束率86%、エネルギー変換効率71%……内装マシンガン、独立機動及びガンクロス形成不可能……っ! こんな状態で……)
クライシスは舌打ちをしつつ、フィリアルの動きを注視する。フィリアルが腕を大きく振りかぶり、掌から発生しているレーザーブレードをブレード光波として射出しようとする。クライシスはその一瞬の隙をつき、姿勢を崩しかけているフィリアルに向かってハイレーザーライフルを発射した。
収束率が低下しているせいで大気によって激しく減衰してしまっているものの、依然高い威力を保ったままレーザーはフィリアルへと向かう。
「——————」
それを見たフィリアルは即座にブレードを消失させると、腕を振り下ろしながら身を屈め、レーザーを易々と回避した。同時に、後頭部から伸びたポニーテールのような部位から射出された拡散ビームがA・Rに向かう。ライフルの制御に手一杯になっていたクライシスはシールドの制御が間に合わず、ビームを被弾してしまった。
A・Rの機体表面を覆う爆発反応装甲が自壊してダメージを防ぎ、即座に装甲の再生が始まるが、その速度と精度も普段よりはるかに低い。
(くそっ! やはり間違いない。あいつは……)
普通なら容易く捌けてしまうはずの攻撃で、無視できないダメージを追ってしまうA・R。さらに、AIの停止以外にも深刻な事態が発生していた。
クライシスのレイヴンとしての強さは、高い演算能力を用いた限定的な未来予測と、それに対するレスポンスの速さにある。自機や敵機の性能、周囲の環境などを数値化することで、発生しうる未来を予測し、それに対して即座に対応出来る。仮に予測が外れて不測の事態に陥っても、とっさの行動が可能であるという能力である。
一瞬の判断が勝敗を分ける戦場において、それは非常に強力な技術であった。しかし、
(完全に後の先をとって動いたのに……それをさらに返された………………あのフィリアルの反応速度は、俺を上回っている……)
クライシスは先ほど、フィリアルが腕を振り抜いて姿勢を崩す瞬間を狙って攻撃した。にも関わらず、フィリアルは攻撃を回避し、逆に反撃に成功している。しかも、寸前の行動を即座にキャンセルして、である。これは、フィリアルのAIの反応速度が、クライシスのそれを上回っていることを示していた。
(くっ……攻撃しようとすればするだけ、相手を有利にしてしまうというのか……)
クライシスは急いで装甲を回復させつつ、A・Rの機体を小刻みに揺さぶって周囲からの攻撃を回避する。無論の事だが、敵はフィリアルだけではない。A・Rは現在、前線から大きく踏み込んだ位置にいる。当然、周囲は無数のディソーダーで溢れかえっており、A・Rは常に四方からの攻撃に晒され続けていた。
まるで針の山のような無数のラインビームを相殺シールドで防ぎ、飛来するミサイルやグレネードを不規則な軌道のブーストダッシュで回避する。それでも捌ききれない攻撃に、A・RのAPはじわじわと、しかし確実に削られていた。
さらに、機体だけでなく、クライシス自身の耐久力も限界に近付いている。元々体力に恵まれた人間ではないクライシスは、長時間の戦闘と膨大な情報処理に追われ、体力気力共に疲弊していた。
疲労のたまった手足は指先まで重く、ふとしたことから操作を誤りそうになる。酷使し続けた頭脳も思考が鈍くなり、ぼんやりとした眠気のようなものが頭の奥から滲み出してきていた。
(………………っ!)
クライシスは歯を強く噛み締めた。自らの復讐対象であるディソーダー、その頂点に立つ存在であるフィリアルを、彼はずっと探し続けていたのだ。
大破壊以前の、信憑性の薄い資料にほんの僅かに登場するフィリアルは、火星においても半ばおとぎ話のように考えられている。しかし、クライシスは何故かフィリアルの実在を、しかも複数の個体が存在することを確信していた。そして今、ようやくその内の一体に巡り会ったのである。
(だと言うのに……このザマとは……)
歯を噛み締めていた口が、少しずつ自嘲の笑いへと変わっていく。十年もの月日をかけて探し続け、そしてやっと見つけ出した敵。しかし、いざその前に立って初めて感じたのは『遠い』という感慨だった。
十年間、ただ復讐の為だけに蓄え続けた力。それをもってしても、最強のディソーダーには傷ひとつ付けられない。先程はすぐそこに思えたゴールが、今は果てしなく遠くに感じられた。
(AIの助力を失い、反応速度と演算能力では上回られ、体力気力とも消耗した状態で、敵のただ中で孤立無援、か………………)
「……笑っちまうな」
コントロールグリップを握る手に力を込める。朦朧とする意識を強引に覚醒させる。停止したメインコンピューターを機体から完全に切り離し、機体制御を全てマニュアルに切り替える。口元の自嘲じみた笑いは、いつの間にか不敵な笑みへと変わっていた。
「だが、まだだ……まだこんな所で……」
OBらしき大出力のブースターで急加速したフィリアルがブレードを振りかざして接近してくる。クライシスは相殺シールドを構え、振り下ろされたフィリアルの腕を斜めに受け流した。相殺シールドからは激しく火花が散り、一瞬シールドが消失する。
二機はすれ違いながら旋回し、フィリアルはブレード光波を、A・Rはハイレーザーをそれぞれ発射する。二つの光は二機の中間で衝突し、相互干渉で拡散し合った。
「——————」
「終わる訳にはいかないんだよ!」
群がってくるディソーダーをマシンガンの斉射で牽制し、A・Rはフィリアルにむけてハイレーザーライフルを構えた。
矢は尽き、槍は折れ、盾は砕けて剣は欠けた。それでもなお、クライシスは一人のレイヴンとして、戦いを続けることを選んだのだ。
一体、何が彼をそこまで奮い立たせているのだろうか。普段の彼ならば、ここまで切迫した状況に陥る前に撤退し、装備と態勢を整えた上で最先に挑もうとするだろう。
だが、彼はそうしなかった。理論的な思考も、冷静な判断力も、疲弊しつつも確かに残っている。その上で彼は決めたのだ。今、ここでフィリアルを倒すと。
「………………っ!」
A・Rがハイレーザーライフルを発射する。フィリアルはサイドステップでそれを回避し、拡散ビームを放とうと後頭部のテールバインダーを展開した。
しかしその瞬間、A・Rの内装マシンガンがテールバインダーに着弾し、プールされていたエネルギーが爆発を起こす。さらに弾頭に含まれていたナノマシン、ADAM01によって、テールバインダーはボロボロに崩れ、脱落した。
初撃のハイレーザーはフェイントで、マシンガンこそがクライシスの本命だったのである。
「——————」
「やはりな。より高度な機体である分、アポトーシスも強力か!」
クライシスはニヤリと口元を歪め、さらにマシンガンを連射した。わざと狙いを甘くし、フィリアルに向けて弾幕を張る。フィリアルはブースターを噴かして回避に移るが、広域に拡散する弾丸から逃れることは出来ず、機体のあちこちに弾丸を受けてしまう。ADAM01はまるで毒のように、着弾点付近の金属細胞を蝕んでいった。
「——————」
それに対しフィリアルは、被弾と同時に着弾点とその付近の金属細胞を一斉に自壊させ、ADAM01を排出して対応した。一撃ごとのダメージは大きくなるが、ADAM01によるダメージを受け続けるよりはいいと判断したのだろう。
「やはりな……高度な計算能力や相互干渉能力だけじゃない。お前達には……ディソーダーには知性がある!」
いかに高度なコンピューターであろうと、自ら考えて行動することは出来ない。コンピューターに出来るのは、あくまでも与えられた式を解くことだけであり、自ら式を構築することは不可能なのである。
しかし、目の前のディソーダーはそれをやってみせた。未知の攻撃に対して自ら解析を行い、しかも自らを傷つける方法でそれに対応したのだ。
「——————」
フィリアルはレーザーブレードを発振させると、A・Rに向かって突進してきた。クライシスはマシンガンを集中させて対応するが、フィリアルは左腕を盾にしてマシンガンを防ぎ、一気にA・Rの懐に潜り込んだ。
「っ!」
細身のボディがバネのように跳ね、レーザーブレードが振るわれる。
それに対しクライシスは咄嗟にホバリングブースターの出力を引き上げ、A・Rのバランスを崩して仰向けに転倒させた。
レーザーブレードがA・Rのコアパーツの先端をかすめて通り過ぎ、A・Rはのけぞった姿勢のままブースターを噴かして後退する。一呼吸おいて、切断されたハイレーザーライフルの銃身が地に落ちた。
「っ………………邪魔だ!」
再び牽制にマシンガンを放ち、A・Rはフィリアルから距離を取った。同時に、退路を塞ごうと回りこんできたプレディカドールを後方回し蹴りで転倒させ、至近距離からハイレーザーを放って撃破する。
銃身を失ったハイレーザーライフルは収束率が著しく低下していたが、なんとか発射は可能らしい。
「——————」
「くっ!」
振り返ると、再びフィリアルが接近してきていた。両手からレーザーブレードを発振させ、両腕をクロスさせながら切りかかってくる。一瞬、戦術画面に目を走らせてマシンガンの残弾が残り僅かなことを確認したクライシスは、A・Rを後方に宙返りさせ、フィリアルのクロスした腕を蹴り上げた。
ブレードに接触して融解した脚部装甲を即座に自壊させつつ、A・Rは姿勢を崩したフィリアルに対し、倒立した状態からハイレーザーを放った。がら空きになった胸部にレーザーが直撃し、拡散したエネルギーが爆発を起こす。
しかし、体勢を立て直したA・Rのカメラアイが捉えたのは、平然と立っているフィリアルの姿だった。マシンガンの直撃と先程の反転蹴りによって、左腕部のブレード発振器は破損してしまったようだが、ハイレーザーが直撃した筈の胸部には傷一つ無い。
「………………………………」
熱くなりかけていた思考が、急激に冷えていく。クライシスは目を細め、フィリアルの胸部を注視した。一旦自壊させて再生させたのではなく、完全に、全くダメージを受けた様子がない。
「………………おかしい……」
ディソーダーの装甲は元々対エネルギー防御が高く、A・Rのハイレーザーライフル程の出力がなければ大きなダメージは与えられない。そのハイレーザーライフルも、現在は損傷がひどく、AIによる制御がないこともあって威力は大きく低下している。
しかし、至近距離から何の防御行動も出来ない状態で放ったにも関わらず、全くダメージを受けていないのは異常だった。
「………………」
「——————」
フィリアルが、残った一本のレーザーブレードで切りかかってくる。どうやらA・Rが接近戦に向かないことを学習したのか、オービットやブレード光波は使わず、ひたすら接近戦を挑んでくるようになった。
「っ!」
思考の隙を与えないような絶え間ない連続攻撃。しかもそれは、互いの反射神経を駆使した非常に高度な読みの外し合いと化している。
振り下ろされるレーザーブレードをサイドステップで躱そうとすれば、躱した先に膝蹴りが飛んで来る。その膝を自壊させた装甲板で吹き飛ばし、体勢を崩した所にマシンガンを撃ちこんだ。
「——————」
たまらず後ろに下がったフィリアルの胸部は、マシンガンの直撃によって装甲が大きく抉られていた。フィリアル自身がADAM01によるダメージを防ぐために装甲を余分に自壊させている事を考慮しても、小さなダメージではない。
(胸部の装甲が、他に比べて別段強固な訳ではない……では………………)
フィリアルはA・Rの様子を伺いつつ、胸部の装甲を修復している。それをあえて見送りつつ、クライシスは思考した。
自身のあらゆる武器を奪われたクライシスに残された最後の手段………………数値化出来ない事象を観測し、考察する力。コンピューターには本来不可能であり、目の前のディソーダーがようやく獲得したであろう技術。冷静かつ柔軟な思考能力こそが、クライシスの最後にして最高の武器だった。
「………………………………」
それはまるで、無数の砂粒の中から砂金を探し出すような作業だった。無数の事象と仮説が、クライシスの脳裏に浮かんでは消えて行く。フィリアルの武装と行動パターン、ディソーダーの装甲に関するデータ、相殺シールドのメカニズム………………それらは、クライシスの抱いた小さな疑問に答えるかのように、少しずつより集まっていき、
「………………まさか」
やがて形を成した。
同時にフィリアルの装甲修復が完了し、再びレーザーブレードを展開する。テールバインダーや左腕部のブレード発振器などの破壊された武装を除けば、ほぼ完全に近い状態だった。
対してA・Rは、AIの助力を失っていることもあり、装甲の修復は完全ではない。武装の方も、マシンガンは先程の一斉射で使いきってしまい、残っているのは損傷の激しいハイレーザーライフルと相殺シールドのみとなっていた。
しかし、コクピット内でコントロールグリップを握るクライシスは、口元に不敵な笑みを浮かべている。
「………………」
クライシスは汗で曇ったヘルメットを脱ぎ捨て、青いレンズの眼鏡を外す。その下から現れたのは、火星移住民特有の、錆びた鉄のような緋色の瞳。それは奇しくも、目の前に居るフィリアルのカメラアイと同じ色だった。
「………………」
「——————」
A・Rはハイレーザーライフルを、フィリアルはレーザーブレードをそれぞれ構え、互いに正面から相対する。いつの間にか周囲のディソーダーたちは、二機には目もくれずに進軍するようになっていた。
「………………」
「——————」
互いの感覚素子を極限まで鋭敏化させ、二機は隙を伺いあう。反応速度に優れた二機にとって重要なのは、いかにして後の先を取るかである。まるで氷のように冷たく、張り詰めた時間は、しかし唐突に破られることとなった。
「「………………——————!!」」
先に動いたのはA・Rだった。脚部のホバリングブースターを噴かして前に跳び、再び至近距離からのハイレーザー直撃を狙おうとする。フィリアルも同様に、ブースターを噴かして大きく踏み込むと、一直線にレーザーブレードを突き出した。
完全に後の先をとったフィリアルのカウンター。レーザーブレードは一直線にA・Rのコアに向かい、コクピットを突き破ろうとする。しかしその瞬間、A・Rのボディはまるでフォークボールのように急激に高度を落とし、レーザーブレードはコアではなく、頭部パーツを貫いていた。
「——————」
クライシスはA・Rを前に飛ばせた瞬間、ホバリングブースターを停止させていたのだ。反応速度で劣っているクライシスに、後の先を取ることは望めない。だがそれならば、行動と同時に二手先の対策をとってしまえばいい。フィリアルの反応速度からして、クライシスの方が早過ぎる事はありえないのだから。
破壊された頭部パーツをパージし、A・Rはフィリアルの長い腕の内側に入り込む。そしてがら空きになったその胸部に、展開した相殺シールドを叩きつけていた。
「どうしてこんなモノが必要だと思う? お前達と同じ装甲を持っているコイツが、どうしてこんなシールドを必要としていると思う?」
無意識のうちに、クライシスはフィリアルに話しかけていた、ディソーダーが人語を解する筈もなかったが、クライシスの言葉は止まらず、まるで水のように流れ続ける。
「コイツの装甲はエネルギーに弱いからだ! 爆発反応装甲は運動エネルギーしか無力化出来ない。つまり、お前達ディソーダーの装甲には……」
フィリアルに接触している相殺シールドから、エネルギーがどんどん失われていく。クライシスがコンソールを操作してエネルギー供給量を上げてやると、やがてフィリアルの装甲表面から紫電が散り、大量のエネルギーが周囲に拡散していった。
「ACと同様の防御スクリーンが展開されている! それも、ACよりはるかに高密度なものがな!」
「——————」
エネルギー兵器に対して高い防御力を持つディソーダー。そのディソーダーと同じ装甲を持っているはずのA・Rが、なぜ対エネルギー用のシールドを装備しているのだろうか。
A・Rの装甲は、ディソーダーの残骸を解析して作られたものである。しかし、それが残骸である以上、防護スクリーンが稼動していないのは必然。故にA・Rは、ディソーダーの装甲を完全には再現できなかったのである。
A・Rは相殺シールドでフィリアルを抑えつけ、シールドの裏からハイレーザーライフルを押し付ける。フィリアルはブレードで反撃しようとするが、長い腕が仇となり、完全に密着しているA・Rをうまく攻撃できない。密着しているハイレーザーライフルの銃口には、大量のエネルギーが収束されていた。
「………………Ash to Ash」
ハイレーザーライフルから放たれた光条が、フィリアルのボディを貫通して後方へと抜けていく。周囲のディソーダーが一瞬にして融解し、戦場が大きく抉られた。
フィリアルのカメラアイから光が消え、手足が力を失って体が仰向けに倒れこむ。その寸前、クライシスはA・Rのマニピュレーターを伸ばし、フィリアルのボディから頭部パーツを引きちぎっていた。
「………………っ!?」
その時、不意にA・Rのボディが揺さぶられ、クライシスは慌てて機体を回頭させる。そこには、A・Rに狙いを定めているリュシオルが居た。先程のハイレーザー照射により、再びディソーダーの注意が向けられたのだ。
「くそっ!」
クライシスは慌てて反撃しようとするが、既に使える武装は一つも残っていなかった。朦朧とした頭を必死に働かせて撤退の手段を考えようとするが、リュシオルは無常にもグレネードランチャーを向けてくる。しかしその瞬間、左右二門のグレネードランチャーは、内部から誘爆を起こして吹き飛んでいた。
「っ!……今のは、セイルのマズルブレイク?」
「……の、劣化版といったところか。珍しいな、お前が詰めを誤るとは……」
いつの間にか、A・Rの背後に一体のACが立っていた。クライシスは後ろを振り返らなかったが、声で誰なのか分かったようだった。
「C・B……済まない、助かった……」
「構うなよ。お前のサポートが俺の仕事だ。それより……大丈夫か? 体調のほう」
「……良くはない……後を頼んでもいいか?」
「オーケー、分かった。他には?」
「コーテックスに……ミサイルの発射を……それと……ヒーメル・レーヒェにも……」
「……了解」
ACはA・Rのボディを抱え込むと、OBを起動して戦場を離脱していく。完全に光が消えたコクピットの中で、クライシスはそっと意識を手放した。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |