このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

急加速による強烈なGが、体を押し潰そうとしているかのように襲いかかってくる。

 

常人なら呻き声の一つでも上げているところだが、ジャスティスロードの動きに慣れたセイルにしてみれば大した事は無く、僅かに顔をしかめただけだった。

 

そうしているうちにも彼の乗った宇宙船は地球の大気圏を突破し、宇宙空間へと躍り出る。

 

先ほどまで薄い青に彩られていた空は、漆黒の宙へと変わり、先ほどまでのGが嘘のように体が軽くなった。

 

『大気圏離脱に成功、慣性飛行に入る。レイヴンはハンガーに移動してくれ』

 

 宇宙船のパイロットにそう告げられ、セイルはシートベルトを外して席から立ち上がる。座りっぱなし凝り固まった体をほぐそうとストレッチを始めるが、腕を振った途端に体が慣性に引かれて浮き上がってしまった。

 

「おっとと……」

 

「あら、もしかして宇宙は初めて?」

 

 浮き上がったセイルの手を、隣に座っていたアメリアが掴み、ゆっくりと床におろしてくれる。アメリアは自分が浮き上がらないよう、足先をシートに引っ掛けていた。

 

「ああ、ありがとう……レイヴンになってからは初めてかな。今までは、宇宙船の中でも人工重力があることが多かったから……」

 

 床に降り立ったセイルは、まだ若干フワフワしている体をなんとか安定させつつ、アメリアに言葉を返す。

 

 超密度重粒子の微細振動による人工重力の発生は、大破壊以前には既に確立されており、その後も変わらず使用され続けている。ただし、建造にも使用にもコストの掛かる

代物であるため、こういった小規模な宇宙船などには搭載されていないことが多かった。

 

「そう……だったら、0Gゼロジー戦も初めてよね? 今日はわたしが前に出るから、まずは動きに慣れておくといいわ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ……」

 

 二人は宇宙船の床を蹴ると、ハンガーへ向かって跳んで行った。

 

 

   Breakthrough〜壁を超えて、更なる壁へ〜

 

 

<ミッション:廃棄宇宙船調査>

 reward:20000C  mission cordShining Colection

client:グローバル・コーテックス

 

 衛星軌道上に放置された廃棄宇宙船への侵入調査を依頼します。

 

 この宇宙船は、以前企業間での戦闘があったときに撃破され、放置されたものですが、ここ最近、周辺中域で不振な小型宇宙船が目撃されるようになりました。

 

 不確定ではありますが、ナハティガルに関係する組織のものである可能性が高いと思われます。

 

 宇宙船の内部を調査し、敵部隊を発見した場合は撃破して下さい。

 

 ジャスティスロードに乗り込んだセイルは、普段よりもやんわりとアクセルペダルを踏み込んだ。

 

 無重力下用に出力を調整されたブースターがゆっくりとプラズマイオンを吐き出し、ジャスティスロードは宇宙船のハッチから外に出る。

 

 すぐ側には、作戦領域となる大型の廃棄宇宙船が浮かんでいた。

 

「うわぁ……弱めに踏んだのに、かなり勢いがつくんだな……」

 

『そうね……宇宙空間では慣性が減衰することがないから、持続的なブーストの必要が無いの。だから、0G戦用にブースターを調整する時は瞬発力重視のチューニングを行

うんだけど……ジャスティスロードは元々瞬発力重視のブースターを装備している分、その影響が顕著に出ているのかもしれないわね……』

 

 そう言いつつ、アメリアの乗った新AC、ギルティジャッジメントも宇宙船の外に出てくる。腰部のブースターをゆっくりと噴かし、安定した姿勢でジャスティスロードの隣に並んできた。

 

「……この前使ってた、肩のブースターは使わないのか?」

 

 セイルはジャスティスロードの頭部を動かし、ギルティジャッジメントのボディにカメラを向ける。

 

 先日の戦闘の後、ギルティジャッジメントの詳しい性能について聞いてみた。ジャスティスロードやA・Rと同様に、トリチウムリアクターを搭載した特殊ACであり、基本的には、アメリアが今まで使用していた機体、グラッジと同様に、持続力のあるブースターを利用して敵機に張り付き、至近距離からの集中砲火を加えるという運用方法らしい。

 

特徴的な大きく張り出した肩部パーツは、そのために使用される一種の推進機器だというのだ。

 

『マグネイズスラスターのこと? あれは惑星の磁気を利用したものだから、宇宙空間では使えないのよ』

 

 アメリアはそう言うと、ジャスティスロードを追い抜き、廃棄宇宙船へと接近していった。そして、ギルティジャッジメントを宇宙船の壁面ギリギリでピタリと停止させると、宇宙船の様子を調べ始める。

 

『そう古いものではないわね。おそらくはミラージュ社製の軍艦で……』

 

『艦名は『バルダー』、ミラージュ宇宙軍、第一機甲艦隊所属の輸送船です』

 

『かつての管理者事件の折に、旧管理者の部隊に襲撃され、撃沈、廃棄されました』

 

 不意に、無線に別の声が入り込んできた。同時に、目標である戦艦の情報や、周囲の宙域の様子などが送られてくる。エマとレナ、二人がかりでのオペレートだった。

 

『お待たせしました。これよりオペレートを開始します』

 

『二人ともよろしくお願いします。エマさんも』

 

『ええ、よろしく』

 

 軽く挨拶を済ませ、セイルとアメリアは宇宙船の中に入っていった。元々、館内でのMTの運用が考えられていたらしく、内部の通路はACが通れるほどに広い。

 

「けっこう綺麗に残ってるな。損傷もそれほど多くないし、劣化もしていない」

 

『そうね……回収すればそれなりの物資が手に入るはずだけど、時期が時期だっただけに手が回らなかったのかしら……』

 

 セイルはジャスティスロードの腕部で宇宙船の内壁を叩いてみる。腕部を通して鈍い音が伝わり、セイルは僅かに目を細めた。

 

 大破壊を逃れ、人類が移り住んだ地下世界『レイヤード』と、それを統括する『管理者』と呼ばれる巨大AI……それらに裏打ちされた人類の生活は、セイルの誕生以前に既に崩壊してしまっている。故にセイルは、今まで他のレイヴンからその頃の話を聞かされても、いまいち実感を持つことができないでいた。

 

「…………」

 

 そして今、その頃の名残に直に触れてはみたものの、セイルは依然、何の感慨も浮かばなかった。

 

消えていく命。失われる日常。企業の思惑によって生まれ、役目が終われば打ち捨てられる、多くの兵器や兵士たち……そう言った目で見れば、SL事件も管理者事件も、ひいてはナハティガルとの戦いすら、たいした違いは無いように思えてくる。

 

(人の歴史は、常に戦争と共にあった。企業による支配が始まる近代になってからは、それがより顕著になっている……)

 

 セイルはコントロールスティックを操作し、壁面に触れているジャスティスロードの腕に力を込めた。壁面がわずかに歪み、金属の悲鳴が腕部を伝わって聞こえてくる。セイルは知らず知らずのうちに、奥歯を強く噛み締めていた。

 

(もう……人は戦争無しに生きていくことは出来ないんだろうか……)

 

 テロリストの殲滅という目的でレイヴンになったセイルは、その手段として多くの人を殺してきた。屍によって作られた血濡れの道を、しかし信念を持って歩いてきたセイルだったが、この宇宙船の退廃的な雰囲気のせいか、いつになくその信念が揺らいでいた。

 

「…………」

 

「……セイル?」

 

「え? アメリア……どうして音が……」

 

「接触回線よ。どうかしたの? さっきから黙りこんで……」

 

 黙したまま微動だにしていなかったセイルを心配したのか、アメリアが話しかけてきた。ギルティジャッジメントのボディをジャスティスロードに接触させた状態で外部スピーカーを使い、音波を伝導させている。

 

「ああ……ちょっと、考え事……ほら、この船って、管理者事件の頃のなんだろ? 俺、そのころまだ生まれてなかったからさ……」

 

「そう……まあ、それならいいわ。無重力酔いにでもなったのかと思って心配したんだけど……」

 

「大丈夫だよ。一応、訓練ではやったことあるからさ……ありがとうな、心配してくれて」

 

「……別に構わないわ。それより、内部の様子が把握出来たらしいから、先に進むわよ……」

 

 アメリアはそう言うと、ギルティジャッジメントを通路の先へと進めていく。どうやら感傷に浸っているうちに、レナたちからの通信を聞き逃していたようだった。

 

「…………」

 

『セイル、どうかしたの?』

 

「いや、ごめん……ちょっと考え事しててさ……」

 

 相変わらず無言のセイルを気にかけたのか、レナが通信を入れてきた。セイルは周波数を合わせると、今度こそちゃんと通信を受け取った。

 

『そう……初めての宇宙戦闘だから緊張してるの?』

 

「ん、まぁ、そんな所……ところで、レナもレナでなんか緊張してるみたいだけど、大丈夫か?」

 

『え!? あ…………うん、じつはちょっと……どうして分かったの?』

 

「いや、さっきからずっと仕事口調だったからさ。これくらいの状況なら、いつもならもっと砕けた口調だろ?」

 

『…………もう、妙な所で敏感なんだから……』

 

 そう言いつつレナは、一通のメールを送ってくる。そこにはチャットで話そうという内容の言葉と、指定周波数が記されていた。セイルはキーボードを投影すると、レナと無言の会話を始める。

 

「で? どうしたのさ」

 

『いや、先輩の前なもんでちょっと緊張しちゃって……』

 

「先輩って、エマのことか? 知り合いだったのか?」

 

『知り合いって程じゃないけど……私たちオペレータの間じゃ、有名な人なのよ。なにせ、かつてのトップランカーをサイレントラインの深奥まで誘導したオペレーターなんだから……』

 

 言われてみればそうだった。既にコーテックスを退社しているものの、エマはかつてトップクラスの能力を持ったオペレーターだったのだ。顔の広いレナが知らない筈は無いし、もしかしたら知り合いではないというのも謙遜かもしれない。

 

「成程、緊張するわけだな。でも、緊張の理由はそれだけじゃないんじゃないのか?」

 

『っ……どういう意味よ……』

 

「レナが俺達への強力を了承してくれた時だよ。最初乗り気じゃなかったのに、エマの名前出した途端顔色変えたじゃないか。レナって顔広い割に浮いた話聞かないから疑問

だったんだけど……もしかしてそっちの趣味か?」

 

 セイルはにやけた表情を浮かべながらそう書き込んだが、それっきりチャットは途切れてしまう。どうやらへそを曲げられてしまったようだった。セイルは再度通常無線を起動し、レナに話しかける。

 

「お〜い、レナ〜」

 

『…………何よ』

 

「……ありがとうな、お陰で落ち着いた」

 

『っ…………ふん、セイルこそ、いつまでも煮え切らない態度のくせに。このヘタレ』

 

「なっ!!」

 

 レナからの思いがけない反撃に、セイルは絶句してしまう。思わずギルティジャッジメントの方に視線を向けたが、聞こえていたのかいなかったのか、アメリアは何の反応も示さない。

 

「…………」

 

『状況クリア、セイル、行くわよ』

 

「っ、了解」

 

 通路の様子を確認し終えたアメリアは、ギルティジャッジメントを先に進ませる。セイルもジャスティスロードのブースターを噴かし、ゆっくりと後を追う。瞬間的なブーストを断続して行い、なんとか接触すること無く曲がり角を抜ける。

 

「っと……そうか、真空状態だからスタビライザーによる姿勢制御も出来ないのか……」

 

 0G戦用の装備を考えておいたほうがいいかもしれないと考えつつ、セイルはジャスティスロードをギルティジャッジメントの背後まで進ませる。ギルティジャッジメントは半壊した隔壁の前で立ち止まり、向こう側の様子を窺っていた。

 

「……どうした?」

 

「無線を封鎖して。レーダーに反応があるわ」

 

 アメリアが再び接触回線で話しかけてくる。セイルは慌てて無線を切ると、ギルティジャッジメントの背後から隔壁の向こうを覗き見た。

 

「どこだ? こっちのレーダーには映っていないんだけど……」

 

「多分、PLUSのわたしにしか見えていないでしょうね……まだ気付かれた様子はないけど、どうする?」

 

 無線を封鎖したせいで、レナたちとの連絡も途絶えてしまっている。指示を仰ぐために無線を使えば、敵に気取られてしまう可能性があった。

 

「……このまま突入しよう。一撃を与えて混乱させてから、連絡を入れて指示を仰ぐ」

 

「了解……ついて来て」

 

 そう言うと、アメリアはギルティジャッジメントを先へと進ませる。破れた隔壁や壊れかかっった壁面の隙間をスムーズに通りぬけ、曲がり角で再び静止した。対するセイルは、所々装甲を削りながらもジャスティスロードに後を追わせる。

 

 アメリアに追いつくと、ジャスティスロードのレーダーにも小さな光点が現れた。

 

「妨害電波……いや、簡単なステルスシステムか?」

 

「そうみたいね。明らかに一介のテロリストやジャンク屋じゃない。おそらくは……」

 

「……ナハティガル」

 

 セイルは緊張した面持ちでコントロールスティックを握り直す。コーテックスとの繋がりが出来て以来、ナハティガルとの遭遇率はぐっと高くなっている。確実に敵の元へ近づいているという感覚が、セイルを高揚させていた。

 

「まずわたしが突入して一撃を加えるから、あとに続いて入ってきて。無線封鎖の解除は、今から十秒後。いいわね」

 

「……了解」

 

「よし……行くわよ」

 

 アメリアはギルティジャッジメントの頭部を動かし、器用にも頷いて見せる。その後、全身に装備された火器を展開すると、角を曲がって行った。同時に、宇宙船全体が激しく振動する。音は聞こえてこないが、アメリアが攻撃を開始したらしい。

 

「……よし」

 

 一呼吸置いて、セイルも後に続いた。壁を蹴って姿勢を制御し、角の先にある部屋へと飛び込んでいく。部屋の中では、ギルティジャッジメントが何機かのMTに対して攻撃を放っていた。

 

 両腕部のガトリングバズーカが高威力のHEAT弾を次々に発射し、両背部のデュアルレーザーキャノンが敵の群れをなぎ払っていく。セイルはその苛烈な様子に思わず首をすくめたが、すぐに後方からの援護射撃を開始した。射撃の反動を上手くブースターで相殺しつつ、レナたちに連絡をとる。

 

「オペレーター、こちらジャスティスロード。敵部隊に奇襲をかけた。現在、敵を殲滅中!」

 

『OK! やると思ってたわ。敵を追いかけるから、レーダーのデータをこっちに送って!』

 

『セイル、データはわたしが送るから、君は先に進んで貰える? 何機かが奥のほうに……』

 

『レイヴン、敵が数機、船の奥へと高速で移動中……っ? 進行方向にエネルギー反応。小型の輸送艦のようです』

 

「逃げる気か?」

 

セイルが視線を向けると、何機かの高機動型MTが奥の通路へと向かって進んでいくのが見えた。さらに、逃げていくそのMTを援護するかのように、他のMTが道を塞ぐ。

 

『おそらく、組織にとって重要な物資、或いは人物が乗っている可能性があります。追って下さい』

 

『道を開くわ。行って!』

 

 ギルティジャッジメントがスカートアーマーの中から予備武装を装備した隠し腕を出現させ、射撃を開始した。計四本の隠し腕にはいずれも大型のマシンガンが装備されており、敵MTの群れを一瞬にして蜂の巣に変えてしまう。

 

それを見たセイルは、すかさずジャスティスロードを通路に飛び込ませた。壁を蹴って減速、旋回すると、HOBを展開する。敵との距離は既にかなり離れてしまっていた。

 

『っ! セイル! 止めなさい! OBはまだ早いわ!』

 

「使わないと追いつけない。大丈夫だ!」

 

 ジャスティスロードの背部からプラズマ粒子が吐き出され、ジャスティスロードは一気に加速した。その速さは、今までの比ではない。重力も空気抵抗も無い、一切の縛りが無い状態で、ジャスティスロードは理論値以上の性能を発揮していた。

 

「っく、速い……でも」

 

 セイルはコンソールを操作し、頭部パーツに装備された高感度センサーの感度を調整する。クライシスからは最高感度での使用は控えるように言われているが、セイルは構わずメーターをMAXまで引き上げた。

 

 先ほどまで前方一点しか見えていなかった視界が一気に広がり、壁面の損傷具合までもがはっきりと見えるようになる。さらに、高速で後方へと流れていく景色が不思議なほどゆっくりになり、まるで時間が遅くなったような錯覚を覚えた。

 

「この感覚だ……これなら……」

 

 セイルの優れた知覚能力と、ジャスティスロードの高感度センサー、さらにそれら2つを同調させる機能が合わさることによって可能となる、究極の状況把握。それによって戦場を知り尽くしたセイルにとって、閉所での高速移動は難しい事ではなかった。

 

ブースターを利用した小刻みな進路変更によって障害物を回避し、脚部パーツによるブレーキングとTOBによる加速によって、曲がり角をスムーズに駆け抜ける。

 

ものの数秒で逃走する敵部隊に追いついたセイルは、両肩部のBISからブレードを発振し、前方へ向ける。

これもまた、空気抵抗が無いからこそできる動きだった。地上でこんな動きをすれば、瞬く間にバランスを崩して転倒していただろう。

 

「喰らえ!」

 

リニアライフルの発射と同時にブレード光波を放ち、セイルはMTを撃破する。爆発し、慣性のまま前方に進んでいくMTの残骸に接触する寸前、セイルはジャスティスロードのHOBを停止し、さらに脚部をぴったりと床面に接地させて急激なブレーキをかけた。

 

瞬時に発生する強烈なGに顔をしかめつつ、セイルはジャスティスロードの姿勢を制御する。火花を散らせながら通路の床面をスライドしたジャスティスロードは、やがてピタリと静止した。同時に、破壊したMTの残骸が通路の先に飛び込み、爆発を起こす。

 

急いでセンサーの感度を元に戻し、セイルは通信を開いた。

 

「レナ! 敵の輸送船は?」

 

『大丈夫。撃破したMTの爆発に巻き込まれて、航行能力を失ったみたいだわ。アメリさんが船の外側から回り込んでるから、セイルはそのまま追いかけて。それにしても、あんな狭い所であんなスピード出すなんて、無茶なことするわね……見てるこっちはヒヤヒヤしたわ』

 

『そうよ、セイル、もうあんな無茶なことはしないで。寿命が縮むかと思ったわ……』

 

「大丈夫だよ。俺の腕を信用しろって」

 

 怒ったような声を上げるアメリアを宥めるように、セイルは珍しく自信ありげな事を言う。

 

実際、今の動きはよく出来たものだった。ジャスティスロードの高い機動力をフルに活かすことが出来たし、閉所での戦闘についても、以前訓練施設で行った移動訓練が役に立った。クライシスから止められていたセンサーの最高感度使用も短時間に留めたため、以前のような頭痛も発生していない。

 

既にセイルは、ジャスティスロードを完全に使いこなせるほどに成長していたのだ。

 

(これならいける……これなら……)

 

 セイルはジャスティスロードをゆっくりと進ませつつ、その左腕部に視線を移す。マニュアル操作で左手をゆっくりと握りしめたセイルは、コクピットの中で、一人満足そうな笑みを浮かべた。

      

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