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赤い砂時計〜刻限より刻限まで〜

 

 セイル達三人は、全力でシティへと引き返していた。道中では、EMPによって行動不能になったらしいACが膝をついている。生き残ったACもそれなりの数居たが、みな撤退を始めていた。

「くそっ、コーテックスのレイヴンが揃いも揃って……」

「仕方ないわ。ナハティガルのせいで、ベテランレイヴンはかなり減ってしまっているもの。ルーキーだけでは対応しようがないわ」

「そういうこったな……オラ! 撤退だ撤退! 急げ!」

 ケイローンが外部スピーカーを使って周囲のレイヴン達に呼びかける。進退を迷っていたらしい若手のレイヴン達も、ケイローンに急かされて慌てて逃げ始めた。

「……通信はまだ回復しないのか?」

「EMPはもう収まってるが……リグが無事かどうかが問題だな……」

「ええ、でも……どうやら無事のようよ。何かが近づいてきてる。大型の機動兵器……多分私達のリグだわ」

 アメリアの言葉通り、前方に見覚えのある機影が現れる。ヒーメル・レーヒェが本部として使っているリグに間違いなかった。どうやら無事だったようだが、戦闘に巻き込まれたらしく何箇所か被弾した痕がある。

「っ? シティの方にも敵部隊が?」

「わからん……とにかく中に入ろう」

 通信はまだ回復していなかったが、三機は開かれたハッチから帰還する。ACを整備員たちに任せ、セイル達はブリッジへと駆け込んだ。

「レナ! 状況は!?」

「お帰り! 全員無事ね? まずこれを見て」

 ブリッジに居たレナとエマが、ディスプレイに映像を表示する。その映像には、シティ外壁付近での激しい戦闘が映されていた。作業員たちの護衛をしていた部隊が、ACの大部隊に襲撃されている。

「何だこれ……こいつら、企業の量産型ACじゃないか!」

「どういう事? 何があったの?」

「さっきEMPが発せられた時、企業軍の量産型ACはその殆どが機能停止したの。まるで狙ってたみたいにね……」

「そしてその直後、量産型ACたちは突然暴走し、友軍部隊を攻撃し始めたのです。外壁周辺の部隊は壊滅的な打撃を受け、ゲートまで後退。このリグも攻撃を受け、通信が不能な状態にあります。暴走の原因は分かりませんが、おそらく操縦補助用のAIが原因かと……」

「ちょっと待て! AIの暴走だと? それじゃまるで……」

 ケイローンが言葉を切る。この場にいる五人全員の頭に、同じ単語が浮かんでいた。突如として発生した、AI兵器の暴走。それは……

「はい……サイレントライン事件と同じです」

 全員の思いを、エマが代弁する。もうひとつの管理者、IBISによって仕組まれた、AI兵器の暴走事件。それは、他ならぬエマとキースによって終局したはずだった。

「どういう事だよ。サイレントラインのAIは、もう全部機能停止したはずだろ?」

「その通りです。量産型ACに搭載されているAIは、各企業が独自に開発した物の筈です。しかし……」

「そのAIの実用化に、ナハティガルが絡んでいる可能性は否定できないってわけね……だとすると、さっきのEMPも、多分量産型ACのパルスガードを透過できる周波数だったんでしょうね。そして同時にそれが、AI暴走のキーになった、と……」

「コーテックスの防衛機構に続いて、三大企業の兵器開発部かよ……ナハティガルの手は一体何処まで伸びてやがんだ?」

 メンバーたちの間に重苦しい空気が流れる。状況は、想像以上に悪いものになっていた。規模で劣るはずのナハティガルだが、この先制攻撃によって大きな勢いを得たことになる。早急に態勢を建てなおさなければ、コーテックス側の勝利は難しいだろう。

「……沈んでる場合じゃない。今はとにかく撤退を急がないと……シティの状況はどうなってる? このままじゃ市街戦にもつれ込むぞ」

「残念ながら、リグの通信機器は復旧が困難な状態です。現在、AC用の無線を使用した通信を試みていますが……っ!? 通信が入りました。スキウレからです!」

 無線機と接続された端末にメンバーたちが集合する。スピーカーからは、ノイズ混じりのスキウレの声が聞こえてきた。

『こちら、フェアリーテール……状況は?』

「こちら本部リグ。セイル、ケイローン、カラードネイルと合流しています。各機とも損傷は軽微。現在シティに向かって移動しています」

『オッケー、こっちは今シティ中心部よ。シティ内の電子機器もあらかたやられてて連絡がつかないから、私が無線を中継してるわ』

「スキウレ、住民への被害はどうなってる?」

 セイルがマイクをひったくるようにしてスキウレに尋ねる。かつての記憶が想起されているのだろう。その表情はいつになく険しかった。

『落ち着いて、セイル。被害については今のところ不明よ。直接の被害は出てないはずだけど、交通や医療関係で被害者が出ていない補償は無いわ』

「そうか……避難状況は?」

『今は、シティカードが先導にあたってるわ。今のところ滞り無く進んではいるけど、敵の侵攻に間に合うかどうかはギリギリって所ね。それに……どうやらレイヤード内部でも武装蜂起が発生したらしいの。その関係で、シェルターが足りなくなる可能性があるわ……』

「そんな…………っ……スキウレ、コーテックスの方にある程度の進言は出来るよな?」

『多少は出来るけど……どうする気?』

「閉じた町だ……あそこに市民を避難させる!」

 スキウレを含めて、その場にいた全員が息を飲んだ。裏社会の住人たちが跋扈する無法地帯、閉じた町……そこをシェルターとして使おうというのだ。

『馬鹿な事言わないで! あの町の存在を公に認めろっていうの?』

「コーテックスだって見て見ぬふりをしてるだけだろ? 後でどうにでもなる」

「あんな所に一般市民を避難させるってのか? 下手すりゃ戦場より危険だぞ?」

「町のことを知ってる人間から優先して入れていけばいい。企業軍やシティガードの関係者のための、あくまでも予備シェルターとして使うんだ」

「……移動用のエレベーターやリフトも、ほとんど機能停止していますが……」

「階段使わせろ! AC用の地下道もあるだろ?」

 次々に告げられる問題点に、セイルはまるで予め答えを用意してあったかのようにスラスラと返答していく。あらゆる否定材料を論破され、他のメンバーたちは一様に押し黙ってしまった。

「今はとにかく人命が優先だ。後のことは人を救ってから考える。反対するものは居るか? 居なければこれをヒーメル・レーヒェの正式決定とする!」

 セイルの放った言葉に、メンバーたちの不安げな表情が一気に引き締まる。この窮地において、セイルは組織のリーダーとしての能力を十二分に発揮していた。

「スキウレ。コーテックスの首脳に伝えろ。閉じた町を潰してでも住民を避難させろと!」

「……分かったわ!」

「レナ、情報管制を頼む。一刻も早く連絡手段を確立してくれ」

「OK!」

「エマは、スキウレを補佐してやってくれ。それと、キースのことなんだけど……」

「彼のことは気にしないで下さい。何があっても帰ってきた人です」

「ありがとう……ケイローン、新人レイヴン達をまとめて、ゲートを守ってくれ。前線から足手まといが居なくなるだけでも幾分かマシになる」

「任しとけ! 俺にかかりゃアイツらも一人前だ」

「アメリアは、俺と一緒に前線に出てくれ。味方の撤退を支援する」

「了解。背中は任せておいて」

 セイルの飛ばした指示に、全員が頷きを返す。セイルは、今一度深呼吸をする。おそらくこの戦いが、ナハティガルとの最終決戦となるだろう。

「……よし、ヒーメル・レーヒェ、出撃!」

 セイルの掛け声と共に、全員が持ち場へと散っていく。シティの命運をかけた撤退戦が、始まろうとしていた。

 

………………数分後、コーテックスシティ郊外

 前線からは、次々にACが撤退してきていた。多くの機体が高密度のEMPによって損傷を負っており、全体数に比べると満足に戦える機体は少ない。その僅かな機体ですらも、追い打ちをかけるように現れたゴーストによって駆逐されつつあった。

「くそっ! どうなってやがる!」

 一体のACが、後を追ってくるゴーストから必至で逃げ回っていた。どうやらFCSを損傷したらしく、満足に攻撃することができないでいる。逆に敵のゴーストは、かつてランカーと呼ばれていたレイヴンの機体だった。

「来るな……来るなぁ!」

 切羽詰まって武装を乱射するも、その程度でゴーストの足が止まるはずもない。ゴーストACは連続してブレードを振るい、ブレード光波を発射する。いくつもの光刃が、ACに向かって行った。

「う、うああぁぁ!」

 目前に迫る死に、恐怖の叫び声を上げるレイヴン。しかし、光に包まれた彼の視界に、突如として一つの影が飛び込んできた。影は回転してブレード光波を放ち、迫り来るゴーストのブレード光波を迎撃する。

さらに追撃を仕掛けてきたゴーストのブレードを打ち払い、その頭部を射突ブレードの一撃で貫いた。

「お、お前は……」

「シティのゲートまで引き返せ。ケイローンというレイヴンが指揮をとっている。合流してゲートを守れ!」

「ケイ……あのジジィが……」

「行け!」

「っ……」

 ルーキーらしいレイヴンが、踵を返して去ってゆく。セイルは撃破したゴーストACを振り払うと、周囲を見渡した。先程からこうして、落伍した友軍ACを助けて回っているのだが、その数は一向に減りそうにない。

 しかしそれは、まだ生き残っているレイヴンが大勢居るという意味でもあった。

「これで7機目……意外と生き残っているものね……」

 周囲の敵を押さえ込んでいたギルティジャッジメントが、ジャスティスロードの背中を守るように立ち並ぶ。

「ああ……体は大丈夫か?」

「平気よ。わたしの体はこのくらいじゃへばらないわ。生身のあなたこそ、そろそろ辛いんじゃない?」

「大丈夫だよ。俺の方こそ、この位じゃへばってられない」

「……分かったわ。でも、限界だと思ったら無理矢理にでも連れて帰るわよ。あなたはわたし達にとって大切な人なんだから……」

「っ…………」

 自分を気遣うアメリアの言葉に、セイルは不意に言葉を詰まらせる。アメリアの言った「大切な人」という言葉に、思わず反応してしまったのだ。

(……落ち着け。そういう意味で言ったんじゃない……)

 激しくなる動悸を無理やり抑えつけ、セイルはどうにか平静を取り戻す。先日の宇宙でのミッションの時にレナにからかわれて以来、余計にアメリアのことが気になるようになってしまっていた。

(子供か俺は……)

 レイヴンに限らず、兵士の恋愛は即断即決が基本である。次の休みにデートに行こう、などと考えても、次の休みまでお互いが生存しているとは限らないのだ。その点においては、セイルはレイヴンのセオリーから外れていると言えた。

「……セイル? どうかした?」

「…………いや、何でもない……」

「そう…………こんな時に言うのもどうかと思うけど、最近ちょっとおかしいわよ」

「……おかしいって?」

 接近してくる敵MTをリニアライフルで牽制しつつ、セイルは端的に尋ねた。思わず余計なことを口走ってしまいそうで、あまりアメリアと会話したくなかったのだ。

「……わたしは君のことを、感情の振れ幅が常に一定な人物だと思っていたの。喜怒哀楽ははっきりしているけど、一定以上に感情を高ぶらせたり沈ませたりすることは無い。良い意味で、感情のコントロールが得意な人なんだと考えていたのよ」

 だが、アメリアの口から出たのは思いも寄らない言葉だった。他人から見た自分の人物像などそうそう聞けるものではない。セイルは思わず、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「けれど、最近のあなたは違う。急に激昂したり、深く沈み込んだりすることが多くなっている気がするの。さっきリグの中で言った事だって、組織のリーダーとしては評価に値するけれど、正直君らしくないと思ったわ」

「…………」

 言われてみれば、セイルにも思い当たることがあった。ここ最近、ちょっとした事で暴力的になったり、逆に感傷的になったりする事が多い。先日、スリに向けて発砲したのがその最たるものだろう。

(言われてみれば……俺は一体……)

 今までにも少々やりすぎたと思うことは多々あったが、かつての自分なら到底容認しなかっただろう事柄すらも「少々」のこと程度にしか思えていない。いつの間にか自分が別の人間になってしまったようで恐ろしくなり、セイルは自分がそうなった経緯を思い返してみる。

 すると、あっさりとその原因らしきものに思い当たった。自分の性格が変貌し始めたと思われる時期に、一つの大きな出来事が重なっている。

(俺が、ジャスティスロードに乗り始めた頃だ……どうして……)

「セイル、左前方……旧管理者の機動兵器よ」

「っ! 何だありゃ……」

 アメリアの声に我に返ったセイルは、慌てて状況を確認する。アメリアに告げられた方向を見ると、ACの数十倍はあろうかという巨大な兵器が宙に浮かんでいた。

 巨大兵器は数機のACによる集中砲火をものともせずに前進すると、装甲の一部を展開して小さなコンテナを射出した。

「コンテナミサイル! まずいわ。あのACたち、全部ルーキーよ」

「救援に向かう。援護してくれ!」

 セイルはその言葉を言い終わるより速く、HOBを起動していた。ジャスティスロードは二対四枚のスタビライザーを展開し、急激に加速しつつ巨大兵器と友軍ACの間に割って入ってゆく。

 巨大兵器の射出したコンテナから大量のミサイルが吐き出されるが、それらは友軍ACに到達する前に、ジャスティスロードの発生させた衝撃波によって起動を逸らされてしまった。

 ジャスティスロードをすり抜けた残りのミサイルも、ギルティジャッジメントのバズーカによって迎撃される。

「行け! こいつは俺たちが抑える!」

「スマン、恩に着る!」

 友軍AC達の撤退を確認し、セイルは巨大兵器の方に向き直る。巨大兵器は、新たなコンテナを射出しようとしていた。

「セイル下がって、ガブリエルを使うわ」

 ギルティジャッジメントのコア装甲が展開し、巨大な砲身が現れる。一瞬のチャージを経て陽炎の火線が発射され、巨大兵器の装甲に巨大な弾痕が穿たれる。さらに攻撃が止んだ隙を突いてジャスティスロードが急接近し、機体速度を上乗せしたアストライアを叩きこんだ。巨大兵器は機能を停止し、黒煙を上げながら墜落する。

「やった。アメリア、ありが……」

 ジャスティスロードを回頭させたセイルは、アメリアの様子がおかしいことに気がついた。ギルティジャッジメントは、地面にうずくまってコアパーツを抑えている。

これが普通のACだったならただ単にそういうポーズをとっているだけなのだが、この場合は違う。PLUS専用機であるギルティジャッジメントは、搭乗者であるアメリアの意思と完全に同調した動きをするのである。

それはつまり、アメリア自身が胸を抑えていると言う事だった。

「……く! ……」

「アメリア!? どうした?」

「大丈夫……少し、待っ……」

 尋常ではないアメリアの様子に、セイルは慌ててジャスティスロードをギルティジャッジメントの元に向かわせる。ギルティジャッジメントはゆっくりと立ち上がったが、アメリアは依然苦しげな声をあげていた。

「一体どうしたんだ? まさか、体に何か……」

「大丈夫……大丈夫だから……」

 明らかに大丈夫ではない様子で、しかしアメリアは気丈にそう告げる。セイルはジャスティスロードにギルティジャッジメントのマニピュレーターを掴ませると、手を引くようにして移動し始めた。

「撤退しよう。俺が牽引するから付いてきてくれ」

「ダメよ……さっきので敵が集まってきてるわ……わたしは大丈夫だから、あなたは先に……」

「俺が一人で撤退してどうするんだよ!」

 セイルは思わず声を荒らげていた。自分の性格の変化を改めて実感したが、既にそんな些細なことはどうでも良くなっていた。今のこの感情を伝えられるなら、むしろ僥倖と言えるだろう。

「いつも……いつもそうじゃないか。アメリアは……お前はどうしてそんなに自分をないがしろにするんだよ! 俺は、そんな事のためにお前を助けたんじゃない!」

「セイル……あなた……」

「俺は……俺はアメリアが好きだ!」

 感情の赴くままに、セイルはそう言い放っていた。突然の出来事に、アメリアは言葉を失っている。セイルもセイルで一杯一杯になっており、無線から聞こえてくる声が耳に入っていなかった。

「初めはただの恩人だった。でも次に会った時はそれが憧れになって、一緒に居るようになってからはもう目が離せなくなった。PLUSとか歳の差とかはどうでもいい! 俺はお前が好きだ!」

「…………セイル、今……」

「おーおー、お熱いじゃねぇか、リーダーさんよぉ!」

 アメリアが何か言いかけた時、別の声が会話に割り込んできた。ジャスティスロードの隣に滑りこむようにして、赤いACが停止する。バーストファイアのAC、インフェルノだった。

「無線聞いてねぇと思ったら、戦場のド真ん中で告白タイムかよ。やってくれるぜ……まあ、それはおいといて、良いニュースと悪いニュースがあるんだがどうする?」

「…………」

「…………」

 突然の闖入者に、セイルとアメリアは呆気に取られてしまっていた。様々な感情が入り混じり、結局呆けることしか出来なくなってしまう。それでも何とか、セイルは先を促す言葉を搾り出した。

「……良いニュースっていうのは?」

「援軍だ。ACにして軽く二十機程。じきに到着するぜ」

 確かに良いニュースだった。ナハティガルによる妨害工作によって戦力の低下したコーテックスにとっては、願ってもない変化である。しかし、それにしてはバーストファイアの声に張りが無かった。

「……じゃあ悪いニュースは?」

「……堅苦しいのが揃って二人も来やがるんだよ!」

 そう言うとバーストファイアはインフェルノをブーストジャンプさせ、周囲に集まってきていた敵部隊を攻撃した。グレネード弾とミサイルの連発により、敵部隊が瞬く間に掃討される。

『うし……確保したぞ、クソ野郎!』

「……っ!!」

 インフェルノは頭部パーツを上に向け、無線を送る。つられて上を見たセイルは、思わず声をあげていた。黒煙に霞む空に、いくつもの光が流れ星のように輝いていたのだ。

「あれは……大気圏突入用の降下カプセル? まさか、あれが全部ACだって言うの?」

 アメリアも同様に驚いた声を上げる。大気との摩擦で赤く燃え上がったカプセルは、まさしく流星のごとく地表に降り注いでいった。

同時に、無線からいくつものやかましい声が聞こえ始める。どうやらカプセルに入っているレイヴン達の声らしく、興奮した声で粗雑な言葉を飛ばし合っていた

『対流圏に突入した。地表まで83秒』

『うっひょ〜! 来たぜきたぜキタぜ!!』

OK! Let’s fuck Earth!!

『うるせぇぞ早漏野郎。トリップは始まってからにしやがれ!』

『まずは俺たちA....が先行する。降下経験の無い者チェリーとバージンは後から続け…………全機、フォーメーション・ルシファー、スタート!』

 号令をかける声と同時に、降下していたカプセルの内いくつかが破裂し、中からACが現れる。はるか高空で降下用の装備を破棄したACたちは、地表の敵部隊に向けて攻撃を始めた。

 突然の攻撃に、ナハティガルの部隊は侵攻速度を低下させる。セイルたちの周囲にも無数のミサイルが降り注ぎ、残っていた敵部隊が一瞬にして灰燼と帰した。

「っ? このミサイル、まさか……」

『ルシファーチーム、砲撃開始。エンジェルチーム、5秒後に急速降下……3……2……1……ダイブ!』

 合図と共にAC達は攻撃を止め、ブースターを吹かして落下速度を低下させた。そのAC達を追い抜くようにして、残りのカプセルから現れたAC達が地表に向けて急速に降下していく。そして、先程の攻撃によって混乱する敵部隊のど真ん中に着地すると、周囲の敵部隊を掃討した。

『エンジェルチーム、降下地点を確保!』

『ルシファーチーム、リミッター再起動。チャージング終了まで140秒!』

 一糸乱れぬ動きで地表に降下したAC達は、撤退していくコーテックスのACを守る壁となって、ナハティガルの部隊と交戦を始める。それと同時に、セイルたちの傍らに三体のACが降下し、聞き覚えのある声で広域通信が放たれた。

『こちら、グローバルコーテックス火星支社、及び非企業組織『A....』。これよりそちらを援護する。コーテックスシティまで、全速力で後退せよ!』

 現れた三機のACは、一機は未知の、後二機は見慣れた機体だった。堕天使のエンブレムをつけた鈍色のACと、赤い瞳のエンブレムをつけた深緑色のAC。アブソリュート・リプレッサーとシルエットだった。

「クライシス! それにフォグシャドウも……」

 再会を喜ぶセイルの声に、二人もわずかに笑みを漏らす。特にクライシスはほんの二週間足らずのブランクだったが、随分会っていなかったような感覚がした。

「援軍って言うから何処からかと思ったけど、まさか火星からなんて……ん? それじゃ、フォグシャドウも?」

「その通り。俺も『A....』のメンバーだ。クライシスの地球での行動をバックアップしてる」

「悪いが話は後だ。宇宙から見たが、事態は思った以上に切迫している……アンダーライン、友軍の状況は?」

「全部隊が降下を完了。戦闘部隊は現在、敵追撃部隊と交戦中。輸送部隊、及びコーテックスの残存ACも、既にほとんどがシティに到着しています」

「よし……戦闘部隊にも撤退の指示を出せ」

 同時に降下したもう一機のACの搭乗者———アンダーラインと呼ばれた女性レイヴンからの報告を聞き、クライシスは満足そうに頷いた。同時に、搭乗機アブソリュート・リプレッサーの武装を格納し、代わりに背後から取り出した大型のランチャーを展開する。

「お、おい、いきなりかよ。しかも水平投射? 大丈夫なのか?」

「言っただろう、今は時間が惜しい。お前たちも早く撤退しろ」

「……分かった。アメリア、大丈夫か?」

「ええ…………行きましょう」

 ジャスティスロードとギルティジャッジメントは、寄り添うようにしてシティへと引き返して行く。数秒の後、二人の背後、敵軍の只中にあたる地点で、眩いばかりの爆炎の花が咲いていた。

 

 

   

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