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その先にあるもの~Believer~
決着はつきつつあった。主力であるゴーストACを無力化されたナハティガルの部隊は戦力が大きく低下し、既に戦線を保てなくなってきている。さらにサイレントライン以外の戦場からも、次々にコーテックス軍勝利の報が発せられていた。
「A・Rより連絡。ディソーダーの指揮系統の破壊に成功。これより前線の援護に向かうとの事です」
「ギルティジャッジメントより連絡です。量産型ACの指揮官機を撃破するも、損傷ひどく、戦線復帰は困難だそうです。ラプチャーにて待機すると言ってます」
「キタ———(゜∀゜)———」
「ヒーメル・レーヒェ本部リグより通信だ。ケルビム・ファーレーンがサイレントライン中枢を制圧。侵入ルートを示すので増援を送れってよ」
「四箇所中三箇所で勝利、か……でもまだ……」
作戦司令室となっているコーテックス本社のオペレータールーム。レナは、定期的にセイルとの交信を試みつつ、次々に送られてくる情報を整理していた。
ヒーメル・レーヒェのメンバー達は、それぞれ苦しい戦いになったようだが、今のところ全員が生存している。しかし、リーダーであるセイルとは、彼が衛星内部に侵入してから、ずっと連絡がとれないでいた。
しかもバハムートからの情報によると、サイレントラインの衛星が急激に軌道を変更し、地球に落下し始めているという。
「セイル…………ん?」
心配そうに呟くレナ。その時、彼女の使用している端末に、一通のメールが着信した。
………………同時刻、衛星砲外部
衛星の外に出たセイルは、衛星の外壁にそってジャスティスロードをダッシュさせていた。目標は衛星の外周部、衛星を動かしている推進装置である。
(急がないと衛星が落下してしまう……ブースターは何処だ?)
セイルの見立てでは、衛星はもうあと三、四十分程で地表に到達するはずだった。それまでに衛星の軌道を変えなければ、落下地点にあるラプチャー00が破壊されてしまう。
さらに、時間をかけすぎれば衛星どころかジャスティスロード自体も、重力に引かれて落下してしまう恐れがあった。
「…………あれか?」
セイルの視線の先に、巨大なすりばち状のユニットが現れた。中心部から大量のガスを噴射し、衛星を移動させている。
(まともに使える武装はアストライアしか無い。少々危険だけど……)
セイルはブースターの上で制動をかけ、衛星と相対速度を合わせると、ゆっくりと着地した。
アストライアからハイドロゲンブレードを発振させると、ブースターに刺し入れる。噴出口がドロドロに融解し、ガスの噴出が停止した。同時に衛星がバランスを崩し、軌道がわずかに変化する。
「よし、次は…………っ!?」
不意に感じた悪寒に、セイルはジャスティスロードをステップさせる。半壊していた左脚を焼き焦がしつつ、白い影が通りすぎていった。
『エディ! まだ生きてたのか!』
『当然です。まだ僕の計画は終わっていません!』
SOLEは飛行形態から人型形態に変形すると、衛星の表面を削りながら制動をかける。そのコアパーツには、ハイドロゲンブレードの直撃による巨大な穴が穿たれていた。
『軌道の修正はまだ可能です。これ以上ブースターは破壊させません!』
ノイズ混じりのエディの声に呼応するかのように、SOLEがハイドロゲンブレードを展開する。しかし、先程のダメージが響いているのか、左腕の一本しか展開されていなかった。全身のレーザーブレードも、半数近くが破損しているように見える。
『……いいぜ。SOLEを破壊すればそれもできなくなるだろ? 望み通り決着を……』
『……イル? 応答……て……セイル!?』
その時、無線にエディ以外の声が紛れ込んできた。衛星の外に出たことで、電波妨害が弱まったらしい。
『レナ? レナなのか? まずいことになった。衛星が……』
『ええ、状況は掴んでるわ。作戦を説明するからよく聞いて!』
レナから説明を受けつつ、セイルはSOLEを睨みつけていた視線を横に向ける。既にすぐそこまで迫った地球、そこから伸びるラプチャー00の頂上が、次第に近づいてきていた。
『……了解、何とかやってみる。そっちも頼むぞ』
セイルは通信を切ると、同時にジャスティスロードをステップさせる。SOLEの放ったブレード光波が、肩の装甲をかすめて通りすぎていった。
………………同時刻、ラプチャー00、中継ステーション『ブリス』
一時は量産型ACの進行によって地上部分が制圧されたラプチャー00も、量産型ACの指揮官機であるクラッシング・ゴーストが撃破されたことにより、既にA.D.A.M.によって奪還されていた。
ラプチャー00の中継ステーションであるブリスの上には、各地での戦闘を終えたヒーメル・レーヒェのACが集まって空を見上げている。彼らの視線の先には、小さな光の点。もう間もなく大気圏に突入しようとしている衛星が見えていた。
『おいおい、もう見えてきたぞ。時間大丈夫か?』
『心配なら早く照準を合わせろ!』
クライシスのフィリアルとアメリアのギルティジャッジメントは衛星に向かって立ち、各々の武装を展開していた。その後ろではケイローンのサジタリウス改が、二機から伸びたケーブルに繋がれている。
さらに、損傷の激しいギルティジャッジメントの傍らにはスキウレのロストレジェンドが寄り添って機体の補助を行なっており、ブリスの周囲には、護衛のためにバーストファイアのインフェルノとアンダーラインのコキュートスが配置されていた。
『ラプチャーからの攻撃で衛星を破壊する。再突入を考慮した作りでは無い筈だから、ある程度小さな破片になれば大気圏で燃え尽きるはずだ。ラプチャーを守るにはそれしか無い』
『わ~ってるっての……ところで、お前さんのその機体、勝手に暴れだしたりしねぇだろうな?』
『本当よ。一体何をどうしたらACがディソーダーになるわけ?』
『そうだぞクラ、いい加減説明してくんねぇか?』
『………………』
ケイローンの問いかけに、スキウレとバーストファイアが同調する。
特にバーストファイアは、敵である筈のディソーダーが味方についていることに不満があるらしく、また、発言こそしなかったもののアンダーラインもいつもより苛立っているようだった。
『後にしろと言っているだろう。ケイローン、まだか?』
『今終わったっての。次、アメリアの番だが……そっちもそっちで大丈夫なのか?』
『大丈夫よ。ガブリエルはもう暴走しないわ』
半壊したギルティジャッジメントの中、アメリアは自信に満ちた声でそう告げた。
クラッシング・ゴーストがコクピットに開けた風穴。そこから見えるガブリエルの機関部には、小さく脈打つ生体パーツが絡み付いており、重力波の漏出を防いでいる。
『ならいいけどよ……うし、こっちも完了だ。あとは……』
後ろに控え、二機のFCSと同調したサジタリウス改の中、ケイローンは掌に拳をぶつけた。
特殊AC二機分の大出力砲撃を、遙か遠方の衛星に命中させるという作戦。そのトリガーを任された彼は、年甲斐もなく心を踊らせていた。
『セイル次第……だな』
………………同時刻、衛星砲外部
衛星の外周部では依然、激しい戦いが続いていた。ジャスティスロードとSOLEは共に大きなダメージを受けており、機体性能もかなり低下していたが、それでも全く勢いを弱めていない。
『セイルさん、もう撤退して下さい! あなたを殺したくありません!』
『ラプチャーを破壊させるわけにはいかないんだ。エディこそいい加減投降しろ!』
本数のかけた副腕でブレード光波を放ってくるSOLEに対し、ジャスティスロードは照準のずれたリニアライフルで反撃する。
姿勢を崩しながら後方へ飛び退くSOLEを追って、ジャスティスロードは咳き込むブースターを強引に噴かしてダッシュした。
『もう止めるんだ! これ以上は何のためにもならない。ただ人が死ぬだけだ!』
『そんな事はありません! ラプチャーが破壊されれば、それは教訓として残ります。少なくとも向こう数十年は、誰もテロを起こそうなどとは考えません!』
『……そのために、ラプチャーに残ってる人を殺すっていうのか!?』
倒れこむようにしてSOLEに肉薄したジャスティスロードは、渾身の力でハイドロゲンブレードを叩きつける。SOLEはそれをすんでのところで回避すると、変形して宙に舞い上がった。
『ここで歯止めをかけなければいけないんです! テロリズムが加速すれば、それはやがて再度の大破壊につながります。そうなればもうテロどころではありません。サイレントラインや旧管理者の技術を暴走させ、今度こそ人類は滅亡します!』
『だからって、人類を停滞させて良いわけじゃないだろう!』
頭上から撃ち下ろされるブレード光波を避け、ジャスティスロードはSOLEから距離を取る。SOLEはジャスティスロードを追って降下すると、加速して突撃体勢に入った。
ジャスティスロードも限界を迎えたリニアライフルをパージし、HOBを起動する。
『エディがやろうとしているのは、人類を檻の中で飼い殺すようなものだ! 進歩を止めた人類は、緩やかな衰退の後に滅ぶことになる。人類から自由を奪ってはいけないんだ!』
『セイルさんの言う自由は、弱肉強食と同じです。弱者を食い物にしてでも、先へ進むべきだって言うんですか?』
『今はそうでも、いずれはそうじゃなくなる! 先に進むことで見えてくるものは、必ずある! 人類はいずれ、同じ道を同じ速さで歩けるようになる! 俺はそう信じている!』
飛行形態から瞬時に人型形態へと変形したSOLEと、限界まで出力を高めたHOBで加速したジャスティスロードが、真正面からぶつかり合う。
まるで縦穴内での攻防の焼き直しのように、二機はお互いのハイドロゲンブレードを突き出し合った。
ハイドロゲンブレードの発生させる力場が反発しあい、お互いを弾き返そうとするが、セイルはジャスティスロードをさらに加速させ、ハイドロゲンブレードを発振させる左腕をSOLEの左腕へと近づけてゆく。
そして、もう少しで互いの拳が接触しそうなほどに距離が縮まった時、セイルはコントロールスティックのトリガーを引いた。
『行っけええええぇぇ!!』
『なっ!?』
ハイドロゲンブレードを発生させている間は固定されているアストライアの刀身。セイルはそれを、ハイドロゲンブレードを展開したまま射出したのだ。
瞬間的に高いエネルギーを得た刀身は、SOLEのハイドロゲンブレードを突き破り、発振器の内部へと突き進む。同時に、高密度のトリチウムに晒された刀身が根本から折れ、ジャスティスロードの腕を離れて勢いのままにSOLEの腕を貫いた。
セイルの得意とするマズルブレイク。それは、敵対する相手の信念を破壊してでも自分の信念を押し通すという、セイルの決意が形になったものである。
相手の意志を否定するという、傲慢極まりない行い。しかし、その罪すらも背負って突き進むことで、セイルは見事、自分の信じた道を貫いたのだ。
左半身を粉々に吹き飛ばされたSOLEは、ハイドロゲンブレードの斥力によって弾き飛ばされ、衛星の外壁に設置された装置に衝突する。同時に、すぐ側にあった衛星のブースターが、その機能を停止した。
『な……いつの間に……』
『気付かれない内に誘導したのさ。エディ、SOLEのCPUはもう動いてないんだろ? 軌道の修正は不可能だ』
『ばれていましたか……でも、高々二つのブースターを破壊したくらいでは、慣性のついた衛星の軌道は……』
『ああ、軌道は変えられないだろうな。でも……』
セイルの視線の先、既にすぐそこまで迫った地球が、大きく動いて見えている。ブースターが破壊されたことによって推力のバランスが崩れ、衛星が空転しているのだ。
『進行方向そのものは変えられなくても、衛星の向きは変えられる。ケイローン! 今だ!!』
………………同時刻、ラプチャー00、中継ステーション『ブリス』
『ぃよっしゃあ! ナイスタイミングだセイル!』
サジタリウス改の中、狙撃用のターゲットスコープを覗いていたケイローンは、思わず歓声をあげていた。バランスを崩して空転している衛星は、最も装甲の薄い部分———頂上部分をラプチャーに向けている。
『よし、おめぇら準備はいいか? 行くぞ!』
『了解。反物質砲弾、生成完了』
『リミッター解除。ギルティジャッジメントにエネルギー供給』
『供給確認。超重粒子、振動臨界』
『作戦領域内、敵反応無し!』
『同じく、敵影無し』
『発射準備完了を確認。発射五秒前! 四……三……二……一……発射!!』
ケイローンがトリガーを引くのと同時に、二機の特殊ACは衛星に向けて最大出力の砲撃を放った。
フィリアル・クライシスの
………………同時刻、衛星砲外部
巻き起こる爆発が衛星を激しく揺らし、外壁のあちこちに亀裂が入る。
爆風に背中を押されるようにして離脱したジャスティスロードは、離れた所から、衛星を見下ろしていた。SOLEは衛星の構造体にめり込んだまま、機能停止している。
『セ、イル……さん……』
『…………』
『人……の、未来……を……』
『分かってる。出来るだけの事はするさ……』
『……………………』
安心したような息遣いを最後に、エディの声は聞こえなくなった。衛星はその形を完全に崩壊させ、小さな破片となって落下してゆく。通信はどの周波数も、歓喜の声に充ち満ちていた。
「……ふぅ…………」
セイルはコントロールスティックから手を離し、シートにもたれかかって深い溜息をつく。ジャスティスロードは衛星軌道上をゆっくりと漂いながら、青く輝く地球を見つめていた。
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