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3.御坂美琴のレールガン

 

 

 

 では、本題である御坂美琴のレールガンについて考えてみよう。テレビアニメ『とある科学の超電磁砲』 (*4) 第1話において、美琴が自分の超能力についてのテストを受けている場面がある。それによると、レールガンを放った時のコインの初速が1030m/s、連射速度が毎分8発、着弾分布が18.9mmとなっている。

 

まず初速から見ていこう。1030m/sと言えば音速の約3倍、マッハ3にあたる。参考までに他の銃器の初速を見てみると、拳銃が200400m/s、ライフルが7001000m/s、戦車砲が1500m/s程度となっている。流石に戦車砲には及ばないものの、彼女のレールガンはライフル並みの初速度を誇っているのである。

 

 ここで、威力に関して考えてみよう。彼女は、弾丸としてゲームセンターのコインを使用している。

 

手元にあるゲームセンターのコインの重さを量ってみると、約5g弱。材質はおそらく安価な金属であるアルミだろうと思われる。アルミは電気伝導率が高いため、あまりにも軽い事に目をつぶればレールガンの弾頭としては申し分ない。

 

ただ、ゲームセンターのコインと言えば、大体百円で7、8枚買える程度、単価は13円程である。日本の十円硬貨はほぼ同じ重さでより高い電気伝導率を持っているので、こちらを使った方が低コストかつ効果的である。

 

 おそらく彼女はゲームセンターのコインゲームでコインを稼いでいるのだろうが、彼女の通う常盤台中学は有名なお嬢様学校である。彼女は普段からサボりや無断外泊を繰り返しているようだが、あまり賢い方法とは言えないかも知れない。同室の黒子 (*5) が心配である。

 

 

 話を弾丸の威力に戻そう。質量5gのコインを初速1030m/sで射出した時の運動エネルギーは、2652.25J (*6) となる。

 

 わかりやすく言うと、有名な拳銃であるデザートイーグルの弾丸が持つ運動エネルギーが972J (*7) なので、その3倍近い威力ということになる。

 

 コインがこのままの速度で人間に命中した場合、容易に風穴が開くだろう。対人兵器としては充分すぎるほどの威力である。こんなものをポンポン放たれている主人公の当麻 (*8) がまた心配である。

 

 

次に発射速度だが、毎分8発と言う事は一発撃つのに7.5秒ほどかかっている事になる。

 

彼女が発生させられる電力の最大値がどの程度なのかは不明だが、彼女が7.5秒の時間をすべて電力の発生に使用し、発生した電力が一切の無駄なくコインの加速に使用されたとすると、彼女は1秒当たり約354Wの電力を発生させていたことになる。これは一般家庭にあるコンセント (*9) の5分の1程度である。

 

彼女の能力はその気になれば落雷を発生させられる程なので、これが全力だという事はないだろう。おそらく何らかの理由で力をセーブしてテストを受けていたものと思われる。

 

 

最後に着弾分布だが、私的にはこの項目こそが最も興味深い。私は空力にはそれほど詳しくないが、銭形平次 (*10) でもあるまいしコインなどと言う物がまっすぐに飛ぶ筈がない。

 

発射速度が毎分8発と言うことだが、仮に実射したのが3〜4発だったとしても誤差がたったの2cm足らずというのはもはや異常である。ちなみに彼女は超能力を持っていると言っても一般人であり、戦闘訓練の類は一切受けていない。

 

疑問点はもう一つある。彼女はテストを受ける際、学校のプールの水を緩衝材にしてコインを発射していたのだが、1発撃つごとにプールの水が衝撃で跳ね上がり、水柱となっている。

 

目測だが、水柱は10m以上あったように思える。水柱が仮に高さ10m、底面積3m^2柱だとすると、跳ね上がった水の重さは30tであり、30tの物体を平均して5mの高さまで持ち上げるのに必要な運動エネルギーは1500kJとなる。これは、先程算出したレールガンの威力よりはるかに高い。

 

明確な弾頭の質量と速度が分かっているにも関わらず、これ程の差が出るのは何故だろう。アニメの過剰演出だと言ってしまえばそれまでだが、数値の誤差や私の計算違いを考えても、流石に3000J足らずのエネルギーであそこまでの水柱が上がるとは思えないのである。

 

 

異常なほどの精密さと、初速に比例しない威力。私は、これらの疑問を解決するためにある仮説を立てた。それは、彼女のレールガンが持つ砲身についてである。

 

前述の通り、レールガンを発射するには長い砲身が必要となる。しかし彼女がレールガンを放つときの姿勢は、コイントスをするように親指と人差し指でコインを保持し、腕を標的に向けてまっすぐ伸ばしたものである。レールガンの砲身にあたる部分は全く見当たらない。

 

おそらく彼女は自分から離れた所にも自在に電流を発生させることができ、腕の前方に不可視の砲身を形成しているのだろう。そして私の仮説とは、彼女がその砲身を、標的のすぐ近くまで伸ばしているというものである。早い話が、彼女は砲身の長すぎるレールガンを常に零距離射撃しているのではないかと言うのだ。

 

そうすれば、着弾の寸前までコインは直線運動するため、何発撃ってもほぼ同じ位置に当たる。また、その間コインは常に加速し続けるため、目標に命中する時には、彼女の指を離れた時よりも遥かに速度は上がっている。

 

テストの際に計測された1030m/sという初速は、おそらくコインが彼女の指を離れた瞬間のものであり、実際にはプール内に置かれた標的に着弾する寸前まで加速し続けていたのだろう。そのせいで、着弾時の威力は1030m/sという初速からは想像もできないものとなり、巨大な水柱を発生させたのではないだろうか。

 

 

 

 

 

(*4) :『とある魔術の禁書目録』のスピンオフ作品。御坂美琴を主人公に据えたもので、漫画化、アニメ化されている。

 

(*5) :白井黒子。御坂美琴の一年後輩であり、学生寮のルームメイト。テレポート能力を持つ。

美琴には友情を超えた感情を抱いており、それをストレートすぎる方法で表現しては美琴にあしらわれている。

ルームメイトの美琴が何かやらかした際、連帯責任を負わされることになる。

といっても、それが持ち味でもあるので実の所そこまで心配ではない。

 

(*6) :運動エネルギーの算出式、E=1/2mv^2を用いている。

 

(*7) :デザートイーグル44マグナムを対象とした。弾頭の質量が15g、初速が360m/sとしている。

余談だが、ここ最近のこの銃のメディア出演は過剰すぎると思う。

 

(*8) :上条当麻。『とある魔術の禁書目録』の主人公。あらゆる異能を無力化する能力を持つ。

その能力から、プライドの高い美琴には一方的にライバル視されている。

彼が修道服を着た謎の少女、インデックスと出会った事から物語が始まって行く。

 

(*9) :日本の一般家庭に設置されているコンセントを対象とした。定格電圧125V、定格電流15A

 

(*10) :有名な時代劇の登場人物。銭を投げて悪人を攻撃する。

いらないかと思ったけど最近のラノベ読者が知ってるかどうか微妙だったので……

 

 

 

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