そうしてやっと巡ってきた5日。
出勤ラッシュの電車に久しぶりに乗り込む。
まだ薬が効き始めていない時間帯に体が不安定なのはつらかった。
幸い、乗車時間は長くない。
長くないけれど、大変だった。
駅から徒歩10分くらいの病院へ、徒歩で行く。 8時20分。30分から40分くらいに来てくださいと言われた10分前集合。
別に集まってないけど。
入院センターへ行くと、まだ開いていない。
30分から開くのだ。
ドアが開いて、中に入れてもらう。
保険証と診察券、今朝押印したばかりの入院の同意書を渡すと、3階のロビーで待てと。
待っていると、ボランティアの人が迎えに来るからとのことだったが、
待てども待てども来なかった。
ひょっとして、場所を間違えたかな、と不安になってきた。
渡された紙には、8時30分には、3階のロビーで、と書かれてあったのだが、
ボランティアの人が来たのは9時を過ぎてからだった。
おそらく9時出勤なのではないか? 病室に通され、荷物を準備した。
一人当たりの空間がやや狭い感じがする。
6人部屋の3列の真ん中ということもあるだろう。
片方の人はずっとカーテンを閉めている。
どうも気を遣わねばならなさそうだ。
反対側の人は、気さくな人のようで、話しかけてきてくれた。 ヘコえもんと父がやって来た。
いろいろと荷物を持って来てくれた。
担当する看護師さんが来た、と思ったら、
その人は向かい側の人の担当で、間違えて来たのだった。
大丈夫か、この病院。 初めに、担当の看護師さんに入院に際してのスケジュール等の説明を受け、
その後、麻酔科の先生の話、担当医師の話を聞く段取りだった。
麻酔科の先生の話は11時半に予約が入ってあったのに、
その時刻になってもなかなか呼ばれない。
予約といっても、確実ではないだろうとは思っても、
昼食時間が近づくにつれ、気になってきた。
ご飯を先に食べてもいいか、と聞いてきて、とヘコえもんに頼んだのだが、
聞いてきたのは、麻酔科の話はまだか、ということだったので、
それでは麻酔科のところに行って待っててくれという答えしか返ってこなかった。 これがいけなかった。
麻酔科に行くと、既に一組、待ち合いで待っていた。
今話している人が終わって、この一組が終われば、すぐだ、と思っていたのだが、
今話している人がまた長い。
耳が遠いらしく、先生の声もでかい。
繰り返し繰り返し話される同じ内容。
こちらの方が覚えてしまうくらいだった。
やっとのことで終わったら、次の一組は短かった。
長かったけど、ま、いっか、という気持ちで腰を上げようとすると、
部屋から先生が出てきた。
「ちょっと待ってて」
はいしか返事ができないが、
この「ちょっと」というのは人によって長さが違う。
レストランでご飯のおかわりをする時、
「ちょっと」と言っても必ず一人前盛られてくる。
おかげさまで、麻酔科の先生の話を聞けたのは1時になっていた。
予約っているのか? 病棟に戻って、今度は医師の話だ。
これがまた、時間がかかるみたい。
連絡を取った時、あと5分で来るそうです、と言われた。
今度は具体的数字があった。
しかし、だまされてはいけない。
「あと5分で来るそうです」の行間を読まねばならない。
一行だけど。
5分経ったら来ると思うのが待っている側の希望。
5分で用事を済ませてから行く、と思うのが待たせる側の思いだったりする。
当然、待っている側の希望は通らない。
世の中、そういうものだ。
麻酔科の先生の話にしても、担当医師の話にしても、
インフォームドコンセントというのはどうも必要だけど聞きたくない話である。
最悪の場合はこうなる、という話だからだ。
こちらもそれはある程度理解した上で手術を希望した訳だから、
覚悟はできているのだ。
しかし、改めていろいろな最悪例を出されると、どうも気が引けてしまう。
絶対は絶対にないのだから、仕方がないのだけれど。 父とヘコえもんが帰り、一人で冷えた昼食をとる。
どうも慣れない時間だ。
持ち帰りの仕事などをしながら、時間をつぶす。
看護師さんがそれを見て、「大変ですねえ」などというのだが、
看護師の仕事だって大変である。
相手は文句を言うばかりなのに、どんな人に対しても笑顔で応えなければならない。
「ねばならない」と考えるのがそもそも間違いなのかもしれないが、
決して真似のできることではない。
怖いことを言って同意させる医師よりも高給を支払ってしかるべき仕事ではないかとさえ思う。 男性と女性の患者で、性別よりも最も大きな違いを感じることがある。
態度だ。
たいていの女性は、普段から旦那や子どもの世話をしている。
だから、反対にお世話してもらう立場になると、非常に謙虚になる。
対して、旦那も奥さんや子どもの世話をしなければならないが、そういった責任感はない。
金だけ納めていれば十分だと思っているかもしれないくらいに感じる。
普段から身の回りの世話をしてもらっている身分だから、
普段同様かそれ以上のケアでないと、文句を言うのだ。
これが、社会的地位が上がればあがるほど、その現象が顕著に見られる。
無償の愛を受け取っている実感がないのだ。
「あなたみたいな患者はもう面倒みません!」
という看護師がこの世にいればそういうことはないが、
そういう看護師はこの世にはいない。
態度のでかい男性患者は、知ってか知らずか、文句を言う。
看護師にだけではない。
誰それかまわず、気に食わない場合は言う。
不幸にも、カーテンを閉ざした男性は、そういうタイプの人だった。
独り言もでかい。
こちらの時計のカチカチ音にまで文句を言う。
だったら、そのいびきをなんとかしてくれ、
音の大きなおならもこちらに向けてしないでくれ、
と言いたいが、謙虚な人間にはそんなことを言おうという気も起こらない。
ネタに使おうとしか思わない。
これから先、大丈夫だろうか? 10時消灯はちと早い。
プライベート空間が欲しいなあ。 |