このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



基礎2-1
基礎有機化学4

図4

<混成軌道>
 メタン分子が4本のC-H共有結合でできていることはすでに述べた。次にこの結合について詳しく考えてみよう。炭素の4個の原子価電子は 基底状態 ではエネルギーの低い順に2s軌道に2個、2p軌道に2個収容されている。共有結合を形成するには、 結合軌道 に2個電子がはいる必要があり、その電子は両原子から1個ずつ供給されるのだから、炭素が4本の結合をつくるには、1電子のみがはいった軌道が4個必要である。ところが、基底状態(2s22px12py12pz0)では2s軌道は2個の電子がはいっていて、水素の電子を受け入れる余地がない。もし2p軌道のうち、あいている軌道に2s電子が1個移動( 昇位 )すれば、2s12px12py12pz1となって、4本の共有結合を形成できるかたちになる。ただし、球形の2s軌道とそれぞれ直角に交差した3個の2p軌道がそれぞれ共有結合を形成すると、できた4本の結合電子同士が近接して反発しあい、エネルギー的に不利である。そこで、s電子1個とp電子3個が再配列して、新たに4個の等価な軌道を形成する。これを軌道の混成とよび、この場合、元の電子の由来で示して、 sp3混成軌道 という。
 この新たな4個の軌道は同じ エネルギー準位 にあり、電子間の 静電反発 によってお互いに最も遠ざかるような配置で安定となる。中心原子核から4個の電子軌道が互いに離れた配置、これが 結合角 109.5°の正四面体構造である。s電子のp軌道への昇位はエネルギー的に不利な過程であるが、最終的に電子間反発を最小になるように混成することによって、全体のエネルギーは低下している。メタンの正四面体構造(中心に炭素が位置し、各頂点に水素が配置する)はこのようにしてできている。ここで、s軌道成分を含む混成軌道(s軌道そのものも含む)電子のつくる共有結合を σ結合 (s電子に由来)とよぶ。
 同じように、s+px+pyの混成により、 sp2混成軌道 、s+pxにより sp混成軌道 ができる。sp2混成では、新たに3個の等価な軌道ができ、それらが静電反発によりより離れて配向するので、軌道の方向は結合角120°の平面三方向、sp混成では新たな2個の軌道の反発により、直線状(結合角180°)となる。ところで、sp2混成では、混成に参加しなかったpz軌道電子が残っている。これはどうなっているのだろう。sp2混成軌道は、方向性をもたないs軌道とpx+pyの混成によってできているのだから、その軌道平面は、xy平面上に伸びている。すると残っているpz軌道はその結合平面に垂直に立っていることになる。sp2混成軌道によって3本の共有結合を形成すると、炭素の最外殻は3*2+1=7電子であり、この余ったpz電子軌道を共有結合に使えば8電子の閉殻になることができる。
 sp2混成炭素同士が結合した分子が エチレン (エテン)であり、エチレンでは、隣接するsp2炭素のpz軌道が結合平面からどちらも垂直に立っていて、平行にあるため、軌道同士の弱い重なりが生じ、この炭素間に第二の結合を形成している。この平行なp軌道電子同士が形成する弱い結合を π結合 (p電子に由来)という。つまり、エチレンの炭素間には、σ結合とπ結合の2本が同時に形成されている。これが二重結合の正体である。同様に考えて、sp混成炭素では、s+pxの混成軌道はx軸方向を向いており、残った2個のpy、pz軌道電子はその軸方向にそれぞれ直交している。sp炭素2個の結合でできている アセチレン (エチン)分子では、隣接するsp炭素のpy軌道同士、pz軌道同士が平行に配置するため、2本のお互いに直交するπ結合が形成される。すなわちアセチレンの三重結合はσ結合1本、π結合2本からなっている。二重結合や三重結合は単に等しい結合が2本、3本あるのではなく、通常の意味での結合する原子間に向いて直結するσ結合は1本のみであり、残りの結合はいずれも、互いに平行なp電子同士の弱い重なりによるπ結合なのである。
 π結合も共有結合の一形態ではあるが、直結するσ結合に比べると、その結合電子の広がりは大きく、 結合エネルギー も弱い。また、電子の広がりが大きいということは、他の電子欠乏分子(たとえば ルイス酸 )によって 求電子 攻撃を受けやすい。 多重結合 が化学反応性に富んでいるのはこの理由による。

 → コラム2 「 分子の形を決めるもの


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