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                   海外旅行記

メキシコ(2)       2010年7月2日  月岡 淑郎

3.ユカタン半島の遺跡 

カバー遺跡

ユカタン半島の北東部のカリブ海に面した所に有名なリゾート地カンクンがある。この街の南西約100kmの所にカバー遺跡がある。

これは9〜10世紀に建てられたものである。“カバー”は神の手の意味がある。この遺跡には一風変っている建物が有る。それはコズ・ポープと呼ばれる建物全体にチャックと呼ばれる仮面がはめ込まれているもので、仮面の神殿とも呼ばれている。

  

コズ・ボーブ壁面の拡大

チャックとは雨乞いの神様で、多分、雨が降らない時には、この神殿に籠ってチャック神に雨を降らせるよう盛んに祈ったことであろう。またこの当時の信仰の中心でもあったのであろう。

チャック神の異様な顔が印象的であった。

 

ウシュマル遺跡

この遺跡はユカタン半島西部のメキシコ湾にそれほど遠くない所にある。

ウシュマル遺跡は7世紀初め頃繁栄したもので、“ウシュ”は収穫、“マル”は繰り返しの意味である。

ここでは“魔法使いのピラミッド”と呼ばれる神殿が優雅な美しさで有名である。
確かに、写真に示したように大変スマートで綺麗なピラミッドである。小生もこのような形の良いピラミッドに遭遇したのは初めてである。

  

魔法使いのピラミッドと最上部の入り口

高さ35m、上から見るとコバン状の形をした優雅な神殿だと云う。ピラミッド正面の階段を登り切った所にある入り口にもカバー遺跡で見たのと同じチャック神が見られる。当時、雨が少なかったことで相当苦労していたことが覗える。



これは此の遺跡の中で最も高いピラミッド上から撮った写真である。
正面に見えるのが魔法使いのピラミッド、左が尼僧院、右が総督の宮殿と云われているものである。
この遺跡が結構広いことが解ると思う。

小生の手首に巻かれている紙輪には此の遺跡に入場した人の認識番号がプリントしてある。
遺跡入場者には随分厳重な注意を払っている。


チチェン・イツァー

チチェン・イツァーユカタン半島北部にあって、メキシコにあるマヤ遺跡の代表格である。

“チチェン″“泉のほとり″の意味で、“チチェン・イツァー″とは“泉のほとりのツァー人”と云う意味である。

さて、チチェン・イツァーには6世紀頃の古典期のものと10世紀以降の後古典期のものとがある。後者は前者が衰退した後に新しくこの地に栄えた都市国家である。

当時、チチェン・イツァーはユカタン半島の文化、宗教、経済の中心地であった。しかし、13世紀の初めにマヤパン族の侵入で滅亡し、ここに、チチェンイツアーの長い歴史は終わってしまう。

この遺跡で特に私の印象に残ったのは古典期6世紀頃に造られた天文台と、後古典期9世の初め頃に造られたエルカスティージョ(神殿)である。

天文台

天文台では上のドームに三つの窓が有って、夫々その窓から差し込む太陽、月の光の影を観測している。
太陽、月、星の観測から暦を作り上げており、作物の種まき、収穫の時期を察知している。

  

エルカスティージョと構造模型

エルカスティージョは高さ25m、9層の基壇を持っており、4面に全て階段が設けられている。また、ピラミッドの稜線の影が春分と秋分の日に中央階段の側面に映るように設計されている。

これは見事であり、当時の建築水準の高さを物語っている。ピラミッドは古典期の神殿の上に後古典期のものが上乗せして造られている。
ピラミッドの模型
に見られるように、ピラミッドの中にまたピラミドが存在するという構造である。実際にそれを見学でき、その建築の精巧さには感心した。


また至る所に写真21のようなチャック神が見られ、当時の雨乞いの重要性が覗えた。
その他にも球戯場、戦士の神殿など数々の遺跡を見ることができる。

球戯場の見学で奇妙な話を聞いた。
それは、当時、球技に勝利したチームの代表者は生贄の名誉?を受けることが出来るという。

負けたほうが生贄を出すのではなく、勝った方が生贄を出すのである。

それでは試合を一生懸命にしないのではないかと現代人は思いたくなる。

ところが、当時のこの地では生贄になることが栄誉なことで、喜んでなったという。

古代の話ではあるが、マヤ人共通の考え方であるらしい。

習慣が違うと凄いことになり、また悲しいことでもある。現代人には思いもつかない。


なお、ここを旅行した当時、旅行者仲間から聞いた話では、ユカタン半島から太平洋岸にかけて多くのマヤ遺跡があり、中でもグアテマラティカル遺跡ホンジュラスコパン遺跡は規模の上でも有名であるとのこと。

ここではさらっと聞き流したが、5年後に中米19日間の旅でそこに行くとは想像していなかった。

   「海外旅行記 中米」 を参照してください。

 

トゥルム遺跡

 この遺跡はカンクンから南に約130kmの所にあり、カリブ海に面し、三方を海に囲まれた断崖絶壁の上にある城砦都市の跡である。
13〜15世紀のマヤ文明末期に造られている。スペイン人が侵攻してきた時に、真っ先に目にしたマヤ都市でもある。ここにある建物は他の個所で見学したものに比べて全て小振りである。



カリブ海を見下ろす断崖絶壁の上に建つエルカスティージョである。

この神殿はメキシコ中部で栄えたトルテカ人の影響を受けているという。
この神殿も古い神殿の上に新しく物を建てたものだと云う。

トウルム遺跡群を展望したものである。小さい建造物が沢山見受けられる。

これまで見学した中部アメリカの古代原住民の遺跡で、このような海岸端の城砦都市に出合ったのは初めてである。

  

ユカタン半島マヤ遺跡には、何処でもそうだが蜥蜴が良く見られる。
きれいなものも、大きいものもいる。右のものは2m位あろうか。
相当おっかない。しかし人間には危害を加えず、“我、関せず”と云った調子で悠然と姿を消していく。

 

余談

1) 本文で述べたように、メキシコへはユカタン半島にあるマヤ遺跡ってなんだろうと云う気持ちで旅行したものであるが、5年後の中米行きの下地になるとは思いもよらなかった。

本編はメキシコの遺跡の中のほんの一部について、中米編の補足と云う意味で、簡単に纏めたものである。

2)     スペイン人が初めてメキシコの地を踏んだのは、1511年に難破船がユカタン半島に漂着したことに始まる。その後、1518年にフェルナンド・コレステがキューバ総督ベラスケスの命令でユカタン半島沿岸を調査したが、1519年にはベラスケスの命令に従わず、かってにメキシコ征服を始めた。

これが悪名高きコレステのメキシコ征服の始まりである。兵の大部分は冒険家の集まりである。

彼はアステカモクテマス2世を騙し打ちで破り、財宝を奪った。

この行為はスペイン人の金の欲望に火を付けたようなもので、それからは金欲しさの侵略行為が進められた。

先のグアダベール寺院の話がその例の1つである。当時、略奪した金は全て延べ棒にして90%が本国に送られ、10%は征服者の手許に残ったと云う。

 コレステの専横振りが益々酷くなった。1528年、本国の王室からも批判されたため、コレステはもはや第一線に立てなくなった。この後、コレステはメキシコを探検したが同行の人と対立し、失意のうちに1547年、本国で死んだ。

3)     19世紀初頭、メキシコのおけるスペインの北方領土は現在のアメリカルイジアナ、テキサスカルフォルニアにまで広がっていた。

しかし、1848年のメキシコ独立後20数年に起きたアメリカ軍の侵略戦争に敗れた。これによって、テキサスアメリカに割譲され、カルフォルニアとニューメキシコは1,500万ドルでアメリカに売却された。アメリカ国内の一部ではメキシコ全土のアメリカへの併合も叫ばれたという。

若い時、「リオ・グランデの砦」と云う映画をアメリカが正義であると思って見ていたが、実はアメリカが勝手にスペイン領内に砦を造って侵略していたのである。戦力のある国が正義と云う訳である。この考え方は何時の世になっても変わらないようだ。

4) メキシコからパナマまでは正に被侵略国の集まりで、共通しているのは貧乏な国々と云うことである。

エルサルバドルのように自国の通貨も持たず、アメリカドルを自国通貨としている国もあるほどである。植民地にされた国々は21世紀になっても強い国になれないでいる。

)  マヤ遺跡は未だ発掘中、或は手付かずのものもある。小山全体が木に覆われ、その中に神殿などが埋没された状態になっているのもある。今後の発掘によるマヤ文明解明の更なる発展が望まれている。

6) ユカタン半島は密林で覆われているが、その高さは概ね低い。この理由は木々の下が岩石であるため木の根が地中深く張って行かないためと云われている。それに雨が少ない。降った雨は直ぐに岩石の下に浸透してしまうと云う。殆ど全てのマヤ人の遺跡で見たチャックの意味が解ると云うものである。

7) 中東、中央アジアに旅をした時、ヨーロッパの国々の文明は15,6世紀頃までイスラムの国々の足元にも及ばなかったことを知った。

同様に、メキシコの先住民族も相当レベルの高い文明を持っていたことが覗える。しかし、彼らの戦争の仕方や兵器が拙劣であった。

また、彼らには古くから“馬に乗った白人”は神の使者であると云う言い伝えが有ったので、白人達を信用したことも自国を破滅に追いやったと云えよう。

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