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ソンラ水力発電プロジェクトの水門鉄管の計画概要

1.        はじめに

 現在工事中のベトナム国内では最大規模の水力発電プロジェクトであるソンラ(Son La)水力発電プロジェクトはベトナム共和国の首都であるハノイから北西に約250kmにあるソンラ省ムオンラ県に位置している。位置は左図参照。
 ダム地点は中国雲南省をその源とする紅河の最大支流であるダ川の本流にロシアの援助で建設されたホアビン水力発電所の約190km直上流にあたる。ダムと発電所の緯度と経度は約北緯21度30分、東経104度00分である。

 紅河にはタオ川とダ川、ラ川が合流している。これらの河川は熱帯モンスーンタイプの流況を有し、特に夏季におけるこれらの河川の増水はベトナム共和国の首都であり270万人の人口を擁するハノイ市を含む紅河デルタ、バクボ平野における大規模な洪水の原因となっている。ゆえに、このソンラ水力発電ダムは紅河の洪水制御機能がひとつの主要な目的とされている。
ソンラダムが完成したあかつきには、雨季と乾季におけるダ川の河川流量変化が少なくなるとともにベース流量が安定するので、渇水期間中の乾季に下流地域への各種用水の安定供給に大きく寄与できる。乾季における紅河デルタの下流地域への用水供給能力の改善もソンラ発電ダムのひとつの主要な目的とされている。ちなみにソンラダムとホアビンダムの洪水調整量は合計で70億立方メートルである。

工事期間は2004年1月から2012年3月までの8年3ヶ月を想定している。1号発電機の運転開始は2010年12月を予定している。
表1-1に示すように工事は三期に分けて実施するように計画されている。

1-1工事計画

工期工事内容主要事項

1(2004-2005)

仮締め切りと仮排水路の建設上下流側コッファダムの建設(左右岸)
仮排水路構造物(中央部)

2(2006-2010)

主ダム、余水吐、発電所、発電用水路の建設、一号発電機の建設上下流側コッファダムのかさ上げ(左右岸)
CVCコンクリート使用の余水吐(2006年8月開始)
RCCコンクリート使用のダム本体(200711月開始)
1号発電機の据付と試験
湛水開始20096
発電開始201012

3(2010-2012)

主ダム、余水吐、発電所、発電用水路の建設、26号発電機の建設26号発電機の建設(20106月〜20123)

2. 設備仕様と準拠基準
2.1 設備仕様
ダムと発電所の平面図と断面図はそれぞれ 図2-1図2-2 に、ダムと発電所の諸元は表2-1に示すとおりである。

2.2 準拠基準
2.2.1 設計基準
水門鉄管の製作仕様書は余水吐きのゲート類のみが英語であり、ASME, ANSI, DINなどの設計基準であることがわかったが、その他アイテムはすべてベトナム語の仕様書であったので、担当技師から聞きだしたところロシアの基準に準拠しているとの事であった。

2.2.2 鋼材の基準
高張力鋼材はベトナム国内で生産していないので中国基準によった。ステンレス鋼材はISOに準拠した。普通鋼材ではJISG3101のSS400やロシア規格の鋼材も使われていた

2.2.3 塗装
世界的に利用されているJOTUNベトナム社製の塗料を使った。接水部は主にガラスフレークエポキシ塗料を適用した。タールエポキシ塗料は余水吐き下部水路ライナーの塗装のみであった。

2.2.4 電源
駆動用電源は交流三相415V, 50Hzである。

3. プロジェクトの組織
発注者はEVN(ベトナム電力会社=半官半民)であり、EVNの内部機関として工事監理を担当するSLaMB(ソンラ・マネージメントボード)が組織されている。
技術コンサルタントとして豪州のSMECと日本工営、電源開発のコンソーシアムが工事監理に従事している。さらに設計段階でRCC(Roller Compacted Concrete)の専門家として関与したColencoも工事監理に加わっている。
一方、工事中に発生する設計変更に対処するためにPECC1を筆頭として設計コンサルタントも参画している。筆者は日本工営から機械技師(ハイドロメカニカルエンジニア)として水門鉄管の工事監理を担当していた。
建設工事を担当している業者は表3-1に示すとおりである。

表3-1 業者一覧表

担当分野会社名称構造物国名
土木工事Song Daダム本体ベトナム
Licogi右岸余水吐きベトナム
Tuong Son右岸余水吐きベトナム
水門ECIDI-JHMC右岸余水吐き下部放流ゲートの製作・供給中国
CHMC-SXHM右岸余水吐き上部放流ゲートの製作・供給中国
Narime左岸発電用水取水口ゲートとドラフトチューブゲートの製作・供給ベトナム
水圧鉄管CEMC-PEC左岸水圧鉄管の製作・供給ベトナム
クレーンQuang Trung左岸の補修ゲートなどの操作用ガントリークレーンと発電所の所内クレーンの供給据付ベトナム
発電設備Alstom水車発電機一式の製作・供給中国
機器据付Lilama 10クレーンを除くすべての機器の据付工事ベトナム
GIS未定開閉所のガス遮断機

4. 設備の特徴
4.1.1 水圧鉄管
水圧鉄管は6条で水車ユニットごとに設けられている。上流部はダムコンクリートに埋設され、ダム下流面に沿う部分はコンクリート巻きたて構造となっている。中心線は平面的には直線である。取水口ピア先端から水車短管までの距離は約140mであり、鉄管の内径は10.50mで鉄管末端部が9.40mに絞られている。縦断面図を 図4-1 に示す。
管胴使用材料は中国製のQ460C材とQ345B材であり、それぞれJIS 3106のSM570級とSM490級に相当する。板厚は20から下流に行くにつれ38mmまで変化している。
クレーンの吊りこみ能力の限界を約20tonとしたため、鉄管単管の最大重量を約20トンにしたため軸長が約2mに制限されることになった。
鉄管の強度はロシア式の方法で計算されていた。
設計水圧の計算の方法は日本の基準と異なっていて特筆すべき点は外圧を全く考慮していなかったことである。水衝圧は水路入り口をゼロ点とすることが一般的なのに対して、仕様書記載のデータでは、ダム本体に埋め込まれた空気管の中心をゼロ点としていた。これはサージタンクがある場合と誤解しているのではないだろうか。また水衝圧は水車中心で最大になるように計算するのに対して鉄管末端で最大になるようになっていた。

設計水圧線図を 図4-2 に示す。図中で"Given Design Data"とあるのが仕様書に記載されていた水圧線図である。その他の線は、日本の基準に従って求めたものである。

この違いにより、鉄管の安全率が不足していることが検算の結果分かった。ソンラダム下流に60年代に建設されたホアビンダムも同様な計算を行っているらしいが、上表で安全率が不足と指摘した部分に相当する同ダムの構造物では破壊が見られないので、実際上は問題ないだろうと考える。日本の基準が厳しすぎるのかもしれない。

4.1.2 余水吐き部分の水門など
ソンラダムの余水吐きは上部放流設備と底部放流設備で構成されている。上部放流設備は6門のラジアルゲート、底部放流設備は12門のラジアルゲートで構成されている。どちらのラジアルゲートも四方水密型式であり、油圧開閉装置にて操作するようになっている。ゲートは機側と遠方で操作するようになっている。
これらのラジアルゲートの上流側に維持管理のための維持ゲートがある。
上部放流設備の維持ゲート(Spillway Service Gate)は非使用時には6段に分割されて格納スロットに収納されており、使用時にはスロット内部で組み立てることになっている。
底部放流設備の維持ゲート(Bottom Outlet Service Gate)は5段に分割されて格納されており、操作方式は上部放流設備の維持ゲートと同様である。余水吐き部分のゲートの仕様を表4-2に示す。

4-2余水吐き部分のゲート仕様

摘  要単位上部放流設備底部放流設備
維持ゲート放流ゲート維持ゲート放流ゲート
数量
扉体16212
戸当661212
開閉装置16112
扉体と戸当の仕様
形式ローラーゲート
(6分割)
高圧ラジアルゲートローラーゲート
(5分割)
高圧ラジアルゲート
純径間(m)15.0015.006.006.00
水路高(m)21.0011.46 (R17.5)16.009.60 (R17.5)
トラニオンEL(m)なし206.540なし158.750
水密方式4方 下流4方 上流4方 下流4方 上流
設計水位(m)217.83217.83217.83217.83
敷高EL(m)195.50197.54145.00145.00
設計水頭(m)22.3320.2972.8372.83
戸当天端EL(m)228.10N/A228.10N/A
開閉装置
形式ガントリー+ロッド油圧シリンダーガントリー+ロッド油圧シリンダー

余水吐きゲート設備を据え付けるために用いた維持管理用のガントリークレーン(Service Gantry Crane)がある。このクレーンは約EL.195のデッキ上に敷設したレール上で組立てられ底部ラジアルゲートの据付に用いられた後いったん取り外し、ダムのコンクリート工事が終了した時点で約EL.217のデッキ上のレールに据え付けられることになっている

4.1.3 取水口部分の水門など
ソンラ水力発電所の取水口は可動式スクリーン、除塵機、維持ゲート、取水口ゲート、鋼製内張り管で構成されている。可動式スクリーンと維持ゲート、取水口ゲートは12門、鋼製内張り管は6セットである。鋼製内張り管の末端は水圧鉄管と接続されている。
スクリーンと除塵機、維持ゲートはダム天端に設置されるガントリークレーンで操作し、取水口ゲートは油圧開閉装置にて操作するにようになっている。
維持ゲートは格納スロットに収納されており、使用時にはスロット内部で組み立てることになっている。取水口部分のゲートなどの仕様を表4-3に示す。

4-3 取水口部分のゲートなどの仕様(1/2)

 摘  要単位スクリーン
数量スクリーンパネル12
戸当12
Lifting Beam1
スペアパネル用戸当4
パネルカバー12
仕様   
 形式鋼製
 純径間(m)11.50
 高さ(m)31.50
 スクリーン角度垂直
 スクリーンバー間隔(m)0.15
 設計水圧(m)不詳
 敷高EL(m)141.50
 戸当天端 EL(m)228.10
 摘  要単位取水口ゲート
(Intake Gate)
維持ゲート
(Stoplogs)
数量
 扉体1212
 戸当1212
扉体と戸当の仕様
 形式ローラーゲートスライドゲート
 純径間(m)6.256.75/6.65
 水路高(m)(11.19)(10.95)
 水密方式4方 下流4方 上流
 設計水位(m)不詳不詳
 敷高EL(m)150.24150.71
 戸当天端 EL(m)180.10180.10
開閉装の仕様
 形式油圧ガントリークレーン+ロッド
 
ガントリークレーン
 摘  要単位スクリーン用維持ゲート用
数量
 クレーン11
仕様
 形式ガントリークレーンガントリークレーン
 レール間隔(m)9.159.15
 吊上げ容量(ton)2@125/2@20+10330/10+5
 吊上げ高さ(m)不詳不詳
 移動距離(m)不詳不詳
 巻き上げ速度(m/分)不詳不詳
 走行速度(m/分)不詳不詳

4.1.4 発電所内の放水庭水門など
ソンラ水力発電所の放水庭水門はドラフトチューブゲートとガントリークレーンで構成されている。ドラフトチューブゲートの開口部は12門あるうち、永久設備としての扉体は8門で残りの4門は仮設の扉体である。放水庭部分のゲート仕様を表4-4に示す。

4-4放水庭部分のゲート仕様

摘  要

単位ドラフトチューブゲート
数量
扉体8 + 4
戸当12
開閉装置1
扉体と戸当の仕様
形式 スライドゲート
純径間(m)10.80
水路高9.60
水密方式4方 上流
設計水位不詳
敷高EL83.20
戸当天端 EL136.20
開閉装置
形式 ガントリークレーン+ワイヤロープ

発電所は半地下構造であるため、搬入スペース(Unloading Bay)と組立てスペース(Erection Bay)とが異なる階にある。したがって維持管理用クレーンは両スペースにおのおの設備されている。容量は1400トンである。
その他にも多数の小型クレーンが設備される。

5. 製作および検査
5.1 水圧鉄管
5.1.1 製作
水圧鉄管の管胴版と補剛材の主材料は中国のWuyang steel(舞陽鋼鉄)から製造業者であるCEMCとPECのコンソーシアムが全品購入した。
鉄管の内径が10.5mであり公道の輸送限界を越えていたので、一リングを三分割して各工場でロール後、現場仮工場に搬入した。
仮工場では鋼板で作った定盤の上で仮組みを行い、そのままの位置で溶接するとともに補剛環などをとりつけた。溶接終了後、保管場所にガントリークレーンで移動した。専用の塗装作業場を作るようにアドバイスしたがその場所で塗装が行われた。
溶接は半自動溶接と手溶接の組み合わせで行われた。使用した溶接棒はHyundai Supercored 81 (E81T1-Ni1)とHyundai SM-80-G (ER80S-G)であった。
定盤の上で組み立てたまま半自動溶接を行ったため、定盤の上約150mmは半自動溶接ができずガウジングの後、手溶接で仕上げた。人件費と時間の節約と品質向上のために、組立て後に200mm定盤から鉄管を持ち上げればすべて半自動溶接で作業できるとアドバイスしたが、業者はなんらアクションをとらなかった。
仮工場全景を写真5-1に平面図を 図5-1 に示す。


写真5-1 鉄管組立ヤード

塗料はJOTUNベトナム社製のものを使用した。
プライマー塗料 Barrier 77
ガラスフレーク塗料 Marathon XHB Grey 38
中塗塗料 Penguard Primer Sea Read 
ブラスト用の砂や塗料の検査のために、塗装業者が現場に乗り込んでから実際の塗装作業が始まるまで数ヶ月を要した。この一連の試験・検査は客先の業者いじめと筆者の眼に映った。

5.1.2 試験・検査
(1) 溶接施工要領試験
20083月3日にPECの工場で実施し所定の試験を行い溶接設計に問題がないことを確かめた。
(2) 溶接工技量試験
2008年4月3日に溶接工の技量試験をPECの工場で実施し、合格した溶接工のみを作業に従事させた。
(3) 材料検査
鋼材と溶接材料はミルシートで確認しただけではなく、第三者の検査機関で化学・物理特性を検査し規格に収まっていることを確認した。
ブラスト用砂はチェン川とロ川の二箇所の石英砂をベトナムのブラスト砂基準で検査した上、試験ブラストを行い、ロ川の砂を選択した。しかし選択した砂は細粒成分が多く粒度基準に満たなかったのでブラスト業者が現場でスクリーニングを行った。
塗料には製品の検査報告書と保証書があったにもかかわらず、SLaMBの要求で第三者の検査機関で学・物理特性を検査し規格に収まっていることを確認した。世界的な塗料メーカーの製品であるから第三者機関での検査は無用と主張したが、客先は聞き入れなかった。
(4) 組立て
溶接作業開始前に組立て検査を実施し、オフセットと開先の状態、管の周長、板厚、材質、使用した鋼板のlotナンバーをチェックした。
(5) 寸法外観検査
溶接終了後、塗装作業開始前に寸法と外観検査を実施した。
(6) 非破壊検査
仕様書に指定されていた超音波探傷試験を実施した。結果は極めて良好であった。仕様書に記載がなかったので日本で通常行われている放射線透過試験は実施しなかった。
(7) 塗装皮膜検査
素地処理Sa2.5としブラスト時に度数をチェックした。塗膜はまず濡れた状態で塗装レイヤーごとにチェックし、最終的にはDFT(乾燥塗膜厚)を電子膜厚計でチェックした。据付時に方向を間違わないように鉄管外側には条と管の番号、流水方向を記載した。

5.2 余水吐き部分の水門
余水吐きの上部と底部放流設備は中国で製作された。製作上の品質管理は現場にはりついているわれわれコンサルタントの業務範囲外であった。

5.3 取水口部分の水門など
取水口設備はベトナム国内で製作された。製作上の品質管理は現場にはりついているわれわれコンサルタントの業務範囲外であった。

5.4 発電所の放水庭水門など
発電所の放水庭水門などはベトナム国内で製作された。製作上の品質管理は現場にはりついているわれわれコンサルタントの業務範囲外であった。

5.5 検査記録
水圧鉄管の検査記録はすべて業者が保管しており、そのオリジナルは支払い用の出来高証明書類に添付されている。
各水門については関知していない。

6. 据付工事
6.1 工程
このプロジェクトが開始される時に大臣が承認した全体工程表がある。さらに工事の進捗状況を見ながら毎年その年に実施する作業の工程表を作成している。2008年度の工程表から見ると水門鉄管の工事は約二ヶ月遅れていた。
2008年11月にEVN本社から「2010年12月発電開始」の命令を受け、コンサルタントがその要求に合うような工程表を作成したが、これは実現性が低く画餅になりそうである。

6.2 製品の輸送と保管
中国からの輸入品はすべてハイフォン港で陸揚げし、現場までトレーラーなどで輸送した。ベトナム国内産品はトレーラーで輸送し、据付業者の保管場所に据付まで保管した。保管は露天と屋内とに分かれ、電気品などは屋内に保管した。


写真5-2保管ヤード全景(2008-05-11)

6.3 据え付け工事
6.3.1 一般事項
水門鉄管のみならずすべての機器の据付作業はベトナムの現地業者であるLilama 10が実施した。ただし発電所内クレーンは納入業者が据付を行った。
ラジアルゲートを除き、すべてのゲートの側部戸当たり金物はコの字型に作られた鋼板製の構造物の中に組み込まれ一次コンクリートにそのまま打ち込まれた。

6.3.2 水圧鉄管
(1) 工事
鉄管の据付作業はBlock 6の漸縮管から開始された。最初の管(リング)は2008年6月11日に据付位置に運搬された。
仮工場から据付サイトまでは特殊な自作トレーラーを利用した(写真6-1)。


写真6-1 (ファイル080704-02)

トレーラーから据付位置まではクローラークレーンDemag2800(600ton)にて吊上げて移動した。写真6-2参照。


写真6-2 (ファイル080915-02)

溶接棒は製作と同じものを用いた。
(2) 試験検査
仕様書に従い、すべての現場溶接線は超音波検査を行い、T継手は放射線透過試験を行った。
ベトナム人は一概に書類をまとめるのが下手なので、検査位置の表示、フィルムマークのつけかた、試験検査報告書のまとめ方まで指導した。

6.3.3 余水吐き部分の水門
底部放流設備は維持ゲートの戸当たり金物と鋼製内張り管と同時にコンクリート打設を行ったが、ラジアルゲートの戸当たり金物は到着時期が合わなかったためと据付け精度の問題から一次コンクリート打設後に扉体組立て据付と同時に行われた。
堤体コンクリートをEL 195付近で打ちとめた平面にレールを敷きその上に組み立てたガントリークレーン(Service Gantry Crane)を用いて扉体の据付を行った。ガントリークレーンは2008年6月に組立てを開始し、試運転は同年7月に行われそのまま供用された。
このガントリークレーンは底部放流設備の据付が終了した際にいったん取り外し、堤体コンクリートが完成した時点でEL. 217付近に再度据え付けられ、上部放流設備のラジアルゲートの据付に用いられる予定である。

6.3.4 取水口部分の水門など
取水口部分の水門はスクリーンの戸当たり金物の据付が2008年10月に開始された。
維持ゲート、取水ゲート、鋼製内張り管の据付は同時に2008年11月に開始された。据付開始直後の取水口と発電所全体を写真6-3に示す。

写真6-3(ファイル081127-02)

側部戸当たり金物は鋼製内張り管に組み込まれており、その上部構造は余水吐きのゲートの戸当たり金物と同様である。

6.3.5 発電所の放水庭水門など
発電所の放水庭水門の戸当たり金物の据付は2008年2月に敷き金物から開始された。

6.4 ダムの湛水と工程
河床中央部にある仮排水路トンネルとチャンネルから放流しながら左岸側の取水口・発電所工事と右岸側の余水吐きの工事を行っている。左岸からみた全景を写真6-3に、右岸から見た全景を写真6-4に示す。


写真6-4(ファイル080715-16)

仮排水路の部分のダム本体の盛り立ては河川流量が多い雨季を除いて行うことにしている。しかしながら、突発的な洪水により貯水池水位が上昇し、取水口と余水吐が水没する可能性がある。したがって仮排水路部分のダム本体工事の前に、底部放流ラジアルゲートと取水口ゲートを完成させる必要がある。

7. 運転操作
7.1 余水吐き
7.1.1 ゲート運転操作
ソンラダムの洪水時の運転操作は仕様書ではのつぎのように規定されている。
放流量を増加させるためにはまず底部放流ゲートを全開にする。その順序は1号ゲートから12号ゲートとする。さらに放流量を増加させる必要がある時には上部放流ゲートを全開にする。その順序は3-4-2-5-1-6とする。
放流量を減少させる時には増加時と反対の順序でゲートを全閉にしていく。

7.1.2 維持ゲートの操作
底部放流設備の維持ゲートは水密高さが21mにも達するため、扉体を五段に分割してスロットに格納されている。ガントリークレーンは上部と底部の維持ゲートの操作用に共通して使用される。したがって、底部維持ゲート操作用としてリフティングビームも必要となった。維持ゲートを一度にダム天端上まで吊上げるためにはゲート操作用のガントリークレーンの高さが30m以上必要となり安定を欠くため、ガントリークレーンの高さを低く抑えることになった。したがって維持ゲートの組立て方法が複雑になってしまったきらいがある。

7.2 取水口ゲートなど
7.2.1 維持ゲート
維持ゲートは扉体の上下流側の水圧バランス状態で操作することになっている。このゲートには直径180mmの充水弁が取り付けられている。

7.2.2 取水口ゲート
取水口ゲートは油圧ホイストにて下向きに力をかけて強制的に締切できるようにロッド形式となっている。このゲートには充水弁がついていない。

7.2.3 鉄管の充水方法
関連書類には記述がないがゲートの構造から見ると、取水口ゲートをクラックオープンして水圧鉄管に充水する方法を考えているようである。
一方、この発電設備には入口弁がないため、取水口ゲートをクラックオープンすると、ジェット噴流となって鉄管の内部を水が高速で流下し、水車のガイドベーンに衝突することになる。充水時の噴流で水車が回転しないか、回転しても問題ないという方策を講じておくべきである。
ちなみに鉄管の容積を13000m3として維持ゲートの充水弁で水圧鉄管を充水した場合と取水口ゲートを5cmクラックオープンした場合の所要時間はそれぞれ約6時間と0.5時間であった。
充水時間は通常3から6時間程度だから、同表から見る限りでは充水弁で充水する方が時間的には妥当であろうと思われる。

7.2.4 スクリーンと除塵機
ソンラダムのスクリーンは取外し式になっていて、予備のスクリーンも供給されている。
ガントリークレーンで熊手をスクリーンに沿って上下させて除塵するようになっている。

8. おわりに
2009年3月の定年後の準備のために、この計画から引退した記録としてこの報告書を作成したものである。
筆者はこの計画に2007年8月に半月間、また2008年3月から同年12月まで現場に滞在した。
現場はハノイから350km離れた山間部に位置し、自動車でゆうに7時間はかかる。近隣の都市といえば約40km離れた高原都市のソンラ市であり現場との標高差は約500mある。ダムの近くにあるムアンラと村は宿舎から約5km北に位置している。途中には峠があるため、徒歩や自転車でおいそれと行ける距離ではない。
ソンラとハノイ間の道路案内は こちら を参照。
ムオンラの市場の写真は こちら

筆者は海外業務経験が長く、たいていの文化ショックには耐えられると自負していたが、このプロジェクトでは以下の点が主な精神的負担になった。
(1) ベトナム人エンジニアたちはベトナム語しかできないため会話ができない。年配者にはロシア語ができる人もいたが、英語はほとんどだめであった。この点インドネシア人のほうが数倍マシである。
(2) ベトナム人エンジニアはほぼ全員新卒であったので、業務に関する知識がほとんどなく、教えようにも英語ができないのでお手上げであった。
(3) ベトナム人は会議のマナーがまるでなっていない。工程会議は業者と客先間で早口のベトナム語での怒鳴りあいに終始している。通訳がところどころ翻訳してくれるが、話がつながらずコンサルタントとしてのアドバイスもできない。また自己主張のみを行い他人の話を聞かない。この非常識さに呆れた。
(4) 書類のやり取りに関するマナーがまるでない。送り状も添付してこなければ、ベトナム語だけの書類も平気でぶつけてくる無神経さに呆れた。
(5) 現場では各人セミデタッチの宿舎を一軒あてがってもらっていたが、上記のように鉄管仮工場から出たブラスト粉塵と目前の道路を通るダンプトラックが巻き上げる埃とで一日で机の上が真っ白になるほどの大気汚染状況であった。また、宿舎は川岸にあるため、夏の間は高温高湿になる。四月のモンスーン期には「ラオス風」と呼ばれるフェーン現象のため気温は40度を越えることも多く体力的にもきつかった。
(6) SLaMBの宿舎には食堂が付随していたが、コンサルタントは自分たちで食堂を設営し、運営した。おかずはベトナム料理ばかりだったので飽きてしまった。日曜日には時々自分たちで好きなものを調理することがあったが、ウイークデーの食事は大体こんなものであった。 こちらのサイト の下半分が食事の紹介である。
(7) 山間部の僻地なので外食と言っても魚介類が多いベトナム料理は少なく、山岳タイ族料理のみであった。また、ハノイやサイゴンのように洋食・和食レストランやバーなどがあるわけではなく、食事でストレスを発散することができなかった。
(8) 村まで買い物などに行こうとしても当初は交通機関がなかった。アフターファイはおろか業務時間内といえどもSLaMBに依頼してもなかなか自動車を出してもらえなかったので、日本工営のハノイ事務所から自動車を一台供与してもらって一息つくことができた。しかし、運転手がソンラ市に住んでいるため、急な用事には間に合わない現状がである。
(9) 仕事上お付き合いのあったベトナム人のほとんどを占める京族は漢人の支族といってよいほど中華的であり、民族文化の独自性が見られなかったので、文化人類学的好奇心を掻き立てられることがなかった。
(10) 現場は山間部の田舎であり、少数民族である山岳タイ族などの居住地域であるため現地の文化には興味をひかれなかった。少数民族の写真は こちら
この地域はドンソン青銅器文化の中心であった。 ソンラの歴史博物館 の紹介はこちら。
(11) 多趣味な筆者ではあるが、滞在中はそのひとつとしてアンテナに引っかかるものがなかった。しいて言えば山岳サイクリングくらいであった。

このような不便で文化的なストレスが多い環境下でダムの建設に従事している仲間たちにエールを送るものである。

(終)

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2009-03-09作成
 

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