このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

糠平〜足寄〜オンネトー〜阿寒湖 2000年8月


     糠平温泉で熱気球に乗る

 糠平温泉の朝は熱気球のバーナーのゴーッという噴射音で始まる。上士幌町は熱気球が盛んな町で、広大な十勝平野の青い空に浮かぶカラフルな気球の映像は何度か見たことがある。糠平でも博物館の庭で温泉客の体験搭乗が早朝6時からあるというので、見物に出かけた。空模様はまだすっきりしないが、一部に青い色ものぞいている。
 閑散としているかに思われた糠平温泉だが、意外に多くの観光客が早朝から集まっていた。1回1,000円もするが、僕も順番待ちの列に加わって、熱気球に乗ってみた。クマのイラスト入りの真っ赤なバルーンの下についたカゴに5,6人ずつ乗り込み、30〜40メートルの高さまでスーッと上昇して、また下りてくるだけだったが、上がるにつれて温泉街の向こうに糠平湖が広がって、眺めはよかった。

     糠平を出発

 朝食はとらずに6時50分にユースホステルを出発。通りかかった小学生がみんな「おはようございます」と挨拶していく。
 標高530メートルほどの糠平温泉をあとにしばらくは糠平湖に沿って立派なトンネルをいくつも抜けて走る。トンネルの合間に見える湖面は鏡のようにくっきりと曇り空を映し、湖上を渡る士幌線の鉄橋も残っていた。

     エゾシカの死

 糠平ダムを過ぎると、下り勾配も急になり、グンとスピードアップ。交通量の少ない国道を気分よく下っていくと、反対車線の路上に何やら大きな茶色い物体があった。何だろうと目を凝らしながらブレーキをかけると、エゾシカである。車にはねられたらしく、道路際に左半身を下にして横たわり、カラスが2羽、3羽とたかっている。自転車を止めて歩み寄ると、若いメスのようだ。死体に目立った損傷はないが、すでに右目はきれいにくりぬかれて無くなり、肛門も食い破られていた。食事を中断させられたカラスたちが少し離れて、「早く行けよ」とでも言いたげに邪魔者の去るのを待っている。道端に咲いたムラサキツメクサを1輪ちぎって、シカの首筋に手向けてやった。合掌。

     道道468号「清水谷足寄線」

 糠平から10キロ余り下って、だんだん牧草地や畑が広がると、清水谷。ここで国道から左折して道道468号線「清水谷足寄線」に入る。途端に丘陵越えのきつい上りが始まり、たちまち額から汗が流れ落ちるが、すぐにピークを越えて、足寄町に入った。日本で一番広い町で、1,408.39平方キロもある。東京23区の2倍以上である。
 高原のような風景の中、爽快な下り。アカハラやウグイス、エゾセンニュウ、ノビタキ、センダイムシクイなどのさえずりが盛んに聞こえ、道路際にはクガイソウやクサフジ、ツリガネニンジン、ヒルガオ、マツヨイグサなどの草花が咲き競っている。沿道には白樺の美しい林が続き、芽登川(美里別川の支流)が寄り添うように流れ、清々しい気分になる。
 しかし、途中には人家も通る車もほとんどなく、誰にも会わないので、この道は一体どこへ通じているのだろう、道を間違えたのではないか、と不安になりかけた頃、ようやく芽登の集落が現われ、帯広と弟子屈を結ぶ国道241号線に合流した。

     足寄

 国道をしばらく行くと、道の駅「足寄湖」があり、ここで今日最初の休憩。時刻は8時45分になっている。
 十勝川の支流の利別川のそのまた支流である美里別(びりべつ)川の水をせき止めた足寄湖を見下ろす丘の中腹に位置し、チーズ工場を併設した道の駅で20分休んで、再び走り出し、ひと山越えると、足寄市街に着く。糠平温泉から45キロ。ここへ来るのは2年ぶりだ。
 街なかのセイコーマートでおにぎりやバナナ、ヨーグルトなどの食料を仕入れ、9時45分に第三セクター「ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」(池田〜北見)の足寄駅でまた休憩。展望塔のある立派な駅で、2階には地元出身のヒーロー松山千春の展示コーナーがある。前回は松山千春の実家を見物に行ったが、もう行かない。

 (足寄は松山千春の出身地)

     国道241号線

 足寄駅をスタートしたのは10時05分。ここから阿寒湖畔までの50キロ余りは2年前に走った道である。現在地点の標高は約95メートルで、足寄町と阿寒町を隔てる足寄峠が645メートル。そこまでの距離は45キロほどである。前回は阿寒湖から走ってきたので、区間の大部分は下りだったが、今日は逆コースだから、ずっと上り基調。あまり急な坂は無かったと記憶しているが、山あいの畑作地帯が延々と続く、忍耐を要するルートである。

 市街地を抜けて、利別川の支流・足寄川に沿って、トウモロコシやジャガイモ、カボチャなどの畑や牧草地が広がる中、国道241号線をゆっくり上っていく。相変わらず雲が多い空模様で、天気はすっきりしないが、暑く感じる。
 途中、たて続けに4、5人の自転車旅行者とすれ違い、中足寄、螺湾(らわん、巨大なラワンブキで有名)、上足寄と行くと、道端にエゾフウロがたくさん咲いていた。何度も北海道を旅するうちになんとなく愛着を感じるようになった淡いピンクの花で、今回の旅では初めて出会った。
 ところで、この道もそうなのだが、今年の北海道は暑いせいか、やけに蝶が多い。色も大きさもさまざまだが、とりわけミヤマカラスアゲハが目につく。黒い羽に青い光沢があり、空飛ぶ宝石とでも呼びたくなる美しさで、それがあちこちでひらひらと舞っている。車と衝突したのか、道路の真ん中で動かなくなったものも多い。ほかにもバッタだの毛虫だのカタツムリだのと路上には色々いて、車輪に巻き込んだり、轢いたりしないように注意しながら走る。

 まもなく、茨城というバス停があった。茨城県出身者が集団で入植した土地なのだろう。地図によれば、この一帯にはほかに宮城とか鳥取、長野などという地名もある。はるばる北海道のこんな奥地までやってきた開拓者たちの人生とはどのようなものだったのだろうかと思う。

 低く連なる山々の向こうに雌阿寒岳がだんだん近づいてきて、12時半に茂足寄の物産館に着いた。地元の農産物を売る施設で、ライダーが休憩している。足寄で買ったおにぎりをベンチで食べる。

     オンネトー

 茂足寄を過ぎると、両側に山が迫り、土地がだんだん狭まってきた。農地が尽き、あたりが原生林に変わると、峠へ向けて連続勾配となる。
 さて、どうしようか。汗だくになって坂を上りながら、迷っていることがある。もうすぐオンネトー入口の分岐点があるが、またオンネトーに寄るかどうか。何度でも訪れたい秘められた湖で、時間もたっぷりあるとはいえ、過去2回はいずれも途中の上り坂ですっかりバテた。また苦しい思いをするのは確実だ。それを覚悟で右折するか、今回はパスするか、直前まで迷っていたが、分岐点に来ると、ついハンドルを右に切ってしまった。
 そこから標高700メートルの雌阿寒温泉までの3.6キロの上りはそれほどの急坂には感じないのに、今日もやはり辛かった。この区間は道がほぼまっすぐで、どこまでも続く坂がずっと見渡せるので、精神的に消耗してしまう。
 何度も立ち止まって休みながらノロノロと進み続け、ようやく道が右へカーブすると、まもなく雌阿寒温泉前を過ぎ、今度は急激に1キロ余り下って、原生林に囲まれたオンネトーが見えてきた。
 標高650メートルの山奥の豊かな緑の中に青い湖面が広がり、対岸には雌阿寒岳と阿寒富士が並んで聳えている。周囲わずか4キロほどの小さな湖水だが、まさに足寄町を代表する景勝地であり、人も多く、観光バスも来ている。いわば“有名な秘境”であるが、湖を半周する道路が整備されているほかは邪魔な建造物もほとんどなく、素晴らしい景観は保たれている。

  

  

  

 湖岸に沿って奥へ進むと、光線の具合で湖水の色はどんどん変わり、時には毒々しいほどのコバルトブルーだったりする。水に色がついているのではないか、と思うほどだ。俗に“オンネトーブルー”などとも言われる独特の青さは、酸性度が高く、魚も棲めないという水質と関係があるのだろうか。とても不思議な色で、こんな青色はほかの湖ではなかなか見られない。

 


     足寄峠

 オンネトーから引き返して、また短い急坂を上り、雌阿寒温泉からは先刻苦労した長い坂をビューンと軽快に下って国道に戻り、そこからまた足寄峠へ向かって最後の上り。
 鬱蒼とした原生林の中を気力を振りしぼって重いペダルを踏んでいると、観光バスが真っ黒な排気ガスを撒き散らしながら追い抜いていく。ほとんど犯罪的な毒ガス攻撃に怒りを覚えながら、その怒りをエネルギーに転換して645メートルの峠を越え、ここでようやく足寄町に別れを告げて阿寒町へ。勢いよく2キロ下ると240号線と合流し、さらに5キロほどで15時半に阿寒湖畔キャンプ場に到着。

 (足寄峠)


     阿寒湖畔

 今日はこの旅で初めてのキャンプ。ずっとただのお荷物だったテントにようやく出番が来た。さっそく今宵のねぐらを設営して、まずは洗濯。それからアイヌコタンや温泉街を自転車で散策してくる。
 夕方には町立のトレーニングセンターの浴場(温泉)で入浴。料金230円で、温泉街の共同浴場より安い。しかも、ほぼ貸し切り状態だった。
 それから「奈辺久」という郷土料理屋で天ぷら定食(1,300円)を食べる。阿寒湖産のワカサギの天ぷらがサクサクで、とても美味い。店内の目立たない場所に著名人の色紙があり、安部譲二や立松和平の名前があった。
 夜は20時からアイヌコタンの劇場オンネチセで重要無形文化財のアイヌ古式舞踊を見た後、かわいい小鳥やリースを製作・販売している「チカップセッ」(鳥の巣の意味)で買い物をし、それから毎度おなじみの民芸品店「丸木舟」でアイヌ詞曲舞踊団「モシリ」のCDを2枚購入。これで彼らの作品12枚すべてが揃ったことになる。応対してくれたモシリのメンバー(中心人物アトゥイ氏の娘さん)に「明日またライブ行きます」と約束する。
 というわけで、明日は屈斜路湖へ行く。今日の走行距離は119.9キロ。

   戻る    前へ    摩周湖・屈斜路湖へ  

   トップページへ
 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください