このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

北海道自転車旅行*1999年 夏

 知床の一日

   前日へ     翌日へ     自転車の旅Index     TOP


オシンコシンの滝オシンコシンの滝 知床半島・宇登呂の北2キロほどの幌別の丘の上にある「しれとこ自然村」のキャンプ場。
 4時頃、早くも目覚めた小鳥たちのさえずりで僕も目が覚めた。遠くでアオバトが鳴いている。
 ほかの人たちよりも早めに活動を開始して、6時45分には出発。連泊だから荷物はテントに残したまま。自転車も軽い。

 まずは朝の散歩のつもりで斜里方面へ10キロほど走って、昨日は素通りした「オシンコシンの滝」を見てくる。本当は早く知床の奥地へ向かいたいのだが、財布が空っぽに近く、郵便局が開くまで時間をつぶさなくてはならないのだ。
 ようやく宇登呂郵便局が開いて、貯金を下ろしてから、国道を知床峠方面へ向かうと、宇登呂からおよそ5キロで知床自然センターがある。標高150メートルほどの地点である。

 この知床自然センターを運営するのが「しれとこ管理財団」(現在は知床財団)。知床の自然の保護と適正な利用の両立を目的に設立された財団で、知床の自然環境や野生生物の保護のための調査研究や一般への紹介、国立公園内の環境や施設の管理業務などを行なっていて、僕も去年(1998年)。の8月から賛助会員になっている。なんていうと、エラそうだが、わずか3,000円の年会費(2007年から個人会員5,000円)を納めただけである。それで、毎月『知床自然情報』が送られてくるから(現在は隔月)、東京にいても、知床の季節の移り変わりがよく分かるし、知床をより身近に感じられるようにもなった。となれば、当然、北海道に来れば、知床にも顔を出したくなるわけである。本当はそれぞれの季節の知床を体験してみたいのだが、なかなかそうもいかない。

 というわけだが、今月末で会員期限が切れるので、センター内のインフォメーション・カウンターで更新手続きを行い、ついでに、昨年も参加した「夜の動物ウォッチング」が今夜も開催されるので、参加を申し込んでおく。日が暮れてから、バスで知床五湖付近まで出かけ、車中から強力なライトを使って闇の中で活動する動物を探して観察するという企画である。

 それから超大型スクリーンで知床の四季を紹介する「ダイナビジョン」が会員は観覧料免除なので、それもみてから、センターを起点とする「フレペの滝遊歩道」の散策に出かけた。ここも歩きなれたコースではある。
 ミズナラなどの広葉樹の林の中を下ると、笹原に出る。このあたりはエゾシカに逢える可能性が高い場所だが、今日は見当たらなかった。
 その先に広がる草原はキク科の黄色い花に彩られていた。まっすぐに伸びた茎の上部に小さな花が集まって咲いている。自然センターの情報ボードによれば、キオン(黄苑)というらしい。また、海岸近くに青紫色の小さな花を咲かせているのはナミキソウ(浪来草)というそうだ。少しずつだが、こういう知識が増えてきて、初めて自転車で北海道を走った2年前に比べれば、だいぶ進歩したと我ながら思う。進歩とはいっても、大した方向に進んでいるわけではないけれど…。

 とにかく、草原が突然断崖絶壁となってオホーツク海に落ち込む地点まで行き、そこで、その断崖に営巣するオオセグロカモメやウミウを双眼鏡で観察し、絶壁の上部に湧き出た地下水がそのまま100メートル下の海に落ちるフレペの滝(別名・乙女の涙)を眺めて、自然センターに戻った。

 自然センター内の食堂で早めの昼食を済ませ、それから9キロ離れた知床五湖へ向かう。今回の旅ではまだエゾシカにもキタキツネにも会っていないが、五湖へ行けば、少なくともシカには確実に会えるはずである。朝のうちは晴れていたのに、いつしか霧が出て、風景が霞んできた。
 そんな霧の立ち込める中を走っていると、右手の草原に早くもシカの気配を感じて、目を凝らすと、やはり1頭いた。立派な角があるオスである。自転車だから見つけられたが、クルマでは気づかずに走り過ぎてしまうだろう。
 そこで、ちょっと渋滞を起こしてやれ、と思い立ち、自転車を止め、双眼鏡をシカの方に向ける。こうしていれば、クルマで通る人も何がいるのかと思って、そちらに目を向けるに違いない。
 効果はてきめんだった。クルマがさっそく1台停まったかと思ったら、あとから来たクルマも次々と停車。みんなシカに気づいて、カメラやビデオを手に降りてきた。
 ここで気がついたこと。観光客、特に女性はこういう場合、シカの写真を撮るのではなく、シカを背景に入れて自分の写真を撮るのだということ。なるほどね。
「あっ、あっちにもいる」
 その声で、僕も2頭目を発見。もっとも、エゾシカは過去の旅でも飽きるほど(たぶん数百頭は)見ているので、もう感激のレベルはさほどでもない。あぁ、またいるな、といった程度である。
 さらに少し走ると、今度は母子ジカ4頭。その次はメス1頭といった具合で、シカは次々と見つかった。

 道がヘアピンカーブの連続でいったん海岸レベルまで下ると岩尾別で、そこから再び上り。
 やがて、原生林が途切れ、草地が目立ってくる。かつて入植者により開拓された跡地で、廃屋もいくつか残っている。このあたりにもシカはたくさんいる。
キタキツネ
 カムイワッカの滝へ通じる林道を右に分岐すると、まもなく知床五湖の駐車場。その手前で今度はキタキツネも出現。こいつは観光客馴れしたキツネで、道路の真ん中に出てクルマを止め、餌をねだるという悪知恵を身につけているようだった。それで事故死するキツネも増えているそうだ。

 さて、知床五湖に着いて、自然センター主催で、昨年も参加した「知床五湖ネイチャーウォッチング」に今回も加わる。やはり専門家と一緒に歩くと、ひとりでは気がつかない発見がいろいろとあって楽しい。
 13時半にスタート。案内役は若い女性レンジャーのMさんとベテランのWさん。参加者は少なくてたった4名。
 去年もそうだったけれど、残念ながら今年もヒグマ出没のため、五湖のうち1湖と2湖しか行けないそうだ。しかも、霧が深くなる一方という悪条件である。
 熔岩の上に広がる原生林の中に地下水が湧き出してできた知床五湖だが、散策路を歩き出して最初に行き当たる1湖は対岸が草原になっている。かつてこのあたりに開拓者が入り、森林を切り開いて酪農をやっていた時代の名残である。現地の実情を何も知らされないまま、この土地を割り当てられた入植者たちは厳しい自然を相手に悪戦苦闘したが、結局は挫折してしまったそうだ。1湖には開拓時代に人間が持ち込んだフナが今も繁殖していて、湖岸に立つと、その魚影を見ることができる。

 1湖を過ぎれば、散策路はトドマツやミズナラなどの原生林に入っていく。湿地も多く存在し、ミズバショウの群落がある。ミズバショウの葉や根はシカやクマの好物だから、生々しい食痕も残っている。ここはまさにヒグマの生息地域のド真ん中なのだ。コース沿いにはほかにもクマが掘り起こした蜂の巣や蟻の巣などがあった。

 2湖は知床五湖のうちで最大の湖だが、今日は対岸も見えないほど深い霧に包まれていた。晴れていれば、間近に知床連山がそびえているらしい。
 知床に足を踏み入れるのは今回が4度目になるけれど、そういえば、知床連山の全容をくっきりと間近に拝んだ記憶がない。浜小清水あたりから遠く望んだ神秘的な山並みが頭に浮かぶばかりである。過去に2度越えた知床峠はいずれも雨と風と霧で真っ白だったし、どうも僕は知床半島との相性があまりよくないようだ。
 とにかく、そこから先は立ち入り禁止なので、2湖の水面上に黄色い花を咲かせるネムロコウホネや岸辺に咲くピンクのエゾミソハギや紫のサワギキョウなどを見て、そこで引き返してきた。

前方にクルマが停まっているのはシカがいるため 約2時間の散策を終え、一緒に歩いたほかの3人も「夜の動物ウォッチング」にも参加するというので、「またあとで会いましょう」ということで、いったん別れ、また自転車の人となる。
 帰り道はずっと霧の中だったが、また十数頭のシカを確認できた。天気は霧から霧雨へとさらに悪化した。

 一度キャンプ場へ戻って温泉で汗を流し、夕刻に再び出発。集合場所は宇登呂のバスセンターである。街なかの電光式気温計によれば、18時現在の気温は21.9度。意外に高い。
 夕食を済ませて、18時半ギリギリに集合場所へ着くと、待っているはずのバスがいない。遅刻したかと思ったら、悪天候で今夜の動物ウォッチングは中止になったとのこと。ガッカリだが、確かにこの霧では動物探しどころではないだろう。もしかしたらヒグマに会えるのではないかと期待していたのだが、仕方がない。
 今日の走行距離は58.3キロ。通算では1,241.1キロになった。


  翌日へ    前日へ     自転車の旅Index     TOP

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください